正義のヒーローヘヴンホワイティネス   作:アトラクション

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こんにちはアトラクションです!

温泉旅行編は4話で終わる予定でしたが、なんか・・・すみません、5話か6話ぐらいに伸びそうです。
今後○○編はスタートの時に10話予定とか言わない事にします。
自分の管理能力の無さだったり、キャラの絡みを増やしたり、あ、この話題入れとこうかなー!とか考えたら、色々伸びちゃいました。

温泉旅行編はバトルはしませんよ!これだけは絶対に!

それではどうぞ!


98・リコニスとギンジ

 ヘルブラッククロスの本拠地となる、広大なアジト。

 

 どこかの研究所なのか、はたまた何かしらのタワーの一部なのか。

 

 夏の強い日差しが終わりへと向かう、残暑が色濃く残るこの時期、9月。

 

 現在このアジト内部では戦闘員や下級幹部、それから各地から招集されたヘルブラッククロスの大幹部達が集まり、アジト内はかなり落ち着かない雰囲気を持ち、慌ただしくなっていた。

 

 理由は明白であり、その状況においては大幹部集会に珍しく出席したリコニスにも既に解っている事だった。

 

 昨日、つまり8月31日。

 

 厳しい暑さが毎日続くこの季節において、そこから涼しさの訪れと灼熱の終わりを告げ始めるこの瞬間において、次期総統直属の秘書になれる予定だったある男が、ヘルブラッククロスの宿敵とも呼べる敵対組織、ヘヴンホワイティネスによって敗れたのだ。

 

 その大幹部の男の名前は、柏木タツヤ。

 

 誰もが知る狡猾かつ残忍さを併せ持ち、公安警察に重要なポストを持たせてもらいながら、このヘルブラッククロスに忠義を尽くしていた男が、誰よりも力の世界に固執して憧れていた男が、自分達のルールの下敵に敗れて監獄送りにされてしまった。

 

 (今更何を話し合おうっての・・・あ〜退屈っ)

 

 大幹部達が慌ただしく席につく中、リコニスはいつもの黄金の鎧を輝かせながら、だらけ切った姿勢で脚を組んでいた。

 

 その姿勢だけでも2席分多く面積を取っているから、正直態度も悪いし、誰が見ても邪魔でしょうがない。

 

 誰も彼も同じ立場の大幹部なのに、リコニスに注意も文句も言いに来ないのは、彼女が相当イカれた女であると言う事が周知されていると言う事。

 

 変に眼をつけられて殺害なんてされたら、本当に何も言えない。

 

 眼を合わせずに、それでも騒がしく慌ただしく大幹部達はそれぞれの席につく。

 

 顔を見上げて身体を反らして上の席に視線を動かせば、政界に名を出しているでっぷり太った政治家の男が居る。

 

 身体を元に戻して視線を動かして、リコニスは会った事の無い大幹部をジロジロと見回していく。

 

 主婦の様な見た目をした女性や、ミヤコみたく何かの天才かも知れない中学生の姿や、どこにでも居る冴えないサラリーマンの様な男性や、どこでそんな姿が役に立つのか、ピエロみたいな姿をした大幹部までもがここに集結している。

 

 (皆vs私で殺し合いしてくれないかしら。退屈でリコニスちゃん死んじゃうー、私は退屈になると殺したくなっちゃうよ?いい?処す?処していい?)

 

 2つ離れた席に座る、ピエロみたいな風貌の大幹部の首でも、今ここで刎ねてみようか。

 

 そうしたらきっと注目の的になれる。

 

 そうしたらきっと誰かが私を怒ってくれる。

 

 そうしたらきっと退屈を満たしてくれるおバカさんと殺し合いが出来る。

 

 試してみようか、どうしようか。そう考え始めるだけでもう、自分の中のワクワクを止められなくなってくる。

 

 「なんや、ワイになんか用でっか?」

 

 ピエロの風貌の大幹部がリコニスに一瞥もくれずに、声をかける。

 

 恐らく彼女の殺気に反応した具合だろうが、彼もなかなか態度悪くこの席に座っている。

 

 まるでサーカスの衣装に身をつつみ、身体が太く、しかし手足は細く見える不思議な形状をした出で立ち。バルーンの柄がカラフルにペイントされた中、胸の中心にはヘルブラッククロスの特異なマークでもあり象徴でもある、怪人の瞳をコミカルに模した模様が特徴的だ。

 

 おまけに顔にもメイクをほどこしており、右半分は白く眼の周りにダイヤの化粧、左半分は黒く眼の周りにはハートの化粧、鼻は真っ赤な付けモノをしていて、どこからどうみてもサーカスでよく見るピエロのイメージだ。

