正義のヒーローヘヴンホワイティネス   作:アトラクション

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こんにちは、アトラクションです。

なんと言うか、投稿遅れてしまってすいません。

今回のお話に色々詰め込み過ぎたら、少し長くなりました。
今回のお話で、鏡の怪人編は終わりとなります!

それではどうぞ!


116・地図から消えた街

 未鏡市の事件は鏡の怪人を撃退する事で解決した。

 

 ギンジも本来の自分の心を取り戻して、鏡の怪人を撃破した事で、カエデと再会の笑みを溢し合う。

 

 「ギンジ・・・!」

 「うおっ!?」

 

 漆黒のバトルスーツの変身が解けると同時に、カエデが待ち望んだ男の姿が元に戻る。

 

 その見慣れたガラの悪い、少しとぼけた顔をした男がちゃんと元に戻った事で、カエデが涙を流しながらギンジに飛びついたのだ。

 

 硬いコンクリートに倒れるも、しっかりカエデを受け止めて、ギンジは青空を仰ぐ。

 

 青空を仰ぎ見たその次に、カエデも変身を解いてギンジの顔に、視界いっぱいに口の悪いご令嬢の、顔を赤くしたカエデの顔が青空をさえぎった。

 

 「へへへ、悪い。心配かけたよな」

 

 少しだけ顔を引つらせながらも、ギンジは眼の前で泣く女の子を・・・自分がファンと象徴する女の子に心から謝る。

 

 「本当よ。あたしがどんだけ心配したと思ってるのよ!バカ!」

 「痛ぇ」

 

 ギンジの身体の上で馬乗りになって、カエデはギンジを叩く。

 

 痛くて当然だ。

 

 帰りの遅い子供を叱る母親のように、カエデの手のひらがギンジの心に重くのしかかる。

 

 カエデの顔を見るに、おそらくまた自分のした事、された事でカエデに大きな心配をさせたのだろう。

 

 だろう、と言うよりは自分が銀治として活動していた時間分、それを知っているギンジは、非常に申し訳ない気持ちになってくる。

 

 「ほんと、ごめん・・・」

 「許さない!」

 

 バシン!

 

 また痛い一撃がギンジの顔に当たる。

 

 パチン。

 

 また痛い一撃がギンジの顔に、少し勢いを落として当たる。

 

 ぺちん。

 

 最後はゆるゆると勢いが完全に殺された平手打ちが、ギンジの顔に当たる。

 

 最後に当てられた平手は、そのままギンジの頬を撫でるようにして、そのままギンジの額にぽたりと一滴の雫が落ちる。

 

 「〜〜っ」

 「ごめんな・・・マジで」

 

 カエデの右手がギンジの頬に添えられたまま、ギンジは自分の左手をカエデの頬に添える。

 

 「カエデ・・・」

 「スンッ・・・何よ・・・」

 

 鼻をするりながら、カエデはギンジに返事を返した。

 

 何よりも愛おしそうに見つめてくるカエデに、ギンジはまだ言っていない事をカエデに伝えた。

 

 「助けてくれてありがとう」

 「別にいいわよ・・・バカ」

 

 恥ずかしそうに、しかしながらギンジに対する戒めも込めた怒った顔で、カエデは袖で涙を拭き取った。

 

 「それよりさ、そろそろこんな所出ようぜ。積もる話しもあるだろうし」

 

 先程鏡の怪人をぶっ飛ばす前に、ついにギンジが随分前に言っていた転生の秘密がカエデに知られてしまった。

 

 その事をずっと黙っていた事もあるし、何よりギンジがあんなゲームをやっている変態中年だった事を知ってしまって、カエデはさぞショックを受けているに違いない。

 

 その事を先ずは説明しないと行けない。

 

 転生とは?

 

 ギンジとは?

 

 ヘヴンホワイティネスとは?

 

 カエデの・・・カエデ達の知らないギンジの全てをとうとう話す時が来たのだ。

 

 「色々知りたい事はあるけど・・・帰る前に一つ言わせてよギンジ」

 

 馬乗りになったまま、カエデはギンジの身体に、自分の身体を乗せる。

 

 幾度も続く戦いの中で少し逞しくなった腕で、ギンジの首にそれを回すと、抱きしめる様にしてギンジと身体をくっつけた。

 

 耳元にカエデの口元が届いて、息がかかる距離感の中で、カエデはギンジにこれだけは言っておきたいと、最後に伝えたくなったのだ。

 

 「あたし、ギンジの事が好きよ。大好き」

 「なっ!?へっ!?ああ!?」

 

 そうでもしないと記憶を取り戻したギンジと再会してから泣いたりなんてしないだろう。

 

 まだ泣いている事で狭まった喉から、声を出しながら、カエデはギンジに顔を向かい合わせにした。

 

 曲がりなりにも、ギンジの想っている事と、カエデの想っている事が一つに重なったのだ。

 

 だけど・・・今のギンジには、自分の記憶と。転生前にあったあのゲームの事が一つ気がかりになっていたのだ。

 

 ギンジの本性を知った事で、幻滅されていないかと思っていたのだが、それは杞憂だったのか。

 

 あまりにも驚いたが、それでもギンジは興奮した。

 

 カエデという自分にとって憧れでもあり、守りたい大切な人。

 

 そんな人に、「好き」の一言を出す事を成功させたのだ。

 

 こんなに嬉しい事は無い。

 

 無いのに、何故かギンジは素直に喜べない。

 

 それでもカエデはギンジの顔に両手をはめ込んで、まだうっすら流れる涙の跡を残しながら、ギンジに顔を近づけた。

 

 これは・・・間違いなく、キスの流れ。

 

 ギンジが一番憧れている少女からの、逢瀬はきっと何者にも変える事の出来ない、一大イベントだ。

 

