正義のヒーローヘヴンホワイティネス   作:アトラクション

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こんにちはアトラクションです。

今年も早いモノで、もうすぐ終わりですね。

今年の投稿は今日のコレ一本で終わりそうです。

来年もまたよろしくお願いいたします!!

それではどうぞ!


108・なんか色々出来る

 いつも自分という人間を思うと、同じ様に考える事がある。

 

 今、自分の住む家に走って戻る時もそうだ。

 

 他人の為ならば、どんなに自分が傷ついてもソレらを助けようとするのに、自分の家族、それもたった一人の父親の事となれば、彼女には周りが見えなくなる程に、先走る。

 

 きっとギンジに救援をお願いされた事も相まって、神宮カエデは街中だと言うのに、いつもの純白の戦闘スーツに変身して、誰よりも急いで神宮亭に戻っている。

 

 これは帰路を急いでいるのでは無い。

 

 「カエデ、待って。ケイタが追いつかない」

 「・・・解ってるわよ」

 

 苛立ちと大きな不安を持ちながら、後ろをなんとか追いついているレンからの言葉に、カエデは顔を見せずに返事を返す。

 

 レンもこんな緊急事態なので、変身している。

 

 だが、同じくカエデの後を追いかけるケイタだけは、いくら魔法が使えるとは言っても、生身の人間でしかない。カエデとレンは二人して、屋根や建物を忍者の様に飛び回っているが、ケイタだけはコンクリートの道を走るしか出来ないのだ。

 

 「ハァ、ハァ、ゼェ、ハフゥ、ぼ、僕は、ゼェ、大丈夫だからはぁ、二人は気にしないで、先に、ふぅ、追いつくから、後で、僕も」

 

 小型の通信機越しに聞こえる、気持ち悪いくらいに呼吸の荒いケイタは、カエデとレンに先に進む事を促している。

 

 まだ9月と言う事もあり、厳しい残暑が残る熱気の中で、全力で駆け抜けてきたのだ。

 

 ケイタのシャツは汗でぐっしょり濡れており、もはや乾いていない所は無く、強い日差しに当てられて湯気が立つ程だ。

 

 おまけに水分補給も休憩も無しに、学校から住宅街エリアまで走ってきたので、顔まで真っ赤になっている。

 

 「でも、ケイタがそんな状態だと、私は心配する。カエデも、そうでしょ?」

 

 屋根から飛び降りてケイタに寄り添おうとするレンの言葉に、カエデは気が気じゃない表情でソワソワしている。

 

 それと同時に、自分達に追いつけないケイタにも苛立ちを向けている。

 

 ピリピリとした怒りの矛先が、レンとケイタに向けない様にしていても、それが自然と二人に向いてしまっている。

 

 「カエデ・・・」

 

 無言のまま威圧にも近い表情で、カエデが黙っているとレンまで不安になっている。

 

 こんな時ぐらい、ヘヴンホワイティネスのリーダーらしく堂々としていて貰いたいモノだが、そんな事を言ってしまえば、きっと仲違いをしてしまいかねない。

 

 そんな事で切れる様な絆では無いが、レンもそれを解って何も言えないでいるのだ。

 

 しかし・・・。

 

 「はぁ、カエデ・・・」

 「何よ・・・」

 「こんな時ぐらい、ヘヴンホワイティネスのリーダーとして、ビシッとしてよ!ハァ、ハァ、僕じゃ追いつけない事も分かってる。だから、先に行っていいんだよ」

 「ケイタ、それは、言っちゃ駄目。私達は、正義のヒーローだし、いくらでも待つよ」

 

 レンの言葉は棘が無い。言ってはいけない事だと解っているし、ケイタもそうすれば多分カエデがきっと怒ると理解している。

 

 正義のヒーローであっても、市民を助ける正義感を持っていても、神宮カエデには変えられないモノが一つだけある。

 

 「分かってる!分かってるよ!だけど、レン・・・君がそうだった様に、カエデにだって自分の生活がある!」

 「・・・!」

 

 顔を赤くしたケイタの言葉が住宅街の一本道に響く。

 

 「街は異様な雰囲気になったって、ヘルブラッククロスが何をしようとしたって、ギンジが言った様に、今はカエデの家が危ないんだよ!?カエデだって一人の人間なんだよ!」

 

 肩で呼吸して、もはや汗を吸いきれないハンカチでもう一回顔を拭き取る。

 

 そしてケイタは白い魔法の本を出現させると、カエデに向けて右手の人差し指と中指を合わせて伸ばした手を差し向ける。

 

 「カエデだって正義のヒーローの前に、人間、人なんだよ!自分の家がピンチで、カエデの好きな人達が危機に晒されているなら、それこそ僕たち正義のヒーローの出番でしょ!」

 「ケイタ・・・うん、そうだね」

 

 この戦いに身を投じているレンからすれば、今この瞬間でもレンの未来の為にヘヴンホワイティネスはいつ終わるか分からない戦いを続けている。

 

 そしてそれはカエデも同じ事だ。

 

 カエデがソワソワ、イライラしているのは家の今の状態が気がかりでしか無いからだ。

 

 涼しい顔をしていても、カエデだって一人の少女だ。

 

 家が大金持ちでも、成績優秀な生徒でも、正義のヒーローであったとしても、神宮カエデだって一人の人間の子であり、変えの効かない誰かにとって大切な一人なのだ。

 

 ケイタも同じで、レンも同じ。

 

 だけど今はその優先が違うだけの話。

 

 「カエデ、僕たちも必ず追いつくから!だから先に行くんだよ!自分の家を守る為に、全力で行って!」

 「ケイタ、レン・・・ごめん、ありがとう」

 「そういう時は、『任せろ』って言うんだよ、カエデ」

 

 いつの日か湾岸エリアでギンジに教えてもらった言葉を返して、ついにカエデの顔に笑みが戻る。

 

 「第一の魔法!エンジェラ・アーマ!」

 

 白い本が光輝き、ケイタの指した指から光の弾丸がカエデに向かって飛び出す。

 

 ケイタが魔法界で得た、他者を一時的に強化させる魔法によって、カエデのスーツは淡い光のオーラを纏う。

 

 スーツすらもその能力を向上させるケイタの魔法もまた、変えの効かない最高の技であり、使いすぎも注意されている力だ。

 

 だが、今こそ使わねば、きっとギンジにも赤鬼にも男じゃないと、見捨てられてしまいそうだと思ったのだ。

 

 神宮亭に急いで戻る。その理由は自分の家と家族を守るために。

 

