リザードンは攻撃が失敗したのを見るや、悔しさからか咆哮を上げた。今度はゲイルとクルトに狙いを定めて全身に灼熱の炎を纏い始めた。
「おいおい、今度は“フレアドライブ”かよ……」
誠司は思わず顔を引き攣らせる。“フレアドライブ”も先程の“だいもんじ”同様、高火力の炎技の1つだ。ゲイル達はすぐさま退避しようとするが間に合いそうもない。
「……“禍天”」
ユエの声と同時に、リザードンの頭上に黒く渦巻く球体が現れた。球体はリザードンを押し潰すように、地面に叩き付ける。球体はそれでもなお足りないと言うようにリザードンに凄絶な圧力をかけて地面に埋没させていく。
「グオオォォォ!?」
リザードンは堪らず悲鳴を上げた。体に纏った炎も消えている。
ユエが今使った魔法はライセン大迷宮で手に入れた重力魔法によるものだ。手に入れたばかりのものなので、まだ改良点は多いものの中々の威力だ。
地面に磔にされたリザードンは苦しげな声を漏らしながらも、四肢を踏ん張って何とか重力から逃れようともがく。ハジメとシアは自分のポケモン達を使ってリザードンに攻撃をして追い打ちを掛けている。
「グルラアァァァ!!」
リザードンは激しい咆哮を上げると、尻尾を硬化させ始めた。尻尾は重力の対象外だったため、ある程度動かせたのだ。“アイアンテール”を何度も地面に叩き付けていくことで細かい砂塵が舞い上がり、リザードンの体全体を覆い隠した。
そして次の瞬間……
ドゴオォォン!!!
リザードンの周囲に大きな爆発が起こった。恐らく粉塵爆発の要領で爆発を起こしたのだろう。随分頭の回るリザードンだ。爆発によって魔法も解けてしまい、自由の身となったリザードンは空高く飛び上がった。
「嘘……」
ユエは呆然とした様子で呟く。まだまだ未熟だったとはいえ自分の魔法を打ち破られてショックが大きいようだ。
そんなユエを無視してリザードンはあるものをギラリと睨み付けて狙いを定める。その視線の先には立ち竦んでいるウィルとそんな彼を必死に退避させようとしている冒険者達がいた。
それに気付いた誠司はすぐさまヌマクローに指示を出す。
「ヌマクロー、“マッドショット”だ!」
「マクロッ! マクロッ!」
ヌマクローは泥の塊を複数作り出すと、それをリザードンに発射する。しかし、翼の羽ばたきだけで霧散してしまう。
「それなら……“みずのはどう”!」
“マッドショット”が効果がないと気付いた誠司は即座に別の技を指示した。ヌマクローは水で出来た球体を生成し勢いよくリザードンに向けて撃ち出す。
「グオウ!?」
直撃したリザードンは一瞬だけ怯むも、すぐに攻撃を開始した。リザードンは翼を広げて一気に滑空し、ウィル達の元へ突貫する。
それを見たウィルは「ひっ!」と情けない悲鳴を上げながら身を竦めてしまう。ゲイル達ですら思わず恐怖に顔を引き攣らせる。
それを食い止めようと誠司はヌマクローに指示を出す。
「させるか! ヌマクロー、もう一度“みずのはどう”!」
ヌマクローはもう一度“みずのはどう”を放つ。直撃したもののリザードンは止まらない。次の瞬間、“ドラゴンクロ―”を食らってヌマクローは誠司を巻き込んで吹き飛ばされ、近くの木に叩き付けられてしまう。幸いにも誠司は軽傷だったが、ヌマクローは完全に目を回して気絶してしまっている。
そして、リザードンはウィル達に向かって真っ直ぐに突っ込んで行く。一気に嚙み殺すつもりのようで“ほのおのキバ”を発動させている。
「っ! ユエ、悪いけど頼む!」
「んっ! 任せて!」
誠司は痛みを堪えながらヌマクローをボールに戻しつつ、ユエに指示を飛ばした。ユエはシャンデラに飛び乗って重力魔法を駆使してウィル達の方向に急速に移動すると、間一髪ウィル達の前に立ちはだかる。
水魔法を使って城壁のような分厚い壁を作り上げた。それにより、リザードンは水の壁に頭から突っ込む形になってしまい、牙に纏っていた炎も一瞬で霧散した。
「っ、て、手伝わないと!」
「お、おう!」
