正義のヒーローヘヴンホワイティネス   作:アトラクション

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お疲れ様です。アトラクションです。
今回のお話で、四話構成のお話は終わりです。
過去最高の長さになったので、適度に休憩を挟んでお楽しみください。




12・湾岸エリアの激戦

 ギンジ達が通学路や学校で戦っている頃、角倉ケイタは一人で湾岸エリアまで足を運んでいた。

 

 貨物船が着き、様々な商品や人の出入りがあるこの場所で、ケイタは隠れる事無く真ん中を歩いている。

 

 (何かあったのかな・・・)

 

 辺りを見渡せば、確実に誰か居るはずなのに、この時間帯、この場所に人の気配が一切しない。

 

 普通ならただの学生が立ち入りする事は、特別な事情が無い無い限りは入れてもらえない。

 

 だというのに検問所には人が居なく、警備員も、屈強な船乗りでさえ誰一人居ないのだ。

 

 「ここで間違いないのかな・・・」

 

 不気味にも思えるこの状況にケイタは一人、船が止まっている漁港の近くを歩いている。

 

 夕日が海面を照らして綺麗な光を反射させるが、それすらも不気味に思えるケイタに近づく影があった。

 

 「な〜にが間違いないのかな〜?」

 「え・・・?」

 

 ケイタの背後から女性の声がした。それに驚き身動きが出来ずに頭に鈍痛が走り、ケイタは気を失う。

 

 「・・・、君、は・・・」

 

 気を失う瞬間、一瞬だけだが、ケイタは自分を殴ったであろう女性の顔を見る。

 

 その表情は悪魔の様に恐ろしい笑みを浮かべて、倒れゆくケイタを見下ろす女性の顔があった。

 

 (・・・間違い、なかった)

 

 それを本当に面白そうに見下す女性、リコニスは倒れたケイタに踏みつけを行う。

 

 「さ〜て、起きても動けないようにしなきゃね〜?」

 

 やはりただの人間では、リコニスの一撃を耐えることは不可能だ。

 

 戦えない者と情報のやり取りをする事をリコニスは好まない。

 

 「それじゃあ、おやすみ〜ケイタちゃん」

 

 弱い者はこうやれば直ぐに黙ってくれるからイジメがいがない。だから気絶させて、踏みつけた。

 

 「さて、コレってミヤコの情報にあった、ヘヴンホワイティネスの協力者、とかよね・・・」

 

 ケイタの首根っこを捕まえると、肩に担ぎ上げる。その際黄金のショルダーがケイタの腹に押し込まれるが、わざとだろう。

 

 リコニスはケイタを連れて、湾岸倉庫の中枢へと向かう。

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 夜。ギンジ、カエデ、レン、ミドリコは繁華街で軽食を終えると、直ぐに湾岸エリアに向かっていた。

 

 あれからレンは何度もケイタに連絡を取ろうとするも、一向につながらない。メッセージにも既読がつかず、レンは不安を隠せないでいた。

 

 不安を隠せずに、前を向いて歩く事にも集中できていないレンにカエデが耳打ちする。

 

 「レン、心配なら、ケイタの家に行っても・・・」

 「それは、駄目。大丈夫、ケイタは確実に、私が家まで、届けた」

 

 それだけは間違いない。だからケイタと連絡が取れないのは、きっと今食事中か、勉強に集中しているだけだ、とレンは心に言い聞かせて、再び前を見てあるき出す。

 

 「あぅ・・・ケイタ・・・」

 「心配なら行ってきなさいな。あんたいつまでそうするつもりよ」

 「でも・・・」

 「肝心な所で優柔不断になるのは、よくないぞレン。私は今の君がちゃんと戦えるか心配になるよ」

 

 ギンジの半歩後ろで三人の女性の会話を聞きながら、うんうんと首を縦にふるギンジ。

 

 「ま、恋してたらしょーがねーよな!その気持ち、このギンジ・サクマよくわかるぜ」

 「別にあんたの意見は聞いてないわよ」

 「っというか、レン、ケイタ君に恋してたのか!?」

 「ミドリコ先生、恋する少女ってのは、いいもんだな」

 「うるさいぞ佐久間ギンジ。・・・詳しく聴かせて!そして、私の恋にも活かせるように」

 

 繁華街を抜けて湾岸エリアへと続く国道を歩きながら、レンの恋の話で盛り上がる。

 

 (この、心配になるという感情が、恋・・・?)

 

 また過去の知識を得たレンは、この後恋の感情によって強くなるのだが、それはまた別のお話。

 

 「見えたぞ」

 

 ギンジが指差す方向は、湾岸エリア。タンカー船や、貨物船、輸送船や豪華客船などが沢山並ぶ、夜景にも最適な場所を指差す。

 

 かつてギンジも怪人になりたての頃に、ここで略奪の任務で襲撃したこともある。

 

 湾岸エリアと繁華街を繋ぐ国道橋で、四人は息を呑む。

 

 今日は全員戦いっぱなしになる。

 

 カエデとレンは剣士の怪人という強敵と。

 

 ギンジとミドリコはヘルブラッククロスの戦闘員と、鎧の怪人と。

 

 そして何が控えているか解らない湾岸エリアで、未知の強敵が現れる可能性がある。

 

 「よし、休憩するぞ」

 

 ギンジが素頓狂な事を言い出す。

 

 それには流石に三人は怪訝な表情になる。

 

 カエデに至ってはキレそうだ。だがギンジはそんな三人の体調を考えての発言だった。

 

 「夜は怪人も活発になる時間帯だ。今ここで疲弊してるカエデとレンじゃ、最初は良くても後々体力も低下してまともに戦えなくなるぞ」

 「もっともな意見だが、私達にはあまり悠長にもしていられないんじゃないか?」

 

 ミドリコが拳銃の残弾数を確認しながら、ギンジをチラリと見る。視線は常に周りを警戒している。

 

 「カエデ、今何時だ?」

 

 ギンジの問いかけに「今は21時を超えたところね」とカエデが言うと、ギンジはニヤリと笑う。

 

 「さっきも言ったけど、夜は怪人が強くなる。剣士の怪人の言うとおりなら、犬の怪人もいるっぽいし、油断はできない」

 「じゃあ、どうするの?」

 

 横からレンがギンジにぴょんと飛びながら顔を覗かせる。

 

 「決まってるじゃないか。夜明けを狙う」

 

 朝ならば怪人が一番パワーダウンする時間帯となる。それを知っているギンジは、三人に説明すると妙に納得してくれる。

 

 「でもアンタも怪人なんだから、パワーダウンするんじゃなくて?」

 「俺はどうだろう。あんまりパワーダウンしている様な感じはないんだよな」

 「でもギンジの言うとおりかも知れないな。少し休憩するのはアリかも知れない。だけど、どこで休むんだ?」

 

 ミドリコが夜の国道橋で次々と銃の整備を行う。

 

 「んー確かに、このまま外で野ざらしで寝るのは良くないよな。美人さんが3人もいるわけだし?」

 「美人って・・・」

 「う、う、う、う、嬉しくはないぞ!」

 

 カエデとミドリコが顔を赤くしながら動揺している。それをレンは冷ややかな目でギンジを睨む。

 

 「ケイタ君よりも先に、言われた・・・」

 

 落ち込むレンは置いといて、ギンジは近くに路駐してある車の扉を引っぺがして開ける。

 

 「オラ、寝床、発見したぜ。今日はここで寝よう」

 「アンタそれ犯罪よ!何考えてるのよ、このバカ!バーカ!超バカギンジ!」

 「これは流石に見過ごせないぞギンジ・・・」

 「いーんだよ。こんなオンボロ路駐車、誰も使ってねーだろ」

 

 確かに見た目はボロいのだが、それでも誰かの乗り物。国道橋に路駐するなんて事はありえない筈だから、きっと誰かがまだ乗っていたはずだ。

 

 それでもお構いなしにギンジは車へ三人を連れ込むと、ドアを車体にねじ込ませると、力任せに歪ませて閉める。

 

 「ギンジは中に入らないの?」

 「ああ、俺はいいよ。見張り役が必要だろ?」

 

 ボンネットに座り、車体がギシリと揺れる。

 

 「この季節なら夜が開けるのは、多分4時後半か、5時前後、ってとこかな。ホラ、寝とけよ」

 

 車内には三人の女性がそれぞれ寝やすい体制で休みに入る。

 

 カエデとレンは想像以上に疲れていたのか、直ぐに睡眠を謳歌する。

 

 ミドリコは運転席で腕を組みながら、目を閉じる。

 

 「さて、行くか」

 

 三人が寝るのを確認するとギンジは、ボンネットから静かに降りる。

 

 国道橋の鉄骨にコウモリの力で飛び乗ると、湾岸エリアを見渡す。

 

 「さて、どこが攻めるのにはいいのかな〜」

 

 遠目から見ても湾岸エリアは人を隠すのとか、マシンを運び出すのには最適な広さだろう。

 

 どこを見ても侵入は容易だろう。この国道橋や、他の自動車搬入口、社員や客が出入りできる陸路。

 

 どこから侵入しても攻撃するのであれば、不意打ちになることは間違いない。

 

 手当たり次第に攻撃するのは無しだが、先ずは何処に一般市民が拉致されているのか、そこを絞らないと行けない。

 

 次に敵の数だ。この作戦にドクターミヤコが一枚噛んでいるなら、怪人は少なくとも2体。そのうち一体は犬の怪人。

 

 「もう一人は誰だろうな。オーク怪人か、紐のやつか、海が近いからタコかもしれねーな。流石に俺の知らない怪人をもう一体、なんて事はないだろうしな」

 

 ゲームにおける知識を考えながら、怪人が出てきた時の対策を考慮する。

 

 後は戦闘員がどのぐらい控えてるのか、そこだよな。 

 

 鉄骨の上で風に煽られながら、ギンジは夜空を見上げる。

 

 「ここも・・・運命の日なのかな」

 

 ゲームの展開に無いこのイベントにもなにか意味があるのかも知れない。イレギュラーな展開をどうにか乗り越えないと行けない。

 

 「あー・・・俺にも転生のチート能力が欲っすぃー」

 

 怪人になっているのがチート能力なのかも知れないが、ギンジは今の現状にかなり頭を悩ませて行く。

 

 この先どうしたらいいのか、この先どうやったらヘヴンホワイティネスが敗けないで戦い続けられるのか。

 

 「ま、やるしかないからな・・・」

 

 屈伸運動を行い、再び車の所へ戻る。

 

 まだ夜が開けるまでは時間がかかる。ギンジはこの後一睡もしないで見張りを続けては、湾岸エリアを視察しに飛び、を繰り返すのであった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 「マジカル、マジカルるんるんるーん」

 

