部屋を出て宿に向かう途中、誠司達はゲイル達に遭遇した。ゲイルとクルトは誠司達を見ると、嬉しそうに笑みを浮かべる。
「よう、最年少の金ランク冒険者様じゃないか」
「随分と出世したもんだぜ」
ゲイル達の言葉に誠司はピクリと頬を引き攣らせる。
「もうそれが伝わっているのか……」
「そりゃあな。ギルド内はそれはもう大騒ぎだったよ。でもまぁ、お前さん達なら金ランクになっても驚きはしないがな」
「ああ、なるべくしてなったって感じだな」
ゲイルもクルトも自分達よりもずっと若い誠司達が大出世したのに全く妬む様子はなかった。それどころか自分のことのように喜んでくれている。そんなゲイル達が誠司やハジメにはどこか眩しく見えた。
「それにしても色々妬まれそうだなって思ったんだが……」
「うん、他の冒険者達からしたら面白くないだろうしね……」
「そりゃあまぁ、お前さんらの出世を妬む奴らは多いだろうがな」
「少なくとも俺らにそんな気持ちは全然ねえよ。文句なしの実力を山脈地帯やウルの町で見せてくれたんだ。これで出世しなかったら俺らはこれから何をすれば昇格するんだって話だしな」
笑いながら言ったクルトの言葉にハッとした表情を浮かべる誠司。確かにこれで自分達が昇格しなかったら、今後他の冒険者が何か依頼で手柄を立てても昇格しにくくなってしまう。昇格する時に今回の誠司達の働きと比べられたら多くの冒険者が昇格出来なくなるだろう。そういう意味でも今回の誠司達の昇格は正しいことだったのだ。誠司はそれにようやく気付いた。
それから少しの間、誠司達はゲイル達との話に花を咲かせる。
ゲイル達も今回の依頼では、非常に強力な魔獣(言うまでもなくティオのことだが何とか伏せてもらった)の登場というアクシデントが考慮されたことで失敗という扱いにはならず、更に護衛対象であるウィルを命がけで守り通したことが評価されてゲイルとクルトの手元には本来の報酬の倍以上の額が支払われたらしい。また、ウィルを守り通したことをウィルの父親であるクデタ伯爵からもたいそう感謝されたそうで伯爵家と繋がりを持つことが出来た。犠牲は大きかったものの得られたものも大きい結果に終わったようだ。
「それからお前さんらはこれからどうするんだ?」
ゲイルが誠司達に思い出したように尋ねる。
「そうだな。しばらくフューレンに滞在したらグリューエン大砂漠の方へ向かおうかと。途中、ホルアドに寄ったりしますが」
「そうか…… じゃあ結婚式への招待は流石に無理か……」
残念そうに肩を落とすゲイルに誠司達は思わず苦笑いを浮かべる。誠司としては男同士の結婚式がどんなものになるか少し興味があったが、やめておいた。凄い絵面になりそうだからだ。現に隣のクルトはげんなりした表情を浮かべていた。クルトは気を取り直したように咳払いする。
「俺はしばらく家族とゆっくりするかな。命からがら帰ってきたんだ。当分は家族サービスにでも勤しむよ」
「ああ、それが良い。次の仕事じゃどうなるか分からんからな」
ゲイルはクルトの背中をバンバン叩いて、豪快に笑った。クルトは痛そうにしつつも笑う。あんな思いをしたのにまた依頼をする前提で話している彼らの“強さ”に思わず敬意の念を持つ誠司達。プロというのはこういう者を指すのだろう。
「今回の依頼ではありがとうな。来てくれたのがお前さんらで本当に良かった」
「どういたしまして。こちらこそ冒険者として色々と参考になりました」
誠司達はゲイル達と握手を交わして彼らと別れると、宿に入った。
宿のVIPルームは最高の一言だった。高層階に位置しているため、窓からの眺めは良く、シアなんかは下を眺めながら「人がまるでゴミのようですぅ」とどこかで聞いたことのある台詞を口にしていた。ソファや絨毯もフカフカで下手したらつい眠りこけてしまいそうだ。
「うわぁ……凄い……」
「こんな良い場所で休めるのは召喚されて以来だな」
これからの生活水準が狂いそうだと思っていると、部屋の扉が開いた。何事かと振り返ると、女性の従業員がかしこまった様子で一礼する。
「失礼致します。お客様、クデタ伯爵ご一家様がお見えになりました」
従業員の後ろにウィルや彼の両親らしき男女が立っていた。従業員が部屋を出ると、誠司達とウィルの両親であるクデタ伯爵夫妻はそれぞれ挨拶を交わす。かつて王宮で見た貴族達と異なり、随分と筋の通った人達のようだ。ウィルの人の良さも納得の両親だった。