 

 きっと戦闘の際には曲芸でも披露してくれるのだろう。

 

 「ん〜?今からぶっ殺してみようかなって」

 「へぇ・・・誰を殺るっちゅうんです?」

 「例えばさ・・・お前みたいな、ふざけた格好の大幹部とか、さ」

 「おもろい事言いはりますなぁ、さっすが、度固化の大幹部は言うことが違いますわぁ」

 

 わざとおどけた態度がピエロ衣装も相まって、歪な装飾をつけた帽子がチリチリと揺れる。

 

 リコニスの刀も、そして持ち主であるリコニス自身からもただならぬ殺気が漏れ始める。

 

 「私は今ここで始めても良いけど・・・どうする?」

 「アカンわぁ・・・そないな殺気出されますと、ワイも血が騒いでまう。総統閣下ももうすぐ見られますし、ここは穏便に済ませましょうや・・・」

 「へぇ、ショートがお好み?じゃあ、サクッと殺ろうか・・・」

 「そらええわ。話が早いお方で助かりますわ。ほな・・・」

 

 お互い顔はニコニコしているが、その殺気は最早敵対組織に向けるそれである。

 

 黄金装束の死神と、ピエロ装束の死神。

 

 2つの大幹部同士がこの瞬間、獲物を引き抜こうとした刹那、真上から、ポタリ、と水滴が落ちてリコニスとピエロの間に雫が落ちた。

 

 「まぁまぁお若いの。これ以上、場の気を乱すのはやめましょう」

 

 でっぷり太った汗だくオヤジが、殺気に当てられたのか鼻息荒く上から覗きこんでいる。

 

 彼はこの日本でも汗かきオヤジとして有名な政治家とヘルブラッククロス大幹部の二足の草鞋を履く、タツヤに似た立場にある大幹部だ。

 

 汗臭さと年相応の加齢のかぐわしい臭いが、リコニスとピエロの殺気を沈めていく。

 

 よく見れば眼球は黒く、赤い。彼も怪人人間として怪人の球を体内に吸収させ、ヘルブラッククロスの為に生きる道を選んだ存在なのだろう。

 

 「・・・えらい殺気立ってしもうたわ」

 「はん、退屈だけどしばらくは我慢しておいてあげるわ」

 

 度固化市以外で活躍している大幹部が、怪人化している事には少しだけ疑問があるのだが、恐らく資金面で本部に援助しているのだろう。

 

 それ故にドクターパープルが彼に人を辞めさせる手段を与えたのかも知れない。

 

 リコニスとピエロとオヤジの殺気が終わってすぐ、リコニスはこの大幹部集会において、ドクターパープルの姿が見えない事に気がついた。

 

 「・・・?」

 

 総統に忠誠を誓っている筈の大幹部がここに来ていない。

 

 その事に少しだけ、本当に些細な疑問でしか無いのだが、リコニスに不安を募らせる。

 

 不安と一言で言ってもなにか不都合とかがある訳ではないのだが。

 

 (・・・研究所に居るのか、それとも・・・)

 

 もっともっとつまらないモノを見るような眼で、これから総統が映るであろうモニターを見つめるリコニスが、自分の黄金の刀を浅く握る。

 

 (もしかしたら(・・・・・・)

 

 ここでリコニスはある事に直感が働いてしまった。

 

 (紫ちゃん、何か面白い事してないかな(・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 そんな事を思いついた瞬間、リコニスのワクワクは別のベクトルに動き始めて、今夜の夕飯を楽しみにする子供の様に口角を上げる。

 

 顔立ちの良い少女の顔に、再び三日月が浮かび上がる瞬間だった。

 

 (おー怖・・・流石有名なリコニスはんやで)

 (怖かった・・・でゅふふ・・・)

 

 実はリコニスを知っていたピエロと、オヤジはリコニスの殺気が収まった途端、身体が震えていた。

 

 やはり彼女には誰にも勝てる気がしないのだ。総統にも似た悪意の緊張感を、無意識に他人に向けられる事が出来る大幹部は、ピエロが知る限りでは、本部で動いていたタツヤとリコニスぐらいしか知らない。

 

 (もし戦ってたら、おっそろしい事になるで、ほんまに)

 

 興味の矛先が自分ではなくなった事で、ピエロはリコニスから一つ席を外すのであった。

 

 なお、今回の大幹部集会は総統代理の鏡の怪人が行う事となり、柏木タツヤの処遇は本部で持つ事となり、その会話時間は僅か3分で終了。

 

 メインの会議のテーマは、ヘルブラッククロスの忠義を見せる為に、総統の銅像をどうやって建てるかどうかで、8時間も費やす討論バトルが行われる事になるのであった。

 

 (くっだらな!)

