黄金の精神で怪奇現象を切り抜ける話 作:匿名ですぅ
私の名は白羽 滝。褒めて頂いて結構なのだが、かなり有名な科学者である。
今日は私の助手、井之頭勇也の見舞いに来ている。脇腹に穴が開いて内側を若干火傷、体にはかなり多くの切り傷があったそうだ。また、勇也の部屋の主に天井が丸焦げになっているようだ。本人に何故なのか聞いても、「覚えていない」の一点張りで、事件性を疑ってしまう。…もしや「アレ」の……。今後も本人が話さない様なら、知人に相談せねばなるまい。
勇也と沼田に出会ったのは1年と少し前。都会の大学を卒業した2人は、私の研究所にメールを送ってきた。私が助手を募集していたことと、沼田の実家がこの町にあったことが理由らしい。
早速軽く面接や試験をしてみると、勇也は行動力があって頭も良く、沼田は少し性格が控えめだがとても正確に実験をこなすことが出来るようだった。
私は直感めいた確信により、この2人を採用した。これまでの助手は一か月もてば良い方だったのだが、まだ続いていることからあの確信は正しかったのだと分かる。文句こそ言うものの、2人ともこの仕事にやりがいを感じてくれている様だった。
その為、勇也を失う訳にはいかないから、金関係は私が全て解決した。あとは怪我が早く治ってくれれば……まあ、“最終手段”はあるにはあるのだが。
話を終え、沼田と共に研究所に向かおうと思った時。周囲の様子が変わっていることに気づいた。部屋の光はいつの間にか青っぽくなっており、窓は完全に閉まり、外の様子が曇って見えなくなっていた。さらに加えて、経験したことがない程の悪寒が全身を包んでいる。
この事に2人や周囲の人々も気づき始めた様で、多くが無言で震えていた。
「やれやれ、こんな時に…」
「せ、先生!一体――」
無言で沼田の首を手刀で叩いて気絶させ、廊下への扉を開ける。
「お、おい!1人でどこへ!」
「おとなしく待っててね、井之頭ちゃん。」
扉を閉め、周囲を見渡すと、すぅと息を吸った。
「『ブレイク・フリー』」
シュウウゥゥゥ……
唐突だが、私は生まれつき、奇妙な能力を持っている。ある人から聞いた所によれば、『スタンド』と呼ぶらしい。尤も、実生活において使用したことは殆ど無いのだが。
つまり何が言いたいのか。私の背後に現れた、この白い煙に目が生えたものは私の『スタンド』だ。
さて、そろそろ敵のスタンド使いと相見えたいところだが…見当たらないな。ゆっくりと、青い廊下を歩いていく。……が、そのうち赤く染まった曲がり角を発見した。
「…ッ!!」
ゆっくりと覗き込むと、曲がり角に私が目にしたのは、下半身が切り離された死体だった。目は死神を目にしたかの様にかっ開いており、内臓も飛び出していた。
(早く倒さなければ…!!)
何が狙いだ?私か?それとも虐殺行為自体か?それとも――
メギャン!!!
その瞬間、凝固し、人型となった『ブレイク・フリー』が、背後からの攻撃を弾き飛ばした。
『キャキャ…アタシの攻撃に気付くとは、やるじゃない』
振り返るとそこに居たのは、下半身のない少女だった。両手で地面に立っており、醜く顔を歪ませている。
「私の『ブレイク・フリー』を霧散させて、探知していたのだよ。…目的はなに?」
『教えるぅ?そんなことを敵にするか!真面目に考えろボケナスッ!!』
口の悪い少女は、手で移動しているとは思えない程の加速を見せ、高速で腰に手刀を放ってきた。
「そんな手刀など…?!」
スタンドのパンチで迎え撃とうとした手刀が、いつの間にか鎌に変化している?!
しかし、速すぎて手の形を変えることが……
「グッッ!!!!」
鎌は拳を縦に真っ二つにし、前腕の途中までを切り裂いた。
『キャキャキャ!ナスには切れ目を入れねェとナァ〜〜ッ!!』
少女は地面を叩き、離れていく。
『さア叫べ!それが貴様の死に声だッ!!』
これまでに経験したことがない程の痛みに襲われる。しかし――
「怯む……と!思うのか……
これしきの……これしきのことでな!!」
白羽は煙を輪状にして、右手を固定した後、ニヤリと笑って見せた!!
《な……なんて精神力!!アタシならとっくにションベン漏らしてるぜ…!!》
「私は――『今からお前の攻撃を一度も受けずに屋上へ行く』」
『…ハッ!やはり逃げるのか!私に恐れを出したな腰抜け!!』
振り返り、階段に向かって走る白羽。しかし、その速度はテケテケより圧倒的に下だッ!追いかけるテケテケから逃げられる筈が――
『何?!急にドアを開けて部屋に入ったぞ!不味い、方向転換は苦手なのに!!』
グッと地面に力を込めてやっと止まったテケテケは、部屋にゆっくりと入って行く!そこに居たのは、慌てた顔をした白羽だった!!
