正義のヒーローヘヴンホワイティネス   作:アトラクション

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皆様お疲れ様です。ついにつたないながらもこの物語が10話ですよ!(厳密には9話なんだけどね・・・)
閲覧や、お気に入り登録、感想ありがとうございます!

今回は四話構成の長い話しになります。
小出し感が否めないかもしれませんが、楽しんでいただければ幸いです!


襲撃編
9・剣士の怪人


 

 あれから風邪も完治し、季節は5月。

 

 「カエデ、今日も放課後は、アジト探し?」

 

 通学路で隣を歩くレンがカエデに話しかける。

 

 「そうね、奴らのアジト探しもあるけど、あたし達のアジトの立地も探さないとだしね・・・」

 

 普段外に出ている時間が多いヘヴンホワイティネスは、自宅の事はギンジにまかせてミドリコは勤務、レンとカエデは学業と忙しい。

 

 ギンジも外に出れればいいが、今はサングラスも無いためあまりまともに出歩けない。

 

 「バカギンジも日中外に出れればまともに働けるのかしらね。それはそうとケイタ!」

 「はい」

 

 思わず強めの口調に背筋が伸びる。

 

 今カエデの自宅から通学路を歩くのは、角倉ケイタ、宮寺レン、神宮カエデの三人。学年でも新一年生にも噂される、いつもの三人組だ。

 

 周りの視線は悪い捉え方をしていないし、別にさして気になるものでもない為か、今日もいつも通り過ごしている。

 

 「ケイタ、あんたの放課後のよていは??」

 

 腰に手を当てながら鋭い目つきでケイタを睨むカエデ。

 

 「あ、えーと、放課後はギンジと作戦を・・・」

 「・・・」

 「ハァ・・・バカケイタ、あんたは今日の放課後はレンと帰りなさい」

 

 思わずドキリと心臓が跳ねる。ケイタの心中を察してか、カエデが気遣いを見せる。

 

 「いい?ギンジの事はあたしが止めとくから、あんた達は二人で帰るのよ!いいわね?」

 「カエデ、ありがとう・・・」

 

 不器用ながらも友達の恋の為に、距離を縮めようとしたカエデの態度にケイタはお礼を言う。素直にありがたいこの気持ちを隠さずに伝えると、レンも嬉しく思う。

 

 なんだかんだバランスの取れた三人の登校は今日も平和だ。

 

 「でもいいの?ここまで色々、カエデには、頼りっぱなしだし・・・」

 「レンはそんな事気にしなくていいのー!今日ぐらいあんた達が何もしなくても誰も何も言わないし、あたしが何も言わせないわよ」

 「めちゃくちゃだな・・・」

 「角倉さーん?何か言いまして?」

 「い、いえなんでもないです」

 

 そんなやり取りをしながら、三人は学校へと向かう。

 

 そして放課後は学校だけじゃなく、この街の平和を守る正義のヒーローヘヴンホワイティネスとして、ヘルブラッククロスと戦う為に、今日も彼女達は駆け抜ける。

 

 「そういえば最近トモカと連絡取れないのよね」

 「最近学校来ていないみたいだよ。隣のクラスの中谷も連絡取れないぐらいだし。風邪引いてるのかもね」

 「もしかしたら、体調、悪いのかも」

 

 校舎を目指し、彼女達はそんな事を話しながら突き進んでいく。 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 「よーし、お前ら席につけー」

 

 教室に入るや教卓の前に立つ教師が、カエデ達をはじめクラス全員に着席するように声を出す。

 

 「今日から副担任が配属される事になった。先生、ご紹介を」

 

 遅れてクラスに入って来たのは美人、その言葉がイメージとして定着しやすいスラリとした女性。

 

 「こちらの先生は、小さい時に眼を事故で怪我されていてな、カラコンみたいな眼をしているが、ちゃんとした眼だから変な事でからかうなよ」

 

 黒板に名前を書き始める。

 

 「レン・・・あの眼」

 「うん。間違いないと、思う」

 

 名前が書き終わると、その美人教師はクラス全員に向き直る。

 

 そもそもこの時期に来るのに、生徒の誰も知らない事も違和感を感じるが、その違和感がカエデとレン、そして離れた席に座るケイタにも一目でわかるあの瞳をしていた。

 

 「初めまして。今日から副担任を努めます、黒井ヒトミと申します。憧れの職業だったので・・・」

 

