樹海を抜けた誠司達はライセン大峡谷に戻る前に一度、近くにある町、ブルックに寄ることにした。食料や道具、服等を新しく揃えておきたかったし、今後のために樹海やら何やらで集めておいたものも換金しておきたい。
町に向かう直前にハジメが何かに気が付いたのか宝物庫から
「あ、あの〜、ハジメさん? その首輪は一体……?」
「え? 見ての通り首輪だよ。町に入る前にこれをシアに着けておかないと。大丈夫、奴隷用のものと違って拘束する力は無いから」
「じょ、冗談ですよね? いくらハジメさんでもそんな真似……」
「……」
「……ぐすん」
真顔のハジメを見て冗談ではないと分かったシアは涙ぐむ。まぁ、シアの気持ちも分からんでもない。仲間扱いではなく奴隷扱いされたのだ。ショックも大きいだろう。だが、誠司もユエも今後のことを考えたらハジメの考えに賛成だった。なので、二人ともフォローを入れる。
「はぁ…… あのな、シア。奴隷でもない亜人族、それも愛玩用として名高い兎人族のお前が普通に町中をうろついてみろ。速攻で人攫いやら何やらに捕まるぞ。そうなったらお前を助けるために色々と東奔西走しないといけない。その手間を考えたらハジメのやり方は正しいんだ」
「ん。それに……意外と似合うかもしれない」
「ユエさん……フォローになってませんよ、それ」
3人が何とかシアを説得し、納得してもらった頃にはブルックの町の門が見えてきた。
門に辿り着くと、門の脇にある小屋から武装した男が出て来た。格好からして兵士というより冒険者のようだ。冒険者風の男は誠司達を呼び止めた。門番は誠司の顔をチラチラ見ながら尋ねる。包帯巻きの誠司を警戒しているようだ。
「止まってくれ。ステータスプレートと荷物の確認を。あと、町に来た目的は?」
「旅の途中でな。食料や日用品の補給だよ」
そう言って誠司とハジメは自身のステータスプレートを渡した。門番はふーんと相槌を打ちながらステータスプレートを見ると、目を瞬かせた。慌てて誠司とハジメの顔を交互に向ける。
「驚いたな……二人ともかなりのステータスだ。見た目と違ってあんたら、凄いんだな」
「一言余計だよ」
二人ともこの世界ではかなりのステータスになっていた。どのステータスも三桁後半で、冒険者なら上位に入る程の強さだ。誠司としては天職の「魔獣使い」という部分をツッコまれるかと不安に思っていたが、そんなことはなかった。ハジメの言葉に門番は謝った。
「悪い悪い。それで、そっちの二人は……」
「えっと……こっちの子は無くしてしまって…… それでこっちの兎人族の子は……分かるでしょ?」
ハジメのその言葉だけで門番は納得したようで、なるほどと頷いてステータスプレートを二人に返す。
「しっかし、羨ましいな、お前。白髪の美人さんだけでなく金髪のかわい子ちゃんにレアな髪色の兎人族までいるなんてよ。もしかして、結構な金持ちとかだったり?」
「ノーコメントだ」
門番の羨望と嫉妬の混じった質問に誠司はにべもなく返す。次に荷物検査が始まり、ハジメやユエの手荷物、誠司の持っているトランクを確認することになった。
以前、誠司にトランクの中身が異空間になっていることを見せてもらったことのあるシアは焦るが、ハジメとユエが抑えた。トランクを持っている誠司も特に慌てた様子はない。誠司は門番に気付かれないようにそっと、トランクの開閉スイッチ近くのダイヤルを回した。そして、トランクを開けて中身を門番に見せる。
トランクの中には服や本といった日用品が詰まっていた。それを見たシアは目を白黒させた。チラチラと忙しなく誠司を見るが、ハジメがシアの脇を肘で小突いて落ち着かせる。門番はシア達の様子に気付かず、中身を一通り確認した。そして、異常が無いことが分かると門番は頷いた。
「よし、問題は無いな。通っていいぞ」
「ああ、どうも。あ、そうだ。素材の換金場所ってどこか知っているか?」
「うん? それなら、中央の道を真っ直ぐ歩けば冒険者ギルドがある。店の場所はあそこで聞いた方が良い。滅茶苦茶見やすい町の地図もくれるしな」
「へぇ…… 良いことを聞いたよ。ありがとう」
「情報ありがとね。寄ってみるよ」
