「げほっ、がはっ、ごほっ」
「はぁはぁ、大丈夫、誠司?」
「ラーグ?」
「ブイブイッ?」
「あ、ああ。何とかな…… 他の皆は……」
結構な量の海水を飲んでしまい、むせながら周囲を見渡す誠司。周囲には白い砂浜以外何もなく、ずっと遠くに木々が鬱蒼と茂った雑木林のような場所が見えていて、頭上一面には水面がたゆたっていた。結界のようなもので海水の侵入を防いでいるようで広大な空間である。とても海の中とは思えない光景だ。この空間にいるのは、誠司、ハジメ、ラグラージ、ブイゼルだけであった。
「はぐれちゃったみたいだね。ユエ達なら心配要らないと思うけど」
「まぁ、そうだな」
ハジメは、周りにユエ達がいないことを確認し、はぐれてしまったことを悟る。とりあえず、服がびしょ濡れなので、先に乾かすことにする。ハジメは、エースバーンを出して指示を飛ばした。
「エースバーン、“ねっぷう”。弱めでね」
「バースッ!」
エースバーンはコクリと頷くと、脚に熱気を貯めて何回か振るう。ある程度加減された熱風が誠司とハジメに当たり、二人の服や髪をあっという間に乾かしていく。
「ふぅ。ありがとう、エースバーン」
「さてと、これからどうするか……」
「そうだね…… このまま海底に戻っても、ユエ達が何処に行ったのかなんて分からないし……深部目指して探索するしかないと思うよ。ユエ達もそうするだろうしね」
「だな。それなら、俺達が向かう先は……あそこだな」
誠司が奥の密林の方に視線を向けながら呟くと、ハジメも頷いた。すぐにでも出発したいところだが、その前にやっておくことがある。先程の戦いで戦闘不能になってしまったエレザードの回復だ。ハジメの回復魔法で何とか元気な状態にすると、エレザードは元気一杯に飛び跳ねている。元気になったことを確認して、安堵した誠司はエレザードをボールに戻す。ついでにハジメもブイゼルをボールの中に戻すことにした。先程まで穴を掘ったり色々やってもらったので、少し休んだ方が良いと判断したのだ。
準備を整えると、誠司、ハジメ、ラグラージ、エースバーンは歩みを進め、密林に向かった。密林の中は薄暗いため、“はっこう”の特性を持つマシェードを出すことにした。ポケモンが近寄って来る可能性もあるが、灯りが無い方が危険だ。
しばらく進むと、誠司は、ハジメがどこか懐かしそうに笑みを浮かべていることに気がついた。
「どうした?」
「いや、なんかさ……懐かしくない? こういうの」
ハジメにそう言われて、誠司はあることに気づいた。
「あぁ、なるほどな……そういえば、今の俺達はオルクスの奈落を攻略し始めたばかりの初期メンバーだったな」
当時はネマシュ、ミズゴロウ、ヒバニーだった。今ではマシェード、ラグラージ、エースバーンへと進化して、随分逞しくなったものだ。どこか感慨深いものが胸に溢れてくる。それは、ハジメも同じだったようだ。
「誠司、絶対攻略するよ」
「もちろんだ。それに……こいつらがいる限り、俺達は負けねえよ」
「マシェ!」
「ラーグッ!」
「バスバース!」
誠司達は改めてそう誓いながら先を進むと、出口が見えてきた。出口を抜けると、岩石地帯が広がっており、そこには無数の帆船が朽ちた状態で横たわっていた。
「これは……船の墓場ってやつかな?」
「すごいな…… 何百メートルあるんだ……?」
どの船も百メートルはありそうなものばかりで、遠目に見える一際大きな船に至っては三百メートルくらいはありそうだ。誠司もハジメもポケモン達も思わず足を止めてその一種異様な光景に見入ってしまった。しかし、いつまでもそうしているわけにも行かず、誠司達は気を取り直すと、船の墓場へと足を踏み入れた。