 人々が消え去った未鏡市の車道のど真ん中、青空の下。

 

 二人きり男女、何も起きないはずが無く・・・。

 

 「どわ、ちょ、押さないでくだせぇレンの姉御!」

 「見えない!どいて、赤鬼!」

 「あ、ちょ・・・らめぇぇ!!」

 

 ゴロリとした巨体が、ギンジの上で馬乗りになっているカエデの視界の先に現れた。

 

 「ぬ、ヌハハハ!流石兄貴だぜ!鏡の奴をぶっ飛ばして、自分を取り戻したんですな!ヌハハ、ヌハヌハ・・・」

 

 あまりにも場違い。

 

 あまりにも悪すぎるタイミングで覗き見をしていた赤鬼の登場により、カエデの怒りのベクトルは赤鬼に向くこととなった。

 

 「あ〜か〜お〜に〜・・・」

 「私は、やめておこうって、言ったのに・・・」

 

 わざとらしくレンも路地裏から姿を表わして弁明をしようとするが、ギンジから立ち上がったカエデが赤鬼の角を掴んで、レンの近くにノッシノッシ歩き寄る。

 

 「ごめん、流石に、タイミングが悪かったかも・・・」

 「俺っちはやめとけって言ったんでげすが・・・」

 「うるさーーい!!!」

 

 カエデのお怒りの言葉が未鏡市の青空に響き渡った。

 

 仲間たちが現れた事で、ギンジも皆に申し訳ない気持ちになりながらも、同じ青空を・・・これで最後になる自分の心の世界に別れを告げる気持ちで、もう一度空を見上げた。

 

 見上げて、更にクアッドタワーを見つめる。

 

 「兄貴〜助けてくれぇ〜!もう殴られるのは嫌なのだ!」

 「もう私の知らない所で、クレカを使うのは、やめてほしいのだ」

 「やってないわよそんな事!!クレカなんか使うまでもないわ!」

 

 それは時と場合によるのだが、今はそんな事を言っている場合じゃない。

 

 「・・・赤鬼、レン。お前らもありがとうな。助けに来てくれて」

 

 ギンジが嬉しそうに、少し恥ずかしながらお礼を述べたが、赤鬼とレンも特に気にしていない顔で、二人して微笑む。

 

 「水臭いぜ兄貴。兄貴が困ってたら、子分の俺っちが助けに行くのは当たり前の事だぜ」

 「同意。子分じゃないけど、ギンジは、私達の大切な仲間」

 「・・・そうね、皆待ってるんだから、帰ろう、ギンジ!」

 

 赤鬼とレンに妨害された事にはかなり残念だったが、とりあえずヘヴンホワイティネスの目的は達成した。

 

 色々と皆で発表しないと行けない事はたくさんあるのだが、一先ずは帰還にしよう。

 

 「戻ったらさ・・・皆に話しておきたい事があるんだ。色々とあるかも知れないけど、俺の話しを聴いてくれると嬉しいな」

 「勿論よ」

 「心配しないでも、俺っちも少しだけ見ちまったんだ。兄貴の・・・その、アレをな」

 「アレはすごかった・・・吐き気がしたよ」

 

 皆で思い思いの事を話そうと、ギンジ達は自分達のあるべき世界に戻る事にした。

 

 「で、どうやって帰還するんだ?」

 「適当ですな」

 「ここまで来て適当なのかよ!!」

 

 ギンジの質問には、赤鬼がかなりざっくりとした返答を返すが、ここに残った四人。世界でたった四人となり、鏡の牢獄からの脱出を果たしたのであった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 「うおおお俺復活!!」

 

 声高らかに佐久間ギンジは簡易的な会議室になった、ただの物置部屋でついに復活を果たす。

 

 あれから現実世界では、かなり時間が経っていのか、外はそろそろ夜になろうかと言うような、暗くなり始めている時間だった。

 

 元気な声で復活の声を上げたギンジには、ずっと帰還を待っていたであろうミヤコが飛びついてきた。

 

 喜びと歓喜と心配と不安。

 

 様々な感情を全てさらけ出してミヤコが飛び出したのだ。

 

 「ギンジ君!!」

 

 ヒャッホー!と声が聞こえる程の喜びように、ギンジは思わず身構えたが、そんな喜びに満ちたミヤコには、横からカエデの腕が静止する。

 

 「くふふ・・・相変わらず邪魔ばかりするね・・・」

 「今は駄目よ」

 

 同じく鏡の牢獄から帰還したカエデも復活を果たしたのか、怒りに満ちた表情でミヤコの動きを止めたのだ。

 

 「戻ったか、皆・・・!」

 

 次に薄暗い物置部屋の中で声を上げたのは、ミドリコ。

 

 ギンジの復活にも喜びながら、相変わらずのカエデとミヤコを見て苦笑している。

 

 「お帰りなさい!皆ぁ!!」

 

 ケイタもギンジを始め、レン、赤鬼、カエデの帰還を心待ちにしていた様子で、元気にかつ泣きそうな顔で喜びを全身に醸し出している。

 

 「兄貴のお帰りだァ!テメェら、祝杯の準備だオッラァ!」

 「帰還早々にソレか!やめんか馬鹿者!」

 

 赤鬼の調子乗った発言にはミドリコが、やはりガンストックでぶっ飛ばして完結。

 

 「お帰り、レン!」

 「ただいま・・・ありがとう、ケイタ」

 

 レンとケイタも無事に帰還できたことを喜びあう。

 

 ギンジ、カエデ、レン、ミドリコ、ミヤコ、赤鬼、ケイタ。

 

 これでヘヴンホワイティネスは誰一人欠ける事なく、全員が鏡の牢獄からの帰還を果たした。

 

 「これでようやくだな・・・」

 

