誠司達に残った手持ちのポケモンも残り少ない。誠司はヌマクローとキュウコン、ハジメはダンバル、ユエはシャンデラ、シアはホルビーしか残っていない。しかも、どの子もダメージを受けている。
ここは長期戦になれば不利だ。一気に片をつけるしかない。各々、ポケモン達に指示を出す。
「ヌマクロー、“いわくだき”! キュウコンは“ニトロチャージ”!」
「ダンバル、“とっしん”!」
「……シャンデラ、“はいよるいちげき”!」
「ホルビー、“おうふくビンタ”ですぅ!」
ポケモン達の攻撃にソルロックとルナトーンがミレディの前に立ち塞がる。ミレディも相棒達に指示を出す。
「ルナトーンは“まもる”!」
ルナトーンがバリアのようなものを展開して、ヌマクロー達の攻撃を完璧に防ぎ切る。そして、攻撃を防がれて一瞬、無防備状態になったヌマクロー達をミレディは逃しはしない。
「ソルロック、“ジャイロボール”!」
「ソルソルゥ!」
ソルロックは自分の体を高速回転させて不規則な動きでヌマクロー達に接近して、彼らを巻き込み、吹き飛ばしていく。
誠司達はポケモン達の元に駆け寄る。だが、もう既に全員、満身創痍の状態だ。ミレディが得意そうに高笑いする。
「ふはははは! ガッツは素晴らしいけどね、それだけじゃあ、大迷宮攻略は出来ないよ! さぁ、ソルロック、ルナトーン! とっておきの大技行くよ!」
「ソルゥ!」
「ルナァ!」
ソルロックとルナトーンは頷くと、途端にこの場の空気が変わる。
ルナトーンが何か力を溜め始める。そして、隣のソルロックがルナトーンにパワーを分け与えているようだ。その様子を見て誠司とハジメは顔を顰める。ソルロックの使う技に見覚えがあったからだ。
「嘘でしょ……?」
「くそっ! “てだすけ”で威力を上げての大技かよ。マジで俺達を殺す気か、ミレディの奴……」
誠司達は急いでこの場を離れようとするが、誠司達の方も身体が限界だった。そして、技の準備が整ったのか、ミレディが淡々とした様子で言った。
「それじゃあ行くよ。私の相棒達の必殺技、“メテオビーム”発射!!」
「ルナアアァァァッ!!」
ルナトーンが金色の光線を発射する。
その時、ハジメが抱えていたダンバルがハジメの元を離れて突進したのだ。ハジメは慌ててダンバルを止めようとする。
「なっ!? 待って、ダンバル! 早まっちゃ駄目!!」
だが、ダンバルは止まらない。メテオビームはダンバルに命中し、突進するダンバルを跳ね返そうとする。
このままでは危険だ。
ハジメだけでなく、誠司達も必死で戻るように言うが、ダンバルは止まらなかった。
ダンバルは悔しかった。自分が“とっしん”しか使えないことに。グレッグルやラビフットは活躍しているのに、自分は肝心の所では役に立たない。それが堪らなく悔しかったのだ。それに、先程からずっと何か体の奥底から力が湧き上がって来るような、新しい
そして、その何かは唐突に訪れた。メテオビームを食らっているダンバルの体が光り輝き始めたのだ。これには誠司達だけでなく、ミレディ達の方も驚いた。
そして、その光はルナトーン達の最大出力の“メテオビーム”を弾き飛ばす。光が収まって、そこにいたのは円盤のような体にダンバルのような腕を二本持ったポケモンだった。
「嘘……進化した……」
「凄え…… あれは……メタングだな」
「ん……なんかカッコいい」
「こんな時に進化してくれるなんて……」
ミレディも呆気に取られてはいたが、すぐに気を取り直す。
「ふふん、進化したのは良いけど、私の相棒達はそう簡単には倒せないよ!」
ソルロックとルナトーンがメタングの前に立ちはだかる。その時、誠司は魔獣図鑑でメタングを確認すると、ニヤリと笑った。ハジメに耳打ちする。
