黄金の精神で怪奇現象を切り抜ける話 作:匿名ですぅ
“何故俺にスタンドが見えるのか”は一先ず置いておいて、先に俺の傷を治すことになった。
先生が再び誰かに電話を掛けてから幾らか待つと、その人がやって来た。
コンコン
…ノックが2回だ。
「ウッス、あなたが勇也さんっスか?」
扉が開き、見えたのは体格が良い学生で、頭の大きなリーゼントがどこか焼きナスの様に見える特徴的な髪型だった。
☆★☆
漫画家、岸辺露伴が井之頭勇也とやらの話を聞いた時に何を考えたか。勿論、“漫画の役に立つぞ”のみである。
ぼくは電話を切ると、康一くんの家から白羽の研究所に向かった。ちょっと山を買って破産したので、今は康一くんの家に転がり込んでいるのだ。
玄関の鍵が開いていたので勝手に入り、エレベーターを上る。研究室に行くと、3人が話し合っている姿がドアのガラスから見えた。こいつらの内知ってるのは白羽……それにクソったれの仗助か。残りの1人が勇也だろう。
どれ、盗み聞きでもするか。
「――から、スタンドが見えるんじゃないっスか?」
「…あまり信じたくない説だな。」
「まあ、その辺はすぐに確かめられると思うよ?ねぇ、露伴ちゃん。」
チッ、バレていたか。
扉を開けると、3人の姿がよく見えた。3人とも椅子に座っていて、この中では最年少の仗助が一番デカい様だった。まあ、白羽と勇也も高めだが。
「露伴って、あの岸辺露伴…?!」
「ああそうだ。…で?何で仗助も話し合いに参加しているんだ?」
「勇也を治す時に事情を聞いたからな…放っておける奴はいねーっスよ!」
やれやれ、相変わらずお人好しだな。
まあ、ぼくは勇也の記憶が読めればそれでいいがね。ぼくが『ヘブンズ・ドアー(天国への扉)』を使う流れになっているのはとてもありがたい。
「じゃあ、さっき聞こえなかったのだが、勇也にスタンドが見える理由は何なのだ?」
「これはあくまで説なんだが、勇也が…幽霊に近い存在かもしれないのだよ。」
つまり、吉良の父や杉本鈴美の様なものか。
「俺には、死んだ記憶なんてこれっぽっちもない。だが…“違和感を感じている事”が無いわけでもないんだ。」
「それは一体…?」
「覚悟は出来てる。調べてみてください、露伴先生。」
では遠慮なく…『ヘブンズ・ドアー』!!
「うえ〜…顔が捲れてきたぞ…」
ペラペラとページを捲ってみると、最近遭遇した怪異の事が詳細に記されていた。
叔母の旅館で幽霊に遭遇
****年*月*日、叔母の旅館に宿泊しに行った時のことだ。読書を終えて電気を消し、布団に入って意識を手放そうとした瞬間、「コロシテヤル」としわがれた不気味な声が聞こえた。その声の主は次第に――
ほうほう、これは中々――
「はぁ、怪異について読んでも良いが、後にしてくれないかい?露伴ちゃん」
全く、人使いが荒いヤツだ。
「はいはい。」
先生がまたもや大発見!ボーナスがっぽり
「ピンクダークの少年」と出会う
大量殺人鬼逮捕!何故か貰えるボーナス
一流科学者の実態!!人生初の死体集め
美人一流科学者の助手に、見事合格!!
「……ない。」
「どうしたんスか?」
「ページが……ここで終わっているッ!!!」
どういう事だ!?これはまるで…一定期間より前の記憶が、全て消し飛んでいると示している様なものではないか!!
「ろ、露伴先生!一体それはどういう意味なんですかッ?!」
「……みんな、悠長に話している時間は無い様だ。『来た』」
「「「!!!!」」」
白羽が作り出した、煙の『見取り図』に、ゆっくりと動く『マーク』がある。それが、怪異を示しているという事だろう。マークは、俺が入った扉から、ゆっくりと1階からこの2階へのエレベーターに向かっている…!!
