オスカーの部屋を後にした誠司達は二階の書斎に入った。どうやら、このベテランシンボルというメダルが鍵代わりになっているらしく、メダルの模様を合わせるとガチャリという音がした後扉を開けることが出来た。
扉を開けて中に入ると書斎は長い時間、人が入っていないはずなのに特に埃っぽさが無かった。そういった魔法でも掛けられているのだろうか。あちこち本棚に囲まれた造りになっているが、中央の大きな机の上には茶色の中型サイズのトランクが置かれていた。そのトランクの横には二枚の紙が置かれている。その紙によると、このトランクはポケモン達の住居として保護・育成が出来るように作られた魔法のトランクなのだそう。二枚目の紙には詳しい機能が書かれており、目を通していくと誠司に戦慄が走った。隣で同じように目を通していたハジメも顔を引き攣らせる。
「すごい…… こんなの国宝級のアーティファクトじゃないか………」
「……ああ。取り敢えず、どんなものか見てみよう」
そう言うと誠司はトランクを開ける。すると、トランクの中には階段が続いていた。恐る恐る、誠司はトランクに足を入れて階段を降りて行く。ハジメやユエも誠司に続く。階段は一段一段大きめに作られているため降りやすい。そして、階段を降り切ると、誠司達は自分の目を疑った。
そこには様々な環境の空間が広がっていた。暖かい気候の草原地帯や砂塵舞う砂漠地帯、雪が降り積もる氷雪地帯など多種多様なエリアがあり、色々なポケモンが生活出来るようになっている。ハジメやユエはどこか興奮した様子で先に他のエリアを見に行ってしまった。残された誠司は近くを詳しく散策することにした。少し歩くとビニールハウスのようなものがあり、そこには多種多様な木の実や薬草が栽培されているのを見つけた。また、ビニールハウスの横には小さな小屋のような建物があった。この小屋もベテランシンボルが鍵代わりになっており、それを使って開けると誠司にとっては見慣れたものが机の上に置かれていた。
「これは……… モンスターボール………なのか………?」
誠司が夢の中で何度も何度も見た球体がそこにはあった。しかし、目の前のそれは夢で見たものよりも数倍は大きく、何かコードのようなもので繋がっている。球体の中には何か影のようなものが見え、何かポケモンが入っているようだった。おそらく、先程オスカーが言っていた相棒とやらがその中にいるのだろう。
誠司が恐る恐る、球体の開閉スイッチらしき部分を押してみる。すると………
ドガシャーーーン!!!
誠司は衝撃と共に小屋から吹き飛ばされた。噴き上がる白い煙の中に薄らと何か影のようなものが見える。
「コーーーーンッ!!」
影は鳴き声と共に煙の中をゆっくりと進み出て、正体を現した。その正体は金色の毛並みを持ち、九本の尻尾が特徴的なポケモン、キュウコンだった。ここが何処なのか少し混乱しているようだった。周囲を忙しなく見渡している。誠司がキュウコンに尋ねる。
「お前は………キュウコンか…… もしかして、お前がオスカー・オルクスの相棒か?」
「ッ!……コン!」
キュウコンはオスカーの名を聞くと一目散に走り出した。それと入れ違いにハジメとユエが来た。
「誠司! さっきすごい爆発音が聞こえたけど……」
「……今何かが通り過ぎた」
「……ああ。実はな………」
誠司は今起きたことをハジメ達に説明した。
「それなら早くそのキュウコンの跡を追いかけよう」
ハジメがそう言って誠司達はキュウコンの跡を追うことになった。キュウコンは既にトランクから抜けて書斎から出て行った後のようだった。幸い、キュウコンの足跡が続いていたため追いかけるのは難しくなかった。
所々続いているキュウコンの足跡を辿ると、キュウコンは先程の魔法陣がある部屋にいた。キュウコンは座り込んでいた。キュウコンが見つめる先には既に白骨化したオスカーの亡骸があった。目には薄らと涙を浮かべている。
誠司達は何て言えば良いか分からなかった。キュウコンはしばらくそうしていると、チラリと後ろを振り返って誠司達を見つめた。キュウコンは少し寂しそうに鳴くと、誠司の下に近付いて来た。
「コン………」
「キュウコン……」
誠司はキュウコンを撫でようとするが、振り払われた。先程までの悲しそうな顔から一転して挑戦的な顔になった。まるで「自分を使いたいのならそれに相応しい実力を見せてみろ」と言いたげだ。そのままキュウコンは何も言わず部屋から出て行ってしまった。
