翌朝、誠司達が朝食を取っていると、周囲から変な目を向けられていた。主にハジメ、ユエ、シアの三人に。ハジメが怪訝そうな様子で誠司に尋ねた。
「ねぇ、誠司。さっきから色々な人に変な目で見られるんだけど……」
「そりゃあ、昨晩、お前らの部屋から変な喘ぎ声が聞こえてたからな。『昨晩はお楽しみでしたね』って思われているんじゃないか?」
誠司の呆れを多分に含んだ言葉でハジメは思い当たることがあるのか呻いた。ユエがシアの頭部を見て呟いた。
「……お風呂上がりのシアの耳がモフモフなのが悪い」
「ええっ、私のせいなんですか?」
どうやら、風呂上がりにシアのウサ耳が凄いモフモフだったらしく、夜通し、触っていたそうだ。その時に気持ち良さそうな声も聞こえていたため、見事に周りから勘違いされたのだ。誠司としては自業自得だし、何より自分も触りたかったため彼女達に助け舟を出そうと思わなかった。
昼にチェックアウトする予定だったが、早めにチェックアウトして買い物に出ることにした。少女は顔を真っ赤にして受付をしていた。
宿を出て四人は早速、服屋に行くことにした。シアの現在の服装は樹海にいた時のまま、露出度が高めの民族衣装だ。流石にこれから旅をしていくにはあまり相応しくないのでもう少し旅に向いた服装に変える必要がある。それに、誠司達もスペアの服は何着か欲しかった。誠司としてはジャージみたいなもっと動きやすい服装が欲しいと思っていた。トランクの中でポケモン達を鍛えるのに適したものが。
道中、ハジメやシアが楽しそうに話している中、誠司は一つのモンスターボールを取り出して弄っていた。どこか悩んでいる様子だった。それに気付いたユエが尋ねた。
「誠司……どうしたの?」
「ん? ああ、このクルミルのことを考えていたんだよ」
誠司がモンスターボールをユエに見せる。ボールの中にいるクルミルはスヤスヤと眠っていた。ユエが怪訝な顔をした。見たところ、クルミルにおかしい所が見当たらなかったからだ。
「……クルミル?」
「ああ。どうもこの子、バトルが苦手みたいでな。どうしたものか……」
「……逃がさないの?」
「樹海から離れているし、人間に慣れすぎているからな。それに一回捕まえておいて、その後に捨てるというのも無責任だし」
「ん……誠司、優しい」
そんな話をしながら、誠司達はとある冒険者向きの店に足を運んだ。あのオバチャンもといキャサリンさんがオススメしているだけあって、品揃えも品質も文句無しの良店だった。ただ…………
「あら〜ん、いらっしゃい? 可愛い子達ねぇん。来てくれて、お姉さん嬉しいぃわぁん。た〜ぷりサービスしちゃうわよん」
何というか色々と凄い化け物が奥から現れた。
身長二メートルはある体躯に、全身を筋肉という天然の鎧を纏い、劇画かと思うほど濃ゆい顔、禿頭の天辺にはチョコンと一房の長い髪が生えており三つ編みに結われて先端をピンクのリボンで纏めている。
動く度に全身の筋肉がピクピクと動きギシミシと音を立てながら、両手を頬の隣で組み、くねくねと動いている。服装は・・・いや、言うべきではないだろう。少なくとも、ゴン太の腕と足、そして腹筋が丸見えの服装とだけ言っておこう。例えるのなら、マッシブーンが露出度の高いフリフリドレスを着ているようなものだった。
誠司達は絶句する。そんな中、ユエが思わず呟いてしまった。
「……人間?」
次の瞬間、化け物が怒りの咆哮を上げた。
「だぁ〜れが、ルージュラの大群も速攻で逃げ出す、見ただけで正気度がマイナスまで突入するような化け物だゴラァァアア!!」
「ご、ごめんなさい……」
野太い声で怒鳴られたユエが涙目になりながら謝罪する。誠司もハジメも冷や汗をかきながら後ずさる。シアに至ってはへたり込んでしまった。下半身が少し冷たくなっている。