「仗助ちゃん!窓から脱出するよ!」
「おうよ!ドラァ!!」
仗助の背後から現れた『クレイジー・ダイヤモンド』が窓を殴りつけるが、窓にはヒビすら入らない。あのパワーで割れないという事は――
「脱出不可能状態…!!」
「な、なんだこのクソ硬ェ窓はァ~~~?!」
こうなったら、怪異本体と直接殺り合うしかない…!!
その時、マークが突然エレベーターへの道を外れ、別の方向へと歩み出した。
「え…こいつ、どこ行ってんスか?」
「み、みんな!下に…沼田が取り残されているッ!!」
白羽がハッとした顔をする。沼田…?その沼田というヤツに、怪異が向かっているのか。
「行くぞ!!」
「うおおおお!!!!」
3人が全力疾走で駆け出し、少し遅れてぼくもそれに続いた。
☆★☆
俺は仗助と必死に走り、エレベーターを目指していた。間に合え、間に合うんだ!!
エレベーターが見え、2人で中に乗る。『閉める』ボタンを押すが、残りの2人は…ダメだ、間に合わない!先生は足が遅いし、露伴先生は出遅れた!
扉が閉まっていく――
「おい勇也さん!エレベーターの動作を待つのに、かなり時間食うぜ!」
何か…!!何かが出来るッ!!
俺が奇妙な存在である、そう自覚した時から、何かが出来る様になった、いや、『使えたが自覚していなかった』何かがあると直感が告げている……そうか!俺は、『機械や器具の性能を上げる』ことが出来る筈だッ!
エレベーターの床を触ると、恐ろしい速さで扉が閉まり、一瞬で1階に到着した。
「行くぞ仗助ッ!!」
「よく分からねェがスゲェな!」
走る、走る!俺のせいで誰かが死ぬのは嫌だ…だがそれ以上に、沼田を死なせたく無いッ!!
開いている扉から、全く動けない沼田に斧を振り上げる怪異の姿が見えた!筋骨隆々で青白く、目しかないスキンヘッドの大男が怪異だ!
「『クレイジー・ダイヤモンド』!!」
スタンドが仗助の制服のボタンを外し、怪異が持つ斧に弾き飛ばす。見事命中された斧は、吹っ飛んで壁に突き刺さった。
「ふぅ、ネズミ退治ン時の経験が役に立ったぜ〜!」
「ゆ、勇也くん!と、……?」
「大丈夫か?!沼田ッ!」
斧を引っこ抜かれる前に、硬直している沼田の元へ走り、仗助の後ろに引き寄せた。戦闘はスタンドを持っている仗助任せになりそうだが、俺も何か出来ることは…!
『…………。』
ドドドドドドドドドドド……
その時だった。俺の後ろのエレベーターから、音が聞こえたのは。
「2人が来たか…!」
曲がり角から頭を出し、エレベーターの方を見ると。エレベーターの前に居たのは、仗助と向かい合っている怪異と全く同じ怪異だった。そして、俺が聞いたのはエレベーターが開く音ではない。“壊す音”だったのだ。
それは、とても綺麗で不気味な目で俺を見ていた。
そして、分かるのだ。それが笑った事を。
「あ、ああ、ぁあ……。」
「仗助!もう一体居て、エレベーターを破壊しやがったッ!窓が破壊出来ないという事は、先生が床を破壊することも出来ねェ!つまり、俺たちだけでこの2体と闘うしかないぜッ!!」
「なら、さっさとコイツを片付けてやるっスよ!」
『クレイジー・ダイヤモンド』が出現し、勢い良く殴りつけた、その時。スタンドが、止まった。
「何をしてるんだ仗助?!そいつを早く殴っちまえ!」
「いや違ェんだ!動けねェ、スタンドを動かせねぇ!!」
斧がゆっくりと振り下ろされる。このままでは仗助が!
その瞬間、怪異の腕が排気口に吸い寄せられ、張り付いた!勇也が咄嗟の判断で、排気口に触れたのだ!
「『排気口』の働きを強めた!お荷物にはならねーぜ!」
仗助にタックルをして、怪異から引き離す。もしかしたらこれで――
「ス、スタンドが動かせる様になったっスよ!」
「良かった、予想が当たったぜ!アイツに触れるほど近づくと、動けなくなるんだッ!」
この一体はもう動けないだろうから、残るはあと一体だ!
