正義のヒーローヘヴンホワイティネス   作:アトラクション

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皆様、新年あけましておめでとうございます!

今年もヘヴンホワイティネスをよろしくお願いいたします!!

さて今回は、去年みたく暇なお正月ではなかったので、3話一気投稿が出来ず、一話だけになっております!長期休暇が欲しいよぉ・・・

今年も週1、良くて週2で投稿できればと思いますので!

それでは本編へどうぞ!


109・サラリーマン佐久間銀治

 相変わらず神宮亭への襲撃が続いている中、狭い廊下に埋め尽くされた鏡の人形達を蹴散らしながら、赤鬼、ミドリコ、レン、ケイタの四人はカエデの後を追う。

 

 この神宮亭のどこにでも鏡の人形達は湧いて出てきては、すぐに赤鬼達の進行を妨害してくるのだが・・・。

 

 「どけぇぇ!!」

 

 ケイタの魔法によって強化された赤鬼の拳は、空気を殴り飛ばすだけではなく、飛ばした空気を乱反射させて、鏡の人形達が次々と砕けていく。

 

 天井のシャンデリア、中途半端に割れた窓、銀のエレクター、神宮ソウジロウの胸像の反射、その全てから鏡の破片と鏡の人形達が次々と召喚されていく。

 

 最早距離等の制限も無くし、遠隔で攻撃出来る兵隊を造る事が出来る、鏡の怪人の能力の真骨頂。

 

 人形だけを見れば芸術的にも思える美しく反射する怪物。

 

 そのほとんどが、人間を軽く殺せる程の実力を持っていて強いのだが、もっと強い怪人とヒーローがその人形達をなぎ倒して行く。

 

 先ずは青白いビームの剣身を、しなやかに伸ばして、レンが攻撃の姿勢に出た。

 

 身体の横から光を伸ばすように、腰を落としながらビーム剣を振り抜いた。

 

 「ビーム剣術」

 

 赤鬼よりも前に出て、鏡の人形達を眼の前に、レンが鋭い眼光でビーム剣から強烈な光を発動する。

 

 「シャトルフ・ヴィント!」

 

 腰を落として、身体を捻り、腕の力で全身に回転を加えた青白い閃光回転斬り。

 

 横一閃に鏡の人形達がキレイに斬り崩され、一列消え失せる。

 

 さらにもう一列後方に並ぶ鏡の人形達をも、もう一回転の斬撃が斬り滅ぼす。

 

 二回転のビーム剣の中心で、レンがビーム剣の形状を変更する。

 

 片手で持てる大きさを更に軽量化させ、二本の剣が姿を表す。

 

 ビーム剣・デュアル。二刀流になり、手数を増やす攻撃形態。

 

 「レン、下がれ」

 

 ビーム剣・デュアルを上に振り上げた勢いで、後方に飛びながら、赤鬼の背後に飛び戻ってきたレンと入れ替わる形で、今度はミドリコが二丁のサブマシンガンを構えて、胸の前で交差させる。

 

 伸ばして交差させた手の先には、先にもあった通りのサブマシンガン。

 

 そこに入っているマガジンは通常160発しか入らないマガジンよりも、縦に長く、横に大きい特別性。

 

 ミドリコの特別カスタマイズであり、通常の三倍弾丸が入ったマガジンが、そのサブマシンガンだけではなく、腰にも肩にもベルトの様に装備されている。

 

 もちろん入っている弾丸そのモノは、対怪人、対ヘルブラッククロス用にカスタマイズされた炸薬式薬莢。

 

 重装貫弾・小型弾丸(じゅうそうかんだん・ミニバレット)

 

 「掃射する!」

 

 交差して伸ばして両腕の先の銃口からは弾丸を射出したと同時に、炎が吹き上がる。その炎の奥からは特別性の弾丸が複数個飛び出していき、鏡の人形の胴体、頭、関節へと的確に弾丸が命中していく。

 

 パリンパリンと、鏡の人形達が割れて崩れて行き、更に小型の弾丸は重さと軽量の2つを丁度良い火薬の調合量と合わせたバランスの取れた弾丸は、一枚鏡を割って止まることは無く、後方に再び召喚される鏡の人形達を、召喚された瞬間から無力化していく。

 

 「まだ出るのか・・・ならば」

 

 二丁のサブマシンガンの弾丸が空になった事で、その得物を上に投げるミドリコ。

 

 腰の左右に取り付けた拳銃を二丁取り出して、ハンドガンとは思えない速度でマズルフラッシュを叩き出す。

 