怒涛の展開にようやく我を取り戻した優花が自分の武器であるナイフを手に取り魔法で炎を纏わせ投擲する。同時に淳史も曲刀を取り出して風刃を放つ。しかし、二人の攻撃はリザードンに届かない。悲壮な顔を浮かべつつも、それでも武器を構える優花と敦史を見て、他のクラスメイト達も目の前のリザードンに震えつつも遠距離攻撃を放った。
しかし……
「グラアアア!!」
咆哮の衝撃だけで簡単に吹き散らされてしまった。しかも、その咆哮に見事に吞まれてしまったらしく、ウィル同様に「ひっ」と悲鳴を漏らして後退りしている。妙子や奈々に至っては尻餅までついていた。
リザードンはそんなクラスメイト達に見向きもせず、顔の水を振り払うと両腕に電気を纏い始める。電気を纏ったパンチをお見舞いする技“かみなりパンチ”だ。
それを見たユエは咄嗟に水の壁を凍り付かせた。両腕の“かみなりパンチ”を壁にぶつけるが、分厚い氷の壁は砕けない。その隙にハジメとシアが背後からリザードンに攻撃を仕掛けた。同時に指示を出す。
「ブイゼル、“ひやみず”!」
「ホルビー、“マッドショット”ですぅ!」
リザードンは攻撃を受けているが、ハジメ達に全く見向きもせずに氷の壁を破壊することに集中している。それを見て、ハジメは違和感を覚えた。その時、誠司がハジメとシアの元に駆け付けたのでハジメは誠司に言った。
「ねぇ、誠司。あのリザードン、ウィルさん達だけを狙ってるみたい」
「何?」
「ほら、こっちのことはまるで眼中にない感じだし」
ハジメの言葉に誠司も心当たりがあるのか頷いた。
「……なるほどな。だが、何でだ?」
「分からないよ。でも……それだったら僕達としては好都合だ」
「確かにそうですね…… ウィルさん達には悪いですけど、ここは囮になってもらいましょう」
3人は顔を見合わせて頷いた。ハジメはユエに指示を出した。
「ユエ! ウィルさん達の守りに専念して! こいつは僕達がやるから!」
「んっ! 了解!」
ハジメの指示を聞いたユエはすかさず目の前の氷壁と同じような氷壁を複数作っていく。その作業の途中、チラリと後ろを振り返って愛子やクラスメイト達を見ると、呆れた声で呟いた。
「……死にたくないなら私の後ろに下がって。それと……邪魔になるから大人しくしてて」
正直なところ、出発前に自分の身は自分で守るよう言ってあるので、ユエに愛子達を守ってやる義務はない。かと言って、そのまま見殺しにしても寝覚めが悪い。それにあのリザードン相手に身を守れというのも流石に酷な話だ。なので、ユエは声を掛けておく。ついでに自分の邪魔をしないように釘を刺すのも忘れない。
クラスメイト達はそんなユエの言葉にも特に反応することなくほうほうの体で傍に寄って来た。ユエの傍の方が間違いなく安全だと本能的に悟ったのだろう。優花や敦史、愛子は自分の無力さに唇を噛み締めている。
本来なら彼らももう少し戦えるだけの実力はあるのだが、オルクスの訓練で殺されかけたトラウマはそう消えるものではなかった。それにトラウマが無かったとしても、あのリザードンに敵う気がしなかったのも更に拍車を掛けていた。そのため、優花達は氷壁の向こうを黙って見ることしか出来なかったのだ。
ウィル達の安全がひとまずは確保されたので、後は攻撃に集中するだけだ。そんな誠司達に見向きもせず、リザードンは空中に上がる。その目は変わらずウィル達に向けており、氷壁を破壊するために高火力の炎技を使うつもりのようだ。口元にエネルギーを溜めていることから恐らく“だいもんじ”を使ってくるのだろう。
「ここまで無視されるとはな。それなら……」
誠司はすかさずマシェードを出すと指示を出した。
「マシェード、リザードンの口に向かって“エナジーボール”だ」
「マシェ!」
マシェードはすぐに“エナジーボール”を作り、リザードンの口目掛けて発射した。奈落に落ちる前からずっと練習してきたこの技は発動速度や射程距離、命中精度が段違いだ。
丁度リザードンが技を放とうと口を開いた瞬間、“エナジーボール”がピンポイントで口の中に飛び込んで来た。
「!? グガアァ!? ブファアァ!!」
