魔獣使いと錬成師が合わされば世界最強   作:マロニエ19号

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新たな同行者

「それにしても、美術館で奴隷のオークションとは悪趣味なことだな……」

 

情報通りにオークション会場に向かった誠司。オークション会場の正体を知って思わず溜息が漏れる。目の前には大規模な美術館があった。どうやらこの美術館が奴隷のオークション会場のようだ。確かに美術館であれば貴族や金持ちが大勢入っても怪しまれないし、ついでに中の美術品なんかも買ってくれる。そういう意味では一石二鳥なのだろう。芸術に対する冒涜であるが。

 

先程までの返り血まみれの服では怪しまれるため、誠司は既に別の服装に着替えていた。美術館から離れた場所で少し待っていると、ハジメとユエ、シアとティオも遅れてやって来た。ハジメが誠司に気がつくと声を掛ける。

 

「誠司、あれがそうなの?」

「ああ、らしいな。だが、入口前に見張りがいるんだ。連中に気付かれないようにハジメの錬成で地下から行きたい。出来るか?」

「なるほどね…… うん、任せて!」

 

入口の前には黒服の屈強な男が二人待ち構えていた。そのまま強行突破しても良かったのだが、ここで騒ぎを起こしてオークションにかけられそうになっている子供達やポケモン達をどこか知らない場所へ移送されるとまずい。

 

誠司達は裏路地へ移動してハジメの錬成で地下を進むと、やがて地下深くに無数の牢獄を見付けた。入口には監視が一人いるが、呑気に居眠りをしていた。そんな監視に呆れた視線を向けつつ、誠司はクレッフィを出した。

 

「クレッフィ、“でんじは”」

「クレフィ!」

「んががっ!?」

 

監視の男は突然の身体の痺れで冷水を浴びたように意識が覚醒するも、その時にはもう手遅れだった。男は何も出来ずに椅子から転げ落ち、石畳に頭を強く打ち付けてしまい再び意識を失ってしまった。誠司達は白目を剥いて気絶している男の首から鍵と警笛を奪い取ると、牢獄の中へ入って行った。警笛も取ったのは目が覚めた時に応援を呼ばれないようにするためだ。

 

牢獄の中には大小様々な檻が並んでおり、檻には人間の子供達やポケモン達が震えて蹲っていた。十中八九、今日のオークションで売りに出される予定の()()()のようだ。

 

基本的に、人間族のほとんどは聖教教会の信者であることから、そのような人間を奴隷や売り物にすることは禁じられている。人間族でもそのような売買の対象となるのは犯罪者だけだ。彼らは神を裏切った者として、奴隷扱いや売り物とすることが許されるのである。そして、眼前で震えている子供達が全員そのような境遇に落とされるべき犯罪者とは到底思えない。そもそも、正規の手続きで奴隷にされる人間は表のオークションに出されるのだ。ここにいる時点で違法に捕らえられ、売り物にされていることは確定だろう。

 

檻の中の子供達は突然、入って来た人影に怯えていた。大方、自分達が売られる順番が来たと思っているようだ。なので、ユエがしゃがみ込み優しげな瞳で「……大丈夫」と呟いて子供達を安心させた。その内の七、八歳くらいの少年がおずおずとハジメの質問に答えた。

 

「え、えっと、お兄さんやお姉さん達は……?」

 

ハジメは不安そうな顔をしている少年に向かって簡潔に答えた。

 

「君達を助けに来たんだ」

「えっ!? 助けてくれるの!」

 

ハジメの言葉に驚愕と喜色を浮かべて、つい大声を出してしまう少年。その声は薄暗い地下牢によく響き渡った。慌てて少年は自分の口を両手で抑えるが、一向に監視が入って来る気配はない。

 

「あ、あれ……?」

 

不思議そうにしている少年をスルーして、監視から失敬した鍵で次々と檻を開けていく誠司達。子供達はポカンとしている。突然のことに理解が追い付かないのだろう。ハジメが地下牢から錬成で上階への通路を作っている間に、誠司は次にポケモン達を開放させていった。

 

子供達と一緒に檻に囚われていたポケモンは三体だった。今日のオークションでは子供の奴隷がメインだったようでポケモンの数は少なめだ。

 

一体目はクリームのようなポケモン、マホミルだ。誠司がずっと欲しいと思っていたポケモン、マホイップの進化前だ。

 

