正義のヒーローヘヴンホワイティネス   作:アトラクション

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いつも思う。僕の物語は無理やりだなぁって。

ま、まあプロじゃないし?多少はね?(いつも多少を多用、多様に操る左様、、、、すいません調子乗りました)

 楽しんでいただければと思います。



退魔教会編
15・退魔教会


 ゲヘナミレニアムとの戦いが終わって、早くも2ヶ月経っただろうか。

 

 南度固化市は人知れぬ悪から守られ、平和の日常を取り戻していた。

 

 熊沢レイナはその平和に充実感を得つつも、中央度固化の巨悪の存在、ヘルブラッククロスが気がかりになっていた。

 

 退魔警察と普通の警察。正義の為の二足のわらじを履きながらも、彼女は人が認知しえない強大な悪の組織の存在が、どうしても頭から離れない。

 

 そして悪の身をもちながらも、正義の為に戦う佐久間ギンジという存在。

 

 ヘルブラッククロス出身の怪人であり、かの正義のヒーローヘヴンホワイティネスに味方する正義を信じている悪の怪人。

 

 「彼は元気かな・・・」

 

 工場エリアでの戦い以降一度も再会は出来ていないが、きっとギンジは元気だろう。

 

 工場エリアで彼の話したくれた事情に、レイナは関心と、佐久間ギンジに興味が湧いていた。

 

 (また、会いたいものだ・・・)

 

 心の中でレイナが呟くと、目の前にはレイナに取って実家とも言うべき建物が見えてくる。

 

 6月26日。初夏が始まり、夏への入り口を開かせる季節。

 

 春の陽気と涼しさは消えて、灼熱の夏が始まる季節。

 

 紫陽花が色とりどりに植えられた、綺麗な石畳の道にスタイルの良いレイナがいつものスーツ姿で歩いていく。

 

 ステンドグラスが上部に取り付けられ、白レンガで構築された、くすんだ黄金の鐘のある、教会の建物。

 

 聖カエルム教会。そこの孤児院で熊沢レイナは育ち、成長していった。

 

 それと同時に彼女は退魔師としての資質も見抜かれ、退魔の力も着実につけていた。そうして退魔師としても、警察としても力をつけた彼女はこの南度固化における最強の退魔師として活動を続けていた。

 

 今回ここに呼び出されたのは間違いなく、裏から平和を守る組織、退魔教会に招集をかけられたからだ。

 

 また目に見えない超常的な存在が現れたのだろうか。

 

 カエルム教会に近づく度に、レイナの脳裏には懐かしさと、退魔教会の思い出が蘇る。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 ──10年前。

 

 熊沢レイナ17歳。退魔師としての実力を覚醒させ、最強を名乗るにふさわしい実績を残しつつある時のレイナはきっと成人したときよりも、自信と行動力に満ち溢れた退魔の戦士だっただろう。

 

 若さ故の自信と、根拠のない自信。

 

 2つの自信は混ざり合い退魔師として、レイナのプライドを大きくしていた。

 

 退魔教会の地下。かつて防空壕だった古い地下室を改装し、退魔の修行を行う施設となる場所。

 

 内装自体は、道場の様な木製の床に、寺院の様な雰囲気を多数併せ持つ薄暗くも、聖なる力が身を鎮め、清めてくれる様な雰囲気がある。

 

 そこに熊沢レイナ、そして彼女のパートナーである如月ナルミは退魔教会上層部である二階堂マサヨシに呼び出されたいた。

 

 レイナとナルミはこのカエルム教会の孤児院で共に育ち、なんの運命か二人共に退魔の資質があった。

 

 故に幼少の頃から切磋琢磨し、お互いを高めあった姉妹兼大親友とも言うべき存在。

 

 「先日、ゲヘナミレニアムなる存在が、この街で悪事を働いている事が解った・・・」

 

 南度固化に現れたいわゆる悪の組織。そんなモノ、退魔師である二人が相手等する必要があるのだろうか。

 