 弾丸はめちゃくちゃに飛ばしているように思えて、実は正確無比。

 

 一つひとつの弾丸が確実に人形達を粉砕していく。

 

 拳銃二丁も弾切れを起こすと、その拳銃も頭上に放り上げた。

 

 そして変わりに最初に投げたサブマシンガンが落ちてくるのだが、肩に取り付けたマガジンの口を上に向けて取り出すと、落ちてきたサブマシンガンの落下に合わせて装填が完了し、サブマシンガンは背中へと巻いて戻す。

 

 今度は両足につけた拳銃のマガジンを取り出すと、お手玉の要領で、落ちてきた拳銃とマガジンをと入れ替えながら、4つ交互に手元に置いては離しを繰り返し、こちらも装填を完了させる。

 

 そしてその拳銃も腰に戻すと、後ろ腰に折りたたまれた片手で持てそうな、セミロングバレルの拳銃を取り出す。

 

 前方三列後ろから鏡の人形が腕を尖らせて、ミドリコへと突きこんでくるが、ミドリコは慌てずに取り出した拳銃を鏡の人形の顔面へと銃口を静かに向けた。

 

 手にしたセミロングバレルの拳銃は、銃身そのモノを短くしたライフル。

 

 ただの拳銃には留まらない、銃身そのモノを鉄のフレームでカスタマイズしたライフルは、オブレツライフル。

 

 「終わりだ」

 

 モノ言わぬ人形へと静かに引き金を引くと、ライフルに込められた弾丸は、人形の顔に風穴を開けて、その奥後方にいる人形達の顔面を順番にくり抜いていく。

 

 「どら、次は俺っちが行くぜ!」

 

 ミドリコの勇姿に腰を震わせた赤鬼が、黒く進化した肌を膨張させて、大きなオリハル金砕棒で、下から人形を殴り飛ばす。

 

 神宮亭の廊下と天井をも破壊しかねない程の強烈な一撃が、鏡の怪人を叩き砕き、殴りつけた風圧によって砕けた破片ごと奥へと追いやっていく。

 

 「これ以上・・・カエデの姉御の家を荒らすんじゃねぇ!」

 

 右手で拳を作りながら吠えると、その手に込めたのは力だけではなく、周りから吸い込む様にして集めた空気も拳に込めた。

 

 自分で操った空気と一時的なフェーズ3への進化による能力。そこに加えた空鬼摩殺の燃える力と合わせて、鏡の人形達の再召喚も間に合わせずに、廊下の奥へとどんどん追いやっていく。

 

 「空鬼烈拳!」

 「ロケットランチャー!」

 「ビーム剣術・スパイラル・トルネード!」

 

 廊下の奥に敷き詰められた人形と鏡の破片を巻き上げる空気と、身動きすらできなくなった人形達へ向けられたロケットランチャーと弾頭、2つの威力を引き上げる風と共に舞い上がる青白い斬撃の渦。

 

 三人同時の攻撃によって、鏡の人形達は破片もろとも復活と再召喚を封じられたまま、三人の大技によって撃滅されて行った。

 

 轟音を響かせた一撃は、振動と共にまだ名残りを残すが、ひとまず鏡の人形は全滅させたようだと、なんとなくの気配で察知した赤鬼は、ミドリコの肩を引いて、一度落ち着かせる。

 

 「さすがレンの姉御とミドリコだ。ケイタの旦那のおかげで俺っちも活躍出来てるしな」

 「でも、油断はしないで。まだ、敵はここに居る」

 

 レンの冷静さには赤鬼も少したじろぐ程だが、レンはレンで怒りも混ぜた口調を出している。

 

 その怒りは間違いなくヘルブラッククロスに向けられたモノであるのは間違いないが、その怒りの原因が神宮亭への襲撃によるモノだろう。

 

 スカイブルーの髪でさえも怒りで浮かび上がるキレっぷりに、進化して強くなった赤鬼も少しビビってしまう。

 

 「早く行くぞ。これ以上、姿の見えない怪人に好き放題させるわけにはいかないだろうしな」

 

 ミドリコが丁度良い所で喝を入れると、四人全員で次の目的の為に行動を開始する。

 

 「レンの姉御とケイタの旦那は2階に頼まい。使用人を物置部屋で待機させてんだ」

 「分かったよ。僕達に避難は任せて」

 

 ケイタが親指を立てて赤鬼の指示にうなずくと、赤鬼も同じ様に親指を立てて、お互いにうなずき合う。

 