 

 リコニスもピエロもオヤジも100%どうでもよくなってしまい、8時間経つ前に、大幹部集会から席を外す事にするのであった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 「はぁ・・・」

 

 バコン!

 

 薄い鉄のゴミ箱が八つ当たりによって、歪にひしゃげる。

 

 病院の様な廊下で足音を強めに鳴らしながら、リコニスはある場所に向かう。

 

 かつてはドクターミヤコ派の領域であり、今はその席に座ってなにやら面白そうな事を計画しているであろう、紫こと、ドクターパープル派の領域に踏み込んでいるのだ。

 

 ミヤコの造った強欲の怪人による破壊騒動の跡はもう既になくなっており、その代わりに今はリコニスが八つ当たりによって、廊下の様々なモノが破壊されていく。

 

 斬ったり、殴ったり、踏みつけたり、様々だ。それがただの八つ当たりならば、誰かが注意出来たかも知れない。

 

 だが誰も注意する事が出来ないのは、それがただの八つ当たりではなく、完璧に破壊活動なのだから、誰も何も言えない。

 

 同じ組織の大幹部同士であったとしても、その大幹部が与えられた自領を破壊して回るのは、あまり褒められた行動では無い。

 

 「むーらっさっきちゃーん・・・出ておいで〜」

 

 眼を血走らせたリコニスが上機嫌な口調で、ドクターパープルを呼び出してみる。

 

 周りに人の気配はあれども、彼女の前に姿は表さない。

 

 なぜなら今のリコニスに姿を表せば、あっという間に斬り殺される。

 

 斬り殺されたら、後はそのまま。だからリコニスが怖いと、ドクターパープル派の戦闘員達はこんな風に暴れまわるリコニスが来た時は、全力で身を隠してやり過ごせと命じられている。

 

 「オヒョヒョ、リコニスじゃん。どったの?」

 「あれ?さんをつけろよ触手」

 

 暴れまわるリコニスが来た事で対応に出たのは、触手の怪人。

 

 すぐ近くの曲がり角からヌルッと現れるその姿は、ひと目見て気持ち悪いという印象が出てくる。

 

 相変わらずヌラついていて光沢感のある淫靡な触手をぶら下げて、触手の怪人の顔を見上げる。

 

 リコニスより身長が高く、思わず息を飲みそうな大きさと、その奇妙な人間ではない形の生物と鉢合わせになれば、普通の女性だったらすぐに悲鳴をあげる事になるだろう。

 

 「オヒョヒョ、どうもすみません。それでここに何しに?」

 

 ぺこりと頭を下げるも、その態度や声音は明らかに歓迎されていない。

 

 つまんなさそうに鼻を鳴らしながら、リコニスが触手の怪人の脚?と思わしき部位を何度も踏みつける。

 

 高そうな黄金のレガースに触手の粘液が付着する事さえ、お構いなしの踏みつけであり、最早攻撃である。

 

 「んー別に。さっき大幹部集会があってさ、紫ちゃんが出席してなかったから、何してんのかなーって思ってね」

 「ああ、紫なら今は休暇中でっせ」

 「休暇?」

 「はい、休暇です。呼んで字のごとし、休暇」

 

 グリッ・・・。

 

 休暇と言う一言を聴いて踏みつけたまま、今度は脚をあげない。

 

 変わりに触手の怪人の身体を支える脚?をコンクリートに擦りつける。

 

 「どこに行ってるのかな〜?」

 「意対化市と・・・」

 「あんなところで何してるのかな〜?」

 「オヒョヒョ。温泉に行っているらしいですぜ」

 「温泉・・・?」

 

 ぐりりっ・・・。

 

 「オヒョヒョヒョ、そう温泉。裸の美女がたっくさん居るところなのに、あっしらが行けないなんて・・・ま、休暇だからあっしらはこうやってここでお留守番しているんですけどね」

 

 ニマニマと下卑た笑顔を見せながら、触手の怪人がリコニスを見下ろす。

 

 ぐりりりりりっ・・・。

 

 「ふーん、温泉、温泉か・・・」

 「まさか行くなんて言いませんよね?」

 「・・・今は退屈だし?なんか9月6日は、柏木のヤツを取り返す計画が始まるらしいし?私も温泉でゆっくりしたいな〜・・・」

 「だ、ダメダメダメダメ!絶対駄目!!!」

 

