魔獣使いと錬成師が合わされば世界最強   作:マロニエ19号

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疲れる依頼

光輝の一方的な宣言に困惑したのは、誠司達だけではなかった。光輝の味方であるはずの勇者パーティからもチラホラ困惑の声が上がっていた。代表して雫が尋ねる。

 

「ちょっと、光輝。あなた何を言って……」

「雫、さっきの中西の行動を見ただろ? 敵とは言え、無抵抗の女性に対して平気で暴力を振るうような奴だぞ。彼女達にも同じような扱いをしている可能性が高い。シアには奴隷の首輪が着けられているし、あんな小さい子供までいる……そんなの見過ごせないだろ」

 

既に光輝の中では、誠司は女を無理矢理侍らせている最低な男という認識になっているようだ。光輝の発言に雫達が唖然としていると、光輝は今度はハジメ達に視線を向けた。

 

「さぁ、これ以上その男のもとにいる必要はない。俺と一緒に行こう! シアも奴隷として生きる必要なんてないし、南雲だって中西に無理矢理男の格好をさせられてきたんだろう? 今まで気付いてやれなくてごめん、これからはもう女性らしくして良いんだ!」

 

そんな事を言って爽やかな笑顔を浮かべながら、ハジメ達に手を差し伸べる光輝。雫は沈痛な溜息を吐く。

 

そして、光輝に笑顔と共に誘いを受けたハジメ達はというと……

 

「「「「……」」」」

 

もう、言葉もなかった。光輝から視線を逸らし、両手で腕を摩っている。よく見れば、全員の素肌に鳥肌が立っていた。ティオは、「これが調査対象の勇者なのか……?」という呆れも多分に含んでいた。ハジメがこめかみを揉みながら、努めて冷静に尋ねた。

 

「ねぇ、天之河君。もし仮に、君達の仲間になったとして……ポケモン達(この子達)も仲間になるんだけど……天之河君的にはそれはOKなの?」

 

片手でモンスターボールを弄りながら、質問するハジメに、光輝は「何を言っているんだ?」と言いたげな表情を浮かべた。

 

「その魔獣達は中西に無理矢理押し付けられたんだろ? 南雲達が持つ必要なんてないし、それに、さっきも言った通り魔獣は危険だ。皆のことを考えるのならすぐに手放すべきだ」

 

光輝の言葉に、ハジメは一気に無表情になった。「うわぁ、予想はしてたけど……」と小声で呟く。ハジメだけでなく、ユエもシアも無表情だ。ハジメは今までにないくらい冷たい声で言った。

 

「危険ねぇ……その危険な魔獣の中には、幼い頃から姉妹同然に育ってきた子や、タマゴから孵して自分を母親のように慕ってくれている子や、奈落の底で出逢ってからずっと苦楽を共にしてきた子とかもいるんだけど。その子達と引き離されないといけない訳? 君達なんかのために?」

 

今まで聞いたことがないくらい冷たい言葉に、光輝はたじろいだ。しかし、すぐに反論する。

 

「だ、だが、そいつらは魔獣で危険なんだぞ。皆のことを考えるのなら……」

「それなら大丈夫だよ。君達の仲間になる気なんてさらさら無いから」

「なっ!?」

 

光輝は驚きの声を上げるが、ハジメ達は「どこに驚く所があるんだ」と白けた視線を向ける。

 

「俺は君達を思って言ってるんだぞ! 中西のような奴と一緒にいたら、絶対不幸になるし、後悔することになる! 不幸になるであろう人を見過ごすことなんて出来ない!」

「……悪いけど、不幸かどうかは自分達で決めるよ。それと……他人の仲間を心配するのは結構だけど、もう少し自分の仲間の方を気にかけるべきなんじゃないの?」

 

ハジメは光輝の後ろの仲間達を一瞥して、そう言った。

 

今回の窮地の原因は、間違いなくリーダーである光輝の判断ミスだ。別に判断ミス自体を責める気はハジメも無い。だが、今に至るまで、この勇者は自分の判断ミスを仲間に一言も謝罪していないのだ。ミスをした自覚が無いのか、「仲間なら分かってくれる」という無意識の驕りなのかは分からない。