 鼻歌とうろ覚えの歌詞を歌いながら、サクラは度固化市の上空を飛び回っていた。

 

 最近はマージ・ジゴックとの戦いも終わり、残党も倒した。

 

 そして素敵な協力者も得たサクラは毎日登校前の、早朝パトロールを行っていた。

 

 「まほーの杖でぶんぶんぶーん」

 

 夜明けの風は気持ちが良い。この風を浴びることはサクラが魔法少女としての楽しみのひとつだ。

 

 サクラは日差しが照らし、影を伸ばす建物が好きだ。空からこの影の動きを眺めるのが好きでたまらない。

 

 「あれは・・・」

 

 そんな中、一人の男性を見つける。

 

 金髪にオールバック、そしてツーブロックのヘアスタイル。

 

 知る人が見れば、あれは佐久間ギンジであるというのが直ぐに解る。

 

 そんなギンジが国道橋の鉄骨の上で何をしているのだろうか。

 

 何やら頭を抱えては、鉄骨を踏みつけたり、何かぶつぶつ喋っている様だが、今のサクラは特に問題なしと見えた。

 

 連絡先をあげたのに連絡してくれないのが気にかかるが、今はパトロールを優先とする。

 

 「ギ、ギ、ギー、ギーンジー、佐久間ーギンージー」

 

 変なリズムで歌を即興で造る。

 

 あまり出来の良くない歌で、サクラは苦笑する。

 

 「さーて、悪の組織が悪さしないように、パトロール!っと!」

 

 この1時間後にサクラは中央度固化の学校が崩れている事を知り、急いでギンジ達に事情を聞きに来ることをサクラはまだ知らない。

 

 ギンジはと言うと鉄骨の上から橋に降り立ち、近くの輸入品の食料倉庫から皆の朝ごはんを持ってくる。どうせ人が居ないのだから何をとってもバレはしないだろう。

 

 「うーむ。スパムミートって加熱したほうがいいのかな?」

 

 手に持った缶詰の肉は英語表記で何がなんだかよく解らない。

 

 「何してんのよバカギンジ」

 「くぁwせdrftgyふじこlp」

 

 急に後ろから話かけられ、驚きのあまり声にならない声で手に持った缶詰を放り投げる。

 

 それをうまい形にキャッチし、カエデはギンジに投げ渡す。

 

 「あんた車の次は缶詰?」

 「いや違うんよ。これは皆の朝ごはんをだね」

 「あんたあたし達に泥棒の共犯にさせる気!?」

 「違うって!」

 

 カエデとギンジのやり取りはいつもこういう感じだ。

 

 時間は4字時をまわる頃。まだ街の方は暗い。だがこの湾岸エリアからは夜明けの朝日が、国道橋を照らし始め、眩しくも美しい光景が二人の視界に広がる。

 

 「眠れたか?」

 

 結局あれからギンジは一睡もしていない。

 

 「ん、まぁまぁね。あんたこそ寝てないの?」

 「まぁな。色々考えちまってな」

 

 その色々の内容が気になるカエデだが、今は気にしないこととする。

 

 お茶のボトルを開けるとギンジはカエデから明るく照らされる湾岸エリアの方に視線を向ける。

 

 その表情は疲れてるとも、何かを思い詰めているともとれる。

 

 横顔を見ながらカエデはギンジに話しかける。

 

 「ねぇ」

 「ん?なんだ」

 

 視線を変えずにギンジは返事をする。

 

 「・・・話したくないならいいんだけど、あんたって何者なの」

 「・・・何者、か」

 

 答えに詰まる。今この状況における説明はちゃんと出来るのだろうか。

 

 自分が何者か。生きた屍であったギンジの表情は、虚ろなモノになっている。

 

 「・・・今は、まだ言わなくていいかな。まだ、その、上手く説明が出来ない」

 

 自信が無さそうなギンジの声音にカエデは鼻を鳴らす。

 

 「そ。ならいいけど。じゃぁ、この湾岸エリアの戦いが終わったら聴かせてくれないかしら?」

 

 腕を組みながらギンジの真横に詰めより、その行動でギンジもカエデの顔を見る。

 

 カエデの瞳は綺麗に黒い。健康的な顔立ち、整った容姿、薄めプラチナブロンド。そして朝日が照らす後光に思わず、天使の様な雰囲気を醸し出していると思ってしまう。

 

 神宮カエデはギンジにとって〈大好きな人達〉の一人だ。この子を守りたい。その一心で今日までギンジは戦ってきた。

 

 ギンジの眼球は黒く、赤い瞳。おおよそ人間とは思えないその目に、カエデはただじっと見つめてしまう。見ていると吸い込まれそうな気持ちに、鼓動が早まる。

 

 ギンジの背にはまだ暗い街。闇が晴れていく様に見えるその姿にどこか、自分達の闇をも振り払ってくれそうな、希望を持っている様にも思える。

 

 「ねぇ、ギンジ」

 

 静かに、お互いを見つめ合いながら、カエデは声を出す。

 

 「必ず、勝つわよ・・・」

 「当たり前だ。俺を信じろよ。必ず、お前たちを勝たせる」

 

 二人は、車に戻る。

 

 朝日は大きく広がり二人の背に暖かく、背中を押してもらえる様な気持ちになった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 あれから20分程経っただろうか。

 

 全員起床し、軽く運動をしてギンジの持ってきた缶詰等で食事を行う。

 

 今の時間は5時を回る頃。朝日も強くなり、湾岸エリアは活気づく時間帯。

 

 その筈なのだが、人の気配が無いに等しい。

 

 車も動かず、人も来ず。明らかな異常。

 

 「寝心地悪くて、あまり気持ちよくは、眠れなかった」

 

 昨日の戦いの疲労も抜けきらないレンとカエデは、眠そうに缶詰の朝食を食べる。

 

 「今直ぐシャワーを浴びたいわね・・・」

 

 5月とはいえ暑い。汗もかいているし、戦闘も長かった。疲労の色が強いカエデとレンは、今日まともに戦えるのか不安になってくる。

 

 「ケイタと、連絡、まだ取れない」

 

 レンがスマホを見ると、ケイタの既読がまだ着いていない事に気づく。

 

 「通話も通らないとなると、流石に不安になるな」

 「でも、今考えてもしかたが、ないのかな・・・」

 

 ミドリコを見ながらレンが更に不安そうな顔をする。

 

 嫌な予感がする。そういった心境なのかも知れない。

 

 「これが終わったらケイタの家に皆で行こうぜ」

 「うん・・・」

 

 不安を拭える訳ではないがギンジの一言で少しだけ、本当に少しだけ勇気付けられる。

 

 「で、見張りをしていた事で気づいた事があるんだけどいいか?」

 

 車の周辺でカエデとレンが変身し、ミドリコは銃器の装備を始める。

 

 その三人の前でギンジがブリーフィングを始める。

 

 「先ず、奴らがどこに潜伏してるのか解らない。敵の数もずっと見えなかった。そこで作戦としては、先ずミドリコは一般市民がどこにいるのかをスコープで探してもらう。そんでちくいち情報をカエデとレンに送ってくれ」

 「了解した」

 「建物の屋上とかから視察してくれると助かるな。ああ、俺が屋上まで送るから安心してくれ」 

    

 ミドリコが頷くとライフルを背負い、拳銃のセット、アーミーナイフを足と腰に各二本の装備を終える。

 

 「そして、カエデとレンは二人一緒に行動。この国道橋からしばらくは俺と直進。この国道橋を中心線として、湾岸エリア中央まで来たら右に進んで貰う」

 「で、あんたは左ってことね」

 「そうだな。俺はお前らと通信する手段が今の所無いから、何かあったら火柱を立てる」

 

 両手の骨をバキバキと鳴らしながら、ギンジはカエデとレンを見る。今の二人のスーツが微妙に変わっている事に気づく。

 

 「何よ」

 「いや、スーツ、進化でもしたのか?」

 「なんか変だけど、天使の羽みたいなのがついて可愛いでしょ」

 

 カエデは胸に、レンは腰の左右に白い羽のレリーフが入ったボディスーツに変化している。

 

 「雷を上に出したりしたら、俺が戦闘に入ったとでも思ってくれ」

 「炎と、雷?どんどん人間離れしてる・・・」

 「でも俺は人間だぜ!レン!」

 

 親指を突き立ててキメ顔するも、カエデに睨まれたので話を元に戻す。

 

 「で、ミドリコは異常が無いことを確認したら、移動。湾岸エリアまで侵入して一般市民をカエデ達と一緒に探して欲しい」

 「あんたは左に進んだらどうすんのよ」

 「俺も同じく一般市民を探すが、そっちは二番目だな。第一の目標としては広範囲洗脳マシンをぶっ壊す。お前らも見つけ次第ぶっ壊せ」

 

 ギンジの鋭い目つきで三人の背筋に気合が入る。

 

 「それじゃあ、行くか・・・」

 

 四人は湾岸エリアに進む為に足を進める。

 

 この街で起こっている洗脳、一般市民の誘拐。それを止めねば、きっとヘヴンホワイティネスにもギンジにも未来は無くなる。

 

 何が来ても全力で倒す。

 

 そして日常を取り戻す。友達も取り返す。悪を根絶やしにする。

 

 (さーて、マジで頑張らねーと) 

 (待っててトモカ。必ず助けるから)

 (・・・ヘルブラッククロスさえ居なければ・・・)

 (私がどこまで力になれるか・・・)

 

 四人の思いは一度虚空の彼方へと捨て去る。

 

 「行くぞ!」

 

 鬨の声とも言うべきギンジの一声で、正義は悪の潜む湾岸エリアへ駆け出す。

 

 作戦通りミドリコは建物の屋上へとギンジに送ってもらい、そのままギンジはカエデ達の走る道へと降りて後方を歩く。

 

 「あんた空まで飛べる様になったのね」

 「今度一緒に飛ぼうぜ」

 「あんたとはごめんよ」

 

 軽口を叩きあいながらも湾岸エリアの中央へと突き進む。

 

 開けた通りに出ると、フォークリフトや車、荷物を運搬する台車などが散乱しており、先にここが襲撃されたことがハッキリと解るような状況に、カエデは硬唾を飲む。

 

 右を見渡せば、倉庫やお店が立ち並ぶ商業エリア。

 

 左を見渡せば、同じ様に倉庫と海上コンテナを積み上げた倉庫エリア。

 

 「さて、予定通りだ。俺はあっち、お前らはあっちだぜ」

 「任せなさい」

 

 ギンジとカエデ、レンが左右に分かれると、国道橋近くの屋上からはミドリコがカエデ達をスコープで彼女達の周辺を警戒する。

 

 「行こう、カエデ」

 「ええ!」

 

 カエデとレンは先ずは商業エリアを走り抜ける。

 

