サトシの引退フラグが凄い。
このまま引退の方が綺麗だけど、寂しいなぁ……
オスカーのトランクの中は様々な環境の空間が広がっている。その種類は草原や水辺、森、火山地帯、氷雪地帯など多岐に渡る。その中の一つ、岩山地帯にはあるポケモンが住んでいた。
「リキッ、リキッ!」
ワンリキーだ。彼は目の前の大岩を相手に打ち込みの練習をしている。しかし最近、彼は悩んでいた。このモヤモヤを紛らわせるために一心不乱に鍛錬をしているのだが、中々上手くいかない。
ワンリキーが悩むようになったのは以前のライセン大迷宮でのバトルが原因だ。彼は生まれ故郷のライセン大峡谷ではそれなりに強いと自負していた。大迷宮でも勝てると思っていたが、現実は残酷だった。ミレディのソルロックに手も足も出ずに呆気なくやられてしまった。
今後も自分は戦えるのだろうか。そんな思いがワンリキーの心を蝕んでいた。もう何十発殴ったか分からず、一息吐く。その時、後ろから声が聞こえた。
「ここにいたのか」
ワンリキーは声がした方を振り返ると、そこには誠司が立っていた。
「探したよ。随分と熱心だな」
誠司が周囲を指で示す。周囲にはワンリキーの拳の跡がこれでもかと付いていた。誠司はモンスターボールをワンリキーに向けた。
「これから隊商の護衛任務でな。お前の力を借りたいんだ」
誠司の言葉にワンリキーは頷くと、モンスターボールの光を浴びてボールの中に入っていった。
「よし。これで全員だな」
誠司は頷くと、そのまま真っ直ぐトランクの出口へ向かった。腰のベルトには六つのモンスターボールが着いている。
「君達も護衛だね?」
「ええ、これが依頼書です」
翌朝、正門前にやって来た誠司達は隊商のまとめ役らしき人物に挨拶をし、依頼書を見せた。まとめ役の男は納得したように頷くと自己紹介を始めた。
「私の名はモットー・ユンケル。この隊商のリーダーをしている。君達のことはキャサリンさんから聞いているよ。まだ赤に上がったばかりの駆け出しだが、優秀で期待の新人だとね。道中の護衛は期待させてもらうよ」
「ははは……これはプレッシャーだな。でもまぁ、報酬を貰う以上は半端な仕事をするつもりはありませんよ」
苦笑いを浮かべた誠司がそう言うとモットーは満足そうに頷いた。
「うむ。それは頼もしいな。それで、そちらのお嬢さん方は……」
「僕はハジメです。そして、こっちはユエとシアです」
モットーに話を振られ、ハジメも自己紹介をし、ユエとシアもペコリと頭を下げる。
その後、モットーからシアを売らないかと売買交渉の申し出があったが、誠司達はやんわりと断った。モットーはかなり引き下がったが、誠司達の意志が固いことが分かるとやっと引き下がった。
その時だ。
「うわっ! 何だこれ!?」
馬車の荷台の方から困惑した声が聞こえて来た。モットーは顔色を変えて声がした方に向かった。誠司達も顔を見合わせてモットーの後を追った。
「どうした!?」
「いや、それが……」
モットーが尋ねると商人の一人が震える手で示した。そこにはモコモコの綿毛のような羽を持った鳥ポケモンがスヤスヤと眠っていた。チルットだ。
「魔獣だ」
「何でこんな所に魔獣が?」
「追い払うか?」
護衛の冒険者達は各々武器を構える。だが、誠司がそれを制した。誠司はモンスターボールを一つ取り出すと、簡単にチルットをゲットした。
呆気なく事態が収拾して目を白黒させる商人や冒険者達。モットーからモンスターボールについて尋ねられ、誠司達は魔獣を捕まえることが出来る道具だと説明した。
説明を聞いたモットーは興味深そうにしていたが、商売として使えるかどうか決めあぐねているようだった。なので、モンスターボールを売ってくれという申し出は無かった。
旅をしてしばらくして、隊商は足止めを食らっていた。
「プラプラッ!」
「マイーッ!」
「ザングッ!」
「シャアァァ!」
目の前でプラスルとマイナンがザングースとハブネークに追いかけられていたからだ。プラスルとマイナンは傷だらけで必死に逃げ惑っている。その光景を見て誠司は首を傾げる。
「あれ? ザングースとハブネークって滅茶苦茶仲が悪いんじゃなかったっけ?」
「ああ、確かにあの二体の魔獣は滅茶苦茶仲が悪くてすぐ喧嘩をするけどな。喧嘩を邪魔されると何故か協力して邪魔した奴を徹底的に攻撃するんだよ」
誠司の疑問に他の冒険者が答えた。つまり、あのプラスルとマイナンはその喧嘩を邪魔したことで追い回されているのだ。随分迷惑な習性だ。
「可哀想だけど、これは放っておくしか……っておい、何やってんだ!?」
冒険者が誠司の方に向くとギョッとする。誠司が義手を銃に変形させ、コ◯ラがサイコ◯ンを撃つようなポーズを取っていたからだ。
「食べるためとかなら放っておこうかと思ったが、ただ痛めつけるのが目的なら助けても良いだろ」
「いや駄目だって! 助けたら今度はこっちが狙われるんだぞ!」
そんな冒険者の言葉を無視してバシュンッ、バシュンッと銃からモンスターボールを発射する。二つのモンスターボールはプラスルとマイナンに当たり、モンスターボールに吸い込まれていく。ザングースとハブネークは突然消えたプラスルとマイナンに驚いた様子で周囲を探し始めた。その隙に誠司は銃から義手に戻してモンスターボールを引き寄せて回収する。それを見たザングースとハブネークは誠司達を敵だと認識して襲い掛かった。
