正義のヒーローヘヴンホワイティネス   作:アトラクション

107 / 128
こんにちは、アトラクションです

今回のお話はギンジ君が活躍するぞーー!我らの主人公の活躍だー!わっしょいわっしょいそれそれ!

温泉まったく関係なくなってきたけど、いいんじゃ(オイ)

それではどうぞ!


102・王の騎士

 9月2日の朝、リコニスはいつもの様に上機嫌に眼が覚める。

 

 せっかくの温泉旅行に来ては、色々とお楽しみな事もあるのは間違いない。

 

 気持ちよく起きれたのであれば、どうせならば温泉に入って気持ちよい朝を迎えたい。

 

 リコニスが泊まっている旅館もまぁまぁ趣のあるボロい旅館。

 

 しかし温泉の質の良さは、リコニスが入った事のある温泉の中でも過去一番の良さであり、疲れが吹き飛ぶのは間違いない。

 

 「ま、いっか」

 

 色々考える事もあるが、昨日みたくゴロウがいやらしい目線をしてきた事に嫌気がさすが、それだけ自分の身体に魅力があるのだろう。

 

 「気持ちの良い温泉に入ったら帰ろっかな。あいつらも連れて帰らないと、色々うるさそうだし」

 

 リコニスが旅館の浴衣の紐を緩めながら、そんな事を言うと、一人で部屋から出ていく。

 

 手に持っているのは入浴セットと、身支度を揃える為の小道具、タオル等。

 

 旅館の脱衣所まで何事もなく温泉に向かい、脱衣所で入浴の準備を整えながら、リコニスは大空を一望出来る温泉へと足を入れる。

 

 濡れた石床に足を乗せて、ひたりと生ぬるい床の質感すらも楽しむ。

 

 朝も早いためか、今この温泉にはリコニス以外誰も居ない。

 

 貸し切り状態と言っても良いこの状況で、リコニスはシャワーで身体を洗うと、すぐに切り取られた石の浴場に足からゆっくり入る。

 

 「ん〜っ」

 

 熱いお湯に身体が入る。それだけでも気持ち良い朝の温泉を堪能しつつ、お尻を浴槽底につけた時に一気に溜めた息を吐き出す。

 

 「ふああ〜っ」

 

 のどかな表情をしながら、この温泉を楽しむ。

 

 きっと今の緩んだ顔はヘルブラッククロスの誰も見た事の無い、気の抜けた顔をしているに違いない。

 

 裸なのだから、それぐらい許されるだろうと、自分に言い聞かせられる程には、緩んだ表情をしている。

 

 「はぁ・・・今、何してるかな」

 

 最近のリコニスの頭の中は、ふと気がつけばギンジの事しか考えていない。

 

 短めの髪が水分を含んで、肩に毛先が張り付いていく。

 

 そのこそばゆい感触を指で払いながら、リコニスはギンジの事を考える。

 

 濡れた髪を指でくるくる巻きながら、髪の束から指が抜けると、今時分の髪をギンジが触っていたらと、アリえない妄想を頭の中で働かせる。

 

 (・・・無い無い)

 

 そんな事は現実になる事なんて無いのだ。

 

 だから妄想なのだが、今この温泉にギンジと一緒に入浴している事まで妄想する。

 

 きっとあの強い身体に抱きしめられながら、お互いに身体を密着させたまま・・・。

 

 「くっ・・・」

 

 そんな妄想をしている自分に気がついて、途中で口角があがる。

 

 一瞬爆笑しそうにもなったが、そんな事、この先絶対にありえないのだ。

 

 ありえない事、と妄想を切り捨てても、再びギンジの事で頭がいっぱいになる。

 

 最近はこういう妄想ばかりだ。今までは殺し合いを妄想していたのに。

 

 どうしてだ。

 

 なんでだ。

 

 いつもいつもギンジの事ばかり。

 

 「・・・辛い」

 

 身体を抱き寄せる様にして、自分のこの性分に嫌気がさしてくる。

 

 今、この瞬間。この瞬間において、ギンジがヘルブラッククロスを裏切っていなければ、今頃自分とギンジはどうなっていたのかと、何度も考えてしまう。

 

 こう考えてしまうのは、リコニスがギンジをひと目見た時、ミヤコの大幹部会においてのフェーズ2の怪人お披露目をした時の、あの不思議と人間でありながら怪人でもあるギンジから、なんとも言えない魅力を感じたのだからかも知れない。

 

 そして戦う事になって、恐ろしい何かを秘めていて、それでいて女である自分に優しい。

 