 「ケイタの事は、私が守る。赤鬼は、ミドリコと一緒に、大元を叩いて」

 「もちろんだ。それで行くと、私の事は赤鬼が守ってくれるんだろうな?」

 

 レンの言葉にミドリコが反応して、いたずらっぽく微笑むミドリコの顔に、赤鬼が舌なめずりをする。

 

 あまりにも軽率なミドリコの微笑みに、赤鬼のリビドーがたまらなく上昇してしまう。

 

 こういうふとした瞬間のミドリコからしか得られない栄養素があるのだ。

 

 「勿論でい。俺っちだけがミドリコを守れるんじゃい!」

 「では、また会おう。カエデの家の使用人達を頼んだぞ、レン、ケイタ」

 「うん!ミドリコと赤鬼も気をつけてね!」

 「絶対に、ミヤコとギンジを助け出して」

 

 四人が円陣みたく手を乗せあって結託すると、レンとケイタは2階へ。

 

 赤鬼とミドリコは鏡の怪人の魔の手から、ソウジロウを逃しに行動を開始した。

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 「眠い・・・」

 

 ある一人の男が、枕元のスマートフォンのうるさいアラート音で眼が覚めた。

 

 時刻は7時30分。朝の心地よい日差しが、6畳の小さな部屋に差し込んで来ていて、とても心地よい暖かさが布団を超えて身体に染み渡る気分だ。

 

 「うーん、7時か・・・」

 

 寝ぼけ眼でスマホの時間を見て、男はまたも眼を閉じた。

 

 「ん・・・はっ!?30分!?」

 

 時間を再度確認して、男は一気に青ざめる。

 

 「やっべーよ遅刻だ!」

 

 布団を勢いよく蹴り上げて、ダボついたスウェットを脱ぎながら立ち上がり、急いで仕事に行く支度を始める。

 

 脱ぎながら洗面所に向かうかたわら、横っ腹を机の角にぶつけ、足を洗濯機の角にぶつけ、それでも焦りが勝っているのか、痛みを気にしていない様な素振りで、急ぎ支度を行う。

 

 「がー!寝癖は・・・いいか、行く途中で」

 

 頭は横と後ろを刈り上げて、上の部分だけを伸ばして残した髪型をしているこの男は、社会人としては絶対にあってはならない遅刻をしそうになりながらも、背広に袖を通してスラックスを履いて、革製の鞄を持って、急ぎ足で自宅を出る。

 

 小さくてボロいアパートだが、家賃がとても安くて住めば都なこの家を男・・・佐久間銀治はとても気に入っていた。

 

 「やべーよやべーよ、俺が居ないと仕事回らないのに・・・あーまたお嬢様に怒られるよ・・・」

 

 駆け足で最寄り駅に向かいながら、銀治は自分の所属している会社の事を一人で語散る。

 

 2022年・未鏡(みかがみ)市。

 

 2月14日、木曜日。

 

 普段はただのバレンタインデーとして世間は浮足立つ日だが、銀治は遅刻してしまいかねないこの状況に浮足立っていた。

 

 未鏡町の駅に走り込み、ギリギリの時間の中で駆け込み乗車をするというイメージまでは持てていたのだが、どういう訳か左足と横っ腹が痛い。

 

 今になって彼の身体に、机と洗濯機からの逆襲が襲ってきたのだ。

 

 「ぐおおお〜〜・・・このまま止まりてぇけど、痛い・・・」

 

 銀治が思い切り痛みに苦悶の表情を浮かべているが、それでも遅刻だけは出来ないのだ。

 

 何故なら彼は、黒十字株式会社、代表係長として若きエリートとしての期待を乗せられた、最高の社員だからである。

 

 「間に合ええぇーー!」

 

 周りに人が居ようと関係なく、銀治は思い切り叫ぶ。

 

 もう駅の改札は抜けた。

 

 階段も登った。

 

 後はホームまで飛ばせば良いだけなのだが・・・。

 

 「ドア、閉まりまぁす」

 

 駅員の無慈悲なアナウンスが銀治の耳に入り、一気に身体に緊張感が走った。

 

 「うおおおお乗ります!乗ります!乗らせてください、なんでもsいますから!なんでもするとは言っていない!!」

 

 思い切り叫んだが、眼の前で無情にも電車のドアは閉まり、銀治は泣きそうな顔のまま、絶望に打ちひしがれる事となる。

 

 「クソォォ!!!」

 