ウィルの父親であるグレイル・クデタ伯爵はしきりに礼をしたいと家への招待や金品の支払いを提案したが、誠司達は固辞する。その代わりに何か助けを必要とした際に便宜を図ってもらうことを提案し、クデタ伯爵はそれを了承してくれた。
「あ、そうだ。ウィル、ちょっと待ってくれるか?」
「え? はい、何ですか?」
話が終わってクデタ伯爵夫妻が去ろうとした時、誠司がウィルを呼び止める。呼ばれたウィルは少し不安そうに誠司の方に振り向いた。
「昨日の質問の続きだ。これからどうするつもりだ? 冒険者を目指すのか?」
誠司の質問にクデタ伯爵夫妻は心配そうにウィルを見つめている。そして、ウィルは少し答えるのに躊躇いつつも、やがて途切れ途切れになりながらも答えた。
「今回の…ことで、私には足りないものが多すぎることを学びました。私が元々冒険者を目指したのも自分自身の力で誰かの役に立ちたいと思ったからです。でも今の私ではまだそれに至らない…… 今の私でも人の助けになるやり方をこれから探していきたいと思います」
最初は途切れがちだった声も最後には力が入っていく。誠司はウィルの言葉を黙って聞いていた。
「そうか。ならしっかり考え続けることだ。思考停止すればそれしか見えなくなる」
「……はい! 頑張ります!」
ウィルは顔を興奮で少し赤くしつつも、誠司の言葉に力強く頷いている。クデタ伯爵夫妻もそんなウィルの様子に微笑ましげに見て、次いで誠司達に目礼して部屋を出た。
ウィル達が去り、誠司はソファに座って大きく伸びをする。
「ふぅー-、これで本当の意味で依頼完了か」
「だね。何かドッと疲れた……」
シアがおずおずと手を挙げる。
「あの~、誠司さん、ハジメさん。フューレンはいつ出発するんですか?」
「しばらく滞在で良いだろ。食料の買い出しとかも必要だし」
「折角だし、数日はゆっくり休もうよ。今日はもう疲れた……明日から買い出しとかしよう」
誠司とハジメの返答にシアは嬉しそうに目を輝かせた。
「じゃ、じゃあ、明日から買い物がてらにちょっとこの町を観光しませんか?」
シアの提案にユエやティオも乗っかる。
「……ん。偶にはゆっくり観光もありだと思う。大きな商業都市だから良いものが売ってるかもしれない」
「そうじゃの。しばしの気晴らしも旅には必要じゃよ」
「本当はお前らがただ観光したいだけなんじゃないのか?」と内心突っ込む誠司とハジメだったが、確かにユエやティオの言うことにも一理ある。なので、明日買い物がてらこの町を見て回ることにした。
その夜、誠司達は宿のVIPルームではなく、トランクの中にいた。トランクの中には誠司達とポケモン達が一つの棺の周りをぐるりと囲んでいた。棺の中にはケンタロスが眠っていた。これからケンタロスの亡骸を火葬するのだ。
「良いな?」
「うん」
「……準備は出来てる」
すると、キュウコン、ラビフット、シャンデラが前に進み出る。誠司、ハジメ、ユエはそれぞれ指示を出す。
「キュウコン、“かえんほうしゃ”!」
「ラビフット、“ひのこ”!」
「シャンデラ、“かえんほうしゃ”!」
キュウコンとラビフットとシャンデラの炎がケンタロスの棺を包み込む。勢いよく燃える炎を前に今度はヌマクローやガメノデス、モグリュー、ホルビーが立ちはだかる。炎が燃え広がった時にすぐに消火出来るようにするためだ。誠司達やポケモン達は燃える炎をジッと眺めていた。途中、熱膨張によって棺が壊れてケンタロスの亡骸がのけ反ったりした。魚を焼く時に熱で身が反り返るのと同じ理屈だ。だが、誠司達の目には、ケンタロスがこの世に未練を残して苦しんでいるように見えた。
しばらく炎は燃え続け、炎が収まると、誠司達は遺骨を取り出した。遺骨をハジメが作った骨壺に収め、最後に片方の角を砕いて出来た欠片を入れて骨壺に蓋をする。ケンタロスの墓は、生前ケンタロスが過ごしていた草原エリアの近くに建てられた。墓石にはケンタロスと刻まれている。墓石の近くにもう片方の角も供える。
埋葬を終えた誠司達はしばらく墓の前で黙祷をした。その間、誠司達は動くことはなかった。
ゲイルとクルトは原作には登場しないので人物像が不明なため、実質オリキャラになりました。しかしイルワが見込み、ウィルが慕った者達なので冒険者としても人としても優れていたのではないかと思います。
次回、ありふれのアイドル的存在である、あの幼女が登場します。