「分かってくれれば良いのよぉん。ごめんなさいねぇん、ちょっと大声出しちゃったわん」
ユエが咄嗟に謝罪したことで化け物は再び笑顔になって接客に勤しむ。その切り替えが逆に怖い。
誠司とハジメが化け物に服を買いに来た旨を伝えた。ユエとシアはブルブル震えて説明にならなかったからだ。化け物は納得すると、「ゆっくりしていってねん」と言って、そのまま奥に入って行った。
それから誠司達は店内を散策し、服を探した。最初はシアの見立てで服装を選ばせていたが、シアの見立ては最悪だった。「行軍でもするのか」と言いたくなる女子力無視の服装ばかり選ぶため、段々と面倒臭くなった誠司達は先程の化け物改めこの店の店長であるクリスタベルにシアの見立てをお願いした。
クリスタベルは快く了承すると、シアを米俵のように担ぐと店の奥に消えて行ってしまった。その時のシアの目は売られていく仔牛のような目だった。
結果的にクリスタベルの見立ては見事の一言だった。シアだけでなく、誠司やハジメやユエのスペアの服装も良いのを選んでくれた。
誠司達は代金を払うと、クリスタベルにお礼を言った。その頃には店長の笑顔も愛嬌があるように感じたのは彼女(?)の人徳だろう。その時、誠司の腰に下げていたモンスターボールが光り、中からクルミルが現れた。
「クルルゥ!」
「ちょっ!? お前、勝手に!」
誠司が慌ててクルミルをボールに戻そうとするが、クルミルはひょいひょいと身を躱す。クルミルは店内に展示されている服をキラキラした目で眺めていた。
「あらぁ? あらあらあらあらぁ……」
それを見たクリスタベルはブルブルと肩を震わせていた。顔は見えないが、どうやら怒っているようだ。いきなり店の中に魔獣が現れたのだ。誠司の手によって。怒るのも無理はない。誠司は急いで謝罪しようとした。
「クリスタベルさん、申し訳……」
「なんて……なんて……
なんて可愛らしいのかしらぁ!!」
「「「「…………え?」」」」
予想外の反応に誠司達は目を点にして呆けた声を上げた。クルミルはクリスタベルのインパクトのある顔にも全く動じていない。それどころか近付いて笑顔を浮かべている。そのクルミルの様子にクリスタベルは嬉しそうに頬を緩める。
「本当に可愛いわねぇん。ここまで人に懐いている魔獣って凄く珍しいわん。大事に育てているのねぇ」
「は、はぁ……」
誠司は困惑した声を出す。ハジメが尋ねた。
「あの……魔獣が怖くないんですか?」
「うーん……お姉さんはね、実は昔、冒険者をやっていたのよん。その時に魔獣に命を助けられたこともあったわん。だからあまり悪感情が無いのよぉ」
「そ、そうなんですか……」
世の中、色々な人がいるということか。クルミルが初対面でここまで懐いているのも何かそういうものを感じ取ったからなのかもしれない。誠司はクリスタベルにお願いした。
「それなら……あの……クリスタベルさん。もし良ければ、このクルミルを貰ってくれませんか?」
「あらん、それはまたどうして?」
「このクルミル、戦うことが苦手みたいで……それにあなたやこの店のことを結構気に入っているようですし……」
そう言ってクルミルに目を向けると、彼は店内の服を楽しそうに眺めている。どうやら服とかの類いが大好きなようだ。元々、葉っぱの服を着るポケモンなのでそういうのに興味があるのだろう。
そんなクルミルを見てクリスタベルも気に入ったのか二つ返事でOKしてくれた。クルミルは誠司を見て少し申し訳なさそうな表情を浮かべる。そんなクルミルの気持ちを察したのか誠司はしゃがんで優しくクルミルの頭を撫でる。