 元より早く寝て早く起きる生活をしていれば、こんなギリギリを攻める戦いをする必要なんて絶対に無いのだが、そんな事よりどうやって遅刻を言い訳しようか悩んでいる銀治に、生活の基準について考える暇はなかったのであった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 結局仕事の始業に間に合わず遅刻した銀治は、上司であるお嬢様・・・名前はまだ分からない上司にこっぴどく叱られて、半ば悟りを開いた顔で自分のデスクに座っていた。

 

 「せんぱ〜い、また遅刻ですか〜?エリートなのに情けないですねぇ」

 

 黒いスーツに、白のリボンブラウスを合わせた女性社員が、ケラケラと笑いながら銀治に挑発をしかけてくる。

 

 顔は可愛く、頼りになる後輩なのだが、銀治はこの後輩の言動がイマイチ苦手である。

 

 彼女の名前は畑中莉子(はたなかりこ)

 

 黒十字株式会社の中でもやり手のエリートで、かなり強引に商談を勧めては、受け入れない競合他社を思い切り金の力でねじ伏せる凶暴さを兼ね備える、悪魔の申し子でもある。

 

 「まぁ、佐久間さんらしいですけどね。みなさん、佐久間さんを頼りにしていますから、自然と疲労とかも溜まるのでしょう」

 

 もう片方の優しい口調で話してくれる女性社員は、艶の良い黒髪を短くカットしては、縁の無い眼鏡をつけているクールビューティーで、襟のついていないバンドカラーのジャケットに、波状のレースが目立つシャツを合わせた、スッキリとしていてフォーマルな印象を与える。

 

 そんな女性社員の名前は鈴村都子(みやこ)

 

 彼女もまたこの黒十字株式会社の重鎮とも呼べる若き天才であり、入社当時から銀治を横で支えてきた、切っても切れない相棒みたいなポジションに座っている。

 

 要所で銀治の仕事のサポートを行っている事から、まるで夫婦の様だとも噂される事もあるが、そう言った噂には耳を貸さないのが、彼女の魅力の一つとも取れるのだろう。

 

 「もっと、周りを頼ってはいかがですか?」

 「そうだよせんぱぃ、私達も居るんだしさ〜」

 

 二人の女性社員の言葉には銀治は、少したじろいでしまう。

 

 「うん・・・すんません」

 「ふふ、謝らないでください」

 

 都子が口元を隠して笑みを見せると、周りの男性社員の空気感が少し向上する。

 

 見た目も良い彼女が笑うだけで、男性社員の励みになっているのだ。

 

 「佐久間係長!」

 

 もう一つ、元気な声がオフィスの中に響く。

 

 周りの社員達が仕事する手を止めてしまう程に大きな声は、銀治を始め、莉子、都子もその声のした方へと目線を動かしてしまう。

 

 「係長、おはようございます!」

 

 体格の良い大柄な男性社員が、鼻を大きく広げてノシノシと歩いてくる。

 

 スーツは脱いでおり、白シャツをまくりあげて、腕に血管が浮き出るほどに筋肉質なこの男の名前は、大久(おーく)。名前の語呂の良さと、架空の生物として語れられるオークと合わせてそう呼ばれている。

 

 「今日こそあの契約、取りに行くんですよね!?」

 

 熱く仕事に生きがいを覚えるこの男の熱意は、とても銀治には出せない前向きさを持っており、銀治もまたこの男が居るからこそ、自分の仕事に集中出来ている事もある。

 

 「こんな虚栄だらけの世界に、僕たちなりの真実を与えに行きましょう!」

 

 大久が激しくそう言うと、莉子も都子もうんうんと力強く頷いている。

 

 「ああ、そうだな。皆、今月もノルマは達成しているからって気を抜くなよ!今月も新記録を達成して、来月の休みを多く貰うぞ!」

 

 銀治がデスクから号令をかけると、オフィス内の全員が旺盛に返事をする。

 

 この光景がまさしく銀治が求めている、誰かに頼りにしてもらい、誰かを頼りにすると言う真実の世界。

 

 もう生きた屍だなんて誰にも言わせない。

 

 (ん・・・?屍?・・・はて?)

