正義のヒーローヘヴンホワイティネス   作:アトラクション

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皆様こんにちは、アトラクションです

鏡の怪人編最終3話の2つ目です

今回のお話では、サプライズがあります。本当にサプライズかはわかりませんが、お楽しみに。

今回のキャラネタにはネタバレが含まれます。
最後にお読みください。

それではどうぞ!


113・憎悪の執念

 未鏡市クアッドタワー。

 

 有名企業が入り、ホテルや高級菓子のお店などが入る、タワーと呼ぶだけあって高い建物。

 

 その総階層は67階にも及び、この未鏡市を象徴とする目立つ大きな建物である。

 

 今日まで平和が保たれて、大きなクアッドタワーが守れられているのは、一言で言っても、ある男の力の影響が大きい。

 

 「・・・ふぅ」

 

 そんなクアッドタワーは、オフィスビルエリアの一つの企業の窓からでも見られる程異彩と、絢爛さを醸し出している。

 

 街並みを見下ろすのにも飽きたのか、一人の女性が短いため息を吐いた。

 

 ブラインドを落として、強い日差しが入らない様にすると、女性は黒い袖口にフリルのついた洋服を翻して、高級な革の椅子に腰掛ける。

 

 優雅な振る舞いと、音を立てない丁寧な座り方は、見る人が見れば確実に綺麗だと思う。

 

 仕草一つとっても、その女性の動きに誰もが魅了され、誰もが恐れおののく。

 

 その女性の名は・・・。

 

 prrrrr。

 

 彼女が座る執務机に乗せられた、社用の電話が鳴り響く。

 

 音の調整は出来ず、けたたましい程の大きな音だが、彼女はそれも美しい動作で受話器を取る。

 

 すらりとした指、黒い服だからこそ目立つ白いきめ細かい肌。

 

 薄いリップを塗った口元と、整った顔立ち。

 

 線をスッと引いた様なバランスの良い顔で、彼女は電話越しの相手にこう名乗った。

 

 「はい、営業部統括・神宮です」

 

 黒十字株式会社・営業部統括・神宮楓。

 

 それが彼女の役職であり、それが彼女の名。

 

 『お、お忙しい所っ、大変申し訳ございません!』

 「商談に何かありましたか?」

 

 電話相手の声と焦り方に、楓は顔色ひとつ変えずに淡々とした口調で話す。

 

 この社用電話、それもこの営業部統括である楓のオフィスにかけてくるのは、本日商談に向かっているメンバーからしかかからない。

 

 故に、最初に楓が話したのは、商談について何かあったのか、詳細を知りたいのだ。

 

 『そ、それが前代未聞の事件がおきてまして』

 「回りくどいのは嫌いよ。結論・理由を簡潔に纏めなさい」

 

 社運がかかると言うわけでは無いが、そんな一大事に連絡する余裕があるのであれば、何があったのかを話せば良いのだ。

 

 『も、申し訳・・・』

 「謝罪はいい。早くなさい」

 

 高圧的にも感じるは、特段苛立ちがあるわけでもない。

 

 そもそも今回商談に向かっているのは、この会社のエースでもある、佐久間銀治なのだ。

 

 電話をかけてきたのは、声質からして大久だろう。

 

 あの佐久間銀治の優秀な部下のハズ。

 

 何故、こんなに焦っているのだろうか。

 

 『えー・・・暴漢がクアッドタワーで大暴れしておりまして・・・』

 「暴漢・・・?」

 『兄貴は俺っちが助けるんじゃー、って叫びながら大暴れ中でして』

 「・・・そう」

 

 耳をすませば、電話越しでも何か金属の様なモノが、何かを叩いている音と、強烈なガラスの割れる音が楓に聞こえる。

 

 「ふぅ。今日は残業になりそうね」

 

 元々悪い予感はしていた。

 

 と、思うのは急な出来事へのこじつけだが、楓はこのオフィスを離れる支度を始める。

 

 受話器の設定を、有線からワイヤレスに変えてから席を立つと、短いスカートからまろみ出る、綺麗な脚と、銀色のロングヒールをスラリと出していく。

 

 『ざ、残業、ですか?』

 「そうよ。それと、その暴漢の件だけど・・・」

 

 楓は行儀は悪いと思いつつも、自分の部下の危機と言う事もあり、肩と耳に受話器を挟んだままで会話を続ける。

 

 神宮楓と言う女性は、普段表には絶対に出さないが、ある一つの事には感情を出しそうになってしまう事がある。

 

 「先ず、貴方には怪我はない?」

 『あ、はい。そこは問題ないです』

 「そう。鈴村と畑中にも無いかしら?」

 『多分・・・すいません、同じ場所に居なくて』

 「・・・。まあいいわ。最後に・・・」

 

 一瞬黙ってしまったのは、思わず舌打ちをしそうになってしまったからだ。

 

 得にあの鈴村と言う部下は、楓のトップクラスに気に入らない人物の一人だ。

 

 平静を取り戻して、最重要に確認したい事を、大久に尋ねる。

 

 「佐久間君は無事なのかしら?」

 『恐らくは・・・』

 

 まだ見ていない事、確認出来ていない事を聞かれても、大久には答えかねる。

 

 それもそうだろうと、楓はため息をつくと、黒いファーのついたコートを羽織り、受話器を手に持ち直す。

 

 「わたくしが行くまでに、佐久間君をみつけて。必ず安全な場所に隔離しなさい。後、警察への連絡も。いつもそうだけど、貴方は順番が違うわ」

 『大変申し訳ございません』

 「謝罪はいらない。貴方も怪我をしないように」

 

