正義のヒーローヘヴンホワイティネス   作:アトラクション

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こんにちは、アトラクションです。

なんだか夜中の投稿が懐かしく感じます。

相変わらず忙しい毎日ですが、皆様いかがお過ごしでしょうか。

アトラクションはパスタ食べすぎてお腹壊しました。

さて今回のお話は、長期番外編でもありながら本編でもあるお話のラスト2話の1話目となっております。

最終回はまだまだ遠いよ、勘違いしちゃやーよ
それではどうぞ!


104・ドクターパープル

 樹海を抜けたガードレールの内側。

 

 9月の強い日差しが照らし始めるその場所では、簡易的なテーブルと椅子に座るミヤコの姿があった。

 

 いつもよりも険しい表情をした彼女は、かつての部下であった紫こと、ドクターパープルに見せてもらっている中継映像を眼に、片肘をついて自分の最高傑作とそのおまけの戦う姿を見ていた。

 

 ドクターパープルの見せてくれるその映像に出てきている、かつての部下の造りあげた最高傑作とやらと、自分の最高傑作との戦闘の映像を。

 

 「・・・戦闘においては、十分な成果だね。まさかギンジ君と、あのリコニスを相手にしてここまで立ち回るとは、ね」

 

 映像から視線を動かさず、ミヤコは後ろに居るドクターパープルに声をかけた。

 

 荒げるでもなく震えるでも無い、淡々とした声は大幹部であった彼女の名残である。

 

 「くふふ、でも、勝つ事は無いだろうね」

 「いいえ、今度こそ・・・」

 

 ミヤコの吐き捨てた言葉には、ドクターパープルが食い入る様にして遮った。

 

 敵であれと命じられた以上、生半可な成果は残せない。

 

 彼女にこそ敵として認めて貰えなければ、ドクターパープルのプライドがまだまだ認められていないということになる。

 

 それだけではない。

 

 名実共に怪人開発のプロフェッショナルとして、今こそドクターミヤコを超えないとならないのだ。

 

 そうしてようやく彼女を超えた大幹部としての実績を打ち立てられる。

 

 「・・・まぁ、見ていなよ。くふふ、絶対にギンジ君が勝つから」

 

 それは自分が信じる怪人の行動であり、おまけが居ようとも、今までも勝ち続けてきた最高傑作の行動を、これからも見られると信じ切っている事から来る言葉。

 

 「くふふふ」

 

 今でも失う事の無いミヤコの奥底に潜んでいる、奈落よりも深く地獄よりも響く、薄気味悪い笑い声に、ドクターパープルの背中にゾワゾワと鳥肌が立つ。

 

 まだ、ドクターパープルが知らない怪人開発の底力でも眠っているかの様なミヤコの態度に、仮面の中ではニヤリと恐れを混ぜた引きつった笑みを浮かべたドクターパープルは、再び映像に眼を通した。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 構えた金棒と黄金の刀が横並びになり、それぞれの持ち主が二人、同時に駆け出す。

 

 「──!」

 「オオオオッ!」

 「殺す!」

 

 3人の声が樹海に響き、そしてすぐに金属と金属が激しくぶつかる音で相殺されていく。

 

 漆黒の剣も金棒も黄金の刀も。

 

 その3つの武器が激突した事で、辺りには枯れ葉や土が飛び出していく程の衝撃が生み出されて、王騎士が踏ん張りながら、兜の中から赤い残光を伸ばしながら、ギンジとリコニスを弾き返す。

 

 「これじゃいつまで立ってもダメージなんて与えられないねぇ」

 「だったら効くまで打てばいいんだよ!」

 「アハッ、脳筋〜♪」

 

 跳ね返されたギンジとリコニスが、疲労感の拭えない顔でせせら笑う。

 

 そんな状況でも当たり前の様に言い放つギンジが、とても愛おしく思える感じで、リコニスはギンジの前に立つ。

 