 

 何故その単語が頭に浮かんだのか、自分でも理解出来ていないが、銀治は一先ず自分の仕事に戻り、今日のノルマを大きく達成しようと、後輩達にその背中を見せるのであった。

 

 サラリーマンとして、より大きい成果を残せば、自分の事を誰も彼もが、【居る者】として認識してくれる。

 

 もう絶対にこの幸せで充実した、自分の居るこの日常を手放したくはない。

 

 たとえこの世界が虚栄の世界でも、真実の世界でも最早関係ない。

 

 銀治は自分が自分で居られると、ただの人間であるだけに過ぎないこの世界での生活を大切に大切に、一日を過ごして行くのであった。

 

 

 

 

 

 

続く

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 画面一枚が真っ暗になり、その中で白く達筆に書かれた【続く】の文字を見て、映像が止まる。

 

 その映像を真正面に、指が爪の様に伸びた黒いガントレットが引き裂いて、甲高い怒りの声が仄暗い空間にこだまする。

 

 「何が【続く】よ!ふざけるのも大概にしなさいよ!」

 

 ここは鏡の怪人の、鏡の世界。

 

 そんな世界の中心で声を荒げたのは、神宮カエデだった。

 

 今彼女が見せられたモノは、紛れもなくギンジの姿と、ギンジの無くは無いであろうと考えられる日常の風景だった。

 

 だが、そんなカエデの知り得ない映像の事は、ただのまやかし。

 

 まやかしに過ぎないと、カエデは怒りでその拳を振るったのだ。

 

 「あら、気に入らなかったかしら?ヘヴンホワイティネス」

 

 羽衣を揺らしながら、目隠しをした顔でほくそ笑むのは、鏡の怪人。

 

 鏡の怪人の背後には、両目に鏡を貼られて眠ってしまっているギンジと、黒い十字架に貼り付けにされているミヤコの姿があった。

 

 まるで人質を取られない様に、鏡の怪人はカエデの前に立ちふさがっている。

 

 「気に入らないとかじゃないでしょうが!なんなのよアレは!」

 

 アレとは先程まで見せられていた、サラリーマンとなっていたギンジの映像の事だ。

 

 「ふふ、貴女もドクターミヤコも、進化の怪人の事をずっと気にかけているみたいだから、今彼がどうなっているのかを見せてあげただけよ。どうだったかしら」

 

 鏡の怪人が悠長に話している間に、カエデは身体を捻りながら思い切り威力の高いハイキックをお見舞いする。

 

 しかしながらその攻撃は顎を掠める程度に終わり、半歩下がった鏡の怪人にはなんのダメージにもなっていない。

 

 「ギンジに何をしたの!」

 「ふふ・・・アハハハハ。必死ねぇ、ヘヴンホワイティネス」

 「あたしの・・・いや、仲間がピンチになっているのに、必死にならない方がどうかしてるのよ!」

 

 腰を落としたストレートは防がれ、ショートアッパー、突き、膝落とし、踵落とし、回し裏膝、2連回し蹴り、モンゴリアンチョップ・・・。様々な攻撃を繰り出して行くも、無駄に空を切るだけに終わってしまい、変わりに空振った衝撃だけが、行き止まりの見えない仄暗い空間の奥へと飛んでいく。

 

 一撃だけでも当たれば華奢な身体をしている鏡の怪人なんて、簡単に壊せそうな気もするが、やはり相手は怪人だ。

 

 そう安々と倒せるモノでもないのだろう。

 

 たとえ見た目で弱そうと判断しても、あの赤鬼と同じ力量を持っている怪人なのだ。

 

 油断は絶対に出来ないし、決して軽く見る事はしない方が良い。

 

 もっと言えばこの鏡の怪人は、あのギンジでさえも完封しているのだ。

 

 完封された挙げ句、架空の町、架空の世界でサラリーマンなんかをやらされている。

 

 辱めよりはマシかも知れないが、それでも自分の好きな人が敵の術にハマって何も出来ないで居るのはとにかく嫌だとカエデは思っていた。

 

 「もう一度聞くけど、ギンジに何をしたのよ!答えなさい!」

 「あら、知る必要があるのかしら?もうすぐ貴女も死ぬんだし」

 「カエデ、ギンジ君は、こいつの能力で・・・鏡の監獄に捉えられてるよ!」

 「鏡の監獄?」

 「余計な事を・・・」

 

 二人が戦う少し離れた所では、ミヤコがギンジが今陥っている状況について説明してくれた。

 

 「いっつも気をつけろってあたし達には言うくせに・・・世話が焼けるんだから」

 

 倒れているギンジへとチラリと視線を動かして見やると、今度は鏡の怪人が2枚の鏡の破片を持ち出して、ミヤコの方へと飛び出していく。

 

 「進化の怪人の眼の前でもとは考えたけれど、やっぱり先にドクターミヤコから殺してやるわ!」

 「くふっ・・・!?」

 

 黒い十字架に貼り付けにされているミヤコが、殺意を大きく見せている鏡の怪人に、引きつった笑みを見せる。

 

