黄金の精神で怪奇現象を切り抜ける話 作:匿名ですぅ
自宅のアパートのベッドに腰と荷物を下ろし、昨日の出来事を思い出す。あれが夢でないことは、左手の痺れと傷跡が証明しているというのに、俺はまだ信じ切ることは出来なかった。もしかすると、あれは唯の夢で、自分に噛み付いただけなのか…いや、どちらにせよ友人との話のタネにはなるだろう。
俺はつい最近大学を卒業し、有名科学者の助手になったばかりだ。あの事を先生に話したら、絶対に碌な事にならないだろう。もし俺が超常現象を信じるドリーマーなファンタジストだと思われたらたまったものではない。
いつまでも悩んでいては仕方がないので、俺はオムライスを作ることにした。まずは米だ。これがないと何も始まらない。早速準備を始めようとした時。
prrrrrrrrrrrrrrr…
固定電話の音が鳴り響く。俺の気分が少し落ち込んだのは、十中八九、急な電話は先生から「やっぱ休みはなし」と宣告されることを意味するからである。全く、こっちのプライベートも考えて欲しいものだ。
腰を上げ、受話器を取り上げる。
「もしもし。」
『・・・・・・』
「先生ですか?」
『・・・・・・・・・』
「…おいアンタ、何か喋ったらどうだ?口に間違えてピアスでもくっつけちまったのか?」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
……はぁ、イタズラ電話かよ。受話器を置き、振り返った直後。
prrrrrr
「おいテメェ、ふざけるのも――」
『ちょ、僕だよ僕。』
「この声は…沼田じゃあないか!すまない、先程イタズラ電話にあってな。」
内容は、折角の休暇だから実家に遊びに来ないか、ということだった。勿論承諾した俺は、駅前で待ち合わせることにした。
彼とは小学校からの友人で、今では同じ先生の助手として働いている。長い間苦労を共にしてきている点で、俺と彼はとても仲が良かった。
友人と合流し、二人で自転車を漕ぎ出す。
「そういえば、昼食は食べたか?もしよければ、あの噂のレストランに行かないか?」
「ああ、あそこ?ごめん、親に勇也が来るって伝えたら、アイツら張り切っちゃって。家で食べる事にしよう」
建物の密度が段々と減り、緑が多くなってきた頃、一面に広がる田んぼが目の前に現れた。友人の実家は農家なのだ。
「あそこに見えるのが僕の実家だよ」
「分かった、ありがとう」
田んぼを眺めながら自転車を漕ぐ。今日はよく晴れた日で、この素晴らしい景色は今日の楽しみの一つでもあった。これで、この生暖かい風が無ければ完璧だったのだが。
しかしながら、俺はあることに気づいた。いや、“気づいてしまった”。
「あれは…何だ?」
遠くの田んぼに、人くらいの大きさの、くねくねと動く白い物体がある。二人で自転車を止め、よく目を凝らすがここからではよく見えなかった。
カカシ、なのだろうか。それにしては揺れ方に違和感があったが、それ以外のものが思いつかなかった。
「カカシ…?」
「でも、あんな種類のは…ちょっと、双眼鏡取ってくるよ。」
友人が取りに行っている間、少し奇妙な事が起こった。あの風が止んだにも関わらず、アレは未だくねくねと動き続けているのだ。風に煽られていたから揺れていたのではないとすると、一体……いや、考えすぎか。あそこからここは距離があるから、あそこではまだ吹いているのだろう。
友人が帰ってくるのにあまり時間は掛からなかった。流れで双眼鏡を持ってきた友人から見る事になる。双眼鏡を持つ手には力が入っていた。
そして、覗き込む…!!
「………。」
「……おい?!」
何という事だ!!
一瞬の硬直の後、彼の顔はみるみるうちに青くなっていくではないか!双眼鏡を手から滑り落としてもなお、アレを凝視し続ける。
「い、一体アレは――」
大量の汗をかきながら、彼は俺に背を向け、自らの実家を向いた。
「わカらナいホうガいイ……」
それは、既に彼の声では無かった。
「おい待てッ!!」
ヒタヒタと帰ろうとする彼の肩を追いかけて掴んだその時。
頬に、友人の平手が打ち込まれた。
「な………」
そこに彼の意志は無かった。彼はただ――狂ったように笑いながら、まるであの白い物体のようにくねくね、くねくねと乱舞し始めたのだ。
「何ィィィィイイイイイイ?!?!?!」
間違いない!!アレは、狂気の代物だッ!!知るべきでは無かった、いや、知ってはならなかったのだ!!
目の前が真っ暗になる。あの時、俺が見つけていなければ。こんな事には、こんな事には…!!
後悔の念が俺の心を埋め尽くしかけた時。それとは全く違う、別の感情が勇也に押し寄せた。
そう、最も親しい友人をこんな風にした、その元凶に対し「許さねェ」とキレる、紛う事なき復讐心であるッ!!!
