魔獣使いと錬成師が合わされば世界最強   作:マロニエ19号

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新たな依頼

「助けてくれたこと、感謝する。本当にありがとう。私はビィズ・フォウワード・ゼンゲン。アンカジ公国の領主ランズィ・フォウワード・ゼンゲン公の息子だ」

「ゼンゲンって確か……」

 

ハジメは記憶の糸を手繰る。ゼンゲンという名に聞き覚えがあったのだ。

 

「エリセンで獲れた海産物の殆どの供給を担う大貴族……でしたよね?」

「ああ、思い出した。だが、そんな大物が何故砂漠のど真ん中で行き倒れに?」

「じ、実は……おっと」

 

誠司の質問に答えようと、ビィズが立ちあがろうとするが、クラリと目眩がしたようで、立つこともままならない。おそらく、脱水症状にもなりかけているのだろう。このままではまともに話になりそうもないし、そもそも領主の息子がこんな砂漠にまで単独で出向いているということは余程の事態のようだ。プリーゼで移動しながら話を聞いた方が良いだろう。

 

案内されたビィズは、プリーゼを馬車のようなものだと無理やり納得したものの、車内のあまりの快適さに違う意味で目眩を覚えていた。しかし、自分が使命を果たせず道半ばで倒れたことを思い出し、こんなところでのんびりしている場合ではないと気を取り直す。誠司は改めて質問した。

 

「それで、アンカジで一体何があったんですか? 領主の息子直々ってことは余程の事態なんでしょう?」

「その通りだ。異変が起こったのは四日前のことだ」

 

ビィズが言うには、こういうことらしい。

 

四日前、アンカジにおいて原因不明の高熱を発し倒れる人が続出した。それは本当に突然のことで、初日だけで人口二十七万人のうち三千人近くが意識不明に陥り、症状を訴える人が二万人に上ったという。直ぐに医療院は飽和状態となり、公共施設を全開放して医療関係者も総出で治療と原因究明に当たったが、進行を遅らせることは何とか出来ても完治させる事は出来なかった。

 

そうこうしているうちにも、次々と患者は増えていく。にもかかわらず、医療関係者の中にも倒れるものが現れ始めた。進行を遅らせるための魔法の使い手も圧倒的に数が足りず、なんの手立ても打てずに混乱する中で、遂に、処置を受けられなかった人々の中から死者が出始めた。発症してから僅か二日で死亡するという事実に絶望が立ち込める。

 

そんな中、一人の薬師が、食べ物や飲み物に原因があるのではないかと飲み水に〝液体鑑定〟をかけた。その結果、その水に多量の毒素が含まれていることが分かったのだ。直ちに調査チームが組まれ、最悪の事態を想定しながらアンカジのオアシスが調べられたのだが、案の定、オアシスそのものが汚染されていた。水中に白い結晶のようなものがあちこちに含まれており、その結晶が強い毒素を持っていることが分かったのだ。

 

当然、アンカジのような砂漠のど真ん中にある国において、オアシスは生命線であるから、その警備、維持、管理は厳重に厳重を重ねてある。普通に考えれば、アンカジの警備を抜いて、オアシスに毒を入れるなど不可能に近いと言っても過言ではないほどに、あらゆる対策が施されているはずなのだ。

 

一体どこから、どうやって、誰が……首を捻る調査チームだったが、それより重要なのは、二日以上前からストックしてある分以外、使える水がなくなってしまったということだ。そして、結局、既に汚染された水を飲んで感染してしまった患者を救う手立てがないということである。

 

また、汚染の原因とされている毒素を持つ結晶もその場で除去したのだが、翌日にはまた新たな結晶が水中に漂ってしまっており、完全除去が絶望的となっている。

 

猛毒の治療に使えるモモンの実やラムの実などを使用すれば大分良くなるのだが、それらの木の実はこの砂漠地帯では育ちにくい。その代わりとして、グリューエン大火山や北方の岩石地帯で確保出来る鉱石から精製された“ばんのうごな”を服用すれば毒を抑えることが出来るだろう。

 

しかし、北方の岩石地帯は遠すぎて往復に少なくとも一ヶ月以上はかかってしまう。また、アンカジの冒険者、特にグリューエン大火山の迷宮に入って〝ばんのうごな〟の原料である鉱石を採取し戻ってこられる程の者達は既に病に倒れてしまっている。生半可な冒険者では、グリューエン大火山を包み込む砂嵐すら突破が不可能だ。それに、仮にそれだけの実力者がいても、どちらにしろ安全な水のストックが圧倒的に足りない以上、王国への救援要請は必要だった。

 

その救援要請にしても、総人口二十七万人を抱えるアンカジ公国を一時的にでも潤すだけの水の運搬やグリューエン大火山という大迷宮に行って、戻ってこられる実力者の手配など容易く出来る内容ではない。公国から要請と言われれば無視することは出来ずとも、内容が内容だけに一度アンカジの現状を調査しようとするのが普通だ。しかし、そんな悠長な手続きを経てからでは遅いのだ。下手すれば、対処する頃に人口が半分以下まで減ってしまうことも有り得る。

 

なので、強権を発動出来るゼンゲン公か、その代理たるビィズが直接救援要請をする必要があった。

 