 他の怪人とは違い、自分で考えて動いて、自ら戦況をひっくり返して、周りを味方につけて更には他者を撃破して、自らの力の糧とする、誰も見たことが無い、誰もなし得たことの無い、誰よりも怪人らしい能力をその身に宿す怪人こそが・・・。

 

 「ギンジちゃん、か・・・」

 

 温泉の流れる音がリコニスの声をかき消す。

 

 ぼんやりと天井を眺めて、その音と熱いお湯によってリコニスの身体を癒やしながら、全てを嫌な気持ちにさせてくる。

 

 もう上がろう。上がって、自分を保つ為にギンジちゃんをからかいに行こう。

 

 そう思ってお湯から身体を上げた途端、どこかから爆発の音が聞こえた。

 

 温泉の大きな窓さえ揺るがす空気の振動が、リコニスを正気に戻す。

 

 現実離れした、リコニスにとっての現実の音が、リコニスをもう一度温泉に入らせる。

 

 「・・・あいつら、襲撃でも開始したのかしら?」

 

 お湯をひとすくい、手に持って肩にかける。

 

 身体の芯にまで浸透しそうなお湯の効能が、なんとなく身体に染み渡っていく気がして、リコニスは再びギンジの事を思い出す。

 

 この爆発・・・ヘルブラッククロスの襲撃は、恐らくあの二人の大幹部が起こした大きな事だろう。

 

 どちらにせよ、あんな奴らにヘヴンホワイティネスが敗ける事は無いだろうと、リコニスは不穏な空気となった温泉の窓を見やる。

 

 「!」

 

 リコニスはふと視線に入ったソレに、驚いて目配せしていた。

 

 露天風呂が見えるその岩の場所には、紫色の戦闘員の制服を着た人物が、リコニスと眼を合わせたからだ。 

 

 「なんで、ここに・・・」

 

 その答えは考えるよりも早く、紫色の人物が両腕に仕込んだ機関銃を窓越しにリコニスに向けられ、そしいて予想した一秒後にはやはり無数の銃弾が発射された。

 

 窓をわり、貫通し、リコニスに向けられた弾丸掃射。

 

 だがこんなコケ脅しがリコニスに通用する事はなく、彼女はお湯の中に身をかがめて事なきを得ている。

 

 割れた窓の内側からは湯気が大きく漏れ出して、立ち上る大きな煙の様になっていく。

 

 「やぁリコニス。不意打ちするには少し、遅かったかな」

 

 リコニスがお湯からその全身を出すと、紫を悪魔の様な笑みのまま見上げる。

 

 「私の裸でも拝みに来たの?紫ちゃん、ホントに殺すよ?」

 

 濡れた石の床すら気にせずに歩み寄ろうとする紫が、リコニスに指を向けてもう一度機関銃を発射する。

 

 今度はリコニスに当たらず、途中で撃つ範囲を変えてリコニスの左右を撃つ事で逃げ場をなくしてやる。

 

 ここに紫が来るとは予想外だったが、まさか無防備な裸の時に来るとは。

 

 「動くな」

 「お前をここで捉える」

 「大人しく土下座しろ」

 

 温泉の中にはいつもの黒い戦闘服に身を包んだ戦闘員たちが、おおげさにも見える、大きなタンクを背負って、ランチャーの形状をした武器をリコニスに向けて取り囲んでいる。

 

 「土下座ぁ?誰に言ってるの?」

 

 リコニスの身体には湯気がまとわりついているが、それが取れるのも時間の問題だろう。

 

 「そこに居る私の部下は君の事がお気に入りでね。君の嫌いなモノも用意させてもらったし、邪魔をしないで貰えると嬉しいのだよ」

 「じゃあ、これからする事に首を突っ込まないでって言えば?こんな事しないと女も抱けないの?」

 「く、ふふ・・・ごもっともだ。だけどまぁ、こういうのもたまには良いだろう?」

 

 仮面の奥からくぐもった笑い声は、リコニスの癇癪を逆撫でする気分だ。

 

 「ミヤコの腰巾着の癖に、言うようになったわね、紫ちゃん。いいわ、あんたら全員殺してあげ」

 

 べぢゃ。

 

 粘着質な水の音がリコニスの背中に張り付いた。

 

 とろりとした粘度の高い液体が、重みと共にリコニスの白い肌を別の意味で濡らしていく。

 

 「喜びたまえ。女王ナメクジの怪人の媚毒を混ぜた、新たな兵器だ。そしてこの機関銃は銃の怪人のモノだよ。さらに、今そこに居る私の部下には、剣士の怪人の盾と同じ素材で昇華させた新パワードスーツだ。部下達も君が可愛くなるまでヌルヌルにするつもりらしい。ま、私からの入浴剤のプレゼントだと思って、気持ちよくなってくれたまえ」

