魔獣使いと錬成師が合わされば世界最強   作:マロニエ19号

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漆黒のリザードン襲来

滝壺から奥は洞窟になっていた。水が流れ込まない構造になっているようで、まさに自然が作り出した奇跡と言える。そして、その空間の一番奥に三人の男が横たわっているのを発見した。

 

傍に寄って確認すると、三人とも大きな怪我は見当たらない。近くの鞄に少量の食糧も残っているので単純に眠っているだけのようだ。だが、依頼の際に貰った資料によると、冒険者パーティーはウィルを含めて六人だったはず。それが今三人しかいないということは恐らくそういうことなのだろう。そのせいか、三人とも顔色が悪い。特に三人の中で一番若い男は死人のような顔色になっている。

 

愛子達は急いで暖を取ったりして介抱しようとするが、誠司は手っ取り早く三人を起こすためにあるポケモンを出した。チリーンだ。

 

「チリーン、“さわぐ”だ。思いきり頼むぞ」

「チリンッ!」

「皆、耳を塞いだ方が良いぞ」

 

大きく息を吸い込むチリーンを見て、誠司は周りの者に耳を塞ぐよう言った。ハジメ、ユエ、シアはすぐに耳を塞いだが、その他の一部の者は咄嗟のことで訳が分からず耳を塞ぐのが遅れてしまった。

 

そして、次の瞬間……

 

チリリリリリリリーーーーン!!!

『ぐあぁぁぁ!!』

 

チリーンのけたたましい鳴き声が洞窟内に響き渡る。ただでさえ煩い鳴き声が洞窟の中で反響して凄まじい騒音になった。不運にも耳を塞ぎそびれた昇、奈々、明人は耳を押さえて悶絶している。耳を塞いで鼓膜が無事だった愛子達は誠司の容赦のなさに戦慄の表情を浮かべている。

 

だが、チリーンの“さわぐ”は荒療治ではあるが効果は抜群だったようで、死人のように横たわっていた冒険者達も今ので全員飛び起きていた。

 

チリーンをボールに戻すと、何事かと周囲を忙しく見渡す冒険者達に近付いた。そして、彼らが依頼の対象かどうか確認する。

 

「俺達はフューレンのギルド支部長イルワ・チャングからの依頼で行方不明になった冒険者パーティーの捜索に来たんだが……あなた方で間違いないか?」

「え? え? 君達は一体、どうしてここに……」

 

三人の中で一番若い青年は何がなんだか分からずに目を白黒させるばかりだが、別の男が代わりに答えた。

 

「ああ。俺達はこの北の山脈で魔獣の大量発生の件で調査に来たんだ。俺はゲイル・ホモルカ、パーティーリーダーをしている。こっちはクルト、そんでこっちはウィルだ」

 

ゲイルの名を聞いて淳史達男子はピクリと反応しているが、誠司達はスルーする。ゲイルにクルト。二人とも調査対象の冒険者の名前だ。そして、もう一人無視出来ない名前の人物がいた。

 

「ウィル…… もしかしてクデタ伯爵家三男のウィル・クデタですか?」

「え? 私のことを知っているんですか!?」

 

ハジメが尋ねるとウィルは驚きの声を上げる。どうやら、ウィル・クデタ本人で間違いないようだ。奇跡的な生還に誠司達は全員ホッと安堵の息を吐く。愛子達は彼らが無事に生きてくれていたことへの安堵なのに対して、誠司達はウィルが生きていたことでイルワに恩を売れるという利己的なものだが。

 

「さっきも言った通り、俺達はフューレンのギルド支部長イルワ・チャングからの依頼で行方不明になった冒険者パーティーの捜索に来た。無事で良かったよ」

「イルワさんが!? そうですか。あの人が……また借りができてしまったようだ……あの、あなたも有難うございます。イルワさんから依頼を受けるなんて余程の凄腕なのですね」

 

尊敬を含んだ眼差しと共に礼を言うウィル。チリーンの“さわぐ”を気にしていない辺り、もしかすると案外大物なのかもしれない。同じ貴族でもいつかのデブ貴族とは大違いである。

 

そして、誠司達の方も自己紹介を済ませると、ハジメはゲイルに尋ねた。何となく察しはつくが、確認はしておかないといけない。

 

「あの、資料ではそこのウィルさんを含めて六人パーティーと聞いているんですが、残りの三人は?」

 

ハジメの質問にゲイル達三人の顔が曇った。特にウィルは恐怖で顔を歪ませている。それだけで誠司達の予想は当たっていたようだ。

 

「残りの三人……ナバル、レント、ワスリーは……死んだよ」

『…………!!』

 

ゲイルの言葉に息を呑む愛子達。特に優花達クラスメイトは全員顔を強張らせている。質問したハジメも少し気まずげに謝罪した。

 

「そうでしたか……すみません、不躾な質問をしてしまって……」

「いや、気にしないでくれ。冒険者である以上、こうなる覚悟は出来てる。それはあいつらだって同じだったはずだ」

 

ゲイルがそう言うと、隣にいるクルトも同じ気持ちのようで大きく頷いている。それを見て誠司達は思わず感心した。流石はイルワが見込んで依頼をしただけのことはある。

 

そこからゲイル達は自分達に何が起こったのか話し始めた。

 

誠司達が向かう五日前、六合目付近の川で調査をしていたゲイル達パーティーはある魔獣に遭遇したらしい。その魔獣はこの山脈に生息しないとされる種のものだった。魔獣はいきなりゲイル達に襲い掛かり、何とか撤退しつつも3人の仲間を失う結果になってしまった。一人はその魔獣の吐く炎で焼かれるのを直接見た上に、残りの二人も状況から見て生存は絶望的とのことだ。

