「ゴボボボォッ!!」
ヒードランは大きな雄叫びを上げると、大きくジャンプして岩壁に張り付いた。そして、岩壁を縦横無尽に這い回り始めた。カラマネロと交戦していたチヲハウハネは、カラマネロを突き飛ばすと、ヒードランに向かって“とびかかる”を発動させて襲いかかった。かなり離れた距離なのだが、ヒードランに届く勢いで、突っ込んでいく。
しかし、ヒードランは怯んだ様子はなかった。“かえんほうしゃ”を放ち、チヲハウハネを燃やしてしまう。弱点の炎攻撃をまともに防御も出来ないまま食らってしまったチヲハウハネは、ボロボロになりながらマグマに向かって落ちていく。
誠司は義手を銃に変形させてモンスターボールを発射する。チヲハウハネの体はモンスターボールに吸い込まれていき、数回揺れた後にポカンと音を立てた。モンスターボールを義手で引き寄せて、無事義手に収まると誠司はホッと安堵の息を吐いた。
「……たく、無茶しやがって」
同じく、チヲハウハネがやられた光景を見ていたローゲンは舌打ちすると、炎魔法を発動させ始めた。両手から発生した炎は、先程までとは比べ物にならない最大火力のものだ。自分達を追い詰めていたチヲハウハネをあっさり戦闘不能にしたヒードランを最優先撃破対象と判断したのだ。
「チッ、何だあいつは!? いきなり出てきやがって……」
そして、最大火力の炎魔法をヒードランに向けて放つが、ヒードランはあっさり炎を吸収してしまう。このヒードランの特性は、ブースターと同じ“もらいび”だったのだ。
「なっ!?」
「ゴボゴボォ!!」
ローゲンが驚くと同時に、ヒードランは口を大きく開けると、渦状の炎を吐き出した。“ほのおのうず”に似ているが、威力は桁違いだ。渦状の炎はあっという間にローゲンを包み込んでしまった。火だるまになったローゲンは悶え苦しむ。
「ギャアアアアアァァァァァ、熱いっ、あづいぃぃぃ!!」
必死に転がり回って火を消そうとするローゲンを、カラマネロは冷たい視線で見つめていた。次の瞬間、ローゲンは突然パッと、姿を消してしまった。カラマネロが“テレポート”でローゲンを逃したのだ。
「…! マロマロ……」
カラマネロは何か思いついたらしく、ニヤリと不気味な笑みを浮かべた。次の瞬間、カラマネロはヒードランに向かって、何やら褒め称え始めた。
するとヒードランに異変が起こった。ヒードランが一瞬ウットリした表情を浮かべたと思ったら、急に動きが機敏になり、周囲を無差別に攻撃し始めたのだ。それを見たティオは、カラマネロにしたことを悟り、誠司に呼びかけた。
「マズいぞ! あのカラマネロ、“おだてる”で混乱状態にさせおった!」
「くそっ、なんてことを……」
誠司は思わずニヤニヤ笑っているカラマネロを睨みつけた。“おだてる”という技は、“あやしいひかり”や“いばる”と同様に相手を混乱させる効果があるが、実はもう一つの効果がある。それは、特殊攻撃力を向上させる効果だ。カラマネロは、特殊攻撃を得意とするヒードランを混乱させつつ強化させたのだ。
誠司はブースターに指示を飛ばした。
「ブースター、カラマネロに“かえんほうしゃ”!」
「ブギュ!」
ブースターは炎を吐くが、カラマネロはそれを難なく躱し、煽り始めた。ブースターが怒り始めたのを見て、誠司が諌めようとしたその時、別方向から複数の炎が現れてカラマネロに命中した。
「マロッ!?」
炎が現れた方向に目を向けると、そこにはブーバーンやマグカルゴ達がいた。全員正気に戻ったらしく、鬼の形相でカラマネロを睨みつけている。自分達を洗脳したカラマネロに怒っているようだ。
ブーバーン達やブースターが再度“かえんほうしゃ”を放とうとしたその時、ゴゴゴと地響きが起こった。それにより、全員技を中断させてしまう。カラマネロはその隙を突いて、“テレポート”でその場から逃げてしまった。悔しがる余裕もなく、どんどん大きくなる地響きに、誠司達は振り落とされないようにその場に留まるので精一杯だった。
ようやく地響きが収まり、何が起こったのか分からず、誠司達は困惑するも、シアが下を見て引きつった声を出した。
「み、皆さん! 大変です! 下が、マグマがどんどん上がってきてます!!」
「何だって!?」
