「ブバァ!」
「ゴバァ!」
「っ!? ブーバーの群れか! 皆、下がっててくれ!」
休憩を終えて、攻略を再開した誠司達は、今度はブーバーの群れに遭遇し、戦闘を開始した。ブーバー達は誠司達を見ると、一斉に炎を吐いてきたが、ブースターの“もらいび”で全て吸収されて効果はない。それを見たブーバー達は更に怒り出した。
「ブースター、“ニトロチャージ”!」
「ブギュ!」
ブースターは炎を纏うと、ブーバー達に突進する。ブーバー達には大したダメージになっていないが、誠司の狙いはブーバー達を怒らせて、一箇所に集めることにあった。誠司は傍らのチゴラスに指示を出す。
「チゴラス、“いわなだれ”!」
「グオオゥゥ!」
チゴラスは大きく飛び上がって、岩の雨を降らせた。ブースターは寸前でボールに戻したため、“いわなだれ”は、ブーバー達だけに命中する。戦闘を終えると、誠司達は先を進んだ。
ーーーーーーーーーー
「まさか、火山で川下り……いや、マグマ下りを経験することになるとはな……」
「面目ない……」
「ん、でもショートカットにはなった」
現在、誠司達は、宙を流れる大河の如きマグマの上を赤銅色の岩石で出来た小舟のようなものに乗ってどんぶらこと流されている最中だった。
なぜ、こんな事態になったのかは少し前まで遡る。ブーバー達を撃退した後、攻略を進めつつ静因石も探していた誠司達は、ふと周囲のマグマが時々不自然な動きを見せていることに気がついた。
具体的には、岩などで流れを邪魔されているわけでもないのに大きく流れが変わっていたり、何もないのに流れが急激に遅くなっていたり、宙を流れるマグマでは一部だけ大量にマグマが滴り落ちていたり、というものである。
今までは攻略の障害にならない位置で起きていたため、気にも留めていなかったが、ハジメの技能の一つである「鉱物系探査」の効果範囲にその場所が入り、その不自然な動きが静因石を原因としていることが判明したのである。どうやら、マグマに含まれる微量の魔力が静因石に反応することで、不自然な動きを作り出していたらしい。
ならば静因石は、マグマの動きが強く阻害されている場所に大量にあるはずと推測した誠司達は、探索の末に大量の静因石が埋まっている場所を多数発見することが出来た。マグマの動きに注意しながら、相当な量を集めた後、予備用にもう少し集めておこうと、宙に流れるマグマが大きく壁を迂回するように流れている場所にも向かった。ハジメが錬成を使って即席の階段を作成して近寄り、「鉱物系探査」を使うと充分な量が埋まっていることがわかった。
早速、錬成の「鉱物分離」の技能を使って、静因石を回収していくハジメだったが、暑さによる集中力の低下と何度も繰り返した回収に油断したのか、壁の向こう側の様子というものに注意が向いていなかった。彼が自分のミスに気づいたのは、静因石を宝物庫に収納し、技能を解除した瞬間、静因石が取り除かれた壁の奥からマグマが勢いよく噴き出した後だった。
咄嗟に飛び退いたハジメだったが、噴き出すマグマの勢いは激しく、まるで亀裂の入ったダムから水が噴出し決壊するように、穴を押し広げて一気になだれ込んできた。あまりの勢いに一瞬で周囲をマグマで取り囲まれるも、ユエが障壁を張って凌いでいる間に、ハジメが錬成で小舟を作り出し、それに乗って事なきを得たのである。
途中、壊れそうになったものの、ハジメの錬成で修復され、頑丈に作り直され、シアの重力魔法の「付与効果」も掛けられたことで、頑丈かつ非常に軽い舟になっている。
こうして、流されるままにマグマの上を漂っていると、いつの間にか宙を流れるマグマに乗って、階段とは異なるルートでグリューエン大火山の深部へと、時に灼熱の急流滑りを味わいながら流されていき、現在に至るというわけだ。
「あっ、皆さん。またトンネルですよ」
「そろそろ、標高的には麓辺りじゃ。何かあるかもしれんぞ?」