 「ミドリコ、何か反応はある?」

 

 ミドリコの手元には生体反応などが解るレーダーがある。

 

 それで今まで怪人の立ち位置が解る。

 

 「そっちに生体反応複数だ。でも、変だな・・・」

 

 レーダーの指し示す位置には確かに複数の生命体反応がある。

 

 奥の方に写っているのは間違いない。

 

 しかしカエデ達二人の反応と複数の反応の間に、もう二人の反応が見て取れていた。

 

 「それに・・・怪人反応・・・?」

 

 何かが妙だ。紫色の怪人反応はカエデやレン、ギンジよりも中心の位置に近い。

 

 「ミドリコ、あたし達は屋内に入るわよ。気をつけて!」

 「ああ。怪しい、と言っていいのか解らないが、2つの生命反応がある。怪人じゃないが、警戒してくれ」

 「解った!」

 

 再びレーダーに目をやると怪人反応が中心より、下の方に移動している。

 

 「・・・」

 

 少し考える。

 

 この怪人反応はどこから来ているのか。そして、妙な感じ。

 

 「まさか」

 

 ハッとしたミドリコの背後に鋭く尖った何かが飛んでくる。

 

 それは明確な殺意を持っており、元軍人のミドリコは気づくのが早かった。

 

 その尖った物はハートの形をした矢の形をしたモノ。身を転がしてミドリコが避けると、屋上のコンクリートがハートの形に抉れる。

 

 「なるほど、この怪人反応・・・」

 

 レーダーに写っていた、カエデ達より離れた怪人反応の正体。

 

 それはカエデとレンやギンジを狙った者ではなく、ミドリコを先に狙ってきた。

 

 テカテカに光るキャットスーツに、黒い羽と黒いハート形をした尻尾。サラサラな茶髪にコテコテのデコネイル。

 

 脚を組みながらその怪人は浮遊し、ミドリコを見下ろす。

 

 「今の避けるなんてすごいぢゃん。ちょっとイジメがいがあるかも」

 「貴様か・・・」

 

 ミドリコは怪人とはまともに戦えない。肉弾戦になったら不利だ。

 

 「あーしサキュバスの怪人。しくよろー」

 

 ピースサインを右目にかぶせる様に挨拶すると、サキュバスの怪人はぺろりと舌なめずりをする。

 

 「せめて足掻いてみせよう」

 

 二丁拳銃を構えると、ミドリコはサキュバスの怪人と戦わざると得ない状況になった。

 

〜国道橋の戦い〜

 天白ミドリコ

   vs

 サキュバスの怪人

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 「カエデ、ミドリコと連絡が、取れなくなった」

 「でも今更戻れないわ」

 

 二人して不安になるがそれを今は押隠す。

 

 ここで振り返っては、突入した意味がない。

 

 二人の正面には重たそうな鉄の扉がある。

 

 ここまで真っ直ぐ進んできた二人は、お店の裏に固まる倉庫エリアまで来ていた。目の前の扉を開けると、ゆっくり隠れる様に進もうと思ったが、その扉の奥は倉庫と言うにはあまりにも殺風景な光景が広がっていた。

 

 日差しによってホコリが舞うのを視認できるその広い空間では、ヘヴンホワイティネスの他に、積み上げられた海上コンテナの上に、二人の少女が座ってカエデとレンを見下ろしていた。

 

 黒いボディスーツに赤い十字架のマーク。胸には黒い眼球の刺繍が施された制服に、カエデとレンはあの二人の少女が一般市民ではない事を確認できる。

 

 「わ、本当に来たヨ。お姉ちゃン」

 「フッ、まぁ、概ね予想通りね」

 

 語尾が変なイントネーションの少女と、鼻で笑う少女。

 

 「何よあんた達」

 「敵なら、倒す・・・」

 

 カエデとレンは戦闘態勢に入る。

 

 「初めましてヘヴンホワイティネスさン。ワタシ達はハーフムーンって言うノ」

 「フッ、昨日は剣士の怪人がお世話になったそうね」

 

 左右に座る戦闘員とはまた違う様な制服を着る彼女らが、只者ではない事をカエデもレンも理解していた。

 

 「フッ、ワタシはニュームーン」

 「ワタシはフルムーん」

 

 双子の少女がコンテナから飛び降りると、ニュームーンはレーザーで形成された剣を取り出す。

 

 対するフルムーンは両腕に爪を、両足に毒針を展開させてヘヴンホワイティネスに向き直る。

 

 息ピッタリな行動に、カエデもレンもビーム剣、ガントレットを構える。

 

 「フッ、あなた達が探しているであろう一般市民はこの先にいるわ。会えやしないけどね」

 「ヘルブラッククロスの精鋭、ハーフムーンであるワタシ達がヘヴンホワイティネスを倒しちゃうからネ」

 「舐められたモノね・・・」

 「どっちにしても、倒す。私には合わないと、いけない人がいる」

 

 カエデは退かない意思を持って、闘志が沸き立つ。

 

 レンも同じ様に退くつもりは無い。

 

 『覚悟しなさい、ヘヴンホワイティネス!』

 「覚悟ならとっくに!」

 「してる!」

 

 四人の少女が広い倉庫内部での交戦が始まる。

 

 〜湾岸倉庫の戦い〜

 

ヘヴンホワイティネス

    vs

  ハーフムーン

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 ギンジ達の突入から40分程経った頃、湾岸エリアに複数箇所ある管理室の中でもひときわ大きく清潔感のある場所に、リコニスと犬の怪人、その隣には洗脳マシンが置いてある。

 

 洗脳装置のある一部屋でリコニスがモニターを見つめて、笑みを浮かべる。そこに写るのは特殊部隊と、サキュバスの怪人が戦闘を始めようとしていた。

 

 ここまでやってきたヘヴンホワイティネス達を、待ち伏せ、襲撃したのはこのモニターで侵入を確認していたからだ。

 

 「始めたわね〜・・・」

 「チワワ、お前嫌い。なんか臭そう」

 

 リコニスがソファにだらけながら、その隣では犬の怪人がリコニスに悪態をついていた。

 

 「さて、あっち三人に侵入者は任せて、私も出ようかな〜」

 

 三日月の口を開き、リコニスが手元の刀を取ると管理室を出ようと歩き出す。

 

 「駄目だ。チワワは言われている。お前をこの作戦で暴れさせてはいけないと」

 

 筋肉をピクピクと動かしながら、犬の怪人はリコニスの前に立ちはだかる。その筋肉の鼓動は今直ぐリコニスをぶっ飛ばしておきたい、という警戒と敵意が混じった威圧を感じさせた。

 

 「一応私、大幹部なんだけど?邪魔しないでくれるかしら。壊しちゃうよ」

 「それで満足するならチワワはいつでも受けて立つ」

 

 怪人の中でもひときわ防御力が高い犬の怪人は、リコニスの攻撃にも耐えられるとミヤコのお墨付きでここにリコニスの監視を指示されていた。

 

 「んもーそんなに睨んだらリコニスちゃん泣いちゃうよー?えーん」

 「ウソなきは良くない。チワワそれを知っている、女の武器というやつ。やっぱりお前臭い」

 「いちいち失礼なのよお前!」

 

 一色即発になりそうな雰囲気だが、隣の部屋から窓の割れる音がする事で、二人は冷静になる。

 

 「・・・今のは、リコニスの連れてきた人質、か?」

 「あーれま。気絶させて、踏みつけたのにまだ動けるんだ〜しぶといなぁ。ま、次は壊しとこうかな。色々と」

 

 悪意に満ちた台詞でリコニスが言うとチワワが道を開ける。

 

 「人質は逃したら駄目だ、リコニスが追いかけるんだ。チワワももうすぐ洗脳マシンのところに行く」

 「はいはい、解ってるわよ。犬っころの癖にそういうトコは賢いんだから」

 

 嫌味な態度でリコニスが隣の部屋に向かうと、それまで拘束していた人質、角倉ケイタの姿が見えない。

 

 「・・・リコニス、もう一人いるぞ」

 「鼻も効くのね。じゃあ侵入者がもう一人余分に居るわけだ」

 

 窓を開けて下と左右を見渡すが、ケイタの姿は見えない。

 

 「・・・ふ〜ん?」

 

 そのまま外に飛び出ると、壁を蹴って三角跳びの要領で屋上まで飛び出る。

 

 「アハッ、そこにいたんだ?」

 「ゲッ、バレたよ!」

 「うっそ!」

 

 ケイタは見慣れぬ少女と共に杖の様な物にまたがっていた。

 

 「あら?確かお前は・・・紫の報告にあった魔法少女ね?」

 「あちゃー、悪の組織に知られているなんて・・・って、4月はギンジくんに変わってヘルブラッククロスと戦ってたし、とうぜんかな」

 

 その少女はピンク色のフリルとミニスカート、白いハットにハートが二重になったステッキを持っている。

 

 魔法少女サクラ。それが彼女の名前だ。

 

 「ギンジの事知ってるからって協力したのにー!これじゃ絶体絶命じゃないかー!」

 「だーいじょうぶ!私がこんな悪そうな人やっつけてあげるわ!」

 

 今にも泣きそうなケイタはサクラの杖にしがみつく。

 

 しかし、サクラは悪意を放出し続けるリコニスに、目を逸らさない。

 

 「初めまして、魔法少女。私はリコニス・・・その子を、こっちに渡す気はないかしら」

 「無いね。ヘルブラッククロスの人なら私は素直に言うこと聴くつもりもないしね」

 「そ。じゃあめちゃくちゃにぶっ壊してあげるわ!」

 

 黄金の刀を引き抜き、狂気を振りかざす悪魔の如くリコニスはサクラをターゲットにし、走り出す。

 

 「ケイタ君は早く行って!そして好きな人に早く合流してね!」

 「ありがとう、サクラさん!」

 

 ケイタが階段を目指して走り出すと、サクラも魔法を唱え始める。

 

 元々ギンジ達の住む街の学校が、ボロボロになっていることをパトロール中に確認したサクラはその危機を伝えに来たのに、たまたまケイタを発見し、事情を聞いたらこんな有様だという。

 

 そうなればここにギンジが居た事にサクラは合点が行った。

 

 きっとこの街の正義のヒーローもここに来ている筈だ。その者達との交流もかねて首を突っ込んだのだが、今は戦いに突入してしまった。

 

 「やるなら容赦しないから!」

 「それはこっちの台詞よ!魔法少女!」

 

 〜湾岸倉庫管理エリアの戦い〜

    魔法少女サクラ

      vs

    大幹部リコニス

 

・・・・・・・・・・・・

 

 管理棟から飛び出ると、ケイタは急いでここに来た目的を果たそうと、行動を開始する。

 

 おそらくサクラの口ぶりからギンジがここに来ている。

 