 

だが、何ヶ月も戦線を共にしたはずの仲間でさえ、こうなのだ。離脱していた元仲間や余所者ならどんな扱いになるか、分かったものではない。そういう意味の皮肉で言ったのだが、光輝には伝わらなかったようだ。

 

「何だとっ!? 今のは聞き捨てならないぞ。俺は皆を蔑ろになんて……」

「もうハッキリ言うよ? ポケモン達(この子達)は、大事な家族や仲間なの。それに、誠司だって、僕の親友で、仲間で……大事な人なんだ。だから、これ以上、大事な存在を侮辱しないで!」

「な……!?」

 

ハジメにハッキリ拒絶され、光輝はショックを受けた表情を浮かべた。呆然とユエ達にも視線を向けると、ユエ達もハジメの言葉に大きく頷いていた。

 

自分が真剣に心配する気持ちが彼女達に全く通じないことに強いショックを受けるが、そのショックはすぐに誠司(元凶)への怒りに転換された。誠司を強く睨みつけ、ビシッと指を突きつけて宣言する。

 

「中西誠司! 彼女達をここまで洗脳するなんてどこまで最低な男なんだ! 俺とけ……ぐっ!?」

 

「決闘しろ」と言いかけた所で、首に強い衝撃がかかり、これ以上言葉を発することが出来なかった。光輝はそのまま意識を失い、倒れ伏す。その光輝の背後には、光輝の親友であり相棒である坂上龍太郎が立っていた。

 

「……ったく。見てらんねぇよ、光輝」

 

龍太郎は悲しげにそう呟いた。龍太郎が、背後から光輝を裸絞めで固めて意識を刈り取ったのだ。思いもよらない人物の突然の行動に、誠司達も雫達も目を点にさせていた。

 

誠司もハジメも、龍太郎のことは、光輝の腰巾着という認識だったので、驚いていた。龍太郎はバツが悪そうに頰を掻いた。

 

「いや、俺も犬飼ってるからさ。お前らの気持ち、ちょっとは分かるっつーか…… 大事な仲間や家族なんだろ?」

 

龍太郎の言葉に誠司達は顔を見合わせるが、すぐに大きく頷いた。それを見て、龍太郎は屈託なく笑った。

 

「それじゃあ、外野の俺らがとやかく言うことじゃねえよな。光輝が悪かったな、嫌な思いさせちまって。それと……ありがとな、助けてくれて。おかげで助かったぜ」

 

龍太郎がそうお礼を言うと、雫も龍太郎に続いてお礼を伝えた。

 

「龍太郎の言う通りね。さっきは助けてくれて本当にありがとう。ちょっとビックリすることばかりでお礼をちゃんと伝えられていなかったわ。それと、光輝のこともごめんなさい、止められなくて。後でしっかり言っておくわ」

 

雫の苦労人属性は相変わらずのようだ。龍太郎や雫が言い終わった後に、鈴や恵里、永山パーティの面々も口々にお礼を言った。

 

ようやく自分達の旅に戻れると思った瞬間、今度は檜山と同じパーティメンバーである近藤、斉藤、中野の三人が騒ぎ出した。

 

彼ら曰く、今回の魔人族との戦いで痛感したが、戦力が足りなすぎる。ハジメは新しく回復魔法も使えるようになったようだし、銃や強力なアーティファクトもある。魔獣達も一緒で構わないから、ぜひ彼女達も仲間として力を貸して欲しいと説得し始めた。

 

しかし、チラチラ顔や胸に目を泳がせていることから、下心による勧誘であるのは明らかだった。しかも、誠司が来れば彼女達も来ると考えたのか、誠司に対しても、今までのことは謝るからこれからは仲良くしよう等とふざけたことをぬかしてくる。

 

そんな彼らの態度に、雫達の方から「……最低」と見下げ果てた声も聞こえてくるが、彼らには聞こえていないようだ。いい加減、強制的に排除して黙らせようかと誠司達が互いに目配せしたその時、意外な人物が止めに入った。

 

