魔獣使いと錬成師が合わされば世界最強   作:マロニエ19号

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明けましておめでとうございます。今年も投稿を続けていきますので何卒よろしくお願いします。

新年早々、暗めの展開ですが、ご了承ください。


戦いが終わって……

ウルの町の戦いは表向きは()()()()で終わった。

 

戦いで荒れ果てた大地の整備という頭が痛い問題があるものの、町も住人も無傷という起きた事態に対してまさに奇跡としか言い様のない結果だ。その吉報は直ちに避難した住民達や周辺の町、王都に伝えられた。

 

町の周囲にはハジメが作った防護壁がそのまま残っており、戦いの一部始終を見届けた者達は、いかに常識を超えた戦いだったのか、避難させた家族や友人達に必ず語り聞かせようと強く心に誓った。そして、避難していた商人達もハジメの防護壁の存在を知れば、抜け目なくウルの町の新たな名物として一儲けしようと考えることだろう。しかし、町の住人の大半は知らなかったが、誠司達や愛子達といった、この戦いの関係者達にとっては深い心の傷を残す結果に終わった。

 

それがケンタロスの死だった。

 

実はケンタロスの体は毒に侵されていた。清水やカラマネロと最初に相対して“メガホーン”を命中させた際にカラマネロも同時に“どくどく”を使っていたらしく、ケンタロス自身、気付かぬ内に毒状態にされていたのだ。そして、ケンタロスは体中を猛毒が蝕む中、緊張状態のままカラマネロと交戦したことで力尽きてしまった。

 

魔獣図鑑の技能はポケモンの健康状態についても調べることが出来る。つまり、ケンタロスが毒状態になっていたことは魔獣図鑑で調べればすぐに分かったはずなのだ。だが、誠司の油断と判断の甘さが原因でそれを怠ってしまい、結果としてケンタロスを死なせてしまった。誠司はそう考えていた。ちなみにケンタロスの亡骸はハジメが作った棺に入れて宝物庫の中にある。後で火葬する予定だ。

 

 

戦いを終えて一日経った今、誠司達は水妖精の宿の二階の客室にいた。依頼を終えた以上、もうこの町に留まる必要もないのだが、誠司達にはまだやることがあった。

 

戦いで怪我をしたポケモン達の治療だ。神水や回復魔法だけでは完全に回復しないため、少し時間をかけて治療する必要があったのだ。怪我をしたポケモン達は体に包帯が巻かれ、ベッドやテーブルの上で苦しそうに呻いている。

 

避難せずにこの町に留まっていたフォスには感謝しかない。魔獣であるにも関わらず、「町を救ってくれた英雄に報いたい」と言って宿の部屋を療養のために快く貸し与えてくれたのだから。

 

そして、誠司達はポケモン達の治療を何とか全員分終えた。治療を終えると、ユエとシアとティオは先に別室で休みに行った。今、部屋に残っているのは誠司とハジメの二人だけだ。二人とも椅子に力が抜けたように腰掛け、大きく安堵の息を吐く。

 

「……何とか全員分、終わったね……」

「……ああ」

 

誠司の返事は心ここにあらずといった感じだ。ハジメは少し話題を変えるように、あるポケモンについて尋ねた。

 

「ねぇ、チリーンの容態はどう?」

 

ハジメがチラリとベッドに横たわっているチリーンに目を向ける。チリーンは他のポケモン達以上に包帯が巻かれ、時折苦しそうにしている。手持ちのポケモン達の中では一番重傷だ。誠司は暗い顔のまま答えた。

 

「……酷い。“じごくづき”のダメージが大きすぎる。以前のように動くことは難しいだろうな……」

「……そっか……」

 

ハジメは沈痛な表情を浮かべながら頷いた。誠司は続ける。

 

「それに……精神的なダメージも大きい。トラウマになっているのかもしれない。しばらく療養をさせてやる必要があると思う」

「療養……療養か……」

 

誠司もハジメもどうしたものかと頭を抱える。療養と一言で言っても簡単なことではないからだ。その時、二人に声が掛かった。

 

「あの、よろしいですか?」

 

誠司とハジメが振り返ると、そこにはフォスが立っていた。手には握り飯が四個乗った皿を持っている。

 

「お腹が空いているかと思い、食事を持って来ました」

 

フォスの言葉に二人は納得したように頷き、礼を言って受け取る。誠司とハジメは美味しそうに握り飯を頬張る。握り飯は塩がよく効いていて疲れが取れる。美味しそうに食べる誠司達をフォスは嬉しそうに眺めている。そして、ベッドで横たわるポケモン達を眺め、悲痛さを讃えた表情を浮かべる。

 

