誠司とハウリアの訓練も終わりに差し掛かっていた。訓練最終日の朝、誠司はハウリアとポケモン達を一箇所に集めた。普段と違う様子にハウリアはお互いに顔を見合わせている。カムが代表して尋ねた。
「誠司殿。今日は何をするんです?」
「いや何、今日はお前らに最後のレッスンをしようと思ってな」
「……最後のレッスン……ですか?」
「そうだ。最後に成長したお前らとポケモン達の力を見せて貰おうと思ってな」
そう言って誠司は腰にあるモンスターボール五個を取り出すと、ポケモンを出した。出て来たのはマシェード、ヌマクロー、ケンタロス、イーブイ、キュウコンの五体、昨日までの六体とは一線を画すポケモン達だ。全員堂々とした表情を浮かべている。実はハウリアの訓練と並行してトランク内で彼らの訓練も行なっていた。だから、実力は以前よりも上がっているし、新しい技も習得した。
カム達はゴクリと唾を飲む。
「こいつらは昨日までの奴らとはレベルが違うぞ。昨日までの訓練を経てお前らは間違いなく強くなった。それは俺が保証する。だがな……世の中、上には上がいる。今回はそいつを教えてやる」
誠司の挑発的な言葉に全体の空気は殺気立つ。
「……後悔しますよ」
「させてみろ」
その時、ハウリア側の二体のポケモンが同時に動いた。ポッポとホーホーだ。ポッポは“すなかけ”で目眩しをし、ホーホーが“エアスラッシュ”で攻撃をする。このホーホーの特性は“するどいめ”というもので、命中率が下がらない。そのため、的確に誠司のポケモン達に向かって“エアスラッシュ”が飛んで来る。悪くない連携だ。
「イーブイは“まもる”。ヌマクローは“こごえるかぜ”だ!」
イーブイが“まもる”で“エアスラッシュ”を防御すると、すかさずヌマクローが“こごえるかぜ”を放つ。ポッポとホーホーに当たると、少し動きが鈍くなる。
「くっ! それなら……これでどうだ!」
カムの言葉と同時に三体のポケモン、バタフリーとビビヨンとアブリーとハウリア達が死角から現れた。ハウリア達が指示を出す。
「「「“しびれごな”!」」」
「マシェード、頼む」
「マッシェ!」
マシェードが前に進み出ると、“しびれごな”を大部分を吸収してしまう。草属性のポケモンに粉系の技は効かないのだ。多少の吸い残しはあるが、そこまでの脅威ではない。続いてキュウコンが虫属性にとって弱点である炎技を放とうとする。だが、それを予測していたのかカムはニヤリと笑う。
「掛かりましたな」
「っ!? キュウコン待て!」
カムの言葉に違和感を覚えた誠司が止めようとするが、もう遅い。キュウコンが“かえんほうしゃ”を放とうとすると、宙を舞っていた粉が反応して爆発を起こした。突然のことだったため、近くにいたマシェードも少なからずダメージを負った。キュウコンもダメージを負っている。大ダメージという程ではないが、明らかにハウリアの策に嵌まったダメージだ。
「ちっ…… “
「ええ。元々は炎魔法を使う敵や炎属性のポケモン対策に考えていた作戦でしたが、上手くいきました」
「ああ。良い手だった。だが……」
誠司の言葉が終わる前にマシェードが腕を伸ばしてバタフリー達を絡め取る。
「“ギガドレイン”!」
マシェードがバタフリー達から体力を吸い取っていく。バタフリー達は必死に踠くが、抜け出せない。虫属性のポケモン達に草属性の“ギガドレイン”は効果は薄い。しかし、三体もいれば充分、体力の回復が出来る。
カム達が悔しそうな顔をするのをよそにケンタロスが突進していく。これでハウリアのポケモン達を蹴散らす。それをハウリアのポケモン達が反撃する。
そんなこんなでハウリアと戦い、彼らの思いもよらない策に掛かる場面も何度かあったが、最終的には誠司の圧勝に終わった。ハウリアもポケモン達も倒れ込んでいるが、誠司のポケモン達は立っていた。
誠司はポケモン達を神水で回復させると改めて反省会を行った。
「これで俺の勝ちだな」
「ええ。我々の完敗です」
カム達はひと目見て、誠司のポケモン達が強いことは見抜いていた。だからこそ連携を駆使して勝とうとしたのだが、それも通用しなかった。まだまだ自分達が未熟であることを思い知らされる。悔しさから拳を握り締める。
「さてと……俺が今回、この訓練をした理由が分かるか?」
「それは……我々がまだまだ未熟であることを自覚させるため……ですか?」
「それだけじゃないな。今回の訓練は戦う理由を忘れないようにするためもあった」
「戦う……理由……?」
誠司の言葉にハウリア達全員が首を傾げた。シアの家族として帰る場所を守り切るため。今度は誰も失うことなく。全員がそういう認識で共通していた。
「お前らが戦うのは家族を守るためだったはずだ。その過程で敵を撃退することもあるだろうな。最悪、敵を殺すこともあるだろう」
「……」
「そうなった時、お前らが暴走する懸念があった。今までお前らを虐げて来た連中に報復出来る時、それに愉悦を感じる可能性が高かった。そうなれば、お前らは完全な外道に成り果てる。それこそお前らを襲った奴らのようにな」
『っ!?』
ハウリアは言葉を失った。
その仮定は確かにあり得ることだったからだ。このまま自分達が強いことが分かれば、間違いなく今まで自分達を虐げた者達に報復するだろう。それが正しいことだと言って。
「そうなったら、お前らにとって大切な家族であるポケモン達を道具のように扱うのが目に見えてた」
「それは……」
「分かっていると思うが、ポケモンは戦うための道具じゃない。パートナーだ。それを絶対に忘れるな。あと……お前らが外道になったらシアが悲しむ」