 「少し休んできたら?炎とか雷とか、使えないと意味ないんじゃない?」

 「ハァー、冗談言うなよ。大丈夫だって」

 「えーほんとー?休んでこないと、全力出せないじゃん。ギンジちゃんを殺すのは私なんだし、そろそろ本気出してほしいなぁ」

 「へ、挑発かよ」

 「ギンジちゃんの、ちょっと良いとこ見てみたい!あ、それそれそれそれ」

 

 こんな状況でもおちゃらけていられるのは、リコニスが強者故だろう。

 

 ちょっとムカついてきたが、ギンジは金棒に僅かな電流を纏わせる。

 

 「本当にコレで最後になるぞ!」

 「うんうん、ありったけの一撃をお見舞いしてあげてね」

 

 ギンジを背にしたリコニスが舌先をぺろりと動かし、唇を舐めずると先に王騎士に向かって飛び出した。

 

 黄金の光を背にした高速移動と、高速斬撃。

 

 王騎士の手元を狙った突き、そこから流れる様に胸を狙った斬撃。

 

 空気の切れる音すら残さない程の高速斬撃は、王騎士の身体の重さでは追いつく事は出来ず、常にこのリコニスの攻撃のターンに持ち込まれていく。

 

 漆黒の剣による衝撃と、重苦しい一刀両断はリコニスを捉える事は出来ずに、隙だらけになった首元に、黄金の刀が突き刺される。

 

 「はい、少し楽しかったけど、もうこれで終わり」

 

 リコニスが冷たく言い放つと、首元の布地を裂いて、兜を浮かせる。

 

 浮かせるだけではなく、ついに王騎士の首そのモノに刃が突き立てられた。赤黒い血液が吹き出して、ヌルリと刃にも脂の混じったドロドロの血液が、刃を走っていく。

 

 「──!!」

 

 ブチブチと首を動かして、兜からまた赤い残光を輝かせて、リコニスと眼を合わせる。

 

 「ま、だ、動けるの・・・?」

 

 片手では持っていかれそうな膂力に、両手で抑えながらリコニスの眼が大きく開いていた。

 

 「──、─!」

 「何言ってるのか、わかんないのよ!」

 

 首元から刀を上げて、抜き去りながら兜までを斬り上げる。

 

 火花を散らした白金の兜に傷をつけると、今度はギンジが真上に飛び出す。

 

 その手に握られたのは金棒。

 

 僅かな雷を纏わせた金棒は、今日ギンジが打ち込める最後の技になるだろう。

 

 「──!」

 「は〜い・・・残念」

 

 見上げた先に飛翔したギンジを狙おうと、黒い衝撃を打ちだそうとしたが、それは足元に居たリコニスによって、黄金の閃が手元に走った。

 

 すると次の瞬間には漆黒の剣は一瞬でバラバラに切り裂かれ、黒い粒の結晶となって、砂の様に消えていく。

 

 「──!?」

 「こっち見ていていいのぉ?このゴミ野郎」

 

 リコニスが猫背の体制のまま、身体をねじる様に目線を動かして、王騎士を挑発する。

 

 そして王騎士は、背後から迫る熱を感知した。

 

 感情を制し切れない怪人の、敵の居場所を探る為の熱感知機能。

 

 それが取り付けられていても、王騎士は今、自分の不要な感情のせいで、最大の敵を見逃した。

 

 それどころか、最大の一撃が来ている事にも、たった今気がついたのだ。

 

 「これで砕けやがれぇ!」

 

 頭上に降りてきたギンジの金棒が、雷による速度上昇と、一撃の重みを増した事により、王騎士の兜を頂点から叩いた。

 

 「─!!?」

 

 しかし尚も暴れようと反撃の体制を取ろうとする王騎士に、今度はリコニスが腕も見えなくなる速さの一撃、二撃、三撃と高速攻撃を繰り返す。

 

 そのどれもが鎧で守られている箇所ではなく、腕や足、脇や肩、膝や肘・・・そして首。

 

 どれもが関節を的確に狙った動きを封じて、確実に殺す黄金の閃が叩き込まれていった。

 

 斬られた箇所からは、黒い衝撃が溢れ出てくるが、その頭上からはギンジが肩の上に乗って仁王立ちをして金棒を再度上に握り直した。

 