 ヒトミと名乗ったその女性教師はカエデとその後ろに座るレンと眼が合う。カエデとレン、そしてケイタからすればあの眼球はギンジと同じ──。

 

 怪人の特有の瞳をしていた。

 

 「あー、お話が長くなりそうなので、自己紹介はこれぐらいにしておきますね」

 

 笑顔で話を終わらせると、いつも通りのホームルームが始まる。

 

 しかし、カエデとレンとケイタは敵がこの学校に来た事を知り、心の中で警笛がなるような気持ちだった。

 

 (もしかして、今眼が合ったのって・・・あたし達の事がバレてる・・・?)

 

 嫌な予感がカエデの心を縛る。

 

 学校の生徒を人質に取られた様な気分だ。レンもケイタも同じで、三人は沸き立つクラスの中で浮いた気持ちになりながら、今後の事を話そうと決める。

 

 (あの子達は・・・どうやら【知っている】ようですね) 

 

 ヒトミ先生が笑顔を取り繕うが、その笑顔ですらカエデ達に取ってみれば脅威の対象がこちらの正体を知っている様な、怪しい雰囲気に見えていた。

 

 気が気じゃないまま、学校を過ごす事になる。

 

 (なんとかしないと・・・)

 

 嫌な汗を拭いながら教室の中の雰囲気と、同じ様に盛り上がれない。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 昼休み。授業と授業の間の中休みにはまともな話は出来ないため、いつものメンバーでカエデ、レン、ケイタの三人は屋上に集まる。

 

 いつもなら話すのは今日の放課後の予定や、昨日戦った怪人との反省会になるが、今日の話題は違う。

 

 あの教師、黒井ヒトミの事だ。

 

 「ネーミングもまんま黒い瞳、イコールで怪人よね」

 「間違いない、と私も、思う」

 「ついに学校に二回目の怪人の登場か・・・」 

 

 一度目は紐の怪人の襲撃。その時初めてケイタは怪人という存在に遭遇し、殺されかけた。生きた心地がしないとはまさにこの事で、当時まだ一人で戦線に出ていたレンの救援と、カエデの覚醒によって事なきを得た。

 

 その時の事を懐かしむ様に思い出し、ケイタは身震いする。

 

 再びあの惨劇にも近い状況が学校で行われるならば、なんとしても阻止しないとならない。

 

 「まだ襲う気はないみたいだけど、このまま待ってるんじゃ意味がないわ。正体を暴いて追い出さないといけないし」

 

 手持ちの紙袋を綺麗にたたみながらカエデの言うことにうなずくレン。そのレンも警戒の気持ちが籠もっているのか、あまり食事が進んでいない。

 

 「ギンジと、ミドリコを呼ぼう」

 

 レンの提案ももっともだが、その発言にカエデが首を横に振る。

 

 「いいえ、今回の怪人があの先生なら、ギンジはきっと役に立たない」

 「どうして?ギンジなら、きっと僕たちの戦いの戦力になるのに」

 

 その否定の言葉に自信がなさそうなカエデは、ケイタとレンにそれぞれ向き直り口を開く。

 

 「あたしも最初はそう思ったわ。だけどあいつ、女の人が相手だと・・・多分よ?まともに戦えないのかしら。やけに手を抜く所があるのよね」

 

 推測にも近しい様な言葉に、レンもケイタも小首をかしげる。

 

 「先ず、初めてあたし達がギンジと出会った時、あいつはあたし達を攻撃しなかった。その後も、あのリコニスには手を出したけど、ダメージがあまり無い所ばかりを狙っていたようなフシもあるわ」

 

 思えば別日においても、女性戦闘員には手を出していないギンジを思い出しレンは何か納得が行く。

 

 「さらに、4月30日にぶつかった女性にはあのバカギンジが自分から謝罪しに行ったのよ。信じられる?」

 

 風邪で倒れた日の事を思い出しながら、カエデは二人に話していく。

 

 あの強面一直線かつ、サングラスでそれが強調されるギンジの見た目と性格からは、自分から謝るとは到底思えない。

 

 「でも、怪人ならギンジだって・・・」

 「戦力にならないとは言ってないわ。今回に限り役には立てないって言ってるの」

 

 それでもギンジを呼ぶだけでも安心感があるのか、ケイタが呼びたがるがカエデはそれを今回に限り否定する。

 

