正義のヒーローヘヴンホワイティネス   作:アトラクション

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アトラクションです。皆様こんにちは。

体調崩しましたけどちゃんと復活いたしました(本調子じゃないのは内緒)
けれども頑張って書きましたので、お楽しみいただければと思います!

感想などくだされば頑張れるーーーや!!
それではどうぞ


14・ドクターミヤコのそれいけ怪人伝説

 神宮財閥の建てたヘヴンホワイティネス専用のアジト。

 

 甘白ミドリコ名義の3階建ての家で、これからミドリコとレン、ギンジが共に暮らす家。

 

 住宅街エリア外れの空き地を買い取り、カエデのわがままで完成したこの家には様々な機能が取り付けられ、三人が暮らすのには十分なスペースを取り、地下を含めると4階層建ての家。

 

 内装は全て暮らしやすい、いわゆる金持ちの家という印象をギンジは持った。なにより生活に必要な家具やカーテンなどは全てカエデが用意し、ギンジの部屋も用意された。

 

 「ついに俺にもまともな部屋が・・・」

 

 感激のあまりサングラスを外して新居の、自分の部屋を見渡す。

 

 2階以上はすべて各部屋にベランダが付き、中庭もある。洗濯の分離もしやすいし、なによりミドリコとレンが部屋を広々使える。

 

 「そういえばゲームの中にあったアジトも、こんな内装だったけね」

 

 ギンジの知っているゲームの知識も、こんな内装であったことを思い出す。地下はモニター室、2階は居住スペース、三階は訓練スペース。

 

 防音もきっちりしている完璧な家。カエデハウスと名付けられたその家はかなり派手な作りはされていないが、こんな建物が住宅街にあればニュースに映される様な形になっている。

 

 それほどまでにデカく、きっちりした造りだ。

 

 モニター室や自分の部屋の内装に満足が行ったギンジはカエデや、仲間達にお礼を言いに見たこと無いような上機嫌な態度で、部屋を後にした。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 何本ものシリンダーが立ち並ぶミヤコの研究室で、オーク怪人は新たな怪人の誕生に立ち会っていた。

 

 ギンジや他のフェーズ2と呼ばれる怪人と同様に人間を素材にした、新たな怪人。

 

 怪人の細胞・改を中心にミヤコから摘出された細胞。これならば人間を死に至らしめる猛毒にならず、人間を新たな領域へと進化させる。

 

 「くふふふ。ギンジ君程じゃないけど、彼に匹敵する程の良数値だよ」

 「流石でございます。ドクター」

 

 ミヤコがいつものように怪人研究を行う傍ら、オーク怪人はその補佐に回ることが多い。

 

 「いつもごめんねオーク。君にも休暇をあげたいほどだよ」

 「ブヒ、いえ滅相もございません」

 

 バインダーに目を通すミヤコがオークを見ずに謝罪を行うと、オーク怪人は特段気にしない様な素振りで言葉を返す。

 

 この新たな怪人の誕生にオーク怪人も思う所があり、その考えを自分の大いなる存在であるドクターミヤコに、質問してみることにする。

 

 「ドクター。今回のフェーズ2の怪人は、その、ギンジみたく裏切りったりは・・・」

 

 自分達フェーズ1と呼ばれる怪人達とは違い。剣士、サキュバス、バーナーの怪人は全て最初から自我を持っている。

 

 好戦的、誘惑的、無知的、そして記憶を失わない者。それらの怪人の自我を持っていることを、オーク怪人は本心で言えば快くは思っていない。

 

 「ドクターに非があるわけではございません。ですが、ギンジみたく裏切りの懸念を考えると、どうしてもドクターが心配になってしまいます」

 

 オークも実力や長く生きている分、自然とフェーズ2へと進化した怪人だが、自我を持たなかった分、ドクターへの忠誠心は他のどの怪人よりも高く、強い。

 

 今の所剣士の怪人、サキュバスの怪人が裏切る兆候は見られない。自我を持ったまま産まれた怪人に関しては、ドクターの心労を大きくさせてしまうのではないかと、オーク怪人なりの心配だった。

 

 「ふむ。確かに、オークの言うとおりかも知れないけど、別にわたしはそんな事気にしないよ。この怪人は自由を求めて、強く、欲深くあれと造ろうとしているからね」

 

 ミヤコはまたも科学者としての欲望に負けたのか、新しい試みを多数この新しい怪人へ色々と試している様だ。

 

 オーク怪人は自分より小さな少女となんら変わらないミヤコを横目に、少し嬉しい気分になる。

 

 最近のミヤコの成果を考えると、落ち込んでいるようにも見えていたのだが、それを払拭するほどの研究熱心ぶりを取り戻したミヤコを見てオーク怪人は出来る限りのサポートを心の中で誓う。

 

 「この怪人の名前は決まっているのですか?」 

 

 怪人特有の何かの特徴を捉えた名前を、ただの興味本位で聞いてみる。

 

 「くふふ、この怪人の名前はね」

 

 ミヤコは左目の怪人の瞳、右目の人間の瞳、両方の瞳が奈落の色を宿し、小さな唇を開く。

 

 「強欲の怪人だよ」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 ドクターミヤコという存在はヘルブラッククロスという組織において、無くてはならない最強の科学者だ。

 

 様々な兵器開発や作戦の立案、陣頭指揮。それだけにとどまらず怪人開発も行う後方のエキスパート。

 

 ミヤコ派と呼ばれる大幹部の派閥においては、戦力としては大規模なチーム編成が施されており、武闘派のメンバーも多い。

 

 特筆すべきはやはり怪人による、兵器持ちの戦闘員を超越した戦力だろうか。

 

 オーク怪人はミヤコの傍らでずっと彼女の研究を見守ってきた。だからこそ彼女の研究熱心な姿勢に、少なからずサポートを行い、健康管理等を行ってきた。

 

 オーク怪人はミヤコの研究によって新たに生み出された、強欲の怪人を出迎える準備を整えていた。

 

 培養液に浸された身体を拭き取り、人間と同等の身体構造。まるでギンジに似せているかのような怪人。

 

 だがギンジとの違いは、ミヤコにそこまで興味を持たれていない事だ。基本的に造った怪人には親戚の子を預かるぐらいの感覚でしかなく、オーク怪人やタコ怪人の古参の怪人以外へミヤコはあまり興味を寄せない。

 

 オーク怪人が肌触りが良くはないバスタオルを強欲の怪人に手渡すと腰まで届きそうな長い髪にまとわりつく培養液を拭き取り、薄手のインナーを手渡すと、それを着替える。

 

 怪人特有の瞳を除けば、こうして見るならただの人間だ。

 

 「ふぃ〜・・・」

 「くふふふ。ようこそ強欲の怪人。わたしはドクター。彼はオーク怪人」

 

 中身を全て捨てて再構築された、強欲の怪人の脳みそに与えられた知識にある怪人というワード。ドクターミヤコという人物。

 

 そして体中に染み渡る震える細胞達に、強欲の怪人はミヤコの目の前に立つと、左手でミヤコの顎に手をそえる。

 

 「綺麗な目ぇ、してんだなぁ」

 「ありがとう、強欲。彼にも挨拶しなさい」

 

 ギンジとは違う反応に、オーク怪人は安心する。何故ギンジにはあんなに蕩けているのか、オーク怪人には理解ができないが、誰にでもああいった対応はしない事に内心安堵する。

 

 「あぁ、よろしくなぁ、豚野郎」

 「初対面からご挨拶だな。強欲の」

 「へっ、名乗るならドクターの様に、自分からぁ、だろぉ。脳みそ詰まってんのかぁ?いかにも脳筋って感じだぁなぁ」

 「貴様・・・」

 

 険悪な空気にミヤコが割って入る。その瞬間、強欲の怪人の表情も怪訝な物となる。

 

 「ドクターぁ、お前この俺の邪魔すんの?」

 「邪魔ではないよ。ただ、ここでは怪人同士で争うは禁止だよ」

 「すいませんでした。ドクター」

 

 ミヤコの言葉に直ぐに謝罪に入るオーク怪人とは対象的に、強欲の怪人はまともに謝ろうともしない。それどころかアクビを噛み殺し、つまらなさそうにミヤコを見る。

 

 人間は全員ザコ、ゴミ、カス。そういった幼稚な考えが直ぐに見て取れる程の視線に、オーク怪人がいよいよ怒りを露わにする。

 

 「駄目だよ、オーク」

 「ですがドクター」

 

 ミヤコの視線は相変わらず、奈落の色を宿して、表情は変わらない。

 