 それだけ告げると楓は受話器を机の上の元の土台にセットする。

 

 通話をやや早めに切り上げると、楓はヒールの音を強く、しかし華麗に鳴らしながら自分のオフィスを後にする。

 

 「・・・無事で居て、佐久間君」

 

 コートの裾は歩く速度で浮かび上がり、その中で綺麗な白い肌の脚が見え隠れする。

 

 静かに・・・絶対に誰にも聞かれないように静かに言うと、今日初めて苛立ちを見せた顔で、神宮楓は佐久間銀治が居るクアッドタワーへと向かう事にした。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 クアッドタワー内部・・・。

 

 1階のエントランスから繋がる2階のホールで、誰もがすくみ上がってしまいそうな迫力と、止めに入る警備員を容赦なく粉砕していく姿に、大久は身体が震えてしまう。

 

 異形人はこの世界ではよくあるモノだが、あんな一本の角が生えた全身真っ赤の異形人は見たことは無い。

 

 「ぶひぃ・・・」

 

 恐怖が理性を超えた時、人はよくよく情けない声を出すと言うが、それは本当だ。

 

 大久は人生で発した事ない、「ぶひぃ」を人生で初めて使った。

 

 大久がしゃがんで隠れるソファの真上を、黄金のポールが弾け飛んで来て、大久の頭部スレスレをまっすぐに飛んでいく。

 

 分厚い窓ガラスに突き刺さったポールは、刺さった箇所を中心として、蜘蛛の巣みたくヒビを大きく作る。

 

 あともう一本突き刺されば、この分厚い窓ガラスは完璧に砕け散る事になるだろう。

 

 「いったいなんでこんな大事な日に・・・」

 

 ただの人間であり、高校、大学とラグビーを続けていた大久でも、あんな大暴れする異形人を止める事は出来ない。

 

 そもそも身の丈以上の大きさの金棒?らしきモノを振り回している時点で、ほとんどのヒトがコレに勝てるわけが無いだろう。

 

 「あああ、助けてくれ佐久間先輩!!」

 

 大久は過去、色々な事で助けてもらい、指導、慰め、叱咤激励をしてくれた佐久間先輩の姿を思い出す。

 

 大学生の時、会社見学でフレンドリーに接してくれた事や、初めての商談をミスった時に、具体的なミスの観点からフィードバックをいただけた事、自分の成長に繋げる為に夜遅くまで残業してまで、大久の為の参考資料を作ってくれた事・・・。

 

 そんな頼りになる男の背中を思い出して、大久は急に立ち上がる。

 

 「なんだァ・・・?まーだいやがったかァ・・・」

 

 ゴハァと白い息を吐いた赤い肌の鬼は、爛々とした瞳で立ち上がった大久を見つめる。

 

 その姿はさながらターゲットをロックオンした様な眼をしている。

 

 眼の前の子豚を狙うのに、全力を出す悪鬼羅刹の姿が、大久の眼の前で命を踏み潰そうとする鬼迫を醸し出していた。

 

 生き残りは誰一人出さない。

 

 それが大久の眼の前に暴れる異形人である。

 

 真っ赤な肌と、雄々しい一本の角。

 

 「ぶっ殺ォォォス・・・」

 「死ぬ・・・」

 

 眼の前に対峙した時に分かる、圧倒的なまでの戦闘力を秘めた怪物。

 

 それが大久の眼の前に立つ、赤い鬼である。

 

 (まぁ、本当に殺してたりしたら姉御達にも、兄貴にも顔向け出来ねぇから、全身複雑骨折にとどめてるけどな)

 

 実際に手をかけている事には眼をそむけて、赤鬼は自分を止めに入った警備員達は、ほぼ殺している様な攻撃の状況である。

 

 (だってまぁ、ここを出ちゃえば関係無いもんねぇ)

 

 鬼の形相のまま、赤鬼は頭の中でそんな事を独り言の様に片付ける。

 

 「うわああ来るなら来い!」

 

 元ラグビー部の経験を生かして、大久はめいいっぱいに叫んで、命を踏み潰す怪物に雄叫びを上げた。

 

 ここが人生で一番の大勝負。

 

 大事な先輩である、佐久間係長の為に、大久は命の輝き全開で赤鬼に突入して行った。

 

 だがその無謀な突入の結果は、火を見るより明らかな状態である。

 

 何故なら赤鬼の力は、恐らくこの未鏡市に居る異形人の中でも、類を見ない破壊力の高さを出している。

 

 その力は既に大久が自分の眼で見ていたモノだった。

 

 「兄貴を出せやぁぁぁ!」

 

 オリハル金砕棒を思い切り振り上げて、そしてうち下ろす。

 

 空気を割る様な音を響かせて、自分に突っ込んできた大久の頭上から、確実に頭頂部を狙った大破壊の一撃は、皮膚を潰して骨を砕いて脳髄をすり潰して、首から身体までを物理で引き裂きながら、クアッドタワーの床までをぶち抜いた。

 

 軽く力を出しているが、クアッドタワーを揺るがす破壊の一撃は、大久という存在を、過去のモノにしてしまった。

 

 肉片の飛沫を気にせず、2階の大フロアをぶちぬいた赤鬼は、そのまま下の階へと落下。

 

 倒壊した建物の残骸に飲み込まれるも、その次の瞬間には空気を放出した吹き飛ばしに、ついにエントランスそのモノも大破壊を成立させる。

 

 「ヌハハハ!暴れ足りねぇな!」

 (姉御・・・まだ来ないんか?もうそろやり過ぎてる感あるぞ?)