 

 一息にそれを告げると、何よりも恐ろしい獣の様に眼を血走らせるリコニスだが、よそ見をした事で左右から粘液ランチャーをモロに命中し、リコニスは足を滑らせて硬いタイルに転ぶ。

 

 転んだリコニスめがけて更に粘液ランチャーが浴びせかけられ、リコニスは全身に走るヌルヌルと嫌悪感と同時に、怒りでその顔を赤くしていく。

 

 「それでは、存分にハッスルしてくれたまえ」

 

 紫の残した言葉は部下に向けてか、それともリコニスに向けてか。

 

 意味はわからず共、野蛮な男達の手が、リコニスに向けて伸びていく。

 

 下卑た笑い声が温泉に反響しながら・・・。

 

 「紫ちゃん・・・解ったよ」

 

 腕を抑えられて、足を開かれて、リコニスは覚悟を決める。

 

 「狂っちゃうね・・・」

 

 顔に伸びたランチャーの銃口を見て、リコニスの顔は死神と悪魔、2つを混ぜた凶悪な顔となった事に、紫はおろか、部下達もそれには気づかなかった。

 

 そうなった事に気づかない事は、ある意味では幸せな事かも知れない。

 

 なぜなら彼女は・・・。

 

 「では、後は頼むぞ」

 

 紫がそれを告げると、露天風呂の奥の林道へと姿を消した。

 

 その数秒後、温泉は狂った少女によって、人肉と死体と血液で染め上げられた、地獄絵図が作り上げられ、ヌルヌルした身体から黒い戦闘員の制服を引き剥がして、リコニスは軽くシャワーを浴び直した。

 

 30人程いた戦闘員は誰一人として命拾いした者は居らず、首を曲げられたり、ランチャーのタンクに顔を埋められたり、温泉に沈められたりしている。

 

 この一瞬で大幹部としての強さを今一度知らしめたリコニスは、一見冷静に見えるが本気で怒り狂った感情を双眸に宿して、装備を整える。

 

 脱衣所に戻って着替えるのは、いつもの仮の姿の為のモノではなく、本当の意味でリコニスとなるあの装備である。

 

 黄金のショルダー、黄金のレガース、黄金のアーム。

 

 身体の腹部と背中が大きく開いたラバーインナーを装備して、最後に黄金の刀を腰に装着する。

 

 まだヌルヌルも残り、シャワーの水分も残っているが、最早リコニスは気にしていない。

 

 「殺す。殺して、全部何もかも壊してやる・・・」

 

 殺意のこもった言葉を吐き出しながら、脱衣所を出ると、受付の番台さんは殺されており、宿を抜けた先のエントランスでも女将さんは殺害されている。

 

 人気の残っていないこのボロ旅館は、もうリコニスしか残っていないのだろう。

 

 文字通りこの旅館は心無き悪の組織によって、壊されたのだ。

 

 還付無きまでに。

 

 「・・・ちょっとムカつくを通り越して・・・」

 

 そこまで言ったのにリコニスは、ソレ以上喋る事は無かった。

 

 「ぶっ殺す・・・ッ!」

 

 場違いな格好のまま、リコニスは紫が向かったであろう、この旅館の裏、木々が生い茂る林道へと飛び出して向かうのであった。

 

 火照った身体を、日に当てながら、ヒートアップしながら・・・。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 獣道とも呼ぶのが正しいのか、草が無数に生えては舗装すらされていない自然の道を、ギンジは踏みつける様にして走り続ける。

 

 足場の悪さをモノともしないバランス、力強さは怪人ゆえか。

 

 今にして思えばこの様に悪路を気にせずに突き進む事が出来るのは、自分が怪人なのだから、当たり前なのだろうと、ギンジはミヤコに感謝の念を送る。

 

 黒い衝撃は何度もギンジに向かって飛んできている。

 

 威力自体は言うほど高くなくとも、当たれば身体が真っ二つにされるかも知れない、その程度。

 

 だとしてもギンジには赤鬼から受け継いだ金棒が残っている。

 

 これはいかなる攻撃をも防ぎ、破壊する。

 

 まだギンジには出来ていないが、空気を打ち出す能力も秘められている。

 

 「どこに居るんだ?」

 

 9月の蒸し暑さもさる事ながら、この林道の悪路に加えて黒い衝撃による妨害。

 

 敵はこの林道のどこかに居て、そしてギンジの事を見ている。

 

 「出てこいよ・・・!」

 

 苛立ちも混ぜた言葉を吐き捨て、ギンジは右手に炎を灯す。

 

 まだ明るいこの時間帯に周り照らしているのでは無く、次の黒い衝撃に対して反撃を行う為の準備行動だ。

 