シアが指差した方向を見れば、確かに、誠司達が流されているマグマが壁に空いた大穴の中に続いていた。マグマ自体に照らされて下方へと続いていることが分かる。今までも、洞窟に入る度に階層を下げてきたので、普通に階段を使って降りるよりショートカットになっているはずだ。
ティオの忠告に頷きながら、いざ、洞窟内に突入していく。マグマの空中ロードは、広々とした洞窟の中央を蛇のようにくねりながら続いている。と、しばらく順調に高度を下げていたマグマの空中ロードだが、カーブを曲がった先でいきなり途切れていた。いや、正確には滝といっても過言ではないくらい急激に下っていたのだ。
「全員振り落とされないように掴まって!」
内心舌打ちしながら怒鳴ったハジメの言葉に、誠司達も頷き、各々小舟の縁にしがみつく。ジェットコースターが最初の落下ポイントに登るまでの、あのジワジワとした緊張感が漂う中、遂に、小舟が落下を開始した。
ゴウォゴウォ
耳元で、そんな風の吹き荒れる音がする。途轍もない速度で激流と化したマグマを、シアの重力魔法を使った体重移動とユエとティオの風によって制御しながら下っていく。マグマの粘性など存在しないとばかりに速度は刻一刻と増していった。
ようやく流れが緩やかになってくると、誠司達はホッと一息吐く。しかし、そんな誠司達をよそに小舟はマグマの流れに乗って、またトンネルに入って行った。
今までも何度かトンネルを通ったが、今回のトンネルはどこか異様だった。壁に複数の穴があったのだ。しかも、その穴の向こうからは、無数のポケモンがいることが魔獣図鑑の技能から分かった。
「あの穴の中から何かがいる。皆、警戒してくれ」
誠司がそう言うと、ハジメ達は頷き、それぞれ違う方向から穴を観察する。そんな時、誠司は、後方から別のポケモン達の反応を感じた。何かと後ろを振り返ると、ブーバーが三体、マグマを泳いで追いかけてくる光景が見えた。それを見た誠司は顔を引き攣らせた。
「マジかよ。ブーバー達が追いかけて来てる」
「ええ? まさか、さっき戦ったブーバー達? ここまで追いかけてきたってこと?」
「うーむ、ブーバーは知能も高く、執念深いと聞くが、まさかここまでとはのう……」
「ん……それでどうするの?」
「そうですよ! こんな小舟の上じゃ戦うのは難しいんじゃ……」
そうこうしている間に、ブーバー達はマグマから飛び上がって、襲い掛かってきた。ユエが水魔法で迎撃しようと構えるが、水魔法を発動することはなかった。
周囲の穴から無数の糸が放たれて、ブーバー達の体をあっという間に包み込んで繭のようにしてしまったからだ。繭状に包まれたブーバー達は、そのままボチャンとマグマに落ち、プカプカ浮かんでいる。その糸は、非常に強い耐熱性を持っているようで、マグマの熱やブーバーの千度以上の体温にも全く影響を受けていない。突然の光景に、誠司達は困惑した。
「なんだ……急に……?」
「誠司、見て」
ハジメが指を指した方向に目を向けると、穴から大きめな芋虫のようなポケモン達が現れた。メラルバだ。メラルバ達は、繭状に包まれたブーバー達を糸で釣り上げると、そのまま穴の中に引きずり込んでいってしまった。
「あのぅ、もしかしてあのポケモン達は私達を助けてくれたり……?」
「……そんな訳ない」
「うむ、あのブーバー達の次はおそらく妾達……じゃろうな……」
希望を込めて楽観的なことを言ったシアを、ユエはバッサリ切り捨てる。ティオもユエの言葉を肯定した。そして、ティオの予想通り、ブーバー達が穴の向こうに消えた後、メラルバ達は一斉に誠司達を睨んだ。そして、ブーバー達の時と同様、一斉に糸を吹きかけてきた。
「あの穴に飛び込むぞ!」
「「「「了解(ですぅ)(なのじゃ)!!」」」」
誠司の言葉に、全員頷くと、壁にある穴のうち、一際大きい穴に飛び込んで間一髪メラルバ達の糸から逃れることが出来た。後ろを振り返ると、さっきまで乗っていた小舟はすっかり包まれて、ブーバー達同様に繭のようになっていた。メラルバ達も逃さんとばかりに、穴に入ってくる。