「ハジメ、メタングにこの技を指示するんだ」
誠司に耳打ちされたハジメもニヤリと笑みを浮かべて、「了解」と頷く。
「よーし、メタング! 強くなった君の力を見せてやるんだ! “メタルクロー”!!」
「メッタ!!」
メタングは一瞬でソルロックとルナトーンに近付くと、渾身の“メタルクロー”をお見舞いする。ソルロックとルナトーンはダメージに怯むが、メタングは逃がさない。二本の腕で二体をガシッと捕まえると、勢いよくミレディの方にぶん投げた。
「えっ? ちょっとまっ……ぐぅっ!」
自分の身体にソルロックとルナトーンがぶつかり、思わずよろめくミレディ。だが、それだけでは終わらせない。
「メタング! もう一つ新技いくよ! “コメットパンチ”!」
「メタン!!」
メタングは自分の腕を前に出すと、凄いスピードでパンチをお見舞いする。その時、ソルロックとルナトーンの体が光った。それを見てミレディは慌てる。
「ああっ! しまった! ちょっと待って! 今それをやったら……」
ドガーーンッ!!
「あああああああぁぁぁぁぁ!!!」
大きな爆発が起こった。何が起こったのか分からずに呆然とする誠司達。煙が晴れると、そこにはボロボロになったミレディ・ゴーレムの姿があった。手には気絶したソルロックとルナトーンがいる。
「いやぁ……忘れてたよぉ。ソルロックとルナトーンには少し変わった癖があってね。気絶すると”だいばくはつ“を起こしちゃうんだよぉ。気絶するなんてことが何千年もなかったからすっかり忘れてた」
「……それで俺達は合格ってことで良いのか?」
「うんうん! 文句無しの合格だよ! あなた達の勝ち! まさかソルロックとルナトーンを戦闘不能にして私の身体もこんなにボロボロにするなんてねぇ〜。驚き桃の木、山椒の木だよぉ〜」
「……何でそのネタ知ってるの?」
ハジメが思わずツッコむ。
その後、誠司達はミレディの案内で彼女の隠れ家まで移動することになった。キュウコン以外のポケモン達をモンスターボールにしまう。キュウコンはまだボールの外にいたいようだった。まぁ、かつての仲間が近くにいるのでその気持ちは分かるし、無理にボールに入れる必要は無かった。
そこに、誠司達の元に大きな浮遊ブロックが現れた。それに足を踏み入れると、自動でスィーーッと動き出す。
「わわっ、勝手に動き出しますよ、これ。便利ですねぇ」
「ふふん、でしょでしょ? 私なりのサービスだよん」
シアが驚きと感嘆の声を漏らすと、ミレディはそれに嬉しそうに答える。
それからしばらくして誠司達は浮遊ブロックによってミレディ・ライセンの隠れ家に到着した。ミレディは先にどこかへ消えてしまった。奥に入っててと言われたので言われるがままに先を進むとーーーー
「やっほ〜、さっきぶり〜。ミレディちゃんだよぉ〜」
ミレディ(小)が現れた。
ちっこいミレディ・ゴーレムは先程までの巨体と異なり、人間らしいデザインだ。華奢なボディに乳白色の長いローブを見に纏い、白い仮面を着けている。ニコちゃんマークだが、表情は自在に変えられるらしく、可愛らしくウインクをかましている。そして、いつの間にか元気になっているソルロックとルナトーンが元気にフヨフヨとミレディの側を浮かんでいる。
ソルロックとルナトーンだけでなく、奥からガシャガシャと三人の甲冑騎士達、もといヒトツキ、ニダンギル、ギルガルドもやって来た。思わず身構える誠司達だが、ミレディが慌てて止める。
「待った待った! 敵じゃないって! 幕が下りれば、次はカーテンコールだよ! 舞台とか見たことないのかい?」
