創造神が末裔とされる皇族が全権を掌握する頂点に在り、それを信奉する臣民から成る神権国家。
独占する水産資源と、その向こうの新大陸制覇を目論む周辺国家に、古くから侵略戦争を受け続けてきた歴史を持つ。
しかし大陸歴1800年、一人の神子が誕生したことで、ヤマトは盤石な大国家へと新生する。
それから百と余年が経ったある日。
黒髪に金の瞳を持つ一人の男が、喝采の中、西方へと見聞の旅へ出発した。
大和皇国の臣民は謳う。
――鐵こそは、金の王なる哉。
大陸歴1915年、1月。「約束の日」――。
アメストリス国セントラルシティの大総統府、中庭。
神を呑み込み、完全なる存在へと至ったと語る
しかし、地下から追いついたホーエンハイムたちに妨げられる。
「……人間は大人しく賢者の石になっていればよい」
そう言う
「なんでそう下等生物扱いするかねえ」
そして仇敵をにらみつけ、西の賢者は吠えた。
「人間からは賢者の石ができる。賢者の石からはホムンクルスができる。なら、お前らホムンクルスからは何が生まれる?……破壊しかもたらさないものを、神とは呼ばないッッ!!」
指を差される
「そうかね?――ならば、人間を生もう」
そして、悪意が放たれた。
「ゥアア……グアア……」
各々に悲惨な声を上げて、十数人の魂が
「体だ、やっと僕の体が……」
「儂はまだ生きている、儂は不死になれたのだ……」
長き苦痛の渦からようやく抜け出したクセルクセス人の魂たち。押し寄せる彼らに、生者たちは動揺のあまりその動きを止めた。
「やめろ、やめてくれ……」
クセルクセス王や知り合いたちの姿に、ホーエンハイムは硬直し。
「違う、こんなのは、違う……」
アルフォンス・エルリックは震え。
イズミ・カーティスは赤子の姿に口元を抑えた。
そこに、
「なっ……」
東の賢者の口元がゆがむ。
彼の正面に莫大な光子が収束し、――解放。
生者へとにじり寄っていた魂たちを次々に消滅させながら、高速でエドワードたちに向かい――
すべてが閃光に包まれた。
「…………あれ?」
だが、数秒して誰かの口から洩れたのは、断末魔や痛みに喘ぐ声ではなく、そんな呆けたような疑問符だった。
視界の回復した者たちが、次々と伏していた体を起き上がらせる。
そして、咄嗟に誰かを庇おうとしていた者たちは、五体満足のままにその行動の結果だけが残った。
「アル様っ」
アルフォンスはメイ・チャンに感動して抱き着かれ。
「ありがとうございます」
イズミに感謝を述べられてホーエンハイムは首元を掻いた。その後ろで、微妙そうな顔をしながらエドワードは、しかし何が起こったのかと逃避するように思考を現在の戦闘状況へと戻す。
そして
「お、お前は……」
こぼしたその声につられるように、次第に他の者たちも前方の男に気が付いて口々に声を上げる。
風にたなびく異国の服。後頭部で束ねられた黒い髪。腰帯に差された独特の剣。
「あの人は……」
アルフォンスもそうこぼす。口々に上がる声は彼と同様、その多くは先ほどまで影も形もなかった、思わぬ知り合いの登場に動揺するものだったが、そんな中で一人、初対面のメイはアルフォンスの陰から目を向け、眉を寄せた。
「あの刀……まさか……」
そして、そんな彼らにも負けず劣らずに動揺していたのは、男の目の前に立つ
厳しい顔で、静かに佇む男をにらむ。
「――お前は……“何”だ?」
エドワードは考える。
(さっきのあの光……わずかに先行した光量と熱量から推測しても、物凄くヤバイ総エネルギー量だったはずだ。もしあのまま放たれていれば、どれだけの被害がでたかわからねえ……)
