陰鬱系魔法少女モノに、子供向けキラキラ魔法少女が落ちてきた話。 作:ヒオルカ
視界が滲む。
日が昇りかけている薄明かりの路地裏で、私達は窮地に陥っていた。
「ぐ...うぁ...!」
お腹に強い衝撃が走り、そのまま地面に叩きつけられる。
変身は既に解け、ダメージの分散は発動しない。
「サキ!テメェ...!邪魔ダ!」
「キャハ!雑魚がイキってもしょーがないってヨ!」
クロも...あの妖精のせいでもうボロボロだ。
「サキちゃんを離して...!どうしてこんなことするの!?っ...きゃあ...!」
片手間に放ったアイツの魔法は、ひび割れていたきらりのバリアを細切れにし、彼女を吹き飛ばす。
「どうしてって...ねぇ?その方が、チマチマ災禍を追いかけ回すより楽で良いでしょ?ほらぁ。」
「...!...ッ!」
やっとの思いで動かした剣先は、ただの女子中学生の身では届くはずもなく、そのまま蹴り飛ばされる。
体が痛みの許容量を超え、意識が朦朧とし始めた...
これは...もう、駄目か。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「「マジカルジュエルチェンジ!」」
誰もいない閑静な住宅街で、きらりとルビリンの声がこだまする。
「きらめく情熱で、みんなスマイル!マジカルルビー!」
「......」
彼女は変身のたびにこれをやる。
魔法少女以外には認識されないとはいえ、その魔法少女相手にも恥ずかしいから正直辞めてほしいのだけど、これをやらないと力が出ないらしい。
「行こう!サキちゃん!」
「...うん。」
「リリカルキャノン!」
きらりの放ったビームがCクラスに鼻先を擦り、ヤツは大きく体勢を崩す。
もう既に十分なダメージは与えたはずだ。ここで決めるべきだろう。
その隙に視界の外に回り込み、刀身に流す魔力を瞬時に増幅させて、振り切る。
一瞬の静寂の後、災禍の核が消滅し、その体が地面へと溶けて行く。
「ふぅ...」
「やったね!」
漂う魔力がブレスレットに集まる。
あとほんの少し...!
ふと時計を見ると、もうすぐ日の出の時間だ。災禍も身を潜める頃合いだろう。
「...今日はここまで。被害の確認だけして切り上げよう。」
「はーい!」
ここのところはかなり順調だった。やはり魔法少女が二人というのは心強く感じられる。
魔法少女同士が手を取って戦うということが当たり前であった時代を、羨ましく思えてくるほどに。
明るく、素直で、背中を預けることに不安のない、この少女。
そんな彼女に触れていたせいだろうか?
それとも、私の焦りが影響でもしたのだろうか?
今更そんなことを考えてもただの言い訳に過ぎない。
ともかく、私はこの時もっと警戒をすべきだったのだ。
「...誰もいない。」
災禍の被害にあったと思われる家を調べる。
ごく稀に、生き残った人や魔法少女に適性のある少女が発見されたりすることがあるため、戦いの最後は付近の被害の探索で締められる。
一通り見回して、物が散乱し破壊の痕が見られる部屋を出た。
もぬけの殻ということは、残念ながら既にここの住民は消え去った後なのだろう。
心の中で祈りを捧げる。
今日の夕方までここで生きていた人は、誰からも忘れ去られて消えてしまったのだ。
それはとても悲しいことだと、最近になって思い出した気がする。
「...!おーい!サキちゃん!」
「何?」
振り返ると、彼女は家のすぐそばで慌てながら路地裏を指差している。
そこでは、一人の子供が泣いていた。
「君!大丈夫!?」
きらりが駆け寄る。
まさか、あの家の生き残りだろうか?
その子供は随分と泣いていて、話どころではなさそうだ。
「ちょっとごめんね...」
私も近づき、その子の服の裾を捲ると名前が書かれていた。
さっきの家の表札を見るに...間違いない。あの家の子供だ。
「あの家の?そっか...じゃあ、シオリさんの所に連れていった方がいいよね?」
「そうだね...」
私はその子の裾を直して、きらりが手を引こうと...
......?
足元に...黒い糸が見える。
....!!まずいッ!