「ああっ! 来たー!! だから止めろって言ったんだぞ!」
冒険者や商人達は慌てふためく。誠司達に説明していた冒険者は誠司を責め立てるが、当の本人は涼しい顔だ。一つのモンスターボールを取り出すとすかさず投げた。
「チリーン、“いやしのすず”だ!」
「チリンッ! チ〜リ〜ン〜♪」
出て来たチリーンは楽しそうに歌を奏でる。すると、ザングースとハブネークはその音色を聞いてみるみるうちに大人しくなっていく。そして、歌が終わる頃には大人しく元来た方へ帰って行った。
「す、すげぇ……」
1人の冒険者の呟きが、その場にいた冒険者達や商人達の言葉を代弁していた。
そんなこんなでフューレンに着くまでの数日間、かなり平和だった。偶にポケモンの襲撃はあったものの、誠司達もポケモンを使ったりして次々と撃退していく。
ちなみにだが、誠司達はライセン大迷宮攻略後からポケモンを人前で出すことに躊躇いが無くなっていた。もちろんポケモンを出さずに済むならそれに越したことは無いが、ポケモンの力を借りれば簡単に解決出来るのならば隠す必要がないと考えるようになったからだ。これはクルミルを譲ったクリスタベルのようにポケモンに対して悪感情を持たない人間がいることが分かったのも大きい。
最初はポケモンやそれを使う誠司達に警戒心を隠そうともしなかった冒険者や商人達も旅が終盤になる頃にはポケモンに対する考えを改め始めていた。
「いやぁ〜、魔獣の力ってのは本当に便利なもんだな」
護衛隊のリーダー、ガリティマが感心したように呟いた。目の前にはワンリキーやヌマクローが自分よりも大きな荷物を荷台から軽々と降ろしている光景があった。ガリティマの言葉に他の冒険者達も同意した。
「ああ、魔獣も悪いやつばかりじゃないってのが今回の依頼でよく分かったぜ」
「私も魔獣を見る目が少しだけ変わったわ」
ガリティマ達のそんな言葉を聞いて誠司達は嬉しく思った。
「ありがとうございました。お陰で無事にフューレンに着くことが出来ました」
「いえいえ。これが仕事ですので」
フューレンに到着後、誠司達はモットーから改めてお礼を言われた。しかし、護衛隊は既に解散したのに誠司達だけ呼び止められたので、誠司達はモットーに「早く要件を言え」と無言の主張をぶつけている。モットーもそれを感じ取ったのか、単刀直入に言った。
「売買交渉のお願いで……」
「お断りします。出発前にも言いましたが、シアは……」
「いえ、そちらの兎人族のことはもう結構です」
モットーからそう言われて、思わず頭上にハテナマークを浮かべる誠司達。そんな誠司達を見てモットーは苦笑しつつも本題に入った。
「実はあなたのワンリキーを我がモットー商会に譲って頂けませんか?」
「………………は? ワンリキーを?」
「リキ?」
思わぬ頼みに目を点にする誠司達。モットーは続けた。
「はい。ワンリキーの働きぶりを見て是非商会の手助けをして欲しいと思いまして。彼なら即戦力間違いなしです。もちろんお金は幾らでもお支払いします」
「でも魔獣を使って評判とか大丈夫なんですか? 商人は信頼が第一でしょう?」
誠司がそう尋ねると、モットーは笑って言った。
「流石に表立って手助けして頂くのは無理でしょう。でも魔獣の力を借りるなんて新しくて面白いこと、商売人としてやらずにはいられませんよ。それに信頼に人間も魔獣も関係ない……私はそう思いますね」
「……なるほど。あなたの考え方が少し分かった気がするな。さて、お前はどうしたい? ワンリキー」
モットーの人柄は今回の依頼である程度は分かっている。根っからの商人だが、人格に問題はない。ワンリキーを渡してもちゃんと大事に育ててくれるだろう。なので、誠司はワンリキー本人に決めてもらうことにした。
ワンリキーは少し迷った表情を浮かべる。交互に誠司とモットーの顔を見るが、やがて意を決したように大きく頷いた。
「リキリキッ!」
「そうか……分かった。それじゃあ、モットーさん。ワンリキーのことをよろしくお願いします」
そう言って誠司はワンリキーをモンスターボールに戻すと、それをモットーに手渡す。モットーは嬉しそうに顔を綻ばせるとお礼を言った。
「ありがとう。責任を持って大切にしますよ。それでお金の方は……」
「ああ、それなんですがお金を貰うのではなく、今後モットー商会で買い物をする際に割引にしてもらうというのでお願い出来ませんか?」
誠司はそう提案した。お金を貰ってワンリキーを譲ったとして、もし後でワンリキーを返すってなった時に返金だの何だのが発生したら面倒だからだ。それなら商会を利用する際に商品を割引にしてもらう方が良い。そう判断したのだ。モットーも誠司の考えを見抜いたのか、快くOKしてくれた。
こうして、誠司達は商会に入ることになったワンリキーと別れ、フューレンの町の中に入って行った。
誠司の腕のギミック、まともに使ったの初めてかも……
ザングースとハブネークが協力して攻撃する習性はポケスペで、この二体の決闘の邪魔をされたら協力して襲い掛かって来るシーンがあったのでそのように設定しました。独自設定です。