正義のヒーローヘヴンホワイティネス   作:アトラクション

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こんにちは、アトラクションです

先週は投稿出来なくてすみませんでした!
インフルにやられました!
さて、今回のお話はカエデがめちゃくちゃ頑張ります。

それではどうぞ!


110・あたしの大好きな人達

 

 鏡の怪人による能力で眠らされたギンジのすぐ近くで、カエデと鏡の怪人の激戦はまだ続いていた。

 

 お互い、女性と言うには少々奇妙な出で立ちではある。

 

 ボディラインが強調される黒いスーツは、いつもとは違う形態ではあるモノの、手足のガントレットとブーツは純白のまま、肩から腰にかけた赤いラインの入ったスーツを着ているのは、神宮カエデ。

 

 片方は白い肌を所々露出させながらも、包帯の様なモノで羽衣にしていて、背中には大きな結び目を覗かせて、顔にも目隠しをしている見目麗しい女性。

 

 鏡の怪人。

 

 羽衣の方はそう呼ばれている。

 

 ヘヴンホワイティネス。

 

 スーツの方はそう呼ばれている。

 

 「ぬあああ!」

 

 カエデの腹からの叫び声を力に乗せて、ガントレットを振るう。

 

 鏡の怪人には命中しても、何か表面にガラスみたいなモノを纏わせて、カエデの攻撃はなかった事にされている。

 

 それが何度も続いている訳ではないが、鏡の怪人はたまにそうやって自分への攻撃を無効化して悪あがきをしている。

 

 「そろそろ死になさい!」

 

 鏡の怪人が、表面から剥がれ落ちた破片を手にして、カエデに突刺そうと迫る。

 

 刺されば簡単に皮膚を引き裂き、血を流して、命を終わらせそうな刃に早変わりするソレは、カエデのガントレットと真正面から張り合える程の硬度を保ち、しかしながら長時間は使う事の出来ず、衝突を繰り返せばすぐに粉々に粉砕される。

 

 身体能力はお互い五分。

 

 戦闘における実力も五分。

 

 腕の長さも、脚力も、身長も、戦いへの意欲も・・・。

 

 「いい加減、止まりなさいよ!このっ!」

 「お前の方こそ・・・諦めろ!ぐぬぬっ!」

 

 カエデの左腕は鏡の怪人の横顔をかすめて、鏡の怪人の右手に持った破片はカエデの顔の前に止まる。

 

 今出てこなかったお互いの手が、お互いの攻撃を防いで、互角の力比べでゆらゆらとしている。

 

 鍔迫り合いにも似たこの状況になって、ようやく二人の激しい攻防が一度ストップする。

 

 勢いが殺され切れずに、そこに止まり続ける事の無い力が、二人の顔を引きつらせる。

 

 (なんなのよこの馬鹿怪人!あたしのスピードに追いついて、力も強いし)

 (ヘヴンホワイティネスは雑魚だと、その言葉は撤回するべきね。普通に強いわ、こいつ、うん)

 

 ある種お互いを認め合う様な、敵であっても礼節をかくべきではないと言う様な不思議な感覚がそこには芽生えていたが、それでも敵同士。

 

 決して仲良くなる事は無いし、心の奥底から認める事も無い。

 

 早いところ決着をつけないと行けないのだが・・・。

 

 「カエデ!」

 「ミヤコ?」

 

 お互いの腕の力が突っ張り合う中で、その瞬間は静寂。

 

 そんな静寂の世界で、ミヤコの甲高い声がカエデと鏡の怪人を我に帰らせた。

 

 見ればミヤコは自力で十字架の拘束を解いて、力無く動かなくなっていたギンジの下へと到着していた。

 

 重たいギンジの身体をおぶさりながら、ミヤコは仄暗い空間の奥へと向かおうとしていた。その足は震えていて、ギンジの重さに耐えきれない、ミヤコの弱さが見て分かる様なモノとなっている。

 

 アレではそう遠くへは行けないだろう。

 

 だが、それで良い。

 

 「ギンジ君は、なるべく遠くに逃がすから!後は、派手にお願い!ギンジ君を助けて!」

 

 ミヤコが今現状一番頼りになる人へ、正義のヒーローへ声を上げた。 

 

 この空間への脱出方法が分からないままなのだ。

 

 一番の良い状況は、カエデと鏡の怪人との激しい戦闘の渦中から、ギンジを遠ざけてあげて・・・。

 

 「ぐはぁ!?」

 

 カエデが鏡の怪人へとまたも不意打ちを決めてやると、仄暗い空間の真ん中に鏡の怪人が転がっていく。

 

 「ナイスよミヤコ・・・」

 

 後は・・・カエデが遠慮無く戦えるスペースさえあれば・・・正義のヒーローヘヴンホワイティネスが勝つ。

 

 「・・・捕まえた時に始末しておくべきだったわね」

 

 鏡の怪人が立ち上がりながらミヤコとギンジの方を見やるが、カエデは眼を輝かせながら不意打ちを決めようと、高く足を上げたが、鏡の破片を召喚、射出する事でカエデの不意打ちを妨害する。

 

 「・・・もう不意打ちは通用しないわよ、ヘヴンホワイティネス」

 「あら、それじゃあ期待していいのかしら?」

 「期待って・・・?」

 「今から本気のあたしに、あんたごとき目隠し女の怪人が、追いついて来れるのか心配だったのよ!」

 「・・・大層な自信ね」

 

 鏡の破片を2枚、両手に持ちまがらカエデの方へといびつな形の破片を向ける。

 

 「殺す」

 

 無数の破片が肩の周りに展開されて、それぞれ尖っている部分がカエデに向けられる。

 

 「確実に!絶対に!許さない!死ね!ヘヴンホワイティネス!」 

 

 仄暗い空間には鏡の怪人の絶叫と殺害予告がこだました。

 

 「あんたを倒して、あたしは生きる!ギンジの望んでるハッピーエンドの先を生きていたいんだから!」

 

 鏡の破片を殴り抜いて、蹴り壊して、衝撃で打ち砕いて、神宮カエデは鏡の怪人に肉薄する。

 

 今度こそ鏡の怪人との決着の時だ──!