「あの、実は誠司殿達の話を聞いていたのですが、そちらのチリーンの療養先を探しているのだとか?」

「ええ、だけど魔獣である以上、一筋縄にはいかないのが現状で……」

「もしもよろしければ、当宿でそちらのチリーンを預からせてもらえませんか?」

 

寝耳に水なフォスの提案に誠司もハジメも思わず、彼の顔を凝視する。

 

「当宿って……水妖精の宿でですか? それは俺達としては有り難い申し出ですが、どうしてまた……?」

 

誠司が何を企んでいるんだと思わず疑わしげな視線を向けてしまう。フォスは苦笑しながら理由を明かした。

 

「いえいえ、これは私なりのお礼です。あなた方には既に返し切れない程の恩がありますから。少しでも恩を返したい。私はそう考えています」

 

フォスの言葉には嘘は感じられない。心からの本音のようだ。ハジメは心配そうに尋ねた。

 

「でも、魔獣を宿に預けても大丈夫ですか? もしもそれでこの宿の評判とか下がってしまったら……」

 

フォスの人柄はハジメも好いていたため、彼に迷惑が掛かってしまうのではないかと考えたのだ。しかし、ハジメの質問にフォスは優しく笑みを浮かべながら答えた。

 

「その心配は無用ですよ。この町は善の心に目覚めた魔獣によって守られましたし、それに……当宿は人間族限定の宿ではありませんから」

 

フォスが言うには、この水妖精の宿の名前の由来は、ずっと昔に水属性の妖精のような魔獣、マナフィを泊めたことがキッカケとのことだ。流石に魔獣ではイメージが悪すぎるとのことで『水妖精』と表現しているのだそう。なので、フォスとしては魔獣に対してそこまで悪感情はないらしい。

 

そこまで言われたら誠司としては断る理由は無かった。ここはチリーンの意見も聞いておきたい。誠司はチリーンの元まで近付くと、チリーンに自分はどうしたいか尋ねる。怪我の影響でチリーンは声が出せなかったが、コックリとぎこちなく首を縦に振った。

 

それを見た誠司は「分かった」と小さく呟くとフォスに向き直った。そして、彼に「チリーンをよろしくお願いします」と頭を深く下げた。それを見たフォスは顔を引き締め、「任せてください」と返す。まだチリーンの調子は良くないので、チリーンをモンスターボールに戻したり、ボールを渡すのはもう少し後だ。

 

誠司とハジメはフォスに何度もお礼を言うと、一旦自分の部屋に休むことにした。疲れが今になってドッと来たようでもうクタクタだ。そして、部屋を出た時、今の二人にとって正直あまり会いたくない人物に会った。

 

「…………あ」

「「…………」」

 

愛子は二人の顔を見て小さく声を漏らす。何て声を掛ければ良いのか分からなかったのだ。一方の誠司とハジメは愛子の顔を見て少し顔を顰めるも、何も言わずに自室へ向かう。

 

「ま、待ってください!」

 

愛子に呼び止められ、二人は振り返る。それから少しの間、沈黙が流れる。それは僅か五秒くらいだったが、愛子にとっては数時間にも感じた。やがて絞り出すような声で尋ねた。

 

「あ、あの……ポケモン達のお怪我は大丈夫でしたか?」

「……今、治療を終えた所です。ひと段落したので俺達も休もうかと」

「ずっと徹夜で治療してたので眠いんです」

「そ、そうですか……」

 

愛子はぎこちなくそう言うと、やがて本題を切り出した。

 

「あの……中西君、南雲さん、本当に何て言ったら良いのか……」

「……まさか謝るんですか?」

「……え……?」

 

愛子が本当に申し訳なさそうに言った言葉を誠司が遮った。言葉を遮られて愛子がゆっくりと顔を上げると、思わず息を呑む。

 

自分を見る誠司の瞳には怒りや悲しみ、そして失望が浮かんでいた。隣のハジメも何も言わないが誠司と同じ気持ちのようだ。とても生徒が教師に対して向けるものではない冷たい眼差しに愛子は身体の震えが止まらなかった。

 

「畑山先生は正しいと思って、信念を持って俺達に戦うように頼んだんでしょう? それなら謝らずに胸を張って堂々としていてください」

「あ……う……」

「……先生」

 

誠司の言葉に愛子は何も言えなくなってしまう。ハジメも口を開いた。

 

「あのまま町を見捨てていても住人が全員助かるとは限らなかった。それに町が蹂躙されれば多くの人の生活が苦しいものになったのも確かです。そういう意味では、先生は正しいことをしたんです。……結果はどうであれね」

「南雲…さん……」

 

