さらば、ブルックの町
大迷宮を無事に攻略した誠司達がブルックに戻ってから既に1週間が経過した。その間、誠司達は次の旅の準備を整えると同時に冒険者の仕事もこなしていた。
まだ青ランクの誠司達は薬草採取など簡単な依頼しか受けることが出来ない。それでも多少の金にはなるし、採取の途中で野生のポケモン達が襲って来ることがあるため、手持ちのポケモン達の良い訓練にもなる。なので積極的に依頼を受けていた。まぁ、折角冒険者になったのだから、冒険者らしいことをしてみたいという気持ちもなきにしもあらずだが。
今回も薬草採取を終えて帰る途中、野生のヤルキモノの群れが襲い掛かって来た。ヤルキモノは常に忙しなく動き回る非常に好戦的なポケモンだ。訓練の相手にはもってこいである。
誠司達は早速ポケモン達をモンスターボールから出す。誠司はケンタロス、ハジメはライセン大迷宮攻略後に仲間になったブイゼル、ユエはモクロー、シアはホルビーだ。
「ブイゼル、“アクアジェット”!」
「ブイブイッ!」
ハジメがブイゼルに指示を出すと、ブイゼルは体に水の柱を纏わせて一気に突っ込んで行く。数体のヤルキモノは躱しきれずに直撃してしまう。そこをユエとシア達が迎撃する。
「モクロー、“このは”」
「ホルビー、“マッドショット”です!」
モクローの“このは”とホルビーの“マッドショット”が炸裂し、ブイゼルの“アクアジェット”を受けていた数体のヤルキモノ達は堪らず目を回して倒れてしまう。それを見た残りのヤルキモノ達はより一層激しく怒り、攻撃を同時に仕掛けて来た。だが、冷静さを欠いた攻撃では誠司達には通じない。誠司はケンタロスに新しく覚えさせた技の指示を出す。
「ケンタロス、“ギガインパクト”」
「ブモオォォォ!!」
ケンタロスはオーラのようなものを纏い、突進する。その技をヤルキモノ達にぶつけた瞬間、大きな爆発が起こった。
ギガインパクトはノーマル属性の技の中では特に強力な技の一つだ。これをまともに受けて耐えられるポケモンはそうそういない。
やがて煙が晴れると、そこには無傷で立っているケンタロスと目を回して倒れているヤルキモノ達がいた。勝負ありだ。
「ブモオォォォ!!」
ケンタロスが勝利の雄叫びを上げた。バトルを終え、誠司達はポケモン達を労う。
「ご苦労だったな、ケンタロス」
「モォォ」
ケンタロスは嬉しそうに声を出す。誠司はケンタロスをボールに戻すと、ハジメに話し掛けた。
「ハジメもブイゼルと相性はバッチリみたいだな」
「うん、僕もブイゼルのことが段々分かってきたと思うよ」
「ブイブイッ!」
ハジメはブイゼルとハイタッチを交わす。依頼の途中のバトルではハジメは極力ブイゼルかグレッグルを使うようにしている。ハジメ曰く、この二体と早く息を合わせられるようにしたいからとのことだ。その成果はちゃんと出ているようで今では二体ともハジメとしっかりと心を合わせてバトルが出来ている。
ブルックに戻り、ギルドに入ると誠司達は真っ直ぐ受付のカウンターに向かった。ユエとシアは先にマサカの宿に帰っている。彼女達はステータスプレートを持っていないのでわざわざ依頼報告する必要もないからだ。カウンターにはいつも通り、オバチャ………キャサリンがいた。
「やぁ、戻ったね。それじゃ依頼のものを見せてくれるかい?」
「はい、これです」
キャサリンの言葉に従い、ハジメはポーチから依頼の薬草を取り出すとカウンターに置く。それから誠司とハジメは自分のステータスプレートもキャサリンに渡す。ステータスプレートを受け取ったキャサリンはカウンターに置かれた薬草を見て頷いた。
「………うん、依頼通りだね。薬草の状態も良い。よし、依頼完了だ。お疲れさん。これが報酬だよ」
そう言うと、キャサリンは数枚の硬貨を置く。青冒険者の依頼なので報酬は安い。だが、お金はあるに越したことはないので有り難く貰う。
キャサリンは誠司達のステータスプレートを見ると、ニンマリと笑った。「何だ?」と首を傾げる誠司達。
「おめでとう、二人とも。今回の依頼で君達の冒険者ランクは赤に昇格したよ。一週間、地道に依頼を重ねた甲斐があったね」
キャサリンはそう言って二人のステータスプレートを返却する。ステータスプレートの冒険者ランクの欄は青から赤に変わっていた。
赤ランクもまだ駆け出しの域ではあるが、昇格は嬉しいものである。誠司達はキャサリンに軽くお礼を言ってステータスプレートと報酬を受け取るとギルドを出た。昇格の話がされてから、心なしかギルド内がいつもよりざわついていた気がするが、スルーした。
「いやぁ〜、昇格かぁ。冒険者の中ではまだまだ下の方だが、やっぱり嬉しいものだな」
「そうだね。………って誠司、僕達は冒険者としてやっていくことが目的じゃないんだよ。そこら辺、忘れてないよね?」
「分かってるって。
「うん。少し手こずったけどやっと完成したよ。早く使ってみたいね」
「へぇ。そいつは楽しみ……」
そんな会話をしていると、屈強な冒険者風の男が誠司達の前に立ちはだかった。
「おい、お前! 俺とけ……「クレッフィ、“でんじは”」……ぐはぁ! し、しびれびれ………」
男は「決闘しろ」の“け”の部分から先を言うことが出来なかった。いつの間にか誠司が繰り出したクレッフィによって麻痺状態にされ、地面に崩れ落ちたからだ。その間、誠司達は歩みを止めることなく男の側を通り過ぎる。クレッフィをボールに戻しつつ、誠司はうんざりした様子で呟いた。