 脚?のぐりぐりにはまるで反応を示さないのに、リコニスのこの突飛な発言には狼狽えてしまう触手の怪人に、リコニスは紫が裏で何かをしていると言う事を確信した。

 

 「でもでもリコニスちゃんも女の子だもーん。温泉旅行したいな〜」

 

 うるうるとした少女らしくかつ、わざとらしい上目使いの仕草は普通に可愛い。触手の怪人のリビドーを加速させるところだが、今回は駄目だ。

 

 「いいですかリコニス!」

 「さんをつけろ」

 「今、紫は・・・」

 「紫は・・・?」

 

 触手の怪人が硬唾を飲み込みながら、リコニスの両肩に手の形をしたベタつく触手を乗せる。

 

 説得の様な姿勢で触手の怪人がリコニスの眼をちゃんと見ながら、その宇宙人の様な顔を一気に近づける。

 

 「あの仮面を外しているんだ!」

 「!?」

 

 あの仮面。ヘルブラッククロスの戦闘員が必ず顔につける仮面であり、紫も上級戦闘員として、そして大幹部になった今でもずっと身につけている、あの仮面。

 

 「・・・で?」

 「え?」

 

 あの仮面を外しているからなんだと言うのだ。

 

 リコニスからすれば別に興味の無い事であり、触手の怪人の迫力に驚きはしたが、別にどうでも良かった事に冷静なる。

 

 「じゃあ意対化に行くね。それじゃ」

 

 ある程度の情報を得たリコニスが触手の怪人に背を向けて、今まで破壊して来た道を逆走しようとするも、ベタついた手の触手がそれを許さない。

 

 「行かせるわけないでしょうが。あんなんでもあっしらの上司なんじゃい。温泉での裸の美女の写真もお土産でもらう約束してるんだ!お前が行ったら、全部めちゃくちゃになるだろ!」

 「ふ〜ん?」   

 

 あの紫がただの休暇ごときで温泉旅行に行くとは考えられない。そもそもこの組織自体、ヤりたい時に好きな事している人たちの集まりでしか無く、それを正当化させるのに暴力や、国家を脅かす権力を用いて活動をしているのだ。

 

 怪人や兵器の開発が無い限りは、だいたい暇そうにしている紫が、なんの為に温泉旅行に行ったのか。

 

 しかもこの度固化市の街ではなく、わざわざ隣町の意対化市へ。

 

 更にこの触手の怪人の慌てぶり。きっと何かがある。

 

 リコニスの退屈を一時的に払拭してくれる何かが。

 

 「どうしても行くっていうのなら、あっしを倒してからにSEYよ!」

 「いいよー」

 

 迫真な表情で迫る触手の怪人は、リコニスによって細切れにされてしまい、漢の顔になった触手の怪人は頭部を踏みつけられるのであった。

 

 この時間、僅か30秒・・・!

 

 腐っても狂っても大幹部である事を再認識したところで、触手の怪人はリコニスを止める事が出来ず、悔しさに今夜の枕を濡らす事になるだろう。

 

 「それじゃあ、ベタベタしちゃったし、温泉行こうかな〜」

 

 触手の怪人の亡骸を乗り越えて、彼女は紫が何か面白い事をしようとしているのを嗅ぎつけて、意対化市の温泉へと向かうのであった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 「ええ、ええ・・・ほんならええですわ。では、そっちの指示通りに。ほな」

 

 ヘルブラッククロスの本部の応接室にて、ピエロが何者かと通話をしていた。

 

 誰と通話をしているのかは不明でも、きっと相手はヘルブラッククロスの誰かなのだろう。そしてリコニスと同じ大幹部である彼に指示を出せるのは、よりグレードの高い所に居る者か、総統ぐらいだろう。

 

 しかしながらここまでフランクに話している所を見ていると、どうやら同僚クラスか、若しくは先輩なのか。リコニスにはこのピエロが普通にスマホで会話しているのが、少しおかしく見える。

 

 「でゅふ、ま、まさか意対化市に行くとはね」

 

 そのピエロの後ろでは、大物政治家でもあるオヤジが、汗でスーツを汚しながら応接室のソファに座って待機していた。

 

 大幹部集会も終わり時間を潰していたところで、リコニスに呼び止められたのだ。

 

 「お電話は終わった〜?ピエロちゃん」

 

 リコニスがピエロに声をかけると、ピエロは頷いた。

 

 「ほんまお待たせして悪いなぁ。ほな行きまひょか?」

 「でゅふ、楽しみだな、温泉」

 「そうそう、裏切り者(・・・・)の懸念もあるから、ぜひともお二人に協力してほしいな〜」

 

