黄金の精神で怪奇現象を切り抜ける話 作:匿名ですぅ
「では帰る……が、本当に沼田は『記憶』を消して欲しくないのかい?」
沼田が声を出さず、こくりと頷いて返事をしたのを見ると、露伴先生は気にしながらも帰っていった。
沼田の様子がおかしい。ずっと下を向いていて、体はぶるぶると震えている。その情報だけから察するならば、まだ『怪異を見て怯えているだけだ』と判断出来ただろう。
だが、違う。長年一緒だったからかは分からないのだが…彼の表情から感じるのは、『迷い』『苦痛』…そして『後悔』だ。
「なあ沼田…何故…何故記憶を消されたくないんだ?」
「…………」
沼田が歯を食いしばり…そしてついに口を開けた。
「言えない…。だけど…言えることがある。」
顔は暗く、しかしはっきりとした声で。
「僕達…の産まれた町に行くんだ。理由は、話せない。」
沼田は立ち上がり、俺たちに背を向けた。そして唐突に走り出す。
「沼――」
扉は閉められ、足音は素早く遠のいて行った。伸ばした手から、力が抜ける。
「……追わないんスか?」
「…追えねぇよ。沼田が話せないと言っているんだ…何か理由があるんだろうよ。」
拳が固く閉じる。沼田が何故あんな行動を取ったのかは、分からない。…だが、一つだけ分かることがある。
「俺が育った塵場(じんじょう)村に、何かがある。俺は今からでも行くぜ」
「フ…なら、私も行くよ。まあ、勇也ちゃんは『迷惑を掛けたくない』とか言ってくるだろうからね、もし拒んだら無理矢理着いていかせてもらおうかな?」
「俺もっスよ、勇也さん!」
「みんな…ありがとな。」
叔母の旅館がある場所。最初に怪異に襲われた場所。そして、俺と沼田の育った場所。
これが終わったら…沼田とまた、笑いながら飯でも食いたいな。
☆★☆
『遂に来るか…この塵場村に。』
1人の男に、もう1人の紅い男が跪いている。
『いきりくる?すりてれ、てちふめたひめすへるすなれせりくれなみねれけ?(どうします?同時にここで迎え討ちますか?)』
『言っているだろう。空気中の霊気を吸い尽くしてしまうから、怪異が同時に近くに居ても意味がないと。』
大岩に座っていた男が、溜息を吐きながら男に振り返った。
『今、アイツらは車で移動している。ここに辿り着かせるな、トケトト。……時間が無い。真っ直ぐ向かえよ?』
『うらしるとゆし。(かしこまりました。)』
『僕の手下の中でも、お前は最強だ…。自信を持て』
『くむ。(はい。)』
すぅと消えていった、“トケトト”と呼ばれた男に対して、もう1人の男は何を思っていたか。正解は、『何も思っていなかった』である。期待など、最初からしていなかった。
だが、その『他人を信じない』という感情は、彼等の社会にとってはごく当たり前のものだった。その男は、『他人を信じない』ことで心の平穏を保っていたのである。
☆★☆
月が照らす、夜の山道に、一筋の光が走っている。車に揺られている中の3人には、緊張の表情が浮かんでいた。
「…あと、どれぐらいで着くんスか?」
「あと一時間て所だな。アニメなら三本は見れるぜ。」
「お!じゃあアラレちゃんでも見ましょうよ!」
「君達な…第一CDが――」
その瞬間。白羽はいきなりハンドルを回し、車は木に激突した。
「車から出るんだッ!!」
全員が転がり出るように車から脱出した後、その車に何本もの鉄パイプが突き刺る。
月明かりに照らされて前に見えるのは、鉄パイプが胸と両肩に突き刺さり、そこで呼吸をしている紅い男の姿だった。顔はなく、まるでドス黒い血の塊の様だ。
『いう。しゆせりきーじけ?(やあ。調子はどうだ?)』
その言葉はあまりにも崩壊しているのに、何故か意味を理解することが出来た。
「気をつけろ!新手の怪異だッ!!」
男は胸の鉄パイプを掴むと、奇妙なフォームでそれを投函した。だが、そのフォームからは予想できない程の速度で鉄パイプは飛来する。その狙いは勇也だ。
「勇也ちゃん避けて!!」
瞬間左に飛ぶが、それは彼の右肩を串刺しにし、体は後方に吹っ飛んで行った。地面にぶつかる瞬間には、既に胸の鉄パイプは再生していた。
「は、速ぇ…!!」
男は両肩の鉄パイプを掴み、白羽と仗助に投げつけた。それぞれのスタンドで弾くが、その瞬間には別の鉄パイプが飛来している。
「ク、クソ!奴に近づこうにも、パイプが多すぎるぞ!」
勇也はその隙にポケットの中から輪ゴムを取り出し…放った!