 「どこから来るんだー?」

 

 少し煽る意味合いも込めて気の抜けた声で、周囲に聞こえる様にギンジが声を出す。

 

 耳を澄ませて、音が聞こえたら反応を示して攻撃する。

 

 そのつもりで居たが、黒い衝撃はギンジの右手に向かって真上から飛んできた。

 

 「なっ!?」

 

 当たる直前で右手を引くが、黒い衝撃は地面に命中して、地面をえぐらせる。

 

 「なんだよ、どこに居ても攻撃してくるんか・・・」

 

 姿の見えない、反応も遅れがちになる、謎の攻撃。

 

 右手を払った事で、太い木に炎が燃え移ってしまった。

 

 その事に焦りを見せたギンジの横顔に、再び黒い衝撃が飛んできた。

 

 一部分が燃えた林道の木に黒い衝撃が当たり、炎もろとも巨木を斬り倒した。

 

 倒した事でギンジには何かの法則が見えてきた。

 

 この黒い衝撃が飛んでくる条件を、ギンジは冷静に思い出していく。

 

 (先ずは・・・)

 

 ギンジが空を飛んでいた。

 

 日差しが強く当たるが、ミヤコと一緒に居た。

 

 神宮の旅館から突撃を開始して、林道の真上を抜けようとした瞬間だった。

 

 (そして次は・・・)

 

 降りながらも黒い衝撃が飛んできていた。

 

 最初はミヤコを狙っているのかと思ったが、ギンジにも向かってきている以上、個人を特定した攻撃はしていないと言う事。

 

 また黒い衝撃はギンジとは違う方向にも飛んでいる事が、ちらほら見える。

 

 (うーむ、わからん)

 

 再び飛んできた黒い衝撃をかがんで避けると、ギンジは近くの木の幹に身を隠す。

 

 (動きに反応しているのか?)

 

 少し考えたが、それは違うとすぐに考えが遮断される。

 

 動きに反応しているのだとしたら、もっと積極的に自分に攻撃が向かってきても良い筈。

 

 ギンジに攻撃が飛んでいない、明らかな不発となっている黒い衝撃も何度か見ている。

 

 しかしながら敵はギンジに向かって攻撃をしてきている。

 

 考えるとしたら、敵はギンジの居場所は性格には解っていない。

 

 付け加えるなら、遠くから見えているぐらいで、それは豆つぶぐらいの大きさなのかも知れない。

 

 (えーとそれから・・・)

 

 今さっきの黒い衝撃を思い出す。

 

 カウンター狙いで出した右手の炎。これを構えた時、今までは正面からだった黒い衝撃が頭上から飛んできた。

 

 そしてその直後は燃え移った木に、黒い衝撃が当たった。

 

 (・・・)

 

 頭の中で色々考えるが、あんまりうまい答えが出てこない。

 

 足元に転がっている木の枝、それを4、5本まとめて束にして炎を灯す。

 

 軽い松明ぐらいのモノで、ギンジは安全なこの場所で炎をゆらゆらと揺らしてみる。

 

 「来ねぇな」

 

 黒い衝撃が飛んでこないのだ。

 

 きっとこのまま身体を外に出したら、黒い衝撃が襲ってくるのかも知れない。

 

 金棒を片手に、また燃える枝も片手に、ギンジは木の幹から身体を出した。次の攻撃で何か法則的なモノを思い出せるかも知れないからだ。

 

 勇気を常に出しているつもりだが、恐れを知らない身体になったな、とギンジは今この一瞬で思いつき、苦笑する。

 

 「オラ、来いよ、来てみろ!」

 

 どこが正面でどこが背後になるか分からない林道で、ギンジは炎を振り回す。

 

 否、林道では無くここは樹海というのが正しい。先程と比べて、林ではなく、木々が旅人を迷わせる自然のダンジョンとなっている。

 

 「やっぱり来たな!」

 

 ギンジの視界にあの黒い衝撃が飛んできた。

 

 姿を見せてくるのを待っていたと言わんばかりに、黒い衝撃はギンジの手元の燃える枝にめがけて飛んできた。

 

 「そう来ると・・・」

 

 黒い衝撃に向かって枝を投げ飛ばし、金棒をくるりと手元で回す。

 

 雷を帯びた金棒を頭上に振り上げて、コウモリの羽で高く飛翔する。

 

 電撃の熱を帯びた金棒を背に隠しながら、巨木を蹴って思い切り黒い衝撃の大元に向かってギンジがついに敵の姿を捉えた。

 

 

 「・・・思ったよ!」

 