咄嗟に刀を振り向きざまに生成する。
音もなく背後に迫っていた漆黒の斬撃は、受け止めてなお私に容赦なく傷をつける。
「サキちゃん!?...っ!ダイヤモンドベール!」
間髪入れず迫る二発目を、どうにかきらりがガードした。
「おやぁ?二つとも受け止められるなんて、生きのいい奴がかかったねぇ?」
どうにか立て直して斬撃が飛んできた先を見ると、そこには一人の魔法少女と蜘蛛の妖精が、笑いながらこちらを観察していた。
...最悪だ。
「ま、魔女ダ...!」
「あらぁ?それを知ってるってことは...これからどうなっちゃうかも知ってるのかなぁ?可哀想にねぇ?」
アイツが、ニヤニヤしながらこっちに近づいてくる。
『魔女』
それは数年前にあの魔法少女につけられたあだ名のようなものだ。
災禍を狩るよりも魔法少女を狩ることをメインとする魔法少女。
魔法少女同士での戦いが起こりうるようになった現状、他の魔法少女に敗北をして魔力を根こそぎ奪われることはありうる。
だが彼女は...
「先週捕まえたばかりのストックが不良品でね、すぐ使えなくなっちゃったんだぁ。だから代わりが欲しくってねぇ?」
「ストックって...?」
「アイツは倒した魔法少女を監禁して、自然に回復する僅かな魔力まで吸収しているの...!」
通常魔力を全て奪われても、変身できなくなったり倦怠感に包まれるくらいで、しばらくすれば戦えるようにはなる。
もちろんブレスレットに溜め込んだ魔力までは戻らないが。
「それがねぇ、何度も無理やり魔力の再生をさせてると、その器官が弱まっちゃうみたいでぇ...」
アイツは不気味な笑みを浮かべながら、パンっと手を叩いた。
「しまいには災禍に食われたみたいに、消えちゃうのよぉ。」
同時に、四方から彼女の魔法が襲い来る。
「ミラージュジェム!...わぁっ!?」
きらりが迷彩魔法で私達を逃がそうとするも、透明なラインに囲まれて路地裏から逃げることができない。
「これは...糸!?」
「そうそう。あたしの糸は柔らかくて硬くてぇ、優しくて鋭いの...よぉ!」
どこから来るのか全く予測できない斬撃を、全神経を働かせて迎え撃つ。
「っ!...はあっ!プリズムショット!」
きらりは糸を避けつつ高く飛び上がって拡散するビームを放ち、私の周りにある糸を少し弱らせる。
その隙を突いて何本かの糸を切り裂き、私は魔女へと駆け出す。
アレはここで止めなければならない!
以前のようなヘマはしない。
ブレスレットの魔力を1割、刀に回す!
「はぁぁぁッ!」
斜めから袈裟斬りに刀を...!
「無駄ぁ。」
「ッ...!」
私の渾身の一撃は、その糸一本をも断ち切ることができなかった。
「クロッ!」
「おらァ!」
私を隠れ蓑にして奴に背後に回ったクロが一撃を与えようとする。
「当たると思ってんのかヨ!」
「!?...ぐぅッ!」
その攻撃も、蜘蛛の妖精に絡め取られて地面に叩きつけられてしまう。
「もうおしまい?よっと。」
「うあっ...!」
呆気なく、強化された奴の蹴りで瞬く間に距離を取られてしまう。
「サキちゃん!」
刀で地面を擦って減速するも止まりきらず、きらりに受け止められる。
強い...!出力はブレスレットの分上がっているはずなのに...!
「っ...あれは...!」
奴の腕にもある、魔法少女は誰もが身につけているブレスレット。
それが...両腕に合計で五個、嵌められているのが目に入った。
「ふふ〜ん。そうそう、あたし沢山魔力持ってるのよぉ。ね?無駄な抵抗はやめとこ?ここでブレスレット使われても、手に入る分が減っちゃうからさぁ。」
「アレって...もしかして...っ!」
「捕らえた魔法少女から、ブレスレットまで奪っているの...!?」
私の一撃を防いだ糸は、ブレスレットの魔力による強化を受けていたようだ。それも、私のより確実に残数は多い。
「もういいよねぇ?早いとこやられちゃってよ!」
糸の速度と切れ味が一気に強化される。
きらりは苦しそうな顔でバリアを張っている...とにかく、防御以外に選択肢はない。
「ッ...!」
とにかく目を凝らして、バリアをすり抜けてくる斬撃を叩き落とす。
致命傷になりそうな一撃はクロがどうにか弾いてくれるが、四方すべての攻撃に対応できる自信はない。
どうする...!?このままでは...!
ーーーーー
「...しつこいね。」
私達は...傷を負いながらも魔女の攻撃を奇跡的にいなしていた。
会ってそう長い時間は経っていない筈だが、それでも私達の息がベテランコンビ並の練度を発揮できているせいだろう。
「...!」
「っ...!」
話す余裕はない。ただ相手に合わせて魔法を発動することに集中する。
一体どのくらいの時間だったのだろう?数秒にも思えたし、数時間にも感じられた...その最後。
「はぁ...ッ...はぁ...?」
止まった...?
「...なんだか終わりそうにない感じ〜?」
奴はめんどくさそうな顔でため息をつく。
このまま...諦めてくれないだろうか?