 「飼い主に首輪かけられてぇ、身動きできないんだなぁ?こぶたちゃんよぉ」

 「一つ言うが、私に豚というのは褒め言葉だぞ。生まれたての赤ちゃん」

 「テメェ・・・」

 

 一触即発。今の雰囲気はまさしくそういう状況だ。

 

 オーク怪人の右手に血管が浮き出る。対する強欲の怪人にも眉間に血管が浮き出る。両者共に掴みかかる数秒前と言った態度だが、強欲の怪人の背後に刃が突き立てられる。

 

 オーク怪人の背後には犬の怪人が肩を掴んでいる。

 

 「ドクターの研究室から殺気を感じた。チワワ、これはよくないって思った」

 「くっふっふ、新しい怪人は血気盛んなのですね。ここで暴れては、ドクターミヤコにご迷惑をおかけしてしまいますからね」

 

 新しく現れた怪人二人に、強欲の怪人はつまらなさそうに舌打ちをする。

 

 殺意を抑える為に、犬と剣士の怪人が現れたのに、この二人の方が明らかな殺意を醸し出していた。

 

 「あーはいはぁい。わかりましたよぉっと」

 「フン・・・」

 

 強欲の怪人からの殺意が消えるのを確認すると、オーク怪人も殺気を抑える。

 

 「犬、剣士、ありがとう。くふふ、優秀だね」

 「チワワ、ドクターの為ならなんでもする」

 「これぐらい、お安い御用ですよ、ドクター」

 

 オーク怪人、犬の怪人、触手の怪人、タコの怪人、紐の怪人、サキュバスの怪人、剣士の怪人。

 

 ロストナンバーとなった、バーナーの怪人、コウモリの怪人、進化の怪人。

 

 強欲の怪人の脳に刷り込まれた怪人達の情報に、誰に見られるでもなく、強欲の怪人はほくそ笑む。

 

 (こいつらの大切なモンはよぉ、全部俺のモンなんだよぉ)

 

 いつかではなく、必ず近い内に奪って自分のモノにする。

 

 綺麗な怪人の瞳を宿したドクターミヤコを輪の外から眺める。

 

 (俺は強欲・・・女も飯も金も暴力も・・・全部自由にやらせてもらうぜぇ)

 

 その時が来た時、オーク怪人だけは真っ先にボコす。そう心に決めて怪人達を束ねるミヤコに静かに狙いを定める事にしよう。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 ヘルブラッククロスのアジト・研究棟にて怪人の戦闘データを図る訓練を行う。

 

 強欲の怪人の戦闘データを図るために、ミヤコが連れて来た。

 

 今の所は言うことを聞いているが、この性格はミヤコにとっても少し誤算だった。

 

 脳に情報を送りすぎたのが災いしたのか、ギンジ以上に喧嘩腰な態度に少し計算をし直す。

 

 完成してしまったモノは仕方ないが、どうにかこの誰とでも喧嘩腰になるのを控えさせられないかと、ミヤコは計算し続ける。

 

 勝手知ったる怪人の創造だが、流石に人格コントロールは無理だ。洗脳も怪人として確定したら通用しない。

 

 (今後は怪人も洗脳出来るように色々考えないとだね。くふふ)

 

 言うことを聴かない怪人を洗脳するマシン、兵器。

 

 (あぁ、簡単だった・・・くふふふ)

 

 そういった物を造れば、最初からギンジが裏切る事は無かった。そう思ったらいてもたってもいられない気持ちになるが、今は強欲の怪人がギンジに匹敵し、憎き怨敵、ヘヴンホワイティネスにもぶつけられるかどうかのデータを確認したい。

 

 「さて、強欲、犬。聞こえるかな?」

 

 透き通る様な声音のミヤコへ、強化ガラス越しに、犬が頷き、強欲がミヤコへ中指を立てる。

 

 「不遜だな。チワワ、お前が嫌いになりそうだ」

 「不敬ぃ、だろぉ?お前バカっぽそうだなぁ」

 

 不敬だと承知の上で立てた中指は、そのまま犬の怪人へ向けて、そのまま手を広げ、「バーン」と呟く。爆発でもさせてやると言わんばかりの挑発に、犬の怪人が牙をむき出しにして、唸りだす。

 

 「やってみっかぁ?わんちゃんこのやろーぉ」

 「お前から来てみろ赤ん坊。チワワ、赤ちゃんには優しくする」

 「舐めてんじゃねぇぞぉ!」

 

 強欲の怪人と犬の怪人がデータ収集の為の訓練を始める。

 

 他人に挑発は平気で行うのに、自分が挑発されるのは嫌。

 

 さらには少したどたどしい言葉使い。

 

 「ふーむ。戦闘力は普通、まぁやる気を出して戦えば中の下、ってところかな・・・」

 

 ミヤコの言葉にオーク怪人が頷く。  

 

 中の下とは言っても、それは怪人基準の話し。怪人の中の下は武装した軍人を5人は同時に戦える程度。

 

 オーク怪人であれば、一個中隊を単独で壊滅まで追い込める。

 

 ガラス越しで強欲の怪人の戦闘方法を見ると、犬の怪人へ自分の力を見せつけようと、色々攻撃するもまったく効いていない。

 

 やる気があろうとなかろうと、強欲の怪人の戦闘力はその程度。それで結論つける。

 

 「うーん・・・何か・・・弱そうだね」

 「あれが強いのですか?ブヒ」

 「自由への想いも欲望の強さも高めに入力したはずなんだけどね・・・あ、そうだ」

 

 ミヤコが何かを思い付き、いつもの笑顔になるとマイクを手に取り、強欲の怪人へと指示を出す。

 

 「強欲〜、君のやる気を出すために、ある事を思いついたよ。くふふ、よく聞いてね」

 

 強欲の怪人が攻撃の手を止めると、ガラスの方へ身体を向ける。

 

 「いいかい?そこにいる犬の怪人にダウンを取れれば、好きなだけ女性をあてがってあげるよ。あ、賞金もあげるよくふふ。それからお酒と美味しいご飯も・・・」

 「おうよぉ!それだよそれぇ!大将わかってんねぇ!」

 

 唐突なご褒美制度に急激にやる気を見せる強欲の怪人。

 

 現金な態度と発言にオーク怪人は再び怪訝な表情を作る。軍帽のズレを直すとミヤコへ耳打ちをする。

 

 「本当に褒美を与えるのですか?」

 「もちろん。このままじゃまともなデータは取れないしね」

 

 急激に意欲を上昇させると、犬の怪人へ突っ込み怒涛の連打を与える。

 

 犬の怪人の分厚い筋肉にダメージは無い。先程までに比べ明らかな戦闘力の上昇は確認できるのだが・・・。

 

 「・・・チワワ、少しだけ本気出す」

 

 ミヤコと目配せをして犬の怪人は静かにそう言うと、強欲の怪人を豪腕で捉える。

 

 「あぁ!?」

 「チワワ、強欲の怪人を捕まえた」

 

 犬の怪人の攻撃を先程まで当たらなかったのに、今度は捕まった。

 

 褒美をもらえると勇み、冷静さを欠いた判断能力の甘さが招いた結果がこの掴まれた状態。

 

 「うーん・・・やっぱり弱いのかな・・・わたしもしかして失敗したかな」

 

 少し肩を落とすミヤコへ、オーク怪人がフォローを入れる。

 

 「そんな事はありません。あいつのやる気がないだけです」

 

 怪人開発まで失敗となると、いよいよミヤコの立ち位置が危うい。それだけはなんとしても阻止せねばならない。

 

 (ブヒ・・・あの失敗作・・・いや、強欲の怪人、どうにかできないものか)

 

 オーク怪人とミヤコが見る強化ガラスの奥では、犬の怪人に数々のプロレス技をかけられてボコボコにされていた。

 

 口先だけの態度と今回の訓練。あまりにも低い数値に、強欲の怪人を失敗作だったと思い、オーク怪人は思わずニヤけていた。

 

 強欲の怪人を鼓舞するために、女性戦闘員の応援や札束の山等を見せつけても、この訓練にて強欲の怪人は一度も犬の怪人にダウンを取れなかった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 各怪人に用意された部屋。強欲の怪人ももれなく用意された自室にあるベッドの上で、白い天井を見上げ腕で額を拭う。

 

 今日は訓練とかいう理不尽な暴行に、強欲の怪人は嫌気がさしていた。

 

 まだ出していないが、きっと自分にも何かしらの能力がある筈。しかし、出し方は解っていても、今日の犬の怪人を相手にはそれを出そうとはしなかった。

 