 

 高笑いしつつ下卑た悪の怪人の笑みを見せると同時に、赤鬼は脳内でまだ出てこない正義のヒーローの登場をまだかまだかと待ちわびている。

 

 これ以上やるならクアッドタワーそのモノを壊しかねない。

 

 「・・・やりすぎ」

 「あん?」

 

 低い女性の声。

 

 それを聴いて赤鬼は自分の役割を全うする為に、声のした方へと振り向いた。

 

 白を基調としたボディラインがはっきりと浮き出る、正体不明なスーツ。

 

 肩から腰にかけて青いラインの入ったスーツを着た少女が、左手にビームの光を宿す剣を下げていた。

 

 「ようやく来たかぁ・・・」

 「これ以上、お前に、悪事は働かせない。覚悟しろ、怪人」

 「俺っちは暴れたいだけだぜ。邪魔するってんならァ、容赦なく粉砕してやらァ!」

 

 赤鬼の言葉に、突如現れた少女は何も返さない。

 

 変わりにビーム剣を両手で持ち直して、その出力も大きくしていく。

 

 「ビーム長剣。覚悟は良い?」

 「おうよ!殺す気で来い!」

 

 赤鬼の最後の言葉が決め手となって、二人同時に瓦礫を踏み抜いて、オリハル金砕棒とビーム長剣がぶつかり合う。

 

 金属を焼きかねない高出力のビームと、質量を持たないはずのビームを叩き折ろうとする、人間には不可能な破壊の力が、お互いの動きを止めて風圧を生み出す。

 

 「カエデの姉御は?」

 「ギンジを探しに行った。避難誘導も兼ねて」

 「そりゃ良い判断だ」

 「適当に敗けて」

 「ガッテン」

 

 衝突している傍ら、小声で話し終えると、レンが赤鬼の腹へと突き出し蹴りを叩き込んだ。

 

 その衝撃はさして大した事は無いのだが、赤鬼はわざと後方に転がっていく。

 

 「正義のヒーローが、相手する・・・」

 「へぇ、ヒーローのお出ましかい・・・随分遅ぇな」

 

 赤鬼が片膝付いて立ち上がると、レンは静かに微笑んで赤鬼にビーム長剣の切っ先を向けた。

 

 「正義のヒーローは、遅れて来るの」

 「律儀に守るたぁ、けったいな事だぜ」

 

 本当は演技であり二人に戦う意思は無い。

 

 だがここに集まろうとしている警察や、その他の都合の悪い組織がクアッドタワーに突入して来た時に、二人に都合が良い様に動かないと行けないのだ。

 

 「行くぞオルァ!!」

 

 鬼の咆哮が、レンの耳をつんざきそうな大声であり、これだけでも一般市民は死にそうな迫力を感じ取った。

 

 「敗けない・・・!」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 いよいよクアッドタワーの下層では、大きな爆発音が鳴った。

 

 ここは架空の度固化市。度固化市によく似せた、不思議でめちゃくちゃな世界。

 

 故に何が起ころうともカエデにはあまり関係ない。

 

 なのに、一般市民をなるべく怪我をさせたくないと言う理由で、カエデはレンに後のことを任せて、彼女は一人でギンジを探しにクアッドタワーの上層へと向かったのだ。

 

 ここを利用している人々を助けながら、なるべく被害が出ない様に、己の正義の為に。

 

 「ああもう!ギンジはどこに居るのよ」

 

 早くギンジを助けてあげたい。

 

 その一心で、カエデは混迷極まるタワーの廊下を駆け抜ける。

 

 平日の昼間と言う事もあり、ここを利用している人々に私服の姿の者は少なくて、リクルートスーツや、制服を着ている人の方が多い。

 

 そしてそんな人達は、皆平和な未鏡市においてのこのテロレベルの騒動に、恐怖し切っている。

 

 「どこもかしこも・・・人が多いわね!どんだけ動かないのよ!」

 

 どこの通路にもその場を動かずに、しゃがんで移動しない人達が集まり続けている。

 

 「皆!早く逃げて!このタワーに怪人が出たわよ!」

 

 カエデが腕を振り払いながら、避難誘導を促す事で、ようやく一般市民達は動き出す。

 

 「逃げるったってどこに・・・」

 「とにかく安全な所よ!」

 

 安全と一言で言っても、それはどこなのか分からない人達は、カエデの言っている事を素直に納得はしてくれない。

 

 「ああもう!いいから早く逃げて!あたしはギンジって男を探さないといけないんだから!」

 「銀治?そりゃ俺の事なんだが・・・?」

 

 カエデに話しかけて来たアワアワしている男は、スーツをぴしっと着ていて、髪型は爽やかなスポーツ刈りをしている。

 

 清潔感のある、社会人としての身だしなみがしっかりしている男性が、自分をギンジと名乗った。

 

 「は?」

 「いや俺俺。俺が銀治」

 「・・・?」

 

 眼はちゃんと人間らしく、白い眼球に黒い瞳。

 

 しかし顔だけはカエデがよく知るあのギンジの顔をしていて、どこかとぼけたぼーっとしている所もありそうなあの顔である。

 

 もっと感動的な再開をしてみたい所もあるが、カエデはモニターで見たギンジを思い出して、顔を明るくさせる。

 

 「あーーーっ!ようやく見つけた!」

 「ええ・・・?っていうかオネーサン、なんでそんなコスプレを・・・」

 

 銀治は自分を見て喜んだ顔をしている少女の姿が、この状況に似合わないとして、逆に驚いている。

 

 「その姿・・・その身体・・・あと、声?全部ヘヴンホワイティネスみたいじゃん・・・」

 

