高校生活が始まって二年目が経ったある日、誠司はーーーいや誠司達は異世界へ召喚されることになるのである。それは月曜日、一週間という長く短い期間の始まりの日のことだった。学生も社会人も月曜日を憂鬱に思う者は多いだろう。
誠司はいつも通り、教室に入る。始業二十分前だ。早寝早起きを欠かさないため今まで遅刻をしたことがない。まだクラスメイトは数える程しかおらず、親しい友人がその中にいないため誠司に話しかける者もいない。誠司の方もそこまで興味が無いため黙って自分の席に着き、一昨日買ったばかりの小説を開く。もう三周目だが、ハジメが来るまで待つには良い暇潰しになる。
そうしてクラスに人の気配が増えていき、不快な声が聞こえて来た所で顔を上げた。ハジメが来たようだ。始業五分前だ。
「よぉキモオタ!」
嘲笑混じりに始まった言葉を皮切りに、悪口が次々に投げられる。親友ながら随分と嫌われてるもんだ。
キモオタと言うが、ハジメはそう言われるような見た目でも性格でもない。寧ろ平凡な雰囲気でオタクではあるが、そこまで人格に問題があるわけでもない。単純に妬み嫉みによるものだ。もっとも、それらをぶつけられている本人であるハジメは特に気にした様子もなく誠司のすぐ後ろの席に座った。誠司は振り返ってハジメに軽く挨拶をした。
「はよざーす、ハジメ」
「ああ。おはよう、誠司」
「お前、また徹夜か?」
「うん。父さんのゲーム、面白いからさ」
ハジメのお父さんはゲーム制作会社をやっていて、息子であるハジメもよく手伝っているらしい。誠司もその会社のゲームはいくつか持っている。ハマったこともあったので面白いのは確かである。だが、それを差し引いても……
「それにしても…… 徹夜でゲームに没頭する癖、少しは直した方が良いんじゃないか? 父親の会社のゲームで息子が過労死なんて笑えないぞ」
「あはは…… なかなか止められなくてね」
「……ったく。そんなんだからいつまで経ってもチビなんだよ」
毎日早寝早起きを欠かさず健康的な生活を送っているからか誠司の身長は百八十センチ近くある。運動神経も悪くないからかよく運動部に誘われることもある程だ。興味がないので全て丁重に断っているが。一方のハジメの身長は百六十五センチ行くか行かないかくらいで平均的な高校生男子にしては低い方だし華奢な感じだ。中学二年生の頃は二人とも同じくらいの身長だったのにエライ違いである。
「それは言わないでよ。ああ、そうだ。
「はぁ…… ほらよ」
誠司はそう言うといつもの夢日記のノートをハジメに渡した。夢日記ももうかれこれ八冊目だ。今度はイギリスに近い所が舞台のようだ。ハジメはノートを開いて目を通す。
そんな誠司達に一人の女子が近付いて話し掛けて来た。
「おはよう。南雲君、中西君」
「ん? ああ、おはようさん、白崎」
「おはよう、白崎さん」
俺は普通に挨拶し、ハジメはノートを読みながら挨拶した。その様子にまたクラス、特に男連中が少し殺気立つ。ハジメがクラスで嫌われている大きい理由がコレだ。この白崎という女子、この学校では特に人気の高い女子の一人で、何故かは知らんがハジメによく話し掛けて来るのだ。まぁ、クラスの男子からすれば面白くないだろう。「イケメンだったり成績優秀な奴だったらまだ分かるが、こんなオタクがどうして白崎さんと……」という感じだ。因みに女子も同様に冷ややかでこちらの場合は嫉妬というより不真面目なハジメが白崎に迷惑をかけているように見えているのだろう。
また、誠司の方もハジメ程ではないが、クラスでの評判は微妙なところだ。ハジメと違って真面目に授業を受けている上に百八十センチ近くの体躯なため表立って悪くは言われないが、影では色々言っている奴らはいる。もっとも誠司はそれを一切気にしていないが。
そして、そのうち白崎の幼馴染とか言う人達もやって来た。彼ら(特にイケメン)がハジメに色々言っている。ハジメはノートを読むのに夢中でそこまで真面目に聞いていないが。やがて誠司の方にまで飛び火した。
「おい、中西。南雲の親友ならお前からも言ってくれ!」
イケメンが誠司に言ってきた。このイケメン、どうも誠司に対してもアタリがきつい。これは問題児のハジメと仲が良いのもあるが、誠司は一度剣道部の入部の誘いを断ったことがあった。そのせいかあまり快く思われていないようだ。誠司は面倒臭そうに溜息を吐くと、ハジメに声を掛けた。
「おい、ハジメ……」
「うん? どうしたの? 誠司」