 (金とか、女とか、飯とか、酒とかじゃねぇんだよなぁ)

 

 誰が聞いているのか解らないから、強欲の怪人は頭の中でそう呟く。

 

 (俺はあのお嬢ちゃんを手に入れたいぜぇ・・・)

 

 あのお嬢ちゃん・・・ミヤコを指したその言葉。強欲の怪人に何か来るものがあったのか、ドクターミヤコの顔を見てある感情が芽生えていた。

 

 その感情をなんと言うのかこの怪人は知らないが、きっと自分の中に溢れ出る様な欲望の一つに過ぎないのかもしれない。

 

 (あぁ・・・お嬢ちゃんの顔が頭から離れないぜぇ)

 

 ドクターミヤコの口元を隠す笑みや、自分に心配してくれる表情、皆を仕切るあの行動力。素直に怪人達があの人間に言うことを聞いてしまうのがなんとなく解るような気がする。

 

 でも強欲の怪人は言うことを聴く気は無い。それどころか、自由を既に求め始めて次の行動を模索している。

 

 (とりあえず、この組織を乗っ取るだろぉ?それからミヤコを奪うだろぉ?そしたらこぶたちゃんをボコしてぇ・・・)

 

 力が沸き立つ感覚が身体に広がるが、それを強欲の怪人は気づかない。

 

 (あぁ、そしたら大金を手にして女をはべらすのもぉ、いいなぁ)

 

 闘気が放出する。

 

 (そんでそんでぇ、酒をたらふく飲んでぇ夜遊びもしてぇなぁ)

 

 さらに力が沸き立つ。そこで身体を身震いさせるのだが、特別気にならない。

 

 (そしてぇ、このアジトとやらを俺好みに改造するのもアリだよなぁ)

 

 欲が止まらない。次々としたいこと、欲しい物が頭の中に浮かびそれを実行するだけの力が溢れる事を強欲の怪人は気づかない。

 

 「ぐふ、ぐふふ、ぐふっふふふふっふ・・・」

 

 闇の中で色の違うもう一つの闇が動きだそうとしていた。

 

・・・・・・・・・・・・・・

 

 「ハァ・・・ハァ・・・」

 

 唸る様な、絞り出す様な。それをなんと表現すればいいのか解らない。きっと誰もがそう言うに違いない、掠れた声の如く呼吸を行う。

 

 強欲の怪人の身体の震えが止まらない。寒いわけでは無く、かといって何かに恐怖している訳でもない。

 

 これは喜びだ。自分の欲望への歓喜に震える喜び。

 

 自分の思いつく全てに体中の細胞が喜びに満ち溢れ、直ぐに爆発しそうな衝動に駆られる。

 

 今直ぐ殴りたい、倒したい、壊したい、殺したい、犯したい、食べたい。

 

 様々な感情から溢れる衝動に、身体が追いつかない。

 

 強欲の怪人が歩を進めるのはドクターミヤコの研究室。

 

 そこに確実に居るであろう、あの女を自分の手中に収めたい。

 

 「お、新しい怪人様だ・・・」

 

 戦闘員の一人が強欲の怪人を見つけると、一種のコミュニケーションだろうか、軽々しく話しかけてくる。

 

 「お前ぇ、女は好きかぁ??」

 

 戦闘員はさも当然の様に頷く。ヘルブラッククロスに所属している人間は全て例外なく、法や秩序を嫌い悪を好む者しかいない。

 

 ソレ以外に理由はない。

 

 「なぁ・・・俺と一緒に暴れないかぁ?」

 「え・・・?」

 

 困惑する戦闘員の頭を掴むと、長髪を振り乱し戦闘員を投げ飛ばす。

 

 戦闘員がぶつかった先は、戦闘員の休憩室。

 

 煙を吐き火花を散らす扉の奥から、この大きな破壊音に何事かと戦闘員達が出てくる。

 

 「な、なんだあれは」

 

 戦闘員をまとめあげる紫が、強欲の怪人を目にしその暴走とも呼べる力に威圧される。

 

 「ドクターにご報告せねば」

 「俺とぉ!遊ぼうぜぇ!」

 

 女から次は暴動、そして次は遊びたい。

 

 欲の入れ替えが止まらない程に、強欲の怪人は次々と自分の欲を言葉に暴れ始める。きっとここに来るまでも戦闘員達が被害を被ってきたのだろう。

 

 「戦闘員!あいつを捉えろ」

 

 紫の号令に戦闘員達が束になるも、一瞬でそれらは瓦解する。

 

 人間二人を持ち上げながら、人で人を殴るその攻撃性の高さに紫は驚愕する。

 

 「いくら怪人の癇癪とはいえ、これはやりすぎだ!」

 

 なぎ倒されていく戦闘員達を尻目に紫はドクターの研究室へと向かいつつも、通信機を開きミヤコの部屋にいるであろうオーク怪人に繋ぐ。

 

 『何事だ、紫』

 

 オーク怪人は直ぐに通信に出てくれた。これに安堵するも、安心はしない。

 

 「よく聞いてくれ、強欲の怪人が暴れている!戦闘員やアジトのところどころ壊されているんだ。ドクターは近くにいるかい」

 『それについては把握済みだ。ドクターなら・・・』

 

 オーク怪人が話し終えるよりも早く、ミヤコの声が紫の通信機に入ってくる。

 

 『今隣で聞いていたよ。紫』

 

 ドクターミヤコの声を聴くことで、紫はここでようやく安心する。

 

 『たった一人で暴動を起こすなんて・・・くふふ、素晴らしいね』

 「感心している場合ですか。今確認しただけでも、ミヤコ派の戦闘員のほとんどが死亡確認のシグナルを出しています!」

 『知ってる。それにさっきからこの暴動をわたし達は把握しているしね。くふふ、こうなったらしょうがないね。紫、強欲の怪人をしばらく足止めしていてくれるかな?こっちで対策は取り始めているんだ、頼むよ。くふふ』

 「もちろんです!これ以上はマズイ」

 

 通信を切ると、すぐ真後ろでは紫を守ろうとした戦闘員が首をひねられ、一瞬で絶命している。久しぶりに怪人へ恐怖した。

 

 「なぁぁあああ!俺とぉ、遊ぼうぜぇぇ!」

 「遊び感覚で殺されてたまるか!」

 「じゃぁ、サクっと飲もうぜぇ!!」

 

 言いながらも戦闘員の生き血をすすり、腕をもいだり、頭を握りつぶしたりとやりたい放題で暴れている。

 

 「これでも喰らえ!スライムランチャー!」

 

 腕に仕込んだ小型のスライムランチャーを、強欲の怪人へ向けて打ち込むも強欲の怪人はそれを本当の意味で食らう。

 

 本当に食事しているその異様な光景に、紫は怖気が止まらない。

 

 「ちっ、足止めすると言っても、戦闘員やこの平気では役不足だな・・・」

 

 長い廊下を走り抜けながら、緊急防火シャッターのボタンを押し込み、走る紫の真後ろに分厚いシャッターが閉まる。

 

 「おぉぉいぃ!今度はかくれんぼかぁ!」

 

 二枚目三枚目とシャッターを閉じ、紫は呼吸を整える。

 

 シャッターの向こうでは強欲の怪人が窓を見る。

 

 上の階に見えるのは戦闘員達が、防衛の拠点を作り始めているのか資材等の運搬を始めていた。

 

 「あぁ?そっちかぁ・・・」

 

 家具などで固めたバリケードも、怪人によっては突破が難しい物になる。そして即席でバリケードを立てているという事は、そちらに何かが居るということ。

 

 「ぐふふ、女ぁ?酒ぇ?俺から隠し通せるとぉ、思うなよなぁ!!」

 

 雄叫びをあげると強欲の怪人は窓を破って、上の階へとよじ登り始める。

 

 「来たぞ!」

 

 戦闘員達がスライムランチャーや対ヘヴンホワイティネス用の武器をそれぞれ携帯して、強欲の怪人へと戦いを挑む。

 

 「邪魔ぁ、するなよぉ!!」

 

 恐ろしい程の暴力に戦闘員が紙くずの様に舞い飛び、バリケードをも打ち破って部屋の中心へと強欲の怪人が現れる。長い髪が尾ひれを引き、閃光の様に残像が追いつく。

 

 「ホッホッホッ・・・少々お痛が過ぎましたねぇ、小僧」

 

 強欲の怪人の目の前にいるのは怪人。戦闘員だけでは止めることができないと判断したミヤコの対策の一つ。

 

