チルットやモクロー、オルニスを飛ばした後、誠司達はウィルと冒険者達も通ったであろう山道を進み、山脈の六合目辺りまで到着すると一旦そこで立ち止まる。調査の対象となっていたのはこの辺りなため、ウィル達冒険者パーティーもこの辺で調査を行っていたはずである。そこから何かしらのトラブルに巻き込まれたのかどうか分からないが、何か彼らの足取りが分かるはず。誠司達はそう考えたのだ。
そして、立ち止まった理由はもう一つある。それは………
「はぁはぁ、も、もう休憩……?」
「うぇっぷ、もう休んでいいのか? はぁはぁ、いいよな? 休むぞ?」
「……ひゅぅーひゅぅー」
「ゲホゲホ、何で……俺達だけ……」
「あ、あの……皆さん大丈夫ですか?」
予想以上に優花達クラスメイトの体力が無さ過ぎて休憩の必要があったからだ。愛子が心配そうに尋ねるが、答えられる者はいない。これは誠司達や愛子はケンタロス達を使って山道を進んだのだが、クラスメイト達には全員、走って付いて行かせたのが原因だ。
当然、優花達からは文句の声が挙がったが、「え? 僕や先生みたいな非戦闘職ならともかく、優秀な戦闘職の君達がまさか出来ないの?」とハジメが軽く煽ると黙った。もう後には引けなくなった優花達はケンタロス達に引き離されないように全力疾走しながら登山する羽目になり、体力を消耗し切ってフラフラになっていたのである。
誠司達はそんな優花達に若干困った視線を向けつつも、どっちにしろ詳しく調査を行う必要があるため休憩を兼ねて近くの川に向かうことにした。ここに来るまでにオルニスによって位置を把握していたため間違いない。
誠司達は愛子にクラスメイト達が歩けるようになったら川の方に向かうように具体的な場所を伝えると、先に川へ向かった。ついでに道中、野生のポケモンに襲われないようにケンタロスも貸しておく。誠司のケンタロスは手持ちのポケモンの中ではかなり大人しいがやる時はやる子なので問題ないだろう。ケンタロスはコクリと頷くと愛子の隣に移動する。愛子は少し顔を引き攣らせていたが、慣れてもらうしかない。
誠司達は山道から逸れて山の中を進む。木々の間を歩いていると、やがて川が見えて来た。
目の前にあったのは小川と呼ぶには少し規模の大きいものだった。索敵能力が一番高いシアが先に周囲を探り、野生のポケモンがいないのを確認するとようやく全員、肩の力を抜いた。そして、誠司達は近くの岩に腰掛けつつ、今後の捜索方針について話し合う。
途中、ユエとシアが「少しだけ」と靴を脱いで川に足を浸けて楽しむといったことをするが、誠司もハジメもまだ愛子達が来る様子がないので許可をする。ユエもシアもいつの間にか全ての手持ちのポケモンを出して水遊びを楽しんでいる。
それを見た誠司とハジメも折角なので、残りのポケモン達をモンスターボールから出して少しだけ休憩をすることにした。一気に数が増えたことで賑やかになったが、別に良いだろう。ユエはブイゼル、チリーン、ヌマクローと一緒にパシャパシャと川の水を弄ぶ。実に楽しそうだ。シアも素足になっているが、水に浸けているだけで川の流れの感覚を楽しんでいるようだ。シアの相棒のホルビーも気持ち良さそうにしている。
そんな時、ようやく愛子達もやって来た。優花達は置いていったことに思うところがあるのかジト目をしている。しかし、男子三人は素足のユエとシアを見ると「おお!?」と歓声を上げ、「ここは天国か」と目を輝かせる。女性陣の冷たい眼差しが彼らに向くとすぐに身震いして視線を逸らしたが。淳史達の視線に気づいたユエ達も川を上がる。
優花達クラスメイトは川岸で腰を下ろし、水分補給に勤しむ。愛子も「案内してくれてありがとうございました」とケンタロスの頭を優しく撫でながらお礼を言うと優花達の方に向かう。それを見て誠司は少し意外そうな表情を浮かべた。