 ギンジは自身が寝かされていたベッド変わりの置き場から、身体をようやく起こして腰を曲げた。

 

 ひと呼吸を置いて、ギンジは全員に視線を向けながら、これから話さないといけない事を、仲間達に告げようとした。

 

 「なぁ、皆」

 

 ギンジは拳を握っては開いてを繰り返しながら、自分が何者であって、どういう経緯でここに来ているのか。

 

 そもそもこの世界がなんなのか・・・それを知っているギンジは、皆に話そうと、わなわなと口を開いた。

 

 「ちょっと待て」

 

 ギンジが何かを思いつめているのは分かっているのだが、ミドリコがその場の空気と視線をミドリコ自身に集める。

 

 「帰還して積もる話しもあるとは思うが、先ずは皆にこれを見て欲しい。一大事だ」

 

 ミドリコが用意したスマホから、音声と映像が映し出される。

 

 皆がミドリコの手元に集まりながら、映し出されている映像には、信じがたいモノが、それぞれの視界に入ってきた。

 

 『本日9月6日において、虹創作市が、大規模なテロ攻撃を受けて、街そのモノが大崩壊を受けました!』

 

 上空から撮影しているのか、ヘリコプターの音も聞こえる中、機械の音に負けじと、リポーターが一生懸命に、街の現状を伝えている。

 

 虹創作市とは、警察と正義が作ったと言っても過言じゃない、大きな街だ。

 

 中央には巨大な監獄もあって、様々な凶悪犯罪者達が収容されている、とてつもなく巨大な監獄であり、この世界に転生してきたギンジも、世界の全容を知るついでに、街の事を調べた事はあった。

 

 度固化市とは関係ないと、ギンジは一度頭の片隅から捨てていた事だったのだが。

 

 「なんだよ・・・なんだよコレ・・・」

 「まさか・・・昼休みのあの警報・・・」

 

 ケイタもかなり動揺しており、その隣でカエデがいつもの昼休みに聞こえた、あの警報を思い出す。

 

 「・・・おい、あれ見ろ」

 

 赤鬼がミドリコのスマホの1部分を指差す。

 

 街の中央の更にど真ん中。

 

 監獄と称されたその場所は、完璧に破壊されつくしており、瓦礫の中心に意図的に築き上げたであろう、山が一つ見えていた。

 

 「そんな・・・あの旗は・・・!」

 

 その山の頂上には、レンが息を飲んだ。

 

 その山の頂上に突き建てられたのは、怪人の瞳を模した刺繍と装飾が施された、ヘルブラックロスのトレードマークの大きな旗。

 

 「・・・いや・・・」

 「レン?」

 

 嫌な記憶が大きく蘇ってくる。

 

 2102年の、80年後の未来の記憶が、自分が置いてきたレジスタンスの街と、ヘルブラックロスの旗。

 

 それらがレンの中で強い憎悪と記憶になって、脳裏にフラッシュバックしてきたのだ。

 

 「嫌ぁぁ!」

 「レン!」

 

 頭を抱えながら座り込むレンには、ケイタが側に居てあげる。

 

 恐怖ですくみ上がったその震え方は、いつものレンとは思えないぐらいに弱々しい。

 

 「済まない・・・もう止めておこう」

 

 ミドリコもスマホの映像を止めながら、スマホを自分のスーツにしまう。

 

 「ヘルブラックロス・・・どこまでこんな事を・・・」

 「くふふふ・・・もしかしてだけど、今残ってる怪人の全戦力を、あそこに投与したのかもね」

 「どういう事よ」

 

 カエデが怒りながらミヤコに尋ねてみる。

 

 「ん、ほら。カエデ達が学校に行っている間に、警報、鳴ったんでしょ。それに加えてこの映像」

 

 偶然かも知れないが、虹創作市のヘルブラックロスによる襲撃。

 

 そして神宮亭の襲撃。

 

 鏡の怪人によるギンジの完封。

 

 「・・・この街一つを破壊する為に、わたし達は大掛かりな手段でハメられたのかもね・・・くふふふ、このわたしに頭脳戦をして一杯食わせるとは、やるね、紫・・・くふ、くふふふ」

 「いや、ミヤコは普通に敵の術にハマっただけだけどな」

 「くふふ、ギンジ君に言われるときゅんきゅんしちゃうなぁ」

 「褒めてないぞ」

 「それどころか、ミヤコってば必死になってたのに、鏡の怪人に捉えられてたわよね」

 「くふふ、もう少しカエデが来るのが遅かったら、ヌルヌルにされてたよ・・・」

 「いっそそうなっちゃえば良いのよ」

 

 レンが震えて小さくなっているのに、この二人はまたもいがみ合いを開始しようとしている。

 

 「この事件のおかげで、我々は足止めを貰い、敵は成果を大きく上げて来た・・・一杯食わされるどころでは無いぞ・・・」

 

 あの映像に映っていた虹創作市全域の破壊と支配に成功しているのが、事実。

 

 その事実を目の当たりにしたギンジ達は、敵の行動と手数の多さ、何よりも人数不利から生まれる、数々の作戦。

 

 これはヘルブラックロスからの警告。

 

 これ以上邪魔をするなら・・・次の標的は、度固化市になると言う、大いなる警告。

 

 「・・・奴らは、本当に街一つを一日でかき消す戦力を持っている様だな」

 「くふふ。怪人とか平気を併用すれば、こんな事も出来るっていう、暴力の現れだね」

 「無論・・・私は公安警察という立場上、こんなのを見過ごすわけには行かない。今すぐにでも決着をつけるべきだと思う」

 「わ、私も同意・・・」

 

 ミドリコが悔しさを込めた顔で言いながら、レンもようやく冷静さを取り戻して、ケイタの肩を借りながら立ち上がる。

 