 「その・・・なんとかミレニアムってのは・・・」

 

 ナルミが機嫌の悪い声音でマサヨシに言うと、直ぐに言葉は遮られる。ナルミの機嫌が悪いのは、そんなポッと出た組織を紹介するために呼び出されたからではないのかとレイナは推測する。

 

 「ゲヘナミレニアムだ。で、その組織をただ紹介するなら、表の世界の者達に頼むさ。君たちを呼んだのは・・・」

 

 マサヨシは淡々そした口調で、レイナとナルミに言い放つ。

 

 「奴らが普通の悪なら、放っておくさ。だが、奴らは・・・魔を操る・・・意味が解るかね」

 「まさか・・・」

 

 マサヨシの言う、魔というもの。それらは人には見えず、人の平穏を喰らう超常の存在。

 

 カエルム教会に所属する退魔師は、人の日常に土足で踏み込み荒らしてくる、魔の存在を打ち払う為に、日々戦っている。

 

 三年前から戦場に飛び出ているレイナとナルミも、同じ様にその魔の存在を知っているし、何度かピンチに陥る事もあった。

 

 けれど、二人の信頼と絆、なにより正義の志が勝利を揺るがないモノにしていた。

 

 それを把握しているマサヨシは男らしい笑みを浮かべて、二人の少女に指令を下す。

 

 「ゲヘナミレニアムを倒すぞ・・・魔を操る者を、そして魔に与する者達は、野放しにはできない。平穏を守るために、皆で戦おう」

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 初夏の強い日差しと熱気が、レイナを現実に引き戻す。

 

 聖カエルム教会の大きな鉄扉の前で、レイナは10年前の事を思い出す。

 

 ゲヘナミレニアムを完全に倒し切るまでに、10年はかかった。

 

 組織の壊滅に6年。残党潰しに4年。それだけの歳月をかけた長い戦いには沢山の出会いと悲しみと悔しさ、そしてレイナ自身が人として成長する機会に沢山巡り会えた。

 

 そしてこの10年において、失ったモノは数え切れない。

 

 初恋の人、貞操、心、そして如月ナルミという大親友。

 

 さらに・・・。

 

 「マサヨシさん・・・」

 

 レイナとナルミの師匠であり、10年前まで最強だった退魔師。

 

 今でこそ退魔教会という組織は、日本中に展開する巨大な組織だ。そして生きている以上、熊沢レイナは常に悪と戦い続けなければならない。

 

 レイナは億劫になりながらも、教会へと脚を踏み入れる。

 

 扉を開けて視界に広がるのは木製の横長の椅子。

 

 ひっそりとピアノが置いてあり、その直ぐ近くには彩り豊かなステンドグラスから美しい色のついた光が、床から伸びていた。

 

 「お待ち・・・していましたよ。レイナさん」

 

 美しい教会なのに、人の気配は一切ない。

 

 気配は無いがレイナの正面には、ぼんやりとした白い人の形をした存在が、レイナを招き入れる。

 

 「・・・ご無沙汰しております」

 

 レイナの挨拶に白い者は無言で会釈を行うと、懺悔室を横にずらす。そこから見えるのは教会の地下へと通じる階段。埃っぽく汚いのだが、どこか落ち着くその場所。

 

 白い者の後についていきながら、階段を降りるとその先には見慣れた道場の光景。

 

 相変わらず精神が研ぎ澄まされるような感覚を、無意識ながらレイナは覚醒させる。

 

 そして降りきった先には寺院の様な鳥居。その周辺に5人の老人達がそれぞれ好きな体制で座り、レイナをジッと見つめる。

 

 彼らは五天。南度固化の退魔師で、昭和の時代から戦いを続ける正義の志を持った退魔師・・・のはずだが、今は見る影もない。

 

 どうにもこのかつて最強だった退魔師達に見られるのは、苦手だとレイナは思っている。かつて最強とは言ってもその成果や実績はレイナがとっくに追い越している。故に、退魔教会でふんぞり帰るこのご老体達がレイナからすれば自由に生きられない枷となっている。