「父上や母上、妹も既に感染していて、アンカジにストックしてあったばんのうごなを服用することで何とか持ち直したが、衰弱も激しく、とても王国や近隣の町まで赴くことなど出来そうもなかった。だから、私が救援を呼ぶため、一日前に護衛隊と共にアンカジを出発したのだ。その時、症状は出ていなかったが……感染していたのだろうな。おそらく、発症までには個人差があるのだろう。家族が倒れ、国が混乱し、救援は一刻を争うという状況に……動揺していたようだ。万全を期してばんのうごなを服用しておくべきだった。今、こうしている間にも、アンカジの民は命を落としていっているというのに……我ながら情けない!」

 

力の入らない体に、それでもあらん限りの力を込めて拳を己の膝に叩きつけるビィズ。アンカジ公国の次期領主は、責任感の強い民思いな人物らしい。護衛をしていた者達も、砂漠に住むポケモン達に襲われ全滅したというから、そのことも相まって自分の無力さが悔しくてならないのだろう。

 

おそらく、ミミズズ達がビィズの周りをグルグル回っていたのも、猛毒を察知していたからだろう。そのまま放置せず立ち去らなかったのは、彼らなりにビィズを心配していたのかもしれない。そう考えると、ミミズズ達に悪いことをしたかもしれないと申し訳ない気持ちが誠司達に一瞬浮かんだが、喰われそうになったことを思い出して、すぐにその気持ちも霧散した。

 

「つかぬことをお聞きするが、見たところ君達はおそらく冒険者だろう。ランクを聞いても良いだろうか?」

 

ビィズに尋ねられ、誠司とハジメは顔を見合わせ、ほぼ同時に頷いた。ここで嘘を吐いて誤魔化しても良いことは無い。

 

「俺達は金ランクの冒険者だ。つい最近なったばかりだがな」

「……っ!?」

誠司の回答に、ビィズは目を見開いて驚きを露わにした。装備等を見て、高ランク冒険者であろうと予想はしていたが、まさか最高ランクの冒険者だとは思っていなかったのだ。

 

「これは…きっとエヒト神のお導きなのだろう…… 君達に、いや、貴殿達にアンカジ公国領主代理として正式に依頼したい。どうか、私に力を貸して欲しい」

 

そう言って、ビィズは深く頭を下げた。車内にしばし静寂が降りる。窓に当たる風に煽られた砂の当たる音がやけに大きく響いた。領主代理が、そう簡単に頭を下げるべきでないことはビィズ自身が一番分かっているのだろうが、降って湧いたような僥倖を逃してなるものかと必死なのだろう。

 

全員の視線が誠司とハジメに向く。全員、二人の判断に委ねるつもりだが、シアとミュウの眼差しの中には、明らかに助けてあげて欲しいという意思が含まれていた。中でもミュウは、もっと直接的だ。

 

「誠司お兄ちゃんもハジメお姉ちゃんも助けてあげないの?」

 

そんなことを物凄く純真な眼差しで言ってくる。そんなミュウの言葉を聞いて、誠司もハジメも苦笑いを浮かべた。

 

「しゃーない、指名依頼である以上、断る訳にはいかないからな」

「それに、ここまで話を聞いて見殺しにするのも気分が悪いしね」

 

元々、グリューエン大火山に挑む予定だったので、攻略ついでに依頼をこなすことも可能だ。何より、ミュウは大迷宮攻略に連れて行けないので、アンカジに預ける必要があった。依頼の形であれば、領主のもとに預けることも出来る。猛毒の心配はあるが、どうも空気感染したりする訳ではないようなので、飲み水等を飲まないよう徹底的に注意させればおそらく大丈夫だろう。

 

「貴殿達が金ランクなら、このまま大火山から、ばんのうごなの原料である“静因石”を採取してきてもらいたいのだが、水の確保のために王都へ行く必要もある。この移動型のアーティファクトは、ハジメ殿以外にも扱えるのだろうか?」

「まぁ、誠司とミュウちゃん以外は使えますが……わざわざ王都まで行く必要はないですよ。水の確保の方はどうにか出来るだろうから、一先ずアンカジに向かいましょう」

「どうにか出来る? それはどういうことだ?」

 

数十万人分の水を確保できるという言葉に、訝しむビィズ。ハジメは笑みを零しながら話す。

 

「簡単です。水系の魔法で貯水池を作れば良いだけの話ですから」

「……は?」

 

ハジメの言葉にビィズは口をポカンと開けて唖然としていた。普通なら不可能だろうが、ここには魔法に関して稀代の天才がいる。ユエだ。ハジメは、ユエに視線を向けると、ユエは心得たというように頷く。

 

「……ん、任せて。でも、()()()は必要」

 

ユエが誠司に視線を向けると、誠司もその意味を理解したようで、頷いた。

 

ハジメの掻い摘んだ説明を聞いて、最初は信じられないといった風のビィズだったが、どちらにしろ今の自分の状態ではまともに王国までたどり着けるか微妙だったこともあり、アンカジに帰還することを了承した。

 

砂漠地帯を滑るように高速で走り出すプリーゼに再び驚きながら、ビィズは改めて周囲を見渡して様々な疑問が浮かぶが、やっと見えてきた希望に胸の内を熱くするのだった。

 

こうして、一向はアンカジ公国へと向かうのだった。




静因石の設定を少しだけ変更しました。
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