ハジメが慌てて、下のマグマを凝視すると、シアの言う通り、マグマがジリジリと昇り始めているのが見えた。このままではグリューエン大火山が噴火することになるだろう。ユエが疑問を零す。
「……でもどうして急に……?」
「多分、いや間違いなくあのヒードランが原因だろうな」
誠司達がヒードランに目を向けると、ヒードランは縦横無尽に壁を這い回り、炎攻撃を仕掛けている。ブーバーン達も反撃しているが、特性“もらいび”で炎技が効かないことが分かると、違う属性の技で応戦し始めた。しかし、それでもまともな勝負になっていない。
「それじゃあ、あのヒードランを倒せば解決ってこと?」
「……可能性は高い」
誠司達は頷くと、それぞれポケモンを出したり、竜化したりして戦闘態勢を取った。
「ブースター、“スピードスター”! マーイーカ、“あくのはどう”!」
「メタング、“ラスターカノン”!」
「ホルード、“マッドショット”ですぅ!」
「……ん、シャンデラ、“シャドーボール”」
それぞれのポケモン達が技を放つが、ヒードランはそれらを軽々と躱していく。それを見たハジメはある作戦を思いつく。
「そうだ! ティオ、僕を乗せて壁際まで近づけて! 錬成でヒードランの片足だけでも封じられれば勝機があるかもしれない!」
「ええっ!? それは流石に危険すぎじゃあ……」
ハジメの提案に、シアは思わず止めようとする。無理もない。近づけば、ヒードランは攻撃を仕掛けてくる可能性が高い。だが、このままでは
「……こうなりゃ仕方ない。俺とユエとシアでヒードランの動きを誘導するから、ハジメはヒードランの動きを封じてくれ。ティオ、ハジメを頼むぞ」
リザードンとなったティオは誠司の言葉にコクリと頷くと、ハジメを乗せて壁際まで飛び立った。それを見たヒードランは撃ち落とそうと技を仕掛けようとするが、顔に黒い液体を吹きかけられた。マーイーカが墨を吐いて、意識を逸らしたのだ。誠司が指示を飛ばした。
「マーイーカ、“ちょうはつ”!」
「マイッカ、イッカ!」
マーイーカは滅茶苦茶腹の立つ表情を浮かべながら、煽るようなポーズを取った。すると、ヒードランは怒りの表情を浮かべ、誠司達の方に攻撃し始めた。ヒードランは口を大きく開けて、先程ローゲンを火だるまにした技“マグマストーム”を再び発動させる。特性“もらいび”でブーバーン達の炎技を吸収したこともあり、先程とは比べ物にならない威力である。
マズいと判断した誠司はマーイーカをボールに戻そうとするが、間に合わない。ヒードランがいざ“マグマストーム”を放とうとした次の瞬間、ヒードランの体勢がガクンと大きくズレた。
左後ろ足には、壁にめり込んだように沈んでいた。どうやら、ハジメの錬成が間に合ったようである。ティオに乗っているハジメが手を振っているのが見えた。
狙いが大きく外れた状態で発射された“マグナストーム”は、あらぬ方向に向かっていき、一つの岩島に命中した。岩島は爆発を起こして消滅したが、そこにあった火山のおきいしが吹き飛ばされ、何の偶然か元々の置き場所であるドームの中央に収まってしまった。
すると、猛威を振るっていたヒードランの体が急に光に包まれて消滅し始めた。ヒードランは特に苦しむこともなく、全てを受け入れた様子だった。
あまりにも呆気ない決着に、周囲には何とも言えない空気が漂い始めた。
「えーと……どういうこと?」
「そういえば、ヒードランが現れたのって、ドームの上の岩が外れた時と同時だったな。まさかあの岩が攻略の鍵だったとはな……」
「つまり……最初から相手にしなくてもあの岩を元に戻せば良かったってことですか?」
「ん……そうなる」
「グオウ……」
わざわざヒードランと戦わなくても、あの岩を元の位置に戻せば良かったことを知り、色々複雑な気分になる一同。周囲をよく見ると、ブーバーンやマグカルゴ達も、このことを知らなかったらしく、彼らも複雑な表情を浮かべていた。ブーバーン達は誠司達と戦う気はないらしく、そのままマグマに潜ってどこかへ行ってしまった。
