魔獣使いと錬成師が合わされば世界最強   作:マロニエ19号

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戦いに備えて

「そっちは終わったみたいだな、ハジメ」

「うん、大体町を一周してきたよ」

 

あれから誠司達は戦いの準備を始めていた。今、ウルの町には昨日まで存在しなかった『外壁』に囲まれていた。この外壁はハジメの錬成によって作ったものだ。しかし、これは即席で作ったものなため、それほど高くはなく、強度も強くない。この外壁は万一の状況に備えた保険なため、特に問題はないだろう。どちらかというと、町の住人達への気休めとしての意味が大きい。

 

町の住人達には、既にポケモンの大群が迫っている事が伝えられている。彼らの移動速度を考えると、夕方になる前くらいには先陣が到着するだろうとも。

 

当然、町の住人はパニックに陥った。ついさっきまで平和を謳歌していたのに、いきなり明日には故郷が滅び、このままだと自分達も死ぬことを知って冷静でいる方が難しい。なので、彼らの行動も仕方ないことではある。

 

そんな彼らだったが、愛子のおかげで落ち着きを取り戻すことが出来た。こういう時、『豊穣の女神』の知名度は便利なものである。

 

それから冷静さを取り戻した人々は、二つに分かれた。故郷は捨てられない、場合によっては町と運命を共にするという居残り組と、当初の予定通りに救援が駆けつけるまで他の町に逃げ延びる避難組だ。

 

居残り組の中でも女子供だけは避難させるというものも多くいる。愛子の言葉を信じて、手伝えることは何かないだろうかと居残りを決意した男手と万一に備えて避難する妻や子供などだ。深夜をとうに過ぎた時間にもかかわらず、町は煌々とした光に包まれ、いたる所で抱きしめ合い別れに涙する人々の姿が見られた。

 

避難組は、夜が明ける前には荷物をまとめて町を出た。現在は、日も高く上がり、せっせと戦いの準備をしている者と仮眠をとっている者とに分かれている。居残り組の多くは、『豊穣の女神』一行が何とかしてくれると信じてはいるが、「それでも自分達の町は自分達で守るのだ! 出来ることをするのだ!」という気概に満ちていた。

 

 

 

そして、現在、誠司達は人目の付かない場所まで移動して自分のポケモン達をモンスターボールから出していた。誠司はトランクの中にいたポケモン達も含め、全ての手持ちのポケモン達を外に出していた。かなりの大群を相手にするため、今回は特別に全部の手持ちを使うことにしたのだ。出し惜しみしてどうにかなる状況か分からないからだ。

 

しかし、全部の手持ちにその場で細かく指示を出すことは不可能なので、今この場で自分達の役割を説明しておく必要がある。全員、戦うことに意欲的なようで、地面に描いた図を熱心に見つめている。

 

「よし。今から作戦について説明をするぞ。まずはケンタロス、お前は俺とクレッフィと一緒にこの場所まで行ったら、思い切り“じわれ”を使ってくれ。大群はここからやって来るからな。これで足場を崩す。クレッフィは俺やケンタロスの守りを頼む」

「ブモオォォ!」

「クレフィィィ!」

 

誠司の指示にケンタロスとクレッフィは鳴き声を上げて答えた。誠司も頷いた。ケンタロスの足が少しだけ震えているのを気付くと、安心させるように言った。

 

「良いか、ケンタロス。“じわれ”を使ったらすぐにその場を離れて距離を取るんだ。あくまで大群に揺さぶりを掛けるためということを忘れるな。それに俺やクレッフィもいるんだ。安心しろ」

「モオゥ」

 

そう、ケンタロスの“じわれ”で簡単に大群を一掃出来るとは誠司も思っていない。洗脳されている群れのリーダーや進化系のポケモン達は構わず進もうとするだろうが、その他のリーダーに従っているだけのポケモン達はリーダーに不信感を抱く。群れの結束が弱まればそれだけ勝機は高くなる。寧ろここからが本番だ。

 

大群にどんなポケモン達がいるのか、オルニスで既に大体把握している。なので、ここからは誰がどのポケモンと戦うのかを指示していく。紙に描かれたポケモンの絵を見せる。ちなみに絵はハジメが描いたものだ。

 