「俺の輪ゴム弾きは、拳銃並みだぜ!!」
輪ゴム弾は男の体に激突するが…貫通したものの傷ひとつつかず、怯みもしなかった。
「あり?」
「勇也さん!全然効いてねぇっスよ!」
「なら…これならどうだ!!」
輪ゴム弾を何度も放つ勇也。しかし、ただ数を増やしてみただけではない!彼が狙ったのは…右肩の鉄パイプだッ!!
『かる?!(何?!)』
強い衝撃により、鉄パイプは右肩を抉り飛ばしながら吹っ飛んでいった。
「今だ!!」
走り出し、接近しようとする白羽と仗助!だが、抉り飛んだ肩が空中で舞い戻り、元の位置に収まった所を見て…………動きを止めることは無かった!!
「ドラァ!!!」
男の腹を殴った仗助。だが、手応えがほとんどない。確かにパンチは貫通し、肉が吹き飛んだはずだが…いや、違う!肉ではない!!
「この匂い……てめえ、まさか体が血で出来てんのか?!」
『こをす。ねをちるとるうろとれち、するちりとるしるてるするッ!(そうだ!だれも私を傷つけることは出来ないし、無限に再生することか出来るッ!)』
仗助の腕を引っ掻きながら飛び去って行った男の腹に、飛び散った血が戻っていく。
「アレは無敵なのか…!?」
「いいや…もう一回頼むぜ勇也ッ!!」
輪ゴム弾により、再び怯んだ男に、仗助が接近して殴りつけた。それも、ただ殴っただけでは無い!
『てりにれ…きりて?!(身体が…縮む?!)』
「てめえの血の水分を、酸素と水素に直した!つまりよォ~~、てめえは今液体じゃあなく固体って訳だぜッ!!!ドラララララララララァ!!!」
大幅に体積が減少した男に、『クレイジー・ダイヤモンド』がラッシュを叩き込み吹っ飛ばした。……だが。
『つつ…ためけほけをォー!!おるしめつほせむきりうらくへしほそ?!へきゆ、いんかんいくるせるッ!!(クク…馬鹿者がァー!!怪異である私の固まった血の固さを舐めているな?!貴様は、逆に私を強化したのだッ!!)』
目にも止まらぬ速さで移動し、小さくなった男は仗助と白羽を斬りつける。
『きるけ!きるけてりにれいん!!!(軽い!身体が軽いぞッ!!)』
みるみるうちに2人に傷が増えていき、仗助がパンチを入れる事に成功するも、傷ひとつ着かない。
「やべぇ、やべぇっスよコレェーーーーーーッ!!白羽先生の『ブレイク・フリー』でなんとかしてくださいよォーーーーーーーッ!!!」
「言われなくとも!…そこの君ッ!」
『くをぉん?(ああん?)』
「今から私は…『二度と呼吸しない』」
ドンッ!!!