 流石に見覚えがあるのか、銀治は眼の前に居る少女の姿に、困惑している。

 

 「あ、ハハハ、もしかしてそういうイベントか?この爆発?とかもそうでしょ。あの同人グループ、変な所で金かけるモンな」

 

 現実逃避じみたせせら笑いに、カエデが思い切り頭を叩く。

 

 「そんなわけないでしょうが!っていうか、何よ同人グループって」

 

 相変わらずの勢いで銀治の頭をひっぱたいたカエデだが、今はスーツによる恩恵がある事を忘れてはいけない。

 

 「痛ってぇ!!」

 

 どんなに力を制御していようと、ヘヴンスーツの攻撃力は武装している警官や、軍事力に対して単身でどうにかなる時もある。

 

 それぐらいの能力を秘めているモノを、銀治は首を少し痛める程度で終わらせている。

 

 「殴るなよ!超いてぇぞ!」

 「もう。思い出した?」

 「何をだ・・・?っていうか初対面で人の事殴るとか、どういう神経してんだ、このコスプレ女!」

 

 自分でもなんでこんな言葉が出てくるのかわからないが、銀治はスラスラと暴言が出てくる。

 

 まるで身体に染み付いていた様に。

 

 「思い出せていないみたいね。それじゃあ、もう一回」

 

 顔に怒りの血管を浮かばせて、カエデは銀治を殴ろうとするが、もう一回大きな爆発音が鳴る事で、その場に居る人達がついに恐怖でパニックになる。

 

 「・・・そんな事している場合じゃないわね。行くわよギンジ」

 「え?行くってどこに・・・うおっ」

 

 銀治には何がなんだか分からない状況なのに、このヘヴンホワイティネスの少女によって、腕を引っ張られる。

 

 人混みを抜けて、壁を走り抜けて、カーペットを踏みつけて、とにかく開けた安全な場所に銀治を連れて行く事にしたのだ。

 

 肩が脱臼してしまいそうな勢いで引っ張られるが、銀治は意外と自分の身体が頑丈な事に驚いている。

 

 さっき叩かれた所ももう痛くない。

 

 涙が出そうな程痛いのだが、その痛みはもう既に無いのだ。

 

 不思議に思いつつも、銀治は一つある事を思い出して行く。

 

 「皆、こっちに来て!柱の大きいこの広間ならしばらくは安全だから!」

 

 カエデが銀治を引っ張りながらも声をかけると、すがる者を持たない彼ら彼女らはカエデの言葉をようやく信じはめて動き出した。

 

 「なぁ、こっちは大切な商談の途中なんだ!あ、あと後輩を二人見失っちゃって」

 「商談?後輩?何を言ってんのよ!あんたの居場所は、こっちでしょうが!」

 

 是が非でもギンジに記憶を取り戻してほしいカエデは、必死になりながらも銀治をもう一回殴る。

 

 「理不尽だ!」

 「理不尽でもなんでも良いわよ!そんな事より、何か思い出さない?あたしの事とか、レンの事とか!」

 「レン?あんたの事も・・・?」

 

 マジで何を言っているのか分からないと言った雰囲気で、銀治はカエデの眼をよく見てみる。

 

 「いやー俺にこんな美人の知り合いは居ないな。あ、どこかの飲み会で知り合ったっけ?」

 「殴るわよ・・・」

 

 こんな脅しみたいな事をしたいわけじゃないのに、銀治との会話が上手く噛み合わなくて悔しくなる。

 

 握った拳の力を緩めて、カエデは冷静になる。

 

 ここに居るギンジがもしも殴りすぎて、現実に異常を出したらそれも問題になりそうだと思ったからだ。

 

 あと、何よりも自分が好きな人を殴り続けるのも申し訳ない。

 

 「とにかく、俺は後輩の無事を確認しに行きたいだけなんだよ。あんたの事は分からないけど、とりあえずあんたも安全な所に行った方が良いぜ?」

 「あたしはどんな所でも大丈夫よ。それより、あんたの後輩はどこに居るの?」

 

 銀治は眼の前に居るカエデの事にはあまり関心は持たず、それよりも一緒に商談に来ている後輩二人の方が大事に思っている様子だった。

 

 大きな振動で揺れるクアッドタワーの内部で、銀治は後輩の安否を確認しようと動き出した。

 

 「ちょっと」

 

 そんな銀治の腕を掴んだのはカエデだった。

 

 分厚くて硬いガントレットで、しっかりと銀治の腕を握る。

 

 「なんだよ」

 

 睨みつける様な視線は、どことなくカエデの知るギンジの顔。

 

 だけど、カエデの知っているギンジでは絶対に見せない、怒ったような焦った様な顔。

 

 「その後輩はどこに居るのよ。あたしが助けに行ってあげるから」

 「・・・いいや、いいよ。俺の会社の後輩だし、初対面のコスプレ女にそんな借りを作る事も無いだろ」

 「皆待ってるのよ、あんたの事を!」

 

 なんとなくカエデの事を避けようとしている銀治に、カエデは必死な声を出した。

 

 今すぐに自分の事を思い出させるのはきっと不可能だ。

 

 だから、ギンジの心を助ける事にも、順序がある。

 

 「お願いよ。ここは危険なの。あたしが助けに行くから、ギンジはここに居て」

 「・・・」

 

 なんとなく。本当になんとなく。

 

 銀治はこの少女が、うつむきながら自分の腕を、手を握る事を、過去に何度もあった様な気になる。

 

 見覚えがあって、聴いたこともある様な声。

 

 細いのに、力強い、凛とした雰囲気。

 