愛子は項垂れる。それを見た誠司もハジメもそのまま自室へ入って行った。一人残された愛子はポツリと誰にも聞こえないくらいの声量で呟いた。

 

「ごめんなさい……」

 

この言葉が誰に向けたものなのか、それは愛子自身も分からなかった。

 

 

 

部屋で数時間の仮眠を取った誠司達はウィル達を連れてさっさと町を出ることにした。誠司達は改めてフォスにお礼を言ってモンスターボールを渡し、チリーンにも別れを告げた。チリーンはフォスの側で手を小さく振っている。誠司としても別れは辛かったが、今のチリーンには療養が必要だ。

 

宿を出て、町の整備を手伝っていたウィル達と合流するとすぐに出発の準備を始めた。町の重鎮達としては、彼らを引き止めたかったが、流石に町の危機を救ってもらいながら失礼だろうと思い、TPOを弁えて自重した。それに町を守ってもらった()()のこともある。

 

一行はプリーゼに乗り込んでいく。ウィルはまだ行っている町の事後処理に後ろ髪引かれる思いがあるものの、自分が色々と場を引っ掻き回してしまった罪悪感から何も言えず大人しく車内に乗り込む。全員が乗り込んだのを確認し、誠司とハジメも乗り込もうとしたその時、声が掛かった。

 

「ま、待ってくれ! 中西、南雲!」

 

声がした方を振り返ると、淳史達クラスメイトが大慌てで走って来た。更に後ろには優花が妙子と奈々に支えられた状態で必死にこちらに向かっているのも見える。正直、彼らを無視してプリーゼに乗り込んで発進させても良かったのだが、向こうには怪我人もいるので一応話だけは聞くことにした。

 

「一体何の用だ?」

「どうしたの? 皆、そんなに息を切らして」

 

二人が尋ねる。敦史達は少し決まり悪そうにお互いの顔を見合わせ、頷くと全員深く頭を下げた。

 

「ありがとう! この町を助けてくれて! そして、本当にごめん!」

「色々やってくれたのに俺らは結局何も出来なかった……! それにケンタロスのこともあって正直、二人に会うのも凄く怖かったんだ」

「でも、それでも何もしない、何も言わないは違う気がして……」

 

敦史達が口々にそう言っている間に優花達も追いついた。優花達も頭を下げる。

 

「中西、南雲。前にも言ったけど、私は、私達は絶対に無駄にはしない。今回もあの日も私達を助けてくれたことを。この先、何の役にも立たないかもしれないけど立ち止まることだけはしない」

「園部さん……」

 

優花の決意にハジメが思わず彼女の名を呼ぶ。以前より良い目をしているのが分かったからだ。優花達の言葉を聞いて誠司も口を開いた。

 

「俺達やポケモン達は自分の仕事をしたまでだ。決意表明が済んだんなら俺達は行くぞ」

「うっ…… そ、そう……だよね……」

「ちょ、ちょっと、誠司。流石にそんな言い方は……」

 

取りつく島もない誠司の言葉に優花達は落ち込み、ハジメも流石にその言い方はどうなの?と注意する。しかし、車内に乗り込む前に言った。

 

「お前ら、何か勘違いしてるのかもしれないが、遠征ってのは帰るまでが遠征だぞ。だったら、自分の仕事に専念しろ。特に男子三人。帰りは畑山先生だけじゃなくて怪我人もいるんだ。男ならちゃんと最後まで守り通せ」

「「「あ、ああ……!」」」

 

言うだけ言って誠司は助手席に乗り込むと、腕を組んで沈黙を貫いている。もうクラスメイト達と話すことはないと言うかのように。それを見てハジメも苦笑しながら運転席の方に向かう。ハジメは優花に向けて言った。

 

「園部さん、前よりずっと良い目をするようになったじゃない」

「えっ?」

 

ハジメから指摘されて優花は少し顔が赤くなる。ハジメはそのまま運転席に乗り込むと魔力を通し始める。それにより、プリーゼからはエンジン音が響き始める。窓を開けてハジメは続きを言った。

 

「君のようなタイプの人間は強くなるよ。……まぁ、多分だから根拠は無いけど。それじゃあね」

 

プリーゼは発進し、そのまま次の町フューレンへ向かう。優花達はその姿が見えなくなるまで見送った。




原作では愛ちゃん先生との再会は、ハジメの心に光を差し込む展開でしたが、今作では誠司達の心に暗い影を落とす展開になってしまいました。随分対称的になったものです。

また、ケンタロスの死についても、当初の予定ではカラマネロとの戦いで満身創痍になり、誠司の制止も聞かないまま無謀に突っ込んで殺される展開を考えていました。しかし、その展開では色々納得がいかなかったのでこのような展開になりました。
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