 

 「必殺!」 

 「ミラー・──!」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 神宮亭・ドーム内部──。

 

 鏡の怪人による襲撃の余波は、ソウジロウが執務を行う部屋にまで届き、神宮家の私設部隊達も、鏡として認識出来るモノによる攻撃条件の達成と、その襲撃によりそれぞれ大ダメージを追っている。

 

 「酷ぇ有様だ・・・」

 

 ソウジロウを救出しにドームまで駆け抜けてきた赤鬼とミドリコは、その血だらけで倒れ込む人々の惨状を目の当たりにして、怒りがこみ上げてくる思いだ。

 

 「ソウジロウさんを早く助けに行こう・・・」

 

 拳銃のグリップを握りしめながら、ミドリコが言う。

 

 赤鬼の足元には、既に事切れた使用人。

 

 ミドリコもそれを見たのか、最悪の事態を想像してしまった。

 

 助けに行くと言ったのに、カエデの実の父親を助けられなかった、もしくは既に手遅れだった事を考えると・・・。

 

 「ミドリコ、あまり無粋な事は止めとこうや」

 「あ、ああ・・・済まない」

 

 公安警察と言う立場上、死体を見るのは初めてじゃない。

 

 けれど・・・。

 

 正義を掲げている者として、こうして救えない、救えなかった人々を見る度に、ミドリコの胸が締め付けられる。

 

 「・・・なぁ、赤鬼。私達は、無力だな・・・」

 「そんな事無いぜ。俺っちは無力でも、ミドリコやカエデの姉御、それからレンの姉御もケイタの旦那も、ミヤコ姉さんもギンジの兄貴だって、全員無力なんかじゃあねぇやい」

 

 牙を擦りながら血に濡れた道を歩く赤鬼に、ミドリコは今一瞬何かを諦めかけてしまった自分を奮い立たせる。

 

 そうして持ち直した気持ちは、拳銃をもう一度握りしめる。

 

 「親分が心配だ・・・が、鏡の人形や破片が今は飛んでこない」

 「そう言えばそうだな・・・」

 「きっとカエデの姉御が上手いこと鏡の奴を止めてくれたな・・・」

 

 「流石だぜ姉御!」とニヤリと嗤う赤鬼はさておき、実際今は鏡の怪人の妨害が二人には来ていない。

 

 詰まる所本当にカエデがなんとかしてくれているのだろう。

 

 そしてそれは、鏡の怪人がカエデへの対処に手一杯と言う事であり、攻撃の為のリソースを現実世界に回せていないのだ。

 

 「敵の攻撃が届かないのであれば好都合だ。早くソウジロウさんを助けに行くぞ」

 「ガッテン!」

 

 二人で言いながらも、ドームの最奥まで共に駆け出す。

 

 まだ息のある人は応急手当だけはしつつ、死体だけは処理も出来ずにドームの上を目指す。

 

 さすがに部屋を一つひとつ回って、安否確認等は出来ないが、とにかく赤鬼とミドリコの最優先は、カエデの父親であるソウジロウの救出だけだ。

 

 「親分!助けに来たぜ!」

 

 そうこうしている間にドームの最奥へと到着した赤鬼とミドリコは、執務室と書かれた部屋の扉を開く。

 

 開くと言うにはあまりにも荒々しい開け方に、最早ミドリコはツッコまない事にしたが。

 

 「十五夜の旦那、ソウジロウの親分!」

 

 執務室は真四角に広く、左右には書斎、奥には豪華なカーテンで彩られた部屋になっていた。

 

 そしてそんな部屋の中では、先程赤鬼と離脱した十五夜ヒトシが、先程よりもスーツがボロボロになって、全身怪我をしている様な姿に見えた。

 

 更にその近くでは肩から出血している、厳格な顔に痛みを乗せた苦悶な表情をしているソウジロウが、書斎に寄りかかって座り込んでいた。

 

 「オイオイ、大丈夫かよお二人さん・・・」

 「!?赤鬼、待て!」

 

 負傷している二人に寄り添おうと近寄る赤鬼の真後ろで、ミドリコが声を荒げて静止する。

 

 「ぬあ?」

 「何か居るぞ・・・」

 「・・・」

 

 ミドリコの静止の声に素直になりながら、赤鬼はミドリコを背中に隠すようにして後退した。

 

 「ぐっ・・・赤鬼、甘白さん、すぐに戻れ・・・」

 

 ソウジロウが救援に来た二人に気づいたのか、すぐに発した言葉は警戒に近い言葉であった。

 

 「何を・・・」

 

 ミドリコの問いには答えず、ソウジロウは辛そうに呼吸をしているだけ。

 

 「敵でも居るんか!出てこい!」

 

 オリハル金砕棒を肩に担ぎ上げた赤鬼が、声を轟かせるが、執務室の中からは返答が無い。

 

 だがミドリコには、この部屋にこの場に居る四人以外に、気配を感じていた。

 

 赤鬼、ミドリコ、倒れて動かないヒトシ、肩で呼吸するソウジロウ。

 

 それ以外にもう一人。

 

 「・・・姿を表わせ。隠れて居ても、私にはいずれバレるぞ」

 

 姿の見えない存在へと、ミドリコが冷たく言う。その手に握るグリップは、力を込めすぎてカタカタと小さな音を鳴らす様に、緊張感もそこに伝わる。

 

 まだ第三の眼は使用していないが、ミドリコにだけは分かる。すぐそこに、未だ見ぬ悪の手先が居るのを。

 

 「おやおや・・・せっかちなお嬢さんだ」

 

 声が聞こえた。

 

 喉を震わせた様な太い声が、聴く者を不愉快にさせる様にややしわがれた喋り方をしている。

 

 「そんなに私の姿を見たいなら、お見せしよう・・・」

 

 執務室の奥のカーテンが揺れて、高い生地の布を捲くって、その者は姿を表した。

 

 カーテンにくるまって隠れていたのでは無く、遮光するその布の中から現れて来た様な感覚だ。

 

 今更どんな現れ方をした所でそうそう驚く事は無い。

 

 ここに現れたその男が敵である事に変わりは無い。

 

 対話の余地が無ければ、残念だが引き金を打つしかないのだから。

 

 カーテンから姿を表したのは、漆黒のスーツを着用し、小さな茶色のサングラスをかけた、老人の男だった。

 

 真っ白に染まった髪は年相応に老化して行った関係か、サングラスをかけるその顔じたいも、所々シワが目立つ褐色の肌をした、長身の老人。

 

 革製の黒い手袋を装備したその者は、右手を胸に当てて、丁寧に、しかし年齢を感じさせない優雅な一礼を赤鬼とミドリコにして見せた。

 

 「・・・ミツナリ・・・!」

 

 その老人の登場に声を出したのは、ソウジロウだった。

 

 もう会えないとさえ思っていた老人が、ソウジロウの眼の前に姿を見せた事で、余計に焦りが目立つ顔をしている。

 

 「なんでい、親分の知り合いか?」

 「ほほ、知り合いと言えばそうだろうな」

 