 

 (目つきがいやらしいのよ、このじいさま方・・・)

 

 侮蔑の念をおくるレイナ。それに気づいたしわがれた老人が、レイナを睨みつける。だがそれでさえもレイナは無視する。

 

 「レイナ・・・今日呼んだのは・・・」

 「また魔の者でも現れたのかしら」

 「・・・そうだ」

 「で、それを私に倒してきて欲しいって、ことでしょ」

 

 腕組みをしながら吐き捨てるような態度に、老人達が再び睨みつける。怒りっぽい性格な人たちがいるのは、古い思考を持った、時代の生き残りしかいないからだろう。

 

 レイナには実力も遠く及ばないのに、偉そうにいつまでもレイナの上に立ち続ける。

 

 「・・・実は調査をこちらの式神が行っていてな。中央度固化市に、現れた魔に近い巨悪が動いているようなのじゃ」

 「知ってる。それの名前は、ヘルブラッククロス。何度か私も戦ったわ」

 

 4月は風邪を引いたギンジに変わり、サクラと共に悪の組織の進撃を食い止めていた。そもそもレイナの職業は警察だ。度固化全体の法を超えた悪行については、だいたい把握している。

 

 「そーかい・・・もう、退魔師も少ないからねぇ・・・レイナちゃん、子供はできないのかい?」

 「(死ね)そうですね。いません(くたばれ)」

 

 急に話を逸らしたかと思ったら、結婚もしていない女性に対して常識を超えた失礼な発言に、レイナは心の中で悪態をつく。ナルミも一緒にいれば心強いのだが。

 

 彼女はもういない。

 

 「そう、この式神が持ってきた、情報があるんだけど・・・まぁ、近くに寄りなさい」

 

 断りたい。そして今直ぐ帰りたい。

 

 どうせ近寄ったらさいご、満足するまで枯れた男たちに身体を触られ続ける。

 

 「どうしたね。はやく来なさい」

 「(今行きます)死ね。(お待ちください)くたばれ」

 「ええっ!?」

 「あ、すいませんでした。今直ぐ天国へ旅立ってください」

 

 ストレートな悪口は悪いと思ったのか、天国へと旅立てという言葉に置き換える。本音の方がついつい出てしまうのはレイナの悪い癖だ。

 

 「五天様・・・」

 

 老人の背後に式神だろうか、銀色の修道服に、バイザーとマスクをつけた女性の声音の者が現れる。そしてそれはレイナが何度も見たことのある眩しい存在が現れる。

 

 見た目の年齢的には15、6歳程だろうか。

 

 大胆なスリットに、胸元や背中の空いたその服は最早修道服では無いほどに妖艶なモノだった。きっとこの老人達の趣味で産まれた式神なのだろう。

 

 「おおぉ、戻ったか、ウメミツキ」

 

 ウメミツキと呼ばれたその者は、一枚の写真をレイナに手渡す。

 

 「これが式神の集めた情報です」

 

 話が脱線しそうになったら、いつもこのウメミツキがレイナに情報提供や任務について説明してくれる。こんな見た目でも真面目だからレイナは助かっている。

 

 「写真をご覧ください」

 「・・・」

 

 手渡された写真には何体か見覚えのある者がいる。それぞれ隠し撮りしたのか、様々な者達の視覚情報。

 

 豚顔の軍人、宇宙人みたいな頭に触手を生やす者、見た感じはタコの浮かぶ怪物、ビキニアーマーを着用しカメラ目線の奇妙なポージングの者、顔だけチワワの嫌悪感を抱く謎の筋肉、そして・・・。

 

 「これは・・・」

 

 最後の写真に、レイナは顔をしかめる。

 

 月光を背に、海上コンテナの上で、警備員を殴っている男の写真。

 

 金髪のツーブロックにオールバック。黒い眼球、赤い瞳の青年に見える男の写真。

 