 つまりこの部屋のバリケードはブラフ。わざと見えるようにミヤコが前もって動かしていた作戦の一つである。

 

 それに強欲の怪人は見事に引っかかり、今は紐の怪人が強欲の怪人を止めるためにここに派遣された。

 

 「俺とぉ、飯食べようぜぇ?」

 「お前の様に汚らしい者と食事などするわけ無いでしょう」

 「じゃぁ、一緒に何かぶっ壊しにぃ、行こぅ!」

 

 目の焦点は合っていなく、ぐりぐりと動かしながら、強欲の怪人は暴走し続ける。

 

 「ホッホッホッ、いいでしょう。君の言葉を借りて言うなら」

 

 紐の怪人の瞳が開く。あやとりにも見えるその造形の眼球に、強欲の怪人が面白そうに目を見開く。それに対して紐の怪人が、言葉を続ける

 

 「ぶっ壊してあげましょう。行きますよ、強欲さん!」

 「ぐふふふぅ!!」

 

 紐の怪人と強欲の怪人が交戦を開始する。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 とうとう怪人同士の戦闘が始まってしまった。

 

 ドクターの研究室では、ミヤコ、オーク怪人、触手の怪人がモニターを観察していた。

 

 オーク怪人はドクターミヤコを見ると、ミヤコの悲しそうな顔つきに心を痛める。

 

 いくら興味を持たないと言っても、自分の造り出した子供の様な存在、怪人。

 

 それらが戦闘をするとは思っていないし、ミヤコからすれば大切にしたい怪人達。

 

 強欲の怪人だってその一人なのだ。

 

 「戦闘力が飛躍的に向上している・・・くふふ」

 

 悲しみがあるのにも関わらず、ミヤコは研究心で上書きしていく。それを何度か見たことのあるオーク怪人は、ギンジが裏切った時のミヤコの顔を思い出す。

 

 「・・・あんなのでも仲間です。必要とあれば、このオーク、貴女の為にいつでも動けます。ご命令を」

 

 軍帽から覗かせる険しい表情になるオーク怪人はミヤコへ敬礼を行う。

 

 「くふふふ、ありがとう。オーク怪人、少しだけ待って欲しい、な・・・あ、あれ、あれれ」

 

 ミヤコがフラフラと倒れそうになり、それを触手の怪人が支える。

 

 「大丈夫ですか、ドクター」

 「くふふ・・・ありがとう・・・」

 

 ここ数日の寝不足、そして成果の出ない日々、今回の強欲の怪人の暴動。

 

 ミヤコへのストレスの大きさは計り知れない。そのまま触手の怪人に守られる様に、顔色悪くうずくまる。

 

 「あちゃー紐っち負けてますね」

 

 触手の怪人がミヤコを支えながら、モニターを見ると紐の怪人は強欲の怪人を止めることが出来なかったようだ。

 

 「状況は好転しないな・・・」

 

 オーク怪人は軍靴を鳴らし、研究室のモニター近くのマイクを手に、それぞれブラフに配置させた怪人たちへ指示を出し始める。

 

 それぞれの怪人達の持つ通信機にのみ通じる回線を通し、オーク怪人は言葉を発し始める。

 

 「聞こえるか、怪人諸君。指揮官であるドクターは現在休息を取っている。その間はこの私オーク怪人が指揮を取ることとする」

 

 軍人らしいハキハキとした口調でオーク怪人は、マイクを握り続ける。

 

 「剣士の怪人はこのまま、本部への道を犬の怪人と共に封鎖。総統や他の派閥、特にリコニスには勘ぐられるな」

 

 犬の怪人がモニターを通して敬礼を行う。

 

 「次にタコの怪人は、研究棟のインフラを一時的に遮断せよ。理由はなんでもいい。ここで暴動が起こっていることを悟られるな」

 

 タコの怪人から手元の端末へメッセージが送られる。

 

 【りょうかーい^_^】

 

 喋れない分、こういうやり取りはやや可愛げのあるものとなり、少しだけ張り詰めた緊張感がほぐされる気分になる。

 

 「そしてサキュバスの怪人は、もしできるのであれば奴の性を吸い尽くせ。ただし交戦には入っても絶対に殺すな」

 『はいはーい。別に殺っちゃってもいーんしょ?』

 「駄目だと今言ったはずだが・・・?」

 『オークっち、冗談通じ無さすぎ〜!』

 

 この冗談のやり取りも信頼故か、お互いに口元を緩ませる。今はそんな事で笑い合っている状況ではないことを直ぐに理解すると、お互いに通信機を切る。

 

 「触手。貴様にも迎撃に出てもらおうかと思ったが・・・」

 「あっしはドクターを診ていますよ。正直あんな暴れ方するやつを、あっしが止められるとは思いませんしね」

 「了解した。迎撃はこの私が出よう。ドクターを頼むぞ」

 

 二人の怪人が頷くと、オーク怪人は研究室を出る。

 

 『オーク、こっちには強欲は来ていません。通信越しだと、奴はまだ2階で暴れている模様です』

 「済まない。状況は随時報告を頼む」

 

 剣士の怪人からの報告を聞き入れると、急ぎ2階へと進む。

 

 「これ以上ドクターの顔に泥を塗るならば、容赦はせんぞ強欲・・・ッ!」

 

 オーク怪人にとって見れば偉大なる母の存在、ドクターミヤコ。そんな彼女が生み出した怪人がギンジよりも酷い暴走を起こす。

 

 「許さんぞ・・・」

 

 怒りとも闘志とも取れる言葉を吐き捨てると、軍靴から重い音を鳴らし廊下を走る。

 

 オーク怪人を見送った触手の怪人は量産中の鎧の怪人を、6人出撃させる。

 

 「頼みまっせ、みなさーん。ドクターの為に働いてもらいますからね」

 

 コンテナから出てきた鎧の怪人はミヤコへ敬礼を行うと、直ぐに研究室からオークを追いかける様に廊下を突き進んでいく。

 

 一方、本部への道に通じる検問所では、剣士の怪人と犬の怪人が防衛の為に立っていた。

 

 「くっふっふ・・・犬さん、貴方も迎撃に出ても構いませんよ」

  

 いつものビキニアーマーの上から腕組みをしながら、犬の怪人へ視線を送る。

 

 「チワワ、ここを守れと言われた」

 「ええ、解っています。ですが、あれだけの戦闘員を蹴散らす強者、果たしてオークさんだけで止められるでしょうか」

 

 パワードスーツで強化されてるとは言え、決して弱くはない戦闘員をゴミの様に潰して回る強欲の怪人の強さは間違いなく怪人としての強さを誇示するには十分だった。

 

 昼間の訓練からは想像できない程の急成長っぷりと言うか、隠された実力は何をしてくるか解らない。

 

 「わたくしに言わせれば、貴方の鉄壁の筋肉が必要なのでは、と愚行しますがね」

 「くーん・・・でも命令だし・・・」

 

 お互い命令によってここに居る。ミヤコの指示はそれ程までに絶対の権限。

 

 「オークさんだけで止められると思いますか?」

 「・・・」

 

 剣士の怪人の口調は淡々としているものだった。

 

 「ここの防衛は、本部ガワも、内側の強欲の怪人にも両方を通さないものだ・・・チワワは、ドクターの命令を守りたい」

 

 犬の怪人の筋肉は非常に強い。攻防兼ね備えるその力を剣士の怪人は買っていた。

 

 「でも、それ以上にドクターの心を守りたい・・・」

 「見事です。犬の怪人」

 

 ここでも二人の怪人はうなずき合う。犬の怪人が裸足の強い一歩を踏み出す。

 

 「剣士の怪人!チワワはこれより、オーク怪人の援護に出る。ここを頼む。チワワ、お前を信じる」

 「気持ちは一緒ですよ。犬の・・・いえ、チワワ。ここはわたくしが死守します。たとえヘヴンホワイティネスが来ても防衛しましょう」

 

 覚悟の大きさはそれぞれでも、背負う想いはどの怪人も一つだ。

 

 ドクターミヤコを守りたい。その気持ちだけは何もゆるがない。

 

 「頼みましたよ、チワワ」

 

 同じ攻防一体型の怪人同士の友情か、剣士の怪人は走る犬の怪人の背中を見送り、悪に染まった怪人では出せない笑みを浮かべる。犬の怪人も同じ様に、背中から感じる期待、信用に笑みを浮かべる。

 

 「待ってて、ドクター。チワワ、直ぐに行く」

 