 「今後も女性にまつわる敵が相手ならギンジじゃ勝てない。できてせいぜい足止めに終わるわ」

 

 最後に苛立ちを込めた舌打ちをすると、空を見上げて昼の日差しにも嫌気がさすような顔を見せていく。

 

 「放課後の予定は全部キャンセルよ」

 

 新たな言葉にレンとケイタはカエデの顔を見てうなずく。三人の想いは結託した。

 

 今日の放課後は黒井ヒトミの正体と、ヘルブラッククロスへの足がかりを知るためにヘヴンホワイティネスは行動を開始する。

 

 「よーしそうと決まったら早くお昼ごはん食べるわよ」

 「カエデ・・・」

 「何よ」

 

 意気揚々としたカエデにレンが細い声をかける。

 

 そのレンの手元には空になったパンの袋。そしてその隣で座るケイタの手元にも、もう空になったお弁当箱。

 

 「もう、食べ終えた」

 「ごめん、ギンジが役にたたない・・・かもの辺りから、なんだか食が進んじゃって」

 「ケイタのお弁当は、美味しい」

 

 それに加えてコンビニのパンも食べているレンは、眼を光らせてケイタの弁当まで貰っていたようだ。

 

 そして昼休み終了の鐘が屋上に鳴るとカエデは眼を丸くする。

 

 「カエデだけお弁当、残ってる・・・」

 「でも、もう時間ないよ、レン・・・」

 

 まだ食べたいのか。カエデは空腹のまま午後の授業に励む事になってしまった。

 

 「でも安心して、カエデのお弁当は、美味しいから、私が食べとく」

 「なんでじゃああーーー」

 

 昼の終わりに神宮カエデの絶叫が響き渡る。

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 甘白ミドリコの家でコーヒーを飲みながら、ギンジはベランダで外を眺める。

 

 掃除の一件以来ミドリコの家には鍵が付いた。ついでにレンの部屋にも。

 

 昼間は家の中では自由にしていていいが、どうにも二人が帰宅する時は、ギンジは屋内に居づらい。風邪の時も無理を押して、ベランダで寝ていた。

 

 「どうしていいのかわかんねぇんだよな・・・」

 

 前の世界でも女性と付き合った事は一人だけだが、どう接していいか解らずに気がついたら別れていた。

 

 おまけに家族も居ない独り暮らしも多かった、ギンジに取ってみれば、家の中に誰かが常にいるのは落ち着かない。

 

 家に一人で居ることが自分に取っての幸せ、なんて思っていた事もある。

 

 孤独。それがギンジの心と佐久間ギンジそのもの。

 

 「仲間とも思われて無ぇしなぁ〜」

 

 どれだけヘヴンホワイティネスに協力的な姿勢を見せても、カエデからはあまり快くはない対応をよくされる。

 

 ここで逆上してしまうのは良くないが流石に・・・とは思ってしまう。

 

 元々が怪人だからっていうのもあるのだから仕方ないが。

 

 ではどうすればカエデをはじめ仲間と呼んでくれる様になるのか、そして仲間と認めてくれるのか。

 

 「わかんねぇなぁ・・・」

 

 ──地道に信用を築いていくしかないか・・・。

 

 昼の日差しを見上げて、ギンジはため息をつく。

 

 「俺にできることってなんだろうなぁ・・・」

 

 何をするにも上手く行く気がしない。

 

 「だークソ。せめてサングラスでもあれば、外に出て気分転換できんだけどな」

 

 コウモリの怪人との戦いの際に無くしてしまったサングラス。あれが無いと外にはまともに出れない。夜ならまだ出歩けるが、それでも人の多い所はNGだ。

 

 いつの日かミドリコが言ってくれた。サングラスを掛けないで暮らせるといいな、と。はたして本当にその日は来るのか。

 

 もし全ての戦いが終わって、この眼球が元に戻せるならドクターミヤコにお願いしよう。

 

 「俺の目標が決まったな・・・」

 

 第2の目標を思いつく。

 

 「そうだよ、ドクターだよ。鈴村ミヤコを捕まえちまえばいいんだ」

 

 だが一瞬でその考えは瓦解する事になる。

 

 「なんだよ、簡単じゃねーか。先ず、怪人達を全員倒すだろ・・・」

 

 そこで気づく。

 

