誠司は身体全体が何か暖かく柔らかいものに包まれているのを感じた。随分と懐かしさを覚える感覚だ。これは多分、いや間違いなくベッドの感覚だ。その事実に気が付くと、意識が覚醒した。こんな大迷宮にベッドなどあるはずが無いからだ。
身体をゆっくりと起こすと、ふと違和感を覚えた。左腕を動かそうにも激痛が走って動かせないのだ。それに視界も半分暗い。右手で自身の身体に触れてみるとあちこち包帯で巻かれていることが分かった。そして、左腕は肘から先が無くなっていた。それを理解した時、ようやく思い出した。
「………そうだ。俺はあの時…………」
その時、人の気配を感じた。ハジメやユエ、ポケモン達も皆いた。ポケモン達は包帯が巻かれてはいるものの元気そうだ。
「……誠司! よかった。気が付いたんだ…」
「………よかった」
ハジメ達は誠司が目を覚ましたのを見て安心した表情を浮かべていた。マシェードやミズゴロウ、ケンタロス、イーブイは嬉しそうに誠司の元へ駆け寄った。誠司は右腕で優しく頭を撫でる。
ハジメの話によると、どうやらここは反逆者の隠れ家らしい。サザンドラを殺した後、大怪我で気絶した誠司をここまで運び込んで治療してくれたそうだ。回復魔法や神水を使ったけど左腕の欠損や顔の火傷までは完治させることは出来なかったのだそう。ハジメからそれを申し訳なく言われるが、申し訳なく思っていたのは誠司の方だった。誠司はベッドから降りると、ハジメ達に深く、深く土下座した。左腕がないためぎこちなさがあるが。
「すまなかった!! 俺のせいで皆を危険な目に合わせてしまって…… 本当に申し訳ない……!」
「ちょ、ちょっと、誠司! いきなりどうしたの!?」
「俺がちゃんとサザンドラを倒し切れなかった上にトドメを刺すのを躊躇ったせいで……」
「何言ってるの! 皆の中で一番重傷なのは誠司なんだよ! それに……誠司だけが悪い訳じゃないよ」
「………私達にもまだ甘さがあった。私達も悪い」
しばらくお互いに謝罪をし合ってなんとか落ち着いた頃、誠司はハジメとユエに反逆者の隠れ家を案内させてもらった。ポケモン達はベッドの所で待機してもらうことにした。
「これが……反逆者の住処なのか?」
「うん。今の僕でもまだここまでは無理だよ」
「……ん。すごい」
地下深くだというのに人工の太陽が登っている。夜になると月も出るらしく、時間設定にも余念がない。近くには川や畑もあった。川には魚も泳いでおり、畑には野菜も育てられている。この広さならやろうと思えば家畜も育てられるだろう。ここで一生暮らしていけそうな環境だ。
色々な場所を案内してもらい、最後にベッドのあった場所と隣接する形で建っている建築物に入った。三階建ての大きな家のようだ。この建物にはまだハジメもユエも入っていないらしい。なので、中に何があるのかよく分かっていないそうだ。
注意しながら階を上がって確認していく。一階はリビングや台所といったいわゆる生活空間、大きな大浴場もあった。それを見た誠司やハジメは目を輝かせた。二階は書斎や工房らしき部屋があるが、鍵が掛かっているのか入れない。そして、三階には大きな部屋が一つだけあった。
この部屋には他の部屋と違う雰囲気を感じた。まず床には大きく複雑な模様の魔法陣が刻まれており、その魔法陣の奥には椅子に座った状態で白骨化した骸があった。黒い上質なローブを羽織っている。
恐る恐る、その魔法陣に足を踏み入れてみる。すると、目の前に黒衣の青年が現れた。目の前の骸骨と同じ服装をしていることから、あの骸骨の生前の姿なのだろう。よく見てみると、青年の身体は半透明で実体が無いように見える。青年は口を開いた。
『試練を乗り越えよく辿り着いた。私の名前はオスカー・オルクス。この迷宮を作った者だ。反逆者と言えば分かるかな?』
どうやら、この青年がオルクス大迷宮を作った張本人のようだ。もっとも記録映像のようで会話は出来ないが。それでも誠司達は驚いた。そこから更に驚愕の内容が語られた。それは城で読んだ歴史書や教会の者から聞いた言葉とは全く異なる内容だった。