 なのに、悪には絶対に屈したくない、そんな雰囲気。

 

 この状況は悪が作ったモノだ。

 

 銀治はこの状況を、自分が好きなゲームに当てはめて考えてしまう。

 

 (・・・なんだろう、なんか不思議な感じ)

 

 この少女が自分にお願いをする、そんな状況がなんだか懐かしく思うのだ。

 

 「・・・分かったよ。じゃあ、お願いしようかな・・・」

 「うん!あたしに任せて!」

 

 銀治はしぶしぶ初対面の少女に、自分の後輩の事を託した。

 

 きっと・・・この人なら、確実に遂行しようとしてくれるからだ。

 

 そんなありもしない信用を乗せて、お願いしたくなった。

 

 「でもさ、行く前に教えてくれないか?」

 

 銀治がカエデの手から離れて、ようやく真面目な顔をカエデに見せる。

 

 カエデも同じ様に銀治の眼をしっかりと見つめる。

 

 「あんた・・・まじで何者なの?」

 

 絶対にこの街では起こり得ないテロじみた状況、そんな中現れた自分を知っている様な素振りの少女。

 

 その姿は正しくゲームに出てくるヘヴンホワイティネスと似ている姿。

 

 「あたしは・・・」

 

 変身スーツのまま、カエデは銀治に自分が何者かを話す。

 

 「正義のヒーローよ!あんたのね!」

 「!?」

 

 「!?」となるのも当たり前だ。そんな架空の存在が居る事自体驚きなのだが、自分をヒーローと断言して紹介出来るのは、この世で銀治が知る限り、一人しか居ない。

 

 ・・・居ないはずだ。

 

 「・・・この真上の階に居るよ」

 

 銀治はカエデに一言告げた。

 

 「後輩よね?」

 「ああ。名前は鈴村都子、もう一人が畑中莉子っていうんだ」

 

 二人の後輩の名前を聴いた途端に、カエデは赤鬼の言葉を思い出す。

 

 (なるほど・・・驚異に思う人物、あのミヤコとリコニスはギンジにとって驚異的な相手って事なのね)

 

 今この世界はギンジの心の中に一番近い。

 

 だからこそ、カエデの知る人物がいっぱい現れるのも、ようやくうなずける。

 

 皆驚異的に思える、それだけギンジの心の中には、沢山の人物との出会いがあったのを理解して、カエデは少しだけ安心する。

 

 「わかった、その二人を必ず探し出してくるわ。その変わり、ちゃんと眼の前に無事につれてきてあげるから、その後は少しあたしに付き合いなさいよ」

 「・・・頼んだぜ」

 「任せなさい!」

 

 銀治との会話と約束を済ませて、カエデは皆が集まるこの広間を駆け抜ける。

 

 変身スーツのパワーを使えば、最早人を超えた速度で、急いで上の階を目指す。

 

 (まったく・・・こっちの世界でもミヤコとリコニスに会うなんてね。嫌な縁だわ)

 

 心の中で悪態をつく。

 

 それでも、この世界では銀治(ギンジ)の中に居る、ありえた人物。

 

 記憶を思い出させる良いキッカケになれば良いとは思うのだが。

 

 (待ってなさい・・・必ず、見つけ出すから!)

 

 カエデの走る真正面には階段。

 

 豪華な大理石の階段を駆け抜けて、上の階層へと飛び出した。

 

 「って、商談なんてどこでやってるのよ。ちゃんと聴いてくれば良かった」

 

 こうなったら手当たり次第に部屋を探し回るしかない。

 

 「この部屋は・・・!」

 

 先ずは眼の前にある一番近い扉。

 

 その扉を蹴破って開けた途端、部屋の奥から火の塊が飛んできた。

 

 こんなめちゃくちゃな世界なのだ。

 

 最早なにがあってもそんなに驚く事は無いだろう。

 

 「危なっ」

 

 後方に飛びながら火を回避すると、部屋の奥からは全身を改造したかの様な大きな身体をした存在が、カエデの前に足を鳴らす。

 

 右手にはレールガンの砲塔の様なモノが取り付けられて、灰色の肌に怪人の瞳。

 

 炎イメージさせるゆらめきのある衣装に身を包んで、なおかつ大きなからだカエデの前に立ちはだかる、炎の壁を体現する様な姿が、そこにはあった。

 

 「あんた、もしかして」

 「久しぶりだな・・・ヘヴンホワイティネス」

 

 カエデの眼の前に現れたその存在は、ギンジと初めてあった時に交戦した怪人。

 

 そしてギンジを助ける為に、ギンジの精神世界に入り込んだ時にも再開した

 

 バーナーの怪人・・・。

 

 あの時と姿が変わらず、相変わらずの様だ。

 

 「俺様の居る部屋に攻撃してきたから、一体何者が来たのかと思ったぞ」

 「キキキ、まさかヘヴンホワイティネスも、とうとう死んだのか?ギンジに飲まれたか?」

 

 そんなバーナーの怪人の後ろからは、コウモリをそのまま大きくしたかの様な体躯に、喉を引っ掻いた様な笑い声を出す、コウモリの怪人。

 

 「なんで、ここに居るのよ・・・」

 「なんで、か。俺様達にもわかりかねる」

 

 バーナーの怪人もコウモリの怪人も、どうしてここに居るのか、自分たちにもよく分かっていない様子だった。

 

 「気がついたらこの部屋に居たからな。俺様も、どうして良いか正直よくわからない」

 

 バーナーの怪人がうなずきながら言うと、カエデはすぐに立ち上がって、ギンジの身に起きた事を思い出す。

 