 「今度こそ、その兜を叩き割ってやるよ!」

 

 怪人の握力を全開にして、握った金棒を真下に振り下ろした。

 

 「骨まで!砕けろォォ!」

 

 樹海に響き渡る怒号が、ギンジの一撃に強く負荷がかかる。

 

 王騎士の兜に直撃した金棒は、僅かな隙間に生じた衝撃と共に、空気を吹き出す。

 

 兜と金棒の間の空気が、ボンッ、と音を鳴らす事で兜を割る事に成功する。

 

 偶然にも空気を打ち出す事に成功したギンジが、王騎士から滑り落ちると、リコニスに足を引っ張られて、距離を離される。

 

 「へへ、悪い」

 「別に。それより、あいつ、なんかやばくない?」

 

 リコニスが指差すと、ギンジも立ち上がりながら王騎士に眼を動かした。

 

 白銀の鎧を痙攣させながら、割れた兜の中から真っ黒な影の様な皮膚と、頭がニョキリと姿を表し、口が額について、眼球は左目だけ、鼻は顎下に無数に取り付いて・・・。

 

 異形、奇形。

 

 正しくそんな言葉が似合う怪人の素顔だった。

 

 「きもっ」

 「そんな事言うなよ!」

 

 スンッとしたリコニスの心無い言葉に、ギンジが即座に突っ込んではみたが、王騎士は得に気にしていない様子だった。

 

 頭部からは刃がついた触手の様なモノを振り回して、左目をギョロギョロと動かしながら、身体を痙攣させてギンジとリコニスを迎え撃つ体制を取っている。

 

 「・・・まだやるのかよ」

 「ヒャハハハ、頭が出ればこっちのモノね!紫のくせに変な奴を造ったモンだわ」

 

 尚も血気盛んなリコニス。そんな彼女の肩を掴んで、今度はギンジがリコニスの前に立った。

 

 「あいつとの決着、俺に任せてくれないか?」

 「そんなボロっちぃ身体で出来るの?」

 「ああ、大丈夫だ。必ずぶっ飛ばして、俺の方が怪人として上だって証明してやる・・・そんで」

 

 ギンジは拳を強く握りしめながら、王騎士の前に一歩踏み出す。

 

 「終わったら、またひとっ風呂入りたいからよ、お前も付き合えよ」

 「・・・カエデちゃん達が居ないのと、混浴だったらいいけど?」

 「は、冗談じゃねぇや」

 

 リコニスの冗談を軽く聞き流すと、ギンジは王騎士に一歩、また一歩を踏み込んでいく。

 

 「───!」

 「ああ、お互い、コレで最後にしようぜ」

 

 王騎士は建を斬られてもまだ動かせる右手を。

 

 ギンジも同じく思い切り握った右拳を。

 

 「────!!!」

 「オラァーー!」

 

 王騎士の振り上げた拳は、ギンジの顔をかすめて、ギンジの振りあげた拳は、王騎士の顔面のど真ん中に命中した。

 

 勝負はここで決まった。

 

 だが、ギンジの次の攻撃は止まらない。

 

 左拳で殴りつけ、右、右、左、ハイキック、踵落とし、頭突き、そして最後はもう一度、右のフルストレート。

 

 「これで、倒れろぉ!」

 

 怪人とは常に理不尽な環境に身を置く生物だ。

 

 人間とは違う、超常の存在。

 

 人よりも強い力、人には無い能力、人とは桁違いの生命力。

 

 産まれ(造られ)てすぐに、怪人達は戦いに駆り出されて、かと思えば癒やしに包まれて、何も無ければ力がすべての世界に生きる教養を持たされて。

 

 抱く女も、食らう飯も、奪う命も、全てが怪人の望む望まないに関わらず、そうしないと行けないと、そうあれと造られて。

 

 そして敗ければ命を消される。

 

 それが怪人。

 

 そんな怪人の中でも最高傑作と呼ばれた二人の怪人の大勝負は、今佐久間ギンジの手によって決着がついた。

 

 最後のフルストレートが顔面のど真ん中に命中した瞬間、その威力が増した。

 