 「え?全員・・・?オークに、犬に、触手に、タコに、紐・・・あと鎧と砂の怪人・・・」

 

 ギンジのゲームでの知識を考えると、そもそも倒すのが難しい怪人ばかりだ。バーナーにしても一度殺されかけている。

 

 コウモリにも苦戦を強いられた。タコは・・・まぁ、手を抜いていた。

 

 「俺の知らない所で変な怪人造ってないだろうな〜ミヤコ・・・」

 

 未だにギンジの目の前に、ゲームと同じ時期で登場していないのは鎧の怪人と砂の怪人だ。だが、ゲームの通りに行かない事もあるという事を考えると、あのドクターミヤコが新しい怪人を造っている事も十分考えられる。

 

 それこそ、レンの居た未来が変わる程の要因になるような・・・。

 

 「・・・なんだ?何か・・・とにかく、なんだ・・・?」

 

 何か妙な気持ちになる。今既に未来が変わる要因があるような不思議な感覚。

 

 だがそれが何か解らない。

 

 5月のイベントに思考を張り巡らせるも、ギンジの知識の中に残っている物は、住宅街スライムランチャー事件。

 

 この事件ではカエデが捕まり散々な目に合う。

 

 6月は上旬にクアッドタワー公開ナメクジショー。

 

 甘白ミドリコが散々な目に合う。

 

 そして6月28日は・・・。

 

 「あ・・・」

 

 運命の日だ。6月28日は、ヘヴンホワイティネスが敗北し、宮寺レンが攫われる。

 

 そして、洗脳に堕ち、次は角倉ケイタが・・・。

 

 「今の変な不思議な感覚、これか。運命の日の攻略をしないと、俺もヘヴンホワイティネスも終わる・・・」

 

 ベランダのベッドに寝そべり、ギンジは思考を張り詰めて行く。

 

 何が自分に取って最善か、何が彼女達に取って最善か。

 

 本気で取り組まないと、7月を全員で迎えられない。

 

 (26周したんだ。全部覚えてる、全部計画を壊す)

 

 次々と襲い来る問題を逆手にとり、ギンジは改めて強く決意しなおす。

 

 必ずハッピーエンドを迎える為に、全員で笑って7月を迎える。

 

 そのためならどうなってもいい、と解っていた筈だ。

 

 仲間として認めてもらう気持ちが早まっていた。ギンジ自身の目的は、ヘヴンホワイティネスの味方となり、彼女達の輝かしい未来を守る事。

 

 (やるしかないな・・・)

 

 覚悟を再び、いやもしかしたらこの先何度でもするだろう。その度にギンジは折れない心を武器に戦えるだろう。

 

 そんな事を考えながらコーヒーを手に取り、一気に飲み干す。

 

 昼の日差しは、徐々に強くなっていく。それはまるでギンジの覚悟と同じ様に・・・。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 午後の授業の終了を告げる鐘がなると、学生は皆様々な気持ちになるだろう。

 

 ある者はやっと学校が終わる。またある者は部活に勤しめる。さらにある者は放課後何をして遊ぼうか、等など上げればキリが無い。

 

 その思いは三人を除いて、不穏な空気を広げる時間となる。

 

 「黒井先生を探すわよ」

 

 今日最後のホームルームが終わると、カエデはレンとケイタを連れて職員室へと向かう。

 

 いつでも戦闘に入ってもいいようにヘヴンスーツの準備を万全とし、ケイタはいつでも逃げられる様に列の最後尾に立ち、必要ならミドリコとギンジを呼び出せるように。

 

 「戦闘になったら絶対に無理しないでね、二人とも」

 

 心配そうな声音でケイタが二人の背中に向けて言うと、カエデもレンも振り向かないが、静かに首を縦に振る。

 

 「失礼しまーす・・・」

 

 いつも以上に重たい感覚がする職員室の扉をあけると、カエデの目の前にはあの副担任、黒井ヒトミが待ち構える様に扉の向こう側で立ちすくんでいた。

 

 来るのが解っていたと言わんばかりの態度に、カエデは怒りが強くなっていく。

 

 「あら、えーと、神宮・・・さんですね?」

 

 怪人特有の黒い眼球、赤い瞳。

 

 その目に写るのは強張った表情の神宮カエデ、宮寺レン、角倉ケイタ。

 

 明らかに警戒の意識の高い態度に、黒井ヒトミは三人へ笑みが溢れる。

 