そう言いながら、やれやれと大袈裟に溜息を吐くミレディにイラッと来る誠司達。だが、何とか心を落ち着かせる。
ミレディ達に案内されて、誠司達は部屋にある赤い大きな魔法陣の上に立つ。すると、頭に何かが書き込まれるような感覚が走る。誠司とハジメとユエは既に経験済みなため、無反応だが、シアは初体験なため、ビクンッと身体を跳ね、頭を抑える。
ものの数秒で刻み込みは終了し、魔法陣の光は消えた。ミレディは誠司達に近付いて、ある物をそれぞれ手渡していく。青いメダルのようなもので、ベテランシンボルと色違いだ。
「さてと……君達にはこれも渡しておかないとね。この大迷宮を攻略した証、マネージシンボルだよ! 大事にしてちょ!」
ミレディから渡された攻略の証、マネージシンボルは上下の楕円を一本の杭が貫いているようなデザインとなっている。誠司達はマネージシンボルを受け取ると、すぐに上着や白衣の裏に着ける。一方でシアは初めての攻略の証に感慨深そうに手の中で弄っている。段々と嬉しそうな笑みが溢れていく。
そんなシアを見る誠司達の眼差しはどこか優しい。道中、幾度もシアの身体強化には助けられた。最初は覚悟の足りない残念ウサギとも思っていたが、シアの成長には驚かされるばかりだ。
そして、誠司にとって、成長に驚かされたのはハジメも同じだった。最初はポケモンのことは何も分かっていない感じだったが、いつの間にか自分のポケモン達とあそこまで強い絆を結ぶに至っている。最後のミレディ戦では彼女のポケモン達がいなければここには立てていなかったかもしれない。
だからこそ、誠司は自然とハジメにも優しい眼差しを向ける。それに気付いたハジメは怪訝そうな顔で尋ねる。
「ん? どうしたの、誠司?」
「いや……何でもない」
ユエとシア、そしてミレディはどこか面白そうな様子でそれを見ている。
やがて、誠司達は今回の大迷宮攻略で得た神代魔法の話に移った。
「そういえば、ここの神代魔法って重力操作の魔法なんだね」
「ん……あそこの部屋が大量のブロックが浮いていたのもそのせい」
「そうだよ〜ん。ミレディちゃんの魔法は
「うるさいなぁ。正直、そんな気はしてたからそこまで驚きは無いけど」
「まぁ、俺も魔力とかはあんまりだしな」
ハジメと誠司は特に気にしていなかったが、シアは打ちひしがれていた。折角苦労して神代魔法を手に入れたというのに、適性無しと断じられたのだ。無理もない。それを見てミレディが慌ててフォローする。
「ああ、いや……でもまぁ、体重の増減くらいは出来るから! 戦闘では使えると思うよ! ……多分」
ミレディはそうフォローするが、それでもデメリット感が凄まじい。体重を変えたりすれば、油断すると体型がやばいことになりそうである。ますます意気消沈するシア。
そんなシアを尻目にユエは何やら無言で自分の胸に魔法を当てていた。それを見てミレディは呆れた様子で声を掛ける。
「あの〜、金髪ちゃん? 重力魔法を使っても胸は大きくならないよ?」
「…………」
「いや、やめてよ。そんな目で見るの。大体、重力魔法で胸が大きくなるんだったら私だって……」
その後、ユエがミレディの胸を引きちぎりそうになるのをシアが必死で抑えるも、今度はシアの胸が標的になるという事件が起こりかけたが、蛇足なのでそこは割愛する。
そんなこんなで、何とか神代魔法とマネージシンボルが手に入った誠司達にミレディは最後にあることを尋ねた。いつものふざけた雰囲気がまるで無い。
「ねぇ、包帯君。君達はポケモンと共に歩むそうだけど、きっと苦難に満ちた、苦しい道のりになると思うよ。それでも君はポケモン達と進むのかな?」
