魔獣使いと錬成師が合わされば世界最強   作:マロニエ19号

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ハルツィナ樹海へ

「ううっ…… ぐすっ…… ひどい、ひどずぎまずぅ……… 」

 

三人の話を聞いた結果、シアは号泣した。滂沱の涙を流しながら「誠司さん達に比べたら私はなんて恵まれて……」とか「私は甘ちゃんですぅ」とか呟いている。さりげなく隣のユエのコートで顔を拭こうとしてきたのでユエが嫌そうな顔で自分のハンカチを手渡す。少なくとも自分の服を使われるよりはマシだと判断したのだろう。

 

そして、泣いているのはシアだけではなかった。隣から変な音が聞こえてきたので見てみると、他のハウリア達も泣いていたのだ。シアのように号泣こそしていないが、自分の顔を押さえたり肩を震わせて嗚咽していた。それを見てハジメが困ったような顔をする。

 

「ねぇ、以前ユエに話した時もそうだったけど僕達の境遇ってそんなに泣かれるようなことなのかな……?」

「そうですよ! いきなり見知った人から裏切られて奈落?に落とされたんですから! 私なんか全然です!」

「………確かに。なんか思い出したら腹が立ってきたな。俺達を奈落に落とした奴が誰なのか分かったら、今度はそいつを奈落に落としてやろうぜ」

「ん、手伝う」

「やりましょう、やりましょう!」

「……いや、やらなくて良いから!」

 

誠司が物騒な提案をすると、ユエとシアが乗ってきた。それを慌ててハジメが止める。ハジメとしてはわざわざ面倒な勇者達と関わりたくなかったからだ。その直後、「ん?」と怪訝な顔を浮かべる。それは誠司やユエも同様だった。

 

「……なんかさりげなく俺達の仲間みたいな雰囲気を出していないか、お前?」

「えっ!? 違………いえいえそんなことはないですよ〜」

「……今、『え!? 違うんですか?」って言いそうになった。図太ウサギ」

「図太…… な、なんて冷たい目で見るんですか……… というかちゃんと名前で呼んで下さいよぉ」

 

何気に誠司達から一度も名前で呼ばれていないのを気にしていたようだ。いつの間にかシアはユエからいじられるポジションになりかけている。ハジメがシアに言い聞かせるように言った。

 

「あのね…… 僕達の旅の目的は七大迷宮の攻略なんだ。さっき話した奈落と同じ、化け物揃いの地獄のような場所のね。力が無いと生き残れない。もしもそんな所に僕達と一緒に行っても瞬殺されるのがオチだよ」

 

ハジメのその言葉を聞いてシアはシュンとする。冷たいようだが、実際その通りだ。そして、今のシアには力だけでなくもう一つ決定的なものが欠けている。それを自覚しない限りは無理だろう。

 

カム達は何か言いたげにしていたが、誠司達は気付かないフリをした。シアは黙っていたが、何か考え込むように難しい表情をしていた。

 

 

それから数時間程経ち、遂に一行はハルツィナ樹海と平原の境界に到着した。樹海の外から見た限りだとただの鬱蒼とした森にしか見えないのだが、一度でも中に入ると深い霧と同じように無数に立ち並ぶ木々によって簡単に方向を見失ってしまうらしい。しかも、この霧はただの霧ではないみたいで鳥ポケモンが使える技、きりばらいでも晴らすことは出来ないそうだ。

 

「誠司殿、ハジメ殿、ユエ殿。どうか我々から離れないようにお願いします。我々はお尋ね者でもありますから」

「ええ、分かっています。それに俺達は人間族、見つかると厄介なことになるのは目に見えていますし」

 

カムは頷くと、誠司達はハウリアに囲まれる形で進んで行く。これは誠司達が逸れないようにするための配慮だ。

 

誠司達はひとまずハルツィナ樹海の深部にある巨大な一本樹、「大樹ウーア・アルト」に向かうことになった。亜人族の間では神聖な場所として滅多な者は近寄ることがないらしい。なので、ルート次第では誰にも見つからずに辿り着くことが出来るだろう。

 

なぜそこに向かうことになったのかというと、ハジメがおそらく大迷宮の入口が樹海のどこかにあるのではないかと言ったからだ。たしかに、仮に樹海そのものが大迷宮だとしたら危険すぎて亜人などとても住めるような環境ではない。それならライセン大峡谷のようにどこかに大迷宮の入口が隠されていると考える方が自然である。そして、入口として考えられる場所がその大樹というわけである。

 

道中、ポケモンに襲われる場面に何度か遭遇したが、全て誠司がモンスターボールで捕獲して事なきを得ている。ポケモンを使って倒さなかったのは下手に戦闘を起こすと、別の亜人族に見つかる危険を考えてのことだ。クルミルやチリーン、ヘラクロスを捕獲したが、強さから見てもやはり大迷宮のポケモンとは思えない。ハジメの推測通り、樹海そのものが大迷宮という訳ではないようだ。ちなみに、色々なポケモンを簡単に捕まえる様子を見て数人の子供達からはキラキラした目で見られるようになっていった。それには思わず誠司も苦笑いだった。

 

それからしばらく進んでいると、今までにない無数の気配に囲まれて誠司達は歩みを止めざるを得なくなった。数や殺気、連携の精度などポケモン達でないのは明らかだ。カム達は警戒の表情を浮かべ、シアは顔を青褪め、誠司達は面倒なことになったと苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。

 

「お前達……何故人間といる! 種族と族名を名乗れ!」

 