 それに対して、わざわざ足並みを揃える必要性は無いのだ。

 

 「ケイタ、あんたいつか神宮財閥(うち)に就職しなさい!あたしの秘書にしてあげるわ!レンも、あたしの右腕になって貰うわよ!」

 

 二人に背を向けて、形の良い背中を見せながら、カエデは笑いながら泣いていた。

 

 一筋だけだが、涙がバレないように、隠れて泣いた。

 

 (まさかケイタにここまで言われるなんてね。本当・・・)

 

 ──あたしは良い仲間を持ったわ。

 

 「レン、絶対にケイタを連れて後から来てよね!」

 「未来の上司の命令、逆らえないね」

 「はは、光栄だよね。さぁ、僕たちの事はいいから」

 「ええ、行ってくるわ!ありがとう、ケイタ!」

 

 後ろ向きに親指を立てたハンドサインを向けて、カエデは強化された身体能力に、更にバフをもらった超常的な速度、動きで神宮亭へと一足先に戻るのであった。

 

 「レン」

 「なに?」

 

 カエデの姿が見えなくなった事で、ケイタは一気に膝から崩れ落ちる。

 

 「み、水・・・欲しい」

 「・・・変な所でかっこつかないね」

 

 やれやれと頭を振るレンに、ケイタは水分を感じられない文字通り乾いた笑いで返す。

 

 レンが遠慮して言えなかった事は全てケイタが言ってくれた。

 

 きっと彼が居なかったら、カエデとイザコザも生まれていたかも知れない。

 

 はっきりと言い切った事で、カエデの背中を押すのが出来るのはきっとケイタだけだったのかも知れない。

 

 「かっこつかないけど、かっこよかったよ」

 「うん、ありがとう」

 「お礼を言うのは、私達だよ。水、用意するから待ってて」

 

 恋人であるケイタの行動は、レンにとってずっと新しく、ずっと輝かしく見える。

 

 汗で張り付いた茶髪を手で拭って上げながら、レンはケイタの顔を見てときめきが大きくなるのを感じた。

 

 「でも、本当は休んでいる場合じゃない。ケイタの命の事もあるから、水をのんだら、すぐに行こう」

 「ア、ハイ」

 

 虎の眼をしたレンに、ケイタは背筋を震わせながら、厳しい残暑の道をまたも走る事になるのであった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 「何よコレ・・・」

 

 ケイタの強化魔法が切れる頃、ちょうど良い頃合いでカエデは神宮亭に到着した。

 

 いつもは荘厳できらびやかな神宮亭、我が家は門の外から見える限りでは窓や、噴水が破壊されており、壁も内側から粉砕されている様に見えた。

 

 外観だけでここまで壊れているのであれば、きっと中はもっとひどい事になっているに違いない。

 

 惨劇とまでは言わないが、見慣れた自分の家が変わり果てていると、カエデの不安がもっと大きくなる。

 

 父親であるソウジロウの事もそうだが、先ず何よりもギンジの顔が思い浮かんでしまった。

 

 「お父様、ギンジ・・・無事よね」

 

 悲痛な顔でありながらも、カエデは意を決して、門を飛び越える。

 

 敵がどんな存在なのかは不明。

 

 敵がどんな姑息な手を使ったのかも不明。

 

 それでも、カエデは愛する自分の家族同然の使用人達の事を思うと、胸が張り裂けそうな気持ちになってしまう。

 

 正面玄関の大きな扉は、内側から殴り壊された様になっており、ひしゃげてしまっている。

 

 これはソウジロウが何かの襲撃が来た時様に、対戦車用に強化されたとてつもなく頑丈な扉なのだが、それをこんな無残に打ち壊すとは、敵は相当な怪力を誇るのかも知れない。

 

 油断せずに先に進もうとしていた矢先、正面の玄関の奥から苛烈な破壊音が鳴り出す。

 

 空気が打ち上がり、埃を吹き飛ばし、様々な金属が粉砕されて、辺りにはキラキラと光を反射する破片が飛んでいるのを確認出来た。

 

 すぐに玄関を飛び越えると、カエデはその破壊が行われた部屋へと突撃する事にした。

 

 両腕のガントレットのギアを回転させて、先手必勝の一撃を与える為に、そしてもうこんな破壊なんてさせない為に。

 

 「必殺!メガトン・──」

 「ぬお、カエデの姉御!」

 「インパク・・・はれ?」

 

 両腕に溜め込んだ衝撃が、不発に終わり、埃煙の中から姿がシルエットになっていた怪人と思わしき人物に、先制攻撃を喰らわせようとしたのだが、そこからは素っ頓狂で呆気に取られた野太い声が、カエデの耳に入ってきた。

 

 「良かった、ご無事だったんですね」

 「赤鬼??」

 

 黒い甚兵衛、赤い肌、雄々しい一本角。

 

 八角のオリハル金砕棒は今日も禍々しく、異様な闘気を秘めており、つい今しがた何かモノをぶっ壊した様な、破壊の跡が見え隠れしている。

 

 しかしそんな赤鬼はなにやらこの状況でふざけている様にも見える。

 

 それは自分の顔に目隠しをしているのだ。

 

 眼を隠すならサングラスで良いはずなのに、今の赤鬼はカエデの眼の前で、ホットなアイマスクをつけているのだ。

 

 神宮財閥の販売している、蒸気で目元をほぐして快眠を促す、あのよくあるアイマスクだ。

 

 それを装着しては、オリハル金砕棒を振り回しながら、神宮亭のありとあらゆるモノを壊して回っている様にも見えている。客観的に見れば、外観が壊れているのも、玄関の装甲扉も赤鬼なら粉砕出来てしまいそうだと、カエデは頭の中で完結させると、両腕のギアをフル回転させる。

 

 そして溜め込んだ衝撃は今度は逃されず、思い切り赤鬼の腹部に叩き込まれる事となった。

 

 「ヘヴンリー・インパクト!!!」

 「イィブラヒモヴィッチ!???」

 「あんたが犯人かー!!」

 

 眼を白くさせたカエデが、思い切り赤鬼を殴り飛ばすと、赤鬼は奇声と絶叫を上げながら窓の無くなった壁へと、全身が叩きつけられた。

 

 「あんた見損なったわよ!ミドリコを懐柔してまで、あたしの家をこんなに壊すなんて!ギンジもあんたの事信じてたのに!」

 

 泣き出しそうな程に上ずった声で怒鳴るカエデに、赤鬼は何も言い返さず、目隠しを外さないまま、体を壁から引き剥がしてカエデの眼の前に土下座を披露する。

 