「......ふふっ。」
そして魔女は...何かを思いついたかのように、ニヤッと笑った。
腕を振り上げる。幾度と見た攻撃の動作だ。
目の慣れてきた今であれば、攻撃に行き先も大体なら把握できる...!?
「!!」
「駄目...ッ!」
全力で地面を蹴る。
うねる斬撃は、私達とは違う方向の...
気絶しているあの子供へと吸い込まれていった。
「もう一割...!!!」
魔力を搾り出して足に回し、なんとか体を挟み込む...!
凶刃は、すぐそこに迫っていた。
「...っ!サキちゃぁんっ!!!」
子供を切り刻む筈だった漆黒の刃は、どうにか全て私の背中に吸い込まれていく。
火花が散り、コスチュームを通して体験したことのない衝撃が全身を襲う。
「っ...ああ...」
ダメージの分散ができる限界量を超え、体と魔力のバランスが崩壊、刀が地面に落ちて変身が解除される。
ああ...負けだ。私達の。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「あらま、そっちかぁ。二人揃ってお人好しって感じ?お似合いのアベックねぇ。」
サキちゃんがやられた。
変身が解け、仰向けに倒れ込んでいる。
「でもこんなガキ庇ったって何の得もないのにぃ、よーやるよね?」
彼女が再び子供へと、その糸を解き放つ。
「ミラージュジェムッ...!」
どうにか子供を迷彩魔法で隠す。
この結界からは逃げられないが、彼女の視界外に寝かせておく。
「...はぁ。まあいいや、そんなガキくらいあげるよ。あたしが欲しいのは...コッチ。」
彼女はサキちゃんに近づき...お腹を踏みつけた...!
「ぐ...うぁ...!」
「サキ!テメェ...!邪魔ダ!」
「キャハ!雑魚がイキってもしょーがないってヨ!」
クロが立ち向かうが、彼女に近づくことができないでいる。
どうにか...!どうにかして私がサキちゃんを助けないと...!
「あんたも諦めちゃいなよぉ...ほぅら。」
無数の斬撃がひっきりなしに向かってくる。
ダイヤモンドベールを貫通しうる攻撃の雨に、私は一歩も動けない。
「サキちゃんを離して!どうしてこんなことするの!?...きゃあ!」
もう限界だったベールは、数回の攻撃で遂に割れてしまう。
ベールが破られた衝撃で尻餅をつく私に、彼女は不思議そうに答えた。
「どうしてって...ねぇ?その方が、チマチマ災禍を追いかけ回すより楽で良いでしょ?ほらぁ。」
そう言って彼女はサキちゃんを蹴り飛ばす。
壁に叩きつけられた彼女はもう動いていない。意識を失ってしまったみたいだ。
これ以上されたら、サキちゃんが死んじゃう...!
...ジェムライトワンドを握りしめる。
「さっきのバリア?もうなさそうだし、これで終わっときなよぉ。」
もう一度、今度は食らえばタダでは済まない糸が走る。
やるしかない...!
私は...身をかがめて、真っ直ぐと彼女へと突撃をした。
「うあああああッッ!」
全身に切り傷が走る。
だけど、私が避けることを想定した軌道だったのかもしれない。走れないほどのダメージじゃない...!
「ッ...!?ザコの癖に...!」
サキちゃんや、元の世界のあの子だったら何か思いつくかもしれないけど、私にはこれが精一杯だ!
最短距離で駆け抜けて、右手でジェムライトワンドを一回転させる。
「リリカル...!」
「コイツ...!」
どうにか彼女の懐に潜り込むことができた...!
「キャノンッ!!!」
魔力の奔流が、とめどなく溢れ出す!
「どこにっ...!こんな力が残って...!?」
彼女は糸を幾重にも編んだシールドを形成して受け止める。
「ううう....!まだ...!」
魔法の出力は不調だ。それは相手が人だから?
「なんだよぉ...ビビらせないで欲しいねぇ。」
彼女は完全にシールドでビームを受け止めている。
これじゃ足りない...!
...本当に彼女は人だと?
「...っ、まだ出るのぉ...?」
何人も魔法少女を捕まえて、消滅させて...
子供を殺そうとして...
サキちゃんをあんなに傷つけて...!
「ちょっ...!?なんだっていうの...!」
勇気が溢れてくる...壊れた蛇口のように。
ポリッシュリングが震える。
「き、きらり...!リングの様子がおかしいルビ...!」
とにかく目の前の『何か』を倒せる力を、私に!
「うああああああああッ!」
「な...!ぐぅぅッ!?」
未だかつてない量のエネルギーに達した、その時。
ポリッシュリングに、 ヒビが入った。