 「その者たちは、ヘルブラッククロスに居る怪人と呼ばれる者達なのはご存知かと。そして最後の写真の男、その名なギンジと呼ばれているそうです」

 

 ウメミツキの言葉がさらに続く。

 

 「今年の2月。その怪人ギンジは、中央度固化の湾岸エリアにて、略奪を行っています。さらに警備員の妨害。そして、五天様の貴重な式神の札の入ったコンテナをここで破壊しつくしたようです」

 「・・・でもその事件って2月・・・なのだろう?何故今になって・・・」

 

 どうにも理解できないレイナの質問はもっともなのだが、それには無視しウメミツキはギンジについての話を行う。

 

 「・・・この人間?怪人?について調査をお願いしたいのです。ヘルブラッククロスという悪もそうですが、どうにも魔の者の気配を感じるのです・・・この男にはなにやら悪の波動も感じます」

 「ふむ・・・」

 「そして魔の者であれば、容赦なく滅するのです。これ以上、こういった存在が生きながらえる事を、許してはいけません」

 

 ウメミツキと五天、そして退魔教会の目的は常に勧善懲悪。

 

 魔が関わる事件には必ず、戦いに巻き込まれる。そしてこんな怪人達を教会としても放ってはおけない。それはレイナも気持ちとしては変わらない。

 

 だから度固化市でまともに戦える退魔師である、レイナに依頼をするのだろう。

 

 「ヘルブラッククロスについては警察も行方を追っている最中だ。私が退魔師として、この怪人男の情報をつかめば良いのだな?」

 「物分りがよくて助かります。それでは・・・」

 

 ウメミツキは手をお腹の前で組むと一礼。

 

 五天の老人達が相変わらずいやらしい視線を送ってくるが、それらをレイナは全て無視する。

 

 適当にその場を後にすると、レイナは表情を変えずに頭の中でギンジの事を考える。

 

 (さて、厄介な事になったな・・・ギンジにこれから会えないだろうか・・・)

 

 幸いレイナの役職であれば、表の警察も簡単にお休みを取れる。

 

 であれば直ぐにギンジと合流して、話を行わないといけない。

 

 彼を守るために。

 

 教会を出ていき、レイナは紫陽花の道を通る。

 

 そんなレイナの後ろに白い者が気配無く、気づかれることなく着いてきていた。

 

 不穏な陰りはやがてレイナの運命に大きな試練を与える。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 「と、言うことなんだギンジ」

 「何言ってんの?」

 

 繁華街で偶然ギンジと、神宮カエデをみつけたレイナは二人をカフェに招待する。テラス席で三人が座りながら、レイナは事の経緯を話していた。

 

 ギンジとカエデは相変わらず、ヘルブラッククロスのアジト探しに繰り出していたようで、そこをレイナに発見された。

 

 事の経緯を話されたギンジだが、何を言っているのかあまり良く解らない。

 

 「ねぇ、バカギンジ。この人とはどういう関係なの?」

 

 カエデがギンジの耳元で語りかける。

 

 「あーこの人、警察なんだよ・・・いや、それは表の顔なのかな?えーと・・・」

 「・・・時にギンジ、この麗しいお嬢さまは一体何者なのかな」

 「やだ、麗しいなんて・・・」

 「いやいやレイナ、この人は全く持って麗しいなんて言葉は似合わないぜ。だって気が向いたら暴力を振るう・・・」

 「おほほほ。何か言いまして?」

 

 ビシぃっと、ギンジの脛にカエデの革靴がめり込む。

 

 「痛ってぇ・・・マジで痛い・・・」

 「で、レイナ・・・さん?は、こいつとどういう関係なんですか?」

 

 痛みで悶絶するギンジの横で、カエデとレイナの会話が始まる。

 

 カエデの問いに、レイナは紅茶を揺らしながら答える。

 

 「ふむ・・・簡単に言うなら、友達、かな」

 

 大人の女性の雰囲気でそう返すとカエデの瞳が揺れる。

 