 怪人として奪わないと行けなくなったギンジが、同じ最高傑作として敗けられなくなったから。

 

 人の心を持った怪人が、今初めて怪人を殺した。

 

 顔面も黒い結晶となった砕け散り、王騎士は何も言わずに、何も喋らずに言葉を失いながら、空を仰ぎ見る。

 

 黒い衝撃が霧散していき、ギンジの足元から吸い込まれていく。

 

 「ァ─り──が、と──う」

 

 最後にようやく人と同じ言葉を話して、初めて出会った別の怪人に別れとお礼の2つの意味を併せ持つ言葉を放ち、鎧の怪人・王騎士型は白銀の鎧ごと黒い霧となって、ギンジの身体の中に吸い込まれていく事になった。

 

 水がたっぷり入ったボウルの底に穴を開けた時に出来る渦の様に、黒い霧がギンジを包み込んでからすべてが吸収されて行くと、リコニスが黄金の刀をしまいながらギンジに近づいてくる。

 

 「・・・泣いてるの?ギンジちゃん」

 「いいや・・・気にすんなよ」

 

 まただ、と。ギンジは心の中に生きる友達を思い出して、眼をこする。

 

 王騎士もきっと生きる世界が違っていれば、出会うタイミングさえ間違っていなければ・・・。

 

 きっと良い友になれたと思ったのに。

 

 その顔をリコニスは見せない様にして、ギンジは王騎士から受け継いだ黒い衝撃を心の中に背負う。

 

 「・・・紫、見つけてぶっ飛ばしに行こうぜ」

 「・・・」

 

 顔を見せないギンジの、どこか悲痛に見えるその後ろ姿が、どうしてかリコニスの胸の中にチクチクとする嫌な気分となっていた。

 

 樹海の戦いにはこうして勝利を収めて、ギンジはほんの少し感じる熱源に向かってリコニスと共に歩みを進めるのであった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 ミヤコとドクターパープルが見ていた映像の中では、信じがたい内容のモノがドクターパープルの眼に映っていた。

 

 「馬鹿な!何故だ!どうしてだ!」

 

 数値は間違いなくどんな怪人よりも高かった。

 

 戦闘データもオーク怪人や、ギンジよりも高い数値だった。

 

 造った時の素材にも間違いは無く、全てが高純度の、所謂最強の怪人になるように向けて、調整したヘルブラッククロスが用意した対ヘヴンホワイティネス用の怪人だった。

 

 「な、何かが違ったのか・・・!?」

 「くふふふふ」

 

 うろたえてテーブルのモニターを食い入る様に見ているかつての部下に、ミヤコが心底馬鹿にするように見ている。

 

 「いやはや、とても興味深い結果だったね。君の最高傑作が、わたしの最高傑作に吸収される、なんてね」

 「うう・・・」

 

 ミヤコはアイスティーを飲みながら、ドクターパープルに一瞥して行くと、再びくふくふと嗤い続ける。

 

 「君の最高傑作(笑)に対して、何が足りないかわかるかな?」

 「・・・?」

 「怪人は確かに強いし、個性もある。人を遥かに超えて、簡単に国を転覆しうる実力だって秘めている。でもね、わたしの怪人と、君の最高傑作とでは、決定的な違いがあるんだよ、紫、いいや、ドクターパープル」

 

 今は敵となったドクターパープルに、ミヤコの言葉が、否説教が止まらなくなる。

 

 「怪人に必要なモノは力もそうだけど、見た目の美しさや・・・」

 

 美しさ。その言葉を聴いて、ドクターパープルは思い出す。

 

 醜悪の中に見える一つの美の話しを。

 

 それは自分がただの戦闘員時代から聴いていた、ミヤコからのありがたい話しの筈だったのに、力を求める事に執着した結果、あんな奇形の怪人が産まれたのだ。

 

 それを隠す為に、白銀の鎧をつけさせた。

 

 「次に、そうだね・・・あの怪人には、性欲を消したんだっけ?」

 「そうすれば、より闘争本能を・・・」

 