 怪人の大きな覚悟がそれぞれ動きだしていた。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 「ドクター!ご無事ですか?」

 

 研究室に駆け込んできた紫は、触手の怪人とぶつかりそうになる。

 

 「くふふ・・・大丈夫〜」

 「少し疲労があるようで、今はあっしをベッド変わりに休んでもらっていますよ。ああ、まだここでは戦闘はないっすね」

 

 顔色が悪いが、いつものドクターの姿を見て紫は大きく安堵する。

 

 「よくぞご無事で。この紫、安心いたしました」

 

 時代劇みたいな姿勢でミヤコの無事を祝うと、次はモニターへ顔を向ける。

 

 「強欲の怪人はまだ2階か・・・」

 「今はオークが迎撃に向かってるんすよ。あっしも行きたいけど、ドクターを診ていないといけんですし」

 「いや、それはいい。ドクター、ひとつお伺いしても?」

 「うん・・・なんでもどうぞ」

 

 触手の上でぐでーっと倒れるミヤコの顔色は体調不良そのもので、あまり今のミヤコに無理はさせたくない。

 

 紫には気になる事があった。それは訓練ではやる気を出さなかった強欲の怪人が、今なぜあのような暴動を単身行っているのか。

 

 「うーん・・・」

 

 ミヤコが少しだけ考えると、ハッと気づいた素振りで、でも身体を起こさずに紫に指を指す。

 

 「欲望をたくさん出しすぎて、自分でコントロールができないのかも・・・」

 「と、言いますと?」

 「本来、フェーズ2の怪人にはある特徴、つまり能力を持っていてね・・・」

 

 少し落ち着かない呼吸でミヤコは紫と触手の怪人へ、フェーズ2の怪人が持つそれぞれの能力について話し出す。

 

 「まず、触手、犬、タコ、コウモリ、オーク、鎧はフェーズ1。この子達は最初は能力を持たず、肉弾戦でしか戦えない」

 

 しかし長く生きて知識や、闘争を行い続ければ必ずなにかの能力を得る。端的に言えば進化だ。

 

 「そして・・・そういった進化の段階を超えて造られたのが、フェーズ2だよ。バーナー、剣士、サキュバス、今暴れてる強欲。そして・・・」

 「ギンジ、か」

 

 紫はその名前を出すと、表情は見えないものの声音に不機嫌な感情が籠もる。

 

 「で、フェーズ2はそれぞれ能力を自身でコントロールは出来るんだけど、感情や思想によってここまで暴走するとは思っていなかったよ。くふふ・・・」

 「あっしからも聞きたいんですが、なんで強欲ニキはあんなに強く?」

 

 触手の怪人の質問こそが紫も聞きたい本質だった。

 

 「わたしが設定した能力だと、思想をたくさん練れば練るほど力を増す・・・そういう能力だったはずだけど。あー紫、そこのバインダーとって」

 「これですか」

 「そーこれ。ありがと」

 

 相変わらず横になったまま、ミヤコは具合が悪いままだった。

 

 「あーこれだ」

 

 ミヤコは手元のバインダーを紫に見せる。

 

 ・自分勝手な性格。

 ・欲を考えると力が増す

 ・増した力は制御可能

 

 との内容にさらに困惑し首をかしげる紫。

 

 「制御可能・・・?しかし、奴は今暴走していますよ」

 「うーん、そこなんだよね。わたしは数値の設定だけは間違えないし・・・」

 「もしかしたら自分でも制御不可能な程の力を蓄え続けたんすかね?」

 「・・・」

 「くふふふふ。面白いこと言うね」

 

 触手の怪人の何気ない一言に、ミヤコと紫は顔を見合わせる。

 

 「くふふふ。つまり彼は自分で力を溜めすぎて、暴発しているんだね。さすがわたしの怪人。さすがわたし」

 「ドクター・・・ですがこれでは、強欲の怪人を処分せねばならなくなりますよ」

 

 紫が処分と言う言葉を吐くと、口元を抑える。

 

 「失礼いたしました。今のは失言でした」

 「処分・・・処分・・・それだよ、紫」

 「え?」

 

 ドクターミヤコは再び科学者としての欲に負ける事になる。

 

 それは奇しくも強欲の怪人と同じ気持ちになったのかも知れない。

 

 ただし、実行できる者か、実行できない者か、ミヤコと強欲の怪人とでは欲の規模も種類も違っていた。

 

 そして触手の怪人の上から起き上がると、ミヤコは薄気味悪い笑みを浮かべる。

 

 その表情は体調不良の顔色の悪さも相まって、まさしく【悪】そのものというのが相応しい顔。怪人が死ぬことを本来は良しとしないミヤコから衝撃の言葉が告げられた。

 

 「くふふふふ。強欲の怪人を処分しよう」

 

・・・・・・・・・・・・・

  

 オーク怪人が研究室を出て、走り続けていた。向かう先は強欲の怪人が暴れる2階。

 

 「これ以上の破壊と騒動は、本部にも届きそうだな。早めに

止めねば・・・」

 

 廊下は破壊され、戦闘員の死体がそこかしこに散っていた。

 

 血で染まった廊下を踏み越え、オーク怪人には焦りが見える。

 

 「この階段を降りれば・・・」

 

 下階からは悲鳴が聞こえる。その聞こえた断末魔に歯ぎしりしながら、オーク怪人は苦虫を噛み潰した表情で、階段を飛び降りる。

 

 階段を降りた先では、ここでも戦闘員の死体や平気、割れた窓に壊された兵器、資材の数々。

 

 これ以上戦闘員が死ぬことはいいとしても、ドクターの造った兵器や物が壊されるのはオーク怪人にとって許せない。なんとしても止めねばならない。

 

 「ドクターの心血注いだ努力の結晶を、あんな奴にないがしろにされてたまるか・・・!」

 

 焦りの他にも、怒りを露わにする。どれだけの破壊をすれば気が済むのか。

 

 オーク怪人の通信機に連絡が入り、画面を覗くとそこにはドクターの発信である事が解るシグナルが来ていた。

 

 「ドクター!体調は大丈夫なのですか」

 

 どうしようもない程の気持ちになりつつも、その言葉しか出てこない。そんな自分に嫌気が刺しつつも、オーク怪人は走りながら通信に出る。

 

 『ごめんねオーク。ちょっと心配をかけたね』

 「もったいないお言葉です、ドクター」

 『くふふふ・・・オークにお願いしたい事があるのだけど、良いかな?』

 「ブヒ、なんなりと」

 

 ドクターの頼みであれば命令であろうとなんだろうと、オーク怪人は聞き入れて来た。それが怪人として当たり前であり、怪人の存在意義だとオーク怪人は信じて疑わない。

 

 『くふふふ・・・オーク怪人、わたしの強く賢い怪人に命じます。強欲の怪人を処分してきなさい』

 「・・・今、なんと」

 

 思わず走る脚を止める。

 

 衝撃の一言だった。強欲を処分・・・?

 

 あのドクターが自分の造りあげた怪人を怪人同士で処分させる・・・?

 

 「ど、ドクター。強欲の怪人を処分と、言うのは・・・殺す、という事でお間違いないですか?」

 

 おずおずと聞いてはいけない事だと思ったが、オーク怪人はミヤコへ質問を返す。

 

 『そうだよ。オークの言ったとおり、アレを殺して欲しい』

 「・・・理由をお伺いしても?」

 『あの怪人をこのまま野放しにしては行けないと思ったし・・・それに戦力増強にはもう一つ方法もあったと思ってね。くふふ』

 

 いつもの笑い声でミヤコは続ける。

 

 『何も怪人を増やすだけではない。オーク、君をフェーズ2としてさらなる強化を施したい』

 

 一応オーク怪人もフェーズ2の領域に居る事は、ドクターミヤコ自身も知っている。だが、能力の覚醒に至っていない事も、オーク怪人もミヤコも知っている。

 

 能力・不明。それが現在のオーク怪人の素性。

 

 『君が何の能力を使えるのか、そして覚醒しているのか。それをあの強欲の怪人にぶつけてみて欲しい』

 「しかし・・・」

 

 オーク怪人も解っている。あの強欲の怪人を止めねば、いずれ本部にもこの騒ぎを聞きつけ、リコニスとか面倒な存在がこちらに来るかも知れないと。

 

 かと言って、ミヤコが止められるか解らない存在になってしまった、強欲の怪人を止められるのは同じ怪人だけ。

 

 オーク怪人は殺さない様に指示を出したのに、ミヤコは殺せと指示を出す。

 

