イメージは湧くけどいざ文章にしようとすると……
ウルの町を出た誠司達は現在、プリーゼに乗ってフューレンに向けて疾走している。運転席には当然ハジメ、その隣の助手席には誠司が座っている。後部座席には他の面々が乗り込んでいる。そんなプリーゼの車内は重苦しい空気に包まれていた。
何せ誰も口を開かないのだ。誠司やハジメ以外の者は居心地悪い思いをしていた。「お願いだから誰か喋ってくれ」と言うかのように互いにチラチラ目配せをする。その時、シアが何かを思い出したかのようにあっと声を上げる。車内の者は内心助かったと思いつつ、シアに視線を向ける。
「あの、そういえば忘れてましたけど、あの男の人……清水さん……でしたっけ? カラマネロに操られてた男の人はその後どうなったんですか?」
誠司達はポケモンの治療やらでバタバタしていたため、清水の処分は聞いていなかったのだ。ハジメもそういえば……と気になった。
「確かにね。どういう判断になったんだろう? 先生とかに聞いておけば良かったな」
そんな彼女達の疑問に答えたのは後部座席に座っているウィルだった。
ウィルの話によると、戦いが終わった後に清水は取り調べのため既に王都に向けて護送されたらしい。刑は取り調べの後で決めるとのことだ。まるで犯罪者のような扱いに、愛子は少し難色を示したものの、神殿騎士達の説得でようやく首を縦に振った。
操られていたとは言え、彼は魔人族と協力関係を持っていたのだ。戦争中のこの世界で利敵行為を働けば、本来であれば問答無用で晒し首だ。そうなっていないのは神の使徒として失うのが惜しいという点や、操られていたという事情を考慮されているからに他ならない。愛子もそう言われてしまうと閉口せざるを得なかった。戦いの前に誠司から言われた「甘い処分にするべきでない」という言葉も効いていた。
また、清水はあれ以来、憑き物が落ちたように大人しくなったらしい。しかし、時折ブツブツと妙なことを口走っていたらしく、彼を護送する護衛達は気味悪がっていた。恐らくカラマネロの強すぎる催眠術を長時間受け続けたことの副作用だろう。時間が経てば治る……はずだ。
「まぁ、無難な結果か……死罪にはならんだろうが、何かしらのペナルティーが付くのは間違いないな」
「そもそも、どうして一人で山脈地帯に行ったのかって疑問もあるしね。それを明らかにするために取り調べをするんじゃないかな」
誠司とハジメがそう言って話を締めると、車内には再び沈黙に包まれる。その時、誠司が口を開いた。
「なぁ、ウィル。一つ聞いておこうと思っていたんだが……」
「は、はい。何でしょう……?」
誠司に指名されて不安そうに返事をするウィル。自分の我儘のせいで周囲を振り回してしまい、その結果犠牲者を作ってしまったため、誠司からどんな恨み言を言われるのか恐ろしくて仕方ないのだ。だが、誠司から言われた言葉はウィルにとって意外なものだった。
「お前、今後どうするつもりだ?」
「……え?」
てっきり恨み言を言われるのかと思っていたウィルは思わず呆けた声を上げる。
「はっきり言うが、お前に冒険者は向いていない。技術的にも精神的にもな」
「そ、それは………」
ウィルは言い淀む。確かに今回のことで自分の考えの甘さや冒険者という職業の過酷さを嫌という程知った。出発前に抱いていたイメージはとうの昔に崩れてしまっている。誠司は言葉を続ける。
「それでも冒険者になりたいなら止めはしないが、次は間違いなく死ぬだろうな」
「私は、私は………」
「貴族だろうと冒険者だろうと良い所もあれば悪い所もある。お前は冒険者の良い所しか見ようとしなかった。それが今回の結果になったんだろ?」
「ううっ……」
「これからどうしたいのか、ちゃんと考えておくんだな」
誠司の冷たい言葉にウィルはもう反論する気力もなかった。そして、再び車内には重苦しい空気が流れ始めた。
しばらくプリーゼを走らせるうちに日が沈み、周囲が暗くなってきた。フューレンに到着するのは翌日になりそうだ。誠司達は野宿をすることになった。簡易テントをウィルやゲイル達にも貸し、それぞれ設営を終えると、誠司達は火を起こして食事の準備を始める。
ウルの町での戦いで新たに仲間にしたポケモン達もいるので食事の量は多めにしている。今回ウルの町の戦いで仲間になったポケモン達は六体である。誠司はガメノデス、モグリュー、シュバルゴの三体を、ハジメはベロバーを、ユエはラクライを、シアはデカヌチャンを捕獲している。新しく捕獲したポケモン達も手伝ってくれたので早めに準備を終えることが出来た。
食事の時間になり、シアが作った野菜シチューを美味しそうに頬張る誠司達。クルトとゲイルが嬉しそうに言った。
「しっかし、野宿でこんなに旨い飯が食えるなんてな。有難いよ」
「ああ、冒険者の仕事をやっていると、野宿では干し肉とか簡単なものしか食えないからな」
「フフフ、そう言ってくれると作った甲斐がありますよ。お代わりもありますのでどんどん食べてください」
シアがそう言うと、二人とも礼を言う。クルトが懐かしむように言った。
「シアちゃんの料理食べてると、うちの女房の料理が恋しくなってくるぜ」
「おいおい、まだ依頼に出て数日だぞ。数年とかじゃないんだから。もうホームシックかよ?」