 そこまで言って、ドクターパープルは大きな欠点を思い出した。

 

 「くふふ、怪人には生きる為に、性欲を持たせないと駄目だよ。わたしの造った怪人も、他の人が組み立てた怪人も、総統の怪人も、当然、君の造った龍、毒蛾、機械の怪人にも・・・入れてたでしょう?性欲」

 「ッ!」

 

 ミヤコの言葉の一つひとつが、大きな剣となってドクターパープルのメンタルを切りつけてくる。

 

 「あの怪人には、もしかしたら身体を犯される、なんて興味と恐怖を抱かないよね。オークだったら、あの腕で抱きしめられたら、触手の怪人だったら、無数の触手の形やサイズ・・・くふふ、そのどれもが嫌悪感をいだきながらも、どこか興味をそそられる魅力が無いと、それは怪人にはならないんだよ」

 

 犬の怪人の筋肉そのモノみたいな身体に、存在感そのモノが主張するブーメランパンツ、そして顔だけは犬のチワワという不思議な見た目でも、嫌悪感をいだきやすいが、それでも別部位の魅力によってそれを両立させている。

 

 それが出来て居るからこそ、ミヤコの最高傑作はすべてを持っている。

 

 だがドクターパープルの最高傑作は、本来持たないと行けないモノを持たされなかった事で、戦闘における能力しか無かったのだ。

 

 「・・・カエデハウスからわたしの研究機材や、研究資料、その他諸々持ち出しておいて・・・そのザマなのかな?紫?」

 「ヒィ・・・!」

 

 大幹部では無くなっても、その牙を失われていないミヤコの声は、低く、落ち着いている。

 

 しかし声の奥底からは地獄に潜む死神の如く、気迫の強い言葉にドクターパープルは一気に血の気が退いていく。

 

 「くふふ、まぁでも」

 

 小型モニターに映るギンジの悲痛な表情を見て、ミヤコは鼻からため息を吐きながら、視線をドクターパープルに向ける。

 

 「この反省点を活かして、次につなげて欲しいな。君ならきっと・・・」

 

 ミヤコがドクターパープルに見せた表情は、大幹部として腕を振るっていた、ヘルブラッククロス・大幹部ドクターミヤコが見せた、悪に満ち溢れ、悪を愛して、悪に愛された、悪に飲み込まれた、奈落の様な底の見えない瞳を輝かせる、悪の天才科学者の表情だった。

 

 その表情を久しぶりに見せたミヤコに、ドクターパープルは感嘆と同時にヘルブラッククロスに収まるだけに留まらない、懐かしき師匠の顔を見た。

 

 「君ならきっと、わたしの最大の敵になれるからね。期待してるよ、紫」

 「ははっ・・・!」

 

 思わず土下座をしながら、深々と頭を下げるドクターパープル。

 

 そして・・・。

 

 「ああ、涼しい風だね」

 

 長く艶のある黒髪を、風で揺らしながら、9月の温泉街の戦いは終わりを告げた。

 

 「・・・それでは、私はこの辺で」

 「あ、ちょっと待って」

 

 いい感じに締めくくろうとしたドクターパープルに、ミヤコが声をかける。

 

 「紫・・・今、ヘルブラッククロスは何を企んでいるの?」

 

 ミヤコも知っている通り、ヘルブラッククロスは日本という国を転覆し、この国を独立国家に仕立てあげようとしているのは、最早聞き慣れた内容だ。

 

 そうする為に・・・力と言う都合の良い言葉を並べてやりたい放題しているのが、この悪の組織・ヘルブラッククロスである。

 

 「・・・今、ですか」

 「うん、今」

 

 ドクターパープルはミヤコに背を向けた。日差しがそこで区切られて、陽の光はミヤコを明るく照らし、峠道のコンクリートと土に隠れた影はドクターパープルに陰りを見せている。

 

 セミの鳴く声だけがジリジリと聞こえる空間が、一気に静寂に包まれる様な気がして、ミヤコはかつての部下になにやら不穏な印象を持っていた。

 