 木々の枯れ葉や枝、幹に姿を隠していた白金の鎧に身を包んだ謎の存在が、ついにギンジの視界に入った事で、金棒を雷と同じ速度で振り下ろす。

 

 「──!」

 「アァ!?」

 

 振り下ろされた金棒は、幅の広い漆黒の剣の面によって防がれた。

 

 黒い衝撃が剣にまとわりつき、ギンジを跳ね返すのと同時に、高威力の黒い衝撃でギンジを叩き上げた。

 

 「ぐっ・・・おっ」

 

 空高く打ち上げられたが、金棒を上に振り上げて空気抵抗を増やしながら、真下に居るあの謎の存在に向かって重力の魔法を降らせる。

 

 「15倍!グラビトン!」

 

 金棒ごと重力の力場を発生させて白金の存在に向かって、落ちていく。

 

 自分が隕石になった様な気分で、漆黒の剣と共に金棒がぶつかった。

 

 「このクソ!」

 

 ギンジの体重×15倍の重さによる急降下に金棒の一撃も加えているのに、この漆黒の剣はビクともしていない。

 

 「楽しんでいるかね、ギンジさん」

 「なんだ!?」

 

 漆黒の剣から飛び退いて、ギンジが声のした方へと振り向いた。

 

 勢いのあるその振り向きは、その声の主でも少し驚く程だが、そんな事はすぐに忘れ去られていく。

 

 「やぁ、久しぶりだね。ドクターミヤコが柏木の奴に連れ攫われて以来、かね?」

 「テメェ、紫・・・」

 

 この林道を超えた先の樹海の一部に現れたのは、ドクターパープル。

 

 かつての味方であり、今は主によって敵であれと命令されている忠実なミヤコの下僕(しもべ)だった男だ。

 

 ある意味では今もミヤコの下僕なのかも知れないが。

 

 「どうしてここに居るんだ?」

 「それはこっちの台詞だよ。しかし、敵同士がここで出会ったんだ。やる事は解っているだろう?ヘヴンホワイティネス」

 「──!」

 

 紫が顎を上げた途端に、ギンジの背後に立っていた白金の鎧の存在が、息を吐いて漆黒の剣を振り下ろした。

 

 強烈な衝撃と斬烈が土を叩き割り、大きく土煙を上げていく。

 

 白金の兜の奥底からは、紅の眼光が輝き、頭の動きに合わせて光の残像が土煙の奥から現れる。

 

 しかしドクターパープルの正面に振り下ろされた剣と、煙の噴出点からギンジの気配もまだ残っている事が解る。

 

 敵はまだ死んでいない。

 

 「ああ、そうだな、紫・・・いや、ドクターパープル。ヘルブラッククロスの大幹部がここでお目見えとは、俺も運が良いぜ」

 

 金棒を振り回して土煙を払い、ギンジはサングラスのズレを直す。

 

 「お前とも決着つけないとな。ミヤコには悪いが、ここで倒させて貰うぜ」

 「ふふ、やれるかな?そこに居る怪人は、私の現状の最高傑作だ。なにせ君たちの本拠地だった所からドクターミヤコの研究機材、資料、兵器の制作ベースを回収して造った、ドクターミヤコの粋に、私の成果を詰め込んだ怪人だ!」

 

 白金の鎧、王の様な威圧、そして強さとは、力とは何かを知らしめるには十分な漆黒の剣。

 

 「聴いて驚け!この怪人こそ、我がヘルブラッククロスの怪人!」

 

 ドクターパープルが小さなマントを翻して、仰々しいカッコつけを見せながらギンジに教え伝える。

 

 「我らが地獄の王を守る怪人!」

 

 ドクターパープルの言葉に答える様にして、白金の鎧が更に輝きを増していく。

 

 「鎧の怪人・王騎士型だ!」

 「また粗大ゴミでも造ったのか・・・?」

 「君の基準ならば、ゴミであっても、ようやくティシュぐらいにはなったつもりだよ。実力も今まで私が組み立てた旧世代(インスタント)とは違う。味わえ、力の本懐を!」

 「お前を潰せば、終わりだろうが!」

 

 長々と話しているドクターパープルに、ギンジが金棒を向けるが、ギンジのヒートアップした身体に、漆黒の剣が横薙ぎに振出される。

 

 来ると解っている攻撃には、イメージで対応していたギンジはすぐにそれを飛んで避けるが、刃の方向を真上、つまりギンジに向けて発射される黒い衝撃。

 

 「知能も戦闘能力も第2世代の怪人としては十分な成果を出している。お前を倒して、私は今度こそ師を超える、超えてみせる!」

 

 黒い衝撃に飲まれたギンジは内部を引き裂いて、ドクターパープルの言葉に笑って見せる。

 

 笑いながら地面に着地すると、黒い炎と紫の電撃をその身に纏わせる。

 

 「いいぜ、最高傑作同士、どっちが怪人生態系の頂点に立つか決めようぜ!」

 

 黒い衝撃の威力は間違いなく、強烈だった。

 

 今まで戦ってきた怪人や敵と比べても、そこそこギンジに通用する。

 

 ドクターパープルは敵として、ギンジは正義のヒーローとして、お互いに戦う道を選んだのだ。

 

 ならば、ギンジもドクターパープルの全力に応えなければなるまい。

 

 ドクターミヤコの最高傑作として・・・!