 「まさかこんなに早くお会いできるなんて思いませんでいたよ、ヘヴンホワイティネス」

 

 その名前をカエデ達に向けて言うならば、間違いなくこの教師はヘルブラッククロスの怪人だ。その言葉使いも、容姿も全て、偽りなのだろう。

 

 「あたし達がヘヴンホワイティネスって知ってたのね」

 「もちろん。この眼球を見てあんな驚きに満ちた顔をするのはもう確定と言っていいでしょう」

 

 先程のおっとりした口調からいきなりハキハキとした声で、ヒトミはカエデ達を見据える。

 

 「戦うなら容赦、しない」

 

 レンの緊張の籠もった言葉が、ヒトミをさらに笑顔にする。

 

 「もちろん、戦いますよ。ですが、今この場所で戦うのは、貴女達にもわたくしにも不都合があるでしょう」

 

 ヒトミは胸元のポケットに入っていた、スマホを取り出しなにやら操作を始める。

 

 「何よ、不都合って。あんたは逃げられないのよ」

 「逃げる?ご冗談を。むしろ逃げられないのは、貴女がたの方ですよ」

 

 ヒトミが取り出したスマホの画面を見せられる。

 

 「なっ」

 「トモカ!?」

 

 カエデもレンも焦りが大きく出る。

 

 その画面に写るのは、菊沢トモカ。カエデ達の親友だ。

 

 写真の中では、鎖で身体を拘束され目隠しをされている。抵抗でもしてしまったのか、おそらく殴られて右頬が赤く腫れている。

 

 「あんた、トモカに何をしたの!!」

 

 職員室にカエデの怒りの声が広がる。

 

 しかし、職員室にいる筈の教員は誰も出てこない。それどころか、人の気配がしない。

 

 「この子は、不本意ながらこちらで預からせていただきました。他の数名の生徒も、教員の方々も」 

 

 本当に不本意なのかどうかは別として、ヒトミの表情に陰りがある。

 

 「なんてことだ・・・」

 

 ケイタも震えながら声が出る。

 

 「あんたの目的は何よ」

 「わたくしの目的ではありません。組織の目的です」

 「じゃあ、組織の目的は、何?誘拐?それとも、私達への脅し?」

 

 レンの問いかけにヒトミが口元を緩ませる。

 

 「組織からの要求h2つ。そのどちらかを飲めば、我々は何もいたしません」

 

 要求。これに従えばトモカを始め、学校の関係者を返してくれるのだろうか。

 

 そもそもいつからこんなに早く、そしてカエデ達が気づかない内に誘拐などを企て、行動できたのだろうか。手際が良いとしても出来すぎている。

 

 「1・ヘヴンホワイティネスが我々の傘下に下る事」

 

 その要求について早くもカエデとレンは嫌な顔をする。

 

 正義の為に戦うヒーロー達が、悪の組織に下るなんてありえない。

 

 「2・この要求の方が、飲みやすいかもしれませんね」

 「早くいいなさいよ」

 

 苛立ちと焦りがカエデの判断を鈍らせる。

 

 「2・佐久間ギンジをこちらに引き渡す・・・というものです」

 「・・・ッ」

 

 2つ目の要求。それは3月から共に戦いに味方してくれた佐久間ギンジをヘルブラッククロスに引き渡すというもの。

 

 その要求を聞いた時にカエデもレンもケイタも、否定の色が強く出たような気がした。

 

 (あいつを渡せば・・・トモカ達が・・・)

 (僕たちがギンジを裏切れば・・・)

 

 カエデにもケイタにも友達や教員を助ける為に、揺れ始める。

 

 その要求を受け入れる事自体が、正義のプライドにヒビが入り始める。

 

 「それを、断ったら、どうするの」

 

 静かに怒りを灯した瞳でレンは目の前の怪人に問いかける。その態度は毅然としたモノで、正義の為に背負っている心の大きさが違う彼女は教師・・・否、ヒトミに投げかけた。

 

 「断ったら・・・そうですね、これも不本意ですが、我々が誘拐したヒトは例外なく組織に連れていきます。何かしら志のあるものは、ヘルブラッククロスに就くでしょうし、役に立てなかったモノは我らがドクターの実験材料になるでしょうから。ギンジにも申し訳ないですが、少々痛い目に会ってもらいます。さらに言えば」