 「あたしも同じ意見よ。そろそろ白黒つけないとならないと思ってたのよ。レンの未来をめちゃくちゃにして、あたしの家をこんなにして。そして今度は・・・ギンジの心を踏みにじって・・・許せない事だらけよ、あいつらは」

 

 カエデも本当に怒りを露わにしている。

 

 現実的に見えたモノ以外にも、もしギンジの持っていたあのゲームの通りだとしているのであれば、カエデにはもうこれ以上許す気持ちは戻ってこない。

 

 「僕も・・・許さない・・・あいつらは、この世界を壊したいのかな・・・」

 

 ケイタも許せない気持ちでいっぱいになる。

 

 レンの震える姿を見ていると、自分にももっと出来る事が無いかと、必死に探す気持ちだ。

 

 もう心を守るだけの人じゃない。

 

 正真正銘、彼らの仲間なのだから。

 

 「俺っちも同じだぜ旦那。ミドリコも言うまでもねぇや」

  

 赤鬼が気合いを入れながら、ケイタの頭をわしわしとなでた。

 

 「俺も同じだ」

 

 最後にギンジが声を出した。

 

 「俺も・・・皆を守りたい。この街を守りたい。この世界を、この未来を、ちゃんと守りたい。もう、二度と・・・絶対に敗けないからよ。また、俺に力を貸して欲しい」

 

 ギンジが拳を握って話す内容に、カエデもミヤコも決意を込めた笑顔でうなずいた。

 

 ヘヴンホワイティネスの団結の意識はより強いモノとなり、打倒ヘルブラックロスの志は、ここに集った。

 

 「それでよ、ちょっと皆に聴いて欲しい事があってな」

 「くふふ、もしかして、わたしの子供を妊娠した?」

 「なんでだ。男の俺が子供なんか産めるか!」

 

 ミヤコのおふざけにマジギレで返すが、ミヤコにはまったく効いていない。

 

 「聴いてもらいたい事って、なんですかい?兄貴」

 

 赤鬼のきょとんとした顔の横で、レンとカエデが二人同時に肘打ちをする。

 

 「ぐえっ・・・あっ!あの事ですね!」

 「あの事?」

 「なんの事だろう?」

 

 赤鬼もハッとした表情で驚き、ミドリコとケイタは二人して首をかしげている。

 

 「・・・これから話す事は。先ず・・・俺って最低な人間だなって話しと、俺という人間の話しになるんだ。少し長くなるし、休憩してからでも良いけどよ」

 

 思えば鏡の牢獄から帰還したばかりなのだ。

 

 カエデに至っては、鏡の怪人との二連戦を終えたばかり。

 

 「そうね。ギンジの話しも大事だけど・・・」

 

 カエデは自分のお腹をさする。

 

 「先ずは、ご飯、食べない?」

 

 カエデから出てきた、ご飯という単語を聴いて、全員はお腹の鳴る音を聴いてしまった。

 

 食事は人を生かせる、最高の瞬間だと、ギンジは思ったのであった。 

 

 赤鬼がまた馬鹿な事を発言しては、ミドリコがツッコミを入れて、レンも悪ノリをしては、ケイタも苦笑して、やっぱり最後はカエデとミヤコがくだらない事で言い合いを繰り返す。

 

 なんだか6人のその姿がもう一度見れた事が嬉しく思ったのか、ギンジは、もし自分が助けてもらえずに、見捨てられたりしていたらば、きっとこの光景を見る事はなかったかも知れない。

 

 自分には仲間が居る。

 

 それが嬉しくて、それが泣きそうで、でもギンジは仲間の一人ひとりを愛おしく思って・・・。

 

 「どら、飯だめし!兄貴も無事に連れ戻せたなんだ!美味いモンたらふく食って、そんで・・・えーと、えーと・・・アレだよな!」

 「アレって何さ・・・」

 

 赤鬼も上手く言葉が出てこなかったが、ケイタも上手く言葉が出なかった。

 

 「くふふ、ギンジ君!」

 「ほら、ギンジ!」

 

 二人の少女が笑顔でギンジを呼んだ。

 

 「ああ、今行くよ」

 

 本当の意味で、佐久間ギンジは今日この日を持って死んだ。

 

 だが、またある意味では本当の佐久間ギンジはまだ生きている。

 

 生きた屍。

 

 それが彼であり、佐久間ギンジとは違うモノにした、ただの言葉。

 

 今後もギンジはそれを背負って生きていくだろう。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 飯を沢山。

 

 沢山食べて、皆眠っちまった。

 

 そりゃまぁ、俺もめちゃくちゃ食べたけどよ。

 

 あれから、使用人達も全員で神宮亭に戻ってきて、残っている食材で色々とご飯を用意してくれた。

 

 なんでもカエデのオトーサンが、病院に向かう傍らで使用人達にカエデの無事と、俺たちの衣食住をすぐに用意してくれたらしい。

 

 オトーサンと電話越しで会話していたカエデと来たら・・・あんな嬉しそうにしてるのは久しぶりに見たぜ。

 

 さて・・・今俺たちの居る場所だが、唯一赤鬼と鏡の怪人からの襲撃を免れたバルコニーだ。

 

 この神宮亭の3階、南に面した立ち位置に、真下には薔薇の庭園が見える大きなバルコニー。

 

 俺は、今まで喋る事ができなかった、自分と言う存在について、皆に話す時が来たと、来てしまったと・・・少し辛い気持ちになりながらも、見られてしまった事を全部説しようとしていた。

 

 今は地図から消えてしまった、虹創作市の事も気になるが、もう夜だ。

 

 ヘルブラックロスの手中に収まった街に、今から向かっても何もかもが手遅れな現状では、きっと全滅の憂き目に合いかねないとして、俺たちは街に向かう事を止めた。

 