「あれ? 畑山先生、さっきまで怖がっていたのにもう慣れたんですか?」
「え? あ、はい。最初は怖かったですけどね。私の実家の近所には牛を飼っている農家の方も多かったので、ちょっと変わった牛と同じだと思えば何とか…… それに、中西君が言っていた通り、大人しくて良い子ですし」
「ブモオォォ」
ケンタロスも愛子の言葉に同調するように鳴き声を上げる。ケンタロスの方も愛子に対して好印象だったようだ。愛子は誠司達の周囲にいるポケモン達に目を向ける。
「それにしても……魔獣……じゃなくてポケモンでしたっけ? どの子も中西君達に本当によく懐いているんですね」
「そりゃあ、まぁ……俺達の大事な仲間なので。姉妹のように一緒に育ってきた『家族』だったり奈落の底で出逢って何度も死線を潜り抜けてきた『戦友』だったりと様々ですが」
「へぇ……そうなんですね。ポケモンにも色々な子がいるってことですね」
愛子は微笑ましそうに呟いた。誠司のいつになく穏やかな表情や口調にどこか思うところがあったようだ。
優花達クラスメイトもケンタロスのこともあってか、ポケモン達に対する恐怖心がほんの少し払拭されてきているようだ。何人かは恐る恐るだが他のポケモン達と触れ合ったりしている。完全に恐怖が拭えるようになるにはまだまだ先だろうが、城に閉じ籠っていた時と比べると大きな一歩だろう。
ポケモン達も特に嫌がっていないため誠司達も文句を言うことはない。誠司達としてもポケモンに興味を持ってくれるのは嬉しいため、クラスメイト達とポケモン達との交流を黙って眺めている。
そんな時、誠司のすぐ近くを座っていたハジメの表情が一気に険しくなった。
「……え? これって……」
「ん? ハジメ、どうしたんだ?」
ハジメの呟きを聞いた誠司が確認する。その様子に愛子達も何事かと目を瞬かせる。ちょうどその時、上空から声が聞こえて来た。
「チルチルゥ!」
「モッフゥ!」
チルットとモクローだ。何かを見つけたようだ。
「なぁ、ハジメ。チルットとモクローが何かを見つけたみたいなんだが、もしかしてハジメのオルニスが見つけたのと同じやつか?」
「多分ね……オルニスによると、川の上流に、えっと……盾かな? それに鞄とかも……まだ新しいみたいだし何か手がかりになるかもしれない」
「ようやく手がかりが見つかったか。それなら早く向かおう。チルット以外はボールに戻ってくれ」
そう言って誠司はチルット以外の手持ちをボールに戻す。ハジメ、ユエ、シアも同様にポケモン達をボールに戻すと、すぐに出発の準備を始める。優花達は本音で言えばもう少し休憩していたかったが、無理を言って付いて来た上に何か手がかりを見つけたとあっては動かない訳にはいかない。疲労が抜けきらない重い腰を上げる。
愛子はそんな生徒達を見て誠司達に少しペースを落として欲しいと頼む。
「あの、中西君。非常事態なのは分かっていますが、出来れば少しだけペースを落としてもらえませんか?」
「その心配はないでしょう。上流へ続く道は山道と違って険しいのでケンタロス達は使えませんよ。俺達も走って向かう必要があるのでさっきのようなことにはならないでしょうし」
「そ……そうですか」
誠司の言葉を聞いて少しだけ安堵する愛子達。しかし、かなり険しい道を上る必要があるため、どっちにしろ目的の場所に到着する頃にはかなり体力を消耗することになった。
誠司達が到着した場所は凄惨……の一言だった。
ハジメの言っていた通り、盾や鞄もそこにあった。だが、盾はひしゃげていたり、鞄は紐が千切れてズタズタにされている状態でだったが。
注意深く周囲を見渡すと、近くの木の皮が禿げているのを見つけた。二メートルくらいの位置にある。