誠司とハジメがお礼を言うと、四人は門をくぐり、ブルックの町に入って行った。以前行ったホルアドの町程ではないが、露店も結構出ており、呼び込みの声や値引き交渉の喧騒が聞こえてくる。
町に入ってからシアがチラチラと誠司のトランクを見てくる。最初はスルーしていたが、段々と鬱陶しくなってきたのか誠司が尋ねた。
「さっきからどうしたんだ? 人のトランクをジロジロと」
「だって、前にトランクを見せてくれた時は階段みたいなのが続いてて降りたら色々な空間が広がっていたじゃないですか。それなのに一体どうして……」
「そりゃこのトランクにはカモフラージュ機能があるからね」
誠司の代わりにハジメが答えた。シアはよく分からないのか頭にクエスチョンマークが浮かぶ。
「カモ……フラージュ?」
「そう。このトランクには中身を誤魔化せる機能もあるんだよ。それこそ普通のトランクのようにな。さっきみたいに荷物検査されることを想定してオスカー・オルクスが取り付けたらしい」
「ん……私達はそれを知っていたから特に慌てていなかった」
「ああ、なるほど。そういう……というか、それならそうと先に言ってくださいよぉ!」
シアがうがーっと怒りの声を上げるが、三人はスルーした。道中、シアを見て彼女を手に入れようとする輩もいたが、首に着いている首輪を見て舌打ちして去って行く。その様子を見てハジメがシアに耳打ちした。
「ね? 着けておいて良かったでしょ?」
「うう…… なんか複雑です……」
そんなこんなで四人は冒険者ギルドに辿り着いた。ギルド内はある程度掃除がされていて清潔感があった。飲食スペースもあるらしく、冒険者らしき集団が食事を取ったり雑談したりしている。ギルドに入って来た誠司達を見て、嫉妬や羨望の視線を向けられはするが、酒を飲んでいないからか絡んで来る者はいなかった。
正面のカウンターには恰幅の良いオバチャンが立っていた。ここは若くて美人な受付嬢がテンプレなのかもしれないが、誠司としては正直有難かった。オバチャンはニコニコと人好きのする笑みを浮かべている。
「残念だったね、美人の受付じゃなくて。がっかりしたかい?」
「いやいや、まさか。母親みたいな安心感がありますね」
「あははは。中々お世辞が上手いね。さて、改めて。冒険者ギルド、ブルック支部へようこそ。ご用件は何かしら?」
「ああ。素材の買取をお願いします。何しろお金が無いので」
「何だい? もしかして文無しかい? こんな可愛い子三人もいるのに何やってんだい」
オバチャンは誠司に説教する。だが、不思議と嫌な感じはしなかった。食事処からは「あー、あいつも説教されたかー」という声が聞こえた。こういうことはしょっちゅうなようで、ギルドが綺麗だったり冒険者達が大人しいのもどうやらこの人のお陰のようだ。説教された誠司は苦笑いを浮かべた。
「いやぁ……面目無いですね」
「仕方ないね……折角だったら冒険者登録をしておくかい? 冒険者になれば買取も一割増しで売れるし、ギルド提携の宿や店も割引してもらえるよ」
「そうなんですか……」
誠司はチラリとハジメを見た。ハジメも異論は無いようで頷いた。
「それじゃお願いします」
「了解。だけど、登録には千ルタ必要だから、それは買取価格から差し引かせて貰うよ」
ルタというのはこの世界トータスにおける共通の通貨だ。様々な色の種類がある。また、驚いたことに貨幣価値は日本と同じである。非常に分かりやすくて良い。
誠司とハジメはステータスプレートを渡すと、オバチャンは何かしらの手続きをして返却した。返却されたステータスプレートには冒険者とランクの欄が追加されていた。ランクはまだ新入りなので最低ランクの青だ。
「冒険者なら頑張って上を目指しなよ。ああ、それと……買取はあたしに見せてくれれば良い。査定資格も持っているからね」
そう言われてハジメは宝物庫から手持ちのポーチに移しておいた素材を取り出して並べていく。
その品々を見てオバチャンは驚愕の表情を浮かべる。
「こ、これは!」
オバチャンは恐る恐る手に取り、入念に確認する。
「とんでもないものを持ってきたね。『ふっかつそう』や『かおるキノコ』なんかもある。しかも、どれも鮮度が非常に良い。樹海産のものだね?」