「次に誰がどのポケモンと戦うかを説明していく。まずはストライクの群れだ。あいつらは飛べるからな。恐らく“じわれ”が起きても関係なく全員で突撃してくるはずだ。チゴラス、キュウコン、お前らはストライク達の相手を頼む。特にリーダー格を優先して攻撃してくれ」

「グオオォォ!」

「コンッ!」

 

誠司の指示にチゴラスとキュウコンが返事をする。

 

「次はガメノデスだ。水・岩属性のポケモンだからマシェードにお願いしたい。数が多かったら“キノコのほうし”を使ってガンガン眠らせろ」

「マシェッ!」

 

マシェードが元気に返事をする。

 

そんなこんなで全ての手持ちのポケモン達に指示を出し終えた時、複数の足音が聞こえて来たので音がした方向に目を向けると、そこには愛子やクラスメイト達、ティオ、ウィル、デビッド達数人の神殿騎士達がいた。デビッド達は目の前にいるマシェード達に表情を険しくさせており、愛子達も山脈で見たポケモン達以外のポケモン達を見て「他にもいたのか!?」と驚愕を露わにしていた。愛子が声を掛ける。

 

「あの、中西君、準備はどうですか? 何か必要なものはありますか?」

「今こいつらに作戦の指示を終えたところです。必要なものはないのでお引き取り願えますか?」

 

誠司がデビッド達に目を向けながらそう言った。そんな誠司の言い方が気に入らないのかデビッドが食って掛かった。

 

「おい、貴様。愛子が……自分の恩師が声をかけているというのに何だその言い草は。本来なら貴様の持つ魔獣共やアーティファクト類の事、大群を撃退する方法についても詳細を聞かねばならんところを見逃してやっているのは、愛子が頼み込んできたからだぞ? 少しは……モガッ」

 

他の神殿騎士達が慌ててデビッドの口を塞いだため、それ以上言葉が続くことはなかった。そもそも戦うつもりが無かった誠司達がこの場にいるのは愛子達がお願いしたからに他ならない。それなのにデビッドがそんな口を叩いて「なら戦うのを止めます」と言われて投げ出されては堪らない。他の騎士達はそれが分かっていたので慌てて止めたのだ。

 

愛子達もデビッドに冷めた視線を向けており、デビッドもそれに気付いたのか大人しくなる。気を取り直してハジメが愛子に尋ねた。

 

「それで、僕達に何か用ですか? そんなことを聞くためじゃないでしょう」

「は、はい。実は黒ローブの男のことですが……」

 

愛子の言葉には苦悩が滲み出ており、ハジメも誠司も彼女の言いたいことを察した。

 

「つまり、正体を確かめたいってことですよね? 生け捕りにして連れて来て欲しいと」

「……はい。どうしても確かめなければなりません。その……お二人には、無茶なことばかりを……」

「別に構いませんよ」

「え?」

 

無茶なことを言っている自覚があった愛子はハジメがあっさり了承したため、思わず呆けた声を出す。誠司もハジメの言葉に異論は無いようで、頷く。

 

「まぁ俺としても、その男のことは目的とか色々聞き出す必要はあるので問題はないですよ」

「中西君……ありがとうございま……「ただし」……ただし?」

 

誠司の言葉に首を傾げる愛子。他のクラスメイト達も同様だ。

 

「もしも仮に犯人がクラスメイトだったとして、甘い処分はするべきではないと思いますよ」

「え?」

「動機や目的は知らないが、そいつがやってることは重罪に変わりない。この騒動で少なくとも三人が犠牲になってる。これで甘い処分にすれば、保身のために隠ぺいする最低教師と同じですよ」

「そ、それは……」

 

愛子は言い淀む。確かに誠司の言っていることは正しい。だが、もしも清水に何かどうしてもやむを得ない事情があったら自分はどうしたら良いのか。こういう時に自分の無力さを呪いたくなる。

 

 

愛子の話が終わったのを見計らって、今度はティオが前に進み出て声を掛けた。

 

「ふむ、妾も良いかな? 頼みがあるんじゃが、聞いてもらえるかの?」

「………………ああ、ティオか」

「何じゃその反応は。もしかして忘れておったのか?」

 