 流石にこの状況は、柏木タツヤに捕まって居た時よりも、より強い巨大な悪意を感じ取ったのか、ミヤコが普段見せないような狼狽えっぷりを見せる。

 

 (不味い、このままじゃミヤコまで・・・)

 

 ギンジを見ていた事に気を取られて、両方ピンチになってしまっていた。

 

 (かくなる上は・・・こいつに通用するか分かんないけど・・・)

 

 カエデがギンジの下まで飛び出して、思い切り息を吸い込んで、上を見上げながら身体を反らせた。

 

 その姿勢のままもう一度呼吸を整えて、一気に腹から声を出して吠える。

 

 「ギンジーーー!ようやく復活したのね!遅いのよ!」

 「え!?ギンジ君!?」

 「そんな馬鹿な・・・!?」

 

 カエデが思い切り叫んでは、ミヤコもそれを期待していたのか、鏡の怪人を避けて顔を覗かせる。

 

 そしてカエデの言葉を信じた鏡の怪人は、今一番恐るべき相手でもあった進化の怪人の復活に酷く動揺したいる様子でいるが、振り返ったその先では、ギンジは倒れたまま、鏡も剥がされていない。

 

 つまりまだ鏡の怪人の能力は破られていないと言う事。

 

 変わりに・・・。

 

 「『そんな馬鹿な』って?ええ、そうよ、そんな馬鹿な事、ある訳ないでしょう!」

 「・・・くふふふ、カエデにしては随分セコイね・・・」

 

 ミヤコはこの一瞬で全てを理解した様だ。例えギンジが復活していたとしても、きっと同じ事を言ったに違いないだろうが。

 

 そしてセコイと言われた神宮カエデは黒いスーツのまま、右腕に赤と白のオーラが螺旋状に巻き付いた拳を構えていた。

 

 「貴様・・・!」

 「ギンジに何したのか答えないから、直接あんたの身体から聴くことにするわね!」

 

 ギンジ復活と言う騙しを使って、カエデは鏡の怪人の懐に潜り込んだ。

 

 今こそ家への襲撃、父であるソウジロウへの攻撃、更にミヤコをさらい、ギンジにまでひどい目に合わせた事、全てに清算してもらわないと気が済まない。

 

 「必殺!」

 「おのれぇ・・・っ!」

 「絶・バスターフィスト!」

 

 顎を真下から打ち抜く大振りのアッパーカットが、驚愕に染まる鏡の怪人を正確に狙ってついに攻撃が届いた。

 

 命中したガントレットが骨身に命中して、鏡の怪人は大の字に打ち上げられる。

 

 カエデの拳から、カエデの肩から、カエデの全身から思い切り力を込めた最強の一撃が、鏡の怪人の脳髄から足先までを大きく震わせる。

 

 「吹・き・飛・べっ!」

 「がはっ・・・このぉ・・・」

  

 不意打ちによる強烈な攻撃は、届いても鏡の怪人の撃破には至らず、しかし確実に怪人の生命活動に一瞬だけでも、死に近づけさせた。カエデと言うヘヴンホワイティネスの底力を、その身に届かせた、正真正銘の拳。

 

 正しく“絶”の一文字、“絶”の一撃。

 

 「愛する総統に造られたこの顔を・・・この美しき顔によくも・・・許さない!」

 

 宙を舞う様な鏡の破片を召喚して、それを足場に空中でバランスを取り直してから、ミヤコを貼り付けた黒い十字架に乗った鏡の怪人が、口元から溢れた血液を、白い羽衣で拭うと、顔に大きな血管が浮かび上がる程にキレた表情をしていた。

 

 見下ろす様にして鏡の怪人がカエデを睨むと、カエデも鏡の怪人を見上げながら、睨みつけている。

 

 鏡の破片を手に取ると、それは自身の腕一本とそう変わらない長さの刃となり、カエデに向けられた。

 

 「いいわ。貴女も、進化の怪人も、ドクターミヤコも・・・他の裏切り者、反逆者、全てにこの私と・・・ヘルブラッククロスの怒りを思い知らせてやる!」

 「いいわよ。やってみせなさいよ。あたしはあんたに、ヘヴンホワイティネスの怒りを叩きつけてやるわ・・・!」

 「はぁ・・・」

 「・・・っ」

 

 双方呼吸を整えて、お互いに良しと判断したのか、二人がほぼ同時に飛び出した。

 

 「うわわっ!」

 

 ミヤコの頭上では火花と呼ぶにはあまりにも大きな爆発と、金属とガラスの衝突音が鳴った。

 