ゲイルが揶揄うように言うと、クルトが笑いながら言った。
「悪いかよ。今回の依頼は色々あったからな。家族が恋しくなるっての。てか、ゲイル、お前も早く会いたいんじゃないのか? お前の恋人によ」
「まあな。ようやく結婚の目処が立ったからな。会うのが待ち遠しいよ」
「へぇ、ゲイルさん結婚するんですか?」
ハジメが興味深そうに尋ねた。誠司や他の面々も微笑ましそうな表情を浮かべている。ゲイルは嬉しそうに答えた。
「おう! この依頼を終えたらな。
「え……? 男二人?」
思わずフリーズするハジメ達にウィルが苦笑しながらそっと耳打ちする。
「えっと、ゲイルさんの相手は男なんですよ……」
ウィルの言葉でゲイルのフルネームを思い出し、名は体を表すとはよく言ったものだと誠司達は感心した。
そんな時、ゲイルとクルトの顔が急に真面目なものに変わった。何事かと疑問を浮かべる誠司達にゲイルが口を開いた。
「なぁ、皆は故人を偲ぶ会ってどんなのだと思う?」
「……え?」
誠司達は「いきなり何を言い出すんだ?」と一様に怪訝な表情になる。しかし、二人の真剣な顔から冗談ではないことが分かり、シアやティオが思い出しながら答えた。
「えっと……私の所ではその人の思い出を一晩中語り明かしたりしましたね」
「うむ。妾の所も似たようなものじゃな。後は、その者の好物を供えたりなんかもしたの」
シアとティオの言葉に他の者達も頷いている。他も似たようなものである。
「まあ。大体そんな感じだろうな。思い出話をしたり好物を供えたり。だが、俺達冒険者の場合は更にもう一つ大事なルールがあるんだ」
「ルール?」
誠司が思わず聞き返す。ハジメ達も興味深そうにしている。ゲイルは言った。
「それはな…………これでもかってくらいに騒いで、楽しむことだ。宴会のようにな」
『……は?』
故人を偲ぶ会にはとても似つかわしくないルールに誠司達は思わずずっこけそうになる。日本でも明るい雰囲気でやる場合もあるが、流石にそんな宴会みたいにはやらない。シアが思わず言った。
「でもそれってちょっと不謹慎じゃないですか?」
シアの疑問にゲイルは手をひらひら振って答える。
「まぁまぁ、そう言いたくなる気持ちは分からなくねえけどよ。でもそれが俺達、冒険者流の偲ぶ会ってもんなんだ」
「そもそも俺達の仕事はいつ死ぬか分からない危険な仕事だからな。今日生きられても明日に死ぬなんてザラだ」
クルトが笑いながらシビアなことを言う。ウィルの顔は強張る。依頼の始めの時にもゲイル達から似たようなことを言われたが、自分に限って大丈夫とか根拠もなしに思っていた。だが、仲間が死んだのを目の当たりにした今ではとても笑えなかった。ゲイル達が言葉を続ける。
「だからこそ、騒いで楽しむんだ。生き残れたことに感謝し、そしてこれからも生き残ってやるって決意を込めてやるんだよ」
「後は、死んだ奴らに向けたメッセージでもあるな。『俺達はお前らがいなくても大丈夫。だから心配するな』って意味を込めて」
『ああ……』
二人の言葉に誠司達は納得の声を上げた。
確かに冒険者は過酷な職業だ。仕事の途中で命を落とすことも珍しくない。だからこそ生き残ることの出来た自分への労いに酒を飲んで自分を励ます。
それに仲間の殉職にいちいち悲しんで、引き摺っていては次の仕事で支障をきたして自分が死んでしまうかもしれない。もしもそうなったら、先に死んだ者も浮かばれないだろう。だから騒ぐ。死んだ者の分まで騒いで楽しんで、死んだ者を安心させる。それが冒険者流の別れなのだそう。もっとも、ただ飲んで騒ぎたいだけなのかもしれないが。
「それで……だ。折角だから今回の依頼で逝っちまった奴らのお別れを今晩しようと思うんだが、どうだ?」
ゲイルはそう言いながら鞄から酒瓶を数本取り出した。クルトも同様に自分の鞄から酒を取り出す。彼ら曰く出発前にウルの町で購入したものらしく、野宿する際に飲むつもりだったらしい。
誠司達は顔を見合わせる。やがて誠司達は頷いた。
「そうだな。ここは試しに冒険者流の別れをしてみるか」
「よし! そうこなくちゃな!」
ゲイル達はコップに酒を注いでいく。そして、全員分のコップに酒を注ぎ終えると、ゲイルは自分のコップを掲げて音頭を取る。
「それじゃあ、先に逝っちまったナバル、レント、ワスリー、そしてケンタロスに……乾杯!!」
『乾杯!!!』
誠司達は自分のコップを叩き合わせると、酒を煽る。稲作が盛んな町なだけあって日本酒のような酒だった。
「プッハー! この酒美味いな。流石ウルの町の酒だぜ」
「ああ、この一杯のために生きてるって感じだ。あ! そういえば、ナバル達の話をするのはティオさんにはちょっと無神経だったか?」
「いや、妾には彼らのことを知る義務がある。是非教えてくれんかの?」
「……そうか、分かった。ナバル達とはな……」
こうして誠司達はそれぞれの思い出を語り明かした。その者との出会いや共に乗り越えてきた冒険の数々を。
誰もが先に逝ってしまった仲間を想い、笑顔を浮かべていた。しかし、笑顔を浮かべる彼らの目は潤んでいた。
冒険者の故人の偲び方ってこんな感じなんじゃないかと思って書きました。
ゲイル達が飲もうと言ったのは、誠司達が意気消沈していて空気が重苦しく、限界だったのも理由です。
次回からフューレンに戻ります。