明らかに存在そのものを忘却されていたティオは思わずジト目を誠司達に向ける。心の奥底でそれもどこか悪くないという感覚がしたが、気のせいだろう。ハジメやシアは忘れていたことの罪悪感から気まずそうに目を逸らす。

 

「とにかく……お主らはこの戦いが終わったらウィル坊を送り届けて、また旅に出るのじゃろ?」

「まぁ、そうだけど」

「そう、妾の頼みというのはそれでな。妾もその旅に同行させてもらえんかの?」

 

ティオの提案に驚きを見せる誠司達。シアが尋ねた。

 

「でも色々やることがあるのでは? そのために里を出て来たって言ってたじゃないですか?」

 

シアが『竜人族の調査』はどうするのか尋ねると、ティオもその質問は想定内なようで胸を張って答える。

 

「うむ、問題ない。お主らと同行する方が遥かに効率が良いからの。お主らにとっても妾が仲間になっても損はないと思うのだが……」

「………」

 

誠司は考え込む。確かにリザードンの状態での彼女はかなりの実力だった。戦力としては申し分ない。だが、彼女が竜人族である以上、仲間に引き入れた後でそれがバレれば厄介ごとになりそうな気もする。悩みどころだ。

 

その時、ユエが誠司達に言った。

 

「……皆、連れて行こう」

「「「っ!?」」」

 

いつもはあまり意思表示をしないユエがいつになく積極的に言うので思わず彼女の顔を見る誠司達三人。ユエの目は今までにないくらいに輝いている。自分が憧れと敬意を持っている竜人族が仲間になるというのだ。無理もない。

 

ユエの言葉を聞き、誠司達も顔を見合わせると、お互いに頷いた。確かにリスクはあるが、ティオの実力は確かだ。

 

「まぁ、頼もしいのは確かだしな。よろしく頼むよ」

「うむ、仲間にしたことを後悔はさせぬよ」

 

そう言って、誠司とティオは握手を交わす。続いてハジメ、シア、ユエとも握手を交わす。ユエは興奮で若干顔を赤くしていたが。

 

 

その時、ヌマクローを始めとした数体のポケモン達が反応し始めた。それを見たハジメは眼鏡を着用する。既にオルニスを北山脈方向に飛ばして見張らせてある。眼鏡のレンズにはオルニスを通した映像が映っている。

 

そこには様々なポケモンの群れが進軍している。ストライクやガメノデス、ラクライ、デンチュラ、モグリューといった実にバリエーション豊かなポケモン達が揃っている。しかし、中には見覚えのないポケモン達も混じっていた。恐らく、直前にまた洗脳して大群に追加したのだろう。

 

「いよいよか」

「……ハジメ」

「ハジメさん」

 

ポケモン達やハジメの反応から来るべき時が来たと悟る誠司達3人が、ハジメに呼びかける。ハジメは眼鏡を外して視線を三人に戻すと頷き、そして後ろで緊張に顔を強ばらせている愛子達に視線を向けた。

 

「来たよ。予定より大分早いけど、数がまた増えているね。多分30分くらいで到達するんじゃないかな?」

 

ハジメの言葉に顔を青くする愛子達。そんな彼女達を無視して誠司はポケモン達に声を掛ける。

 

「聞いたな。基本的にさっき言った作戦通りに動くんだ。手が空いたらすぐに他のポケモン達を手伝ってやってくれ」

『グオオォォォ!!』

 

全員が雄たけびを上げて返事をし、誠司はそれに頷くとボールに戻していく。ハジメ達も同様に自分のポケモン達をボールに戻す。誠司は振り返ると、愛子に言った。

 

「それじゃあ、畑山先生。万一に備えて戦える人達は壁際に待機させておいてください。もっとも、出番を作らせるつもりはありませんが」

「……分かりました。君達をここに立たせた先生が言う事ではないかもしれませんが、どうかご無事で……!」

 

愛子は少し眩しいものを見るように目を細めながら誠司達にそう言うと、町中に知らせを運ぶべく駆け戻っていった。騎士達は「こいつらで本当に大丈夫なのか?」と言いたげな表情を浮かべながらも黙って愛子に付いて行く。クラスメイト達も誠司達を複雑そうに見た後、愛子を追いかけて走って行った。

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