 五体倒置をしっかり決めたキレイな土下座の姿に、カエデは一瞬たじろいでしまうが、それでも赤鬼を許さない様な顔をしている。

 

 「ぶっ壊した事にゃ言い訳するつもりは無ぇ!だけど信じてくだせぇ、これが敵の能力と術の攻撃成立の条件を無効化する、最適な手段なんです!」

 「今更あたし達を裏切って、そしてこんな言い訳なんて、漢の価値観とやらはどこに行ったのよ!」

 「ぶっ壊した事にゃ言い訳するつもりは無ぇ!マジで、ミドリコにも顔向け出来ない事はしていないつもりだ!ソウジロウの親分の為にも、ギンジの兄貴にも、ミヤコ姉さんにも、顔向け出来ない様な事はしていねぇ!信じられるまで、俺っちは姉御に殴られ続けやす!どうか信じてくだせぇ!」

 「・・・っ」

 

 ここまで土下座しながら顔を上げない赤鬼の姿に、少し息を飲んでしまう。

 

 追撃の手を止めてしまい、それが命取りだった。

 

 カエデから攻撃意識が一瞬無くなった事を確認した赤鬼が、甚兵衛の袖を千切りながら、カエデの背後に回り込む。

 

 (しまった!こいつ、やっぱり・・・)

 

 カエデの警戒心とは裏腹に、赤鬼はまったくカエデの予想外な行動を取っていた。

 

 先ずはヘルメットを外して、次に千切った甚兵衛で、眼を覆い、後頭部で結び、またヘルメットをつけさせる。

 

 目隠し。

 

 これは一体なんのサプライズなのだろうか。

 

 「あの、赤鬼・・・?」

 「すんません、カエデの姉御の頭に触っちまって。でも、これで敵の攻撃を無効化出来るんです。本当に」

 

 バツが悪そうに話す赤鬼の声に、カエデはひと呼吸置く。

 

 赤鬼が目隠ししながらも、カエデに瓦礫に腰掛ける様にさせると、赤鬼も座ったカエデの正面に向き直った。

 

 「あんた、裏切ったんじゃないでしょうね?」

 「滅相も無ぇですぜ!俺っちは身も心もミドリコに、ああいや、ヘヴンホワイティネスに捧げるって決めてるんで!」

 「・・・じゃあなんであたしの家を壊したのかしら・・・?」

 

 腰かけたカエデは腕を組みながら、視界の見えない中で赤鬼に言葉を強く投げる。

 

 納得の行く説明が無いと、カエデはビキビキとした怒りを沈められそうに無い。

 

 「へい、敵が襲撃してきたからです」

 「その敵と、家の破壊になんの関係があるのかしら?」

 「へい、先ず敵の名前なんですが、鏡の怪人と言いやす。奴は俺っちと同じ怪人四天王でして・・・」

 

 鏡の怪人。その名前には聞き覚えのあったカエデは、真夏の寒い日を思い出す。

 

 確か8月24日の夜だった事を思い出す。

 

 雪の怪人による、怪奇現象と呼ばれた、真夏の大雪の日に、オフィスビルエリアで交戦した、あの怪人の事を・・・。

 

 「・・・あいつが、あたしの家を襲撃してきたの?」

 「その言いぶりからすると、姉御は一度会っているみたいですな」

 「ええ、前に一度交戦したわ」

 「なら、話が早いでがす。あいつの能力は、鏡と同じモノになるモノだったら、認識させて、攻撃対象の野郎を、閉じ込めるんすわ。鏡の世界に」

 「は?何を言ってるの?」

 

 赤鬼の支離滅裂な説明に、カエデは怪訝な表情をしている。

 

 「えーと、つまり、なんか凄い事出来ちまうんだ」

 「もう一回殴っていいかしら?」

 

 わちゃわちゃとした説明をするが、赤鬼の説明では全く理解出来ずに、カエデの顔にはまたもやイライラが募る。

 

 「結構痛いんでげす。もう殴らないでくだせぇな」

 「ならもう少しマシな説明してくれるかしら?」

 「えーと、つまり、この屋敷全体が奴の眼になっちまってるんです」

 「何がつまりよ!それじゃ分かんないでしょ」

 「へい、すいやせん。鏡になるモノ・・・例えば、ホラ、窓とか・・・」

 「窓・・・?」

 

 赤鬼が既にぶっ壊している窓ガラスの破片を、カエデの足元でジャリジャリと音が鳴る。意図せずに踏みつけた事で、ブーツの下で更に細かく踏み砕かれた音だ。

 

 「鏡・・・窓・・・じゃあ、例えば銀色のお皿とか、ラックとかも、鏡になってる・・・?」

 「あー!そういう事です!さすが姉御だぜ!眼に映っちまったら、あいつにバレる。そうなると、攻撃されるって事だぜ」

 「ふぅん?良く分かんないけど、その為の目隠しなの?」

 「へい!とにかく鏡そのモノもそうですが、鏡と同じ扱いになるモノも、【鏡】として認識しちまうと・・・」

 「一気にやられるって・・・事ね」

 

 なんとなくだが赤鬼の言っている事が理解できて来た。

 

 鏡の怪人との初対面を果たした時は、あの怪人は空間に大きな鏡を召喚して来たぐらいしか能力が無いと思っていたが、どうやら赤鬼の言っている事を信じれば、鏡になりうるモノならば、鏡の怪人の能力と攻撃の条件を満たしてしまうらしい。

 

 そうなれば赤鬼が、窓や家の什器等を破壊して回っている事にも説明がつく。

 

 「一つ聞くけど、本当にこれが対処法になるのよね?」

 

 目隠しと、映るモノを壊して回る事が、鏡の怪人の攻撃条件を潰す事になっているのだろうか。

 

 「へい。血を分けた兄妹みたいなもんで。能力の事ならだいたい把握してやすぜ。言うなれば、反射して映るモノは全部あいつの監視カメラみたいなモンでして。それを全部壊して、カメラを少なくすりゃあ、鏡の奴がこっちに出てこざるを得なくならぁな。そうなりゃ、後は・・・」

 

 赤鬼の言っている事を完璧に理解したカエデは、ガントレットのギアを鋭く回してすぐに止めると、右拳を左手に打ち付ける。

 

 鏡の怪人が姿を表せば、おそらくまともに戦えるのは・・・。

 