 となれば、湾岸エリアにヘヴンホワイティネス、即ちカエデとレン、そしてミドリコも来ているということ。

 

 今の自分では不安で死にそうな気持ちになるが、ケイタに弱音を吐いている暇はない。

 

 気絶しながらも、昨晩リコニスや怪人達の話していた、東倉庫にある洗脳マシンの情報をうっすらと聞こえていた。

 

 (あんまり覚えてないけど、きっと東倉庫なら・・・)

 「あれ、ケイタじゃん」

 「ギンジ!?うおおおギンジいいいい」

 「うおっ!なんだ、オイ!離せコラ」

 

 不安で考え込んでいたケイタをギンジが見つけた。

 

 無事を確認しようと声をかけたのだが、あまりの嬉しさにケイタはギンジの腰に抱きつく。

 

 「離れろコラ!」

 「はふん」

 「キメェ声だすな!!鳥肌立つだろ」

 

 軽めに押すとケイタがキモい声で、ゆらゆらと離れる。

 

 「おめー、レンが連絡取れないって不安がってんぞ」

 「え!?本当!?」

 「ウソついてもしょーがねーだろ。それより、お前ここで何してたんだ」

 

 スマホが無い無いとポケットを探すケイタに、ギンジが問う。

 

 「あ、ああ実は・・・」

 

 ケイタはここに来るまでの経緯を全てギンジに話した。

 

 情報を頼りにレンの力になりたかった事、だが情けない事だが、捕まってしまったこと。

 

 そして魔法少女に助けられて、今に至る。

 

 「え!?サクラもここに来てんの!?」

 「え、ああうん。かわいい子だよね」

 「浮気したらテメェ、去勢すんぞ・・・」

 「しないよ!僕はレンちゃん一筋だい!」

 

 ギンジなりの冗談を本気で捉えて、思わず股間周りがフワッとする。

 

 「で、情報とかなんかあるか?」

 

 ギンジの一言でケイタは思い出す。うっすらとした記憶を。

 

 「え、ええと洗脳マシンが置いてある倉庫があって・・・」

 「お、情報ありとは。やるじゃねーかよケイタ」

 「で、東倉庫ってところなんだけど、その、あの」

 「ハッキリしろよ」

 

 しどろもどろ話していくケイタに、ギンジが足元をタンタンと叩き始める。少し苛立ちがあるのか、それともただのせっかちなのか。

 

 「確かな情報じゃないんだ。気絶しながらうっすら聞いてただけだし・・・」

 

 下を向いてうつむいてしまう。本当なら確かな情報を届けて、皆の役に立ちたかった。

 

 だがギンジはそんなケイタの肩を優しく叩くと、男らしい笑顔を見せる。

 

 「そういう情報があるだけでも十分だぜ、ケイタ。お前、戦えないのによく頑張ったな」

 

 その優しさがケイタの重りの様な感情を、軽くさせ吹き飛ばしてくれる。

 

 「いいか、確かな情報じゃなくても、俺たちの選択肢が増えるんだ」

 「でも、それで無駄足だったらって思うと」

 「気にすんなよ。お前の情報だったら間違いでも正確でも、きっとありがとうってレンは言うと思うぜ。俺もその情報はマジでありがてぇ」

 

 二人は頷きあうと東倉庫のエリアまで進んでいく。

 

 海上コンテナが積み上げられた道を抜け、二人はフォークリフトが綺麗に駐車させられた倉庫の入り口を見つける。

 

 「ここじゃねぇか?」 

 「多分・・・ここまで敵の襲撃が無いのが、不気味だね」

 「何か居るには居るだろうけどな・・・」

 

 ギンジが鉄の扉を蹴破ると、そこには鉄の機材や、海鮮の香りが漂う冷凍の箱が並ぶ広間に出る。

 

 「ケイタ、一旦ここで待ってろ」

 「わ、わかった」

 

 この倉庫に入った瞬間からギンジ達をどこかから見ている者がいる。

 

 おそらくここの守りを命令されている、誰かがいる。人の気配ではないとすると、それは間違いなく怪人。

 

 「屋内に来たからな・・・合図が出せねーや」

 

 舌打ちしながらもギンジはゆっくり進む。

 

 「ギンジ!上!」

 「は?」

 

 ケイタの掛け声に反応し、上を見上げると海上コンテナが落ちてくる。

 

 「危ねぇ!!」

 

 急いでその場を離れると、ケイタがギンジに駆寄ろうとする。

 

 しかしその二人の間に、筋骨隆々の怪人が降りてくる。

 

 犬、チワワと同じ顔をした頭部に、ブーメランパンツを履いたナイスバルク。

 

 背筋と腹筋、惚れ惚れするほどの逞しい筋肉。

 

 「ケイタ!離れてろ!」

 「久しぶりだな、ギンジ」

 

 首を鳴らし、マッスルポーズを取りながらギンジに挨拶を行う。

 

 その異様な姿にケイタは、ギンジに言われた通り倉庫から離れる。

 

 「ここにお前がいるって事は洗脳マシンとやらがあるのか?」

 「ある!」

 「素直に言うのかよ・・・」

 「ギンジ、チワワはお前を連れ戻したい。どうか戻ってきてくれないか」

 「・・・悪いな、それだけは出来ない」

 「そうか・・・では、全身の骨を砕いてドクターの下へ連れて行く!」

 

 両腕を上げるマッスルポージングで、ギンジと対面する犬の怪人。

 

 (よりによって俺と戦うのがこいつか・・・)

 

 犬の怪人の防御力はミヤコの造る怪人達の中でも、トップクラス。それだけの硬く暑い筋肉を持ち、パワーも桁外れの怪人。

 

 そしてなにより、素のギンジの能力をチワワは知っている。

 

 「洗脳マシンの所へは行かせないぞ。チワワが絶対守るし、ギンジを連れ戻す!手加減はいらないぞ!」

 「この筋肉バカ犬・・・!」

 

 ギンジにも優しさがある。そして犬の怪人にも思い遣りがある。

 

 ギンジが戻らないと決めた以上、犬の怪人は洗脳マシンの防衛とギンジの奪還を目的とし、この作戦に励んでいる。

 

 「・・・行くぞ、俺の覚悟を見せてやる!」

 「がるるる。本気で行くぞ、ギンジ!」

 

 〜東倉庫の戦い〜

  佐久間ギンジ

   vs

  犬の怪人

 

・・・・・・・・・・・・・ 

 

 国道橋付近の屋上では遮蔽物が少なく、空を飛びながらハートの遠距離攻撃を繰り出してくるサキュバスの怪人に打つ手が少ないと言ったミドリコ。

 

 怪人の作り出す能力においては銃では破壊出来ず、いたずらに弾を消費するだけの現状にミドリコは舌打ちする。

 

 (どこか隠れる場所がないと、これじゃジリ貧だな・・・どうしたものか)

 

 上からの攻撃に避けるのも精一杯だが、頭の中で何かを考える。

 

 反撃の一手を、有効打になる攻撃手段を、そしてミドリコの得意とする、隠れながら一方的に攻撃出来る方法を考える。

 

 今立っている屋上には、建物に入れる入り口が無いタイプの物だ。

 

 貯水タンクがあるが、それだけでは遮蔽物としては機能していない。

 

 「反撃してこないの?アハッ、それじゃあメロメロにしちゃおっか?」

 「女性同士の趣味はないのだが・・・」

 

 会話の間を狙って拳銃をサキュバスの顔をめがけて撃つも、デコネイルで掬うようにミドリコの顔すれすれに弾丸が帰ってくる。

 

 「あ、綺麗な顔だし、あーしといちゃいちゃしない?」

 「ッ、しないと言ってるだろ!」

 「恥ずかしがらなくてもいいぢゃん。そのテンションマジガンサゲ」

 

 今どきの若い人というと適切ではないが、この怪人は昔ミドリコが補導した学生に似ている喋り方をしている。コミュニケーション能力が高く、補導対象に会話の手綱を握られる様な、そんな感覚を思い出す。

 

 怒鳴れば、逆ギレ。優しくすればつけあがる。

 

 でも人の中身の大切さを大切にする。その人種。

 

 ギャル。サキュバスの怪人はギャルだった。

 

 そんなギャルの全てを兼ね備えたこの怪人は、ミドリコに取って非常に会話しづらい、苦手なタイプだ。

 

 おまけに怪人であるがゆえに、攻撃に容赦がない。

 

 「めっちゃ柔らかそうぢゃん、お姉さんの身体」

 「うるさい!」

 

 その発言に怖気が立ち、思わず残り少ない拳銃の弾丸を撃ち尽くす。 

 

 「えーぜったいキモチーよ?あーしと寝たら」

 「断る!」

 

 命の危機より、貞操の危機を感じた。

 

 「ふーん?じゃあー・・・あーしが勝ったら、貰っていい?」

 「・・・何をだ」

 

 一瞬でサキュバスの怪人がミドリコの目の前に移動して、耳元で囁く。ギャル怪人なのに、まるでお風呂上がりの様な香りに思わず心を掴まれそうになる。

 

 「決まってるぢゃん。ハ・ジ・メ・テ♡」

 

 脚に取り付けたアーミーナイフを無言で突き刺す。

 

 キャットスーツから浮き出た形の良い腹筋には刃が当たっても、押して離すぐらいの効果しか無い。

 

 「痛った〜・・・やるぢゃん」

 

 言うとサキュバスの怪人は右手の人刺し指、中指を自分の唇に添えると、わざとらしくキスの音を鳴らす。

 

 唇と指の間に流動する風船みたいなモノが膨れ上がり、やがてハートの形に形成される。

 

 「ラヴ・キャノ〜ン」

 

 ニヤっと艶かしく笑うと、ハートのキャノン砲はミドリコを目掛けて発射される。

 

 「先ずはボロボロにしてあげんよ!」

 

 ハートのキャノン砲がミドリコに当たる直前に、弾けて爆発を起こす。甘い香りが漂うのと同時に足元のコンクリートを砕き、ミドリコは下の階へと落下した。

 

 「痛た・・・まったく、怪人というものはそれぞれ無茶なことばかりするな・・・」

 

 煙で姿が見えない今、拳銃に弾丸を装填し再度戦いの準備を整える。

 

 「よかった〜生きてんぢゃん」

 「覚悟しろサキュバス。ここからは私の独壇場だ!」

 

 屋内についに入る事が出来た。空を飛ぶ怪人を相手にするなら、間違いなくこの建物だろう。

 

 狭い場所なら銃が当てやすい。

 

 そう思っていたミドリコの目に写るのは、先程のハートのキャノン砲。

 

 再びサキュバスの怪人は技を撃ってこようとしていた。

 

 「逃げれるところまで逃げてみる?」

 「・・・では喜んで」

 