「何かが擦れた拍子に……って感じか?」
「うん。人間の仕業じゃない……よね」
誠司はヤレユータンとヌマクローをボールから出す。誠司は2体に最大限の警戒を指示しながら、傷のある木の向こうへ進んで行く。
先へ進むと、次々と争いの形跡が見つかっていく。へし折れた木や血の飛び散った痕を見て、愛子達の表情は強張っていく。特に優花達の顔色が酷い。震えそうになる身体を必死に押さえようとしているのが分かった。そんな時、ハジメはあるものを見つけた。
「これって……」
「何だ? まさかこれ……剣か?」
ハジメが見つけたのは剣らしきものだった。だが、剣というには随分形がおかしい。全体がドロドロに溶けて固まった状態でぱっと見、剣には見えない。
これには流石の誠司達も顔を強張らせる。金属をここまで融解させる程の攻撃が出来るポケモンがいるかもしれないのだ。その時、シアも何かを拾ったらしく、誠司達の方に寄って来た。
「あの、誠司さん。これ、ペンダントでしょうか?」
「ん? これは……遺留品の可能性が高いな。古びた様子はないし、一応回収しておくか」
中身を確認すると、女性の写真が入っていた。恐らく、誰かの恋人か妻か。
その後も遺品と思しきものが散見され、身分特定に使えそうなもののみを回収していく。それからどれくらい時間が経ったのか。既に日は傾き、野営の準備が必要になってくる時間に差し掛かって来た。
「チルチルルゥ!」
上空で探してもらっていたチルットが何かを見つけたらしく、誠司に呼び掛けている。
「何か見つけたみたいだな。急ごう」
「そうだね。それでその周辺を探して何も無かったら野営の準備をしよう。もう暗くなってきてる」
ハジメの言葉に全員が賛同すると、チルットの案内で例の場所に向かった。
チルットが案内されて着いた場所は大きな川だった。上流に小さい滝が見え、水量が多く流れもそれなりに激しい。本来は真っ直ぐ麓に向かって流れていたのだろうが、その川は現在途中で大きく抉れて小さな支流が出来ていた。恐らくここで大規模な戦闘があったのだろう。
「おいおい、一体どんな戦い方をしたらこうなるんだ……?」
誠司は思わず呟いた。そこにヤレユータンが何かの足跡を見付けたようで誠司に呼び掛ける。
「ヤレユ」
「ん? この足跡は……何かのポケモンみたいだけど」
「ねぇ、誠司。この足跡が川縁にあるってことは、彼らはもしかして川の中に飛び込んだんじゃ……」
「ヤレユー」
ヤレユータンもハジメと同じ考えらしく、大きく頷く。それを見て誠司は次の方針を決めた。
「なるほどな。それじゃあ、次は下流を探した方が良さそうだ」
それから誠司達は下流へ向かって川辺を下っていく。すると、今度は先程とは比べ物にならない規模の立派な滝を見付けた。滝の傍特有の清涼な風が頬を撫でる。
その時、誠司の傍らにいたヌマクローが何かに反応したようだ。レーダーのヒレをしきりに動かしている。ヌマクローは誠司の服の袖を引っ張る。
「マクロゥ! マクロ!」
「どうしたんだ、ヌマクロー? 何か分かったのか?」
「マクロ!」
「ふむ……ユエ、出来るか?」
「んっ、任せて」
ヌマクローが示す方角を見て誠司は少し考え込むと、ユエに声を掛けた。ユエも自分が何をすべきかすぐに察したようで、風魔法と水魔法を駆使して滝を真っ二つに割った。
「さてと……誰かいると良いんだが……」
誠司はそう言ってポケモン達と一緒に滝壺の中へ入って行った。ハジメ達もそれに続こうとするが、ふと後ろを振り返ると、そこには驚愕に口をポカンと開けたまま突っ立っている愛子達がいた。
「……何してるの? 早く行って」
ユエが呆れたようにそう言うと、愛子達はようやく我に返ったのか急いで後を追う。そして、全員が中に入ったのを確認するとユエは魔法を解除した。