『……』
「家族を守るために強くなったのに、その家族を悲しませるようなことになったら本末転倒だぞ。自分達が何故戦うのか、本当に守りたいものだけは決して忘れるな」
「ご忠告……感謝します」
誠司が少しだけ悲しげな表情を浮かべる。
「それに……信頼関係っていうのは崩れるのは一瞬だ。家族を悲しませるだけでなく、ポケモンとの信頼も失い兼ねない。お前らはポケモン達とこれだけ良い関係を築いているんだ。彼らを裏切るようなことはするな」
『っ、はいっ!』
今回の一件でハウリア族は誠司に対して高い忠誠心を誓うことになった。
ハウリアが自主トレを始めて、しばらくすると、シア達が戻って来た。三人とも大分打ち解けているようだ。誠司としては女同士で組ませた方が良いだろうと思っていたが、正解だったみたいだ。誠司が片手を上げて声を掛けた。
「よぉ、三人共。お疲れ。訓練はどうだった?」
「はいっ! おかげさまで私もホルビーも前よりもっと強くなれたと思います!」
「ホビホッビ!」
「へぇ…… ハジメ、ユエ、どうだったんだ? 実際は」
「かなりの素質の持ち主だよ。それに、幼い頃からの付き合いなのもあって、ホルビーとの連携も凄い」
「んっ。魔法は特に身体強化に特化している。正直、化け物レベル。鍛えればもっと強くなれる」
ハジメとユエの掛け値なしの評価にシアは少し驚いた表情を浮かべた後、照れ臭そうにしている。その時、ハジメがシアをひじで小突いた。何か言うことがあるだろって様子で。それを思い出したのかシアが顔を引き締める。
何だと誠司が訝しむ中、シアは誠司に向かって頭を下げた。ホルビーも同様に頭を下げる。
「誠司さん。私をあなた達の旅に連れて行ってください。お願いします!」
「ホッビ!」
シアの頼みに誠司はあまり動揺していない様子だった。まるでそうなることを予測していたかのように。だから誠司は冷静に尋ねた。
「それはどうしてまた? 強くなっているなら一族の迷惑にもならんだろうし。わざわざ俺達と一緒に行きたい理由は何だ?」
「それは……」
まさしく訓練中にハジメがシアに尋ねた質問と同じようなものだった。だからシアは意を決して正直に答える。
「私は……最初は……ただ自分と同じハジメさんやユエさんに勝手に親近感を持って旅に付いて行きたいと思っていました…… でも、今は違います。この世界のことやポケモン達のことをもっと色々と知りたい。友達と一緒に過ごしたい」
「だがな。俺達の旅は……」
「困難があることは承知の上です。命が幾つあっても足りない危険な旅なのは分かっています。それに……色々な人から嫌われることも」
シアのその言葉に誠司は目を見開いた。それは誠司が懸念していたことだったからだ。思わずハジメに目を向ける。彼女は小さく頷いた。シアが話を続ける。
「今でもまだ怖いです。でも私自身、出来ることをしないまま諦めたくないんです!」
「……本気なんだな?」
「はい」
「家族には話したのか?」
「いえ、それは……まだです。でも皆からなんと言われようと私は……」
「……だそうだ。どう思う、皆?」
「……ふへ?」
遮られた誠司の言葉に思わず変な声を上げるシア。すると、あちこちの樹の影からハウリア達が現れた。カムを含め、ハウリア全員、勢揃いだ。シアが驚きのあまり、目を白黒させる。
「えっ、父様、皆、いつからそこに……」
「いや何、シアが帰って来てすぐだが」
「ってことは最初からじゃないですかぁ! 誠司さんも気付いていたのなら言ってくださいよぉ!」
「まぁ、良いじゃない。手間が省けたんだから」
ハジメが笑いながら言った。ハジメやユエも驚いた様子は無いため、最初から気付いていたけど黙っていたようだ。シアもそのことに気付いたのかハジメ達にジト目を向ける。
カムも笑っていたが、すぐにシアに向けて真剣な表情を浮かべる。こういう時、やっぱりシアの父親なんだなぁと実感する。つられてシアも真面目な顔になった。
「シア、誠司殿達と旅に同行するのは本気なのか?」
「はい。私はまだ知らないことが多いです。新しい世界に踏み出したいんです。勝手なことを言っているのは分かっています。それでも……」
「良いぞ」
「……えっ?」
「お前自身が本気で付いて行きたいのなら私達も止めるつもりはない。我々は家族なんだ。家族がやりたいと思っていることを応援しないでどうする」
カムの言葉に他のハウリア達も頷いている。全員カムと同じ気持ちのようだ。
「ぐすっ…… どおざまぁ…… 皆ぁ……」
家族の温かい言葉にシアはボロボロと大粒の涙を流している。そんなシアに優しい笑みを浮かべつつ、カムが誠司達に向き直った。そして、頭を下げる。
「誠司殿、ハジメ殿、ユエ殿。どうか娘をお願いします。シアは少しそそっかしい所もありますが、一生懸命で家族思いな良い子です。必ずあなた方の助けになると思います」
誠司は大きく溜息を吐いた。父親にここまで言われたら断れない。
チラリとハジメやユエに目を向けると、二人もシアを連れて行くことに賛成のようだ。それに……シアがちゃんと
誠司はシアに歩み寄り、右手を差し出した。
「これからよろしくな、シア」
「ぐずっ、はいっ! よろしくお願いします!」
まだ泣きべそをかいているシアとしっかりと握手を交わした。
こうして、誠司達は新たにシア・ハウリアとホルビーが仲間に加わることになった。
次回でハルツィナ樹海編が終わると思います。ハウリアの戦闘もある予定です。