 明らかにそんな事は、本当の理由ではない事を理解出来る、わざとらしいモノ言いにピエロもオヤジも苦笑い。

 

 とは言えリコニスがどんな苦し紛れの嘘も、言い訳も、こういった状況ではする筈がない。

 

 なぜなら彼女は自分の部隊を持たずして、ヘルブラッククロスの大幹部に上り詰めて、更には他の大幹部をムカつくから殺したり、目下の標的であるヘヴンホワイティネスと何度も衝突している実績もある。

 

 戦いの腕だけで言えば、恐らくピエロよりも上であり、後先考えなくても嘘をつく必要が無い。

 

 自分の楽しい事には正直であり、逆に自分の面白くない事にも正直である。

 

 面白い事には全力で楽しみ、面白く無い事には全力で排除に向かう。

 

 それがこの女である。

 

 「でゅふ、と、ところでお若いの」

 

 汗だくオヤジがリコニスの今の姿を見て、鼻息荒くしている。

 

 初対面の時の黄金の鎧にラバーインナーではなく、サマーカーディガンを着て、膝上ぐらいのスカート。

 

 ピカピカの革靴に、旅行カバンの肩紐を斜めにかければ、胸を分ける少女の美しさを際立たせる。

 

 何より顔には瓶底メガネをかけており、白みがかった髪はショートの三つ編みをしている。

 

 少女、それも高校生の姿をしている事に、オヤジは鼻息がとても荒い。

 

 こうしてみればリコニスもただの女子高生であり、オヤジの実の娘と同じぐらいだ。

 

 「むほーっ、たまりませんなぁ・・・」

 「アカンで、鶴さん」

 

 ピエロがオヤジの事を鶴と呼ぶ。

 

 それはこの汗だくオヤジの政治家の名前が、鶴ヶ峰ゴロウだからそう呼んでいるのだ。

 

 色付きメガネをかけたゴロウが、何度も汗を拭う。

 

 リコニスに欲情するのだけは無理な話だと、ピエロは止める。

 

 なぜならどんな姿になっていようと、彼女に勝てる気がしないのだ。

 

 「中山さんもお好きでしょう?女子高生は・・・はふはふ」

 「ああ、まぁ嫌いっちゅー事はないな。そらぁ興奮するわ」 

    

 興奮しながらゴロウがピエロの名前を出した。

 

 ピエロの名前は中山ピリカ。

 

 ピリカもリコニスの学生服には興奮するし、こういう見た目の女の子を何度も誘拐して来た。

 

 だがいくら興奮してもリコニスだけは無理だ。

 

 うかつに手を出しても一時的に勝てても、それが終われば殺される。

 

 きっと股間とかにあの黄金の刃が突き刺されてしまいそうだ。

 

 「そうぞうしただけでもアカンわ。鳥肌がすごいっちゅうねん」

 「でゅふ・・・」

 「ホラホラ、さっさと行くよ〜」

 

 リコニス、今は畑中リコとして姿を変えた彼女に急かされて、三名の大幹部は意対化へと向かう。

 

 ただのリコニスの好奇心と、先に温泉旅行に向かった紫を追いかける温泉旅行に向かうのであった。

 

 その温泉旅行では、本当の意味でリコニスの退屈を払拭してくれる最大の存在が居るのだが、まだそれに会えるとは知らないで能天気なリコニスちゃんであった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 意対化市、神宮温泉街(じんぐうおんせんがい)

 

 観光名所と呼べる場所が無い事で有名な、ここ意対化市において、神宮財閥が新たな事業として立ち上げた温泉の事業。

 

 元々はただの温泉宿だけだったその場所から、神宮財閥との契約会社や、その二次下請けの企業がこぞって集まる事で、いつしか度固化市以外にも広がる、大きなホテル事業として財閥の力を知らしめる事になった場所だ。

 

 石で舗装された道は硫黄の香りと、まだまだ厳しい残暑の熱気、さらにまだ観光シーズンと言う事もあって、ギンジ達がまともに道を歩けないぐらいには、人、人、人でごった返している。

 

 出店や屋台、ほのかに香る濃いアルコールの微妙な匂い、人々の活気。

 

 「おおぉ・・・!」

 

 見渡す限り温泉の店や、外から見える足湯、お食事処も十分なほどに展開されており、レンは初めて見るこの風景に感動している。

 

 「今こそアレを言うべきだな」

 

 サングラスを人差し指で掛け直して、ギンジは温泉のこの雰囲気と温泉街の素晴らしい光景にテンションが上がっていた。

 