 「あたしの出番って事ね!」

 「後でいくらでも殴られやす。どんなバツも受けますぜ。だから、親分を助ける為にも、ジングウテイをぶっ壊す事を許してくだせぇ」

 「・・・赤鬼、さっきはごめん」

 「滅相も無いですぜ!カエデの姉御が謝る様な事は何も!」

 

 赤鬼が裏切っていないとわかれば、すぐに謝罪をしたカエデに対して、赤鬼は慌ただしく腕を振り上げる。

 

 きっと赤鬼もケイタと同じで、カエデの事を思っての行動を取っていたに違いない。

 

 赤鬼もカエデ達ヘヴンホワイティネスの仲間なのだ。

 

 「ホント、殴られた事は全く気にしてねぇでやんす!」

 「そう。ならこのあたしにぶっ飛ばされたのは、たとえ誤解だったとしても光栄に思いなさいな!」

 「ウッス!」

 『あらあら、随分ヘヴンホワイティネスに絆されたのね、赤鬼』

 

 カエデと赤鬼の会話を終始聴いていたのか、二人の耳元から声が聞こえた。

 

 凛としていても、どこか憎悪を秘めた様な声音は、すぐに二人に警戒体制を取らせるには十分で、震える様な女性の声の後にカエデと赤鬼がすぐに背中合わせになる。

 

 この声には聞き覚えのあるカエデが、声の主は間違いなく鏡の怪人であると判断する。それもどこから見ているのかまでは理解出来ないが。

 

 目隠しをしていてもこの距離感ならば気配で分かるのか、二人して同じタイミングでの行動。

 

 『あら、まるで照らし合わせた様な行動ね。そこまで毒気に侵されてるとは思わなかったわ、赤鬼。そしてヘヴンホワイティネスも』

 「赤鬼、対処は鏡になるモノを見ない、それ以外には何かある?」

 「へい、その目隠しに使った甚兵衛の一部を持ってると、なんか色々できやす」

 「色々ね。抽象的な事ばかり言われても困るわよ。それで、鏡の怪人はどこであたし達を見ているのかしら?」

 『素直に教えると思う?おバカさん』

 「自分の領域に隠れて、声だけはこっちに飛ばしてやすぜ!兄貴とかが嫌いそうなセコイ奴ですわこいつは。同じ怪人として恥ずかしいですよ俺っち」

 『ああ、その兄貴だけどね・・・進化の怪人とドクターミヤコはこっちの手で始末寸前よ』 

 『ハァ!?』

 

 鏡の怪人の信じられない言葉に、カエデと赤鬼が二人揃って声を荒げる。非戦闘員のミヤコだけならともかく、ギンジまでもが鏡の怪人の先手によって始末寸前。

 

 あのとてつもなく強いギンジが、まさか最速で敵の術中にハマっているとは、二人には想像出来なかったのか、カエデが目隠しを外して辺りを見渡す。

 

 『ふふ、どこを見ているの?もっと下よ』

 「姉御、駄目だ!絶対に見るな!」

 

 赤鬼が言うよりも早く、カエデは自分の足元を見やる。

 

 変身しているスーツの、白いブーツの裏には、先程踏みつけて砕けたガラスの破片があったのだが、そこには無数に割れた一枚の窓だったモノの中から、鏡の怪人がこちらを見ていた。

 

 向こうも目隠しをしていて、カエデにも見覚えのある、真夏の大雪の日に戦った事のある、あの時と姿の変わらない鏡の怪人が居た。

 

 『認識(・・)したわね、ヘヴンホワイティネス!』

 「・・・っ!」

 

 しかし映ったモノは映ったのだが、割れた鏡に自分の顔が映った事と同時に、カエデはもうひとつ自分の視界の捉えたモノを見て、一気に怒りがこみ上げてくる。

 

 「何してんのよ・・・!」

 

 割れた窓の向こう側は、ほとんどが影になっており、よく眼を凝らして見れば瓦礫クズなどで汚れた床があるだけ。

 

 薄く鏡の怪人が見えていて、自分の見下ろした顔が映って見えている。

 

 そんな鏡の代わりになるモノの向こう側、鏡の怪人の更に向こう側。

 

 黒い十字架に吊るされたミヤコの姿と・・・。

 

 両眼の部分に鏡の様な何かを貼り付けられたギンジが、無気力な体制で黒い十字架に体をがんじがらめにされている姿を見て、カエデには自分ではどうにも抑える事の出来ない、大きな怒りが、その身を焼いた気分になっていた。

 

 「何してんのよ!!」

 『あら、何って決まってるでしょ・・・』

 

 もはやそんなあられの無い姿になってしまったギンジに、カエデは自分が近くに居てあげられなかった悔しさと、ギンジが敗けそうになっている情けなさに、怒り心頭。

 

 鏡の怪人の言葉はもう届いて居ない。

 

 「あんた、あたし達のハッピーエンドの為に戦うって言ってたでしょ!そんな所で座ってないで、今すぐに立ち上がりなさいよ!」

 

 真下の鏡に向かって、カエデが吠える。

 

 赤鬼も我慢できずに目隠しを外して、カエデが見つめる鏡に向かって、ミヤコとギンジの姿を見て胸を痛める。

 

 「兄貴ィ!テメェ、鏡この野郎!兄貴と姉さんになんて事を!」

 

 赤鬼も牙を鳴らして鏡の怪人に向かって吠えるが、その鏡の怪人は眼を隠したままほくそ笑んでいる。

 

 『ヘヴンホワイティネスは私が相手してあげるから、こっちにいらっしゃいな。でも赤鬼、お前は私の能力をある程度把握している以上、ここで死んで貰うわよ』

 「やって見ろよ・・・」

 

 カエデと赤鬼も鏡の怪人が眼として使える窓ガラスだったモノを見下ろして、本気で怒っている。

 

 「あたしの仲間に手を出した事、許さないわよ」

 『後でまた聞きたいモノね。果たして、後でまた同じ事を言えるかしら』

 

 カエデの言葉にも鏡の怪人の言葉にも、お互いを見下しきった最悪な言葉が次々と出てくる。

 

 『鏡の人形劇(ミラー・マリオネッツ)!』

 

 割れた窓ガラスの鏡の中で、腕を交差させて鏡の怪人が大きく唸り出す。その行動は割れた一枚のモニターの様にも見えて、異様に手足と身体が映せないノイズ部分の割れた所も相まって、実物を見るよりも大きく見える。

 

 その怪人らしい異様な光景もさる事ながら、先程まで赤鬼が破壊していた鏡として映る事が可能なモノの中から、一枚の鏡の破片が飛び出てくる。

 

