魔獣使いと錬成師が合わされば世界最強   作:マロニエ19号

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それぞれの夜(前編)

「クソクソクソッ!!」

 

宿場町ホルアドの町外れにある公園、その一面に植えられている無数の木々の一本に拳を何度も叩きつけながら、押し殺した声で悪態をつく男が一人いた。

 

男の名は、檜山大介。軽戦士の天職を持つ、神の使徒のうちの一人である。そして、数ヶ月前に誠司とハジメを事故を装って、奈落に落とした張本人でもある。檜山の瞳は、憎しみと動揺と焦燥で激しく揺れていた。

 

「なんで、あいつらが生きてんだよ! しかも南雲が実は女だと……? ふざけんな! 南雲がさっさとそれを明かしてりゃあんな真似しないですんだのに……!」

 

現在、檜山やその仲間達の評判は、すっかり地に落ちていた。なにせ、知らなかったとはいえ、女子を男四人がかりで虐めていたのだ。既に檜山、近藤、中野、斉藤の四人は「男の風上にも置けないクズ」のレッテルが貼られている。

 

おまけに、仲間の近藤達からは、誠司やハジメ達の勧誘を止めたことで裏切り者と判断されてしまったようで、距離を置かれるようになってしまった。今も近藤達は檜山をハブにして、三人だけで夕食を食べに出かけてしまっている。

 

「クソがっ! どいつもこいつも!」

「アハハハ、随分荒れてるねぇ」

 

檜山の背後からたっぷりと嘲りを含んだ声が掛けられた。バッと音がなりそうな勢いで檜山が振り返る。そして、そこにいた人物が密会の相手であるとわかると一瞬ホッとした表情を浮かべた。

 

「まぁ、無理もないか。愛しの香織姫が惹かれる冴えないオタク君が、実はオタクちゃんで、最初から脅威でも何でもなかったって知ったんだから。嫉妬に狂って、お友達諸共始末しようとしたのにね。いやぁ〜、君の道化っぷりには、笑いを堪えるのが大変だったよぉ」

「黙れ! 南雲や中西のせいで、俺は……」

「一応会話をしてほしいんだけど。まっ、ボクとしては良かったけどね。君が嫉妬で暴走してくれたおかげで、こうして従順な駒が一つ手に入ったんだからさ」

「……」

 

檜山は、楽しそうに笑うその人物を忌々しげに睨みつける。数ヶ月前、檜山は、誠司達を奈落に落としたことをネタに、その人物から協力関係を強制されていた。ハジメが女であることを最初から公表していれば、わざわざ奈落に落とすことも、脅されて協力させられることもなかったのだ。檜山は唸るように尋ねた。

 

「……で、何の用だ? まさか、俺を笑うためだけに呼んだ訳じゃねえだろ」

「もちろん。そんなことのためだけに呼ぶわけないじゃん。君に二つ言うことがあってね。まずは、君に釘を刺しにきたんだよ」

「……ああ? 釘だぁ? お前、何を言って……」

 

怒りからか、どこか察しの悪い檜山に、その人物はニヤニヤ笑いを止めて真顔になる。その急変に、檜山は冷水を浴びせられたかのように冷静になった。

 

「さっさと香織をモノにしろっつってんの。今、香織は失恋状態、モノにするには絶好のチャンスなんだよ。荒れてる暇があったら、さっさとモノにしろ、良いね?」

「あ、ああ……」

 

香織は現在、想い人(南雲ハジメ)が女だと知って、失恋状態である。男も女も、失恋状態だと異性からの誘惑に弱い。香織がもしも、幼馴染である光輝に惹かれる……なんてことがあっては困るのだ。だから、この期にさっさと香織を自分のものにするべく動いてもらわないといけない。それを檜山に自覚させるために言ったのである。

 

檜山がコクコクと頷くのを見て、再びニヤニヤ笑いを浮かべたその人物は、もう一つの話題を出した。

 

「それから、もう一つは…………出てきてください」

 

その人物は、チラリと別の木に向けて声を掛ける。そして、その木の影から一人の男が現れた。王国騎士団の甲冑に身を包んだその男を見て、檜山は驚いた。

 

「なっ!? あんたは……」

「実はもう一人協力者が出来てね。君も彼のことは知ってるよね? 彼からプレゼントもあるんだよ」

 

新たな協力者は、ニコリと笑みを浮かべて挨拶する。

 

「どうも、私はパシオと申します。早速ですが、お近づきの印にこれをどうぞ。あなたの力になると思いますよ」

 

パシオはそう言って、檜山にあるものを差し出す。それを見た檜山は、ギョッと目を見開いた。ニヤニヤしている共犯者に目を向けると、その手にも同じものがあった。何でそんな物をという思いもあったが、ふと先程の誠司達の活躍を思い出す。

 

「……いける。こいつがいりゃあ、香織はもう俺のものだ。……ヒヒ、簡単じゃねえか。中西のあの取り巻きの女どもみてぇに無理矢理従わせることだって出来るぞ」

 