 「テーマパークに来たみたいだぜ、テンションあg「兄貴!温泉たまごってなんですか?!この、ぷるっぷるなの、なんなんですかぁ!」

 「うるせーぞ赤鬼。見ての如し、触って解る通りそれは温泉たまごだよ」

 「ま、まるでミドリコの肌じゃねぇか!!!」

 「私の肌はそこまでぷるぷるではない!」

 

 赤鬼とミドリコが皆の荷物を持ちながらも、宿に向かう休憩がてら温泉たまごを先に食べたいとの事で、ギンジ達は小さな喫茶店に来ていた。

 

 「くふふ、流れる汗、はだける身体、ああ・・・ギンジ君、お風呂が楽しみだね・・・くふ、くふふふ」

 

 ミヤコは相変わらずギンジしか見ていない様で、怖いことしか言わない。

 

 先に何度も断ったが混浴に入るなんて事は絶対に無いし、宿も男の部屋と女の部屋で分けられる。

 

 その事をここに到着するまでに何度も説明したが、どうやらこの天才少女にはまるで耳に入ってきていない様子だった。

 

 「餡蜜でお待ちのお客様〜」

 「あ、はーいこっちです!」

 

 喫茶店の店員が宇治抹茶の餡蜜を5つ持ってきて、それをカエデが受け取っては、それぞれの席に滑らせていく。

 

 「・・・この、緑色のは、何?」

 

 甘さ控えめの特別配合のあんをみつと混ぜて、ナタデココやチェリーを飾り付けて、わずかな金粉を乗せた黒ごまアイスと、もう半分には緑色の抹茶の粉で彩り豊かにキレイな餡蜜を見て、レンはふんすふんすしながら、初めて見るスイーツに心を踊らせる。

 

 「ああ、これは抹茶って言って、これをお湯とか水とかで混ぜたりすると、お茶になるんだよ」

 「お茶・・・?それで、このアンミツが、甘くなるの?」

 「僕は好きな味なんだよねぇ。レンも甘いモノ好きじゃないか。これも気に入ると思うよ」

 「うん・・・あ、甘いモノだけじゃなくて、ケイタも好きだよ」

 

 見せつけんばかりの甘い恋愛をしているレンとケイタ。

 

 こんなモノを見せられたら、ギンジとミドリコは尊さで溶けてしまう。

 

 「ほらほら、そういうのは後でお部屋でやんなさいな。それより、いいから食べてごらん」

 

 カエデが手を叩きながら、レンとケイタを現実に引き戻し、二人はまだ何か喋りながらもとりあえず餡蜜を口に運ぶ。

 

 「お、美味しい」

 

 ケイタは食べ慣れているのか、抹茶の味はなかなかに気に入った様だ。

 

 「・・・これ、これは・・・」

 

 スプーンを静かに置いて、レンは口元を抑えながら小刻みに震える。

 

 「だ、駄目だった?」

 「吐くなよ」

 

 ケイタが心配する傍らでギンジはレンに辛辣な言葉を贈る。

 

 「お、美味しい・・・」

 

 やはりレンは眼を輝かせて餡蜜の宇治抹茶を気に入った様子で、気がついたらもう手元の分は無くなっていた。

 

 「はやっ!もう食べたの?」

 「カエデ、これ美味しい。クリームゼンザイも食べたい」

  

 餡蜜を一瞬で平らげて、次はクリームぜんざいまで食べようとしているのだから、レンの甘いモノへの欲望はとてつもなく大きい。

 

 「くふふ、ギンジ君、食べさせてあげるよ、くふ、くふふ」

 「あんたは自分で食べなさいよ。それよりギンジは餡蜜食べないの?」

 

 ミヤコのお決まりの言葉にはカエデが妨害をする。

 

 「あ、ああ、餡蜜か・・・」

 「嫌い?」

 「いや、そういう訳じゃないんだ。食べるよ」

 

 今一瞬ぼーっとしてしまった。

 

 向かいの席に座るカエデが綺麗で、少しだけ見る事に集中してしまったのだ。

 

 そして隣に座るミヤコにも可愛さが今まで以上に、大きくなった様に見えて。

 

 「・・・お前らと一緒に、ここに来れて良かったよ」

 

 カエデとミヤコだけじゃない。

 

 レンもミドリコもケイタも赤鬼も、皆でここに来れて、誰一人欠ける事無く、今こうして平和な一日を堪能出来て良かった。

 

 「ギンジ、食べないなら、私がもらう」

 「駄目だね!俺が食べるんだい!」

 「変なギンジね」

 「くふふ、そうだね」

 

 餡蜜を黙々と食べながら、ギンジは口の中の甘さと、〈大好きな人達〉とのこの日常を心から楽しむ。

 