「ええ、そうです」
予め、樹海のものを適当に見繕っていて正解だったようだ。誠司としては奈落の底で手に入れた鉱石類も出そうとも考えていたが、間違いなく大騒ぎになるだろうし、何より鉱石類はハジメが使いたいと思っていたので却下されたのだ。
「これなら手続き料を差し引いても余裕で生活出来るくらいにお釣りが来るよ。でも良いのかい? こんなに見事な代物、中央ならもっと高く売れるだろうけど」
「いや、それで十分です」
「うん、今お金が欲しいですし」
オバチャンからお金を受け取った。かなりの金額だ。そこでハジメが思い出したようにオバチャンに尋ねた。
「あ、そうだ。門番の人にこの町の地図を貰えると聞いたんですが……」
「ああ、ちょっと待っといで…… あった、これだよ。オススメの店や宿なんかも書いてあるから参考にしなさいな」
そう言われて手渡された地図は非常に精巧で、尚且つ情報は簡潔で分かりやすい。地球の観光地のパンフレットのような感じだ。門番も滅茶苦茶見やすいとは言っていたが、予想以上だった。これだけのクオリティなら十分お金を取れそうなレベルだ。今度は誠司達が驚きの表情を浮かべる。
「嘘だろ……これほどのものが無料なのか……?」
「ああ、構わないよ。あたしが趣味で書いてるだけだからね。書士の天職を持っているあたしからしたら、これくらい落書きみたいなもんだよ」
「これが落書きって……本当に何者なんだろ、この人……?」
ハジメが戦慄混じりに呟く。口には出さなかったが、誠司やユエやシアも同じ気持ちだった。
誠司達がお礼を言ってギルドを出ると、オバチャンは面白そうな様子でポツリと呟いた。
「ふむ。色々な意味で面白そうな連中だね。将来、有望だ」
ギルドを出た頃にはもう夕方になっていた。そこで、誠司達は宿屋に泊まることにした。ガイドブックのような地図を見て、四人は「マサカの宿」という宿屋に泊まることに決めた。食事も美味しいらしいし、何より風呂に入れるのが魅力的だったからだ。
宿に着いて中に入ってカウンターへ向かうと、十五歳くらいの少女が元気よく挨拶しながら現れた。
「いらっしゃいませ! マサカの宿へようこそ! 本日はお泊まりですか? それともお食事だけですか?」
「宿泊で頼む。あと、この地図を見て来たんだが、記載されている通りで間違いないか?」
誠司が見せた地図を見て、合点がいったように少女は頷いた。
「ああ、キャサリンさんの紹介ですね。はい、書いてある通りですよ。何泊のご予定ですか?」
((あのオバチャン、キャサリンって名前だったのか……))
予想外の名前に誠司とハジメが少し遠い目をしたが、少女の質問に何とか答えた。
「えっと……一泊でお願いします。あと、食事と風呂もお願いしたいです」
「はい。お風呂は十五分、百ルタです。今のところこの時間帯が空いていますが……」
少し話し合った結果、誠司は一時間、ハジメ達女性陣は二時間使うことにした。少女からは驚かれたものの、しっかりと時間帯表に書き込んでいく。そして、少女が好奇心が混じった表情で尋ねた。
「あと、本日は二人部屋と三人部屋が空いていますが、どうされますか?」
「二人部屋と三人部屋、男女別で一部屋ずつお願いします」
「……畏まりました」
誠司の答えに少女は少しがっかりしたような表情を浮かべるが、スルーする。誠司は部屋の鍵を二つ受け取ると、一つをハジメに渡した。
「じゃあ、夕飯の時間にね」
「ああ、俺はそれまで
「うん、分かった」
そう言って誠司とハジメ達は別れて部屋に入る。部屋は隣同士だった。
部屋に入ると早速、誠司はトランクの中に入ってポケモン達の食事を用意して夕食までの間、時間を潰した。食事の用意はヤレユータンも手伝ってくれたので本当に助かった。
トランクの機能の一つ、カモフラージュ機能です。ファンタビの主人公ニュートが持っているトランクのように中身を切り替えて誤魔化せます。空間魔法というより魂縛魔法による効果です。
ちなみにシアがトランクの中身を知っているのは、本編では書いていませんが、特訓前に食料集めでシア達をトランクの中に案内したことがあったからです。トランクの中を知って、シア達ハウリアは物凄く驚いていました。