喉から出掛かっていた灼熱の炎がエナジーボールに当たったことで爆発し、リザードンから悲痛な声が上がった。口元から黒い煙を上げてリザードンは何度も苦しそうに咽せ返っている。
「続けてマシェード、“ムーンフォース”!」
「マーーシェッ!!」
マシェードは月のように白く輝く球体を発射する。だが、“ムーンフォース”はリザードンが発動させた“フレアドライブ”で掻き消されてしまった。そして、リザードンは誠司達の元へ“フレアドライブ”を仕掛ける。完全に誠司達のことを敵と認識したようだ。だが、先程見せた時より炎が弱くなっているように見える。
ハジメはすかさずブイゼルに指示を出す。
「ブイゼル、“うずしお”!」
「ブイブイッ!」
ブイゼルは尻尾で器用に水の渦を作り出すとそれをリザードンにぶつけた。渦潮はリザードンの体に纏っていた炎を打ち消して飲み込む。リザードンはしばらくの間もがき苦しむが、すぐに“かみなりパンチ”で“うずしお”を破壊して何とか脱出した。しかし、今までのダメージのせいか息が上がっている。そこをホルビーが突っ込んで行く。
「すげぇ……」
誠司とポケモン達の戦闘をユエの後ろという安全圏から眺めていた淳史が思わずといった様子で呟いた。優花達や愛子も同意見のようで無言で頷き、この戦いから目を逸らせずにいた。ウィルは先程まで怖がっていたのが嘘かのように目を輝かせて食い入るように誠司達の戦いを見つめている。ゲイル達も感心した様子で時折、「ほお」という声が漏れている。
「グゥガァアアアアア!!!」
リザードンは突如、今まで以上の咆哮を上げた。そして、リザードンの体が赤く光り輝き始めた。それに比例してリザードンの周囲の温度はどんどん高くなっていく。
「熱っ! 誠司、この技は……」
「まずいな…… あの技は……“オーバーヒート”だ」
“オーバーヒート”……炎属性の技の一つで“だいもんじ”以上の威力を持つ大技だ。しかし、高火力な技であると同時に弱点もある。この技は何度も使うと威力が下がってしまうのだ。だからこの技を使うタイミングは慎重に選ぶ必要がある。
誠司はマシェードと顔を見合わせる。一番付き合いが長いポケモンなだけあってお互い何を考えているのか大体分かる。
「よし。マシェード、一気に決着を着けるぞ!」
「マシェ!」
誠司の言葉にシアは驚く。リザードンとマシェードは相性では不利だからだ。
「ええっ!? でも誠司さん、草・フェアリー属性のマシェードではあのリザードンに勝つのは……」
ハジメがシアを制止する。ハジメは誠司の顔をジッと見る。ハジメの目には「出来るんだよね?」と言っているようだった。なので誠司はハジメの顔を見て強く頷く。それを見てハジメも頷き少し後ずさる。異論は無いようだ。そんなハジメの行動にシアも少し含む所はあるものの渋々納得して後ろに下がる。
その時、リザードンはマシェード、そしてその延長線上にあるウィル達に向けて“オーバーヒート”を発射する。今までの炎の中でも特に強力なものだった。ユエの氷壁でも効果は無いだろう。
“オーバーヒート”はマシェードに命中し一瞬でマシェードの体が炎に包まれた。愛子達やシアから悲鳴が上がったが、誠司は全く動じていない。
次の瞬間、ポンッという音を立ててマシェードの姿が消えた。
『え!?』
その場にいたほぼ全員が唖然とした声を上げた。リザードンですら呆気に取られた様子だ。
「“みがわり”だよ。そして……」
リザードンがハッと
「“キノコのほうし”!!」
「マッシェ!」
リザードンの死角から飛び出したマシェードは勢い良く胞子をばら撒いた。リザードンは“キノコのほうし”の効果で強い睡魔に襲われた。瞼が重くなっていく。その時、誠司の声が響く。
「トドメだ。“ゆめくい”」
マシェードの“ゆめくい”を食らってリザードンはそのまま仰向けに地面に倒れ込んでしまった。勝負ありだ。
最近出番が少なかったのでマシェードを活躍させました。いくつか新技を披露していますが、話の外で色々と練習して覚えさせています。