二体目はイカのようなポケモン、マーイーカ。しかも色違いだ。口元には口輪のようなものを付けられていたので、傷付かないように取り外してやる。

 

そして三体目はヒンバス、ヒンバスだけは檻ではなく水槽に入っていた。しかし、水槽には「廃棄」と書かれた紙が貼られており、中の水も濁っていた。醜い見た目のポケモンなのでオークションでも売れず処分するつもりだったようだ。

 

三体とも碌に世話をされていないようでかなり弱っていた。誠司はこみ上げてくる怒りから唇を強く噛み締める。唇を切ったのか、口の中に血の味が広がる。だが、今は子供達やポケモン達の保護を優先すべきだと切り替えて、三体をモンスターボールに入れていった。

 

その時、ガヤガヤと上階が騒がしくなってきた。誠司達は顔を見合わせて頷くと、上階へ向かって進んで行く。その時、誠司達がぐるりと子供達を囲む形で危険がないようにするのも忘れない。

 

フリートホーフの誰かかと思ったが、そこにいたのはー-----

 

 

ー---------

 

「はぁ、君達なら不可能ではないと思っていたけど、まさか半日足らずで本当にフリートホーフを壊滅させるとはね……」

 

あれからしばらく経ち、誠司達は冒険者ギルドの応接室にいた。イルワは苦笑しながら溜息を吐く。片手が自然と胃の辺りを撫でさすり、傍らに立つ秘書長ドットがさり気なく胃薬を渡した。

 

子供達を救出して上階へ上がった時にいたのはイルワが派遣したギルド職員や高ランクの冒険者達だった。既にオークション会場にいたフリートホーフの構成員や客は全て現行犯逮捕で捕縛されていた。現在、子供達はギルド内で保護されており、今後は保安局とギルドで連携して全員親元に帰されることになっている。

 

ミュウはハジメの膝の上で茶菓子をモシャモシャと美味しそうに食べている。隣に座っていたシアが微笑ましそうにミュウの口元に付いた食べかすを取ってあげる。ミュウはお菓子を食べて満腹になったのかウトウトと船を漕ぎ始めた。そんなミュウを起こさないようにイルワは声を小さめにお礼を言った。

 

「しかし、君達のおかげでフリートホーフを壊滅させることが出来た。本当に助かったよ……」

 

フリートホーフの構成員の多くは死亡したりしていたが、首領であるハンセンは生きて捕縛出来たため色々な情報を聞き出すことが出来る。アジトにも重要な資料が多く見付かり、その中には人攫いの流通ルートや連絡網などもあった。それによって、フューレンを蝕んでいた人身売買問題が一気に解決の目処が立った。しかし、イルワとしては別の懸念があった。

 

「しかし、フリートホーフの崩壊の影響でこれから他の裏組織の動きが活発になりそうだね…… はぁ、保安局との連携やらで冒険者も色々大変になりそうだ……」

 

イルワは悩ましげに溜息を吐いた。フリートホーフの壊滅を依頼したのは多くの子供達を救うためだ。イルワもそれについて後悔はしていない。しかし、これからのフューレンの未来を考えると憂鬱になる。そんなイルワの懸念も分かるので、ハジメが助け舟を出した。

 

「でもまぁ、また関係ない子供とかが巻き込まれるのは正直気分が悪いですし、イルワさんも僕達の名前を使っても構いませんよ。支部長お抱えの金ランク冒険者……とか相手からすれば相当な抑止力になるでしょうし」

「おや、良いのかい? 我々としてはその提案は凄く助かるのだけど……」

 

ハジメの言葉に思わず顔を上げるイルワ。その瞳には「えっ? マジで? ぜひ!」と雄弁に物語っていた。しかし、すぐに冷静になって誠司に視線を向けた。誠司は苦笑しながら肩を竦める。

 

「仕事のアフターフォローみたいなものと思えば異論はないですよ。それに、俺としても関係ない一般人が、自分達のやったことが原因で被害に遭うのは気分が悪いしな」

「ふむ、そうか。それならありがたく君達の名を使わせてもらうよ。心配しなくとも、君達に迷惑が掛からないような使い方を心掛けるつもりだ。それに、いざという時には使える()()()()()もあるしね……」