 本当は今すぐに向かいたいのは、カエデだろうな。

 

 俺も行きたいけど、こんな疲れている状況じゃあ、まぁ、無理だろうな。

 

 ヒーローとしてどうかとは思うけどよ。

 

 今は支配された街には迎えない、と言うのがオトーサンの意見でもあるそうだ。

 

 「兄貴〜ケイタの旦那がそろそろ眠気が限界そうだぜ。早く話してくんな」

 

 赤鬼が俺を急かして来やがる。まあ、でもケイタも色々大変だったんだよな。

 

 なんでも学校から神宮亭まで、めちゃくちゃガンダッシュしてきたらしいからな。

 

 その上魔法まで使用して、かなり疲労しているに違いない。

 

 「そうよーギンジ、話なさいよ。ぜーーんぶ、ね」

 

 のやろー。カエデの奴ニヤニヤしやがって。

 

 「くふふ、ギンジ君の秘密なら全部知ってるんだけどなぁ・・・なんのお話?あ、まさかわたしとの将来を真面目に考え始めてくれた?」

 「それは無いわね」

 「・・・じゃあカエデモンキーとの将来もありえないね」

 「・・・それはどうかしらねぇ〜・・・」

 

 あーあーまた目線で火花ちらしてるよ。

 

 そんで二人してフンッ!って顔を振り上げた。

 

 なんだよこいつら、平成初期のアニメかよ。

 

 「そうだな・・・先ずは、俺という人間についてかな」

 

 話す事と言えば最初に思いつくのはコレだ。

 

 「知ってのとおりだけど、俺は今は怪人になっている。本来、怪人を造るには・・・ミヤコ、何が必要なんだっけ?」

 

 怪人の造り方ならミヤコに聴いた方が早い。

 

 「くふふ。怪人は、ヘルブラックロスが用意した怪人の細胞と、何か+処女の生き血が必要だよ。これをホルマリンやステイロドとか色々入った培養液に付けて、クローンと同じ要領でまじぇまじぇすると出来上がるよ」

 「説明サンキュー」

 

 そう、簡単に言えばこうだ。

 

 「で、その怪人の細胞は、本来人間には適用しなくて、ごくわずかな量を投与しても死に至らしめてしまうから、今まではフェーズ2の怪人を造るには、相当時間がかかってたんだよ。くふふ、それでもわたしの下には、かなりの強運が舞い降りたよね・・・くふ、くふふふ」

 

 お、おう・・・。

 

 まぁそこは今はどうでも良い事だ。

 

 「なんでただの人間である俺に、怪人の細胞を投与しても死ななかったと思う?」

 「んーギンジ君は特別だったから?」

 「確かに、怪人としてはかなり別格の力を感じてはいたな」

 

 ミヤコが首をかしげながら言うが、ミドリコは納得しながら俺に頷いている。

 

 「特別、そうだな。確かに俺は、特別だ。なんせこの世界には居ないレアモノ、だろ?ミヤコ」

 

 かつて組織に居た時代に、ミヤコの研究資料を少しだけ覗き見た事があったが、そこに書かれていたのは、俺が人間としてはレアな存在だった事。

 

 それすなわち、俺が本来この世界に居ない人間であった事を、ミヤコは勘で気づいていたのかも知れないな。

 

 「俺は怪人だが、本当は人間のままで居るつもりだ。今はこんなに色々暴れてるけど、心の底まで怪人になった気は無いんだ。話が脱線しそうだから、怪人としての俺は皆ご存知のとおりだ。こうして俺は、この世界で怪人として産まれた」

 「産まれた?どういう意味?」

 

 今度はレンが疑問を投げてくる。

 

 まぁ、確かにそうなるよね。

 

 「俺が産まれたって言うか、正確には少しだけ違うんだけど・・・まぁ、はっきり言うと、俺一度死んでるんだ」

 

 ・・・。

 

 皆そういう雰囲気にはなるよね。分かるよ。うん。

 

 シラーッとした眼をするなよ。俺が可愛そうだろ。

 

 「一度死んでるってぇ、あれかい、兄貴が話してくれた、イセカイテンセイとか言う・・・」

 「その通りだぜ」

 

 赤鬼とは色々と組むことが多かったからな。

 

 魔法界に行っちまった事なんて知らなかったけど、離脱する時までには一度冗談めかして話してたんだよな。

 

 こいつは信じてくれなかったけど。

 

 「その異世界転生って言うのがよく分からないのよね。前に湾岸エリアで色々話してくれた事もあったけど、この世界はギンジの居た世界では、その・・・あのゲームの世界だったって話しでしょ?」

 

 よくある異世界転生物語で置き換えれば、この漫画の世界に、この映画の世界に〜なんてよくある話だが、俺が知っている中でもエロゲーの世界に転生するなんて、マジで前例がなかったから正直ビビったぜ。

 

 27周もした大好きなゲームの中に、一度でも行けたらいいな、なんて考えた事もあるけどさ。

 

 まさか本当に入るなんて思わないじゃん。

 

 まさか本当にこの世界に来れるなんて思わないじゃん。

 

 「まぁ、カエデとレンと赤鬼、それからミヤコにも少し見られてるんだよな・・・もう隠す事なんて無いけど、俺が自分の心の世界の中でやっていたゲームは、正義のヒーローヘヴンホワイティネスって言う、俺が元々死ぬ前に居た世界で、そこそこ有名なサークルが立ち上げた超豪華な・・・エロゲーだったんだ」

 『!!?』

 

 まぁ、そうよね・・・。皆びっくりするよね。

 

 「カエデ、レン、ミドリコはもちろん、ケイタ・・・お前もそのゲームの中では・・・リコニスに首輪をつけられる、アホなキャラだったんだぜ」

 「嘘だ・・・」

 