手の中のそれを眺めながら、檜山はそれを使って香織を自分のものにしてどう扱うか夢想する。そんな檜山を二人の共犯者達は笑みを浮かべて見守っていた。

 

 

 

一方、町外れの広場で怪しげな会談が行われていた頃、別の場所で一人の少年が月明かりに照らされて佇んでいた。

 

密談場所とは異なり、その場所は小さなアーチを描く橋の上だった。町の裏路地や商店の合間を縫うように設けられた水路に掛けられたものだ。水面には下弦の月が写り込んでいて、反射した月明かりが橋の上から水面を覗き込む少年の整った顔を照らしている。

 

少年、天之河光輝は落ち込んでいた。自分は勇者として期待されていたはずなのに、魔人族との戦いで敗北寸前にまで追いやられた。そして、奈落から脱出してから好き勝手やっている誠司達に助けられる羽目になった。魔獣の力を使って、女をコレクションのように扱うあの男に助けられたのだ。そんな彼女達が放っておけなくて、彼女達の目を覚まそうと、説得を試みたが、全然聞く耳を持たれなかった。

 

自分の善意が全く通じない。そんなことは今までになかった。それが光輝にはショックだったのだ。

 

そんな光輝に、一人の声が聞こえてきた。

 

「おーい、光輝ー!」

 

大きい声に、顔を上げると、そこにはいくつかの小袋を片手に抱えて、もう片方の手を上げながら近づいて来る龍太郎の姿があった。

 

「……龍太郎」

「よぉ、あっちの出店で美味そうなのがいくつかあってな。一緒に食おうぜ」

 

そんなことを言いながら、能天気に笑う龍太郎を見て、光輝は思わず苛立ってしまった。そもそも、彼女達の解放を止めたのが目の前の男であることを思い出し、ついポツリと呟いた。

 

「……なんでだ」

「あん? どした、光輝?」

「なんで、あの時、俺を気絶させたんだ!? 彼女達は中西に無理矢理侍らされているんだぞ! 助けられたかもしれないのに! 今だってあいつの魔獣で酷い目に遭ってるかもしれない! なんであいつを庇ったんだ!?」

 

光輝が龍太郎に感情をぶつけるが、龍太郎は少し悲しげな目をする。

 

「なぁ、光輝。昔、からしおを処分しろって言ってきたババァのこと、覚えてるか?」

 

坂上家には、からしおという犬がいる。龍太郎が幼い頃からおり、兄弟のように仲が良い。しかし、ある時に、犬嫌いで有名な近所のおばさんが、からしおのことで文句を言ってきたのだ。

 

「あんな犬が子供に噛み付いたらどうするんだ。早く処分しろ」……と。当然、そんな要求は通らなかったし、そのおばさんもどこか遠くへ引越してしまったが、当時はからしおを死なせるものかと姉と一緒に大暴れしたものだ。自分の大事な家族を処分しろと言われて、悲しかったし悔しかったのはよく覚えている。

 

「……あの時、光輝は自分のことのように怒ってくれたよな」

「あ、ああ。あったな、そんなこと。大事な家族を勝手に引き裂こうとするなんて間違ってる。でも今、その話は関係な……」

「光輝がやろうとしてるのは、あの時のババァと同じだって言ってんだよ」

「っ!?」

 

龍太郎の言葉に、光輝は衝撃で固まった。自分がやってることが悪だという言い方は、光輝にとって見過ごせることではなかった。

 

「なっ!? 違う! 犬と魔獣じゃ全然違うだろ!?」

「同じだ! 南雲も言ってただろ!? 小さい頃から姉妹のように育った子もいるって。そいつらを無理矢理引き剥がそうとしてんだぞ、光輝は!」

 

我慢出来ずに龍太郎が怒鳴ると、光輝は怯む。脳裏にハジメ達とポケモン達の様子が過った。確かに、彼女達の関係は良好な感じだったかもしれない。でも……

 

そんな光輝に龍太郎が優しく話しかける。

 

「なぁ、光輝。そりゃあ、今まで魔獣と戦ってきたし、魔獣と戦って死んだり怪我した人もいるって話も聞いたけどよ。だからって全部の魔獣が悪いとは限らねえだろ。俺らは、今日、その魔獣達に助けられたんだぜ? それを忘れちゃダメだろ」

「……龍太郎……」

「さっ、一緒に飯食おうぜ。なっ?」

「あ、ああ……」

 

龍太郎に言われるがまま、近くの木で出来た飲食スペースで一緒に食べる光輝。光輝は串焼きを頬張りつつ、先程の親友の言葉をじっくり考え始めた。

 

それで変わるのか、変わらないのか……それは光輝次第である。




龍太郎がすごい大人な感じになっちゃったな……違和感感じたらごめんなさい。

やっとタグのオリキャラ(敵)が回収出来ました。パシオとは何者なのか? 檜山達に渡したのは一体何か? それは後のお楽しみです。
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