「……誠司」
「ああ、俺達の後を付けて来てる奴らがいるな」
ギルドの建物が見えて来た頃、人混みの中から漏れる視線や気配に気付いた誠司達は顔を顰める。もう追手が来たらしい。彼らとしても逃した商品を取り戻すために躍起になっているはずだ。このまま人混みの中にいたらどうなるか分からない。なので、一旦、人通りの少ない裏路地へ向かうことにした。ミュウは先程までと違う誠司達の様子から不安そうな顔をしていた。
そんな誠司達の行動を見た、柄の悪い恰好をした男達はしめたとほくそ笑む。わざわざ誰も助けに来ないような場所へ自分から行ってくれたのだ。人を殺してもバレる確率はかなり低い。しかも、今なら海人族の子供だけでなく、上物の女達も手に入れることが出来る。
「裏路地に入った。おい、行くぞ」
「ああ、男は殺して女と海人族のガキは頂くぞ」
「ついでにあの女達で楽しめるかもな」
男達は顔を見合わせて意気揚々と裏路地に入った瞬間、男達の身体が動けなくなった。強い身体の痺れが男達を襲ったのだ。その直後に背後にガチャンッという音が聞こえたような気がしたが、今の男達にそんなことを気にする余裕はなかった。
「ぐがっ!? 身体が……!」
「な、なんだ、痺れて動け……」
「おい! 早く応援を呼んで来い!」
「わ、分かった! ………あ、あれ? 出られねえ! 何でだ!?」
「ああ!? 何ふざけてんだ! 早く応援を呼べよ!」
「だから出られねえんだよ! 何でか知らねえけど……ぐががっ!」
「……悪いけど、お前らは当分ここから出られないよ」
『っ!!?』
暗がりから現れたのは誠司達だった。傍らにはクレッフィ、ベロバー、ラクライがいる。まず男達が入った瞬間、クレッフィの“フェアリーロック”で逃げ道を封じると“でんじは”で痺れさせて動けなくしたのだ。男の一人が虚勢からか喚いた。
「て、てめえら! 俺らフリートホーフにこんな真似して唯で……」
「ほう、フリートホーフっていうのか。お前らの所属する組織は」
誠司がそう言うと、喚いた男は「しまった!」という表情を浮かべ、他の男達が口を滑らせた男を睨み付ける。ミュウを売ろうとしたり子供達を売っていた組織の名前が分かったのでもうこの男達に用はない。なので、男達を逃げられないようにしっかりワイヤーで拘束し、ハジメの錬成で身体の半分近くまで埋めた。男達の喚き声をBGMに誠司達は呑気に会話をする。
「これでよし……と。じゃあ、ギルドに向かおう」
「ああ、イルワ支部長から色々聞きたいこともあるしな」
誠司達は裏路地を出ると、近くに倒れていた通行禁止の看板を裏路地の前に立てた。
誠司達の顔は既に知れ渡っているようで、イルワと話をしたいと言えば、すんなり通すことが出来た。そのままイルワの部屋に入ると、イルワはドットと仕事の話をしていたようだ。話を割り込まれる形となったドットは少し顔を顰め、イルワは呆れた表情で溜息混じりに尋ねた。
「はぁ…… 君達、今度は一体どんなトラブルに巻き込まれたんだい? よっぽどの急用なんだろう?」
「ええ、もちろん。イルワ支部長、フリートホーフという組織に聞き覚えは?」
組織の名前を聞いた途端、イルワとドットの表情は険しくなった。どうやら、予想以上に悪名を轟かせている組織のようだ。ハジメも口を開いた。
「実は先程襲われまして、正当防衛として返り討ちにしました。ギルド近くの裏路地に全員拘束して逃げられないようにしています。それとどうやら、フリートホーフという組織は海人族の子供を誘拐していたみたいで、イルワさんに相談に乗って頂きたいんですが……」
ハジメはそう言いながら、傍らのミュウに視線をやる。イルワはミュウを見て更に表情が険しくなった。
「……なるほど。大体の事情は分かったよ。まずはその襲ってきた者達を捕らえる必要があるね。確か、近くの路地裏だったか。ドット君、頼む」
「畏まりました」
イルワはドットに男達を拘束するように手早く指示を出す。ドットは頷いて部屋を出た。誠司達はイルワの案内で昨日の応接室に通された。
「ふむ。あいつら、海人族の子供まで誘拐するとはな……」
誠司達から詳しい事情を聞くと、イルワは難しい表情を浮かべた。ハジメはイルワに尋ねた。
「イルワさん、そのフリートホーフってのはどういう組織なんですか?」
「……このフューレンにおける裏世界の三大組織の一つだよ。何とかしたいのだが、正直手を焼いているのが現状なんだ。彼らは明確な証拠を残さず、表向きはまっとうな商売をしていて仮に現行犯で検挙してもトカゲの尻尾切り状態。恥ずかしながら彼らの根絶は夢物語と言っても良い……」
『…………』
悔しそうに拳をギュッと握り締め、項垂れるイルワ。そんなイルワに誠司はあることを切り出した。
「それならあなたの依頼ということでフリートホーフを潰す依頼を俺達に出してもらいたい」
「っ!? 本気かね?」
誠司の提案にイルワは目を見開き、思わず誠司達を凝視する。だが、そんなイルワの視線に誠司は臆することなく頷いた。
「もちろん。皆はどうだ?」