 ケイタも流石に眠気が吹き飛んだのか、あのリコニスによって奴隷にされているのは、想像しただけでも中々地獄だ。

 

 「その・・・一度死ぬ前の俺は、仕事とかも何もやらせてもらえなくて、周りの皆から居ない者として扱われている様な、いわゆる残念な大人でな・・・」

 

 あ、なんだか言ってて悲しくなってきた。

 

 「30過ぎたのに、6畳の小さなアパートで暮らして、万年貧乏な冴えないサラリーマンだったんだ。いつからこうなったのかは俺にもわからないし、なんでこうなったのかも分からない」

 

 分からないまま過ごしていたら、気がついたら誰にも居る事を認めてもらえない、寂しい大人、それが俺だよ。

 

 「最初は独りで居る事が辛くて色々な事に手を出し始めたんだ。風俗、ギャンブル、酒、マッチングアプリ・・・本当に色々やったよ」

 

 他にも薬とかもやったな。バカ高くて一回だけなんだけどね。

 

 「そんな中、孤独を紛らわす為に、俺が見つけたのが・・・」

 「あのゲームね・・・」

 

 カエデが神妙な面持ちで俺にかぶせてきた。

 

 「あのゲームの妙なクオリティの高さと、ストーリーが最初は心の中にスッと入ってきた感じがしてな・・・」

 

 実際に俺の心は美女達が、想像し得ない怪人達にあられも無い姿でめちゃくちゃにされているのが、本当にたまらない気持ちになっていたのも事実だった。

 

 「始めは何度も攻略して、様々なエンディングを見たよ。そのどれもが、今になってみれば考えたくもない、お前たちの壊滅と全滅。正義の無い世界で・・・カエデや、レン。ミドリコがさんざん犯される、男の楽園の様な夢が広がるモノばっかりだった」

 

 でもよ、それをずーっとやってると、そのうち愛着の湧いたゲームの中でこうも思うんだ。

 

 「何度も救いの無いエンディングを見ていくとさ、俺も思うんだ。彼女を達を助けたいって」

 「ギンジ・・・」

 

 もしかしたら悲しい顔をしている俺を見て、カエが声をかけてくれた。

 

 「ゲームの中のカエデも、いや皆も。俺がこの世界に来て、見て、知って・・・ゲームの中と変わらない、大きな正義の志を持って皆生きてるんだ。ソレを知ってさ、俺は改めてこの世界でなら生きていけるって、強く思ったんだ」

 

 その思いに嘘は無い。

 

 彼女達にとって、ゲームの中の物語は全てバッドエンドだ。

 

 数あるバッドエンドの中で、ただ一つとして、カエデ達が助かるエンディングなんてなかった。

 

 そんなモノを全部見て、俺はカエデ達のハッピーエンドもあれば、このゲームは完璧だと思っていたんだ。

 

 無いモノねだりをしてもしょうがない。だけど、見てみたかったんだ。

 

 見てみたくなったんだ。彼女達の正義を示した世界とその先を。

 

 「さて、俺と言う人間はありえないぐらいバカで、アホな人間で、ようはカエデ達が絶体絶命に陥る様な状況でも、俺は興奮が抑えられない、ダメ人間。おまけに、このゲームにおける情報はなんでも知ってた。展開も、出てくる怪人も。なんだけど、俺がこの世界に来た影響か、今まで姿が見えなかったミヤコや、本来ゲームには登場しない怪人とかも現れて、色々と俺の行動にイレギュラーが生じる事にもなったんだけど・・・」

 

 話してて段々脱線しそうになってきたから、この辺りは聞きたい人に話すとしよう。

 

 「ある時、いつからかは全く覚えてないんだけど、ヘヴンホワイティネスの助けになりたいって、俺は思うようになったんだ。そしたらあっさり事故って、死んで、こっちの世界に来ちまった」

 「んなアホな・・・」

 

 赤鬼が笑いながら言うが、俺もそう思ったよ。

 

 「死んだけど、何故かその死を意識すた瞬間に俺は、ミヤコに拾われて、今に至る・・・ってそんな感じかな」

 「くふふ、確かにヘルブラックロスの組織の近くで、ボロ雑巾みたいになったギンジ君を見つけたのは、僥倖だったんだよ。おまけにわたしの名前も知ってるし」

 「だから、あたし達の行動に対して、わざとらしく未来を知ってるとか言ってたのね・・・」

 「そうだな。とにかく、この世界に来たからには自分の知識を活かして、ヘヴンホワイティネスを助けようとしたんだけど、相変わらず上手く行かない事ばかりでさ」

 

 今日だってそうだよな。

 

 鏡の怪人に一手打たれて動けなくなったし、虹創作市は防衛できなかったし・・・。

 

 「でも、これだけは信じて欲しい」

 

 俺が最後に告げる事は、独りの人間としても、一人の怪人としても、その両方を合わせて、俺としての言葉だ。

 

 「俺はお前らの事を仲間だと信じているし、性的な眼で見ている事も無いんだ。〈大好きな人達〉が、今の俺には増えすぎたし、もっとこれからも増えると思う。・・・それに、俺が自分の手で変えられるなら、俺の知っている未来、つまりバッドエンドをハッピーエンドに変えたいんだ」

 

 そうすればレンの未来だって守れるし、何よりカエデやミヤコとの事だってもっと真剣に考えられる筈だし。

 

 「俺は本当は未来人じゃないし、正義のヒーローと呼ぶにはガサツだし、じゃあ人間かと言うとそうでもないし、でも・・・お前らの仲間だ」

 

 ・・・。

 

 上手くまとめられていないのはちゃんと分かってるけど、それでも俺は皆と一緒に居たいって事を伝えたつもりだ。

 