 ふと、カエデの座る後ろのガラス窓に、白い髪の少女が通ったのを確認する。

 

 瓶底眼鏡をかけた少女は、ただの人間にしか見えない。

 

 それはどこにでもある学生の様な姿で、でもどこか悪意を感じる様な具体的には言い表せない様な威圧感を持っていて・・・。

 

 ギンジがこの世界で知る中で、一番の狂人が頭の中に浮かび上がってしまった。

 

 何故か?解らない。

 

 ひと目見た瞬間で、そうだと感じてしまったのだ。

 

 「・・・?」

 「あら、どうかしたギンジ?」

 「ぎ、ギンジ君!だめだよ、カエデに見惚れないで!」

 

 カエデとミヤコが再び言い争いを始めるのだが、それは最早ギンジの耳には届いては居ない。

 

 それよりも何か嫌な雰囲気だけが、ギンジの心臓の鼓動を早める。

 

 「悪い、すぐ戻る!」

 

 ミヤコを飛び越えて、ギンジは喫茶店の主通路に飛び出して、急いで店を出る。

 

 「ちょっとギンジ!?」

 

 カエデが席を立ちあがりギンジを追いかけるが、お店を出てすぐには喫茶店に入ろうとする他のお客さんによって道を塞がれてしまい、ギンジはお店の中から背中すら見えない様な状況になってしまった。

 

 「おいおい嘘だろ・・・」

 

 ギンジがあの少女を見て、今できれば一番会いたくない存在が、ここに来ている。

 

 鉢合わせになればその先で待っているのは、確実に戦闘だ。

 

 首を突っ込まなければそれでも良いが、ここにヘルブラッククロスが来ているならばきっとカエデ達は止めに入るに違いない。

 

 「どこだ・・・?」

 

 喫茶店から少し離れた植物のある場所では、ギンジが周りを見渡してみるが、そこにはただここに観光しに来ているお客さんぐらいしか見えない。

 

 「あ〜やっぱりギンジちゃんだったんだ〜?」

 「っ!?」

 

 人混みの中、先に進んでいたはずなのに、その少女はギンジの背後を取っていた。

 

 甘くて人を小馬鹿にした様な喋り方、そしてギンジの事をちゃん付けで呼ぶのは、もう確実に彼女しか居ない。

 

 振り返ったギンジの目の前に居るのは、いつもと姿は違うが、ゲームでも何度も見たリコニスの学生服の姿。

 

 畑中リコと呼ばれる偽名を使った、夜を偲ぶ仮の姿。

 

 「さっきの喫茶店でカエデちゃんやミヤコといちゃいちゃしちゃってさ〜・・・ちょっとムカムカしちゃった」

 「リコニス・・・」

 

 どうしてここに彼女が居るのか。

 

 まさかミヤコの殺害を完璧にしようと、単身乗り込んできたのか。

 

 いずれにせよ警戒態勢に立っているギンジに、リコは自分のミニスカートをたくし上げた。

 

 「!?」

 

 あまりにも予想外な行動に、ギンジは顔を白黒させるが、リコはギンジの反応を見てせせら笑う。

 

 「あっははは、何その反応。もっとヘヴンホワイティネスの奴らと、気持ちいい事してるのかと思った」

 「なっばっ、してねぇよ!っていうかお前、なんでここに来てるんだ!」

 

 そういう事もしてみたい気持ちもあるが、強引にしたならばそれはヘルブラッククロスと同じ事をしてしまう事になる。

 

 そもそもの話題に戻してギンジはリコを睨む。

 

 今ここで対峙している以上、戦うならカエデ達には被害を及ばせる事だけはしたくない。

 

 「今ヘヴンホワイティネスは休暇を取ってるんでな、相手するなら俺が受けてやるよ」

 

 また休暇。

 

 その言葉を聴くだけで自由に休もうとしている皆が、途端に羨ましく思えてくる。

   

 「うーん・・・でもギンジちゃんと戦うなら、こんなトコじゃなくて、もっとムードのある場所がいいなぁ。例えばさ、最終決戦とかさ」

 「さ、最終決戦?」

 

 また何を言い出すのかと思う。

 

 「ま、実は私も今は休暇中でね。今大幹部達はシーズンオフに入ってるのよ」

 「本当かよ・・・」

 「本当だよ。ギンジちゃんもここに居るって事は、アレでしょ、ヘヴンホワイティネス全員でヌルヌルお風呂に入ろうとしてるんでしょ」

 「そんなお風呂あるのか!?」

 「知らないけど・・・」

 「なんなんだお前!」

 

 ヌルヌルお風呂と言う、妄想にはありがたいお風呂があるのだったら一度は入ってみたい。

 