 

ウィルはその時のことを思い出したのか顔面が蒼白になり、口元を必死に押さえて吐気を堪えている。先程の惨状を目の当たりにしているのもあって、話を聞いていた愛子達の顔色も悪い。ゲイルとクルトも身震いしながら言った。

 

「俺達を襲ったのは黒い竜のような魔獣だ……確かあれは……」

「リザードンだ。以前、別の依頼で見たことがあるから間違いない。色は全然違ったけどな」

 

そのポケモンの名前を聞いて誠司は目を見開いた。

 

リザードン。巨大な羽に尻尾の炎が特徴的な竜のようなポケモンだ。夢でも何度か見たためよく知っている。だが、夢で見たリザードンの体色は確かオレンジだったはずだ。黒なんて有り得ない。

 

…………いや、ポケモンには稀に通常種とは異なった体色を持つものがいる。所謂色違いというやつだ。恐らく、そのリザードンも色違いなのだろう。

 

誠司はそんなことを考えていると、シアが尋ねる。

 

「あの、リザードンって……」

「炎・飛行属性の竜のような魔獣だ。本来は岩山なんかに生息している奴でな。翼があるからどこへでも飛んで行けるが、普通はこんな場所に現れる筈がないんだよ」

 

シアの質問にゲイルが答え、そこでようやく、この事態が異常だということに気が付いたようだ。全員、深刻な表情を浮かべている。

 

その後、一行は早速下山することにした。幸い、日の入りまでまだ時間はある。急いで行けば日が暮れるまでに麓に着くことが出来るだろう。

 

敦史達数名は町の人達も困っているから調べるべきではないかと微妙な正義感からの主張をしたが、愛子が頑として認めなかったため結局全員下山することとなった。

 

だが、事はそう簡単に進まないらしい。再びユエの魔法で滝壺から出て来た誠司達の前に邪魔者が現れたからだ。ゲイルの言っていた黒いリザードンが滝の前で黒と紫の翼を羽ばたかせながらこちらを睥睨していた。

 

通常、リザードンは一.七メートルくらいの大きさなのだが、目の前にいるリザードンは二メートル半はある。低い唸り声が喉から漏れ出ており、時折青白い炎も口元から溢れ出ている。目は真っ赤に染まり、正気ではないことが伺える。

 

奈落の底でのサザンドラ程ではないが、それより前層で戦ったポケモン達くらいの強さはあるだろう。実力のあるパーティーとは言え、ウィルを連れた状態でよく三人も生き残れたものだと感心するレベルだ。

 

リザードンの姿を見た愛子達やウィルは見事に硬直してしまっている。特にウィルは襲われたトラウマがあるのか真っ青な顔でガタガタ震えており、今にも崩れ落ちそうだ。それとは反対にゲイル、クルトは咄嗟に武器を構えて戦闘体勢を取っている。

 

そして、誠司は思いがけない事態に戸惑っていた。目の前のリザードンについて、先程から魔獣図鑑の技能を使って調べているのだが、一向に情報が得られないのだ。何度技能を発動させても『不明』と出てくる。今までそんなことはなかったのにどうなっているんだと動揺していたため、つい目の前の状況に気付くのが少し遅れてしまった。

 

「誠司、ぼーっとしないで!」

 

ハジメの声でハッと我に返った誠司はリザードンが何か技を放とうとしているのが見えた。喉元にエネルギーを溜めているのが分かる。それを見て誠司は思わず叫ぶ。技についてはちゃんと魔獣図鑑が反応した。

 

「あれは……“だいもんじ”だ! 急げ! 退避しろぉ!!」

 

“だいもんじ”……炎属性の攻撃の中では特に威力の高い技の一つだ。こんなものをまともに食らえば、良くて大火傷、悪くて焼死だろう。誠司の叫びに反応してハジメ、ユエ、シア、ゲイル、クルトの五人はすぐさまその場を退避した。

 

誠司もポケモン達と共にすぐにその場から離れようとするが、ヤレユータンに呼び止められた。

 

「ヤレ、ヤレユ!」

「どうした、ヤレユータン、早く逃げ……」

 

そう言って誠司が振り返ると、そこにはまだその場から退避していない者達がいた。

 

愛子や生徒達、そしてウィルもその場に硬直したまま動けていなかったのだ。愛子達はあまりにも突然の事態に体がついてこず、ウィルはトラウマのせいか恐怖に縛られて視線すら逸らせていなかった。

 

そうこうしている間にもリザードンはエネルギーを溜め終えたらしく、勢い良く高温の炎の塊を吐き出した。炎は誠司達に届く前に五つに分かれて星形のようになり、彼らを包み込もうとする。

 

だが、炎は青白い光に包まれ、次の瞬間には跡形もなく霧散した。誠司が咄嗟にヤレユータンに“サイコキネシス”を指示して“だいもんじ”を霧散させたのだ。だが、こういった芸当はヤレユータンにとってかなり骨が折れるようで額に汗を滲ませて、肩で息をしている。

 

それを見た誠司はヤレユータンに少し休むよう伝えて一旦ボールに戻した。そして、誠司はチラリと隣に立っていたヌマクローを見る。ヌマクローはやる気満々だ。ハジメ達も同様にモンスターボールからポケモン達を出していく。

 

こうして、誠司達とリザードンとの戦いの幕が切って落とされた。




原作ではウィル以外の冒険者パーティーは全滅してしまっていましたが、今作では一部を生かすことにしました。今後の展開に少し必要なので……
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