誠司はイーブイの前にある物を置いた。琥珀色で中に炎の模様が入った石、「炎の石」だ。ミュウを攫って売ろうとした組織フリートホーフの首領だった男が持っていた物である。この炎の石を使えばイーブイは炎属性のブースターに進化することが出来る。誠司はイーブイをブースターへ進化させようとしていた。イーブイは目の前の炎の石を神妙な顔で見つめている。
「イーブイ」
誠司が呼ぶと、イーブイは顔を上げる。誠司は最初に自分の気持ちを伝えた。
「炎の石はお前をブースターに進化させることが出来る。俺としてはお前をブースターに進化させたいと思ってる。お前はどうしたい?」
誠司とイーブイはジッとお互いを見つめ合う。誠司がイーブイをブースターに進化させたがっているのはブースターの特性にあった。
ブースターの特性は“もらいび”というものだ。この特性は炎属性の攻撃を無効化させて、自分の炎属性の技の威力を上げることが出来る。次の大迷宮の舞台であるグリューエン大火山では間違いなく炎属性のポケモンが多く住んでいるはずだ。そのため、炎属性の攻撃を無効化出来れば攻略もしやすくなると誠司は考えたのだ。
そのためだけにイーブイの進化を決めるのも躊躇いがあったが、キュウコンの特性は“ひでり”だしシャンデラの特性は“ほのおのからだ”だ。“もらいび”の特性を持つポケモンは誠司の手持ちにも他の仲間の手持ちにもいない。
イーブイは少し悩んでいるようだった。そんなイーブイを見て「悩むのも仕方ない」と誠司は思う。エレザードの時も石を使って進化させたが、あの時とはわけが違う。エリキテルには分岐進化がないため進化するかしないかの二択しかなかったが、イーブイの場合は多くの選択肢があるのだ。
しかし、意外にもイーブイの決断は早かった。イーブイはキリッと表情を引き締め、前足で石に触れる。
イーブイの心には後悔で占められていた。あの時、自分がもっと強ければ……ケンタロスは死ななかったのではないか……そういう風に考えていた。だが、それはイーブイに限ったことではない。マシェードやヌマクロー、チゴラスなど殆どのポケモン達も怪我が治ると自発的に訓練を重ねている。
進化すればもっと手っ取り早く強くなることが出来る。強さを求めるイーブイは進化することを受け入れた。
石に触れた瞬間、イーブイの体は光に包まれる。体の体毛が伸び、そこには赤い体に炎のような形のフサフサの体毛に覆われたポケモン、ブースターへ姿を変えた。
「ブースター」
誠司が呼び掛けると、ブースターは顔を上げる。
「気分はどうだ?」
「ブギュ!」
イーブイがブースターに進化してから、誠司はブースターに炎技を覚えさせる訓練を行っていた。ブースターに進化したことで“ひのこ”は覚えたのだが、これだけでは戦力になるとは言い難い。“アイアンテール”や“でんこうせっか”など属性の違う技が使えるが、自分と同じ属性の技の方が上手く使えるようになる。なので、他の炎属性の技を習得させる必要があった。
同じ炎属性のキュウコンから、炎技を教えてもらっていた。キュウコンは“かえんほうしゃ”や“ほのおのうず”を披露する。
「コン! コココンッ!」
「ブーギュー-ッ!」
ポフンッ!
見本を見せたキュウコンはブースターに向かって、「やってみなさい」と言うように一声上げる。ブースターは必死に炎を吐こうとするが、あまり上手くいかない。誠司は頭を悩ませる。
「うーむ……進化したばかりとは言え、先は長いな……」
炎属性のポケモンには炎袋という炎を生成する器官がある。それはブースターも例外ではない。しかし、出来たばかりの炎袋ではすぐに強い炎を作り出すことが不可能なのだ。強い炎技を使えるようにするにはまずは炎袋を強くする必要だありそうだ。
どうしようかと考えあぐねていると、マーイーカがやって来た。ちなみに、フリートホーフに囚われていたポケモン達は解放後、三体とも誠司の仲間になった。誠司としては、マーイーカの
ブースターやキュウコンを見て事情を察したのか、マーイーカは息を大きく吸い込むと嘴から炎を吹き出した。炎属性の技“かえんほうしゃ”だ。
「なっ!? マーイーカ、お前……“かえんほうしゃ”が使えるのか……」
「マイッカ!」
誠司が呆然と呟くと、マーイーカは得意そうに笑う。ブースターも驚きの表情を浮かべていた。誠司はマーイーカに頼む。
「そうだ。マーイーカ、お前もブースターの特訓を手伝ってくれないか? 属性が違うポケモンの場合のアドバイスをしてほしい」
「マイッカイッカ!」
マーイーカは誠司の頼みを快諾し、ブースターの元へ寄った。
それからブースターはキュウコンとマーイーカと一緒に、炎技の特訓をしていく。誠司はまず最初に、ブースターの炎の威力を高めることに専念していった。そのためにはブースターには悪いが、少しキツイ思いをしてもらう。
「キュウコン、マーイーカ、“かえんほうしゃ”だ!」
「コン!」
「マイッカ!」
「ブ、ブギュ……」
キュウコンとマーイーカが炎を放ち、ブースターの体は炎に包まれる。しかし、炎は全てブースターの体に吸い込まれていく。体温がどんどん上昇し、ブースターは苦しげな表情を浮かべて呻く。
“もらいび”の特性を活かして、火力を高めているのだ。
「耐えろよ、ブースター。炎袋を活性化していくにはこれが一番効率が良いんだ」
「ブギュ……」
一定時間が経って、誠司が合図をする。キュウコン達の“かえんほうしゃ”が止み、ブースターはドッと倒れ伏した。息は荒く、苦しげだ。誠司はブースターに話し掛けた。
「大丈夫か、ブースター」
「ブギュ……ブギュズ」
ブースターは何とか立ち上がる。大した根性だ。誠司は思わず感心した。誠司は近くの岩に書かれた的に指で示しつつ、ブースターに指示を出す。
「よし。ブースター、あの的に向かって“かえんほうしゃ”だ」
「ブーギュー-ッ!」
ブースターは口から炎を吐く。残念ながら“かえんほうしゃ”とは言い難いが、先程までの“ひのこ”とは比べ物にならない威力だった。
「ブギュ!」
ブースターは得意そうに鳴き声を上げた。誠司は「ふむ」と呟く。誠司の片手には一冊の本があった。オスカーが記したポケモンの技について書かれた本である。トランクの小屋の中にあった本の一冊だ。
“かえんほうしゃ”などの強い炎技を習得するには、強靭な炎袋が必要だ。しかし、進化して出来たばかりの炎袋では強い炎は出ない。炎袋を活性化させるには、時間を掛けて炎技を練習する他に、高温度の状態にすることも有効である。
オスカーの本に書かれた方法で試してみたのだが、効果はあったみたいだ。それから誠司は炎技の特訓を無理のない範囲でブースターに課していく。
そして、結果はすぐに現れた。
「ブースター、“かえんほうしゃ”!」
「ブーギュー-ッ!」
ゴオオォォォ!
ブースターの口から赤い炎を吹き出した。キュウコンとマーイーカは目を丸くした。誠司は満足そうに頷いた。
「よし、これで“かえんほうしゃ”が完成したな」
「ブギュー!」
ブースターは嬉しそうに笑った。
誠司のイーブイはブースターに進化しました。以前、イーブイの進化先を決めていたと書きましたが、あれから色々変更があり、ブースターになりました。
次回からホルアドへ行きます。