それを聞いた男は一瞬疑問に思ったが、白羽の能力かと納得する。と同時に、どうしてもそれを阻止したくてたまらなくなった。
白羽の能力が発動する条件は目標の『達成』だけでなく、『継続』も含まれている。つまり、呼吸をせずにいる限り、無制限に能力が上がっていくのだ。
『きゆせゆしんつれてるるて?!(出来ると思っているのか?!)』
勢い良く放たれた拳が白羽を狙う。だが、男を輪ゴム弾が弾き飛ばした。
「俺を忘れて貰っちゃあ困るぜ。」
男は何度も白羽に襲いかかったが、その度に仗助や勇也、時には偽物の白羽に阻まれる。狙いが分かっているため、防ぐのは容易だ。そして、約30秒が経過した瞬間。
「……!!」
木の裏から現れた白羽が、『ブレイク・フリー』で高速のラッシュを叩き込んだ。だが、これでもまだ傷一つつかない。
1分。成果は全く見られない。
1分30秒。成果は全く見られない。
2分。小さなヒビが入ったが、瞬時に再生した。
その時、白羽の頭上に文字が現れ、すぐに消えた。
《あと12分46秒だ》
「ハァ?!じゅ、12分46ゥ?!合計で14分46秒だぞ?!」
『せるにるそをう!うりけ!!(出来る訳がない!勝ったな!!)』
「せ、先生…!」
その後白羽は攻撃せず、ただ逃げ回り始めた。
3分。
4分。
白羽の体が真っ白になる。
5分。
6分。
7分。
『うりそ…!せをにるとゆきやせゆてりとり…?!(馬鹿な…!なぜまだ息を止めていられる…?!)』
普通、長時間息を止める事はいくら意識しても出来ることではない。何故なら、『息を吸わなければ死ぬ』という本能に抗うことができないからだ。だが、白羽はそれを異常な精神力のみによって行なっていた!
さらに加えて、4~6分息ができないと、人間は気絶すると言われているにも関わらず、運動しながら7分息を止められている理由。それは、彼女が脳と肺、そして心臓のみに血液の流れを限定し、さらに体をスタンドで動かしているからだ!スタンドは精神エネルギーなので、酸素を消耗することはない!!
8分。
9分。
10分。
『きりせん!!せりつれとりくるれにぬ、くれとりちれけりされけるーーー!!!(クソが!!さっさと息しやがれこのアバズレ女がァーーー!!!)』
11分。
だがしかし!白羽も意識が薄れ始める!
12分。
13分。
「せ、先生!大丈夫かよ、本当に?!」
14分!
もうほとんど、白羽の意識はなくなりかけている。
14分40秒!!!
『なぁ、なぁ、するちめこめくゆけるんすれきけん!くゆにるこをくるき!!!(ハァ、ハァ、やってられるかこんな闘い!!私は逃げるぞ!!!)』
逃げ出そうとする男だったが、その瞬間、目の前に壁が出現した。そう、『クレイジー・ダイヤモンド』が、地面を再構築して作った土の壁だ!
『や(へ)――』
『ブレイク・フリー』が出現し、通常の何十倍ものスピードのラッシュが叩き込まれた。その速さは、衝撃波により少し離れた勇也が吹き飛ばされる程。落雷を思わせる爆音が長くに渡って響き、再生不可能な程バラバラにされた男は、空の果てまで吹き飛んでいった。
既に仗助に肩を治して貰っている勇也は、白羽に駆け寄る。
「せ、先生!!大丈夫ですか?!」
「勇也さん、これヤベェっスよ!!」
白羽は、俯いたまま動かない。そして――ばたりと倒れた。
「先生ェーーーーーーーーーー!!!!」
「し、白羽先生!!」
俺のせいでこんな事に…!!
「お、おい!息はあるし、気絶しただけっスよ!」
「そ、そうか…!」
意識こそ失っているのの、命に別状は無さそうだ。とはいえ、まだ安心は出来ないだろう。
俺は…本当に、これで良いのだろうか。自分だけのために、他人を犠牲にして。迷惑ばかりかけて。…良いはずがない。
「……仗助。先生を、病院に送ってくれ。俺は、1人で行く。」
「え?!何言ってんだ勇也さん?!」
「……頼む!!」
勇也は、走ってその場を去ってしまった。仗助は追いかけようとしたが、気を失ったままの白羽を見て踏みとどまる。
「……クソ。」
仗助は車を直し、白羽を担いで後部座席に寝かせた。幸い、近くの町には少し戻ればすぐに行くことができる。
「……誰が運転するんだよ……。」
はやりスタンドで運んで行くことにした仗助だった。
次回最終回。