 「そうだ、バーナー、コウモリ。ギンジの大ピンチよ。ギンジの記憶を取り戻す手伝いをして頂戴」

 「手伝い?記憶?キキキ、相変わらず意味が分からないね」

 「あんた達は別に分かろうとしなくて良いのよ。とにかく、ギンジが記憶を失っているの。ギンジがまともになれないんじゃ、あんた達怪人にも不都合があるんじゃない?」

 

 ここはギンジの心の世界と直結している、鏡の牢獄。監獄とも呼ぶが、きっとギンジの心の中を映している。

 

 だから、この怪人が二人居るのも理解は出来る。

 

 どうして現れるのかは、別に関係ない。

 

 「具体的に俺様達は、どうしたら良い?ギンジのピンチならば、助けに行こうじゃないか」

 「キキキ、そうだねぇ」

 「なんと言っても、俺様とギンジは友達だからな」

 

 ギンジが心に封じ込めたり、吸収した者達は、何かを認めてここに居る。

 

 それはカエデには全部はわからないが、それでもここに居る架空の人物ではなく、ちゃんとギンジを知っている存在もそのままここに居るのだ。

 

 だとしたら、カエデにも勝算は出てくる。

 

 「・・・ギンジの眼の前に現れてくれればそれで良いわ。それが確実な訳じゃないけど、きっと見れば思い出すから」

 「分かった。そんな事で良ければ、俺様は協力する。お前はどうだ、コウモリ」

 「キキキ、別に構わんぜ。金棒ちゃんにも声をかけようか。あと、お月さまにも」

 

 コウモリの怪人が羽を閉じ込みながら、天井へと逆さまに張り付く。

 

 おそらく金棒は赤鬼の金棒。

 

 お月さまはムーン・パラディース。

 

 「魔法使いも忘れているぞ。あと、黒い波動もな」

 

 魔法使いとは多分魔法界で吸収した重力のアレの事に違いないと、カエデは鼻で笑う。

 

 黒い波動についいては覚えが無いが、自分が知らない内に吸収した怪人の能力の一つだろうと、カエデは納得する。

 

 「下の階にギンジは居るけど、今すぐじゃなくていいわ。準備が整ったら、あたし達はギンジを連れてこのクアッドタワーから出ていくの。その後で良いから、ギンジの下に来なさい」

 

 随分大雑把に言っているが、カエデにもあまり時間が無いのだ。

 

 「じゃあ、あたしやる事あるから!」

 

 時間があまり無いカエデは、この部屋を後にして、クアッドタワーの内部に居るであろう、銀治の後輩達を探しに向かう。

 

 そんなカエデの背中を見て、バーナーの怪人は正義のヒーローを応援する様な目つきで、右手のレールガンから少しの炎を噴出させる。

 

 「俺様、少し楽しみになってきた」

 「あぁ、そうだねぇ。ギンジの記憶がどうのこうの言っているみたいだけど、お前、ギンジに会ったらどうする?」

 「勿論、ぶっ飛ばす」

 「キキキ、そりゃあ良いね」

 

 ここに居る二人はギンジに敗けて、もしくはギンジを認めて心の中に住む事を決めた者達だ。

 

 ギンジの為に力を貸した以上、こんな事で呼び出されるのは御免だと、その気持ちが強い。

 

 故に、敗けようと、勝とうと、心に世界を造らせて、それを表に出す様な真似をしたギンジへ、期待を裏切らないでほしいと本気で思い始めたのだ。

 

 「俺様は喝を入れてやるぞ」

 

 バーナーの怪人の言葉に本気を感じたコウモリの怪人は、同じ様に「喝はわたしも入れてやる」と、一言で返した。

 

 「それじゃあ、準備を始めようか」

 

 ギンジへの憤りもあるが、それ以上にギンジの心を踏みにじった存在についても、大きな怒りを秘めた言葉で、バーナーの怪人とコウモリの怪人は、他の心に住まう住人達を招集し始めた。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 「・・・商談の雰囲気ではないね、くふふ」

 

 あまりにも大きい建物の揺れと、爆発音に、都子は不安な表情ではあるが、薄気味悪い笑い声を出す。

 

 「そうね。商談先の相手もどっか行っちゃったし、そろそろ佐久間先輩の所に戻る?」

 

 その隣で莉子は手鏡を使って、自分の化粧を確認している。

 

 「くふふ、でも動くなって言われてるし、素直に指示に従っていた方が良いよ」

 「ん〜それもそうなんだけどさぁ、暇なのよねぇ。なんか、こう、こういう時にこそ暴れたいと言うかぁ?」

 

 別に荒事に心得がある訳ではないが、莉子はとてつもなくこの状況に心を踊らせている。

 

 「この部屋も安全か分からないけど、どうしようか?」

 

 都子が莉子に聴いてみた。

 

 別にどうにかして欲しい訳じゃないが、なんとなく話していると不安が紛れる気がしているからだ。

 

 「ん〜・・・連絡取れないし、佐久間先輩を探しに行くんでも良いけど?」

 

 さもつまらなさそうに、莉子はあくびを噛み殺して都子に返す。

 

 「よし、じゃあ佐久間先輩を探しに行きましょう。くふふ、きっと寂しくて泣いているに違いないよ」

 「ああ、それじゃあ私が抱きしめて安心させてあげようかな〜」

 「くふふ・・・それは無理だね。わたしの方が安心させられる」

 

 ふとした事の、なんてこと無い張り合いだが、この状況がそうはさせ無かった。

 

 この二人は銀治に世話になっており、それでいて銀治に恋をしている。

 