 その破片は当たれば簡単に人を切れそうな、鋭利に尖っているモノだった。すぐに風船の様に膨れ上がると、次第に姿を大きくしていき、あらゆるモノを映しながら大きくなった人の形をした鏡へと姿を変えていく。

 

 そんな人の形そのモノの鏡が、無数に召喚されて、あっという間にカエデと赤鬼を取り囲んだ。

 

 『相手してあげるとは言ったけど・・・やっぱり気が変わったわ。生きてたら、また相手してあげるわ、ヘヴンホワイティネス』

 「ヘルブラッククロスなんて侵略者の癖に、こんな姑息な事しか出来ないかしら?」

 「カエデの姉御、言い合いは後にしようや!鏡の奴は、あんな事言ってるが、俺っち達の事を本気でぶっ潰しに来てる!」

 

 赤鬼がカエデの背後でオリハル金砕棒を担ぎ上げて、眼の前に立ち上がった鏡の人形を一体粉砕させる。

 

 「こんなコケ脅しでも、これがアイツの本気だ!自分一人で戦闘員の代わりを造れるから、怪人四天王でも最強に座り続ける事が出来た奴なんだ!どらっ!」

 

 もう一撃振り上げて空気を打ち出しながら、鏡の人形を破壊する。破壊しながらも鏡の怪人の実力を知っている赤鬼は、カエデにその事を伝えながら、カエデの回し蹴りで鏡の人形を一体ずつ破壊している。

 

 「キリが無いわね!」

 「ああ、でも奴は近くに居るはずだ!カエデの姉御、その甚兵衛を持って、どこか大きな鏡を探すんだ!」

 「でも鏡を見たら駄目なんでしょ!?」

 「本来ならば・・・なっ!」

 

 オリハル金砕棒がカエデの真横を一撃遮断すると、腕を尖らせた鏡の人形が頭から粉砕されていく。

 

 「兄貴と姉さんが捕まっちまってるってんなら、話は別だ!アイツに逆に捕まるぐらいで行かねぇと、俺っち達に勝ち目は無くなっちまう!」

 「ぐぬぬ・・・でも、お父様だって負傷してるのよ!?あたしまで捕まっちゃったら、どうするのよ」

 「カエデの姉御なら!絶対に!捕まる事ァ無ェ!何故なら!兄貴が!一番!信用してるからな!」

 

 喋りながらも一撃で鏡の人形一体を粉砕していく赤鬼が、まだ増え続ける鏡の人形達に身体を囲まれ始めていく。

 

 孤立し始めたこの状況でも、赤鬼の声はカエデに良く届く。

 

 「なんとしても、兄貴と姉さんを助けてやんな!」

 

 赤鬼の背後ではカエデが鏡の人形を殴り倒し、その衝撃で身体ごと人形を押しつぶして、部屋から脱出する。

 

 「その甚兵衛がありゃあ、色々出来るからよ!親分の事はこっちに任せろい!」

 「・・・分かったわよ!」

 

 赤鬼はカエデを信用して、ギンジの事を頼んだのだ。

 

 本当だったら家族であるソウジロウの下へと、今すぐにでも向かいたいはずなのに。

 

 それでもカエデは信じたのだ。

 

 赤鬼という頼りになる男の事を。

 

 この仲間だったら、絶対に家族を助けてくれると。

 

 「絶対に無事であたしの所に戻りなさいよ!もしまた勝手に居なくなったり、それこそ死ぬ様な事になったら、今度はミドリコだけじゃなくて、あたしも許さないんだからね!」

 「ヌハハ、ガッテンだ!うりゃあーー」

 

 カエデが飛び出た部屋の中では、空気圧をまとめて開放したかの様な大きな爆発が発生し、鏡の人形達が一斉に粉々に吹き飛ばされていく。

 

 しかし生き残った鏡の人形達が、感情を宿さない無の顔でカエデへと進行を変えていく。

 

 「どら、行かせねぇよ!」

 

 カエデの背後に迫ろうとしていた人形が、頭上から振り下ろされた赤い拳によって無残に破壊されて、ついに廊下を走るカエデに手が届かなくなっていく。

 

 「本当は親を助けたいけどなぁ・・・自分が恋した漢の為に、今からあの方は命賭ける気で走り出したんだぜ。今から必死になる姉御の邪魔ァさせないように、俺っちは今必死なんだよ、鏡の怪人」

 『あらまぁ随分とお熱なのね、赤鬼』

 「お前とは違うんでな。人を愛する心っちゅーもんを持ってるでな」

 『・・・ムカつくわね』

 

 どこから見ているかは最早気にしていないが、赤鬼を捕まえる事は不可能と判断したのか、鏡の怪人が震える声でヘヴンホワイティネスを追いかけようと手を動かした。

 

 いくつものモニターと鏡をつなげた暗闇の中で、舌打ちをすると、鏡の怪人の右下に赤鬼と眼が会う様な、モニターが見つかった。

 

 「やっぱりな、見ると思ったぜ」

 

 オリハル金砕棒で軽く小突くと、鏡の怪人の眼の前のモニターが一枚消える。モニターの向こう側から、無理やり壊した様なやり方で、鏡の怪人に挑発しているのだ。

 

 『馬鹿の癖に・・・総統閣下によって造られた恩義も忘れて、力のある世界の興りにすら興味をなくして・・・挙げ句、この私に喧嘩を売るなんてね・・・』

 「お前も同じだろ。俺っち達の兄貴を捕まえて、ミヤコ姉さんにヒデェ事して、カエデの姉御をキレさせたろ。ソウジロウの親分にまで傷をつけて、ここに住んでる使用人だって恐怖のどん底に落とした」

 

 同じ怪人四天王の席に座っていたからこそ、この二人の中である一つの想いが決裂する音が聞こえた。

 

 それは戦わずして、なんとか会わないでおく方法。

 

 お互いが怪人として造られた時は、家族でもないし、兄弟でもないし、だけど同じ血が流れた、他人とも呼べない不思議で不気味な関係性になっていた。

 

 怪人として生きた彼らにしか分からない、複雑な感情が入り乱れていたのだ。

 

 しかし、今こうしてお互いに許せない事、お互いの内に秘めた正義の下、許せないモノは譲れない事へと変わり、二人共ここで戦う事を選ばないといけなくなったのだ。

 

 「俺っちはヘヴンホワイティネスだ。かつては悪事に手を染めても、今はこの街を守る為に戦ってる」

 

 拳を固く握って、赤鬼はもう一つ、鏡の怪人の眼となっている窓ガラスを一枚叩き割る。

 