誠司がチラリと視線を向けると、ハジメ達も誠司と同様、真剣な表情で頷いている。皆、誠司と同じ気持ちのようだ。そんな誠司達の様子を見てイルワも覚悟が決まったようだ。
「……分かった。裏世界の平衡の崩壊やそれに伴う治安悪化が不安だが、少なくとも今助けられる命があるのならそれを優先すべきか。後のことは後で考えよう。よし! ではこれよりイルワ・チャング支部長の権限で君達に指名依頼を出す。内容は裏組織フリートホーフの殲滅、しかし出来る限り組織と無関係の一般市民には被害を及ぼさないように心がけてもらいたい。それと報酬はこのくらいで良いかい?」
イルワは近くの紙切れに報酬額を書き込んで誠司達に見せる。ウィルの捜索依頼と比べ物にならない金額だ。誠司は頷いた。
「了解しました。ああ、そうだ。仕事が終わるまでミュウを預かってもらえますか?」
「ああ、それくらいお安いご用だよ。任せてくれ」
ハジメとシアはミュウをソファから降ろすと、優しく語りかけた。
「ミュウちゃん、しばらくこの人達と一緒に待っててくれる?」
「んみゅ、お姉ちゃん、皆……どっか行っちゃうの……?」
「いいえ、私達はミュウちゃんに酷いことをした人達を懲らしめるだけですよ。終わったらすぐに帰ってきますので良い子に待っててください」
「んみゅ……」
ミュウが頷くのを見て、ハジメやシアは優しく頭を撫でてやる。誠司はモンスターボールからプラスルとマイナンを出し、二体に指示を出す。
「プラスル、マイナン、お前らもミュウを頼むぞ」
「プラプラ!」
「マイ!」
プラスルとマイナンは元気に返事を返した。イルワは職員を呼んでミュウ達を安全な場所へ案内させる。職員はプラスル達を見て驚いた様子だったが、イルワが危険じゃないことを伝えると表面上は納得してくれたようだ。人懐こい子達ではあるので心配はないだろう。誠司達は、イルワからフリートホーフに関する資料を受け取ると、早速作戦を立てていく。
「よし、それじゃ三手に分かれて行動するぞ。俺はこっち方面を攻める。ハジメとユエはこっちを、シアとティオはこっちを潰して行ってくれ」
『了解!!』
「あ、そうだ。皆、これを……」
ハジメは何かを思い出したかのようにブローチのようなものを誠司とシア、イルワに渡した。
「これは?」
「この間、作った連絡機だよ。これでお互いに情報を共有出来る」
「そうか、分かった」
「ありがとうございます!」
「こんなものもあるのか…… 本当に何でもありだね……」
誠司とシアは連絡機を服に着ける。イルワも苦笑しつつもそれをスーツの襟に着けた。
フューレンの商業区の中でも外壁の近く、観光区や職人区からも離れた場所に、公的機関の目が届かない裏世界が広がっていた。そんな場所の一角にある七階建ての大きな建物があった。裏組織フリートホーフの本拠地だ。静かで不気味な雰囲気を放っている。
そんな建物の前に誠司は立っていた。身体のあちこちには返り血が付いていた。さっきまで複数のアジトをポケモン達と一緒に物理的に潰してきたからだ。おかげで誠司の心には殺しに対して何も感じなくなっていた。人としてはまずいことなのかもしれないが、それで躊躇えば自分だけでなく大切な者まで危険に晒す。誠司は今までの経験でそれを嫌という程分かっていた。
「ここがフリートホーフの本拠地か…… まぁ、さっき潰した奴の一人が死に際に言ってたから間違いはないだろ」
誠司はそう呟きながらポケモン達を出す。誠司は銃に弾を装填しながら指示を飛ばす。
「シュバルゴ、“はかいこうせん”。クレッフィは“ラスターカノン”」
ドォガアアアア!!
爆音を響かせて建物の正面口の扉が木端微塵に破壊される。
「な、何だ! てめえ! ここがどこか分かってんのか!」
騒ぎを聞きつけて、フリートホーフの構成員らしき男達が集まり、誠司達を殺そうと襲い掛かる。だが、当の誠司達はどこ吹く風だ。誠司は不敵に笑った。
「知ってるさ。フリートホーフ……だろ? 悪いけど、俺らの修行の一環でぶっ潰させてもらうぜ」
最上階のとある部屋で男は野太い大声で怒鳴りつけていた。
「ふざけてんじゃねえぞ! あぁ!? てめぇ、もう一度言ってみろ!」
「ひぃ! で、ですから……襲撃者は一人です! それに各地でアジトが壊滅されていると報告が……」
「だったら、さっさとその襲撃者を生け捕りにしやがれ! 散々このフリートホーフを舐めてくれてんだ! このままだとフリートホーフのメンツが丸つぶれだろうが! 見せしめに生き地獄を見せてやる! 早く俺の前に連れて来い!」
「は、はい! すぐに……」
室内の人間が急いで襲撃者を捕まえるためにドアノブに手を掛けようとした直前、ギイィィと扉が開いた。
「お、いたいた。あんたがフリートホーフのボスか?」
そんな呑気な声と共に扉を開けたのは先程よりも返り血を多く浴びた誠司だった。誠司の姿を見た男は悲鳴を上げて後ずさり、部屋の奥にいた男に向かって必死に叫んだ。
「こ、こいつです! この男です! 襲撃者は……」
ドパンッ!