「大丈夫だよ、クルミル。お前がやりたいことや好きなことに正直に選んでくれれば良い。俺もクルミルの選択を尊重する。この人は会ったばかりだけど、お前のことを大切に育ててくれる。そう思える人だ。だから……お前はどうしたい?」
誠司の問いにクルミルは少し考える素振りを見せるが、やがて意を決したのかクリスタベルの元に近付いた。それを見た誠司は頷くと彼のモンスターボールをクリスタベルに渡した。モンスターボールの使い方を教えるとクリスタベルは驚きの表情を浮かべていた。
誠司達はクルミルに別れを告げつつ店を後にした。クリスタベルに抱き上げられたクルミルは丸い手を元気にブンブンと振っている。その後、クルミルはクリスタベルの最高のパートナーとして店を盛り立てていくことになるのだが、それはまた別の話である。
誠司は別に買いたいものがあるのでハジメ達と一旦別れることになった。昼頃に、ライセン大峡谷の方で待ち合わせをすると、誠司はハジメ達と反対方向へ歩き出した。
そして、誠司は町を散策しつつ道具屋に入った。前から趣味であるお菓子作り用の道具や材料が欲しいと思っていたからだ。トランクの中にはポケモンを育てるための道具は一式揃っている。ポケモンフーズを作るための道具もあるのだが、お菓子作り用の道具は無い。
ハジメに頼めば道具くらい、作って貰えそうなものだが、こういうのは店で直接買うのが面白い。そう誠司は考えていた。それに、女子三人の買い物に付き合わされたら精神的に疲れそうだった。
道具屋でお菓子作りに使えそうな道具を探していると、ふとあるポケモンの姿が頭に浮かんだ。
(そういえば……高二になってから見る夢で出てきたあのポケモン……この世界では全然見かけないな……居たら絶対に仲間にしたいんだが……)
実は、誠司にはこの世界に来てからずっと欲しいと思っているポケモンがいた。残念ながら、まだその子と出会えていないが……
使えそうな道具を購入して店を出ると、今度は材料を探しに向かった。その途中、路地裏から何か声のようなものが聞こえてきた。どこか弱っている感じの声だった。誠司は少し怪訝な顔を浮かべつつも路地裏に入って行った。
その頃、ハジメとユエとシアの三人は仲良く雑談に花を咲かせながら色々な店を回っていた。そしていつしか、話題はこの場にいない誠司のことになった。
「そういえば、誠司さんはどうしたんですかねぇ? 何か買いたい物があったみたいでしたけど」
「多分、お菓子作り用の道具とか材料とか買いに行ったんじゃないかな?」
「へ? お菓子作り……ですか?」
ハジメの口から出た意外な言葉にシアが思わず呆けた声を上げる。ユエも少し意外そうな表情だ。そんな二人にハジメは可笑しそうに言った。
「あはは……意外でしょ。誠司って意外と甘党でね。ああ見えて、お菓子作りが趣味なんだよ。前に何回か作ってくれたことがあったけど凄く美味しかったし」
「へぇ……意外」
「意外ですねぇ。見た目が少し怖い誠司さんにそんな可愛い趣味が…… あれ? でも道具くらいだったらハジメさんが作れば良いんじゃ……」
「うーん…… 作れなくはないだろうけど、僕はそういうの詳しくないし。それに……」
「それに?」
「こういうのって直接、お店で見たり買ったりしたいんじゃないかな? 誠司のことだから」
流石、付き合いが長いだけのことはあってか、ハジメは的確に誠司の気持ちを見抜いていた。シアもユエも感心したように頷いた。
「流石、ハジメさん。やっぱり好きな人のことだから何でも分かるんですね」
「うん。そうだ……って、え? え? 何!?」
ハジメはシアの何気ない言葉につい頷きそうになるが、思わず動揺して聞き返してしまう。顔も少し赤くなる。それを見てユエも追撃した。
「……バレバレ。友達なら分かって当然」