 学生時代の時みたく、曖昧なモノではなく、社会に出てからこそ分かる、ちゃんとした将来を考えられる恋愛として、恋をしている。

 

 一つ問題点があるとすれば、銀治は変なゲームを趣味にしているのだ。

 

 「あのゲームさえなければ完璧なんだけどねぇ〜」

 「くふふ、別にどんな事を趣味にしていても、わたしは気にしないけどね」

 

 嘘だ。本当は二次元なんかでは無く、自分を見ていて欲しい。

 

 都子は分かりやすい嘘をついて、莉子は結構ストレートに考えている。

 

 「この部屋どうだ!」

 

 そんな二人の話す談話室では、扉が勢いよく蹴破られた。

 

 その衝撃に驚いた二人は思わず身体を寄せ合って、衝撃に備えた。

 

 「ハァ、ハァ・・・貴女達、名前は言えるかしら?」

 

 肩で荒々しく呼吸する女性は、見慣れないコスプレみたいな服装をしていた。

 

 「え、何者・・・」

 「くふふ、さぁ?」

 

 都子も莉子も突如現れた少女に対して、状況が読めないと言った状態だった。

 

 「名前は!」

 

 何かを焦っている少女は、二人に名前を訪ねた。

 

 「あ、はい。わたしは、鈴村都子です」

 「正直に名乗るの〜?知らない人なのに?」

 「くふふ、確かに、言うべきじゃなかったね」

 

 そうは言っても名前を聴いた少女、カエデは自分が探している人物である事を理解した。

 

 今正に探している人を見つけられて、カエデはガッツポーズを取る。

 

 「ようやく見つけたわよ・・・ギンジが心配にしてたから、一緒に来なさい」

 

 このコスプレ女が銀治の名前を出した。

 

 「こっちはミヤコで、そっちはリコニスね」

 

 メガネをかけてリクルートスーツの女性をミヤコ。

 

 そしてその隣に居る長身で、シャツの襟が長い方はリコニス。

 

 どちらもあのまま成長したら、こういう姿になりそうな顔つきであり、カエデも面影のある二人を見て、内心苛立ちが大きくなる。

 

 とは言え、今はギンジの心を取り戻す事が最優先。

 

 「りこにす?私の名前は莉子なんだけど・・・」

 「知ってる。畑中莉子でしょ」

 「え〜なんで知ってるの・・・」

 

 カエデからすれば当たり前だし、何度も戦った強敵だ。

 

 お互い正体も知らないうちに、学祭の準備と称して出会った事もある。

 

 「来て!ギンジが待ってるから!」

 

 カエデがその足で談話室の床を踏み抜いて、大穴を作る。

 

 ここまで順調に来ているのだ。

 

 もう速攻でギンジを救出したい気持ちが、行動にそのまま出てきている。

 

 ありえない行動と破壊が、この世界では普通の一般市民とそう変わらない彼女達を、震え上がらせる。

 

 「ギンジの所に連れて行ってあげるから、黙ってついてきなさい」

 

 言いながらもカエデは都子と莉子を持ち上げて、大穴から下の階へと降りていく。

 

 これで銀治との約束を果たせる。

 

 そう思ったカエデは、心踊る気持ちで都子と莉子を担いだまま、銀治の下へと急ぐのであった。

 

 (待っててギンジ。もうすぐ・・・もうすぐだから)

 

 焦りも残したまま、カエデは急ぐ。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 進化の怪人の動きは止めた。

 

 もう再起は出来ない。

 

 鏡の怪人はそう思い込んでいた。

 

 あれからヘルブラッククロスのアジトに帰還した彼女は、ドクターパープルの研究室へとたどり着けず、途中でドクターパープルに拾って貰っていた。

 

 「悪いわね」

 「いえいえ、別に気にしてませんよ。しかし、治療薬を飲んだだけで、本当に大丈夫ですか?」

 

 身体の怪我は全部は治っていないし、本来ならばカプセルに入れてもらい、身体機能の回復の方が大切だ。

 

 そうすべきと、ドクターパープルは考えているが、鏡の怪人は聞かない。

 

 耳を貸さない彼女に、業を煮やしたドクターパープルは、しぶしぶ薬剤を飲ませて、少しの回復をさせてあげたのだ。

 

 「その身体でもう一度戻るのですか?」

 

 仮面の奥のくぐもった声が、鏡の怪人の怒りを大きくさせる。

 

 神宮亭の場所は分かっているのだから、このままもう一度襲撃を成功させたら、あのヘヴンホワイティネスもきっと壊滅に追い込める。

 

 おまけに進化の怪人はもう再起不能。

 

 この勝負、勝ったも同然なのだ。

 

 「まだ虹創作市に向かった怪人達も帰還していない。リコニスもな。彼らが帰還するまで、待機するのも一つの選択だとは思いますが」

 「やかましい。私には時間が無いのよ!このまま手酷くやられただけで、成果も何も無い状態では、総統閣下に顔向け出来ないわ」

 

 ヘルブラッククロスの怪人として、襲撃の手土産が自分の敗けしか無いのでは、待っているのは排除の2文字だけ。

 

 そうなれば罰はものすごい事になる。

 

 想像するだけでも辛い。

 

 (ギンジさんを完封しただけでも十分だとは思うけどな)

 

 あのドクターミヤコの最高傑作に手を出させずに、完封したのだ。

 

 それだけでも十分すぎる戦果ではあるのだが、プライドの高い鏡の怪人は納得していない。

 

 「私はこれから、動けなくなった進化の怪人の心を、壊しに・・・向かうわよ」

 

 呼吸が上手く出来ないが、それでも鏡の怪人は足腰に鞭を打って立ち上がる。

 