 赤鬼もその老人の登場に少しあっけに取られているが、それよりも警戒心の方が勝っている。

 

 何故ならただのキレイな身なりをしている老人・・・っと一言で片付けるには、あまりにも仰々しい殺意がその身体から漏れ出ているからだ。

 

 誰でも怖いと、誰でも恐ろしいと、誰でも恐怖の象徴として見える・・・まるで、そう・・・怪人の様に見えるからだ。

 

 「失礼、お初に。私の名は、歩兵ミツナリ。元軍人であり、元神宮財閥御庭番衆筆頭、そして現在では──」

 「ヘルブラッククロス、か?」

 

 ミツナリと自己紹介してくれた老人の言葉を遮り、ミドリコが拳銃を向けながら言葉を遮断した。

 

 「半分正解でございます」

 

 しわがれたその声がミドリコの耳に良く入る。

 

 「では、もう半分・・・それは」

 

 黒い手袋の人差し指を伸ばしながら、ミツナリは笑みを乗せて口を開く。

 

 「旧神宮財閥執行役員。そこで無様に座りこける、ソウジロウおぼっちゃまの元飼い犬であり、今はそこの兄君であらせられる、ソウイチロウおぼっちゃまの飼い犬に過ぎません」

 「どういう事でい」

 

 赤鬼が牙を擦りながらミツナリを睨みつける。 

 

 「然るに・・・あなた方の敵、という事で片付く話です。無駄話は終わりにしよう、ヘヴンホワイティネス」

 

 ミツナリが肩を落としたかと思えば、次は両腕を真上に広げて仰々しい動きを見せる。

 

 その手元には、無数のトランプカードを携えていた。

 

 カードのいち枚ずつ、その背面となる場所には、黒と金で構成された神の一文字。

 

 「・・・っと、思いましたが、止めておきましょう。部が悪い」

 「引き際をわきまえている様だな・・・見逃してやるから消えろ、ジジイ」

 

 トランプを親指を内側に巻く動作でしまい込むと、ミツナリは老人らしい不敵な笑みを見せて、カーテンレールを開く。

 

 カーテンを一枚へだてたその先にあるのは、大きな窓。

 

 「鏡の怪人は手強い。一度、ここは彼女にお任せするとしよう」

 「ぐっ、待て、ミツナリ・・・」

 「・・・」

 

 ソウジロウが書斎から腕を伸ばした。

 

 だが、出血も酷い彼の腕は最後まで上がらず、ミツナリを捕まえる距離には至らない。

 

 そもそも立ち上がらないと届かないのに、ソウジロウはミツナリの背中を引っ張ろうと、必死に腕を伸ばす。

 

 「・・・命拾いしたな。貴方も、カエデお嬢様も・・・」

 「カエデだと・・・?」

 

 ミツナリの言葉には色々と困惑が走るのだが、ミドリコは拳銃を向けたままミツナリの背後を狙うだけ。

 

 「いずれ・・・また会う事になるでしょうな。では、失礼をば」

 

 一瞥もくれずにミツナリが一言。彼が最後にその言葉を放った瞬間、窓の中に吸い込まれる様に、消えて行った。

 

 最後までその窓は水面の様に揺れて、動きが止まるまでミドリコの警戒は終わる事がなかった。

 

 「行きやしたね・・・」

 「ああ・・・」

 

 怪人の様な殺意が遠くなって行くのを確認すると、ミドリコは拳銃をホルスターにしまい、そのままソウジロウに駆け寄る。

 

 ヒトシの方には赤鬼が駆け寄り、二人の安否を確認する。

 

 「ぐぅ・・・済まない、二人とも」

 「ええ、お気になさらずに。それより・・・」

 

 自分の手元で未だ呼吸が荒いママのソウジロウに、ミドリコは一つ確認した事が出来ていた。

 

 「あの、先程の男の言っていた事ですが・・・」 

 「・・・今は、まだ話せない」

 

 今は神宮亭の緊急事態だ。

 

 時と場合を考えれば、今聴く事では無いと言うのはすぐに分かる。

 

 そもそもソウジロウは怪我をしているのだから。

 

 赤鬼はと言うと、カーテンを閉じて万が一にも鏡の怪人の攻撃条件を達成させない為に、行動を開始していた。

 

 「ミドリコ、今は脱出しようや。親分には俺っちも聞きてえ事、あっからよ」

 「そうだな。立てますか?」

 

 ミドリコも赤鬼もソウジロウには何かと世話にはなっている。

 

 だからこそ、あのミツナリと呼ばれる男の発言と、ソウジロウの関係性が気になって仕方がない。

 

 ただの興味本位では無く、不信感から内容を詳しく聞きたいと言った感じだ。

 

 (歩兵ミツナリと言う男は、元神宮財閥の関係者?それで居て今は半分ヘルブラッククロス?そしてあの人間らしからぬ気配・・・さらにはカエデの事を・・・知っているのか?)

 

 カエデを狙っているのであろうか。

 

 刑事としての勘が様々な仮設に向かって伸びて行く中で、ソウジロウに肩を貸しながら、ミドリコは色々と考え始める。

 

 「・・・親分、落ち着いたら全部話してもらうぜ?」

 

 赤鬼も何か不信感が募ったのか、怪人らしい恐ろしい眼光でソウジロウに圧を送る。

 

 普通だったらミドリコがツッコミを入れて止まる所だが、今回はミドリコも止めない。

 

 (何か・・・神宮財閥は、カエデでさえも知らない・・・何かを隠している・・・のか?)

 

 栄光を突き進む大きな国の背景には、輝かしい成功体験とは真反対の闇を隠している事もある。

 

 それが正に神宮財閥に向けられた様にも思えて、しかし考えはまとまらなくて。

 

 それでもミドリコは、色々考えながらも一つある事を誓った。

 

 これから先、何があってもカエデの事を守ろう、と。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 仄暗い空間の中では、まだまだカエデと鏡の怪人の大激突が続いている。

 

 どこまで続いているのか、先も奥も見えない広大なこの鏡の空間の中での戦闘は、今現状はカエデが一歩リードしている状況だ。

 

 二度三度ともらった不意打ちがじわじわ効いているのか、鏡の怪人も呼吸が段々と整わなくなっている。

 

 「鏡の怪人って言うぐらいだから、自分の偽物とかで応戦してくるかと思ったけど、意外と肉弾戦なのね・・・」

 

 剣の変わりに振るわれる鏡を一撃で打ち砕き、カエデが鏡の怪人の顔面めがけたアッパーを出しながらそんな事を言う。

 