 扉を蹴破り、通路を走るとその背後でキャノン砲が爆発する。

 

 建物を壊そうと言わんばかりの勢いに、ミドリコは血の気が引いていく。

 

 「もし命中していたら、私の身体がバラバラになっていたな・・・」

 「ハァ、さっさと敗けを認めちゃえよ〜、ハァ」

 

 更にハートキャノン。階段を飛び降りて事なきを得る。

 

 再びハートキャノン。ヘッドスライディングで避けられた。

 

 何度も打ち込まれるその技の爆風に、追い詰められそうになったり当たらずとも、死を一瞬受け入れてしまいそうな爆発を何度も見ると、流石にメンタルの強いミドリコであっても怖くなってしまう。

 

 「ハァ、ハァ、よけんぢゃねーし、ハァ」

 (撃つたびに消耗しているな・・・パワーダウンの話しは本当の様だ・・・)

 

 一つの勝機を見出す。もし、このまま逃げまわれば、反撃のチャンスが手に入るのではないのだろうか。

 

 そう思ったミドリコはサキュバスの怪人に、攻撃を撃たせつづける。

 

 パワーダウンしているとは言え、殺傷力は確実なモノ。それに当たるわけにはいかない。

 

 (ここは・・・)

 

 ミドリコが降りてきたのは二階。階段の窓から見えるのは、国道橋。目と鼻の距離の先で、この窓からならば飛び出してもそのまま道路に出られそうだ。

 

 (・・・そうだ、閃いた)

 「ハァ、ハァ、あ゛〜・・・マジ腰に来るわ・・・腹ヘリだしさぁ・・・」

 

 おじさんみたいな声を出しながら、サキュバスの怪人がふわふわと降りてくる。

 

 その顔はさっきまでのイキイキとしているギャルの表情ではなく、シワが出始めている。

 

 「クス、さっきの顔の方が、美人だったぞ」

 「うっるさいわ!」

 

 ラヴ・キャノンとやらの技は使えば使うだけ、サキュバスの怪人へ負担が大きいのだろう。

 

 その負担は身体の老化。

 

 「では、私は逃げるとしよう。逃げれるところまで逃げて良いのだろう?」

 

 ミドリコはいたずらに笑うと、窓から飛び出す。

 

 それを階段の上から見ていたサキュバスはとうとう階段を脚を使って追いかける。

 

 「もう、飛ぶ、力も、あと少しだっての・・・」

 

 ヘトヘトの中年の様にサキュバスの怪人は、ミドリコの背中を追いかける。窓を同じ様に飛び出そうと脚をかけると・・・。

 

 「なっ!?」

 「チェック・・・だ!」

 

 サキュバスの怪人の目の前に居るのは、甘白ミドリコ。しかしさっきまでの逃げまわる彼女ではない。

 

 ミドリコのその両手に構えられているのは、対怪人用のロケットランチャー。

 

 国道橋の中央線で、敵意と勝利を確信した顔でミドリコは不敵に微笑む。

 

 そしてその顔と武装を見て、今のサキュバスの怪人は、震えが止まらに。

 

 「逃げれるところまで・・・逃げてよき?」

 「お好きに」

 

 サキュバスの怪人の問にミドリコは目を閉じて答える。

 

 「では鬼ごっこを始めよう」

 

 言うとロケットランチャーを発射する。元軍人の綺麗なフォームで撃たれたロケットランチャーは、窓から逃げようとするサキュバスの怪人が覗く窓に命中し、大爆発を起こす。

 

 「ぎょえええーーーーーまぢありえないんですけどおお」

 「これはおまけだ」

 

 両手を広げると、さらに上空へ手榴弾を何個も飛び交う。

 

 「次はチェックメイト、だ!」

 「覚えてろーーーーまぢゆるさねぇし!!」

 

 片手の拳銃で爆弾の一つを打ち込むとそこから連鎖的に爆発をお越し、建物が本格敵に爆破解体されていく。

 

 これで倒せるとは思っていないが、生き埋めにすることには成功した筈だ。

 

 「・・・一人で怪人に勝ったの、ハ・ジ・メ・テ、かもな」

 

 崩れ行く建物を眺め、ミドリコは湾岸エリアへと進む。朝日はミドリコを優しく迎え入れ、勝利を祝福してくれている様な気持ちにさせてくれた。

 

〜国道橋の戦い〜

甘白ミドリコ

     vs

     サキュバスの怪人

 

勝者・甘白ミドリコ

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 広い倉庫の奥では、なにかがぶつかり合い、強い衝撃音や金属の擦れ合う様な音が学校関係者を始め、攫われた一般市民達は怯えきっていた。

 

 ここに連れてこられ子供を守ろうと、身体が動いてしまった菊沢トモカは、戦闘員にぶん殴られた。

 

 痛かったし、ひょっとしたら奥歯も砕け賭けているのかも知れない。

 

 鎖で拘束された身体が痛い。頬も痛い。心も痛い。

 

 目隠しの布はもう涙を吸い尽くして、重みをましてズレている。  

 

 周りの男性は始めは抵抗していたかも知れない。

 

 もう意思は喪失してしまったのか、誰も動こうとはしない。

 

 怖いからだ。死ぬことが、誰よりも、何よりも。だから誰も動けない、動かない。死にたくないから。

 

 「正義のヒーローだから、あたし達は敗けられないのよ!」

 

 隣から声がする。どこか聞き覚えのある女性の声がしていた。トモカは拘束されたその身体で、ヒーローの存在を知る。

 

 トモカ達一般市民が捉えられている、隣の広い空間では激戦が繰り広げられていた。

 

 ハーフムーンの両月コンビとヘヴンホワイティネスとの激戦が。

 

 「フッ、結構手強いじゃない。剣士の怪人に手酷くやられてたって聞いてた割にやるじゃない」

 

 ニュームーンはカエデと対峙していた。爪と毒針の攻撃は、特殊なスーツによってダメージはあっても効果は望めない。

 

 「さったと退きなさいよ!」

 「フッ、あなたこそ諦めなさいな」

 

 カエデの正義の衝撃とニュームーンの悪の爪の攻撃がぶつかり合う度に、大きな音が反響する。

 

 その一方レンのビーム剣とフルムーンのレーザー剣が、互いに振り回し鍔迫り合いを起こす。

 

 火花が散り、手元を狙い、隙きを見て胴をめがけた攻防をお互い譲らない。

 

 「どうしてこんなに必死なのサ」

 「私達が、この街の、平和を守るって、決めているから!」

 

 このハーフムーンと呼ぶ二人組と、ヘヴンホワイティネスの実力は拮抗している。カエデの格闘術と、ニュームーンの格闘術、レンの剣術とフルムーンの剣術。

 

 おそらくスーツが無く、試合・・・それもスポーツという名目ならばお互い良い勝負が出来たのかもしれない。

 

 だがこの場にいる四人は正義と悪。その志がまともなルールを守って戦うということは先ずありえない。

 

 卑怯でもなんでも勝てば正義。それがヘヴンホワイティネスでもヘルブラッククロスでも同じ事だった。

 

 人数で勝るヘルブラッククロスは、常にヘヴンホワイティネスに有利を取れている。 

 

 それだけでは無く、カエデとレンが二人がかりでようやく倒せる怪人の存在。さらには兵器、今戦っている特殊戦闘員。

 

 全てがヘヴンホワイティネスに取って不利であっても、諦めずに全力で戦ってきた。ここまで来て簡単に諦めるわけにはいかない。

 

 その意思と強さは、両月コンビに不愉快な印象を与えていた。

 

 「フッ、ここでワタシ達と共に戦っていいのかな?悠長にしてたら駄目なんじゃないかしら」

 「一般市民を助けるのもヒーロー様の役目なんだヨ、お姉ちゃン」

 

 二人の声に苛立ちを隠さずにカエデは睨みつける。

 

 「別にあんた達を倒して市民を助けてからでも、間に合うわよ!あたし達には頼れる仲間が後ろにいるんだから!」

 「同意。私達は皆で、目的を持ってきている。ここで貴女達には絶対に敗けない」

 

 この先に起こりうる危機なんて、それが来た時に対処すればいいだけ。

 

 なにせ今のヘヴンホワイティネスには佐久間ギンジという心強い味方がいるからだ。戦闘は自分たちが引き受けて、重要な事はミドリコやギンジに任せればいいのだ。その逆も然りだが。

 

 ヘヴンホワイティネスの諦めないその態度に、両月コンビの顔が逆に苛立つ。

 

 「まだ諦めてないヨ。お姉ちゃン、こいつら絶対潰そゥ」

 「フッ、当たり前よ・・・!」

 「やれるものなら」

 「やってみなさいよ!」

 

 カエデがコンテナを蹴り、ニュームーンへ突っ込む。

 

 ガントレットのギアは2つとなり、より速い高回転で拳の威力が上がっている。

 

 単純なパワーならカエデの方が上。

 

 だが、ニュームーンは軽い身のこなしでカエデの腕を引っ張ると、脚を絡ませて外側に体重を乗せると、床に倒れる。

 

 腕ひしぎ十字硬めを行う。

 

 「フッ、このまま腕一本貰うわよ」

 「このお〜・・・」

 

 フルムーンも同じタイミングでレンと再び激突を開始する。

 

 レーザー剣は突きに特化しており、レンのビーム剣を貫かんばかりの威力を出す。

 

 「ビームアックス!」

 

 形状を変化させ、剣からバトルアックスの形になった武器を振るい、フルムーンの攻撃を弾く。

 

 「レーザーランす!」

 

 同じ様に形状を変化させると、フルムーンの方は槍に変わる。

 

 「てやぁ!」

 「ハァぁ!」

 

 ビームとレーザーが勢い良くぶつかると、弾けた衝撃で火花が散り、閃光が迸る。

 

 「その武器ほしいナ。ドクターへのいいお土産になりそゥ」

 「あげないし、私にしか使えない」

 

 「ダブル!」

 

 レンの掛け声に合わせて、アックスはさらに形状を変える。中心に柄が移動し、それを挟む様に二本のビーム剣が出てくる。

 

 両刃剣、海賊刀、様々な呼び方があるが、レンのこの形状はダブルと呼ばれる。

 

 「貴女が突きなら、私もそれに合わせる。貴女の得意分野で、戦ってあげる」

 

 これは明らかな挑発だ。その挑発を怒り顔で受け取ると、フルムーンは槍を深く構える。

 

 「フッ、そうはいかないよ」

 

 ニュームーンがいきなりレンとニュームーンの間に現れると、レンの背後に周り、首に腕を回すとヘッドロックで締め上げる。

 

 「さすがお姉ちゃン。一気に突き刺す・・・」

 「そう簡単に、行くかっての!」

 