 『・・・あれはもう、わたしの怪人ではないよ。ここまで暴れられたら、流石に総統もお許しにならないだろうしね。それに、わたしの部下をここまで酷い目に合わせたお礼はするべきだと思うしね。研究棟の破壊も許せない』

 

 寂しそうな声音はオーク怪人の心に、沈むように届いていく。

 

 『裏切りではなく、私利私欲で暴れているなら殺処分しかないよね・・・』

 「では、私の手で、始末をつけさせていただきます」

 『よろしく頼むよ。いつもごめんね。汚れ仕事ばかり』

 「何を言いますか。ドクターの為なら、なんだってしますよ。ブヒ」

 『ありがとう・・・』

 

 ミヤコのお礼にオーク怪人は強欲の怪人を止める、ではなく倒すに使命が変わる。

 

 (お優しいドクターがここまで想うのだ。私がその期待に応えて見せよう)

 

 再び脚を早める。

 

 強欲の怪人が暴れるのは2階。再び肉が潰れるような破壊音。

 

 その音が近くなる場所まで進んでいく。

 

 「いっぬううーーー!!」 

 

 曲がり角に面した時、オーク怪人の目の前に犬の怪人が吹っ飛んでくる。

 

 「犬!何をしているんだ」

 「きゅーん・・・チワワ、油断した」

 

 犬の怪人が飛んできた方へ目をやると、その先には長い髪を振り乱し全身から血の匂いを染み付けた強欲の怪人。

 

 「出たな・・・」

 「ぐふふふ・・・遊んで、食って、犯して、殺して、奪って・・・ぐふふげひゃははは」

 

 「犬、お前も先に戦っていたのか?」

 

 壁にめり込んだ犬の怪人を背に、オーク怪人は語りかける。

 

 「ぐう・・・あいつさっきより強い」

 「だろうな・・・ここは私が出る!お前は・・・」

 「いいや、チワワも戦う。ドクターの為に、力にならねば」

 「フン。気持ちは一緒だ。脚を引っ張るなよ」

 「さぁあああ遊ぼうぜぇ!!!」

 

 支離滅裂な事を口走り、なおも暴走が止まる気配が無い。欲ばりすぎた結果がこれなのでは、ドクターもさぞ悔しい事だろうと、オーク怪人は考える。

 

 「行くぞ強欲!」

 「食っちまうぞぉぁ!」

 

 誕生した時の挨拶から、強欲の怪人が気に入らないと思っていたオーク怪人と強欲の怪人が拳を交差させてお互いの顔に当たるも、強気な視線はこれだけでは落ちることはない。

 

 「チワワハイマッスル!」

 

 犬の怪人もそれに合わせて筋肉を膨張させ、引いたオーク怪人と入れ替わるように、強欲の怪人へとタックルを決めようと豪腕を広げるも、強欲の怪人の人間の部分的にはありえない身のよじりかたで避けられる。

 

 「遅いんだよぉ!間抜けぇ!!」

 

 犬の怪人の真下に仰向けで潜り込み、おおよそ犬の怪人が視認できない程の早さですさまじい殴打を連続で叩き込む。

 

 強靭な筋肉に穴を穿ち、犬の怪人の身体が空中に浮きあがり、顔にめがけてサマーソルトキックが命中する。

 

 「ぬぅ?」

 

 このまま勝ったと思い込んだ強欲の怪人の右足を、その豪腕で捕まえると、遠心力を込めて硬い床に叩きつける。

 

 「よくやった、犬!」

 

 オーク怪人がの捨て身の攻撃に援護をするために、床に叩きつけられた強欲の怪人へ、全体重をかけた踏みつけを当てようと飛び込む。

 

 「ぐふふひゃははへへはぁ」

 

 下卑た高笑いをしながら、強欲の怪人が身を捻り犬の怪人の拘束を抜けてさらには、オーク怪人の踏みつけをも避ける。

 

 砕ける程の威力の踏みつけに、強欲の怪人はそれでも笑う。

 

 「避けるな貴様!」

 「もう一回捕まえるのは、厳しいぞ、チワワ」

 

 防御力だけは自信のある犬の怪人の筋肉に、穴を開けるのは今の所剣士の怪人との訓練でしか見たことのないオーク怪人は、血を吹き出しながらも立ち上がる犬の怪人より一歩前に出る。

 

 「下がれ。このままではお前も危ない。ドクターを悲しませるな」

 「・・・血が止まれば、直ぐに、手助けする・・・」

 「頼む」

 

 話している間にも、強欲の怪人がオークの身体めがけた鋭い攻撃が迫りくる。

 

 「先程の拳もそうだが、ここまでの力を持っていて・・・貴様は何を考えているのだ!」

 「俺はよぉ、全部自分の夢を叶えたいんだよ、ぐふふ」

 「その夢が、こんなことか!」

 

 強欲の怪人の腕を掴むオーク怪人と、胸ぐらを掴み首を締める強欲の怪人。

 

 拮抗する力でお互いに押し合いになる。掴んだ腕を折るぐらいの力を込めているのに、異常な硬さだ。

 

 (これがこいつの能力だと言うのか・・・)

 

 欲望の数だけ力を増す。そうだとしたら、組織の目的も、ヘヴンホワイティネス撃破も、ギンジの奪還も一気に楽になるだろう。

 

 それなのに、自分の夢とやらをこんな暴力に頼ったやり方で暴走し、敵も味方も区別がついていない。しゃべることも支離滅裂。

 

 おまけにドクターを悲しませる。

 

 こいつが許せない。全てにおいて。

 

 「許さんぞ!強欲!!」

 「じゃぁ、許してくれるまでぇ、俺とエロい事しようぜぇ!」

 「狂っているな貴様・・・せぃっ!」

 

 腕を上に引っ張り上げ、肩に回し思い切り投げる。一本背負い投げの様に技を決めると、強欲の怪人は投げられるその衝撃を生かしたまま、着地し、強い衝撃音を残す。

 

 「ぐひひはは、いいなぁ!」

 「ぬおっ!?」

 

 次は強欲の怪人が怒涛の殴打を繰り出す。

 

 指先も強くなっているのか、オーク怪人の軍服を難なく貫き、確実にダメージを与えていく。

 

 「ぐっふひゃふぃふぃふぁ!倒れろ倒れろ倒れろ!壊れろ壊れろ壊れろ!死ね死ね死ねぇぇぇ!!!」

 

 軍服を裂き、肉を破り、骨を砕く。喧嘩技術ではない、怪人の腕力、脚力をたくみに操る攻撃はオーク怪人が倒れ骸と化するまで止まらない。

 

 「・・・ぬぅ・・・ッ!!」

 

 止まらない連続攻撃に、オーク怪人は防戦一方となる。

 

 (次の攻撃に、2手先を考えねば・・・)

 

 オーク怪人の得意な事は、自分で考え常に思慮深く戦闘の先を考察すること。

 

 しかし思考が追いつかないほどの猛攻に、防御を崩さないで戦うだけで精一杯だ。

 

 (どうする・・・このままではジリ貧だ・・・)

 「もらったぁ!!」

 

 交差した腕を弾かれ、心臓、首、頭ががら空きとなる。

 

 (マズイ・・・!!)

 

 今この瞬間。強欲の怪人の動きが遅く見えた。

 

 繰り出されるのは左手の突き。これがまともに当たれば間違いなく致命傷になる。

 

 「チワワ・・・スマッシュ!!」

 

 ガードを崩されたオーク怪人を手助けしたのは、犬の怪人。

 

 強欲の怪人を背後から殴り、攻撃を中断された事でオーク怪人が裏拳を強欲の怪人に命中する。

 

 怒りを込めた一撃はいつもより強く、そして人間ならば確実に死なせる事ができる威力。

 

 「すまん、助かった」

 「ふぅ・・・でも、ここまでですよ・・・チワワ、いまので体力切れた」

 

 膝をつきながら犬の怪人は、肩で呼吸する。

 

 「後は任せてもらおう。ブヒ」

 

 オーク怪人が犬の怪人の肩を優しく叩くと、すぐに強欲の怪人へと駆け出し、ドロップキックを決める。

 

 「ぐぶっ」

 「骨まで砕けろ・・・!」

 

 アジトの壁を強欲の怪人ごと貫き、二人で中庭に落ちる。体重的にも先に地面に落ちるのは、オーク怪人だ。

 

 「来い!強欲!ここで決着をつける!」

 「ぐふふ・・・女ぁ、遊びぃ、しようやぁ」

 