 ミヤコの眼には捉えられない速度で、今度はミヤコの右真隣で、空気を切る様な細い音が鳴り、その次は少し離れた奥側の空間で、鏡の怪人がカエデの背後を取っていた。

 

 しかし即座にカエデも鏡の怪人を蹴り飛ばして、鏡の怪人も鏡の破片による爆撃から成立する反撃を行う。

 

 瞬間移動にも等しい速度での攻防、それも未だ見たことのない荒々しいカエデの姿を見て、ミヤコは戦慄する。

 

 (まるでギンジ君みたいな戦い方だね・・・恐ろしいけど、今はあのカエデの戦闘意欲に感謝だよ・・・さて、わたしは早くこれを外して、ギンジ君を助けないと・・・)

 

 何かの能力で眠らされているギンジは、きっと鏡の怪人による、鏡の監獄に取り込まれている。

 

 その監獄の中身が、あんなありえないサラリーマンの世界だとしたら、ミヤコ自身もあまりいたたまれない。

 

 なにせギンジは自分が造った怪人であり、この世界の中でも唯一怪人の細胞と完全適合を果たした、ミヤコの怪人の中でも特に自我が強くて、怪人としての強さも兼ね備えたお気に入りなのだ。

 

 そして恐らくカエデも、他の人物と同じ様に、ミヤコもギンジの事が大切なのだ。

 

 (まっててギンジ君、必ず助けるから)

 

 自分がそうしてもらった様に、今度は自分がギンジを助けたい。

 

 助けて、あげたい。

 

 ミヤコが強く念じるすぐ近くでは、またもやカエデと鏡の怪人が激しい激突を繰り返している。

 

 さっきまでは鏡の怪人が血を流していたが、今はカエデの方が腹部や肩かた血を流している。

 

 鏡の怪人の攻撃は、ダークヘヴンスーツとなった強化状態でさえも、引き裂き、実体にまで届く攻撃力を持っていると言う事になる。

 

 だがどんなに痛くても、カエデは退かない。絶対に退くことは無い。

 

 カエデもまた、ギンジを大切と思い、もう何度もギンジに助けられてきた。

 

 今度は──。

 

 (今度は・・・あたしの番よ!)

 

 カエデの拳と、鏡の怪人の破片が真正面からぶつかり合って、目に見えない衝撃が二人を吹き飛ばす。

 

 「・・・よっぽど進化の怪人が大切みたいね。こんな怪人男が必要なら、もっとお誂え向きな・・・人間じゃ満足出来なくなるような怪人が居るわよ・・・触手の怪人とか、ね」

 「ふざけないでよ。ギンジはあたしの仲間なの。大切なのは否定しないけど、そんな邪な想いを抱いている訳じゃないわ」

 「へぇそう。ひょっとして、この進化の怪人の事が好きなのかしら?」

 

 鏡の怪人の言葉に、ミヤコはゾクりと首元が震えた。

 

 脱出の事すら忘れてしまいかねない様な、そんな気持ちになる。

 

 ミヤコの想像通りならば、きっとカエデも・・・。

 

 「・・・」

 「あら、図星?言ってくれたら、二人仲良く地獄に送ってあげるのに」

 「ふっ・・・違うわよ」

 「?」

 

 カエデの答えはミヤコと鏡の怪人が想像している様なモノではなかった。

 

 「そうね・・・ギンジは馬鹿だし、ケイタと同じぐらいデリカシー無いし、あたし達の言うこともてんで聞かない頑固みたいな所あるし・・・」

 

 カエデの顔が陰りを見せて、もう一回明るい表情を見せる。

 

 「でも誰よりも自分が信じてる正義の為に動いて、誰よりもあたし達のピンチを救ってくれて・・・」

 

 両腕のガントレットが鋭く回り始める。

 

 これは攻撃を今から行うと言う合図であり、敵への威嚇に使うモノだ。

 

 「敵でも助けようって動くし、自分を馬鹿にされても動かないのに、あたし達がコケにされたら、すぐに怒るし・・・」

 

 そのまま次はブーツのギアを鋭く回転させる。

 

 「でもね。一緒にご飯食べる時とか、一緒に戦う時とか、一緒に遊んだりしてる時とか、さ・・・あたしのピンチを救ってくれたり。前にギンジが一人でミヤコに捕まった時に、自分を犠牲にしてまであたし達を助ける為に退路を開いたりして・・・ああ、これがあたしの理想のヒーロー像だなって思う事があったの」