「? プレゼント………?」

「ふふっ、いやなに、こっちの話だよ」

 

ちなみにその後、イルワの懸念通り、フリートホーフの崩壊に乗じて勢力を伸ばそうと画策した他二つの組織だったが、イルワが用意した()()()()()と効果的な誠司達の名の使い方のおかげで大きな混乱が起こることはなかった。それによって誠司達は『フューレン支部長の懐刀』といった二つ名が生まれたりもしたが、当の誠司達には知る由もなかった。

 

また、両手両足を失ったハンセンはそのまま救護院に運ばれ、永久に誰かの世話をされないと生きていけなくなったそうだ。あんな悪人を世話したがる看護婦などいないだろうと思われたが、意外と多かったらしい。しかし、彼女達の正体を知ると、誰もが納得した。

 

立候補した看護婦は全員、フリートホーフによって我が子を誘拐されて売り飛ばされた母親達だったのだ。自分を怨む者達に命を握られるなど恐怖でしかないだろう。ハンセンのこれからの人生が悲惨なものになるのは火を見るより明らかだった。

 

 

 

「それでそのミュウ君についてだけど……」

 

イルワがミュウに視線を向ける。自分の名前を呼ばれてミュウは「んみゅ…」という声を漏らしながら目を覚ました。イルワの話は続く。

 

「こちらで預かって、正規の手続きでエリセンに送還するか、君達に預けて依頼という形で送還してもらうか……二つの方法がある。君達はどっちがいいかな?」

 

公的機関に預けなくて良いのかと首を傾げる誠司達に、イルワが説明するところによると、誠司達は金ランクの冒険者として信頼と実績がある事、今回の大立ち回りがミュウを守るためでもあったという点から、任せてもいいということになったらしい。

 

「あの、誠司さん、皆さん……私、絶対、この子を守ってみせます。だから、一緒に……お願いします」

「う~ん……僕もシアに賛成かな。ここまで来ちゃったらもう何かの縁だと思うし……」

 

シアは誠司に向かって頭を下げた。ハジメもシアに賛成のようで一緒に頭を下げた。ユエやティオは誠司の判断に任せるようで黙って誠司を見つめている。だが、二人ともハジメやシア寄りの意見のようだ。

 

「お兄ちゃん……一緒……め?」

 

ミュウもハジメの膝の上から上目遣いで誠司に尋ねる。不安げな表情を浮かべている。それを見て誠司は大きく溜息を吐く。といっても、誠司としても既に結論は出ていた。

 

「はぁ……グリューエンの大迷宮でどうするかは後で考えるか……」

「っ! それじゃあ………!」

「仕方ないだろ。ここまで懐いているんじゃな。依頼って形だったら殆どの懸念も無くなるし」

「誠司さん!」

「お兄ちゃん!」

 

満面の笑みを浮かべるシアとミュウ。ハジメ達も嬉しそうに顔を綻ばせる。海上の都市エリセンに行く前にグリューエン大火山に行くのだが、まぁその時はその時である。それにここで問答無用でミュウと別れれば、それこそ仲間内に亀裂が入りかねない。

 

こうしてイルワとの話し合いも無事に終わり、誠司達はミュウをエリセンまで連れて行くという依頼を新たに受けることになった。そして、昨日貰った手紙の他に、新たに今回の騒動のことが記された手紙を渡された。

 

また、ミュウのお守りをするために出したプラスルとマイナンはそのままフューレンのギルドに預けることになった。なんでも誠司達が出ている間に二体は職員達といつの間にか仲良くなっていたらしく、ぜひ譲って欲しいとドット含む大勢の職員達から揃って頭を下げられたのだ。トップであるイルワもプラスルとマイナンを気に入ったらしく、「私からも頼む」と頭を下げられては流石の誠司も断れなかった。何よりプラスルとマイナンも乗り気だったので「大事にしてください」とだけ言って彼女達のモンスターボールをイルワに渡した。

 

その後、プラスルとマイナンがフューレンの冒険者ギルドのマスコット的存在になり、ギルド内の結束が高まったのはまた別の話である。




ちなみにイルワが用意したプレゼントは、誠司が切り飛ばしたハンセンの腕と足です。「勢力を伸ばそうと組織が動いたら、次は君達もこうなるよ?」という脅しを込めた悪意に満ちたプレゼントです。
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