ちらりと斜め前のホーエンハイムを見れば、彼の顔も厳しいものになっていた。
(俺と先生だってクソ親父に庇われたが、だとしてもコイツの中の残り少ない賢者の石だけで完全に防御できたかというと……)
エドワードの頬に、汗が一筋流れ落ちる。
ふと周囲へ目を走らせれば、先ほどの光波による破壊痕は、例の男の背後には何一つ見当たらない。
(だとすれば……だとすれば……)
遠く佇む知り合いの背中が、途端に化物の背中に見え始める。
(アイツは……あの男は、神すら呑み込んだ今の
いつのまにか、広場には静寂が広がっていた。
「答えないのかね?」
再び問いかける
腕を組み、瞑目していた状態から瞳を開ける。
金色に輝く瞳が、同じ色の瞳を見返す。
「……いやすまぬ、少し臣下を説き伏せていたのだ」
男から漏れたのは、そんな落ち着いた声だった。外見の年齢相応の、十代後半の青年の若々しい声音ではあったが、そこには不思議と胸の奥を衝くような、耳を傾けたくなるような、そんな重さがあった。
「臣下……」
つぶやく
空を仰いだ掌を
「ま、お主と同じさ」
その場にいたすべての者の脳内に激震が走った。
「
目を見開く
そして数秒ほど瞳を閉じてから、また前へと向き直った。
「いや、何度もすまぬな。臣下がうるさいので、同じというのは撤回する」
金色に澄んだ瞳が、底知れぬ威圧をもって見つめる。
「我は、我欲と血にまみれたお主とは違う。まあ、当然ではある」
彼はそして一歩を踏み出し、
「お主は偽物だが……」
彼の言葉は静かだったが、不思議とその場に広く響き渡った。
「そう――
呆然と成り行きを見守っていたアルフォンスが、呟く。
以前、兄との旅の道中でひょんなことから交流を得た、記憶に新しい異国の友人の名を……
「クロガネ……何を言って……」
「――
そしてその言葉に、いち早く反応を示したのは彼の腕の中の少女である。
彼女は――シン国第十七皇女は、叫ぶように鎧の腕を引っ張った。
「いま鐵と言いましたか、アル様!?」
「え、う、うん……」
頷くアルフォンスに、メイはよろよろとふらついて尻餅をつくと、ハッとしたように前方の男を睨んだ。
「ということは、やはり……大和皇国の!」
ここまで来れば、アルフォンスや周囲で聞き耳を立てている他のアメストリス人も大凡の推測が付き始める。
「えっと……つまりクロガネは、リンやメイみたいにヤマト国の王子ってこと?」
代表して尋ねたアルフォンスに、けれどメイは首を振った。
「いえ、違います。“鐵”は、大和皇国では完全なる神皇を意味する称号で、名乗ることを許されているのは現役の皇帝自身だけです」
「てことは、あの若さで王様なのか、すごいなあ……というか、称号ってことは本名じゃなかったんだね」
「……ええ、大和皇国皇帝の名は大和です」
「ヤマト? でもそれって国の名前じゃ……」
アルフォンスの素朴な呟きに、彼らの前方で黒髪金瞳の男が反応した。
覇気と称すべきものが湛えられた言葉が、響く。
「そう。大和とは我であり、我こそが大和である」
「……自分自身を国と同列にするのか……」
吐き捨てるエドワードを、金の瞳が無感動に見据える。
「なにがおかしい。臣民がそう在れと望み、斯く在ると我が決めたのだ。国とは我で、我こそが国よ」
そのあまりに不遜な物言いに周囲の人間が絶句するなか、ひとりメイだけはぽつりと囁いた。
「……あの、アル様」
思い人の、その鎧の体に縋り付くように抱き着きながら、小さな体を震わせる。
「先ほど、あの若さでと仰っていましたが、実はそれも違うんです……」
体を震わせるその感情は、何だろうか。