男の言葉がそれ以上続くことはなかった。誠司が銃で心臓を打ち抜かれたからだ。男はそのまま倒れて動かなかくなった。呆気なく殺された部下の姿にフリートホーフの首領であるハンセンは目を見開いたまま硬直した。しかし、すぐに我に返ると、武器を素早く取り出してドスの利いた声で話し出した。
「……てめぇ、このフリートホーフの本拠地に手を出して生きて帰れると思ってんのか? おい! 何してんだ! 早く来い! おい! 聞こえねえのか!?」
ハンセンは怒鳴り声を上げて部下を呼ぶが、いくら怒鳴っても誰か来る気配がない。誠司は何も言わずに扉を全開にして、部屋の外が見えるようにする。そこには大量の構成員達が転がっていた。どれも大量の血が流れており、吐きそうになるくらいの血の臭いが部屋に入ってくる。もう既に自分以外の生き残りがいないことを悟ったハンセンの顔色は面白いくらいに青ざめていく。だが、そこは組織の首領なだけあって、武器を構えて攻撃をしようとするが、誠司達には通じない。
「クレッフィ、“でんじは”」
「ぐはあっ!!」
ハンセンは身体の痺れで倒れ伏してしまう。何とか必死に起き上がろうとするが、どうにもならない。ツカツカと歩み寄る誠司達から逃れようともがくが、どうこうできる訳もなく、彼に出来たことは無様に命乞いすることだけだった。
「た、頼む。助けてくれぇ! 金ならある! だから……」
「ガメノデス、モグリュー、頼む」
「ガメ!」
「グリュ!」
ハンセンの命乞いをスルーして誠司は指示を飛ばす。誠司の指示にガメノデスとモグリューは頷くと、ガメノデスはハンセンの足の方に、モグリューは手の方に向かった。
「お、おい……何をする気だ……」
怯えた様子で尋ねるハンセンを無視しながら誠司は言った。
「やれ」
ザシュッ! ザシュッ!
「ぎゃあああああああああ!!!」
部屋にハンセンの絶叫が響き渡る。ガメノデスとモグリューが鋭い爪でハンセンの両手両足を切り落としたのだ。想像を絶する激痛にハンセンはのたうち回る。誠司はすかさず神水をハンセンの身体にぶっかけた。それによって血がこれ以上流れるのは防がれたが、切り落とされた手や足は戻ってこない。
「安心しろ。お前だけは生かしてやるよ。これから色々情報を吐いてもらう必要があるからな。逃げられないようにしないとな」
「ぐぐぐ……て、てめぇ……!」
ハンセンは誠司達を睨み付けるが、誠司はハンセンの首にかけてある首飾りに気付いた。その直後、ブチィッという音と共にハンセンの首から首飾りを奪い取る。
首飾りには琥珀色に中に炎のような模様がある石があった。炎の石だ。多少、加工がされているが間違いない。誠司は頷くとそれを白衣のポケットにしまう。
「か、返せ! それは死んだ母ちゃんの形見……げぶっ!?」
ハンセンが必死に声を張り上げた次の瞬間、腹に誠司のつま先がめり込んだ。両手両足がないため、避けることも出来ず、咄嗟のことなために腹に力を入れることも出来なかった。苦しげな声を漏らすハンセンに誠司は冷たい声で言った。
「散々、子供の人生を食い物にして大勢の母親を不幸のどん底に落としておいて、自分の母親の形見は大事なのか。随分、都合の良い話だな。この石は俺が有効に使ってやるよ」
誠司はそう言いながら、部屋を物色し始めた。その中からミュウが本来売り捌かれることになっていたオークション会場の見取り図や顧客名簿らしきものを見付けた。顧客名簿には貴族らしき名前がいくつかあり、フリートホーフが今まで好き勝手出来たのも貴族と繋がりがあったからだろう。
誠司はハジメ達に連絡をし、続いてイルワにもハンセンを捕縛するように連絡した。自殺しないようにハンセンの口に部屋にあったタオルで猿轡をすると、部屋を後にした。両手両足のないハンセンにはもう何も出来ないだろう。
こうして、フューレンにおける裏世界の三大組織、フリートホーフは滅んだ。
誠司の方が悪役っぽいな……
ちなみに、ポケモン達で構成員達をボコボコにして、トドメは全部誠司が刺しました。なので、ポケモンで人殺しはしていません。