「おれに良い考えがあるぜ!ぶっ壊すことが出来ねぇならよ〜〜、直せばいいんじゃあねェか?」
「そうか、エレベーターを直せれば、先生と露伴先生の助けを借りられるな!」
しかし、エレベーターに行くにはもう一体の怪異を乗り越えなければならない!
「仗助、聞いてくれ!今この状況を乗り越えるには…これしかない!」
勇也はドアの外に飛び出し、怪異と向かい合った。
「引き寄せるぜ…限界までな…」
そしてギリギリまで近づいてきた所で、『クレイジー・ダイヤモンド』の力を借りて飛び上がり、照明につかまった。
「その目に焼き付けやがれ!」
直後、恐ろしい光が辺りを照らした。……だが!光が収束したときにあったのは、それをものともせず、勇也に向かって斧を振るう怪異の姿だった!その斧は勇也の腹めがけて――
「なら、プラン2だッ!」
『クレイジー・ダイヤモンド』から放たれたボタンの弾丸が、斧の軌道を修正する!その結果、斧は土台ごと照明を切り取ったッ!!
「てめー、エレベーターをその斧で破壊したよな?つまりそれは、てめーはこの建物を破壊できることを意味するぜッ!!」
落下の勢いのまま照明を怪異に叩きつけると、ジュッと焼ける音がした。
「そして!『電球』の機能は光だけじゃねェ!今この電球は、真夏のコンクリートの何倍も熱くなっているぜッ!!」
『……!』
そして、怪異が怯む間もなく、最期の瞬間は訪れる。
「ドララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララァ!!ドラァ!!!」
照明越しにラッシュを叩き込まれた怪異は、壊れたエレベーターに吹っ飛んで行った後に、粉となって空気に還った。
一体目の怪異との戦いで、拳一つ分ぐらいが相手を硬直させられる範囲だと分かっていた。つまり、照明越しに攻撃すれば安全だというわけだ。
「グレートだぜ、仗助。」
「…ヘヘッ、お前もな!勇也!」
これは2人が知るよしもないことだが、この怪異達の趣旨は『鬼ごっこ』。本来なら、逃げ惑うべき存在なのであった。
☆★☆
暫く待っていると、3人がやって来た。勇也と仗助は“やってやったぜ”みたいな表情をしていたので、ぼくはちょっとイラッときた。
「ひどいじゃあないか勇也に仗助、ぼくを置いていくなんて。」
「あぁん?あんたを待っていたら、沼田が助からなかったんスよォ〜?」
仗助との間に、ビリビリと電撃が走ったが、白羽と勇也に宥められた。
「ふん。」「ケッ!」
エレベーターを降り、1階に向かい、案内された先には、動けなくなっている怪異の姿があった。
「実は、怪異は2体いたんです、露伴先生。もう一体は倒したんですげど…コイツ、どうにか出来ませんか?触れるぐらいまで近づくと、体を動かせなくなっちまうんですよ…。」
ふむ、こんな姿をしているのか。スケッチブックを開き、紙の上に姿を写していく。
「ロ•ハ•ンちゃ~ん?何をしているのカナ?」
「これは譲らない。終わるまでぼくは仕事しないぞ」
暫く心地よい沈黙が流れる。
「出来た。コイツを飼いたい所だが、まあやめておくか。『ヘブンズ・ドアー』」
開かれたページは…残念ながら真っ白か。そこに、『大人しく成仏する』の文字が浮かび上がる。
その直後、それは粉となって空気に還って行った。
「トンデモねぇスタンドだな…。あ!そういえば露伴先生!俺、『ピンクダークの少年』のファンなんですよ!」
「それは良い。ぼく達は波長が合うのだろうな。」
「あざっす!それに、露伴先生の『リアリティを大事にする姿勢』は素晴らしいです!尊敬します!」
「ふふ、じゃあ後で記憶を見てもいいかい?」
「はい!!」
今日は良い日だ。素晴らしいデータと、素晴らしいファンに出会う事が出来た。問題も一先ず解決した様だし、めでたしめでたし、だな。
4人の後ろで、下を向いていた沼田に幾筋もの汗が滴る。
認めたくない。認めてはならない。
だが、はっきりと――その目には、『スタンド』が見えていた。