 アッパーは命中しなかったが、鏡の怪人の反撃もカエデには命中していない。

 

 お互いに距離を離して、再び突撃。

 

 上段から振り下ろした鏡の斬撃と、カエデの全身を使った大ぶりな踵落としが、お互いに交差して、背中合わせに貫通しあう。

 

 「まるで斧ね。似合わないわね」

 「あんたこそ、大人しく鏡合わせの世界に帰りなさいよ」

 

 舌戦は互角。

 

 「鏡の斬烈(ミラー・ソード)!」

 

 今度は鏡の怪人が振り返りながら、腰から鏡の輪を繰り出して来る。

 

 フラフープの様に美しい鏡細工の輪は、ソードの名前の通り鋭く尖った刃が円型に取り付けられて、カエデの真後ろから攻撃を繰り出してきた。

 

 「くっ・・・このっ!」

 

 回転する大きな刃に背中から斬られたカエデが、苦痛に飲まれた表情のまま転がって行く。

 

 「死ね!鏡の棘女神(ミラー・アイアンメイデン)!」

 

 片膝で立ち上がったカエデの左右からは、鏡の怪人がそのまま半分に分かれて様な鏡の像が床から召喚されて来た。

 

 その像はやはり鏡で造られているのか、とても美しいが、身体を半分割った内側には、無数の棘がついていて挟み込まれればスーツがあっても無事で居られるか分からない恐ろしさを秘めている。

 

 「貰うもんか!」

 「逃さないわよ!鏡の絶壁(ミラー・ウォール)!」

 

 勇ましく飛び出そうとしたカエデの前後には、鏡で出来た壁が立ちふさがり、カエデの逃げ場を無くしていく。

 

 「このっ・・・」

 

 前後の壁を蹴りながらガントレットに力を込める。

 

 上空に飛び出したカエデは壁と棘から逃れたが・・・。

 

 「!」

 「逃さないわ!ここで終わりよ!」

 

 壁を抜けた空中では、鏡の怪人がカエデを待ち構えていた。

 

 「鏡乱射(ミラー・マシンガン)!」

 「必殺!ドライヴ・レイザー!」

 

 繰り出された鏡の破片の豪雨と、拳のラッシュ。

 

 空中で繰り広げられるラッシュの鍔迫り合いは、鏡の刃を拳で打ち砕き、無数の破片が仄暗い空間に飛び散る。

 

 「だああああっ!!!」

 

 カエデの雄叫びと共に、力強いガントレットのラッシュは一方的に鏡の刃を打ち砕き続けて、その豪雨を突き抜けた。

 

 「必殺!メテオライザー──!」

 

 両腕を後ろに伸ばして、ダークヘヴンスーツに込められた力をその両腕に込める。

 

 眼前に迫った鏡の怪人の胴体へと、その一撃を決める。

 

 絶対にこの怪人には敗けられないと、カエデは自慢の必殺技を解き放った。

 

 だが・・・。

 

 「甘いわね!もう既に・・・貴女の敗けよ!」

 「は・・・?」

 

 鏡の怪人が空中で鏡の足場を使って、カエデの頭上から姿を消した。

 

 その変わりにカエデの眼の前に現れたのは、巨大な鏡の柱。

 

 あれだけの大きさの鏡を出すために、鏡の刃で時間稼ぎをしていたのだ。

 

 鏡の怪人の撃破の為に溜めた力はもう逃がす事は出来ない。

 

 今は柱を叩き落さなければ、カエデに勝ち目は無くなってしまう。

 

 「っ!インパクトぉぉ!!」

 

 落ちてくる鏡の柱に目一杯のメテオライザー・インパクトが打ち込まれた。

 

 破壊の力とも呼べるカエデの必殺技が、鏡の柱と激突して、衝撃による風圧と、目に見えない力場が、仄暗い空間の中心で炸裂する。

 

 赤黒いオーラを纏う掌の衝撃が、鏡によって反射しながら、カエデの勢いは止まらない。

 

 「カエデ、後ろ!」

 

 ミヤコが地面で叫ぶがもう遅かった。

 

 空中では身動きは自由に取れないカエデの真後ろには、鏡の怪人が辛そうに笑いながら、もう一本の鏡の柱を召喚して迫っていた。

 

 「現実を見せてあげるわ!鏡世界堕とし(ミラー・フォール)!」

 「なっ・・・!?」

 

 メテオライザーの強力な反動が身体に残りつつ、しかも眼の前の鏡の柱は破壊出来ていない。

 

 そこに鏡の怪人の不意打ち。

 

 もう一本の鏡の柱がカエデを背後から叩き落とした。

 

 「くそっ!」

 「良い気味ね!」

 

 カエデが落とされた場所はと言うと、先程のアイアンメイデンと壁に挟まれた四方の逃げ場の無い場所。

 

 そして真上からは、鏡の柱二本。

 

 つまり、逃げ場は無くなってしまった。

 

 「死ねぇぇ!」

 「ぐぅぅっ・・・!」

 

 鏡の柱が一本カエデの頭上から落ちた。

 

 見た目通りの重さをしている柱は、防御したカエデの腕を折りそうな衝撃が走った。

 

 「挟め」

 

 すかさず鏡の怪人が一言命じると、左右から鏡の棘女神(ミラー・アイアンメイデン)がカエデを挟みこんだ。

 

 「〜〜っ!!」

 

 身体の左右から太い棘が身体に突きこまれて、カエデはその激痛に苦痛を超えた顔をして身体を反らせる。

 

 柱を防御した関係からか、腕にも力が上手く入らない。

 

 「無様な姿を晒して。死になさい!死体は戦闘員に食わせてあげるわ!」

 

 鏡の怪人が地面に降りながら、指を鳴らす。

 

 「何よコレ・・・!」

 

 太く、鋭い棘が回転し始め、カエデの腕を弾く。

 

 背中にもゴリゴリと当たり、身体を柔らかい所がどんどんこの回転する棘によって、カエデにかなり大きなダメージを与えていく。

 

 「くそ・・・くそぉ!くそおおお!!」

 

 腕に力も入らず、最早逃げ場が無くなってしまったカエデには、こうして悔しさを叫ぶしか無い。

 

 やがて叫ぶ気力が無くなったのか、それともその命が力尽きたのか。

 

 カエデの声は仄暗い空間に反響する事無く、鏡の棘女神が完全にカエデを封じ込める事に成功した。

 

 「嘘・・・カエデ、カエデっ」

 

 壁が無くなり、鏡の像が完璧に閉じられた所を見てしまったミヤコは、必死な形相でカエデの名を呼ぶが、もう彼女にその声は届いていない。

 