 「黙れ」

 

 ヒトミがしゃべる内容に要求を飲むかどうかの価値を聞き出したかったが、カエデの一言でその場に悪い空気が流れ出る。

 

 「あんた達の要求は飲まないわ。何が要求よ偉そうに。自分勝手のわがままならもう沢山なのよ!」

 

 カエデの激昂にヒトミもレンもケイタも驚く。

 

 だが次の瞬きの瞬間、ヒトミはビキニアーマー、ラウンドシールド、そして黒いマントに身を包んだ奇抜な格好に姿を変えていた。

 

 「それが・・・貴女達の答えで良いのですね?」

 

 怪しく輝く剣を腰から引き抜き、ヒトミは年端も行かぬ少女達に言う。

 

 「当たり前よ!」

 

 傘下にはならないし、ギンジも渡さない。

 

 (あいつは・・・あたし達の・・・)

 「レン!僕はギンジとミドリコさんを呼んでくる!」

 「レン、こいつはあたしが止めるわ。あんたはケイタと一緒に居なさい!」

 「解った・・・後で必ず、合流する」

 

 ヘヴンスーツを発動させて、カエデとレンは正義のヒーローヘヴンホワイティネスへ変身する。

 

 そしてレンとケイタは急いで学校を出る。

 

 トモカが連絡を取れなかった事も、全て、悪の組織ヘルブラッククロスが原因。

 

 「名乗りを挙げさせていただいても?」

 「・・・好きにしなさいよ」

 

 ヒトミが紳士の様に一礼すると、マントをなびかせカエデの前で華麗にターンを決める。

 

 「わたくしの名前は、剣士の怪人。ヘルブラッククロス1の剣士!」

 

 奇妙なポーズを決めると、剣の先端をカエデの目の前に向けて、敵意を持った目つきで剣士の怪人は戦いの体制を整える。

 

 「いざ、勝負!」

 「来なさい!」

 

 カエデのガントレットと怪人剣が、火花を散らし激突する。

 

 直ぐに身体を横に逸らし、一回転を加え横薙ぎに剣を振るうと、恐ろしい程の斬撃が襲い、カエデはそれを避けると、校舎の壁が遅れて大きな斬り傷が広がっていく。

 

 「学校になんて事するのよ」

 「フフ、それでは避けない方が良いのでは?」

 「あんたこそ、あたしの攻撃避けない方がいいわよ」

 「ご冗談を」

 

 言いながらもカエデの拳や回し蹴り、さらには手刀による連続攻撃を剣士の怪人は避けるか防ぎ、それでも一撃の威力はカエデの方が上なのか、剣で防がれた攻撃はわずかに防御体制を崩している。

 

 「フッ!」

 

 軽く息を吐くと、剣士の怪人の突きの攻撃が小刻みに繰り出される。

 

 そのままカエデの胴をめがけて、不意打ちの様な払い攻撃を行うが、それを受け止めると天井へ怪人を打ち上げる。

 

 天井を床の様に蹴ると、真下に居るカエデを目掛けた突き攻撃。

 

 「今のを避けましたか・・・まぁ、許容範囲ですが、ねっ!」

 

 突き刺さった剣はスコップで地面を掘り返すように、コンクリートの廊下をくり抜き瓦礫を飛ばして来る。

 

 「必殺!ドライヴ・レイザー!」

 

 両手のガントレットのギアを高回転、そのまま両拳を連続で突き出し瓦礫を打ち砕く。それだけでは止まらず剣士の怪人をめがけてラッシュを叩きこもうと突き進むも、大幅なバックステップで攻撃が当たらない。

 

 「あら、避けれるのね。まぁ、許容範囲、だけどね!」

 

 同じ様に剣士の怪人へ煽り返す。

 

 同じ様に不意打ちはしないが、かわりにブーツのギアを回転させて、ヒビ割れた廊下を踏み砕く。

 

 「君の方こそ学校を壊しているじゃないか」

 「うるさい!」

 

 これは言い返せない。

 

 下の階に二人して落ちると、鋭い突き攻撃を繰り出す剣士の怪人と、重い打撃を繰り出すカエデが辺りに強い衝撃を撒き散らし、お互いに吹き飛ぶ。

 

 「なかなか手強いわね・・・」

 

 身体に乗っかった本棚をどけながら、目の前の剣士の怪人を目線から外さないように見やる。

 