 「へぇ、友達・・・」

 「あ、そういえばレイナの連絡先登録しといたぜ・・・特に用事なかったから連絡してないけど」

 

 痛みから復活したギンジもアイスコーヒーを飲みながら、レイナと談笑を始める。

 

 それを隣で眺めると、なにか気に入らない様子のカエデ。

 

 (まぁ、別に友達ぐらい出来てても、不思議じゃないし・・・)

 

 アイスティーを飲み干す。初夏の気温で火照った身体を、アイスティーが冷やしてくれる。

 

 その心地よさと気に入らない気持ちがぶつかり合うと、相殺してくれる感覚でほんの少し気持ちがやすらぐ。

 

 「で?俺は何をすればいいのさ。教会とやらに足を運んで、お祈りでもすればいいのか?それとも懺悔かな?」

 「・・・ここにカエデ君がいると話しづらい・・・」

 「あーらお二人で仲良くやりたいのね〜怪人様はおモテに・・・あっ

 「え・・・」

 

 カエデが口走った言葉は普通の一般市民には、決して理解できない。そしてまさか怪人と口走ってしまった事で、レイナはカエデを睨みつける。脅しではなく、刑事としての睨みの聴かせ方だ。

 

 「君は・・・何を知っているのだ?ギンジが怪人という事を知っているということは・・・」

 「あーえーと・・・」

 「おいレイナ、ここではあまりそういう話はだなぁ・・・」

 

 レイナの刑事モードにスイッチが入ったのか、カエデに尋問を開始する。

 

 嫌な汗が止まらない。ただの高校生の女の子では、この刑事の睨みから目を逸らせない。

 

 「ギンジに虜にされているのだな・・・」

 「ハイ??」

 「と、とり・・・されてないわよ!!」

 

 テラス席のテーブルを強めに叩き、反論する。

 

 「怪人は皆性欲が強いと聞いているからね・・・君も事情を知っている、哀れな一般市民・・・」

 「違うわよ!」

 「って言うか怪人って性欲強いのか!?」

 

 ゲームであればその設定も理解できる。しかし、この世界における怪人達はどちらかと言うと、好みはそれぞれあれどそこまで女おんなと騒いでいる様なところは見られない。

 

 「ギンジの性的な強さに・・・君は常に行動しているんだな?」

 「ちょっとギンジこの人話が通じないんですけど!!」

 「・・・俺も知らねー。こんな一面があったなんて」

 

 話が通じない。だが、カエデは、ギンジを怪人と知っているレイナへ、かつヘルブラッククロスを知っている様な口調と、会話ぶりから自分の正体を明かそうかと考える。

 

 「あのねぇ、レイナさん!」

 

 カエデが立ち上がり、レイナに指を指す。

 

 その直後に喫茶店の中から、爆発が起こる。

 

 唐突に起こったその大きな衝撃に、カエデの身体浮き、飛ばされそうになるもギンジがしっかり受け止める。

 

 「何事だ・・・?大丈夫か、カエデ」

 「あ・・・うん。ありがとう・・・」

 

 テラス席の他のお客も何が起こったのか、理解できずにどよめきが広がる。

 

 「また怪人の襲撃か・・・?」

 「かも、ね。ところでギンジ」

 「なんだい」

 「いつまで背中にくっついてるのよ!」

 

 肘で顔を殴られる。

 

 「いや、お前が怖いと思ったら可愛そうかなって・・・」

 「余計なお世話よ」

 

 辛辣な態度だが、内心はちょっと嬉しかったし、爆発においてはビックリよりも怖いが勝ったのも本当だ。その心使いが、レイナではなく自分に向いた事が、少しだけだが嬉しいのは事実。

 

 「この爆発は・・・」

 

 レイナがしゃがみながらギンジとカエデの元に近寄ると、二人に耳打ちをする。

 