 この世界が本当はエロゲーだったなんて、きっと誰に話しても信じてもらえる事じゃない。

 

 でも、今日起こった事を見たら、今度こそ信じてもらえる筈だと、そう信じて俺は精一杯皆に伝えた。

 

 「当たり前でしょ、そんな事。あたしはあんたの雇い主で、あんたはあたしの下僕」

 

 カエデが俺に向かって強気に言ってくれる。

 

 俺を信じてくれているこの言葉の重みは、何よりも嬉しいモノだった。

 

 「くふふ、これからもわたしの期待を裏切らない、世界で最強の怪人だよ、ギンジ君は」

 

 ミヤコも俺に向かって言葉を投げてくる。命の恩を感じているからこそ、この言葉には深みがあるぜ。

 

 「私達の、未来の事を、考えてくれているから、ここまでの事をしてきたんだよね。とても、簡単に出来る事じゃ、無いよ」

 

 レンまで俺を褒めてくれた。

 

 「同感だな。私も君と言う人間をちゃんと知れて嬉しいよ。カエデと同じだよ、当たり前だ、君は私達の仲間さ」

 

 ミドリコも強く頷いて、俺に笑みを見せてくれる。

 

 「兄貴が過去何してたかなんて関係ないぜ。姉御達の為に戦おうって、今のその覚悟が漢を造るんだ。世の中には2つの漢があるって知ってるかい。口だけのただの漢と、本物の漢だ。兄貴は間違いなく本物だぜ、胸張っていいぜ」

 

 赤鬼め・・・泣きそうな事を言いやがる。俺に喧嘩で敗けたくせによぉ。

 

 「僕もギンジを信じてるよ。もう、僕たちだけの未来の話しじゃないし、その・・・ギンジの未来を守るための話しじゃないかな」

 

 ケイタ・・・お前たまにすごい事を言うよな。

 

 「だから・・・ギンジ。仲間なんて当たり前。あんたが見てきたこの世界が、たとえ作り物でも、あたし達はちゃんとここに居るから。あたし達の世界だから・・・取り戻そう?皆の未来を」

 

 ぐっと心に来る言葉の数々に、俺は本当に泣きそうだよ。

 

 でも・・・。

 

 「そうだな・・・皆、ありがとう。俺、この世界でちゃんと勝つからさ。俺も最後まで戦うから、力を貸してくれ・・・どうしても守りたいんだ、皆の未来を」

 

 夜風が吹いたバルコニーで、俺たちは戦いを終わらせに向かう覚悟を、今一度新たにした。

 

 転生したって事も・・・まぁ信じがたい話しだけど、それについても皆は納得してくれたみたいだしいっか。

 

 まだ分からない事は、また後日聞きに来てくれれば良いし。

 

 「9月だけど、少し肌寒くなって来たわね。そろそろ戻りましょう」

 「ギンジの話が長いから、ケイタがそろそろ冬眠しそう」

 「9月だよ!?まだ冬眠はしないよ!」

 

 ケイタのツッコミのナイスだな。

 

 「戻ろうか。明日からもやることは色々山積みだしな」

 

 俺は皆の健康も考えて、全員でバルコニーを後にした・・・。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 「ねぇ、ギンジ」

 

 バルコニーから戻る傍らで、あたしはギンジを呼び止めた。

 

 バルコニーに置いたテーブルを端に戻すのをギンジに手伝ってもらおうと思ったから。

 

 「どうした?」

 

 ギンジはあたしの顔を見て、優しそうに微笑んでる。

 

 うん。やっぱり、ギンジはこうじゃないとね。

 

 「あたしさ、最初にあんたに会った時に、色々酷い事言ったでしょ。行動する時も、戦う時も」

 「あーまぁ、色々あったよな。理不尽に殴られる事も多いし」

 「しょうがないでしょ、あんたを煽ったり、他愛ない話してるのが好きなんだもん」

 

 夜風がまた一つ、あたし達の顔を撫でる。

 

 穏やかな夜空に、若干の蒸し暑さ。

 

 残暑を感じるこの瞬間に、今あたし達は二人。

 

 「ねぇ、ギンジ・・・」

 

 うっ・・・なんか二人で見つめてると、緊張するな。

 

 「あたしね、本当に今回だけはもしかしたらギンジが、戻ってこないんじゃないかと思って心配したのよ。それって下僕だからとかじゃなくて、一人の仲間としてもね」

 「おう。悪かったよ、本当に」

 

 素直に謝る所は、なんだか可愛いわよね。

 

 「ギンジはいつもあたし達の事を助けようとして、真っ先に動いてくれるし、いつでも誰よりも戦おうとしてくれて、いつも・・・見守ってくれるでしょ」

 

 あたしは、そんなギンジに何度も救われる気がして、ずっと頼りにしてきた。

 

 ギンジが居なかったら、今頃のあたし達は、ギンジの知っているあのゲームの通りになっていたのかも知れないし、きっと今みたいに誰かを好きになる事なんてなかったの。

 

 「・・・好きよ、ギンジ」

 「え・・・」

 

 ふふっ、なんか今まで変に考えたのがバカみたい。

 

 ミヤコに取られるのが嫌なのに、気を使って二人きりにさせたりさ。

 

 でもあたしだって、指を咥えて見ているだけなんて嫌なの。

 

 「ある人にね、言われたの。あたし達の未来を守ってって。ギンジが守りたい未来が、あたしの守りたい未来って事も忘れないでよね」

 「当たり前だろ。絶対に忘れるもんかよ。この先何があっても、俺がカエデを守ってやる。どんな敵が来ても、俺が追い返してやる。最強の下僕が付いてるんだ、もう心配しないでいいぜ!」

 