 「まだまだこんなモノではないのでしょう?」

 

 剣士の怪人も自分の身体にまとわりつくような本の山を斬り払うと、剣の先をカエデに向ける。

 

 図書室に落ちた二人は、せまい部屋での攻防を再び繰り返す。

 

 カエデの視界の右端に見えた、本のタワーを剣士へ向けて蹴り飛ばすと、それはラウンドシールドで防がれるが接近の手段を得た様に、蹴り、蹴り、蹴りの連続。

 

 ハイキックも避けられ、突き出し蹴りは防がれ、足払いは飛ばれ、回し蹴りは剣で弾かれる。

 

 上段斬りは手で防がれ、突きは身を捻り当たらず、シールドによる体当たりは飛ばれ、手元が一瞬背中で隠れる回転斬りは振り向いた時の背後に、飛んで避けられる。

 

 その回転斬りの斬撃は、剣士の怪人の視界に入る全ての本棚を真っ二つに裂き、本が一枚一枚図書室に舞い散る。

 

 (あの剣の斬撃どういう威力してるのよ)

 

 あれを貰ったら、いくらスーツで強化しているカエデでも無事ではないかもしれない。

 

 それにしても先程からちゃんと動けない。カエデの気持ちが戦闘に追いついていない。

 

 トモカを始め他の友達が人質に取られている以上、何をされるかわからない。

 

 「お友達を気にしていては、戦えませんか?」

 

 そんなカエデの心情を悟ったのか、剣士の怪人は先程と同じ様に回転斬りのを行い、それに反応が遅れた為防御体制を取るも、カエデのガードを吹き飛ばす。

 

 「うわああ」

 「残念。守る人がいる貴女達は強いと聞いていたのですが」

 「くぅ・・・」

 

 続け様に飛んでくる刃、斬撃、シールドによる猛攻にカエデはとうとう壁を背に追い込まれてしまっていた。

 

 「ヤバ」

 「これでおしまいですか、ね」

 

 再びあの回斬り。今度はマントが広がり、カエデへの目くらましがかかり一瞬何が起こったのか、理解できなかった。

 

 (あ、これめくらま、し!?)

 

 気づいた時には左腹部に激痛と言うだけでは、言い難い強い衝撃と痛みがカエデを襲う。

 

 回転斬りの斬撃ではなく、剣そのものがカエデに命中してしまっていた。

 

 「きゃああああ」

 

 図書室の壁を突き破り、外の廊下まで吹き飛ばされる。

 

 廊下の窓を杖がわりに、よろよろと立ち上がるも全身に激痛が走る。

 

 「あグッ・・・?」

 

 剣が当たったであろう腹部から熱感を伴った痛みが走り、手を抑えるとぬるりとした感触がカエデを青ざめさせる。

 

 左腹部は深く斬られ出血していた。

 

 ヘヴンスーツの防御力を上回り、カエデの実体にまでその斬撃が届いてしまっていた。

 

 (こいつ・・・強い・・・)

 

 いつの日か戦ったオーク怪人を上回る強さかもしれない。あの時はレンもミドリコも居たからなんとか勝てたというものだが、今回はレベルが違う。

 

 人気の無い学校には、今は二人。剣士の怪人とヘヴン1である神宮カエデのみ。

 

 壁を斬り崩し剣士の怪人が痛みでうずくまるカエデに向かって、ゆっくりと歩いてくる。勝ちを確信していてなおも余裕な表情はしていない、油断していない対応にますますカエデの顔がひきつる。

 

 「オークや、ドクターに聞いていたより、あまり楽しめませんね。本当にこんなモノですか?貴女の実力は」

 

 カエデを見下ろしながら剣を振り、喉元に怪しい刃が向けられる。

 

 「・・・フー・・・せいっ!」

 

 痛みに耐えながら深呼吸をし、剣を手で弾く。しかしその力はあまりにも弱々しく、耐えていても力が籠もっていない。

 

 わずかばかりの抵抗。それが今のカエデの限界だった。

 

 「どうしますか?力の差に気づき、傘下に下るか、佐久間ギンジを引き渡すか・・・」

 「・・・冗談、あんた達の味方になっても未来は無さそうだわ。ギンジを渡すのも無し」

 「では死にますか?」

 

 無情にも思える剣士の怪人の言葉に、カエデの顔はまだ諦めていないといった表情をしている。

 