 

 「強い、やべぇ、悪の組織の最高傑作が相手だ。最初から全力で行くぜ!」

 

 ギンジの引き出した力はフェーズ3。

 

 全身の肌の色を灰色に変えて、瞳の色も怪人としての色の濃さを増した、現状のギンジが出せる最大の強化技。

 

 そんなギンジが全身から吹き出す黒い炎の渦からドクターパープルを守る様に立ち塞がる、王の騎士。

 

 「・・・早く倒してみろ。私は街に戻らせてもらう。王の騎士、遠慮も加減も躊躇も要らない。こいつを倒せ」

 「──!!!」

 

 兜から紅の光を強めて、ギンジを睨む様にした前かがみの姿勢から、漆黒の剣を構えた。

 

 荒々しい呼吸を吐いて、王の騎士もギンジも、眼の前の敵に集中する事となった。

 

 「アリえないとは思うが、見事傑作を倒せれば、組織の今後の事を教えてあげよう。ま、無理だと思うがね」

 「言ってろ。ミヤコの造った最強の怪人だぜ俺は。お前こそ、後でオモチャが壊れたって泣くなよ」

 「ふ、検討を祈るよ・・・」

 

 ドクターパープルが仮面を抑えながら後ろに手を降ると、その場から離れていく。

 

 その後ろ姿はかつての大幹部であったミヤコの背中と同じぐらいに狂気に包まれていて、背中で語ると言うわけではないが、奈落の様な恐ろしさを秘めていた。

 

 そんなドクターパープルに懐かしさを覚えつつも、ギンジは黒く禍々しい炎を漆黒の剣にぶつけて行った。

 

 着弾した黒い炎が白金の鎧を侵食していく様に燃え広がっていき、その熱気の大きさが王の騎士の全身を黒く包んでいく。

 

 続けてギンジが王の騎士の懐に潜り込んで、浮いた顎を的確に狙った紫電一閃蹴が、突き上げられた。

 

 「鎧って言っても中身入ってんだろ!?」

 「─!」

 

 その一撃は確かにクリーンヒットになっている。だが、王の騎士はその一撃をモノともせずに、反らした身体をハンマーの様に振り下ろしてギンジの頭蓋骨を割らん勢いで兜を叩き下ろす。

 

 「痛っでぇ!」

 「──ッ!」

 

 ギンジの動きを封じる事に成功した王の騎士が漆黒の剣を振り上げて、黒い衝撃を扇状に展開させる。

 

 その衝撃が広がる過程でギンジも巻き込まれてしまい、巨木ごとギンジを弾き飛ばす。

 

 「〜〜ッのクソが!」

 「───!」

 

 浮いたままの姿勢で巨木を持ち上げて、ギンジが滑空。その勢いを殺さずに巨木を王の騎士に投げ飛ばし、金棒思い切り振り回す。

 

 殴りつける金棒の感覚と重力を活かしたギンジの連続攻撃により、巨木は歪に砕けながら、飛び道具となる。

 

 王の騎士の漆黒の剣の幅によって防がれた事で、その巨木が命中しないが、最後にギンジが黒い炎と金棒を思い切りフルスイングしながら、剣に攻撃を当てていく。

 

 金属が弾ける音が樹海に響きわたり、そのぶつかった衝撃によって辺り一体が強い衝撃と暴風を生み出す。

 

 動きの止まった二人、先に動き出したのは王の騎士。

 

 「──ッ!」

 

 使うのは剣ではなく、白金の腕。

 

 死ねと一言言われている様な、強烈な拳がギンジの顔面をぶっ叩き、ギンジもカウンターで電撃の金棒を王の騎士の兜に突き刺す。

 

 お互いに真正面からの痛烈な攻撃にバランスを崩して、後頭部から倒れていく。

 

 次に立ち上がったのはギンジ。

 

 黒い炎を宿した脚を使い、上空から踏み潰す。

 

 胴体を狙った正確な攻撃に、王の騎士の四肢が苦しそうに暴れ、黒い衝撃が全身から漏れ出す。

 