色々邪魔が入ったが、誠司達は当初の目的であった隠れ家と思われる中央の島に向かうことにした。今度は邪魔が入る気配も無さそうなので、ポケモン達をモンスターボールにしまいつつ、足場を渡る。中央の島には、最初に見た時に覆っていたマグマのドームはなくなっていて、代わりに漆黒の建造物がその姿を見せていた。
どうやら、ドーム中央の岩を一旦外すことで、マグマのドームが消えると同時にヒードランが出現、ヒードランを倒すか岩を元の位置に戻すことで試練がクリアされるというからくりだったようだ。
「まぁ、どこぞの大迷宮と比べれば、比較的王道な試練ではあるわな……」
誠司の言葉に、ハジメ、ユエ、シアは同意するように頷いた。ティオは内心、彼らが他の大迷宮でどんな地獄を見たのか気になったが、誠司達の表情から何も言えずにいた。
建物には扉らしきものはなかったが、誠司達が前に立つと、ひとりでに壁がスライドして中に入れるようになった。
部屋に入ると、数歩先の床に巨大な魔法陣が描かれているのが見えた。神代魔法の魔法陣だ。誠司達は互いに頷き合うと、魔法陣にほぼ同時に踏み込んだ。
今までの大迷宮と同様に記録が勝手に溢れ出し、迷宮攻略の軌跡が脳内を駆け巡る。そして、その結果、無事攻略を認められたようで、脳内に直接、神代魔法が刻み込まれていった。誠司達四人は既に慣れたものだが、ティオは初めての経験なため、一瞬眉間に皺を寄せた。
「空間操作系の魔法……ね」
「随分強力な魔法だな。瞬間移動とかで奇襲したり出来るわけか」
「……それだけじゃない。空間を使って相手を閉じ込めることとかも出来るはず」
「なるほどの。あの見えない足場もこの魔法による産物というわけか。使い方の幅が広がる魔法じゃな」
「そうですね〜」
各々そんな感想を零した。全員が、今回の神代魔法である空間魔法の習得したと同時に魔法陣の輝きが収まっていく。それと同時に、虚空から赤いメダルが五つ誠司達の目の前に現れた。これが攻略の証なのだろう。それぞれ証を受け取ると、衣服に着けていく。ティオも誠司達に倣って、服の胸元に襟章のように取り付けた。
その時、カコンと音を立てて壁の一部が開くと同時に、正面の壁に輝く文字が浮き出始めた。
〝ペイシェンスシンボルを手に入れし者よ。人の未来が自由な意思のもとにあらんことを切に願う───ナイズ・グリューエン〟
「随分シンプルだね」
そのメッセージを見て、ハジメは素直にそう抱くと同時に、周りも見ると殺風景だと感じる。オルクス大迷宮やライセン大迷宮での隠れ家とは違って生活感がまるでないなく、本当に此処は魔法陣があるだけの部屋だと思われる。
「……身辺整理でもしたみたい」
「ナイズさんは魔法以外、何も残さなかったみたいですね」
「そもそもここは生活するための場所というわけでもなさそうだしの」
「何にせよ、もうここには用はないな。さっさとアンカジに帰ろうぜ」
誠司がそう呼びかけて踵を返そうとした時にあっと声を上げて立ち止まった。ハジメが尋ねる。
「どうしたの、誠司?」
「いや、こいつに聞くのを忘れてたよ。これからどうするのかを」
そう言って誠司は、モンスターボールからチヲハウハネを出した。かなりの巨体なのでスペースを取るが、幸い部屋も広いため特に問題はなかった。ボールから出てきたチヲハウハネは先程のヒードランのダメージがまだ残っており、それを見たハジメが回復させてやる。
「ギョゴギギィィ」
「なぁ、チヲハウハネ。つい思わずお前をゲットしてしまったわけだが、お前はどうしたい? 俺達と一緒に行くか?」
「ゴギギ、ギギギィッ!」
誠司がそう尋ねると、チヲハウハネは大きく頷いた。どうやら、賛成らしい。
「よし。それなら、これからよろしくな、チヲハウハネ」
「ギョゴギィィ!」
こうして、チヲハウハネが新しく仲間になった。チヲハウハネをボールに戻しつつ、誠司達は建物の近くにあった出口用の円盤に乗ってグリューエン大火山を脱出した。
ヒードラン戦は呆気ない決着になりました。ちなみに、火山のおきいしを右の場所に戻せば解決することに気づいても、ヒードランが妨害してくるのでどちらにせよヒードランと戦わないといけない感じでした。
ありふれのアニメ3期の7話、見ててキツかった…… 本作でもあるポケモンで再現してみようと思っていますが、その話になるまでどれくらい掛かるか…… 頑張ります(汗)。