 「申し訳ないギンジとその虜君。これはどうやら私の客の様だ」

 「レイナの客?どゆこと」

 「あとあたしは別にギンジの虜じゃないわー!」

 

 黒煙が吹き荒れる店内からは、銀色の修道服に身を包んだ、妖艶な女性の姿が確認できる。札をトランプみたいに持ち、辺り一面を爆発させる。

 

 「おいおい、めちゃくちゃだな・・・」

 「なんなのあいつ・・・」

 

 人に当たらなければ、その札は爆発するが人に当たればその札に吸収されて事なきを得る。

 

 「何故・・・その怪人男と一緒に談笑しているのでしょうか?」

 「ウメミツキ・・・」

 

 無表情な女性の目線は、どこを向いているのか解らない。

 

 「それの身体からは魔を感じる・・・」

 「違うんだ、ウメミツキ!彼は・・・ギンジは魔の者じゃない!!」

 

 ウメミツキが狙う先にいる、ギンジとの間にレイナが割って入る。

 

 「怪人・・・じゃなさそうだな・・・」

 「どちからかと言うと、悪者っぽさは感じられないけど・・・爆発させるなんてイカれてるわ。ギンジ!市民をお願い」

 「任せろ。女とは戦えん」

 

 黒煙に隠れてカエデがヘヴンホワイティネスへと変身をすると、レイナの横に立つ。

 

 「君は・・・え、ギンジの虜君??」

 「ヘヴン1よ!っていうかなんで解るのよ」

 

 ヘルメットは付けていないが、普通の人になら顔は隠れている様に見えているはずなのだが、レイナはカエデの顔を視認できている。

 

 それはつまりなんらかの特別な力を持っているという事だ。

 

 「レイナさん。貴女はあの怪人男をかばうのですか」

 「見ただけの魔を感じ取っただけで、あれを悪と決めつけるな!彼は私の友達だ!」

 「友達って本当だったの・・・?」

 

 ウメミツキの表情や目つきは常に見えないが、口元はへの字に曲がり、明らかに不満を垂れ流しにしている。

 

 「あれを放っておいたら、市民が危険にさらされるのですよ」

 「あんたの行動の方が、危険よ!」

 「我々の行動は、全て平和のためです。部外者は引っ込んでいてください」

 

 ウメミツキの言葉は淡々とした機械の様な物だ。カエデであってもレイナであってもこの式神には、何を言っても通用しないだろう。

 

 「式神がここまでの事をして良いのか?五天に消されるぞ」

 「貴女が・・・魔の者と談笑しているのが悪い」

 「知ったような口を」

 

 レイナもカエデと同じ様に、変身する。修道服に変わると、臨戦態勢を組み始める。

 

 ここで戦闘を行うのだろうか。ただ、一般市民は札に封じ込め、被害が及ばないように配慮はしてくれている。

 

 だが敵意の態度はレイナにもカエデにも向けられず、市民の避難誘導に動き始めたギンジにのみ向けられている。

 

 「あんたの目的は何よ。ここで暴れようなんて考えてるんじゃないわよね」

 「それはあの魔の者の対応次第です」

 

 五枚の札を取り出したウメミツキは、それをカエデの後ろにいるギンジへと投げてくる。

 

 「破邪の剣!」

 

 レイナの掛け声と共に現れた鞭のようにしなる剣が、ウメミツキの札を斬って落とす。

 

 「レイナさん。本当に魔の者に与してしまうのですか・・・?」

 「ふざけた事を抜かすな。彼は魔の者ではない。私が保証する」

 「魔の者かどうかは知らないけど、少なくともあいつは悪い奴じゃないわ!正義の仲間に手を出すなら、痛い目に合うわよ」

 

 カエデとレイナが構えるが、ウメミツキも同じ様に構える。

 

 「なぁ、あいつって式神・・・?とか言うの?」

 

 カエデとレイナの真後ろで、覗き込む様にギンジが顔を出す。

 

 「退魔教会、と言う者たちが常時展開できる式神だが・・・それがどうしたのかな」

 「いや・・・なんか、不思議というか」

 「何がよ」

 