読み終えたのかハジメがノートから顔を上げる。
「今日の二限は数学だからそれだけは起きててくれ」
「あー…… うん、良いよー」
「なら良し」
『いや良くないだろ(でしょ)!!』
周囲から総ツッコミが入った。
「俺は数学と物理が壊滅的に苦手だからな。ハジメが起きててくれないとお手上げなんだよ」
誠司は基本的に真面目に授業は受けるため成績は悪くないのだが、数学と物理だけは非常に苦手なのだ。ハジメのお陰で毎回赤点は回避しているが。
一方でハジメは居眠りばかりしている癖にどの科目も平均以上は取っている(コレも嫌われる理由なんだろうが)。暗記系の科目はともかく、数学や物理といった科目は公式の暗記だけでなくそれを活用する応用力も要るので暗記だけではどうにもならない。寝ないで真面目に授業を受ければ数学や物理に至っては学年トップは取れそうなもんである。なので誠司は数学と物理に限ってはハジメの力を借りている。その代わりに他の科目の重要そうな所は全て教えている。
イケメンが更に言い募ろうとするがその瞬間にチャイムが鳴り、渋々自分の席に戻って行った。他の幼馴染や白崎も戻って行く。白崎は少し残念そうな顔をしていたが。ちなみに約束通り、ハジメは二限の数学だけは起きてくれていた。
そしてお昼休み、誠司はパパッと教室から出て購買で菓子パンをいくつか買って教室に戻ると、ハジメはまた白崎達に絡まれていた。仕方がないのでさりげなく助け舟を出そうと声を掛けようとしたその時ーーーー
突然教室内に魔法陣のようなものが広がって光り輝いた。嫌な予感が走り咄嗟に動こうとするが、間に合わず眩い光が視界を覆い尽くす。誠司は落とした菓子パンのことは気に留めず思わず目を腕で庇い光を遮った。
そして、光が収まったところで腕を下ろして周囲を見渡すと誠司達がいるのはさっきまでの見慣れた教室ではなく、全く見覚えのない部屋だった。この部屋にいるのは誠司を含め召喚されたクラスメイト達とそれを取り囲む数十人の人達だった。彼らは全員見覚えのない格好をしている。
そのうちの一人である覇気のある老人が前に進み出てこう言い放った。
「ようこそ、トータスへ」と。
しかし、誠司はそれよりも部屋の壁画に描かれたものに目を奪われていた。その壁画に描かれていたものは白と紫の体色に大きなヒレ、真珠のような模様を持った生き物だった。誠司はそれに見覚えがあった。何年か前に見た夢に出ていたものだ。
「パル……キア…………」
誠司は小さくそう呟いた。
本格的にポケモンと関わっていくのは次回からになります。
ここからは本文に入れようと思っていたけど入れるスペースが無かったので泣く泣く没にしたシーンです(映画とかでよくある未公開シーンと思ってください)。供養として後書き用に書き換えて置いときます。
誠司もハジメもクラスでは浮いた存在である。しかしハジメはともかく、誠司としては言われっぱなし・やられっぱなしで終わらせるのは癪だった。なので、時々人をおちょくるようなことをする。大した内容でもないが、そのおちょくりにはハジメを巻き込むこともある。ハジメは正直あまり乗り気では無かったが、誠司から「どうせこれ以上下がる好感度もないだろ」と言われてしまい何も言えなかった。そのうちの一例がこれだ。
ある日の休み時間、誠司はハジメに話しかけた。
「ああ、そうだ。ハジメ、この間借りてた
「え…… ああ、うん。どうだった?」
「もうサイコーだったよ。声も可愛いし」
「でしょ? 僕のお気に入りなんだ」
最初は少しぎこちなさがあったが、ハジメも上手く乗ってきた。
そんな誠司達に声を掛けて来る者がいた。真面目で正義感の強いイケメン様だ。近くには白崎やその親友とかもいる。その二人は顔が少し赤い。
「おい! 中西、南雲! お前ら学校に何てものを持って来ているんだ!」
そう怒鳴られるが、誠司は肩を竦めて言った。
「何って
「……え?」
イケメンは驚いた表情を浮かべる。他の連中も同様だ。ハジメもDVDを見せた。パッケージには可愛らしい猫の写真がプリントされている。
「え? 天之河君、何を想像してたの?」
「もしかして
そう言って誠司が揶揄うと、イケメンは顔を真っ赤にして学校にDVDを持って来るべきでないと言って来たが、その程度は別に高校生であればよくある事だ。大して効かない。ただの負け惜しみにしか聞こえなかった。
そんな感じで誠司の方も人を食ったような態度を取ることがあるのでクラスでの評判は良くないのである。