 自分がこれ以上無いぐらいい愛している甘白ミドリコの顔を思い浮かべて、彼女が悲しむ様な事をしないと誓い、赤鬼はヘルブラッククロスを退職して寝返った。

 

 この発言は、完璧にヘルブラッククロスとの決別を表す言葉として、鏡の怪人に未練を残させない様にした、赤鬼なりの最後の言葉にしたつもりなのだ。

 

 『・・・ならば、私達は、とことんヘルブラッククロスとして、この世界を変えてみせるわ。今日は、ヘヴンホワイティネスの最後の日よ!』

 「やってみろ!」

 

 カエデの背中が見えなくなり、その変わりに廊下を進軍しようと動きだす鏡の人形達を、赤鬼がなぎ倒して行く。

 

 一撃で3体纏めて粉砕するも、廊下に出たのが運の尽きか、赤鬼mの足元に人形達が絡みついて、その動きを止めた。

 

 「どら、離せ!」

 

 背後も正面も頭上も真下からも、全て鏡の人形達が腕を尖らせて、赤鬼に我先と攻撃を一斉に繰り出してきた。

 

 鏡の人形達に全身を包み込まれて、ドームの様に固まったこの状態の中からは、肉を裂いてぶちぶちと切れる音が聞こえてくる。

 

 「空・砕・烈・拳!!」

 

 そんなドームの内側から、赤鬼は空気の拳を叩き出して、鏡の人形がドームの前半分を打ち壊す。

 

 崩壊したドームの背後へと、オリハル金砕棒を振り回して、身体に突き刺さった人形達を次々と叩き壊していく。

 

 「空鬼摩殺(くうきまさつ)!」

 

 オリハル金砕棒を振り回した勢いで、自分の武器に熱と空気が混ざり合い、オリハル金砕棒の先端が着火。

 

 神宮亭の廊下で、燃える赤鬼の大回転攻撃が、鏡の人形を燃え壊して、鏡の怪人の一手をどんどん破壊していく。

 

 だが、それだけ破壊しても、鏡の人形達は復活し続け、赤鬼を狭い廊下に閉じ込めるには十分な数の暴力で、彼は次第に追い詰められていく。

 

 「どけぇえええ!!親分の所には、十五夜の旦那だけじゃねぇ、俺っちも行くんだ!!」

 

 燃える赤鬼の正面には、鏡の人形が無の表情のまま、腕を尖らせていた。

 

 無数に伸びる人形達が、赤鬼の眼の前で命を奪おうとその腕を、突き出して来た。その奥からは、光の反射なのか、青白い光まで見えている。

 

 その青白い光は、なんとなくだけどここで終わりを告げている様な、天国への光にも見えた。

 

 (カエデの姉御と約束したからにゃ、泣き言なんて言ってらんねぇしな・・・)  

  

 それでもこの数を相手に、ほぼ無限に出てくる鏡の人形を相手に、そして最後はカエデとの約束を守る為に、赤鬼は精一杯戦わないと行けなかった。

 

 「クソッタレがぁぁ!!」

 

 叫ぶ。思いっきり叫ぶ。

 

 自分が任された事なのだ。

 

 自分を仲間と認めてくれて、居場所をくれて、生きる意味をくれた仲間達の事を思い出して、赤鬼はありったけの力で燃える身体に鞭を打つ。

 

 「ビーム剣術──」

 

 赤鬼が雄叫びを上げた狭い廊下では、一瞬で静寂を迎える様な透き通る声が、鏡の人形達の動きを止めさせた。

 

 「第三の魔法!」

 

 そしてもう一人の声が、赤鬼の背中を伸ばす。

 

 何も仲間はカエデだけじゃない。

 

 ギンジだけでもなければ、ミヤコだけでもない。

 

 「ヘヴン・トランプル!」

 「エンジェラ・カジャオング!」

 

 青く白い斬華の竜巻が、廊下いっぱいに走り、鏡の人形とまだ残っている窓ガラスを纏めて斬消滅(ざんしょうめつ)させていく。

 

 粉すら残さない、未来の斬撃が赤鬼の窮地を助けたのだ。

 

 そしてその身動きが取れなかった赤鬼はと言うと、もう一人の声が出してくれた言葉は、今なによりもありがたい最大の力になった気分だ。

 

 怪人の細胞だけではなく、カエデ達の変身スーツだって強化してくれる、その対象者を一時的に次の段階へと進化させてくれる、心強い大技が、赤鬼に命中していた。

 

 「オオオオオォォォ!」

 

 赤鬼の身体が黒く染まっていき、艶の良い肌へと成り代わり、さらには踏ん張って吸い込んだ空気が、そのまま自分の身体の中で燃えるエネルギーへと変換してくれる、赤鬼の次なる姿へと、文字通り進化させてくれた。

 

 雄々しい一本の角はさらに太く、固く、長く、反り返る。

 

 牙も硬く、顎の力で噛み合わせても砕ける事の無い、最強の牙となった。

 

 オリハル金砕棒にもその力が活きたのか、元々鈍色の八角の棒は更に禍々しさと漆黒の強さを蓄えて、正義の象徴とも呼べる白さと、対を成す様に一面ずつに白と黒が織りなし、手元の柄部分が真紅の色に変わっていく。

 

 筋肉量も尋常じゃない程に膨れ上がり、上半身は赤みがかった黒に肌となり、黒い甚兵衛はその膨張に耐えきれず破れていってしまう程だった。

 

 言うなればこれこそが赤鬼のフェーズ3の真の姿。

 

 一時的とは言えど、赤鬼の潜在能力を今現状で全て引き出してくれたのだ。

 

 「ヌハハ・・・良い登場してくれるじゃねぇか、旦那、レンの姉御」

 

 口を引き上げて、牙を見せつけながら笑みをこぼした赤鬼の左右には、白い本を持ち、勇気を見せる立ち姿で現れたケイタと、ビーム剣を最大出力で展開させたレンが、赤鬼を守る様にして駆けつけてくれたのだ。

 

 『ようやく現れたわね!ヘヴンホワイティネス!』

 

 そんな彼女達の登場に嬉々として反応したのは、どこかから見ている鏡の怪人。

 

 ヘルブラッククロスに楯突く愚か者の二人目が現れた事で、鏡の怪人の殺意がマックスまで膨れ上がっていく。

 

 しかしレンはそんな事よりも、自分の親友であり仲間でもあるカエデの家がこんな無残な有様になっているのを見て、もう我慢も容赦もする気が無いという顔をしていた。

 