 「さっきからなんの話しをしているの?」

 

 鏡の怪人がカエデに怪訝な表情を見せながら、悪意と退屈を交えた口調で口を開いた。

 

 しかしカエデは清々しい顔で、鏡の怪人を正面に捉えていた。

 

 「ああ、ただの怪人には理解が出来ないわね。ギンジは・・・あたしの大好きな人よ。ただ、好きなんじゃない。こいつとなら、ギンジとだったら・・・」

 

 思い切り胸に詰まる様な言葉を、カエデは躊躇なく言葉に出していく。

 

 「ギンジとだったら、ギンジが望むハッピーエンドを、そのハッピーエンドの先を、一緒に生きていたいって思ってるのよ!」

 

 カエデの渾身の想いは口に乗せて、誰が聴いても恥ずかしくなるような言葉を並べる。

 

 きっとギンジの意識があれば、プロポーズととっても良いぐらいの言葉だろう。

 

 「だからお気に入り、ってだけじゃない、ただの好きでもない」

 

 ギアのフル回転させて、神宮カエデは仄暗い空間の中で愛を叫んだ。

 

 「ギンジが大好きって事よ!」

 「つくづく頭に来るわね・・・」

 「カエデ・・・」

 

 カエデの解き放った言葉が、ミヤコにも突き刺さり、鏡の怪人にも突き刺さる。

 

 「さ、もういいでしょ。あたしとギンジの事は、あんたには関係無いの。あたしはあんたを倒して、家族も仲間も大好きな人も取り返す」

 

 それからカエデはもう一つだけ思い出した事を、鏡の怪人にぶつける。

 

 「ああ、それと・・・ギンジの事、進化の怪人って呼ばないでくれるかしら?進化の怪人じゃなくて・・・」

 

 カエデが再び怒りを宿した瞳で、鏡の怪人に詰め寄る。

 

 床をスライドしながら移動する様な、驚異的な速度で近寄られた事に、鏡の怪人がまたも驚愕に満ちた表情を見せる。

 

 「『佐久間ギンジ』よ!覚えときなさい!」

 

 ギンジの名前を、愛する人の名前を叩きつけた。

 

 肉薄した距離からの攻撃は、鏡の怪人には予測できない、強烈な攻撃であった。

 

 それは鋭い音を鳴らす拳ではなく、痛い音を鳴らすブーツでもなく、所々破けたスーツによる体当たりでもなく・・・。

 

 硬いヘルメットを使った、頭突き・・・その一撃が鏡の怪人の顔面に、更なる痛打を与えたのだ。

 

 「やった!」

 

 思わずミヤコもカエデの攻勢に歓喜の顔を見せた。

 

 カエデは自分の勢いが止められずに、鏡の怪人と一緒に、ギンジが眠る場所の近くまで転がっていくが、すぐにお互いに立ち上がり、次の戦闘が開始される。

 

 「いいわ、必ず殺してやる!」

 「返り討ちよ!」

 

 仄暗い空間の中で、幾度と無く衝撃がぶつかり合う音が鳴り続け、尚も激しい激突が繰り返された。

 

 

続く

 

 

  




お疲れ様です。

カエデが愛を叫びましたね。
今度は本人が起きてる時に!

キャラネタ書きます

神宮カエデ
ギンジの事が本当に好きです。いいえ、大好きだそうです。
正義の信念に従って、仲間を助ける!

鈴村ミヤコ
ギンジを助けたいと思っているが、思わずカエデの愛のぶちまけに聞き入っちゃった。

鏡の怪人
二度も不意打ちをもらった人。見えてるとは言っても目隠しがあるため、少し反応に遅れる。
とは言え怪人四天王の最後一人でもあるため、なかなかの実力者。

佐久間銀治
謎のサラリーマン。人間らしくなっており、彼が居ないと黒十字株式会社の仕事が回らないと言う、凄腕の営業マン。よく遅刻しがち。
好きなモノは正義のヒーローヘヴンホワイティネスと言うエ○ゲー。
Q好きなキャラは?
A好きなキャラは・・・アレ、思い出せないや・・・

・・・
次回はカエデvs鏡の怪人クライマックス!
そしてギンジの方はと言うと、鏡の監獄から抜け出せず・・・?

赤鬼とミドリコはようやくソウジロウの下にたどり着くのだが、そこには新たな侵入者も居て・・・?

なお話を予定しております。

前書きでもお伝えしましたが、今年もよろしくお願いいたします!
今週からまた執筆も再開いたします!
それではまた次回!
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