 親しみを込めて言ってくれるその言葉が、あたしは何よりも嬉しかった。

 

 嬉しかったから、だから・・・あたしは今まで頑張ってきたギンジに、ご褒美を上げる事にしたの。

 

 ちょっと強い風が吹いた。

 

 その風に背中を押される様にして、あたしは自分が認めたたった一人の男性に、初めてのキスをした。

 

 ちょん、と唇が触れるだけ。

 

 恥ずかしくて、胸が痛くなるようで、それでいて、ちょっと苦しくなうような、一瞬のキス。

 

 「はっ・・・なっ。え・・・」

 「クスッ・・・ギンジみたいな最強の怪人様でも、そうやって慌てる事もあるのね。でも、あたしはたった一回じゃ終わらないわよ」

 「は・・・?」

 

 多分、今のあたしは耳まで真っ赤。

 

 そんなの、鏡を見なくても分かる。

 

 でもそれと同じぐらいに、ギンジの顔も真っ赤。

 

 ゲームの中でのあたしを好きになってるなら、現実に居るあたしの事も好きになってよ。

 

 「ギンジ、聞こえるよ。あなたの鼓動が。あなたの命の音が」

 

 距離が近づいた事で、あたしはギンジの身体を抱きしめてた。

 

 ギンジも同じ感じ。あれだけ力強い腕と手をしているのに、あたしに触れてくれる全部が、優しくて、嬉しい気持ちにさせてくれる、そんな感情であたしを抱きしめてくれている。

 

 なんか、嬉しい。

 

 こうして、好きな人と抱っこしてる事だ、嬉しい。

 

 「カエデ・・・」

 「うん・・・一回じゃないわよ」

 「・・・」

 

 ミヤコは一回だけでしょうけどね、あたしは二回、自分の好きと言う感情をギンジに乗せてあげた。

 

 「んっ・・・!」

 

 眼を閉じて、ギンジにもう一度唇を尖らせて、首を上げた。

 

 あたしがそうしたかったのに、今度はギンジの方から、その唇をあたしに重ねてきたの。

 

 頭の中がぱちぱちするようで、なんかふわふわする。

 

 クラっと来そうな、甘い電撃が身体の中に走る感覚。

 

 それがあたしの身体の中に、二度走った。

 

 「・・・ここまでしておいて、アレなんだけど」

 「分かってる」

 

 分かってる。まだ、返事は返せないのよね。

 

 「けど、ずっと待ってるから。ギンジはギンジの思い描いた道を突き進んで頂戴。でも、忘れないでよ、あたしはあんたが好きだから。大好きよ、ギンジ」

 

 いいの。

 

 ずっとあたしを見守ってくれたギンジは、あたしにその言葉をくれたから。

 

 ここに居るギンジに選んでもらえなくても、あたしは・・・。

 

 「カエデ・・・俺も・・・お前の事が好きなんだ。だけど・・・」

 「今すぐ答えを出そうとして焦らないでもいいわよ。でも、優柔不断な怪人には・・・」

 

 もう一度。3回目のキスをして、もう躊躇いが無くなった。

 

 味なんてわからないし、鼻息も当たるし、でも柔らかい。

 

 柔らかくて、嬉しくて、好きになるっていう感情が、人を駄目にするのも、今だったらなんとなく分かっちゃう気がするかも。

 

 「大好きよ、ギンジ」

 「ありがとう・・・」

 

 そのままあたし達は、あと少しの間だけ、このまま身体を抱きしめ合った。

 

 このまま離れるのが嫌になっちゃってるから・・・。

 

 このまま、離れるのが・・・寂しいから。

 

 あたし達の戦いはまだ終わらないし、いつ終わるのかもわからないけど、でも・・・。

 

 明日死ぬかも知れないって言う覚悟を、あたしとギンジはちゃんと持ってるから。

 

 だから、恥ずかしくても、離れないでこのままで居たかったの。

 

 ギンジ、ちゃんと返事をくれるのを待ってるからね。

 

 あたしとミヤコは、あなたに答えを示したよ。

 

 ちゃんと、待ってるから。

 

 ヘヴンホワイティネスとしての覚悟はちゃんと持った。

 

 恋としての覚悟もちゃんと持った。

 

 大好きな人と、大好きな未来を歩める様に、あたしは一歩先に進むわよ。

 

 身体が熱くなる電流を感じながら、次に夜風が吹くまでの間は、あたし達はずっとこうしたままだった・・・。

 

 

続く

 

 




お疲れ様です。

恋愛として物語をすすめるには、少し遅くなってしまいましたが、今章ではカエデの物語と言う、良い感じにできたと思います。

キャラネタ書きます

佐久間ギンジ
カエデとのキスで、もしかしたら理性を一瞬失ったかもしれない。

異世界転生者です!って説明するには、少しだけパニクっていた。
また話す機会があれば、そのうち。

神宮カエデ
ついにギンジに想いを伝えた。
物語も終盤なので、この3回のキスもきっと何かカエデにとって良い方向に動く筈!

鏡の怪人
尺の都合上で出番がカットされた。
次回の冒頭に出てくる予定です。

・・・

次回は新章・現代のレジスタンス編が開始される予定です

暴力の怪人、拒絶の怪人、血の怪人、
さらにウオーバ、サオーバの右往左往兄弟や、結界の怪人、グリズリーの魔人に、ライオンの魔人、小栗鼠山さんとか、キリンの闇人とか、菊沢トモカの再登場とか・・・

雪の怪人、真鍋アオハル、小鳥遊アキラ、銀葉イオリも出て来て、さらに龍、毒蛾、機械の怪人も登場する大きな章になる予定です。
あらかじめプロットも立てては居ますが、また増えるんだろうなぁ・・・

次回からの新章もお楽しみに!!
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