 「手こずらせてくれたわね・・・ご覧なさい、ドクターミヤコ」

 

 鏡の怪人が一安心した様な素振りで、ミヤコに腕を動かした。

 

 正義のヒーロー・ヘヴンホワイティネスのリーダー格の女は、こうして鏡の怪人の術と攻撃によって、その姿を痛々しい鏡の像に封じ込められてしまったのだ。

 

 「・・・っ」

 

 信じられない。

 

 今までどうやっても殺す事が出来なかったカエデが、今日、鏡の怪人の手によって撃破されてしまったのだ。

 

 「・・・カエデ・・・ギンジ君とのハッピーエンドは、わたしとの決着はどうするの・・・」

 

 泣きそうな顔をなんとか堪えながらも、ミヤコは唇を震わせながらカエデに声をかける。

 

 「貴女も・・・同じ地獄に送ってあげるわよ。安らかに、ここで死になさい・・・」

 「・・・カエデェ〜・・・」

 

 へたりと座りこんだミヤコ。そんなミヤコの眼の前で、鏡の破片が一つ揺れる。

 

 いびつな形をしていても鏡のソレは、ミヤコの失意の顔が鮮明に映る。

 

 「終わりよ。今度こそ、ヘルブラッククロスの完全勝利でこの戦いは幕を閉じるわ。総統閣下に勝利を!」

 

 まともな戦闘手段を持たないミヤコなんて、鏡の怪人からすればただの人間とそう変わらない。

 

 一瞬で殺せる。

 

 一瞬で殺される。

 

 「・・・死ね、ドクターミヤコ。進化の怪人、ヘヴンホワイティネス諸共、地獄への片道切符をあげてくれるわ」

 

 死。

 

 死が迫っている。

 

 絶望の羽音が、ミヤコの耳元で鳴っている。

 

 何よりも美しく見える女性の・・・鏡の怪人は、今大きく黒い闘志を目視出来てしまう程に、ミヤコにとってとてつもなく強大な悪の塊となって、ミヤコの眼の前でその腕を振り上げた。

 

 (カエデ・・・)

 

 ギンジは動かず、カエデも返事が無い。

 

 本当は縋りたい、ミヤコへの正義を示してくれたヒーロー二人の姿を思い浮かべて、ミヤコはその眼を閉じた。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 ・・・。

 

 ここは・・・。

 

 何も見えない、けれど自分の姿だけは鮮明に映っている真っ暗な空間に、あたしは立ったまま寝ている様な感覚で眼を覚ました。

 

 何も聞こえない筈なのに、でも風の音が聞こえて、あたしはすぐ直前の出来事を思い出してきた。

 

 「ああ・・・」

 

 一気に身体が震えて、だるくなってくる。

 

 あたしの身体の筈なのに、言うことを効かなくて、それでいてその場に立っていられなくなる。

 

 膝を落として、いっそ倒れてしまいたくなるような、あたしの身体があたしじゃなくなる様な・・・。

 

 「よっ、また会ったな」

 

 誰よ。

 

 あたしは敗けたのよ。アレだけかっこいい事を言いながら、正義を何一つ守れないで、あたしは・・・あたしは・・・っ!

 

 悔しさで涙が出てくる。

 

 もう敗けないと誓っていたのに、悔しさがどんどん身体を蝕んできて、このただの闇が広がる空間の中で、溶けてなくなってしまいたい。

 

 ごめんね、ギンジ。

 

 ごめんなさい、お父様。

 

 「おーい、まだ終わってないぞ」

 

 ・・・。

 

 どこに居るのか分からないのに、その声だけがあたしの頭の中に響いてくる。

 

 「なぁなぁ、会うの久しぶりだよな。アレからどうだった?こっちはもー大変でさ。お前らを向こう側に送り返して、チャンスを与え続けてたらさ、もうあと一回しかそれが出来なくなっちゃってさ〜」

 

 呑気な声があたしにそんな事を話している。

 

 何よ、そんな事知らないわよ。

 

 自分だけが鮮明に見えているこの空間で、あたしは声が出ない事に気がついた。

 

 でも、声が出ないならこのままでもいいわ。

 

 誰かに泣いてる所なんて見られたく無いし、このまま、ずっと一人で・・・。

 

 「いやいや俺は見てるよ」

 

 ハァ!?見てるんじゃないわよ!

 

 「へへへ、泣いてる顔ブサイクだよな」

 

 だから、見ないでよ。

 

 「俺さ、見てたんだよ。ここでずっと」

 

 ・・・。何も知らない癖に、何なのよ。あたしはあんた見たいな、姿を見せない奴・・・。

 

 そこまで言いかけて、あたしは思い出した。

 

 いつの日か、剣士の怪人と戦った時、ここに似た場所に意識だけ持ってこられたような・・・。

 

 おぼろげながら、あたしは少しずつこの場所を思い出してきた。

 

 「やっと思い出して来たか?お姉ちゃんよ」

 

 あたしをそう呼ぶには明らかに大きな男性と思われる声は、どこか懐かしくて、どこか苛立たせて、どこか嬉しくて。

 

 「泣いても良いけどさ、俺ももう力が無いんだ。あと一回、頑張って2回。お前たちを向こう側に戻す事しか出来ないんだよ」

 

 きっと死んじゃったのかも知れないあたしに出来る事なんて・・・。

 

 それに向こう側に戻るって言ったって・・・。

 

 腕に力が入らない。

 

 足も動かしたくない。

 

 「お父様は良いのか?」

 

 ・・・。

 

 「レンの未来も良いのか?」

 

 ・・・。

 

 諦めそうな気持ちの中で、この声はあたしを奮い立たせようとしているのかしら。

 

 強気でも無いし、でも優しくもない。

 

 あたし、何を怖がってたのかしら。

 

 死ぬ事?生きる事?戦い?未来?