 もちろん入るのはギンジ一人でだが。

 

 「ヌルヌル具合を確かめたいなら、私が入ってあげようか?一緒に?」

 「いやぁーお前ヌルヌルしたの嫌いだろ?たとえあっても入らん」

 

 リコニスの事も転生前に26周したゲームヘヴンホワイティネスの方で、設定資料集を細かく読んだ。

 

 リコニスは美容液であってもヌルヌルするモノは苦手だ。

 

 納豆とかオクラも嫌いだ。

 

 優柔不断な男も嫌いだった。

 

 「・・・ギンジちゃん、なんでそんな事知ってるの?」

 「お前の事はなんでも知ってるからだよ」

 「え・・・」

 

 リコニスのいつもの臨戦態勢が無いのであれば、油断は出来ないが今ここで戦闘する事も無いだろうと、ギンジはにこやかにリコニスに言い放つ。

 

 「俺たちの邪魔だけはするなよ。俺達も邪魔しないように気をつけるからさ」

 

 それだけ言い残して、ギンジはリコニスに背を見せる。

 

 「・・・」

 

 何故だろうか。

 

 いつもならすぐに殺したいと思えるのに、ギンジの背中がやけに優しく見えた。

 

 それと同時に胸が大きく動いた気がした。

 

 これは・・・待ち遠しいのに、全然会える事の無い寂しい日々に近い。

 

 いつもギンジの事を考える時と、同じ感覚に近いのにどうしてかそこに殺意が沸かない。

 

 殺し合いをしたいと本気で思えない。

 

 (・・・紫ちゃんだけ探して、さっさと帰ろうかな)

 

 今の自分の顔を見ることは出来ないが、きっとニヤニヤしているに違いない。

 

 なんだかとても嬉しいから。

 

 (あ、顔熱い・・・)

 

 自分の事を全部知っている人が居るなんて、なんて嬉しい事なのだろうか。

 

 しかもそれが自分の憂さ晴らしや、遊び感覚の戦闘で退屈を払拭させてくれていて、しかも何度も生き延びている男にそう言われたら、リコニスは全身が熱くなる気がした。

 

 「今回は見逃してあげるね、ギンジちゃん・・・」

 

 温泉旅行はまだ始まったばかり・・・。

 

 

 

 

続く

 

 




お疲れ様です。

温泉って良いよね。

9月頭にアトラクションが、友人の結婚式で箱根に向かったのですが、ついでに温泉楽しんできました。そのため温泉にまつわるお話をかきたいなーとも思ってたのでなんと言うかベストタイミングでした。

キャラネタ書きます

佐久間ギンジ
仲間達との素敵な一日を満喫しに戻ったらカエデにしこたま怒られた。

神宮カエデ
もう少しミヤコみたいにオープンな積極性が欲しい
次回、浴衣がはだけます

鈴村ミヤコ
もう少しカエデみたいなおしとやかさが欲しい
次回、浴衣がはだけます

宮寺レン
和の甘露に舌鼓を打つ
次回、浴衣がはだけません

甘白ミドリコ
自分の肌がぷるぷると言われて嬉しかった
否定したのにまんざらでもない
次回、赤鬼によって浴衣が取られます

赤鬼
「俺っちに言わせれば、温泉たまごのぷるぷるとミドリコのぷるぷる感は同じだね。抱きしめてぇ」

角倉ケイタ
レンとイチャイチャしていると、ギンジとミドリコに毒。
次回、レンによって浴衣がはだけます

リコニス
ギンジに自分の全てを知っていてもらえるのは、とても嬉しかった。
熱くなったのはギンジに欲情している事に彼女は気づいていない。

中山ピリカ
ピエロの姿をした大幹部。リコニスと温泉街へ来たが今は別行動
表の姿はヘルブラッキーというサーカス団体を運営している。
生まれも育ちも度固化市なのに、大阪で勤務している関係かエセっぽい喋り方になった


鶴ヶ峰ゴロウ
南意対化市で活躍する大物政治家。資金面による援助をヘルブラッククロスのドクターパープルにしており、怪人化させてもらった模様。
既婚者でもあり娘も居る。しかしヘルブラッククロスの理念には深く共感しており、女性に暴力を振るう事も厭わない。
汗だくでくっせぇオヤジ

・・・

さて次回は皆の浴衣がはだけます
はだけて良いのか!?って思うけど、はだけます。肩ぐらいまでだよ、健全だよ。
番外編だけど、劇場版感覚(???)でお楽しみいただければと思います。でもバトルは無いけどね。

それではまた次回!!!
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