「そうですよ。結構分かりやすかったですよ」
「そ、そうだったの?」
「……大丈夫。私達、ハジメのこと応援してる」
「私もです。それに、これでも私は一族の恋のお手伝いもしてたんですよ! 大船に乗った気でいてください!」
「……シア、それフラグ」
「ユエ、シア……」
2人の友達の言葉にハジメは胸が熱くなるような感覚がした。
そこから3人はハジメが何で誠司のことを好きになったのかという話題に移った。ハジメは最初、照れくさくて話したがらなかったが、ユエとシアに押されてようやく口を開いた。その時、声を掛けられた。
「なぁ。あんたら、ハジメちゃんとユエちゃんとシアちゃんで合ってるよな?」
「え? 合ってるけど……」
「……何の用?」
いつの間にか、三人は数十人の男達に囲まれていた。大半が冒険者風の男だが、中にはどこかの店の店員らしき男もいる。
男達はお互いに頷くと、覚悟を決めた目でそれぞれを見つめる。そして、男達は前に進み出て、ハジメかユエかシアの前に出てこう言った。
『ハジメちゃん、俺と付き合って下さい!』
『ユエちゃん、俺と付き合って下さい!』
『シアちゃん、俺の奴隷になれ!』
まぁ、そういうことである。シアだけ口説き文句が違うのはシアが亜人族であり、奴隷だと思われているからだろう。
そんな集団告白を受けた三人の答えは……
「お断りします」
「……断る」
「ごめんなさい、無理です」
拒否だった。まぁ、当然と言えば当然である。ハジメには誠司という想い人がいるし、ユエやシアにはそういった相手はいないが、ほぼ初対面でしかも集団で告白してくるような女々しい連中に靡く理由は皆無だ。
まさに眼中にないという態度に男達は呻き、何人かはガックリと崩れ落ちて四つん這い状態になっていた。しかし、世の中、諦めの悪い奴はいるものである。ましてや、ユエやシアの美貌は他を隔絶するレベルだし、ハジメもユエから化粧を教わったり、身嗜みに気を使うようになったお陰で中々の美人になっている。そんな三人を相手に暴走するのは仕方ないと言えば仕方ないのかもしれない。
「なら……なら力づくでも俺のものにしてやるぅ!」
暴走男の雄叫びに他の連中の目も光を宿し、三人を取り囲んでジリジリと迫っていく。そして、最初に声を掛けて来た男がユエに飛び掛かろうとした。ユエは魔法を、ハジメはドンナーを構えようとしたその時ーーーー
男は突然倒れてしまった。いや、その男だけではない。ハジメ達を囲んでいた男達も一瞬、立ちくらみがしたかのように身体が揺れたと思ったら、バタリと一斉に卒倒してしまったのだ。全員、白目を剥いており、辛うじて息があった。かなり弱っているが、生きてはいるようだ。まるで覇○色の覇気を浴びたかのような光景だ。
当の本人達はキョトンとしていた。
「え? 何? 一体、どうしたんだろ?」
「ん……分からない」
「何が何だか分かりませんが、早く逃げた方が良さそうですね」
シアの言葉にハジメもユエも頷いて急いでこの場を離れた。その場に残された男達の山はこの後、救護施設に運ばれて数日は寝込むことになった。後に被害に遭った男達はこのように語っている。
「あの時、自分の命が燃やされたような感覚がした」……と。
クルミルが離脱しました。このように、ゲットしたポケモンを譲渡していく流れは今後もやっていこうと思っています。次回からライセン大迷宮攻略に入っていきます。
ちなみに誠司が欲しいと思っているポケモンはあのケーキポケモンです。出て来るのはもう少し後になります。
あと、ユエとシアは誠司に対して、仲間としての信頼やポケモントレーナーとして尊敬の念はありますが、恋愛感情はありません。ポケモンと一緒に過ごして孤独では無かったのと誠司の顔が火傷で包帯巻きなのが理由です。