 フルムーンの横からカエデが部ブーストを効かせたドロップキックでフルムーンを壁まで飛ばす。

 

 「油断、した」

 

 レンが己の油断を反省すると、拘束から抜ける。

 

 抜けた勢いで、ビームダブルを振り回しニュームーンを連続で攻撃し、ビームダブルの高速回転は殺傷能力のある扇風機の様に、風を生み出す。

 

 「フッ、何をするのさ」

 「お前も吹き飛ばす」

 

 その風はビーム剣で出す竜巻よりも強く、速い。

 

 カエデみたく技として成立するなら、この技を剣士の怪人に準えてこう名付けよう。

 

 「怪人剣術、改め、ビーム剣術・旋風剣!」

 

 目に見える程の風の束が周り、ニュームーンを包み込んだかと思えば、繰り出される見えない斬撃でフルムーンと同じ場所まで文字通り、吹き飛ばした。

 

 「フッ、腕は壊せないし、相方も強いし、厄介だわ」

 「お姉ちゃン、あいつらなんか強くなイ?」

 

 両月コンビがホコリと風を振り払うと、立ち上がりながらヘヴンホワイティネスへと狙いを定める。

 

 「フッ、あれをやるわよ」

 「オーケい、お姉ちゃン」

 

 レーザー槍の形状を変化させ、ニュームーンの爪にと脚の毒針に纏わせる。

 

 「フッ、これがハーフムーン最強の連携・・・見せてあげる!」

 

 武器を無くしても機敏に動き回れるフルムーンの撹乱しながらのダッシュ。それに合わせて、ニュームーンも同じ様に撹乱していく。

 

 息のあったその攻撃の前動作に、カエデとレンは背中を合わせて警戒する。

 

 「レン、同じ事できる・・・?」

 「・・・今の私達なら、できる」

 

 二人の少女は確信する。これで倒せるか解らないが、それでもやってみる。

 

 「フッ、これで」

 「お前たちハっ!」

 『最後よ!』

 

 二人の敵は撹乱の走りの後に、飛び上がり、中心に立つヘヴンホワイティネス二人へ攻撃を開始する。

 

 「こんなところ、かな」

 「ありがとレン!上出来よ!」

 

 カエデのガントレットとブーツには、レンのビーム剣が纏っている。通常より重くなったが、今のカエデが出せる威力より高い攻撃力を持っていそうだ。

 

 『死ねえぇーーー!』

 「終わるのも、敗けるのも、貴女達・・・」

 

 見上げたレンの瞳には、勝利の2文字が浮かぶモノとなっていた。

 

 その隣でカエデはギアの回転を速め、両月コンビに目掛けて必殺技を解き放つ。

 

 「必殺!ビームインパクト!」

 

 カエデのインパクトの技と同じ物だが、威力は遥かに違っていた。その一撃はレーザーをまとったニュームーンを軽く叩き飛ばし、倉庫の薄張りにされた天井へと激突・・・いや貫通していった。

 

 「お、お姉ちゃ・・・ン???」

 

 何が起こったのか全く解っていない様子で、フルムーンは天井を見上げていた。実の姉は今の一撃でこの倉庫の天井を突き破って、どこかへとぶっ飛ばれていた。

 

 その事実を理解した時、カエデとレンの方向へ向き直るも、もう遅い。次の攻撃の一手が始まっている。

 

 「必殺・・・!」

 「待っ、待っテ・・・!」

 「ビーム・スタンプ!!!」

 

 ブーツにまとわりついたビームで踏みつけているのに、斬っている。そんな一撃がフルムーンの身体に深くめり込み、顔色が悪くなっていく。

 

 「ごめ・・・ドクター・・・おねえ・・・ちゃ」

 

 最後の言葉も言えずに、妹の方も視認できない程の速さで壁まで激突、ではなく貫通していく。

 

 「あたし達の勝利よ!」

 「新しいスーツ、やっぱり強い」

 

 戦闘の空気が引いていくのを感じると、レンのビーム剣が元の形に戻っていく。

 

 二人の連携も厄介なものだったが、勝利を収めたカエデとレンはハイタッチを終えると、一般市民が居るであろう奥の扉へと進む。

 

 『二人とも、無事か!』

 

 通信の声はミドリコの声。

 

 『済まない、怪人に襲われたが、撃退に成功した。カエデとレンは無事か?』

 「こっちは、問題ない。それより、怪人の撃退、すごい」

 「ほんとね。やるじゃないミドリコ」

 

 いつもの三人が戻れた。そんな気分で足取りは軽く、嬉しい気持ちになる。後は正義のヒーローとして、役目を果たす時が来ていた。

 

 「皆さん!助けに来ました!」

 

 カエデがヘヴン1として、扉を開けると、ワッと一般市民からの感謝の喝采が並ぶ。

 

 拘束されている者も救出し、トモカを見つけて鎖を捻じ切って、カエデとレンは胸を撫でおろす気持ちになれた。

 

 「よかった・・・君を助けられて」

 

 カエデとレンは一般市民へ今の街の状況を解る範囲で説明すると、次々とどよめきが大きくなる。

 

 「やっぱり、街の方への洗脳が施されているみたいね・・・」

 「ヘヴン1、急ごう。洗脳マシンを壊そう」

 

 二人が頷きあうと、一般市民へ倉庫に留まる様に注意し、倉庫を出ようとした時、学校関係者や、湾岸エリアで働く従業員達から目一杯の応援と感謝の言葉が送られる。

 

 こういった人たちを守りたいと、この人たちの未来を守りたいとレンは戦っている。その気持ちが素直に嬉しくて、カエデとレンは安全の為に倉庫とエリアの退路確保へと動き出した。

 

     〜湾岸倉庫の戦い〜

ヘヴンホワイティネス

         vs

         ハーフムーン

  

勝者・ヘヴンホワイティネス

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 管理エリアでは、サクラとリコニスの戦いが始まっていた。両者共に正義と悪を持って戦っている者達。

 

 戦っていた悪の組織は違うが、サクラにしてみてもマージ・ジゴックと並ぶ程の巨悪とされているヘルブラッククロスも簡単に見過ごせる様なものではない。

 

 自分の友達が、ギンジが正義の為に戦わなければいけない組織の大幹部がいるならば、サクラとて退くわけには行かない。

 

 「ね〜魔法少女なのに、あんまり強くないんだね?」

 

 戦いが始まったのもつかの間、サクラの攻撃はリコニスに対して効いていない様なものばかりだ。

 

 生身がむき出しになっているのにも関わらず、黄金の肩、脚、腕、そしてこれまた黄金の刀。

 

 サクラの魔法はことごとく潰され、リコニスの攻撃はサクラに命中する度に、激痛が走る。

 

 魔法の力で守られているとはいえ、このリコニスの攻撃はサクラに取って弱点なのかもしれない。

 

 (容赦しないって言ったけど・・・この人強い)

 「報告で聞いてたモノだと、あんたもうちょっと強いって聞いてたけど、そんなモノなの?真面目にやらないとぶっ壊しちゃうよ」

 

 この表情も怖い。実力もある。おまけにサクラの攻撃がまり効いていない。

 

 「で、魔法少女。ひとつ提案なんだけどさ〜」

 「お断りぃー!」

 「はやっ」

 

 サクラは杖で魔法陣を描くと、そこからデフォルメされた様な猫の使い魔を召喚し、リコニスへとけしかける。

 

 「何ぁにぃ〜?こんなネコちゃん。逃げるつもり?」

 

 使い魔達はスパスパと斬られていく。それらを簡単に斬り捨てていくと、サクラを目掛けて足元のネコを蹴り飛ばす。

 

 『ふみぃいい〜』

 「ネコちゃん蹴るなんて!サイテー!」

 

 今のサクラではより強力な魔法を撃つには時間が足りない。レイナかギンジに足止めでもしてもらわないと、にゃんこハンマーや、エクスプロージョンも撃てない。それを無理して撃つなら間違いなく、リコニスに殺される。

 

 (空を飛びながらやったら、魔力なくなっちゃうし・・・)

 

 対するリコニスはこの魔法少女をイジメても、つまらないと思い始めている。まともな攻撃手段があまりダメージもない。

 

 怒っていても、リコニス傷つけない様に戦っていたギンジの方が、まだ戦いがいがある。

 

 (人質逃しちゃったし、こいつぐらいは持ち帰らないと、ミヤコも総統もうるさそうだしねぇ・・・)

 

 リコニスの表情は悪魔のままだが、サクラへの興味は既に無くなっていた。

 

 (どうしよ・・・思っていたより強い・・・)

 

 サクラの攻撃手段ではこれでマージ・ジゴックと渡り合っていた。リコニスはそれを上回る強さだということ。

 

 「それじゃあ、もう壊しちゃうけど良いかな?」

 「一か八か・・・マジカルマジカル〜」

 

 サクラの詠唱が始まると、リコニスが距離を詰めるために地面を蹴って突撃してくる。

 

 「ピンクミサイル!!」

 

 唱えた呪文から繰り出される、ピンク色のミサイルを8発。それを簡単に斬り裂かれるとリコニスの背後で爆発が起こる。

 

 この爆発までは想定内。次の一手で、この戦いを終わらせようとサクラはもう一つの魔法を放つ。

 

 「マジカルマジカル〜タイガーファング!」

 

 ピンク色のトラが現れ、リコニスに襲いかかる。しかし、一瞬で真っ二つにされ、黄金の刀の切っ先がサクラの顔の近くまで突きつける。

 

 「マジックショーは終わり?じゃあ壊してあげる」

 「・・・」

 

 歯が立たない。まさにその言葉が適切。

 

 このままじゃ殺される。そのあまりにも無情な世界に、サクラは悔しい気持ちになるよりも、自分の自信が無くなっていく様な気持ちに、何かを失う様な気分になる。

 

 しかし、リコニスは刃を引っ込める。

 

 「やっぱいいわ。魔法少女、今は見逃してあげる」

 「・・・どうして」

 「なんか、気分が乗らないから。それに今の目的は、ギンジちゃんを見つけてぶっ壊すだけだしね〜」

 

 友達であるギンジがこんな強い人に狙われている。

 

 それならば戦わなくちゃいけない。逃げちゃいけない、逃してもらっては行けない。

 

 かつてのサクラがマージ・ジゴックと戦う時も、こうやって逃げたいという気持ちが強くなって、いっそ本当に逃げ出そうとしてしまおうとした事もあった。

 

 だけど、逃げずに家族や友達の日常を守るために、彼女は強い正義の心で戦ってきた。

 

 それが嫌々でも、自分の使命でも両方持って逃げずに戦って来たのだ。

 

 「悪・・・どんな悪でも、正義の為に、私は逃げない!」

 「あら、なにかやる気になっちゃった?」

 

 サクラの眼に強い意思が宿る。

 

 「マジカルマジカル〜ピンクトルネード!」

 

 次に唱えたのはピンク色の大竜巻。その竜巻をリコニスを狙って発動。

 

 「へぇ〜良い技じゃない」

 

 油断していたのか、リコニスはこの竜巻に飲み込まれ上空へと強い疾風で打ち上げられる。

 

 「ピンクフレイム!ピンクミサイル!」

 

 続いて空中で身動きが取れないであろうリコニスへと、攻撃の魔法を2つ打ち込む。

 

 「ギンジくんに・・・近づくなァ!!」

 

 2つの魔法は混ざり合い、リコニスに直撃する。

 

 (なぁんだ。強いじゃない魔法少女。今日は見逃してあげる)

 

 その魔法と竜巻に吹き飛ばされる様に、リコニスは湾岸エリアの豪華客船の停まる海へと落下していく。

 

 (・・・あのリコニスっていう大幹部、まだ余裕を隠してるの・・・?)