自転車に跨り、一つ一つ漕ぎ出すッ!!
「テメェに勝つのに難しい工程なんていらねェ!!①はっきりと見ないようにする ②殴る それだけだッ!!」
距離を半分まで縮めたころ、自転車を捨てて道を覚え、視界の殆どを隠しつっ走る勇也だったが、ギリギリまで近づいた後は、完全に目を閉じた。
……地面が、ゆっくりと揺れている?
『ナンダヨ?』
「テメェがどんな姿してるのかは知らねェけどよ~、たとえ神でも容赦はしないぜ?テメェを殺して沼田が助かるかもしれねェならなッ!!!」
声がした方向に助走をつけて殴りかかる勇也。吹き飛ばした確実な感触を感じ取った直後、右拳が――
「お…俺の手が…くねくねと動き出しただとォ?!?!」
そうか、分かってきたぞ…!!地面が揺れているのも、俺の手がくねくねとし始めたのも全部、コイツが触れたからだッ!!
つまり、コイツに触れたものは漏れなくッ!くねくねと動く様になるということか…!!
『コナイナラコッチカラ』
近づいてくる音に反応して、咄嗟に右腕で体を守るが、強い衝撃に遠くまで吹っ飛ばされる。左手を地面に付けて止まれたものの、もはや右腕は使えない…!!
「クソ、長袖を着てくれば良かったぜ…」
どうやって闘う?目が見えない今、脚を使って攻撃するとバランスを崩しかねない。しかし、腕で攻撃したら、もう二度と使えなくなってしまうッ!
再び走り迫ってくるくねくね。それに対し勇也が取った行動は――。
「逃げるんだよォォォーーーーーッ」
まさかの逃走ッ!!
しかし、闘いを放棄したのではないッ!!久々に目を開けられた勇也は、ある物を持って再び戻ってきたッ!!
「これなら…テメェに勝てるぜ!!」
そう!勇也が持ってきたのはカカシだったのである!
『ソウカ、ソレナラボウギョコウゲキトモニカノウ…!!』
「そういうこった!!ゴルァ!!」
カカシを左手で持ち、野球バットの様にフルスイングする。
『バカメ!!』
だがしかし、現実はそう甘くない!勇也の利き手は右手であり、どうしても左手では遅くなってしまうッ!そのため、避けられて大きな隙が出来てしまった!!
『シネイッ!!』
「ブゥァ~~~~ッカ」
なんと、それまでくねくねと動いていた右手が、背中からデカい布を取り出し、攻撃する瞬間のくねくねに覆い被せたのだ!!さらに、バランスを崩したくねくねを、完全に布で包み込む事に成功したッ!!!
『ナ、ナ、』
「ふぅ~、やっとこれで目が開けられるぜ。テメェのクソにまみれた顔面も見ずに済むしよォ。ま、差し当たって二つ疑問があるだろうから、教えてやるぜ。ゴルァ!!!」
『グゥ…』
「まず、何故右手が動くのか。テメェはいつも中心にいたから知らねぇかもしれねェが、この物質くねくね化には射程距離がある。何故なら、テメェから10m以上離れた所の地面は揺れていなかったからだ。だから、10m以上離れるだけで、右手のくねくねを解除出来た!!ゴルァ!!!」
『グボァ…』
「次に、この布は何か。田んぼには、大量のカカシがいるからよォ。そいつから服をもぎ取って繋げた、それだけだッ!!ゴルァ!!!」
『グェ…』
「さ~て、じゃあやりますか。」
『ヤ、ヤメ「ゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラ!!!!!」
連続パンチに怯んだ隙に、止めの一撃としてさっきのカカシを掴む。
「ゴルァ!!!!!!!」
布の隙間から光り輝く粉となって、くねくねは天に還った。
「……結局、アレって何だったんだろうな……。」
☆★☆
「う、うぅ……」
「沼田、起きたのか…!」
あの後、倒れていた友人を実家まで連れて行ったのだが、無事そうで良かった。もしアイツを倒せていなかったら……もしかすると、彼はアレと同じになっていたのかもしれないな。
「何かあった気がするんだけど…僕、何で気絶したの?」
「覚えていないのか。……自転車で倒れたんだ。傷は無かったが、頭から落ちたから。」
結局アレの正体は謎のままか。まぁ、知っても良い事なんて無いだろうけどね。
「それより、早く飯を食おう。折角作って貰ってた料理が冷めちまうぞ。」
「はは、そうだね。」
オムライスが出た時は少々驚いたが、なかなか美味しかったので、作り方のコツでも聞いてみようか。
…その日の夜の夢。
「もしもし。」
『オイ』
「先生ですか?」
『オマエ』
「…おいアンタ、何か喋ったらどうだ?口に間違えてピアスでもくっつけちまったのか?」
『キコエテイルンダロウ?!』
………。