「はぁはぁ……」
「結構手強かったね……」
「……しぶとい」
「もう甲冑なんて見たくないですよぉ……」
肩で息をする誠司達とポケモン達の前にはバラバラになった甲冑達と目を回しているヒトツキ達がいた。
鋼・ゴースト属性のヒトツキ達に思わぬ苦戦を強いられたのだ。誠司の持つポケモン達は格闘属性やノーマル属性と相性が不利な上に、相性が有利なポケモンもここでは特殊攻撃が使えない。おまけにヒトツキ達が繰り出す剣技や連携は王国の騎士以上に洗練されており、ラビフットの“ブレイズキック”やヌマクローが新たに覚えた技“じならし”が無ければ本当にどうなっていたことか……
落ち着いた誠司達は扉を開けて先を進んだ。またヒトツキ達が目を覚ましたら堪らないからだ。長い階段を抜けて次に誠司達が入った場所は摩訶不思議な空間が広がっていた。
直径2キロメートルはあるであろう球状の空間に様々な大きさ・形のブロックが不規則に移動しながら浮遊している。完全に重力を無視した感じだが、誠司達にはしっかりと重力を感じている。天井には無数の星が光っており、なかなか幻想的な空間である。
「ここがゴール……なのか?」
「どうだろ? ひとまずは、あの中央のブロックまで移動してみようよ。何か分かるかもしれない」
ハジメの言葉に従い、誠司達はあちこち浮かんでいるブロックを伝って部屋の中央にある非常に大きいブロックへ移動した。
ブロックの上には何も無かった。その時、何処からかギューンッとジェット機が飛んでいるかのような音がしたかと思うと、目の前に巨大なゴーレム騎士が現れた。全身甲冑なのは先程のヒトツキ達が操っていたものと同じだが、大きさは桁違いだ。
「嘘だろ……」
「うわぁ……」
「……すごく……大きい」
「お、親玉って感じですね」
それぞれ異なる感想を呟く誠司達。ユエの発言が若干危うい気がするが、ギリギリ許容範囲だろう。
巨大ゴーレムと誠司達は少しの間、睨み合う。時間はほんの五秒程度だったが、誠司達には永遠の時間のように感じられた。少しでも動けば即座に殺し合いが始まる。
そんな予感をさせるほどに張り詰めた空気を破ったのは……
「ん〜、絶好調!」
某緑色の怪人映画を連想させる、巨大ゴーレムの発言だった。ゴーレムなのに渾身のドヤ顔を幻視してしまう。
「「「「…………」」」」
「やっほ〜。はじめまして〜。皆のアイドル、ミレディ・ライセンちゃんだよぉ〜」
思わずポカンと口を開ける誠司達に巨大ゴーレム、もといミレディ・ライセンが陽気に挨拶する。だが、それでも硬直したままの四人にミレディは不機嫌そうな声を出した。声質は間違いなく女性のものだ。
「あのねぇ〜。 挨拶したんだから何か返そうよ。最低限の礼儀だよ。全く、これだから最近の若者は……もっと常識的になりたまえよ」
実にイラッとする話し方で、しかも肩を竦める仕草までしてきた。まるで「やれやれだぜ」と言いたげだ。それを見て普通にイラッとする誠司達。道中、散々見てきたウザさ満点の文を彷彿させる。ハジメ達は頭痛を堪えるように額を抑えた。気持ちは分かる。取り敢えず、代表して誠司が答えた。
「ああ。挨拶を返さなくてすまなかったな。なにぶん、既に死んでいるはずの人間がゴーレムになっている状況に驚いたものでね。それで……あんたは結局何者なんだ?」
「ん〜? ミレディさんは初めからゴーレムさんですよぉ〜。 何を以て人間だなんて……」
「惚けなくて結構だ。オスカー・オルクスの手記にもミレディ・ライセンは人間として書かれていたぞ。一体どういうことだ?」
「ん? オスカー? もしかして君達はオーちゃんの迷宮の攻略者なの?」
「ああ、オーちゃんことオスカーの大迷宮なら攻略したよ。オルクス大迷宮とここは近いからな。そして、あんたが本当にミレディ・ライセンなら……このトランクとコイ「コンッ!」……このキュウコンに見覚えがあるんじゃないのか?」
誠司の言葉を待たずにモンスターボールからキュウコンが飛び出した。ミレディはいきなりポケモンが現れたことに驚愕するが、キュウコンを見ると驚愕と歓喜が織り交ぜになった声を上げた。
「そんな、まさか……キュウコン!? 久しぶり! また……また会えるなんて……!」
「コーンッ」
「それに……おおっ! しかもそのトランクは! 間違いなくオーちゃんのだねぇ。私達の神代魔法を総動員して作り上げた最高傑作だ!」