 

 「まだ色々やりたい事、あるだろ。

ミドリコとパンケーキ食べたり、

赤鬼と馬鹿な事話したり、

ケイタを自分の部下にしたり、

ミヤコとずーっと喧嘩したり、

レイナと一緒に悪を追いかけたり、

サクラと一緒にお買い物したり、

ルカと将来の事を話したり、

オークの奴といろいろ喧嘩したり、

アオハル君と勉強したり、

レンの為の戦いだけじゃなくなってただろ?そんな些細な事を、小さくて細かい事を守る為に、お前は戦ってたんだろ?」

 

 ・・・っ。

 

 心が揺さぶられる。

 

 「分かってるよ。お前が本当は怖がってた事。全部、知ってるし、全部見てきた」

 

 そうだ・・・あたし、まだ、終わってる場合じゃない・・・。

 

 「なぁ、頼むよ。まだ死なないでくれよ。まだ諦めないでくれよ。まだ生きててくれよ、そうじゃないとさ・・・」

 

 そうだ。そうじゃないと・・・。

 

 『ハッピーエンドを迎えられない』

 

 ようやく声が出せた。

 

 いつの間にか、あたしは泣きながら、大きな涙を溢しながら、暗闇の中で立ち上がっていた。

 

 「なぁ、死ぬって諦めても良い事なんて、ここまでずっとあったか?これから先、死んでも良いって覚悟があっても、実際に死んで良い事なんてあったかよ?」

 「・・・無い」

 「だろ?俺はずっと・・・お前を見てきたから分かるよ、本当は怖いし、死ぬことが当たり前になりそうなこの世界で、眠れなかった事も、俺を想いながら身体をベッドの上で・・・」

 

 でええい!それ以上言うんじゃないわよ!

 

 「って待って、俺って何よ・・・」

 「・・・」

 

 なんなの?あんたは、あたしの、あたし達の何を知ってるのよ。

 

 「俺が誰なのか、何者なのかは言えない。言えないけど、俺は知ってるんだ。この世界の事、今も進み続けている未来の事を─」

 

 過去にもあたしとレンを助けてくれたみたいだけど・・・。

 

 この空間の事はずっと忘れていた。

 

 まるであたしの記憶からキレイに無くなってしまった様に、何も覚えていなかったけど・・・。

 

 だけど、きっと・・・。

 

 「なぁ、もう諦めるかい?もう頑張ったっと思うならそれでも良いけど、どうせ頑張ると決めた事ならさ、もう一度後ろの扉、開けてみないか?」

 「・・・」

 

 振り向けば、そこには扉があった。

 

 この真っ暗な空間には似つかわしく無い、真っ白な扉が。

 

 あたしが手にかけるのを、今か今かと待っている様な、白い扉。

 

 「なぁ、カエデ」

 

 優しく声をかけてくれる、その声はずっと待っていた様に、あたしの頭に語りかけてくる。

 

 優しくて、でも少し雑で、ずっとあたしの中から離れない、聞き覚えのある声。

 

 「ハッピーエンドのその先を生きていたいって言葉、嬉しかったぜ」

 「あたしも、自分で言ったけど、嬉しくて、それで・・・」

 「その言葉の先は・・・向こうで待ってる人に聞かせてやってくれよ。お前しか居ないんだ、俺が信じて、皆が信じて居る正義のヒーローは」

 

 なんで・・・あんたが悲しそうな声をするのよ。馬鹿ね。

 

 苦笑も混ぜたあたしの声が、ようやくこの人に届いた様な気がする。

 

 でも・・・今までずーーーっと忘れてたけど、あんたも一緒にあたし達と一緒に居たのよね。

 

 ありがとう、見守っててくれて。

 

 ありがとう、あたしに勇気をくれて。

 

 ありがとう、一緒に居てくれて。

 

 ねぇ。

 

 「剣士の怪人の時もそうだけど、ミドリコとレンと赤鬼とケイタ・・・それからギンジを助けてくれたの、向こう側に戻れるチャンスをくれたの、あんたなんでしょ」

 

 ・・・。

 

 答えは沈黙。何よ、ここまで来たんだから話しなさいよ〜。

 

 「もう一回、あたしにチャンスをくれる?」

 「ああ、俺は今度こそチャンスをあげられなくなるけどさ、この先の未来、この先の俺たちを、守ってくれないか」

 

 どこか消えてしまいそうな声が、あたしの頭に入り込んで、それでいてまた記憶から抜けてしまいそうな声。

 

 「あたし、まだビビってたみたい。死ぬのが怖くないって考えながら、だけどあたしを守ってくれる人が居ないみたいに思えて。でもそれってあたしの勘違いよね」

 

 そうだ。

 

 あたしには、守らないと行けない人達が居る。

 

 やらなきゃいけない事がある。

 

 正義のヒーローとして、帰らないといけない場所がある。

 

 「ねぇ・・・あたし、そろそろ行くわね」

 「・・・ああ、もう俺は会えないかも知れないけど(・・・・・・・・・・・・・・)、お前にはまだ沢山の出会いが待ってる。それは・・・ハッピーエンドのその先が証明してくれるよ」

 

 また優しいのに、消え入りそうな声であたしに語りかけてきた。

 

 「そうね・・・でも、あたしは忘れないわ。あんたがずっと見守ってくれた事、あたし達をずっと応援してくれた事・・・あたしの側で戦ってくれた事、絶対に忘れないよ」

 「・・・へへへ、そんなストレートに言われると照れるな」

 「ストレートに言うわよ」

 

 だって、レンもミドリコもケイタも赤鬼もミヤコもオーク怪人もレイナもサクラもルカもアオハルもレジスタンスもオレキエッテ帝国の皆も自分の家族も。

 

 

 

 

            ギンジの事も。

 

 

 「皆あたしの〈大好きな人達〉だから!」

 

 今になって恥ずかしくなったけど、でも後悔なんて無い。

 

 あたしが想えば想うほど、勇気が湧いてくる。

 

 声の主が段々と誰なのか、あたしにも解ってきたし、こうなったら絶対日諦めたくないって、誓いを立てられるぐらいに、今のあたしは正義の志に満ちている。

 

 もう絶対に、絶対に、絶対に!

 

 「ねぇ!見守っててよ、これからも。あたし、あんたの事大好きだから、あんたもそうでしょ!」

 

 これが愛しいと想える感情なら、あたしは絶対にこの感情を忘れたくない。

 

 気持ちだけはここに置いていくとしても、この人にだけはあたしの想いを乗せて、全部伝えないと、もらった勇気に顔向けが出来ないと思ってしまったから。

 

 「未来を、守ってくるわ!──ギンジ!」

 

 多分、ここに居るギンジは、あたしの知ってるギンジじゃない。

 

 だけど、知ってるギンジ。

 

 ずっとギンジの事を守り続けて、ギンジである事を隠して来たギンジ。

 

 それから・・・あたし達の事をずっと見守ってくれていたギンジ。

 

 「・・・俺も、勇気を貰ったよ。ありがとうカエデ」

 「こちらこそ」

 「詳しい事は話せないし、そんな時間も無くなってきちゃったけどさ、俺、もう会えないから」

 「それさっきも聴いた」

 「ああ、だから・・・消える前に、最後になるかも知れないチャンスのチケットを渡すのがカエデで良かった。どうか、気をつけて行ってくれ、そしてどうか、この世界の未来と・・・」