 「赤鬼、まだ居るよ。来てくれるとしたら、赤鬼が一番嬉しくなる人がね!」

 

 ケイタの声と笑顔で安心した赤鬼の真横で、銃声がなった。

 

 空気の破裂する音が廊下に反響して、再度現れる鏡の人形の頭部を正確に撃ち貫いた、鉛と撃鉄の音が。

 

 「待たせて悪かった・・・」

 

 玄関の方からコツコツと音を鳴らして、拳銃を二丁構えた女性は、赤鬼が見たら絶対に喜ぶ、あの人。

 

 「事情はだいたい把握したよ。ヒトシさんからの連絡でな・・・」

 

 その女性は怒りを宿した口調をしており、いつもの姿に肩ベルトと、腰には拳銃のホルスターを装着し、季節問わずに履いているストッキングには、大口径の銃機に合わせるタイプのバレットベルトと、ナイフを括り付けた装備をしている。

 

 ふんわり巻いた髪と、勇ましさのある顔。指先の開いた手袋をつけた彼女の背中には、やはり円型の筒状に伸びたロケットランチャーが背負われていた。

 

 「おまけに赤鬼まで傷つけてくれるとはな・・・」

 「同意。私達の仲間を、傷つけたら、誰であっても許さない」

 「僕もこれは許せないと思うな。ギンジの言った通り、大変な事になっているしね」

 「ヌハハ・・・」

 

 赤鬼が一番待ち望んだ女、甘白ミドリコまでもがここに戻ってきてくれたのだ。

 

 「赤鬼、カエデはどうした?」

 

 ミドリコの言葉に赤鬼が嬉しそうに答えた。

 

 「へい、鏡の怪人をぶっ叩きに、先に行きやした。俺っちの役目は、ここで鏡の怪人の姑息な手を潰して、ソウジロウの親分の救出に向かう所でさ」

 

 赤鬼がそう説明している最中に、またもや鏡の人形達が復活していき、狭い廊下の中で腕を尖らせながら、集まったヘヴンホワイティネスに殺意を向けている。

 

 「兄貴とミヤコ姉さんもピンチなんだ。俺っちから指示を出しても良いか?」

 「この状況をよく知っているのは、ここで頑張っていた君だけが良く知っている筈だ。私達は君の指示に従う。だから、協力して敵を追い出すぞ赤鬼」

 「同意。カエデの家は私の家も、同然。赤鬼、お願い」

 「赤鬼、僕も全力でサポートするよ!頑張ろう!」

 「ありがてぇや・・・!」

 

 赤鬼が豪腕を振り、鏡の人形達を破壊していく。

 

 「レンの姉御とケイタの旦那は、使用人達を安全な場所へ!くれぐれも、鏡の変わりになるモノがある道には連れて行かないでくれ!そしてミドリコは俺っちと一緒に、鏡の怪人につながるでかい鏡を探しに行くぞ!」

 「でかい鏡を・・・?」

 

 赤鬼の出した指示に、ミドリコが小首をかしげる。

 

 「鏡の奴と眼を合わせたら俺っち以外は、多分一発で負けだ。けどな、ミドリコの魔法があれば、敵に一泡吹かせられるはずなんだ」

 「・・・私の魔法、第三の眼か」

 

 四人が意を決して、鏡の人形達に臨戦態勢を取り出して、荒れ果てた神宮亭の廊下で交戦を開始する。

 

 「鏡の怪人の思い通りにはならねぇって事を、教えてやろうやァ!」

 

 フェーズ3となった赤鬼が叫んだ。

 

 その声に呼応して、レン、ケイタ、ミドリコも鏡の人形達を蹴散らしながら、それぞれの作戦の為に行動を開始したのであった。

 

 全ては神宮亭を救う為に、カエデの家族を守る為に、ギンジとミヤコを救出する為に。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 「許さない・・・っ」

 

 ギリギリと歯を噛みながら、カエデは神宮亭の廊下を駆け抜けていく。

 

 行く宛なんて無いが、どうにかして鏡の怪人を止めないと行けないからだ。

 

 『まだ私の居る場所を見つけられないのかしら?』

 「うるっさい!」

 

 走りながら左手で一枚の姿鏡の中心を殴り割る。

 

 「悪の組織が図々しく、あたしの家に入り込まないでよ!」

 

 カエデは不安も怒りも混じった声音で、強く甚兵衛の一部を握りしめる。 

 

 (鏡の怪人は鏡を使う事で、あたし達の世界に干渉出来て、こっちの事は向こうには筒抜けになっている・・・向こうから手出しは自由に出来るけど、あたしの方からは捕まるしかないのよね・・・)

 

 走りながらも結局出来る事は無く、鏡の怪人が干渉出来ない様にして、鏡になりうるモノを破壊して回るだけ。

 

 故に自然とカエデが向かっていたのは、神宮亭の奥に立てられているドーム。

 

 ソウジロウが今居る場所へと、自然と向かってしまっていた。

 

 (どうすれば良いの・・・ギンジ・・・)

 

 困惑しながらもお父様の事よりも、ギンジの心配の方が勝っている。

 

 (ったく、本当にあたしが居ないと何も出来ないんだから・・・) 

 

 頭ではそんな憎まれ口を叩いていても、本当はギンジが居ないと何も出来ていないのは自分の方だったと思ってしまう。

 

 思えば、佐久間ギンジという怪人が現れて、彼と共闘を結ぶ事になって、様々な言い合いと協力をしながらも紆余曲折を得て、ここまで一緒に戦ってきたのだ。

 

 カエデにとってもギンジにとっても、お互いに背中を預けられるのは、いつしかレンでは無くギンジになっていた。

 

 そんな頼れる相棒が今、敵の術にハマって大ピンチと来れば、カエデは居ても立っても居られない。

 

 まさかギンジが敵に抑え込まれるとは思っても居なかったからだ。

 

 右手に結んだ黒い甚兵衛の一部を見て、カエデは走る足を止める。

 

 「これがあれば、なんか色々出来る・・・か」

 

 廊下の次の窓を蹴破って、カエデは中庭へとその姿を踊り出す。

 

 落ちてくるガラス片の事なんて何も気にせずに、すぐに行動を別のb書へと移した。

 

 向かう先はまだ壊されていない噴水。

 

 小さな庭園は美しく彩られているが、その美しさが一層カエデを暗い道に引き込む様にさえ見えている。

 

 「あっちにはお父様が居るわね・・・」

 

 中にはの北側に眼をやれば、その先の小さなトンネルが見えて、その奥には神宮亭のドームがある。

 