岩場の隙間を通り抜け、あるいは乗り越えて、時折、船の上も歩いて先へと進む。しかし、目に入るどの船も朽ちてはいるが、触っただけで崩壊するほどではない。何かしらの保存の魔法がかかっているようで、一体いつからあるのか判断が難しいが、どの船もある共通点があった。
「どの船も戦艦だったみたいだね」
どの船にも激しい戦いの跡が見られた。魔法による攻撃と思われる痕跡があちこちに残っている。そんなことを呟きながら、ハジメが誠司の方に振り向くと、誠司はハジメ達のいる船の二つ前の船で、戦闘跡に触れながらブツブツと呟きながら何か考え込んでいた。
「これは、いつのものだ……? この辺りでは昔ナバールの海戦という大規模な海戦があったらしいけど、船の造りからして、ここの船はそれよりずっと前だよな? 他に有り得そうな海戦なんて無かったはずだし……いや、待てよ。確か王宮にあった歴史書の中には、いくつか不自然に空白になっていた部分があったな。もしかして、ここの船はその空白部分の時のものか……?」
「あの〜、誠司?」
「んぉっ!?」
ハジメに呼びかけられ、ビクリと反応する誠司。声のした方に顔を向けると、そこには少し呆れた表情をしたハジメ達がいた。どうやら、考察に夢中になって、ここが大迷宮の中であることをすっかり忘れてしまっていた。
「あ、ああ。悪い。ちょっと考え事をしてて」
「まったく。気持ちは分からなくはないけど、ここは大迷宮だよ。気をつけて。早く行こう」
「ああ、そうだな」
改めて先を進もうと動き出した瞬間、周囲の風景がぐにゃりと歪み始めた。誠司達は驚いて足を止めて何事かと周囲を見渡すが、そうしている間にも風景の歪みは一層激しくなり――気が付けば、大海原の上に浮かぶ船の甲板に立っていた。
そして、周囲に視線を巡らせば、そこには船の墓場などなく、何百隻という帆船が二組に分かれて相対し、その上で武器を手に雄叫びを上げる人々の姿があった。
「おいおい、これは幻か……?」
「はは……大迷宮って本当に何でもありだね……」
誠司達は最初こそ度肝を抜かれるも、すぐにここは何でもありの大迷宮だからと精神を落ち着かせる。周囲の様子を見ていると、数百隻の船が一斉に進み出した。そして、一定の距離まで近づくと、そのまま体当たりでもする勢いで突貫しながら、両者とも魔法を撃ち合いだした。
ゴォオオオオオオオオ!!
ドォガァアアン!!
ドバァアアアア!!!
「うおっ!?」
「わわっ!?」
強い衝撃に誠司もハジメも、思わず尻餅をついてしまう。轟音と共に火炎弾が飛び交い船体に穴を穿ち、巨大な竜巻がマストを狙って突き進み、海面が凍りついて航行を止め、着弾した灰色の球が即座に帆を石化させていく。
そのうち、誠司達の乗る船の甲板にも炎弾が着弾し、盛大に燃え上がり始めた。船員が直ちに、魔法を使って海水を汲み上げ消火にかかる。
戦場――文字通り、このおびただしい船団と人々は戦争をしているのだ。放たれる魔法に込められた殺意の風が、ぬるりと肌を撫でていく。言いようのない気持ち悪さが襲う。誠司もハジメも、今まで本当の意味で戦争というものが分かっていなかったのだと思い知らされた。
何故いきなり戦場に紛れ込んだのか? これもまた大迷宮の試練なのか?と色々な疑問が浮かぶが、落ち着いて考える暇などない。戦場で飛び交う魔法攻撃は、誠司達にも向けられる。兵士達は、誠司達のことも敵と見做したようで、一斉に襲いかかって来た。
「全ては神の御為にぃ!」