誠司達の前に現れたのは虎の亜人の集団だった。数十人はいる。全員、誠司達やハウリアに対して敵意を剥き出しにしている。

 

カムが弁明を図ろうとすると、その前に虎の亜人の視線がシアを捉えた。

 

「白い髪の兎人族……だと? そうか……貴様ら、報告にあったハウリア族だな。長年、同胞を騙し続け、忌み子や魔獣を匿うだけでなく、今度は人間族を招き入れるとはっ。もはや弁明の余地などない! これは立派な反逆罪だ! 全員この場で処刑する! 総員かかれっ!」

 

隊長格の虎の亜人が問答無用で攻撃命令を下すと、部下達が一斉に剣を抜き、襲い掛かって来た。ハウリアは碌に動こうとしない。いや、動けないのだろう。誠司は溜息を一つ吐いて前に進み出ると、二つのモンスターボールを同時に投げた。そして、指示を出す。

 

「マシェード、イーブイ、“まもる”だ」

「マシェッ!」

「イーブッ!」

『なっ!?』

 

虎の亜人達の攻撃はマシェードとイーブイによって完全に防がれる。剣の何本かは折れて、折れた剣身は近くの樹に突き刺さった。突如現れたマシェードとイーブイを見た部下達の間に動揺が走る。

 

「魔獣だと!?」

「……ということは魔人族か!?」

「だが、魔人族の肌や耳もしていないし魔法で攻撃もしていない。奴らならすぐに魔法で攻撃してくるはずだ!」

「人間が魔獣を従わせているということか!? 有り得ん!」

 

虎の亜人達が半ばパニックになる中、誠司が口を開いた。

 

「攻撃してくるのであればこちらも容赦はしないが、俺達は別に奴隷狩りとかそういうのが目的じゃない。退けばわざわざ追いはしないぞ」

 

誠司の言葉を聞き、虎の亜人は考えた。

 

(何者だ……あの少年は。あの魔獣はおそらくこの樹海の魔獣よりずっと強い。そんなものを従えているのならばフェアベルゲンを滅ぼすことも容易いはず…… それをしていないということは…… まさか本当にこの者達は我々に敵意が無いのか……?)

 

この隊長は亜人族の国フェアベルゲンの警備隊長を務めている。だから、フェアベルゲンを守るためであれば命を落とす覚悟は出来ている。だが、部下を無駄死にさせる訳にはいかない。なので質問を投げかけた。端的ではあるが、返答次第では身命を賭して戦う覚悟を込めた質問を。

 

「一つ聞きたい…… 何が目的だ?」

「樹海の深部、大樹ウーア・アルトへ向かうためだ」

「大樹……だと? 一体なぜ?」

「大迷宮攻略のため。ハウリアはその案内役だ」

「大迷宮攻略? 何を言っている? この樹海そのものが大迷宮のはず。一度でも踏み入れれば亜人以外は二度と帰ることの出来ない天然の迷宮だ」

「いや、それはないな」

「……どういう意味だ?」

 

隊長が訝しげに問い返した。その問いは誠司の代わりにハジメが答えた。

 

「大迷宮は解放者達の試練だからだよ。亜人族は簡単に深部に行けるんでしょ? 亜人族だけが進めるんじゃ試練にならない。だから、樹海自体が大迷宮というのはおかしいんだよ」

 

ハジメの答えに隊長は困惑を隠せなかった。聞き覚えのない単語ばかりだったからだ。普段なら戯言と斬って捨てていたかもしれないが、目の前の人間達が嘘を吐いているようには見えなかったし、何より彼らが嘘を吐く理由もない。

 

もし彼らの言葉が真実であれば、さっさと目的を達成して立ち去って貰った方が良いだろう。隊長はすぐにそう判断した。だが、一介の警備隊長の判断でこのような存在を野放しにすることは出来ない。なので、隊長は誠司達にある提案をした。

 

「お前達が国や同胞に危害を加える気がないのなら大樹に行くのは構わないと、私はそう判断する。しかし、これは私の独断で決められることではない。伝令を送り本国に指示を仰ぐ。お前達の話も長老方なら何か知っているかもしれないしな。お前達に本当に含むところが無いのであればこの場で待機してもらいたい」

 

部下達の間に動揺が走った。随分と異例の判断だったようだ。一方で誠司とハジメは隊長の柔軟で理性的な判断に内心、感心していた。なので、自然と丁寧な口調になった。

 

「うん、分かりました」

「俺も異存はありませんね。その長老方には最低でも『大迷宮攻略』と『解放者』という言葉は忘れずに伝えておいて頂ければ」

「ザム! 聞こえていたな! いまの会話を余さず長老方に伝えろ! 誇張はするな!」

「了解!」

 

声と共に気配が一つ遠ざかっていくのを感じた。

 

部下の一人を伝令に向かわせて、自分達は誠司達を監視するために隊長は視線を戻した。すると、先程までは気付かなかったが誠司、ハジメ、ユエの腰のベルトには複数のモンスターボールが付いているのを見つけた。しかもよく見ると、ハウリアの者達の手にもモンスターボールがあった。

 

(嘘だろ…… 魔獣はあいつらだけではなかったのか…… そういえば、ハウリアは魔獣も匿っていたんだったな。……ちょっと待て。もしも戦闘になっていれば我々は大勢の魔獣と戦うことになっていたのか………)

 

隊長は改めて自分の判断が英断だったと内心、冷汗をかく。それから一時間程、誠司達は一定の緊張感を保ったまま、この場で待機することになった。

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