 その無差別に漏れた衝撃がギンジを吹き飛ばして、上空へと打ち上げられた。

 

 王の騎士が剣を拾いあげて、頭上に居るギンジにその先端を構える。

 

 打ち出すのはもちろん黒い衝撃だ。

 

 「んの野郎!」

 

 コウモリの羽左右に三枚ずつ展開させた、フェーズ3専用の飛行形態で即座に動きだし、避けた黒い衝撃は空の彼方へと猛スピードで飛んでいく。

 

 「──!!!」

 「いい加減にしやがれっ!」

 

 フェーズ3の飛行形態のまま、ギンジは黒い炎の拳と紫電の豪腕を合わせて、更に重力の魔法を合わせた攻撃を繰り出す。

 

 両手を合わせながら錐揉み回転していき、次の黒い衝撃と真正面から激突する。

 

 「うおおお!バーナー!コウモリ!もっと俺に力を貸せ!」

 

 自分の心の中に宿るかつての強敵達の力を最大まで引き出しながら、黒い衝撃を一つ、また一つを突き破って王の騎士へと回転していく。

 

 「────!!」

 「オオオオオォォォラアアア!!」

 

 技の名前も無いただの特攻だが、なによりも気迫を感じる進化の怪人の雄叫びと攻撃に、王の騎士も覚悟を決める。

 

 こいつは強敵だと、ここで戦いを放棄して逃げれば、こいつは組織が手に負えない最大のイレギュラーになると、王の騎士は産まれて間もなく、驚異を感じた。

 

 だから、逃げずにこいつを倒す。

 

 ギンジも、逃げずにここで戦う。

 

 黒い衝撃を最大まで溜めて、ギンジの錐揉み回転に最後に発射する。

 

 ギンジも最大まで力を放出して、黒い衝撃と王の騎士に思い切り攻撃していく。

 

 もうここまで来れば、お互いに小細工なんて不要。

 

 力こそが答えを出して、出し惜しみした方から敗北と言う答えを出す事になる。

 

 「─!」

 「ダラァ!」

 

 声無き声と男の咆哮がぶつかり、間に生まれた衝撃と高熱が融合を起こした事で、辺りには静電気が目に見えて広がり、炎が飛び散り、黒い衝撃が渦を巻いて辺りを斬烈していく。

 

 パァン!

 

 空気の弾けるお互いの限界がここで到達してしまい、ギンジと王の騎士は腕が上がる。

 

 互いに無防備になったが、ここで反撃の一手を決められるは・・・。

 

 「決めるぜ」

 

 ギンジの方だった。

 

 フェーズ3の力と制限時間はもうほとんど残っていない。

 

 重力も使える程隙は無い。

 

 金棒で叩いても決定打にはならない。

 

 ならば・・・。

 

 今こそ使う時──。

 

 あの力を、この技を──。

 

 「我流!」

 

 浮いた両腕を後方にまわして、自分の力をありったけ込める。

 

 空気が混じり、炎と雷と重力を少しずつ開放して、後ろに伸びた腕に込められる。

 

 「ヘヴンリー・インパクト!!」

 

 普段のギンジでは絶対使わないが、カエデの事を思えば操れる衝撃の力。

 

 善の衝撃ではなく、王の騎士が使う様な黒い衝撃に近い。それよりももっと禍々しい悪の衝撃がこの大技である。

 

 王の騎士の胸鎧に命中したその一撃は、ギンジの全身全霊を込めた一撃。

 

 「──!?」

 「ウッオオオラァァ!!」

 

 その鎧に包まれた巨体を軽く跳ね上げて、背後にそびえ立つ巨木へと王の騎士を突きこませる。

 

 「ハァ、ハァ、どうだこの野郎・・・」

 

 片膝をついてフェーズ3が解除されるが、ギンジの戦意はまだ失われては居ない。

 

 だが身体に走る疲労感はとても大きく、もうまともに身体が動かせるか解ったモノではない。

 

 巨木から剥がれ落ちる様に降りた王の騎士は、最初はうつ伏せに倒れるも数秒もしないうちに、立ち上がり、漆黒の剣を拾い直して構えを継続する。

 

 黒い衝撃を発動しようと、剣を振り上げる事で、いよいよギンジの血の気も引き始めた。

 

 「クソ、やべぇな・・・」

 

 ここまで披露感のある敵はオーク怪人、骨の怪人、柏木ぐらいだ。

 

 そして新たな強敵であるこの鎧の怪人・王騎士型もその中に晴れて認定される事となった。

 

 「──?」

 

 振り下ろされた漆黒の剣はただ空を斬るだけだった。

 

 黒い衝撃は出る事はなく、ギンジの眼の前で不発した事になる。

 