恐怖だろうか、それとも……。
自覚できないまま、彼女は震える声で続ける。
「……大和皇国の皇帝は、少なくともこの百年間、一度も退位したことがありません……」
「え? でも、てことは、まさか……」
先んじて察したアルフォンスが息をのむ。
少女も頷いて、そして慄くように言うのである。
「ええ、大和皇国は実現させていたと考えるのが妥当でしょう……大和は国境を超えるのが至難過ぎて諦めていましたが、まさか本当に……」
「不老不死の皇帝だったなんて」
その言葉に、瞬間、広場の人間に激震が走る。
驚愕、恐怖――数々の感情が吹き荒れるなか、我関せずとばかりに男は飄々と歩みを進める。
固まる
「神は二人と要らぬ――紛い物よ、疾くと
そして――蹂躙が始まった。
○ヤマト(大和) 「大和とは我であり、我こそが大和である」
オリ主。大陸歴1800年生まれ。原作時点で114歳。外見年齢は18歳ほど。長い黒髪を後ろで束ね、黄金の瞳をした青年。ホーエンハイムと同様の「人間の姿をした賢者の石」である。「東の国」「極東」「ヤマト」と呼ばれる大和皇国の最後にして最高、永遠かつ至高の皇帝。
シンをはじめとする周辺国家からの激しい侵略戦争が長きに渡って続いた大和皇国は、1800年当時、征服・滅亡の瀬戸際にまで衰退していた。そこに、皇室唯一の男子、最後の希望として生誕したのが彼である。皇国最後の皇帝として諦観と共に国の名を与えられた皇子は、しかし、非常に聡明な頭脳と高潔かつ崇高な精神を併せ持つ、まさに神童であった。そのカリスマは莫大で、若年期にしてすでに、諦めと絶望に陥っていた臣民のすべての心をつかみ、神の血が濃く出た真の現人神、建国神の再来として崇め奉られることになる。
大和皇国では、西方より伝わった錬丹術から独自発展した陰陽術が盛んであり、その研究成果として賢者の石と魂を融合させることによる不老不死化の方法が発見される。皇室に上がったその報告に、少年皇帝は首を振るが、しかし、迫り続ける敵国軍勢と皇帝への狂信から、一部の臣民たちはむしろお国のために己の命を使えと嘆願する。日を経るごとに嘆願者は増え続け、やがて少年皇帝も、永遠に皇国に君臨し発展させ続ける覚悟を決める。
かくして少年皇帝は永遠かつ唯一の皇帝、不老不死の現人神となり、その内には彼を信奉し自ら共になった臣民約一千万人の魂を保有することとなる。彼はその圧倒的な能力によって国内の敵軍勢を掃討し、以後、国境警備には百人規模の魂ごとに体を与えた「神民」によって守護されるようになり、皇国は戦争で負った傷を癒し、そして力をため続ける時期へと入った。
皇国国内での皇帝は完全な現人神として認識が固定されることになり、純粋な人間である臣民は、病や寿命によりその命が尽きる前になると、自ら志願して皇帝の糧になることを望むようになる。そして賢者の石として皇帝の中に統合された魂は、臣民から神民へと成り上がるとされた。
神民の過半数は常に皇帝と共にあるが、もう半数はそれぞれホムンクルスとして国境守護などの任に就いている。
本物語は、国内が完全に安定し、皇国臣民すべての悲願である「世界を帝の手の中に」を実現するために、まずこの大陸を制覇するための足掛かりとして、各国の実情調査を行いに、皇帝自らが九千万人の従者を内に従えて旅に出るところから始まる。ただし一方の側面では、百年間働き続けた皇帝陛下への臣民からの外遊でもして羽を伸ばしてきてほしいという思いも存在する。
原作物語(アメストリス国土錬成陣)に対しては、世界掌握への妨げと成り得る「己以外の現人神」の出現を阻止するために介入する。