 

 こんな暗い空間でも、ギンジの泣いている様な声がずっと聞こえてくる。

 

 「この世界の未来と、(ギンジ)を守ってくれ」

 「言われなくても、必ず守るわよ、任せなさいよ」

 

 だってあたしは・・・。

 

 ギンジの〈大好きな人達〉の一人なんだから。

 

 ヘヴンホワイティネスのファン1号の期待に応えて見せるわ。

 

 「それじゃ・・・行ってくるわ」

 「ああ・・・カエデ」

 

 最後に名残惜しくなった様なギンジの声が、あたしの後ろ髪を引く。

 

 「好きだよ・・・」

 「・・・あたしも」

 

 誰かを好きになるなんて、こんな気持ちになったのなんて、本当に初めて。

 

 愛の力、なんて言ったら大げさかも知れないけど、あたしはきっとコレを力に、次にすすめる。

 

 ギンジの力で、ずっと・・・。

 

 本当のギンジを助ける力と勇気を得たあたしに、敵は居ないのよ。

 

 「頼んだぜ。俺と」

 「何度も言わなくても大丈夫よ。未来とギンジを守るから!」

 

 心配しないで。

 

 ギンジであってギンジじゃないギンジに、心の中で手を振って、あたしはいよいよ白い扉に手をかける。

 

 この扉をくぐれば、もう二度とのここのギンジに会う事は無い。

 

 「先ずは・・・鏡の怪人を倒して、そして・・・」

 

 ギンジに、あたしの想いを伝えよう。

 

 神宮財閥19代目(予定)のこの神宮カエデ様だったら、なーんでも出来そうな気がしてきたわ。

 

 全部・・・任せて。

 

 例え姿が消えても。

 

 (あたしを見守っててね、ギンジ)

 

 あたしの身体だけが鮮明に映る暗い空間で、あたしは白い扉を軽く押して、扉を開いた。

 

 光が差し込んで来て、あたしの身体と意識は、そこで煙の様に消えたのがはっきりと解った。

 

 (次は無いのよね。うん、頑張ってくるね)

 

 消える最後の瞬間まで、あたしはギンジを想いながら、全てが消える光に飲まれて行った。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 仄暗い鏡の世界では、鏡の怪人がミヤコの頭上から刃を振りおろそうとしていた。

 

 もうミヤコを守る者は誰も居ない。

 

 ここで死ぬからだ。

 

 だと言うのに・・・。

 

 鏡の怪人は振り上げた腕をおろした。

 

 脱力した様に、しかし殺意は消さずに。

 

 鏡の怪人は気づいたのだ。

 

 まだ憎き怨敵が死んでいない事に。

 

 「・・・まだ死んでいないのね」

 

 振り向いた先に見えるモノは、鏡の棘女神。

 

 ヘヴンホワイティネスの封じ込めて、その動きを完全沈黙させた鏡の像だ。

 

 だが、それはすぐにヒビが入ると、その切れ目からまばゆい光が漏れ出てくる。

 

 光は鏡を反射し、仄暗い空間を明るく照らし始める。

 

 「良くも・・・やってくれたわね」

 

 怒りと正義。

 

 それから愛する者を、心から自覚した女の強さ。

 

 「カエデ・・・!」

 

 ミヤコが泣きそうな顔のまま、カエデの名前を呼んだ。

 

 まだ希望は潰えて居なかった事に安堵し、ミヤコはほろりと涙を流した。

 

 「あんたなんかに、あたしの家は壊させない」

 

 内側から鏡を破壊する蹴り。

 

 「もう誰にも、あたしのギンジを奪わせない」

 

 内側から棘を破壊する拳。

 

 「ヘルブラッククロスに、ヘヴンホワイティネスは敗けない!」

 

 内側から正義の衝撃が響き、仄暗い空間の中心で閃光がほとばしる。

 

 「必殺、超必殺、最大必殺!」

 

 両手に走る閃光を掌に纏めて、神宮カエデは最大の大技を鏡の像に叩き込む。

 

 「シャイニング・インパクト!」

 

 手に収束した閃光はそのまま光そのモノの衝撃となって、鏡の棘女神を内側から完全に破壊した。

 

 粉々になった鏡の踏みにじって、神宮カエデは今度こそ揺るがない正義と、今度こそ折れない勇気と、今度こそ諦めない恋心を持って、再度立ち上がったのだ。

 

 変身スーツも、ダークでは無くなり、銀色に変わり、赤いラインは消えて黒くなった。

 

 ガントレットも白と黒で変わっていたモノが、黄金に変わり、ブーツも黄金へと進化した。

 

 背中には優しく光り輝く純白の翼が現れて、ヘルメットにも天輪がついた、正しく天使とも呼ぶのがふさわしい、美しく神々しい姿へと変わっていた。

 

 「ヘヴンホワイティネス・ファイナルフォーム」

 

 カエデが閃光をその身に纏いながら、一言告げた。

 

 これこそが死地を乗り越えた、起死回生の力の最強の姿。

 

 「行くわよ、鏡の怪人・・・」

 「色が変わっただけじゃないの。そんなんで強くなったとは思わない事ね」

 「だまりなさい。もう、あんたじゃあたしには勝てないわよ」

 

 ガントレットにギアは無くなり、変わりにギアのあった部分には光を束ねる未来の機関が動いている。

 

 ヘヴンスーツとの完全適合を果たしたカエデは、今度こそ鏡の怪人を撃破する強い意思を持って、戦いに挑む。

 

 (くふふ、なんだか凄い事になったね。それにあの姿、なんだか誇らしいよ・・・)

 

 自分の事の様に嬉しくなったミヤコが、ギンジの身体を抱き寄せながら、仄暗い空間の奥へと逃げていく。

 

 今のカエデがどれだけの力を出すのか不明な場合、ギンジに思わぬ怪我を追わせてしまう可能性もあるからだ。

 

 「行くわよ!」

 「決着をつけるわよ・・・!」

 

 「ヘルブラッククロス!」「ヘヴンホワイティネス!」

 

 二人同時に吠えて、二人同時に、この空間での最後の戦いに駆け出した。

 

 「今のあたしだったら、絶対に、あんたに勝てる!」

 「どうしてそんな事が言い切れるのかしら!」

 「決まってるでしょ!」

 

 愛の力だとか、正義の志だとか、それらしい事を言うのも良いが、カエデにはもって突きつけてやりたい言葉が頭に浮かんだ。

 

 あの人(・・・)もきっとこう言う筈だ。

 

 「あたしは未来人じゃないけど、未来を知ってるのよ!」

 

 カエデの知ってる未来は、鏡の怪人を撃破して、皆で無事に帰る未来。

 

 その未来を実現する為に必要な力は、今ここで出し切るつもりだ。

 

 もう二度と自分を見失わない様に、もう二度と会えない彼の為に、もう二度と未来を脅かせないように、もう二度とギンジを奪われない様に・・・。

 

 「最大必殺!」

 

 光の力を集めた移動は鏡の怪人の速度を有に上回り、即座に真正面に躍り出た。

 

 (な、速いっ!!)