「………なんか、最近こういう輩が増えたな」
「うん、ユエやシアと付き合いたいから外堀を埋めるために誠司に挑んでるみたい。まぁ、『このハーレム野郎!』って僻みもあるんだろうけどさ」
「ハーレムって……俺はごめんだな、そういうの」
誠司の言葉にハジメは意外そうに目を丸くする。
「ええ? 男ならそういうの、憧れるもんじゃないの?」
「碌なことにならないのは歴史が証明してるからな。それに俺は伊◯誠になりたくないし」
女に滅多刺しにされて悲しみの向こうへ行くのはごめんだ。誠司がそう言うと、ハジメは苦笑した。
それから誠司とハジメはたわいのない会話をしながら、ユエとシアのいるマサカの宿へと向かった。ライセン大迷宮攻略後の騒動で最初は少しギクシャクしていた二人だったが、今では以前のようにお互い気安く話せるくらいに回復している。
マサカの宿に入ると、ユエとシアは先に食事を取っていた。シアが誠司達に気が付くと手を振って呼び掛ける。
「あっ! 誠司さ〜ん、ハジメさ〜ん、こっちですよ〜」
「ああ、ただいま……って、おいおい、俺達がギルドに行ってる間にもう飯を食ってるのかよ?」
誠司が少し呆れた様子で言うと、ハジメがまぁまぁと宥める。
「まぁ、良いじゃん。僕達もお腹が空いたし。ソーナちゃん、日替わりランチセットをお願い」
「はい! かしこまりました! 誠司さんも日替わりですか?」
「ああ。頼むよ。俺もお腹ペコペコだ」
「かしこまりました! 少々お待ちください!」
そう言ってソーナはパタパタと忙しそうに厨房へ走って行った。
食事を済ませ、部屋に戻った誠司達は今後の予定を話し合った。ある程度ポケモン達の修行は出来たし、ハジメも新しいアーティファクトを完成させたりと準備も大分整ったのでもうブルックを出ても良いだろう。
早速、誠司達は再びギルドに行くことにした。ギルドに入ってカウンターに向かうと、キャサリンは意外そうに言った。
「おや、またあんた達かい。どうしたんだい? 四人一緒で」
「ああ、さっき仲間と話し合ったところ、そろそろ良い機会なので明日には町を出ようと思いましてね。色々とお世話になったので一応挨拶をしておこうかと」
「そうかい。行っちまうのかい。そりゃあ、寂しくなるねぇ。あんた達が来てから賑やかで良かったんだけどねぇ〜」
「賑やか過ぎですよ。踏んでくれ付き合ってくれとハァハァ言いながら付き纏うストーカーが居なかったらもっと良い町なんですけどねぇ」
誠司が苦々しい表情で愚痴を溢すように言った。ハジメ達も思い出したようにゲンナリした表情を浮かべる。そんな誠司達を見てキャサリンは苦笑いだ。
「町のもんが迷惑かけてごめんねぇ。でもまぁ、何だかんだで活気があるのは事実さね。町の九割がこうだと色々退屈しなくて良いんだけど」
「はぁ……嫌な活気だ」
「それで、次はどこに行くんだい?」
「そうだなぁ……この町からならフューレンに行こうかと。あそこは大陸一の商業都市らしいし」
「へぇ、そうかい。……あ、そうだ。それだったらこの依頼もついでに受けてみたらどうだい?」
キャサリンは何か思い出したように一枚の依頼書を取り出すと、誠司達に差し出した。依頼書を覗き込んで内容を確認する誠司達。内容はフューレンに向かう隊商の護衛のようで十五人程の護衛が必要らしい。ユエとシアは冒険者登録をしていないので、誠司とハジメの分でちょうどだ。ハジメが少し不安そうに尋ねた。
「えっと……連れの同伴は有りなんですか?」
「ああ、問題ないよ。大人数なら兎も角、荷物持ちやら奴隷を連れている冒険者も中にはいるくらいだしね。ましてやユエちゃんもシアちゃんも冒険者の仕事に付いていけるくらいの実力者のようだし。相手も断る道理はないさね」
「なるほど……」
キャサリンの言葉を聞いてハジメは少し考え込む仕草を取る。誠司達は声を掛ける。
「なぁ、ハジメ。俺は受けても良いと思うぞ」
「ん、急ぐ旅でもない」
「そうですねぇ〜。たまには他の冒険者方と一緒も良いかもしれません。ベテラン冒険者のノウハウとか聞けるかもしれませんし」
ハジメは三人の意見を聞くと頷いた。
「それじゃお願いします」
「あいよ。それじゃ先方には話を通しておくから明日の朝一に正門前まで行っとくれ」
「了解です」
ハジメは依頼書を受け取ると、キャサリンは1通の手紙を誠司に渡した。疑問顔でそれを受け取る誠司。
「これは?」
「あんた達、色々と厄介なもの抱えていそうだからね。町の連中が迷惑かけた詫びのようなもんだと思って受け取っておくれ。他の町でギルドと揉めた時はその手紙をお偉いさんに見せな。少しは役に立つかもしれないからね」
バッチリとウインクするキャサリンに困惑する誠司達。
「は、はぁ……? あなたって一体何者なんだ……?」
「おっと、詮索はなしだよ? 良い女に秘密はつきものさね」
「凄い気になりますけど……分かりましたよ。有り難く受け取ります」
「はっはっは、素直でよろしい! 色々あるだろうけど死なない程度に頑張りな!」
キャサリンからそんなエールを貰った誠司達はギルドを出た。
ポケモンの訓練がてら、毎日のように依頼を受けていたので誠司達のランクは青から赤になりました。