 中庭の芝生に落下しながらも、近くの瓦礫を掴みオーク怪人へと、何個も投げつける。

 

 それらを弾き、防ぎ、撃ち落としながら、空に浮かぶ強欲の怪人を睨む。

 

 「小癪な真似を・・・」

 「一緒に壊そうぜぇ!!」

 

 また一つ強欲の怪人に力が沸き立つ。

 

 こんな簡単に強化ができる贅沢な能力なのに、ドクターに付かないとは非常にもったいない。

 

 「壊すのはお前だけだ!」

 「ぐぅえうぇっへははははっひひひ!!力が、力が、溢れてくるぜぇ!!!」

 

 素早さが増し一直線に強欲の怪人が飛び出すと、長髪が尾ひれを引くように残像が発生する。

 

 驚くべきはその残像が発生する程の速さ。そこから繰り出されるのは強力な一撃。

 

 明らかな実力差を見せつけるには十分な鋭利な殴打は、オーク怪人の腹部にめり込むと、スクリューするように腕を回し体格差のあるオーク怪人を中庭入り口の門までぶっ飛ばす。

 

 「ぐふっぐふっえうぇひうふぃすへへへ!!!」

 

 力が止まらず、溢れ出し、身体がどんどん進化していく感覚と、頭の中に無限に出てくる無限の欲。

 

 「やるな・・・この力が制御できていれば、貴様は一流の戦士だと言うのに」

 

 土煙を振り払いオーク怪人は立ち上がる。破壊力は抜群でも怪人を一撃で仕留めるには程遠い物だった。

 

 (しかし・・・距離が離れても、この私でさえ反応できない速度。そして防ぎようの無い、拳の一撃。どうするか・・・)

 

 考えている間にも強欲の怪人が残像を後ろに追わせて、自らが特攻してくる。オークが身構えるよりも早く、頭部を捉えた蹴りにオーク怪人は再び飛ばされる。

 

 (厄介な・・・次はどう来る!)

 

 再び距離を離された。あの速度で接近か、飛び道具でも使うか、それとも目標を変えて逃走するか・・・。

 

 (どうにも対処が難しい・・・攻撃だけはなんとしても耐えるか?)

 

 踏ん張って耐えようにも、強欲の怪人の一撃に飛ばされずに立ったままいられるだろうか。捨て身の行動は今は命取りになりかねない。

 

 「ほらぁ!!次は何すんだぁ!!」

 

 強欲の怪人は目の前に現れる。そしてオークの全身めがけて再びあの連続殴打。防御が遅れて攻撃をフルヒットさせてしまう。

 

 しかしオーク怪人は退かずに、この攻撃に対して同じ様に連続で攻撃を与える。このまま何もしないのでは勝てないと読んだからだ。

 

 拳や足技が巡り合う度に、強欲の怪人の攻撃速度が上昇していく。

 

 きっと勝ちたいというのも欲なのだろう。そんなささいな欲望でさえ、願えば強欲の怪人が強くなっていく。

 

 無限に進化し続けるこの怪人にオーク怪人は、勝てる算段をなんとかして頭の中に構築する。

 

 しかしこの肉弾戦の鍔迫り合いは、強欲の怪人の力押しで制される。

 

 「チィっ!」

 「ぎょえへへへ」

 

 下卑た笑いに苛立ちが強く出てくる。

 

 「負けるものか・・・!」

 

 そうは言っても、肉体的な強化が常にかかる強欲の怪人には最早疲労すら無い。対するオークは疲れる一方だ。

 

 強欲の怪人の連続殴打の嵐が再びオーク怪人を襲う。

 

 (右手、左手、右手、左足、左足、右手、右足、右手)

 

 次々と繰り出される攻撃にオーク怪人は不思議な感覚を覚えた。

 

 何故か強欲の怪人の攻撃に繰り出す四肢を、頭の中で全て理解した。とは言え攻撃を防いだわけではないのだが、次の攻撃の順番が見えた。

 

 (これは・・・なんだ?)

 

 今も攻撃を受けているのだが、その先の攻撃が脳裏に浮かんでくる。

 

 この殴打が終わったら、顔面を狙った頭突き。

 

 その映像が切れる瞬間にオーク怪人の意識は、目の前の強欲の怪人に戻される。

 

 2つの意識で、目の前の物事に対応させられた様な気分に、頭の中が困惑しそうな気持ちになる。

 

 殴打が終わり、次の攻撃は・・・。

 

 (頭突き!)

 

 あらかじめ来ると解っている場所なら直ぐに対応できる。同じ様に頭突きを繰り出す。豚の頭骨を怪人の細胞で強化した頭突きは、装甲車でさえ容易く打ち砕く。

 

 その威力は強欲の怪人の頭突きとぶつかり合い、強欲の怪人の頭部を逆に跳ね返すに至る、今までの最大の一撃となった。

 

 (これは・・・未来が見えたのか・・・?)

 

 断片的にだが、頭突きを貰う未来が見えていたのか、それともオーク怪人の読みが正しかっただけなのか。

 

 またオーク怪人の脳裏には映像が流れてくる。

 

 《強欲の怪人が立ち上がり、残像を追わせた突進。オーク怪人は吹き飛ばされ、首を締められる。》

 

 次は突進が来る。ならば・・・。

 

 「次はこうだ!!」

 

 オーク怪人の頭突きに押し負け、キレた強欲の怪人がオークの胸をめがけて突進をしかけてくる。

 

 オーク怪人は地面を踏み、芝生を盛り上げる。壁を作るまでは行かないが、盛り上がった土はオーク怪人の足元に程よい丘を作り出す。

 

 それを思い切り蹴飛ばすと、土の塊が強欲の怪人への目潰しになる。

 

 「ぬううあああああ」

 「それでも来るのか・・・!!」

 

 良いように事が運ぶ。その都合の良い映像は流れず、拳はオーク怪人の顔を貫いている映像。

 

 つまりこのままでは死ぬという、数秒先の未来。

 

 (ならば・・・) 

 

 今度はギリギリの所で避ける。手刀となった殴打は、オーク怪人の顔の横をすれすれに捉え、首と肩で強欲の怪人の手を抑える。

 

 そしてすかさず、強欲の怪人の肩を引っ張り、首に両足を引っ掛けた飛びつきで、体重をかけて折りに行く。

 

 飛びつき腕十字で押し倒しで抑え込むと、オーク怪人は次の一手を決めに行く。

 

 オーク怪人のフェーズ2の能力が覚醒した瞬間であった。

 

 その能力とは数秒先の未来を映像化する能力。

 

 (このままでは動けんからな・・・だから)

 

 だからオーク怪人は、一人では完全に倒す事のできないからこそ、頼りにできる仲間を呼び出す。

 

 強欲の怪人を処分するために。

 

 「ドクターへの忠義を示すのだ!出でよ!ヘルブラッククロスの怪人たちよ!」

 

 オークのその号令に、アジト内から次々と怪人達が出てくる。

 

 既にミヤコの命令で、研究棟に戻っていたのか、怪人達が一斉に中庭に出現していく。

 

 「絶対に許しませんよ、虫けらの分際でぇ!!」

 

 先ずは紐の怪人が伸ばした紐で、強欲の怪人を縛りあげると、芝生に何度も何度もぶつけていく。

 

 「さぁ!お行きなさい!」

 

 上へ投げると浮遊していたタコの怪人が、吸盤で強欲の怪人へと吸いつき、身体を絞るようにぐりぐりと強欲の怪人を締め上げる。

 

 「ぐうおおおお・・・離せぇ・・・!」

 

 墨を0距離噴射し、強欲の怪人を更に上空へと打ち上げる。

 

 「そんぢゃ、ちょーしコキすぎだからあんた。ちょー痛いよ、コレ」

 

 人刺し指と中指をピンと立てて、唇に添えると巨大なハートの形をしたキャノン砲を解き放つ。ぷくっと膨れ上がったそのハートは、強欲の怪人に当たると、爆発を起こす。

 

 「なぁんぅのぉ!まぁだぁだぁ!」

 

 その爆発の中でも元気いっぱいになりながら、強欲の怪人は大声をあげる。

 

 「ハァ?マジキモいんですけど。ウケる。触手、ぱぱっとやっちゃいなよ」

 「ハイパーデス・マンダリン・スゴイ・デ・ヤンスオメガテンタクル・エクストライクシード!!!」

 

 長ったらしい必殺技の掛け声と共に、様々な形状の触手でめちゃくちゃに叩き回し、強欲の怪人の口内に突きこんだグロテスクな形状の触手で、The・神経毒を流し込む。

 