 「シャイニング・インパクトっ!!」

 

 収束した光とその衝撃は捉えた鏡の怪人の胴体に深く命中した。

 

 「がっああああっ!!?」

 

 螺旋する光のエネルギー、強く解き放たれる正義の衝撃。

 

 閃光の名に恥じない、最大の奥義。

 

 手に乗せたカエデにしか出せない愛の力。

 

 全てが混ざり合い、究極の一撃となった衝撃は、カエデの両腕から放たれて、鏡の怪人を目に見えない速度で仄暗い空間の奥へと、叩き飛ばした。

 

 音すらかき消す衝撃が、鏡の怪人へと痛烈な一手となり、仄暗い鏡の世界に亀裂を作る。

 

 「がはっ、ごほっ・・・馬鹿な!なんだこの威力は・・・っ」

 「言ったでしょ!もう、あんたはあたしに勝てないってね!」

 

 吹き飛ばされた鏡の怪人の前に、正義のヒーローは立っていた。

 

 「立ちなさい。ギンジを弄んだ事、お父様を傷つけた事、後悔させてあげるわ!あんたも限界でしょ」

 

 神宮カエデの凄まじい怒気に、鏡の怪人は覚悟を決めて立ち上がる。

 

 (あんた、も、ね。ヘヴンホワイティネスも限界が近いんでしょうね)

 

 お互いに傷つき、余裕が無い事は解っている。

 

 ならば次に決める一撃こそが、最後の攻撃になる。

 

 カエデには敗けられない覚悟がより大きくなった。

 

 鏡の怪人にも敗けられない覚悟が大きくなって来た。

 

 『これで最後よ!』

 

 二人の同時攻撃が同時に発せられた声によって、共に発動された。

 

 「ミラー・・・」

 「シャイニング・インパクト!」

 (速っ・・・)

 

 もう攻撃の速度でカエデが敗ける事はありえない。

 

 再度繰り出されたカエデの最大必殺が再び鏡の怪人に叩き込まれた事で、もう一度吹き飛ばされた。

 

 身体がバラバラになりそうな程の衝撃に吹き飛ばされた鏡の怪人の頭上で、カエデが追いつく。

 

 「超必殺!ヘヴンリー・ランス!」

 

 黄金のブーツから収束した光を踏みつける様に蹴り出して、閃光の一突きが鏡の怪人の勢いを無理やり殺して、地面にめり込ませる。

 

 「超必殺!メテオライザー・ミサイル!」

 

 全身を使った空中旋回からの、隕石の如き急降下。

 

 「超必殺!終・バスターフィスト!」  

  

 バウンドした鏡の怪人の胴体へと、またも閃光の衝撃を纏う拳が突き出される。

 

 「ぐっはぁ・・・!!」

 

 圧倒的なまでの覚醒を果たしたカエデに、鏡の怪人は成すすべ無く、攻撃を貰うだけ。

 

 「ハァ、ハァ・・・ぬぅぅっ」

 「・・・まだ倒れないの!?」

 

 転がりながらもその勢いで立ち上がった鏡の怪人は、朦朧とする意識の中、意地だけで立ち上がった。

 

 「・・・敗け、るモノ、かぁ・・・」

 「・・・」

 

 覚悟は十分。

 

 だが、覚悟だけでは超えられない壁を見せつけられた気分だ。

 

 「フェーズ3・・・開放・・・」

 「まだやるのね・・・いいわよ、あんたがどれだけ強い力を隠してようとも、絶対に敗けないんだから!」

 

 仄暗い空間には、またも亀裂が現れて大きく光が差し込んでくる。

 

 決着の時は近い・・・。

 

 

 

続く

 

 

 




お疲れ様です。
インフルにやられましたが、なんとかお話をかけました!
体調管理だけではどうにもならないインフルは今すぐ滅ぶべし!!

カエデと鏡の怪人との戦いももうすぐ終わります。
鏡の怪人編はあと三話ぐらいですかね・・・。

キャラネタ書きます

神宮カエデ
物語最序盤に出てきた真っ暗な空間、その空間の主と再開をして、しかもギンジだと言う事も見抜いた唯一の人。
ヘヴンスーツと完全適合を果たして、ファイナルフォームを引き出した事で、鏡の怪人を圧倒した。
この戦いが終わったら、ちゃんとギンジに想いを伝える事にした。

鏡の怪人
ヘヴンホワイティネスの覚醒に圧倒された怪人。
フェーズ3を開放しようとしているが・・・。

歩兵ミツナリ
何か底知れぬ大きな闇に生きている老人執事。
カエデの事も知っている模様。

ギンジ
物語の序盤から真っ暗な空間と、向こう側に戻れる扉を提供し続けた影の立役者。
描写は無いが、ミドリコ、ケイタ、赤鬼の事もこの空間で助けていた。
正体はこの世界に流れ着いた、佐久間ギンジの残留思念。
ただの人間に出来る事の規模感にしてはかなり大きいが、もうこれで最後となる。扉はくぐった者に、もう一度生きる力を授ける、特殊な力。
これを一つ作るだけで、精神力を大きく減らす為、元の世界に居たギンジという人間の名残を何一つ残さない原因となってしまうが、本物のギンジとはまた別の為、共有とかはされていない。ギンジが交通事故にあった事、世界を渡った事で精神が少し切り離された、いわばオリジナルのギンジである。
なお、怪人佐久間ギンジもオリジナルである為、少々ややこしい。ニュアンスで感じろ!

・・・
さて、次回はついにvs鏡の怪人決着!
そして鏡の牢獄に囚われたギンジを助ける為に、カエデがもう少しだけ頑張る、そんなお話になる予定です。

もう少しだけ、鏡の怪人編は続きます。
物語はまだまだ続きます。執筆ペースが落ちていなければ、今頃は終盤の真ん中ぐらいまではいけてたのに!

愚痴ってもしょうがない。頑張って時間を見つけて執筆しますぞい!

それではまた次回!アトラクションでした!
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