誠司達が再びキュウコンを追いかけたところ、今度は建物の外にある開けた場所にいた。野球が出来そうなくらいの広さであちこちには焼け焦げた跡があった。訓練場みたいな場所のようだ。
どうやら、キュウコンの力を借りるには自分達の実力を示す必要があるみたいだ。当然と言えば当然である。誠司達は一旦ベッドルームにいるポケモン達の下へ向かった。そして事情を簡単に説明すると、マシェード達は我先にキュウコンと戦いたがった。しかし、怪我している者も多い。ましてや戦う相手は解放者の相棒ポケモンだ。そんな怪我をしているポケモンを出してもあのキュウコンには勝てないだろう。なので、怪我が一番少なかったケンタロスを選んだ。キュウコンは炎属性。ケンタロスは地面属性の技も使えるので不利という訳ではない。
誠司はケンタロスを連れてキュウコンの下へ向かった。ハジメ達やポケモン達もゾロゾロとついて行く。キュウコンもポケモン達を見て一瞬驚いた表情を浮かべるが、すぐに平静を取り戻す。
キュウコンは戦闘態勢を取った。キュウコンの周囲には青白い火の玉のようなものが浮かんでいる。キュウコンが一声鳴くと、日差しが強くなっていく。そんなキュウコンを見てケンタロスも気合十分なのか前足で地面を何度も引っ掻く。誠司はケンタロスに指示を出した。
「よし。ケンタロス、“10まんばりき”だ!」
ケンタロスは渾身の力でキュウコンに突進をかます。キュウコンは特に避ける素振りもなく受け止めた。どうやらこちらの力を見極めるためのようだ。キュウコンは複数の“おにび”を発動させて四方八方に放つ。ケンタロスはそれを素早く躱す。すると今度は“かえんほうしゃ”を放ってくる。
そうやってバトルを続けて行くと、誠司はどこかキュウコンの気持ちのようなものが伝わってきた。相棒のオスカーへの深い信頼や彼を失った哀しみ、相棒に代わって彼の無念を晴らしたいという気持ちがこれでもかと伝わってくるのだ。
やがてケンタロスは息が上がり、立っているのがやっとという状態になってしまった。一方でキュウコンは特に目立ったダメージはない。ケンタロスはまだ諦めていない様子だが勝負ありだ。誠司はケンタロスを止めた。これ以上やっても、ケンタロスが無駄に傷付くだけだ。ハジメやユエ、他のポケモン達は驚いた様子だ。
誠司がケンタロスを労っていると、キュウコンが近付いて来た。キュウコンは一声鳴くと、誠司の腰の方に自分の頭を擦り合わせた。この様子から誠司達を認めてくれたようだ。
誠司が一緒に来てくれないかと尋ねるとキュウコンはしっかりと誠司の目を見て頷いた。誠司は喜び、キュウコンの頭を撫でようとしたらそれは拒否されてしまった。キュウコンにとって頭を撫でるのは駄目らしい。
どうやらまだ完全に懐いている訳ではないようだ。こればかりは時間を掛けて歩み寄っていくしかなさそうである。
オスカー・オルクスのトランク: ポケモン達を保護するための住居の役割を持つ。ポケモン世界で言うパソコンみたいなもの。七人の解放者達の力の結晶とも言えるアーティファクト。
空間魔法によってトランク内に非常に広い空間を作り、その中で生成魔法や変性魔法によって様々な環境を作り、重力魔法によってトランクがどんな動きをしても中には影響を受けず、再生魔法によって攻撃を受けても即座に再生し、魂縛魔法によって入った者に安心感を与え、昇華魔法によってそれら全ての魔法を極限まで昇華させ、最後に生成魔法でトランクに付与した。
元ネタはファンタビの主人公ニュートのトランク。他にも色々な機能がありますが、それは後で明かして行く予定です。
モンスターボール: オスカーが設計・開発したアーティファクト。相棒のキュウコンを長い年月が経っても生かすことが出来るように作った。所謂コールドスリープ装置である。しかし、晩年に作ったものなため不完全な部分も多い。一回きりなため一度ボールから出してしまうと壊れてしまう。
オスカーの相棒キュウコンが仲間になりました。しかし、オルクス大迷宮自体が他6つの大迷宮を攻略した人向けの大迷宮のためキュウコンは完全に誠司達に従う訳ではありません。バッジが足りないと高レベルのポケモンが言うことを聞かないのと同じ感じです。