 「ほら、チワワ、行け!」

 「ハイマッスル・ギガグリードダンク!!」

 

 空中に放りあげられた強欲の怪人を豪腕で抱きかかえると、そのまま頭から地面へ向けて叩き落とす。

 

 「ぐはぁ・・・いいかげ、んに」

 「次は任せた・・・剣士!」

 「では、おまかせを」

 

 地面に待つ剣士の怪人が居合抜きの要領で、剣を抜くと赤と黒い斬撃が強欲の怪人へ向けて繰り出される。

 

 「怪人剣術・イース・トゥルバレンツ!」

 

 剣士の怪人の必殺技が強欲の怪人を斬り裂き、今度こそ追い詰めた。

 

 「ブヒぃ・・・これで終わりだ・・・強欲!!!」

 

 最後のとどめにオーク怪人が左脚を強く踏み出し、右拳を硬く握り強欲の怪人の顔面を打ち貫いた。

 

 「・・・!」

 

 声にならない声で強欲の怪人が叫んでいるようだが、もはや顔がなくなった強欲の怪人は何も喋れず、噴水の様に吹き出る出血と、砕けて中身が飛び散った脳みそ。

 

 オーク怪人が腕を引き抜くと、剣士の怪人が亡骸となった強欲の怪人を細切れにし、犬の怪人が叩き潰す。

 

 「くふふふ、皆お疲れ様・・・」

 

 鎧の怪人と紫に守られるように、ミヤコが中庭にやってくる。

 

 オーク怪人を始め、この場にいる怪人達がミヤコに膝を折り、頭を垂れる。

 

 「皆、わたしの尻拭いをさせてごめんなさいね」

 

 強欲の怪人の自己中から起こった今回の事件は、どの怪人も紫もミヤコのせいだとは思っていない。

 

 「本当に、本当にごめんなさい」

 

 ミヤコの言葉に全員が表を上げる。

 

 視線の集まったミヤコは左の黒い瞳、右の人間の瞳を揺らしながら、悲しみと不甲斐なさに振るえた声で、だけどしっかりとした強い声音。

 

 ミヤコの失敗で、ミヤコの愛する怪人達が傷つき、部下はほとんどを失った。

 

 「その、ドクター。強欲の怪人の事は、あなたのせいでは・・・」

 「ううん。これはわたしの研究。わたしのミスで起こったことと同じ。だからわたしは責任を取るわ」

 

 ドクターミヤコの責任。その言葉に、その場にいる全員がドクターに背負わす申し訳なさを飲み込み、変わりに期待と羨望の眼差しを向け始める。

 

 「私が強欲の怪人の名を継ぐわ。くふふ。それが私の責任」

 

 ミヤコにも欲がある。他の怪人達も同じ様に欲がある。

 

 科学者としての欲望と、ギンジを愛していく欲望。

 

 それらはとてつもなく大きい欲。まさしく強欲なのだろう。

 

 「それからオーク。君には後でお話があるよ。研究室に来てね」

 「承知しました」

 

 研究棟で起きた戦いは終わりを告げた。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 総統の座る暗く深い闇が漂う部屋で、ミヤコとオークが敬礼を行う。

 

 「オーク怪人が・・・フェーズ2として覚醒したと、聞いたが、詳しく聴かせてくれるか?ドクター」

 「総統閣下、この度私、オークは新たな戦力として、そしてドクターやヘルブラッククロスの1戦闘員として、強力な力を得ることができました」

 

 頭を下げたままだがオーク怪人は総統へ向けて、自身の強化された能力について、説明を始める。

 

 研究棟で起こった事件については事前に、ミヤコから知らされている。

 

 もっとも内容を知るのは、ミヤコと怪人達、そして報告を貰った総統のみ。

 

 「その能力は数秒先の未来を見るということ・・・この力があれば、あのヘヴンホワイティネスをも確実に倒せます」

 「ああ、その事だが」

 

 総統は紅の眼光でオーク怪人とミヤコを見下ろす。

 

 「倒すのは後でいい。先にすべき事がある」

 「ブヒ?」

 「ヘルブラッククロスはこれより、佐久間ギンジ奪還に動き出す。そしてその後、本来の計画である、日本転覆計画を実行する」

 

 総統の威厳に満ち溢れた発言からギンジの名前が出たことに、オーク怪人は非常に驚く。

 

 佐久間ギンジの奪還作戦。それには総統が立案した作戦があるとのこと。

 

 そして日本転覆計画。

 

 総統が目指す、力がある者だけが生き残れる真の実力社会。

 

 暴力ではなく、弱者をねじ伏せる力で構成された国。

 

 大幹部のみが知る、ヘルブラッククロスの目的。それが日本転覆計画。

 

 「新たに統治された世界を作り上げるぞ。そのためにはミヤコに本来の力を取り戻してもらわねばなるまい」

 

 今の日本を倒し、新しく日本という国を作り変える。

 

 力のあるものが生き残れる、総統の望む世界。

 

 知恵も、戦闘も、技術も。

 

 なにかに突出した者だけが生き残れる世界。

 

 強ければルールを敷く事も許される、超人達の住まう世界。

 

 それを実現することが総統の望む世界であり、新しい国である。

 

 いずれはこの世界中をヘルブラッククロスに認めさせ、完全独立国家を作る。力のある者だけが生きられる、争いを争いで止める平和な世界を。

 

 そのためにドクターミヤコの要望を聞き入れ、佐久間ギンジを奪還の後、ミヤコに洗脳を施してもらうというのだ。

 

 「オーク怪人。お前にこの話しをした事の意味、わかるな?」

 

 総統の言葉にオーク怪人は立ち上がり敬礼をする。

 

 ヘルブラッククロスという組織に、前代未聞の怪人大幹部が誕生すると言うこと。

 

 「くふふふ。おめでとうオーク。わたしも鼻が高いよ」

 「これからもお側で尽力させていただきます」

 

 立場が対等になろうとオーク怪人の気持ちだけは変わらない。

 

 「さて、始めよう。ドクター、例の装置は?」

 「はい。あと3日ほど・・・6月28日には、実践も可能です」

 「良かろう。では、頼むぞ・・・」

 『ハッ!』

 

 こうして誕生した新たな大幹部・オーク怪人。

 

 フェーズ2の能力・数秒先の確定未来の映像化。

 

 この能力を持って、必ずギンジの奪還、そしてヘヴンホワイティネスの撃破。さらには日本転覆の尽力。

 

 「くふふふふ。期待しているよ、オーク怪人」

 

 ヘルブラッククロスの計画が、また一つ運命の歯車を大きく動かし始めていた。

 

 それと同じくドクターミヤコの怪人が、伝説として語られる英雄譚もまた運命に組み込まれるモノになりつつあった

 

 

続く

 

 

 

 

 




おつかれさまです。
ミヤコメイン回っていうかオーク怪人メイン回になってしまった。
けどまぁ、いっか!(ヲイ)
ちなみにオーク怪人はミヤコ一筋みたいな雰囲気出してますけど、襲撃で攫った女性を食べてます。皆虜になるらしいです。

キャラネタ書きます
オーク怪人
フェーズ2の能力が覚醒した。

紐の怪人
久しぶりの登場なのに、かませになった。最後は見せ場もあった

犬の怪人
筋肉に穴を開けられてショックですワンワンおー

タコの怪人
ギャル物にハマっている。サキュバスの怪人となかよしー。ウチらズッ友らしい

触手の怪人
ミヤコを寝かせた時「あー骨ばってますね。もう少し肉突きがないと、ギンジさん抱き心地良くないんじゃないんすかね?」
その言葉を最後に触手の怪人は消息を断った。

サキュバスの怪人
「タコっちって・・・意外とテクスゴイよね」

剣士の怪人
なにかと剣を突き立ててる怪人。ビキニアーマー。

強欲の怪人
自分でも抑えきれないみなぎる力を制御できなかった怪人。
最後は悲惨だった

バーナーの怪人
再登場はあるのか

コウモリの怪人
再登場は多分ない

鎧の怪人
絶賛量産中だが、研究棟が壊れた為、現状量産はストップ。

砂の怪人
まだ名前だけの登場。出番はかなり先の予定

佐久間ギンジこと進化の怪人
まともな出番が2話たてつづけに無かったグラサン坊主。次回は主人公らしく輝きます。

次回は退魔警察のあの人も再登場。ギンジにも出番が復活し、物語は運命の日へと繋がっていきます。

お読みいただきありがとうございました!また次回!!!!
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