 そしてそのドームには父親であるソウジロウが居ると、カエデは硬唾を飲み込む。

 

 今この瞬間の選択肢はどっちが正しいのだろう。

 

 家族を仲間達に任せて、自分はやっぱり父親を助けに行くべきか、それとも最後まで正義のヒーローとして、悪の怪人を仕留めに行くのが優先か。

 

 その中でもどちらにも自分の中の愛情が、カエデを揺れ動かす。

 

 ソウジロウに向ける尊敬や、父親としての威厳、財閥長としての偉大さ。

 

 ギンジに向ける信用、相棒としての力強さ、そして恐らく人生史上一番はじめに好きになった人。

 

 ・・・。

 

 風が荒々しく吹き始める。

 

 庭園の砂を舞い飛ばす様な強い風が一度吹いて、それでもカエデは業を煮やしている。

 

 「・・・っ」

 

 自分が迷わないように、家族を守る為に背中を押してくれたケイタ。

 

 自分が今一番守りたいモノの為に、背中を押してくれた赤鬼。

 

 ドームの方角を見て、再度噴水の方角を見る。

 

 「・・・ごめんなさい」

 

 最後に空を見上げて、カエデは申し訳ない気持ちを大きく持ちながら、日が傾き始めた朱の空へと、謝罪の言葉を投げかける。

 

 黒い甚兵衛を握りしめて、カエデは意を決して透き通る水を噴出し続ける噴水へと顔を覗かせた。

 

 そこに映った自分の顔を見て、そしてすぐに鏡の怪人がまるで背後に居るかの様に、噴水に映る自分の横に現れたのだ。

 

 『怖じ気ついた?』

 「別にそんなんじゃないわよ。今のあたしは、なんか色々出来るから・・・」

 

 黒い甚兵衛の一部を巻きつけた右手で拳を作り、カエデは思い切り噴水に飛び込みながら拳を突き出した。

 

 「あんたを倒しに来たのよ!」

 

 鏡の怪人の能力は未だ不明な事が多い。

 

 赤鬼の説明だけでは最早不十分に近い。

 

 だけど、赤鬼の言うとおりに行動したら、きっとギンジ・・・あとついでにミヤコを助ける事が出来るかも知れない。

 

 この甚兵衛にどういう意図があるのかはわからないが、その色々の中で、カエデに一つの可能性があるとすれば・・・。

 

 鏡の怪人の居る場所にたどり着けるのでは無いだろうか。

 

 そんな淡い期待を込めて、カエデは渾身の右ストレートを繰り出しながら、噴水へとその身を投げた。

 

 一瞬、水が身体にまとわりつく感じがしたけど、それでも次に来たのは水から抜け出して、身体が別の重力に引っ張られる感覚がカエデに振りかかってきた。

 

 これは・・・。

 

 (落ちる!)

 

 水の中に居た感覚は抜けて、一気に呼吸が出来る様になる。

 

 その中でカエデは、右ストレートを真下に向けている感覚で、垂直に落下した。

 

 「・・・何故!?」

 

 焦った声が聞こえた。それは、鏡の怪人の声だった。

 

 「言ったでしょ!」

 

 鏡の怪人の頭上で、神宮カエデは吠える。

 

 「今のあたしは・・・なんか色々出来るのよ!!」

 

 鋭いギアの回転音を鳴らして、ガントレットにありったけの力を込めた、右拳の一撃は鏡の怪人には当たらず、その勢いを利用して着地の衝撃に使用する事にしたのだ。

 

 「よくもあたしの家に、あたしの家族に、あたしの仲間に手を出したわね・・・覚悟しなさい」

 「・・・よくわからないけど、どうやら赤鬼の仕業ね。こっち側に来れる手段を用いるなんて」

 

 殴った衝撃が煙を巻き起こして、軽く陥没したクレーターからカエデが煙を腕のひと振りだけでかき消す。

 

 そこに見えたのはいつもの白いスーツではなく、黒を基調とした赤いラインが縦に二本入った、噂のヘヴンホワイティネスの強化状態の姿だった。

 

 「ギンジとミヤコ・・・家も全部返してもらうわよ」

 「いいわ、直々に殺してあげる・・・最後に勝つのは、この鏡の怪人よ!」

 

 ヘヴンホワイティネスとヘルブラッククロスの終わりなき戦いの一つが、今ここで始まった。

 

 

〜鏡の世界の決戦〜

 

ヘヴンホワイティネス・神宮カエデ

 

      vs

 

ヘルブラッククロス、怪人四天王・鏡の怪人 

   

 

続く

 

 

 




お疲れ様です。

カエデと鏡の怪人の戦いが始まりました!

キャラネタ書きます

神宮カエデ
どれだけ強くあろうと振る舞っていても、中身は所詮女の子。
正義のヒーローとして、父親ではなくギンジを助ける道を選んだ。
きっと父親は仲間たちが救い出してくれるはず!

宮寺レン
仲違いが怖くてあまり踏み込んだ事を言えなかったが、ケイタが居てくれた事で余計な心配に終わった

角倉ケイタ
意外とデリカシーの無い所がカエデを救った。こんな性格も時にはバランサーとなって仲間の背中を押してくれる。

赤鬼
結構ピンチになっていた。実は多人数に押されると弱いタイプ。
戦闘員とか魔王軍ぐらいじゃ相手にならないだけで、怪人の能力や怪人二人との戦いになったりすると、結構不利になりやすい。
フェーズ3では真の姿となったけど、時間経過で戻る。

甘白ミドリコ
いつもどこから武器を持ってきているのか。
相変わらずロケットランチャーを背負っているが、今回使えるのか?

鏡の怪人
ついにカエデと対峙した怪人四天王の最後の一人。
最後とは言うが、赤鬼と雪の怪人はちゃんと生きてる。
骨の怪人は魔法界でボコられて亡くなった。
新怪人四天王の、鋼、蜘蛛、はカエデとレンに敗北し、武者の怪人は多分生きてる。いや多分死んだ。

・・・

次回はカエデvs鏡の怪人勃発!
カエデが全編通してほぼ主役の章なので、頑張りますぞ!
ちゃんとギンジ君にも出番がありますぞ!

次回の更新ですが、年末も近く、お正月はゆっくりしたいので、
1月14日ぐらいから投稿できればと思います。
ゆっくりしていますが、物語は必ず完結まで書ききりますので、どうかお付き合いいただければと思います。

それでは良いお年を!今年もありがとうございました!!
また次回!!
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