 「・・・来るべき時・・・その時がいつかは分かりませんが、総統は、度固化市を破壊しようとしています」

 「・・・破壊?」

 「ええ、貴女もよく知る、あの破壊です」

 

 あの総統ならば簡単に言いそうな内容だと、ミヤコは一旦総統の顔を頭に入れる。

 

 「破壊の方法を企てる前に、我々は2つ、目的の為に手段を選ばない事にしました」

 

 ドクターパープルの小さな紫色のマントが、小風に煽られて先程までの小物感を見せなくなる。

 

 「一つは・・・近々行われる、とある街の破壊と手中に収めると言う事」

 「その街って・・・?」

 「日時は不明ですが・・・そうですね、準備が整えば、9月6日にでも・・・」

 「その街ってどこなの、紫?」

 

 ミヤコの言葉を無視して、ドクターパープルは背を向けたまま一切ミヤコを見ずに話しを続ける。

 

 「虹創作市・・・政府だけで構成された様な、巨大な街をご存知ですよね。あそこに収容されている柏木タツヤの奪還、そして、街そのモノの破壊です」

 

 柏木の名前が出てきた事で、ミヤコには頭痛が走る。

 

 「そして2つ目」

 

 ドクターパープルの説明はまだ終わらない。

 

 先程とは打って変わっての淡々とした口調に、今度はミヤコが気圧される。

 

 「この世界・・・我々、人間達の世界とでも呼びましょうか。そことは違う世界があると言うのが、最近判明しましてね」

 

 この世界以外にも世界が・・・?と、ミヤコは興味津々にその話を聞いている。

 

 ドクターパープルは、ミヤコが何も聞いてこない事を確認すると、それが話を続けて欲しいのだと判断して、自らの話の内容をミヤコに伝え続ける。

 

 「その世界とやらは、魔法界と呼ばれるそうです。この世界には無い資源や能力、件の魔法少女もそこからやってきたのではないかと、ヘルブラッククロスは睨んでおります。ですが、魔法少女がこの世界に居て、実際に魔法と呼ばれる超常的な力を操っているのを見ている以上、その世界がある事は間違いないでしょうね」

 

 そこまで話してドクターパープルは陰りの中で、身体をミヤコに向ける。

 

 「もし仮にそんな世界に行けるのであれば、我々はなんとしてでも、その世界にある資源を根こそぎ奪い尽くし、我々の力にしたいのですよ」

 「そんな事までして、日本を転覆させたかったのかな、総統って」

 

 壮大なスケールとなった今のヘルブラッククロスの行おうとしている事に、ミヤコが苦笑混じりの声を漏らす。だが、その組織に所属していた事がある以上、ミヤコにもなんとなくやりそうだな、と考えてしまう。

 

 「ヘルブラッククロスは国を手に入れる目的の為に、力を示す必要があります。いよいよ我々が地獄からこの現世へと、姿を大々的に表す事となりました。今はすべてをお話する事はありませんが、6日には大きな事件がこの国の歴史に刻まれる事になるでしょうね。さて、そんな事をヘヴンホワイティネスが許すわけがありませんよね?」

 

 ドクターパープルの話す内容に、ミヤコは硬唾を飲下す。

 

 「度固化市の破壊と言う目的は、あの憎き怨敵であるヘヴンホワイティネスをおびき寄せ、一網打尽にする事にあります」

 

 つまりヘルブラッククロスは、自分達の目的の為にヘヴンホワイティネスを街ごと消し飛ばそうとしているのだ、と。

 

 魔法界への侵略、虹創作市の破壊と、柏木タツヤを奪還。

 

 「ま、手順としては最初に虹創作市の破壊、次に魔法界への侵略、及びその世界の戦力を手に入れる事・・・最後はヘヴンホワイティネスを倒す、と、色々準備にごたついている状態でしてね」

 

 色々な事が錯綜し、更にはヘヴンホワイティネスを完全壊滅させる為に、街一つを破壊すると言う。

 

 「でも、どんな事があっても」

 

 そんな大きな事を話されても、ミヤコは信じている。

 