「いい加減にしろよ、三人とも! 俺らがどうこう言う資格なんてないだろ!」

 

ハジメを散々虐めて馬鹿にしてきた檜山だ。今まで誠司やハジメに対して敵意を剥き出しにしていた人物が、いきなり二人を庇うような行動を取ることに全員が怪訝そうな表情を浮かべる。

 

しかし、檜山の態度は、先程の龍太郎達とは明らかに違うものがあった。なんというか、やけにビクビクしており、厄介な相手をさっさと追い出したいように見えたのだ。

 

なので、ハジメが檜山のもとに近づき、ボソボソと何かを耳打ちした。すると、檜山の顔は面白いくらいに青ざめた。そんな檜山の態度を見て、誠司も確信した。自分やハジメを奈落に落としたのは、この男だ……と。

 

誠司はうんざりしたように溜息を吐くと、近藤達三人に言い放つ。

 

「今更あんたらの謝罪なんざいらないし、過去の事を気にしてもいない。俺達にとって、どれも価値がないからな。だから、正直あんたらが何を言おうと俺の知ったことじゃない。分かったらいい加減黙れ! 鬱陶しい!」

 

誠司の不遜とも言える言葉に怒りを露わにする近藤達だったが、「檜山君ならわかってくれるよね?」とハジメが檜山に満面の笑みで言うと、ビクリと体を震わせた檜山は無言で頷き、近藤達にもう止めるよう言い出した。

 

檜山の態度に訝しそうな表情をする近藤達だったが、檜山が感情を押し殺した尋常でない様子だったので、渋々、説得を諦めた。

 

ようやく、本当にようやく邪魔をする者が完全にいなくなった。誠司達は軽く別れを告げて、自分達の旅に戻ることにした。その時、後ろから聞こえた悪口を、誠司達は聞き逃さなかった。

 

「チッ、魔獣がいなけりゃ何も出来ねえ癖に、偉そうにイキってんじゃねえよ……」

 

誠司達は静かに振り返り、声の主を睨みつける。声の主は、檜山の仲間の近藤だった。中野も斉藤も、口にはしていないが、近藤と同じ気持ちのようだ。

 

ハジメ達は怒りの表情を浮かべているが、誠司だけは涼しい顔だ。ミュウは言葉の意味が分からず、不安そうな顔をして誠司達を見つめている。

 

別に事実ではあるが、言われっぱなしで済ませる程、誠司も大人ではなかった。

 

「ああ、そうだな。他の奴らはともかく、俺はポケモン達(こいつら)がいないと満足に戦えない。でもまぁ、そんな俺でもこうやって冒険者としてやっていけてるんだから、優秀な戦闘職のあんたらは俺達以上に頑張ってくれないとな。俺達に助けられてるようじゃ、人間族の希望としては情けないよ」

 

誠司が満面の笑みで煽ると、近藤達は、歯噛みして悔しがった。この手のタイプにはこういった煽りがよく効く。そんな近藤達の様子を見て、誠司達は静かに溜飲を下げた。

 

 

そして、ようやく全てが終わった頃には、空も赤くなってきていた。色々な意味で疲れる依頼だったので、今晩は宿に泊まってゆっくり休み、明日の朝に出発することにした。

 

実は、ティオによると、ロア経由で宿をとって貰っていたそうなので、誠司達はスムーズに泊まることが出来た。その宿は、勇者達が使う宿とは大分離れている上に、次の目的地であるグリューエン大砂漠にも近いという最高の宿だった。




香織は仲間にせずです。

正直、作者的に原作で一番納得がいかなかったのは、香織を仲間にして勇者パーティから引き抜いたことです。ユエが許可しても、ハジメが断固拒否しろよって思ってました。そのせいで勇者達と余計な縁が出来ちゃったし。まぁ、本作は香織をアンチキャラにするつもりもないので、このような展開にしました。

原作を読んでいると、光輝は一度も仲間に謝罪してないんですよね。自分のせいで仲間を死なせる所だったのに。そんな奴が勧誘した所で何も説得力がない。もっとも、想い人を罵倒するような人に靡く要素なんてないですけどね。
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