しかし、メラルバから逃げるために、穴の中を進むうちに誠司達は違和感を覚えた。
「なんか……あのポケモン達追いかけてこないね」
「ああ、簡単に諦めるようには見えないんだが……」
「……先回りしてどこかで待ち伏せしてたりとか……?」
「いや、魔獣図鑑には反応は特にない。奥の方に一体だけいるようだが、メラルバではないみたいだな……」
もしかするとメラルバの進化系であるウルガモスなのかもしれない。それを考えて用心しながら奥に進むと、そこにはメラルバでもウルガモスでもないポケモンが潜んでいた。
ウルガモスを彷彿とさせる姿をしているのだが、六枚の立派な羽は背ビレのようになっており、体が白い体毛で覆われている。夢でウルガモスの姿を見たことはあるが、少なくともこんな姿ではなかったはずだ。そして、目の前のポケモンは3メートル程の巨体である。穴が他のものよりもずっと大きかったのもそういう理由らしい。しかし、そのポケモンは弱っているのか、倒れ伏していた。
「……ギョゴギィィィ」
そのポケモンは、誠司達を見ると、弱々しくも威嚇をする。よくよく見てみると、ポケモンの体にはあちこち傷跡や火傷の跡があった。
誠司は、魔獣図鑑の技能を使ってポケモンの正体を調べる。色々分からない所もあるが、そのポケモンの名前が分かった。
「チヲ……ハウハネ……?」
「え?」
「いや、このポケモンだよ。どうもチヲハウハネって名前らしい」
「へぇ、少し変わった名前だね」
「魔獣図鑑が言うには、ウルガモスの古代の姿……とされているらしい。でもそんなポケモンが何でここに……?」
「……ひょっとして」
「ユエさん、どうかしました?」
ユエが何かの可能性に気がついたらしい。ユエはチヲハウハネに同情の視線を向けている。ユエは自分の推察を話した。
「……多分この子、先祖返りか何かした子なんだと思う。それでさっきのメラルバ達から除け者にされていた……とか」
ユエも、幼い頃に先祖返りをしているため、どうにも他人事には思えなかったようだ。誠司も困惑しつつも頷いた。
「確かに……体は傷だらけだし、あり得ない話じゃないが……」
「これだけ体が大きいと、力も強そうですし、力づくで追い出したりとか出来なかったんですかね……?」
「それで……どうするんじゃ、誠司? このポケモンをそのまま放っておくか?」
ティオに尋ねられ、誠司は少し悩んだ。実は、先程から意思疎通の技能を使っているのだが、このチヲハウハネが何を考えているのか、今ひとつ分からないのだ。他のポケモンであれば、何を言っているのか分かったり、どんな気持ちなのかがある程度分かるのだが、このチヲハウハネには通じない。まるで原始人か何かを相手にしているような感覚なのだ。そういう異質さが、このチヲハウハネにあった。
普通の野生のポケモンでも、治療したからといって、必ずしも仲良くなれるとは限らない。それが未知のポケモンなら尚更だ。それこそ、怪我が治り、動けるようになったら、食事だとばかりに自分達に襲い掛かってくる可能性もある。
しかし、だからといって、このまま傷ついたポケモンを見捨てる気にはなれなかった。
「最低限の治療はする。それで敵対してくるようなら、こちらも容赦はしない」
そう言って誠司は神水やチーゴの実を取り出した。火傷の跡にチーゴの実の汁を塗り、神水もかける。傷が滲みるのか、少しモゾモゾと動くが、敵意は特に感じられない。
それを見たハジメ達もホッと安堵の息を吐いて、誠司を手伝う。それから数分後、チヲハウハネの治療をある程度終えた誠司達は、その場を後にすることにした。結局、誠司達に襲いかかることはなく、終始チヲハウハネは大人しいままだった。
「ギョゴギギィ……」
ハジメの錬成を使って、先を進んで行く誠司達をチヲハウハネはジッと見つめていた。
SVでチヲハウハネを見て、一目惚れしたので登場させました。個人的に、パラドックスポケモンは古代の姿の方が好みな子が多いです。