 

 ヘルブラッククロスの強さの一つに、実力の未知数といった物がある。

 

 その未知数の中には、悪の組織を一人で潰したサクラでもなかなか勝てないような巨悪も居るのだろう。今回の場合は大幹部リコニスがそうだ。

 

 「一先ず、ケイタ君とギンジくんに合流しなきゃ」

 

 海から上がってこないリコニスを確認したら、サクラは何かの不安を抱きながらも管理棟の屋上を後にする。

 

 〜湾岸倉庫管理エリアの戦い〜

 魔法少女サクラ

        vs

         大幹部リコニス

 

勝者・魔法少女サクラ・・・?

 

・・・・・・・・・・・・・・

 

 ヘルブラッククロスのアジト、総本部の近くで小さな事故があった。

 

 一匹の子チワワが車に撥ねられて、死にかけているという。

 

 それだけならばただの事故として片付けられる事件だが、場所が悪かった。死にかけで呼吸もままならない小さな犬は、差し伸べられた白衣で隠れた両手に、高い声で鳴いていた。

 

 これが犬の怪人になる前のチワワがドクターによって拾われ、怪人として転生した経緯。ドクターミヤコが命の恩人であるという事は、ギンジと同じ。

 

 聞けば佐久間ギンジも事故がアジトの近くで、事故死しかけていたそうだ。

 

 だから妙に親近感が湧いた。同じ境遇の同じ組織の同胞だと。

 

 そして同じ恩人を持つブラザーだと。

 

 そう本気で思っていた。

 

 「ギンジ、どうしてお前は、チワワと同じ道に進まなかったんだ!他に良い女がいたのか!?」

 「違げーよ、別に女が理由じゃねぇ」

 

 犬の怪人が片手でコンテナを投げると、ギンジはそれを素早く避けていく。

 

 もう投げられる物が無くなっても、お構いなしに今度は機材を投げつけてくる。

 

 「ドクターとの将来も・・・」

 「どいつもこいつもドクタードクター将来将来うるせー!」

 

 振り回す機材を飛び越えて、ギンジの蹴りが犬の怪人の顔に命中し、後ろに倒れる。

 

 体格差はギンジが175センチぐらいだとすれば犬の怪人は300センチ程はあろうか。その筋肉に見合うだけの体格は、普通の人間がぶつかろう物なら、簡単に薙倒せるぐらいの力はあるだろう。

 

 おまけにこの怪力はギンジでも、オーク怪人でも再現不可能な力だろう。

 

 初めて訓練した時のこいつの撃たれ強さには、うんざりさせられたのを思い出した。

 

 「ギンジ・・・チワワはお前の事を尊敬していたのだぞ」

 

 肩甲骨の力だけで起きあがると、犬の怪人はギンジを見下ろす様な姿勢になり、ギンジも同じく前かがみにある。

 

 両拳を作り下に構え、腰を深く落とし右足をあげて、下に踏みつける。

 

 まるで相撲の四股踏み。

 

 「犬がどこでそんなの覚えたんだ・・・?」

 「これか・・・これはスモウと言って、ドクターが毎日観ている日本の国技なんだろう?」 

 「テレビかよ!っていうか、なんでミヤコとテレビみてんだ!」

 「ギンジが居ないって毎日寂しがっているからだ」

 

 犬の怪人にしても他の怪人にしても、ギンジが裏切るなんて思っていない。それどころかまだ戻ってきてくれると信じていてくれている。

 

 そのお人好しの様な怪人達やミヤコにギンジは、悪いと解っていつつも抜け出し、謀反を企てたのだ。

 

 「お前の正義はどこに行ったんだ、ギンジ」

 「始めから、ヘルブラッククロスに持ち合わせる正義は無いんだよ!」

 

 そのまま会話が続くことは無く、犬の怪人は相撲の体制から想像以上のタックルを決めてくる。ギンジはそのタックルに反応できていても避けることはせず正面からぶつかりあった。

 

 「ふん・・・ぬおぉぉ〜」

 「ギンジ、チワワのパワーは随一だっただろう?」

 

 この鉄壁を誇る筋肉は飾りじゃない。守りだけではなく、守りも兼ね備えた巨大な武器なのである。

 

 その武器を全身で動かし、ギンジを持ち上げる。

 

 「相撲じゃねーのか!お前コレ、プロレス技だろ!」

 「マッスル・ギガギンジダンク!」

 「ぶっ」

 

 頭の上まで持ち上げて、小さくジャンプ。ギンジをダンクシュートの要領で硬い地面に叩きつける。

 

 「こ、このやろー・・・」

 

 二人の戦いを見守るケイタは、足元にあるスパナを持ち出し、コンテナで塞がれた道の向こうへ行こうとしていた。

 

 ここで何もしないのは男として、ヘヴンホワイティネスの仲間として駄目だと思ったからだ。

 

 洗脳マシンという物があるならギンジに変わって、自分が壊しに行こうと。

 

 「にしても二人共、すごいなぁ・・・」

 

 コソコソと隠れながら、ギンジと犬の怪人の戦いに見入ってしまう。

 

 フラフラと立ち上がるギンジの眼の前で、犬の怪人が右腕を大きく振り上げる。

 

 そしてその右腕はギンジの胸元に丸太が当たる様に、思い切り振り当てる。

 

 「ラリアット・・・」

 

 誰かに聞こえる訳じゃないが、ケイタはその技の名前を言う。

 

 もう一度立ち上がり、ギンジが反撃の為に犬の怪人へと走り出す。

 

 その走り出したギンジをダックアンダーで抱え込み、前方から来るギンジを後方へと投げ飛ばす。

 

 「ショルダースルー・・・」

 

 機材や廃材、木箱の山に投げられたギンジはいよいよ、道具を持ち出す。

 

 「クソ・・・体中痛いじゃねぇかよ」

 「言っただろ、全身の骨を砕いてドクターの所へ連れ戻すと!」

 

 マッスルポーズを決めている今が好機と、大きなスパナを持ち突っ込むギンジの股下から左手を通し、右手はギンジの肩を掴み持ち上げる。

 

 「またプロレス技かよこのやろう!」

 

 スパナで犬の怪人の顔面をぶっ叩くが、犬の怪人はさして気にしていない様子。踏ん張りが効かない分、当たってもそこまで痛くないのだろう。

 

 体制が整うと、犬の怪人はギンジを右手から体重を乗せて叩き落とした。

 

 「あ、あれは・・・デスバレーボム・・・いや、FUか・・・?」

 

 ケイタは動きが止まってしまっていた。次々と繰り出されるプロレス技の多さに感動していた。

 

 「うぐっ・・・クソ・・・やるじゃねぇかよ犬このやろー」

 「次はこうだ」

 

 ギンジの身体を頭の上に持ち上げると、今度はギンジを仰向けの体制に変えて、首を掴み、両足を巻き込んだ巨腕で下に折り曲げていく。

 

 「バックブリーカー・・・」

 

 日本名では背骨折り・・・そういう名前だったかもしれない。

 

 このままではギンジが危ない。いくら怪人同士とは言えど、背骨を折られればどうなるか、誰でも想像がつく。

 

 「・・・この木箱で・・・」

 

 隠れている近くに置いてある木箱を掴むと、ケイタは告白したときと同じぐらいの気合と緊張で、犬の怪人の背後に回り込む。

 

 「ふんぐぐぐ・・・!」

 「このまま折ってやるぞ、ギンジ!本気!チワワ本気!」

 

 ギンジは必死に抵抗し、折られないように全身に力を込めている。

 

 「うわあああ!!!」

 

 背後に立ったケイタが渾身の雄叫びを上げると、木箱を持って走り出す。

 

 犬の怪人の背中に今の自分が出せるであろう、最大限の力を込めた木箱をぶつける。

 

 その威力とダメージはたいした事はないが、犬の怪人が驚くのには十分だった。

 

 「ありがとうよ、ケイタ!」

 

 驚いた事で力が抜けてギンジが拘束を抜けると、脚に炎を纏わせて、 

踵落としを決める。

 

 「ぎゃいん・・・なんだその脚は・・・」

 「身体が燃えるからあんまり使いたくないんだけど、俺の隠し玉ってやつよ」

 

 犬の怪人にまともな攻撃を与えると、次は着地。足元にあるスパナをケイタへスライドさせて渡す。

 

 「どこにあるかわかんねーけど、とにかく全ての部屋を探せ!洗脳マシンはお前が探してぶっ壊せ!!」

 「あ、ありがとう」

 「そこは『任せろ』って言うんだぜ」

 

 ケイタが走り出すのを見送ると、次は犬の怪人へ燃える拳を叩き込む。分厚い胸筋にはまるでダメージが無い。

 

 「次、捕まえたら、必ず折るぞ。筋肉ゥゥ!」

 「クソ、あのパワーに捕まったら、面倒だな・・・」

 

 炎でもまともなダメージがない。狙うならやはり顔しかないのだ。

 

 しかし近づけばあの筋力からは逃げる手段が少ない。

 

 (へへへ、あのおぼっちゃんには後でお礼を言わなきゃな・・・)

 

 ならば、パワーを捨てて速度で挑むしかない。時間がかかっても確実にダメージを与える速度で攻撃していくしか無い。

 

 「頼むぜ、コウモリ・・・」

 

 ギンジの身体から炎が消え、変わりに雷が迸る。

 

 電気で髪は逆立ち、目に見える程の雷の線がギンジの全身に走る。

 

 「それがギンジのもう一つの能力か・・・チワワも本気で行くぞ」

 「逆に本気じゃなかったのかよ・・・恐れ入るぜ」

 

 犬の怪人が筋肉に物を言わせたパワーで、ギンジを捕まえようと突っ込むが今度はギンジが犬の怪人を殴り飛ばす。

 