「エヒト様ぁ! 万歳ぃ!」
「異教徒めぇ! 我が神の為に死ねぇ!」
狂気に満ちたその顔はしばらく食欲が失せるくらいに醜悪なものだった。しかも、どういう原理か分からないが、兵士達の攻撃には実体があるようだ。自分に向かって飛んできた炎魔法の攻撃に対して、誠司はラグラージに“マッドショット”を指示し、攻撃を防ぐ。その時、あることが分かった。
「……え? 今の攻撃って……“おにび”?」
「え? ちょっと待って、どういうこと?」
「分からない。今の攻撃に魔獣図鑑の技能が反応して“おにび”だって……」
「でも幻とは言え、人間の攻撃だよね?」
「いや、もしかしたらこの幻を作ったのは魔法的な何かじゃなくて……ラグラージ! “みやぶる”だ! 多分どこかにこの幻を作ってる元凶がいるはずだ。それを見つけ出したら、“マッドショット”!」
「ラグッ!」
ラグラージは目を光らせて周囲を見渡す。そして、一点に向かって“マッドショット”を放った。
「ムウッ!?」
「ムマッ!?」
「ムゥ……!?」
何かが当たったような音がしたと思ったら、途端に霧が晴れたように幻が消えていく。周囲は、先程までのような船の墓場とも言える光景が広がっている。“マッドショット”を撃った方に視線を向けると、そこには紫色の幽霊のようなポケモンが三体フヨフヨと浮かんでいた。ムウマージだ。技を受けて、幾らかダメージを受けたようだが、まだピンピンしている。ムウマージ達はそのままどこかへ姿を消してしまった。
「はぁ、何とかひと段落したみたいだな」
「うん、少し休憩しよう。正直気分が悪いしね」
ハジメの提案に誠司もポケモン達も素直に頷き、近くの岩場で休憩することにした。岩場に腰掛け、少し気を緩めると、ハジメがポツリと呟いた。
「ねぇ、誠司。あの幻覚……やっぱりあの船達と関係あるんだよね……?」
誠司はハジメに一瞬視線を向けつつ、自身の推測を話した。
「だと思うよ。大方、昔の戦争を幻覚で映し出したんだろうな。ムウマージは幻覚や幻聴を見せるポケモンだし」
「ひょっとしたら、これが前にティオが言っていた大迷宮のコンセプト……なのかもしれないね」
「……どういうことだ?」
「大迷宮はそれぞれの解放者達が課した試練。当然ここも試練の一つ、それなら試練の内容は……」
「『狂った神がもたらしたものを過去の歴史から知れ』……ってところか」
「多分ね」
誠司は顎に手を添えて思案する。確かに先程の幻覚の中にいた兵士達はいずれも正気ではなかった。狂信者という言葉が相応しい程だ。狂気の宿った瞳で体中から血を噴き出しながらも哄笑し続ける者や、死期を悟ったからか自らの心臓を抉り出し神に捧げようと天にかかげる者、敵を殺すために弟ごと刺し貫こうとした兄と、それを誇らしげに笑う弟。戦場である以上、狂気的な部分はあっても不思議ではないが、それにしてもあの光景は異常だった。
誠司やハジメだけでなく、マシェード達も疲れているようだった。なので、一旦マシェード達にはボールの中で休んでもらい、代わりに誠司はチョロネコを、ハジメはベロバーとブイゼルを出す。どのポケモン達もやる気満々で、頼もしさを感じる。
誠司もハジメもそんなポケモン達の様子に元気づけられたのか、口元が少し緩む。そして、二人はそれぞれ、自分の頬を叩いて気を引き締め直すと立ち上がった。
「「よし、行くか!」」
「ニャァ」
「べへー!」
「ブイブイッ!」
二人とポケモン達はこのまま歩みを進めた。
ポケスリやってたらオラシオン流れてきてビックリした。ダークライでコレは卑怯でしょ……