 「・・・お互い、能力の限界か?」

 「──」

 「ハァ、そうだよな・・・」

 「───」

 「ああ、解ってるよ。ここで終わったら、つまんないもんな」

 

 何を言っているか分からない筈の言葉が、今のギンジには伝わっている。

 

 逆にギンジの言葉も通じている様子。

 

 「多分、剣の腕じゃお前が有利だ。でもよ、きっと戦い方なら、俺の方が有利だぜ」

 

 ギンジももう攻撃の為に能力を使う事は出来ないが、まだ使っていない能力が一つだけある。

 

 「お前、運が良いぜ。まだ昼間なのに、満月(・・)が拝めるぜ」

 

 ギンジが不敵に笑うと、心の中に宿るもう一つのまだ使っていない力を発動する。

 

 「月の力よ!ムーンフォース!」

 

 心、胸から月光が迸り、樹海に優しい夜の力が展開される。

 

 深緑色と黒が基調となるバトルスーツに、月齢を模した首輪、そして天使の羽の様なモノが追加された満月が描かれたマントを装備した姿。

 

 サングラスはそのバトルスーツに融合されて、黒いバイザーとなりながらギンジの視界を守る防具となる。

 

 その手に握られたのは鍔の無い刀。長ドスとなり、刀身は月の色となる淡い色の美しい刀。

 

 「──!!─!」

 「お前もこの良さが解るか?いいだろ、これ」

 

 ヘヴンホワイティネスでもあり、11人目のムーン・パラディースでもある佐久間ギンジの最後の一手だ。

 

 これで勝てなければギンジの敗けは間違いないだろう。

 

 もう能力は使えなくても、動けない身体を無理やり動かす為のギンジの奥の手である。

 

 悪あがきだろうが、最後にここに立つ為に、ギンジは自分の身体を奮い立たせる。

 

 「真っ向からの剣術勝負だ」

 

 お互いにバトルスーツと鎧。

 

 長ドスと漆黒の剣。

 

 「行くぞ!王の騎士!」

 「───!」

 

 剣と剣がぶつかる、温泉旅行の最後の戦いがここに始まった・・・。

 

 

続く 

 

 




お疲れ様です。

次回はリコニスにも出番があります。

リコニスは一体どうなる事か、実は終盤に入ったこの瞬間も彼女をどうするか決めておりません。初期構想の段階では早々に離脱するか、フリーランスになるかでしか決めておらず、狂ったキャラにしていたらこうなってました。

でも良いですね、リコニス。彼女はこれを恋心と捉えるのか、自分の心に素直にならないまま大暴れするのか!

キャラネタ書きます

佐久間ギンジ
この物語の主人公。
あんまり技名言わないタイプ
以下必殺技一覧
・炎の拳、火炎放射
バーナーの怪人から受け継いだ炎の技多し
・雷、飛行、紫電一閃蹴、雷の豪腕
コウモリの怪人からの能力フル活用
・金棒
未だに武器としての使用しか無い。しかしどんな能力とも併用可能な万能金棒。空気も打てるらしい
・ムーン・フォース、怪人月光斬、月の足場
変身する事が可能なギンジ専用の技。元の持ち主は天体アキハ
・重力、15倍グラビトン
魔法界にて、力を求めた神様が封じ込めた重力の魔法。怪人には魔力が無いが、ギンジはなぜか特別。
・我流・ヘヴンリーインパクト、我流ビーム金棒剣術(技名不明)
オーク怪人との決戦時や、砂の怪人にて披露した技。
こうして見ると結構必殺技あったのね、ギンジ君。

リコニス
裸のままでもまぁまぁ強い。毒に耐性あるとか聴いてないよ〜。
現在ミヤコと共にギンジを追いかけている。

鎧の怪人・王騎士型
喋る言葉は人間には解読不能。恐らく言葉っぽいモノを発している。
ギンジとはニュアンスで通じるのか、会話が成立していた。
黒い衝撃はヘヴンホワイティネスのカエデから着想を得た技で、ドクターパープルが悪の波動を改良して技としてグレードアップさせた。
知能指数はさておき、データ上ならばギンジやオーク怪人、ヘルブラッククロスに所属している怪人達の誰よりも高いデータが出ている為に、ドクターパープルの最高傑作となっている。カエデハウスから持ち出された研究資料等を組み合わせて造られた怪人。故にドクターミヤコ製とも言えるし、ドクターパープル製とも言える。

・・・

次回はリコニスも登場!ミヤコはなんとドクターパープルと対峙し・・・なお話の予定です。温泉旅行編もクライマックス!おおよそあんまり本編とは関係無い番外編に近いですが。

それではまた次回!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。