 顔が狙えれば、この怪人は弱い。

 

 「今殴り飛ばせたのは、偶然か・・・?コウモリの奴はここまで強くなかったはずだが・・・」

 「油断した。今から本気!」

 「まぁ、もう捕まるつもりはないし、なんでもいいか」

 

 犬の怪人の猛攻が襲い来る。ギンジはそれを全て避けきり、顔に目掛けて膝蹴り。すかさず、浮いた犬の怪人の顎に、電撃を打ち込む。

 

 「こっちの力の方が身体に負荷がかからなくていいな!」

 「ギンジぃ!」

 

 電流で焼かれながらも豪腕を振り下ろし、ギンジを捕まえようとするも、ギンジはまた捕まらない。それどころかその豪腕を上に飛んで避けて、飛んだギンジは羽を出す。

 

 「お前、この技喰らった事あるんだってな。俺はコウモリみたく甘くねーぞ!」

 

 工場エリアにてコウモリの怪人に当てられた大技、錐揉み回転を繰り出す。

 

 「受けて立つ!!」

 

 犬の怪人も敗けじと筋肉を膨張させて、ギンジの錐揉み回転に突っ込む。

 

 「オッラあああーーー!!!」

 「捕まえたぞ、ギンジ!」

 

 想像以上の腕力で錐揉み回転を受け止められるが、ギンジの回転は止まらない。

 

 雷をもっと出し、さらに出し、限界まで出す。

 

 外から殴って駄目なら中に通じるまで、電撃で焼き続けるしかない。

 

 「ギンジーーーー!!!」

 「いい加減に倒れやがれええ」

 

 『うおおおおお!!!』

 

 二人の男の雄叫びが東倉庫に響き、力押しの勝敗は・・・。

 

 「ギンジ・・・お前を、ドクターの下に、連れて行く」

 「回転まで止められた・・・お前すげぇよ」

 

 豪腕がギンジの回転を止めた。そしてギンジの身体を押さえつける両手がギンジを逃さない。

 

 「これで最後だ!!」

 「ルアアア」

 

 急いで変身を解き、羽を無くす。少しだけ隙間が出来た事で、ギンジは自身の力を振り絞って、全力で犬の怪人の拘束から抜け出そうと試みる。

 

 (クソ、駄目だ、覚悟して一発貰うか・・・?それともなんとか抜けるか・・・?いや・・・)

 

 抜けるのも、一発貰うのも無しだ。ギンジにはもう一つの力、想像がある。

 

 この場を抜けるイメージを考えて、この犬の怪人を倒す。

 

 そのイメージの中で見えたのは、犬の怪人がギンジを持ち上げる映像。

 

 持ち上げた時に、身体を力任せに回転させて、腕を振り解く。

 

 そんな映像がギンジの頭の中に出てきた。

 

 (馬鹿げた事だが、それしか無いか・・・)

 

 想像通り、犬の怪人はギンジを持ち上げた。

 

 (このタイミングだ!)

 

 思い切り自分の身体を回転させて、腕の拘束が解ける。

 

 「ぬっ・・・肩が・・・」

 

 犬の怪人の腕に力が入らない。犬の怪人の頭上でギンジは再び炎の力と雷の力を、両足に纏わせる。

 

 (これで倒せなかったら、ウソだ・・・!)

 

 両足を思い切り犬の怪人の顔面に踏みつける。一度踏みつけ、二度三度と連続して攻撃し続ける。

 

 「うらあああ!!!」

 

 犬の怪人の顔を踏みつけ、蹴り潰す。

 

 この怪人が倒れるまで、もう止まらない。脚が焼けようが、雷でしびれようが関係ない。

 

 次犬の怪人の反撃があったら、もう勝つことはむずかしい。

 

 だからここでありったけの一撃一撃を強く打ち出す! 

 

 「倒れろォォ!!!」

 

 最後に上に飛び、回転させながら落雷のイメージで落ち、炎の脚で犬の怪人の頭を踏み砕く。

 

 毛並みのいいチワワの顔は焼け焦げて、骨がむき出しになるまでボコボコになり、ついに犬の怪人が倒れる。

 

 「ハァハァ・・・くっそー・・・体中痛ぇよ」

 

 倒れる犬の怪人に寄り添い、ギンジは手を合わせる。

 

 「悪かったな、犬。でもこれが俺の進むと決めた道なんだ。次はお互い迷いなく戦いたいな・・・」

 

 それだけ言うとギンジは、フラフラと奥に進もうとするが、奥からはケイタが出てくる。

 

 「ギンジ!マシン、多分だけど壊せたよ!」

 

 スパナが曲がるほど、シャツが破ける程本気で壊したのだろうか。

 

 ともあれケイタもマシンの破壊に貢献した。

 

 「ナイスーやるじゃん」

 

 ギンジとケイタは笑い合う。男同士の信頼と確かな友情を、ギンジはまた一つ守りたいと思った。

 

 

〜東倉庫の戦い〜

佐久間ギンジ

      vs

       犬の怪人

 

勝者・佐久間ギンジ

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 洗脳マシンを壊し、ヘルブラッククロスの怪人を倒し、ギンジ達は湾岸エリアから離れていた。

 

 あとの事はミドリコと警察に任せて、レンとケイタは二人で沢山話し合っていた。お互い心配した事や、お互いに大事に想っていた事もあって、泣き出すレンをケイタは優しく抱きしめる。

 

 二人から離れた所で、ギンジとカエデはコンクリートに座り込んでいた。  

   

 「は〜青春だね」

 「そうね」(いよおおおしよくやったわケイタ!)

 

 広範囲洗脳マシンを壊したことで、おかしくなっていた街のインフラが元に戻り、警察も直ぐに出動出来た。

 

 逮捕者は居ない。怪人やハーフムーンは全員が合流した時に、ヘルブラッククロスに回収されたのだろう。

 

 「さて、約束よギンジ」

 「ああ・・・」

 

 ギンジが何者なのか。それについて話すときがやってきた。

 

 「俺は・・・事故で一度死にかけたんだ。どこで、何をしていたのか・・・わかんないんだけどな。そしたら、ヘルブラッククロスに拾われて・・・」

 「・・・ギンジ、ちゃんとあんたの事を教えて」

 

 カエデの表情は真摯な物だ。これから先、ギンジを信用して行くならちゃんと仲間として知っておきたいのかも知れない。

 

 「こんな事言って、信じてもらえないとは思うんだけどさ、俺、この世界の人間じゃないんだ」

 

 それから元居た世界の事、ライトノベルや漫画作品などでよくある異世界転生の話し。

 

 「事故って、気がついたら俺はヘルブラッククロスに実験材料として連れて来られててな・・・笑えるだろ?前の世界じゃ生きた屍だったのに、今じゃお前らの味方になりたい、なんてさ」

 

 一個だけギンジはカエデに嘘をついた。

 

 それは〈この世界〉がゲームの世界であるということを。

 

 そしてもしその話をしたら、カエデ達がどうなるか、それを知っているギンジはまともに話せる自信がない。話しきれない程の性暴力など、この世界に生きているカエデ達が知らなくても良いことだからだ。

 

 「・・・本当にそれだけ?未来を知っているっていうのは・・・」

 「・・・俺が何者かは、話したぜ。その件については、また後日でもいいか?」

 「まぁ、いいわ」

 

 まだ納得が完全には言っていないといった態度だが、カエデは鼻を鳴らす。

 

 「いずれ全部、必ず話す。それまで俺たちは、笑いあり、涙ありで行こうぜ」

 「そうね。あんたを信じて良かったし、改めてよろしくね!ギンジ!」

 

 口の悪いご令嬢の笑顔は、まさしくギンジが守りたい笑顔だった。

 

 この笑顔を守れる様に、ギンジは硬く心の中で誓う。

 

 〈大好きな人たち〉の〈未来〉を守る為に、ギンジは転生者として戦う道を選んだ。その覚悟がまた一つ大きな物となった。

 

 これからギンジの事情を知る仲間達には、またいつか話さないといけない。

 

 学校や、この湾岸エリアの後始末でしばらく忙しくなりそうだが、ギンジもカエデもレンもミドリコもケイタも、次なる戦いに備えてまた少しだけの平和を楽しむだろう。

 

 「あ、あんた明日とか暇?」

 「え?ああ、まぁ暇だけど」

 

 カエデはにっこり笑うとギンジの肩を軽く叩く。

 

 「じゃあ明日開けときなさいな。あんた用のサングラスとスマホ、買いに行くわよ!」

 「ええ、神宮さん俺にそんなの買ってくれるんですか?ありがてぇや」

 「ええ、貧乏人に情けをかけてやるのよ」

 「ひでぇ言い方するぜ・・・」

 

 こうして正式にヘヴンホワイティネスに新たな仲間が増えた。

 

 名は佐久間ギンジ。ヘルブラッククロスからの謀反者。怪人という異色の経歴。

 

 昼前ではあったが全員疲れ切っている。今直ぐ帰って眠るなり、お風呂に入るなり、食事をするなり、色々あるだろう。

 

 (後でミドリコに差し入れでも、買ってあげようかしら)

 

 カエデの優しさもギンジの優しさもやがて、この街の危機を救う大きな力になることはまだ誰も知らない。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 「ふぇーん、ギンジくん、どこ〜」

 

 湾岸エリアの上空ではサクラが大泣きしながら、ギンジを探していた。

 

 警察が沢山来ている事から察するに、ギンジ達が勝ったのだろう。

 

 だからギンジにもヘヴンホワイティネスにも会いたいのに、肝心のギンジ達が見つからない。

 

 「ふぇ〜〜ん!ギンジくーーん!」

 

 湾岸エリアに魔法少女の涙あり。

 

 5月はその話題が、街中で噂になるのであった。

 

 

 

続く

 

 

 

 




お疲れ様です、アトラクションです。

いやー詰め込みすぎて長すぎた。

今回の反省は戦闘シーンを一話に4場面いれるのはよくないよって事ですかね・・・。もっとちゃんと書けるように頑張らねば。

キャラネタ書きます・テーマは怪人達の好み

オーク怪人
ドクターミヤコ。
理由は単純にしゅき

紐の怪人
ドラゴンの王玉という漫画。自我がなかった時、この漫画を読んで悪役とは何かを知った。

触手の怪人
必殺技の長さを上手く纏めること

タコ怪人/犬の怪人
ドクターミヤコ
理由は命の恩人だから

剣士の怪人
佐久間ギンジ
強く逞しい男性は例外なく好き

サキュバスの怪人


バーナーの怪人
娘と妻

コウモリの怪人
蛍光灯

進化の怪人
エ○ゲー、ヘヴンホワイティネスの味方

これからもガンバリマスので、感想くださりますと踊り狂います。
それでは、また次回!!!
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