 「ギンジ君達が、全部阻止してくれるよ」

 「今まではそうでしょうね。でもこれからは違う。力に生きる者達だけが、雄叫びをあげる最高の世界が誕生するのです」

 「・・・ううん、わたしもギンジ君とが生きられる世界で生きるの。わたしも力のある世界は良いと思うけど、その為に全部を壊すなんて・・・」

 

 自分でもらしくないな、と思っては居るが、今のミヤコにとって今の生活は失いたくないモノが増えすぎた様にも思える。

 

 佐久間ギンジの存在もそうだ。

 

 オーク怪人部下として生きる、未来の自分を想像してしまう事もある。

 

 それどころか、最近はあのカエデと仲良くお出かけするような、ありえないと嫌悪していた様な事でさえ、近々起きてしまうのでは無いのかと思ってしまう。

 

 「わたしは・・・わたし達の力でそんな事、止めて見せるよ。最後の戦いになったとしても・・・」

 「面白いですね。では、その最後の戦いの時こそが、私と貴女の最後の戦いになるでしょうね。それがいつ叶うかは分からない事ですが」

 

 ドクターパープルは一通りミヤコのご希望通りに、今のヘルブラッククロスが企てている事を伝えた。

 

 その事を話し合ったミヤコは、最後に口角を釣り上げて笑みを見せる。

 

 「それでこそ・・・わたしの部下だよ、紫」

 「貴女が敵であれと望んだのですから、ここまでしないと、きっと納得行かないでしょう。ああ、オークには既に伝えております。ここまで詳細には話しては居ませんがね」

 

 ならばミヤコには詳細に話したのは、あくまで敵同士、フェアでありたいと言う、ドクターパープルなりの気遣いの一つだろうか。

 

 「それでは、今度こそこれで。怪人の件は勉強させて頂きました」

 「うん。紫、今度こそはわたしを驚かせる怪人を造ってね」

 「ええ、ご期待に添えるように・・・それでは」

 

 ミヤコに敬礼をするとドクターパープルはすぐに姿を消した。

 

 影に飲まれる様に、はたまた煙の様にフッと消えて・・・。

 

 「うーむ・・・」

 

 メガネについた汚れを拭き取りながら、ミヤコは頭を悩ませる。

 

 「虹創作市、魔法界、そして度固化市の破壊、か・・・」

 

 ヘヴンホワイティネスの面々に伝えなければならない内容が、とにかく沢山出来てしまった。

 

 一先ずは、ギンジと合流して、その後にカエデ達の合流をしよう。

 

 その上で落ち着ける場所を探して、皆にこの事を伝えなければ、とミヤコは途方に暮れる様な想いで、愛しのギンジが戻って来るのを待つのであった。

 

 

 

続く

 

  

 




お疲れ様です。

物語は終盤ですが、まだまだ先は長いです。ゴールはまだ見えない!
頑張って書きます

キャラネタも書きます

佐久間ギンジ
今回新しく王騎士の能力を獲得。
だけどあんまり嬉しく無い。怪人を殺してしまった事に罪悪感がある。
こんな事ミドリコには言えない。

リコニス
ギンジちゃん泣いてる・・・?な、泣かないでよ・・・
意外と人が泣いてるとふざけられないタイプ。
でもうざいと思ったら殺す、そんなタイプ

鈴村ミヤコ
紫が知っている、ヘルブラッククロスの企てている計画を聴いて、結構やばくね?っと思っている。実際結構やばい。
監獄襲撃のお話は、この温泉旅行編の後の時系列となっております。


ドクターパープルと周りに名乗らせて偉ぶっている。
総統の企てた計画と、その掌握っぷりには敬意があると同時に、ドクターミヤコには遠く及ばないと思っている。
だが、実際に力のある世界においては、総統の望む形になる様に、ひたむきに忠誠心を向けている。ミヤコに敵であれと命じられたので・・・

・・・
次回は温泉旅行編ラスト!そしてその次回は再び9月6日、監獄襲撃と同時刻のヘヴンホワイティネス視点のお話となります。

まだまだ先は長いが頑張るぜ!感想、評価、パスタ、お待ちしてます!

それではまた次回!
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