 「死ぬのも無しよ。最後に勝つのは、あたし達なんだ、から、ハァ、ハァ」

 

 出血も酷い。身体も痛い。呼吸も荒い。

 

 もしかしたら死ぬかもしれない。でも死ぬ怖さより、怪人に勝てない事の方が怖く感じる。悪に勝てなければ、レンの未来も、自分達の将来も無くなってしまうのだから。

 

 「あたしは・・・ケぽっ」

 

 吐血。経験は初めてだ。口の中が鉄の味でいっぱいになるが、それでもカエデは言葉を止めない。

 

 「あたしは、相棒が死にそうになったら、守って、あげるって約束してるのよ」

 「何を言うかと思えば、変な事を口走りますね」

 

 剣士の怪人は首をかしげながらも、剣をカエデに向けたままだ。

 

 「でもね・・・あたしが死にそうになったら、あたしが死なない様に、守ってくれる相棒が居るのよ」

 

 血で覆われた唇をニッと開き、剣士の怪人の持つ剣をガントレットで握る。素手じゃないから刀身に触るのは大丈夫だ。

 

 「何を・・・?」

 

 不可解な行動で無意味にも思えたが、その不可解な行動に注視した事で剣士の怪人は足元を掬われる。

 

 「!?」

 

 剣士の怪人の左側から青白いビームの剣が、投げつけれる。

 

 それを盾で受け止めると反対方向から、小柄な少女が全体重を乗せた飛び膝蹴りを剣士の怪人の頭部に命中させる。

 

 「なっ・・・に!!?」

 

 現れたのはスカイブルーの髪に、白を基調とした蒼いラインの入ったボディスーツ。

 

 ヘヴンホワイティネスのNo.2。その姿を見てカエデは喜びと嬉しさの両方、そして寂しさから開放された様な気持ちに、思わず涙が一粒だけ溢れる。

 

 「遅いのよ・・・!」

 

 宮寺レンが加勢に現れた。

 

 親友を守る為、戦いの場に戻ってきてくれた。

 

 「よくも、カエデを・・・許さない、覚悟、しろ」

 

 ビーム剣を拾い、自身の顔に刃を合わせるように構える。

 

 「・・・剣士であるわたくしに不意打ちとは、やりますね」

 

 廊下の端まで吹き飛ばされた剣士の怪人が、首を鳴らしながらマントを煽りレンを見据える。決してその赤い瞳はレンを甘く見ていない。

 

 「カエデ、動ける?もうすぐ、ミドリコがギンジを連れて来る」

 「レンが来てくれたから、もう少しだけ動けそうよ」

 

 二人のヘヴンスーツは呼応するように、赤と蒼のラインが明滅していく。その反応のおかげか、カエデの斬られたスーツが徐々に修復されていく。

 

 「怪我が収まったワケ、じゃないから、無理はしないで」

 「解ってるわ。あいつは強いわ、強力な剣線もそうだけど、盾を使った連携の多さや、回転斬りにも注意して・・・」

 

 痛みで顔が引きつりながらもカエデの右拳が、レンの左のビーム剣に合わせる様に、敵である剣士の怪人へと狙いを定められる。

 

 「ヘヴンホワイティネスの本領発揮ですね?楽しみだ・・・!」

 

 剣士の怪人も剣を両手で握り、肩より上に突き出す様に構えるとこの闘争に意義でも見出したのかの様な笑顔で、カエデとレンを視界に捉える。

 

 「では、本気で行かせていただきます」

 

 その言葉に強く警戒し、レンとカエデは身構える。

 

 「怪人剣術──」

 

 いよいよ剣士の怪人の大技が始まろうとするが、レンとカエデも大技を決めようと連携を始める。

 

 友を救うために、正義を守るために、今日の彼女達の長い戦いが始ままった。

 

  

 

 

続く

 

 

 

 

 

 

 




四話構成1番目のお話でした。お疲れ様です、アトラクションです。

今回のお話を作るに辺り、一度話の構成を組み立て直しました。
そしたら、多分四話ぐらいの構成がいいだろうな、と。ギンジもカエデもレンもミドリコもケイタも大きく決意と成長する話にしていければな、っていうコンセプトはあるのですが・・・うまく書けるかな。頑張りますがね。くふふ。

キャラネタは今回は無し!
次回もお楽しみに!アトラクションでした!
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