ミレディは歓喜の声を上げている。先程から若干声に嬉しさが含んでいたのは見抜いていたが、もうその嬉しさを隠そうともしない。キュウコンもどこか嬉しそうだ。その様子を見て、誠司はなるほどと呟いた。チラリと後ろを振り返るとハジメ達も確信したようだ。
「……なるほど。どうやら、あんたは本当にミレディ・ライセンのようだな。キュウコンがあんなにこの大迷宮攻略に参加したがっていた理由がやっと分かったよ」
キュウコンは知っていたのだ。この大迷宮にミレディ・ライセン本人がいることを。誠司の言葉にミレディは得意そうに笑った。
「ふふんっ。やっと分かってくれたかぁ。では改めて……私はミレディ・ライセン! ゴーレムの不思議は神代魔法で全て解決! 詳しく知りたければ、見事私達を倒してみよ! って感じかな」
「ええっ? あのヒトツキ達が試練じゃないんですか?」
シアが思わず声を上げた。ただでさえ、ヒトツキ達も手強かったのにその上、また戦わされるなんて……と言いたげだ。そんなシアにミレディは可笑そうに笑いながら言った。
「あっはっは! そんな訳ないでしょ、ウサギちゃん。あのヒトツキ達はいわば前座! 本番は私達だよぉ。さぁ、私達に打ち勝ってみなさい!」
「そんなぁ……」
「結局、ゴーレムなのは謎のままなんだね……」
シアはがっかりしたような声を上げ、うんざりしたようにハジメが呟いた。その時、ハジメはあることに気が付いた。それは誠司達も同じだった。
「あれ? ちょっと待って。
「そだよー。オーちゃんやあなた達と同様に私にもいるんだよぉ。頼りになる最高の相棒達が!」
ミレディの言葉に合わせて二体のポケモン達が姿を現した。太陽と月の形をした岩石のようなポケモンだった。
「私の相棒、ソルロックとルナトーンだよ!」
「ソルルゥ!」「ルナァァン!」
誠司達はモンスターボールを構える。その時、ミレディが思い出したようにニヤついた声音で話し掛けてきた。
「ああ、そうだぁ。大事なことを忘れる所だったよぉ。ーーーーこっちからも質問しても良いかな?」
最後の言葉だけ、いきなり声音が変わった。今までの軽薄な雰囲気が鳴りを潜める。その雰囲気の変化に一瞬、誠司達は驚いた。ミレディは構わず問い掛ける。
「あなた達の目的は何? 何のために神代魔法を求めるの?」
嘘偽りは許さないという意思が込められた声音で問うミレディ。傍らのソルロックやルナトーンも同様だ。もしかすると、こちらが素なのかもしれない。
よく考えてみれば、何百年、何千年もこの大迷宮にいるなんて常人なら耐えられない。いくら相棒のポケモンがいたとしても。本当の彼女は凄まじい忍耐や意志、責任感を持った人物なのかもしれない。四人の中で特にユエはミレディに共感以上の感情を感じたのか、先程までとは違う眼差しを向けている。誠司もミレディ・ゴーレムの眼光を真っ直ぐに見返しながら、自分の考えを正直に答えた。
「俺やハジメは解放者の言うイカれた神もどきによって無理やりこの世界に連れて来られたんだ。だから故郷に帰りたいのが目的の一つだ。エヒトが操っているとかいう、パルキアは空間を支配する力を持っているというのを知った。だから、エヒトからパルキアを解放すれば、その力で元の世界に帰れるかもしれないと思ったんだ。オスカーの話が本当ならな」
「……」
「それに……俺達はオスカーの隠れ家で封印されていたキュウコンを解放した時、見たんだよ。
「……つまり、そこのキュウコンのためでもあるってこと? ただの魔獣のために?」
「魔獣じゃない。俺達はコイツらを『ポケットモンスター』、縮めて『ポケモン』って呼んでる。俺達はポケモンが大好きなんだ。理由はそれで十分だ。最初に言った通り、俺達にもメリットはあるしな」
「…………そっか」
ミレディは一言そう言うと、何かに納得したように呟いた。傍らに浮かぶソルロックとルナトーンも特に表情に変化は無いが、どこか嬉しそうに見える。
「ん〜、そっかそっか。ポケモンかぁ〜。いいね、それ。魔獣なんかよりずっと親しみが沸くよ。よし! ならば戦争だ! 見事、私達に打ち勝ってみよ!」
「結局、戦うことになるのか……」
「さぁ、君達は真打ち、ミレディ・ライセンと相棒のポケモン達に勝てるかな!?」
誠司達はモンスターボールからポケモンを出した。
こうして解放者ミレディ・ライセンと誠司達の戦いが幕を開ける。
ミレディみたいなキャラは色々なネタの台詞が言えるのでやりやすいです。