黄金の精神で怪奇現象を切り抜ける話   作:匿名ですぅ

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Battle3:髪女

 あの濃厚な二日間から、5日間が経過した。

 くねくねと動いていた怪異との闘いから、怪奇現象というものはもう認めざるを得ないだろうという結論に至った。という事は、この世界ではそれ以外の奇妙な現象もあるのかもしれない…が、俺の知った事ではないな。

 

 それよりもまずは、この漫画に集中しよう。絵柄がかなり独特だが俺は好きだし、この濃厚なストーリーや戦闘は他では味わえないだろう。最近になって知ったのだが、もっと早くから読んでいれば良かった。

 読み終えた頃には丁度良い時間になっていたので、寝る事にした。しかし、椅子から立ち上がった時、妙な違和感を感じた。俺が座っていた椅子の上に、長い髪の毛が数本落ちている。それらは俺の髪の毛よりも圧倒的に長く、色も少し違っている事から、明らかに他人のものであろう。しかし、最近他人を家に招き入れた覚えはない。

 ……そうか。この家の中で外と関わりを持つのは、俺とその服だけだ。つまり、ズボンに他人のが引っ付いていたのだろう。

 

「汚いな」

 

 端っこをつまむ様にして持ち上げ、ゴミ箱の中に入れてしまう。どこの誰のかも分からない様な毛髪なんて、はっきり言って不快でしかない。

 

 大きな欠伸をかくと、俺は部屋着に着替えて、それぞれの部屋の電気が落ちているかを確認した。俺の先生は一応有名だから、俺の部屋はまあまあ大きい。

 これで眠りにつく事が出来る。今日も仕事があったため、疲れは溜まっていたから、簡単に俺は眠りに落ちてしまった。

 

 

☆★☆

 

 

 夢を見た。

 目の前にいるのは、見たこともない恐らく二十台の女。彼女は…俺の首を絞めている。

 

苦しい…

 

苦しい…

 

苦しい…

 

 まるで本当に首が絞められている様な苦しさに思わず目を開くと……部屋の天井が目に“入らなかった“。何故なら…まるで満潮の海のように、うねった髪が埋め尽くしていたからである。

 

「ゴハッ…グ…」

 

 さらに俺は、首に髪の毛を巻き付けられ、てるてる坊主の様に吊るされていることを自覚した。

 まずい…意識が…ッ!!

 

 しかしそこは勇也ッ!髪を掴んで体制を変え、天井を蹴って自分が回転することで、髪の毛の拘束を解いたッ!!

 

 床に着地すると、髪の大海の中から、頭がひょこっと覗き出てきた。左目はドロドロに溶け、髪は血でべっとりと頭に張り付いていた。

 

『ァァ…アトチョットダッタノニ…』

「くそっ! 寝てる途中だってのに変なものみせやがってッ!!」

 

 勇也は段々と意識がはっきりしてきた。同時に、高速で頭が回転し始める。どうすればこの迷惑極まりない怪異を、この世から出禁に出来るかということに…!!

 

 天井の髪の海からは、太い髪の束が蔦の様に幾本も垂れ下がっている。その一本一本が、今度は発情期のチンアナゴの様に勇也に向けられた。

 

 瞬間。

 その何本かが勇也を貫かんと、高速で飛び出してきた。身を捻る様にして避けるが、避けた先に狙いを定めていた髪に左腕を切られ、血が流れ出た。

 

「畜生、そっちが本命か…ッ!!」

『フフ…』

 

 再びやってきた髪を横に跳んで躱し、今度は2回目の攻撃も躱す事に成功したが、3回目は避けきれず今度は頬を切られる。

 そんな勇也にはお構いなしに、次々に髪が発射されていく。

 

『ソラソラ!イチドモヨケレテイナイゾ!マヌケガァ!』

「クソ…!」

 

 何度も繰り返す内に、体は傷だらけになり、息もかなり切れてきた。そして遂に体力の限界が訪れたのか、台所に寄りかかったまま動くことが出来ず、脇腹に髪が貫通したッ!!

 

『カッタッ!ナイゾウクソミテェニマキチラシテシネ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「てめー、頭脳がまぬけか?」

 

 見れば、突き刺した髪が激しく燃え盛っているではないか!勇也の背後にあったのは、ガスコンロの火だったのだッ!

 

『アアアッ、ク、クルナ!!』

 

 抵抗虚しく、火は天井の髪の海にまで到達してしまう。そうなってしまえば、もう何をしても無駄だ。

 

『ギャアアアアアアアアア』

「髪ってのはなァ、空気を含んでるから酸素があるだけでなく、タンパク質も含まれてるからクソ燃えるんだ。テストに出るから覚えとけ」

 

 耐えきれなくなった髪女は、頭を切り離して床に降りようとした。しかしそこに居たのは――

 

「予測出来たぜ…テメェが火から逃れようと、しょっぺぇリンゴみてぇに頭を落っことすことはよォ!!」

 

「ラッシュヲタタキコムキカ!?シカシ、タンパクシツニハ“イオウ“ガフクマレテイル!ソレガモエタトイウコトハ、“ニサンカイオウ”ガハッセイスルッ!ツマリ、オマエモミチズ「ゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラ!!!ゴルァ!!!!」

 

 吹き飛ばされ、髪女はガラスに大穴を開けた後、空気に還りながら落下していった。

 

「取り敢えず、これで換気穴は出来たな」

 

 

☆★☆

 

 

「本ッ当にすみませんでした!!」

 

 あの髪女との闘いの後、俺は電話で、全力で大家に謝罪していた。髪女が死んだ後に髪が消え去った事と、このアパートが耐火性に優れていたために火災にはならなかったものの、部屋に大量の焦げ跡が残ってしまった。

 とんでもなく価値が下がってしまったため、弁償は多額になった。今病院にいて、脇腹の手術もあるし、保険分を引いても、痛い出費である。

 

 新聞を読んでいると、やはりというべきか、この町で交通事故による死者が出たそうだ。“運悪く”、この人の毛髪を家に持ち込んでしまったために、あのような事態になったのだろう。

 そんなことを考えていると、どうやら見舞いが来た様だ。

 

「やぁ、勇也くん…。」

「沼田か、ありがとうな」

 

 やけに浮かない顔をしているな。そんなに心配――

 

「やあやあ井之頭ちゃん、元気かい?」

 

 ……先……生……?!

 

「おい沼田、なんでコイツが居るんだよッ!」

「ごめん、無理矢理付いてきたんだよ…」

「おっと、隠し話とはいただけないねェ!」

 

 はっきり言って、この女は変人だ。助手試験の時はあんなにまともに見えたのに、いざ働いてみれば酷いものであった。明らかにおかしい時間労働させたり(まあその分給料はかなり弾むが)、実験だとか言って町に繰り出しては、動物の死体集めを命じられたりするのだ。実績は素晴らしいのだが、それ以上に悪評が轟いているので、その助手の俺たちまでも変人扱いされるので堪らない。

 

「ああそう言えば、火事の弁償と手術費、全部支払っておいたよ。仕事に支障が出ちゃあ困るからね。待ってるよ、優秀な助手クン」

「あ、ありがとうございます…。」

「ホントに早く帰ってきてよ!それまで、君の負担が僕に集中するんだからね!」

 

 複雑な心境ではあるが、まあ、めでたしめでたし…である。

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