ミレディはジッと誠司の目を見て尋ねた。いつの間にかミレディのポケモン達も同じようにジッと見ている。最後の確認のようだ。だが、当の本人は平然としている。誠司は呆れたように溜息を吐く。
「あんた、馬鹿か?」
「なっ! 馬鹿だって!?」
「元々地上に道なんか無いんだよ。歩く人間が多ければ多いほど、それが道になる。つまり、あんたらの時と俺達の時じゃ、歩きやすさは全然違うんだよ」
「歩き……やすさ……?」
「確かにあんたらの時は辛く険しい道だったかもしれないが、俺達が進む時は安全で楽ちんな道になってるってことだ。
「ふ〜ん……そっか。そっかぁ……」
ミレディはそう呟くと、どこか嬉しそうに顔を歪ませる。ソルロック達も嬉しそうだ。
「嬉しいこと言ってくれるねぇ。もしも私がゴーレムじゃなかったら惚れてたかもね」
ミレディのその言葉にハジメはピクリと眉を動かす。だが、当の誠司は少し嫌そうな表情だ。
「数千年も生きているお婆ちゃんに惚れられてもな……」
「ムカッ! なんて失礼な! これでもゴーレムになる前は、誰もが見惚れる金髪碧眼の超絶美少女だったんだからね!」
「へ〜、そうなんだ……ってあれ? 金髪碧眼……だと?」
そう言いながら、何かに気が付いた誠司。ハジメも何かを思い出したように宝物庫からある物を取り出した。
古ぼけた一冊の手記をパラパラとめくり、一枚の写真を取り出した。誠司もその写真を見て頷く。近くにいるユエも同様だ。
「なぁ、金髪碧眼ってまさかこれ……」
「うん……多分そういうことなんじゃないかな?」
「……ん、間違いないと思う」
誠司とハジメとユエがコソコソと話をしていると、ミレディが首を傾げる。
「あれあれ〜? どうしたの? 三人とも?」
「いや……実はオスカーの手記にこんな写真が挟まってたんだが、もしかしてこれがミレディか?」
「ええ? オーちゃんったら、もしかして私の写真を肌身離さず持っていてくれたの? んもう! オーちゃんったら! いくらミレディちゃんが美少女だからって、そんな……」
それを聞いたミレディはどこか嬉しそうに写真を受け取り、写真を覗き込むと、ビシッと固まった。写真を持っている手がプルプルと震えている。
気になったソルロックやルナトーン、ヒトツキ達、そして、シアとキュウコンも写真を覗き込んだ。そこに映っていた写真は…………
恥ずかしそうな表情でメイド服を着ている若きミレディの隠し撮り写真だった。
写真を見たシアやヒトツキ達は思わず笑いを堪える。ソルロックとルナトーンとキュウコンは当時のことを知っているため、思わず呆れた表情を浮かべる。特にキュウコンは今は亡き相棒に向けて、呆れを多分に含んだ遠い目を向けていた。そして、ミレディは変わらず石のように固まっている。
「ぷふっ! ミレディさんにも可愛い時代があったんですね……」
シアのその言葉でミレディの羞恥心はピークに達したらしい。突如、ミレディは奇声を上げて写真をビリビリに破き始めた。
「ムキャアアアァァァ!! オーちゃんめぇぇ! なんてものを後世に残してくれてんだあぁぁぁ!!」
ミレディの絶叫が隠れ家中に響き渡った。
ミレディの黒歴史の写真は零のコミカライズ版の22話でのやつです。
また、攻略の証はそれぞれ色や刻まれた模様が異なります。
以下はミレディの相棒ポケモンについて簡単な解説です。
ソルロック
やんちゃな性格。攻撃も補助もこなせる万能型の実力者。ミレディの幼少期、ある人物の相棒だったポケモンで、彼女の死後にミレディの相棒となった。
ルナトーン
おっとりな性格。実はミレディの最初の相棒。ある人物からプレゼントされた。特殊攻撃が得意。補助もこなせるが、ソルロックよりは上手くない。