『貰ったッ!!…何?!攻撃がすり抜けただトォ?!コイツは偽物かッ!!
あ!!天井に穴が空いているぞ!!そこから登ったのがバレバレだぞマヌケがァーー!!』
床からひょっこり出てきたテケテケの頭の横にあったのは、『ブレイク・フリー』の拳だった。
「……残念なオツムだな。」
ゴミを見る様な目と共にラッシュが叩き込まれ、テケテケは逆に二つ下の階まで床を破りながら落ちていってしまった。
『グハッ……ま、不味い…このままでは屋上に辿り着かれてしまう…!!』
この時、テケテケは既に“目的”を忘れていた。代わりに脳を埋め尽くしていたのは、『宣言されたこと』を達成させてはならないという使命感、それだけだった。
テケテケが必死こいて急ぎ、屋上に辿り着いた頃。既に屋上には、風に煽られ、白衣をはためかせる白羽が居た。
『あ……ア……』
「遅かったな」
今までの幾倍もの速度、そしてパワーで、反撃する間もなくラッシュをその身に食らったテケテケは、粉になりながら落下していった。
白羽 滝のスタンド、『ブレイク・フリー』は煙のスタンドである。相手に宣言したことを達成すると、その難易度に応じて力を得ることができるが、相手は必死にそれを阻止しようとする様になる。
☆★☆
「「せ、先生!!」」
元に戻った病室で待っていると、先生が扉を開けて帰ってきた。かなりの時間いなかったが、どうやら無事だった様で、“傷一つなく”帰ってきた。
「やあやあ君たち、そんなに私の事が心配だったのカナ?」
「え、あっはい。」
「あ、はい。」
…ま、そんなことが言える様なら、安心だろう。
「それより井之頭ちゃん。聞きたいことがあるんだが…いいかい?」
「…はい。俺も話したい事があります」
一気にこの場に緊張感が漂う。
「あの僕は…?」
「あー…研究所に行っててくれたまえ」
………沼田が去った後、周りに聞こえない様小声で、先生が話しかけてきた。
「昨日の件だ。本当に覚えていないのかい?」
「……先生は、さっき出て行った後、何をして来たんですか?」
質問を質問で返してしまうが、まずこれを聞かないと答えられない。
「……さっきの異変を生み出した相手と、闘ってきた。幽霊の様なものだ。」
普通なら、冗談と受け取るだろう。しかし、勇也にはそれを信じる理由があった。
「では、質問に答えます。俺も、幽霊と闘っていました。髪の毛の幽霊です。」
それを聞いた先生は、明らかに動揺していた。
「そんな、嘘だ……髪の毛の“スタンド使い”なんて彼女しかいないじゃない!!」
俺は2つの要因で、驚きと困惑に呑み込まれた。先生が声を荒げる様子を初めて見たことと、あともう1つは――
「……先生………“スタンド使い”ってなんですか?」
「………ねぇ、勇也ちゃん。その“幽霊”ってのはどうなったの?」
しかし、今度は俺が質問に質問で返されてしまった。
「倒しました。あと、多分アレは“スタンド使い”?じゃなくて“幽霊”ですよ。」
先生は何処かに電話をかけ、少し話すと、ホッとした様子を見せた。
「じゃあ本当に……なら、今日本体が見つからなかったと言うことは……」
考えを巡らせ、結論が出た様子なので、話を切り出した。
「まぁ、“スタンド使い”とやらの話は置いておきます。……俺が伝えたいのは…この仕事を辞めさせて下さい。」
「………え?じ、じょ、じょじょ、冗談、だよね…??ね?」
先生は、さっきとは比べ物にならない程動揺していた。
「給料10倍にするから!!!」
「いや、そういうことじゃあ無いんです。実は、これで怪異に襲われるのは4回目なんです。しかも、全部ここ一週間で。多分、俺は怪異に狙われている。今日みたいに、迷惑を掛けてしまうなら……辞めた方がマシだッ!!」
先生は一瞬驚いたが、少し考えた後、口を開けた。
「今までは無かったのに急に起こり始める。何かの変化には必ず原因がある。つまり、その原因を突き止め、潰せば…元に戻る。」
先生は椅子から立ち上がり、窓の側で振り返った。
「……それに協力するから、諦めないでくれよ、優秀な助手クン。」
陽光に照らされ、髪が煌めいていた。
「さて、さっきの質問に答えようじゃないか。『スタンド』とはッ!『パワーを持ったヴィジョン』であり、持ち主の傍に出現し、様々な超常的能力を発揮して、他人を攻撃したり持ち主を守ったりする守護霊のような存在であるッ!そして今ッ!私のケータイを持ち上げているのが、私のスタンドだッ!!まぁ、『スタンド』は『スタンド使い』にしか見えないから、勇也ちゃんには見えないと思うがね!これで怪異とやらと闘う!」
……これは!…信じるしか無いようだ。
「あの…俺、スタンド、見れてるんですが…。」
「…へ?」