このトータスはアルセウスによって作られた。しかし、ある時エヒトはアルセウスの眷属であり空間を司る魔獣パルキアを洗脳し、それに怒ったアルセウスを狂った神と称して、アルセウスの力を全て奪ったのだそう。力を奪われたアルセウスはどうなったかは分からないが、エヒトは洗脳したパルキアと奪ったアルセウスの力を使って神として君臨するようになった。
それから長い年月が経ってからオスカー達反逆者もとい解放者達はその真実を知り、自身の相棒の魔獣達やもう一体の眷属ディアルガと共に神代魔法を駆使してエヒトと戦いを挑んだ。
しかし、パルキアは見たことのない姿となって解放者達を圧倒した。しかも敵はパルキアだけではなかった。エヒトの側には何か不気味な影のような魔獣もおり、解放者達は殆ど手も足も出せないまま敗れた。
なんとかエヒトにディアルガを奪われずに済んだが、自分達は魔獣を使って人々に害を為す反逆者に仕立て挙げられてしまい、最終的に残ったのは僅か七人となってしまった。やむを得ずディアルガを何処かに封印すると、解放者達はバラバラに迷宮を作っていつかエヒトを倒してパルキアを解放する者が現れるのを待つことになった。試練を用意してそれを突破した強者に自分達の力を譲り、いつの日かエヒトを倒してくれることを願いながら。
オスカーは穏やかに微笑むと話を続けた。
『君達がこの話を信じるかどうかは分からない。だけど、誰がどう言おうとこれが真実だ。我々が何のために立ち上がったのか。君には知ってもらいたい。……君に私の力を授ける。どのように使うかは君の自由だが、悪しき心を満たすためには使わないで欲しい。でもその前に………君にはこれを渡しておこう。このオルクス大迷宮を攻略した者だけが持つことを許される、攻略の証。ベテランシンボルだ。是非受け取って欲しい』
オスカーは懐から小さめの金色のメダルのようなものを取り出した。中央には十字に円が重なったシンプルな模様が彫られている。それに呼応するかのように虚空から同様のメダルが三つ誠司、ハジメ、ユエの前に現れた。誠司達はおずおずと目の前に浮かぶそれを受け取る。
すると、頭の中に何か情報が書き込まれて行くような感覚がした。誠司は魔獣図鑑の技能のせいで既に慣れていたが、ハジメとユエはそうでないため少し苦しげな声が聞こえる。情報によると、どうやら生成魔法という、鉱石に魔法なんかを付与してアーティファクトを生成出来る神代魔法のようだ。つまり、錬成師向けの魔法だ。
オスカーは少し笑うと最後にこう締めくくった。
『これで私からの話は以上だ。最後まで聞いてくれてありがとう。この建物には書斎がある。そこには私が考案したアーティファクトが沢山あるから是非これからに役立てて欲しい。あと、あそこには私の
そう言うと、オスカーの姿は消えた。
誠司達はしばらく立ち尽くしていた。ハジメが尋ねる。
「ねぇ、なんか随分とんでもない話を聞いちゃったけど……」
「そうだな…… だが、今のが全部本当の話なのかどうか、現時点じゃ判断材料が少なすぎる。あのオスカーって男が嘘を言っている可能性もなきにしもあらずだし。でも教会の言うことに疑いが出たのもまた事実だ。こればっかりは実際にそのエヒトとやらに会ってみないと分からないだろうな」
「………ん。どうするの?」
「さあな。まずは書斎に行ってみよう。そこでなら他にも何か分かるかもしれない」
誠司がそう言うと、ハジメもユエも頷いて部屋を後にした。
攻略の証、ベテランシンボルです。最初はジェネレーションバッジって名前でしたが、紆余曲折を経て今の名前にしました。見た目はアニポケのフロンティアシンボルみたいな感じだと思って欲しいです。
原作では攻略の証は指輪とかペンダントとかですが、ジムバッジみたいな感じにしたいなぁと思いこの形にしました。
申し訳ありませんが、次回の投稿は8/11になります。