 「絶対に・・・あいつらの大切な、進化の怪人を、殺す。殺してやる!」

 

 憎しみと憎悪と怒りと屈辱。

 

 それだけが鏡の怪人に込められた全てであると言わんばかりに、ドクターパープルに強い語気を放っている。

 

 「・・・わかりました。まだ、総統にはお伝えしないですが、危機感は持ってくださいね。次、また大きな怪我をしたら、戻ってこれないと注意するべきですからね」

 

 ドクターパープルの声は、真実を映し出す鏡の怪人を持ってしても、その真意がわかりかねる。

 

 しかしながら、この組織の大幹部として動く彼は、あの総統にも信頼を置かれている。

 

 欲望のはけ口とされている、鏡の怪人よりも、信頼の置かれ具合ならばドクターパープルの方が上だろう。

 

 「それじゃ、言ってくるわ」

 「ええ・・・お気をつけて」

 

 ドクターパープルの言葉に聴いたらば、鏡の怪人はすぐに行動を開始する。

 

 自らが生み出した鏡を使って、再び神宮亭へと戻る為に。

 

 あの怪人の心をそのまま映し出したかの様な、恐ろしく、絶望的な赤い世界を渡り歩いて、鏡の怪人はもう一度襲撃に向かった。

 

 「やれやれ・・・困ったモノだ。あれで死なれたら、私の責任にもなるんだぞ」

 

 鏡の怪人を見送りながら、ドクターパープルは暗闇に向かって指を指す。

 

 「・・・そうだ頼まれてくれるかい」

 

 ドクターパープルは、薄暗い研究室の向こう側に立つ、一人の部下に命じる。

 

 「・・・おじさんでいいんか?きっと、まともな事は出来ないぜ」

 「ああ、構わないよ。貴方なら、きっと役に立ってくれるよ」

 

 その暗闇の奥に居る人物へ向けて、ドクターパープルは命じた者の名を呼ぼうとした。

 

 確実な信用と、部下に向ける愛情を込めて。

 

 「鏡の怪人が敗けたら、連れ戻して来て欲しい。頼んだよ」

 

 仮面の奥はきっと笑っている。

 

 誰よりも悪意に満ちた顔で。

 

 「藤原さん」

 

 最後に、名を呼んであげた。

 

 ドクターパープルに部下として、行動を開始する男の名は藤原。

 

 「あいよ・・・」

 

 めんどくさそうに、しかし確実な返事を返して、藤原は首を縦に振った。

 

 公安警察・組織犯罪対策課第四班。

 

 特別捜査係長・藤原。

 

 「それじゃあ、あんま期待しないでな。おじさん、二足のわらじで忙しいからさ」

 

 藤原のどこか保険をかける様な言い方に、ドクターパープルは何も返さずに話しを続ける。

 

 「これが成功したら、お望み通り・・・セクハラし放題の世界を約束しよう」 

 「そりゃあ魅力的だがよ」

 「では、行け。時間が無いのだろう?」

 「んもーおじさん使いが荒いなぁ」

 

 言うと藤原も赤いジャケットを着直して、行動を開始する。

 

 「もうすぐだぜ・・・」

 

 ドクターパープルに背を向けて、誰にも聞こえない様に藤原は薄暗い研究室に出てきた、鏡の奥に映る、絶望的な世界へと足を踏み入れた。

 

 「もうすぐ、全部終わらせてやるからな」

 

 肌で感じる赤い月が照らす、崩壊した道なき道に革靴を鳴らして、藤原は独り言を、何度も繰り返しながら、鏡の怪人の後を追いかけた。

 

 

続く

 

 

 




お疲れ様です。

鏡の怪人の執念も恐ろしいですが、なんと藤原さんも出てきましたね。

今回のタイトルでもあります、憎悪の執念とは、別の意味合いもこめられておりますが、それについてお話するのはまだ後になります。

キャラネタ書きます

神宮カエデ
ギンジを見つけたのだが、すぐに持ち帰れなくて焦っている。
普段のカエデらしくないのは、その焦りから行動に出てきてしまっている。

神宮楓
黒十字株式会社のなんか偉い人。
営業部を統括している。
ほとんどの人には高圧的な態度だが、銀治の事は一目置いている。
都子と莉子の事は、居なくなれば良いと思っている。
銀治を自分の下僕として見ている。
彼女もある意味ギンジにとって驚異的な人。

佐久間銀治
エロゲー大好き社会人。良いのかそれで。
この街においては、皆知っている有名人であり、謙虚さが売り。
誰もが彼を認めている。その存在も、仕事の実力も
カエデとの邂逅が、気持ちを少しだけ動かしている。

鏡の怪人
まだ諦めずに再度襲撃に向かった。このままでは総統に消される可能性がある。

藤原
セクハラおじさん。何故ヘルブラッククロスのアジトに居て、何故ドクターパープルの部下として動き始めたのか。
その謎はまだ明かされない。しかしながら、完璧にヘルブラッククロスには忠誠を誓っている様子でも無く・・・?
未だに本名が明かされないセクハラおじさん。
趣味・セクハラ、ミドリコの有給無断使用、拳銃ぶっぱ。本当に警察なのかこの人。

・・・

次回はいよいよ鏡の怪人編最終話!
今回は物語が増えたりはしない・・・はずです。

銀治からギンジへ、そして楓の方にも危機が・・・
一方、赤鬼とレンは・・・なお話です。
次回はもしかしたら最終1と2で分けるかもしれませんが、鏡の怪人編ラストスパートなので応援いただければと思います!

それでは、この辺で。次回もお楽しみに!!
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