 ギンジの言葉に警戒するカエデが視線を変えずに、ギンジに問返す。

 

 ギンジにはある事に違和感を持っていた。式神と呼ばれているウメミツキはより人間らしさを残した、平和の為に真面目に、真っ直ぐ動いている。

 

 そしてなにより式神と呼ばれる者が、ただの襲撃ではなく人を襲わず、単独自分を狙うこと。

 

 「付け加えて言えば式神が御札、なんて使うもんなのか?」

 「事例が無いわけじゃないが・・・普通ならありえないが」

 

 ウメミツキの正体が何者なのか。それが今ギンジに取って気になる事だった。

 

 ギンジも知識程度でしか無いが、式神がこんな人間味があることに違和感を感じていた。

 

 「なんというか・・・人間っぽいというか」

 「あれは間違いなく式神だと思うが」

 「魔の者・・・ここで」

 

 ウメミツキの言う言葉が最後まで伝えられることはなく、サイレンが繁華街に鳴り響く。警察が来たのだろう。それと消防車と救急車も。

 

 「・・・またお会いましょう。レイナさん」

 

 急に戦闘態勢の構えを解き、ウメミツキは札に封じ込めた一般市民を開放する。そのまま翻し、綺麗にはだけた背中を見せつけるように、壊れた店内へと姿を消す。

 

 それらをギンジとカエデが受け止めると、レイナは修道服のままウメミツキを追いかけようとするも、ギンジが呼び止める。

 

 「待て!今は追いかけるな。今は市民の優先じゃないか?警察さん」

 「・・・そう、だな」

 

 急な襲撃だったが、一先ず大事にならなくて済んだ。今はその事に安堵し三人は都合が悪くなる前に、喫茶店のテラスから離れるのであった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 一先ずアジトであるカエデハウスへと逃げてきたギンジ、カエデ、レイナの三人。

 

 1階の食卓を囲める大きなテーブルで、ミドリコとレン、遊びに来ていたケイタの向かいの席に、ギンジ、カエデ、レイナが座る。

 

 同業者故か、ミドリコとレイナは話せる程度のお互いの情報を話し、中央度固化市で戦う正義のヒーローヘヴンホワイティネスの正体を知ることになる。

 

 「まさかゲヘナミレニアムと戦っていたとは」

 「甘白さんこそ、ヘルブラッククロスを追っているとは」

 

 ミドリコとレイナが並ぶと美人姉妹みたく思えた。二人ともスタイルは良いのだ。

 

 ギンジからすれば見慣れている事もあってか、ミドリコの方が幼稚に見えてしまう。

 

 「で、レイナさん。あのウメなんとーかっていうのはなんなの?」

 

 カエデはカップに入ったアイスココアを飲みながら、レイナに聞いてみる。

 

 「・・・退魔教会の式神だ」

 「その、退魔教会、というのは?」

 

 次はレンが口を開く。

 

 「平和の為の志を持った、正義の過激派・・・とでも言うだろうか」

 「過激派ぁ?そんな奴に狙われてるなんて光栄だね」

 「バカギンジはちょっと黙ってなさい」

 

 ギンジのふざけた態度にカエデが一喝する。

 

 「退魔教会・・・その組織がいることは知っているが、なぜ熊沢さんはそこに所属を?」

 

 ミドリコもついで口を開く。

 

 「・・・私の育った孤児院が、その教会。聖カエルム教会で育った退魔師なんだ」

 「今更何があっても僕は驚かないけど、退魔教会って組織はどんな組織なの?」

 「・・・そうだな、人知れず心を踏みにじる悪と戦う組織、とでも言うべきかね」

 「ほー。そんな組織だったんか。てっきり退魔警察とか言ってたから、警察組織ともつながりがあるかと思ってたぜ」

 

 ケイタの質問にも答え、次のギンジの発言にも答える。

 

 「実際、つながりはあるんだ。退魔師はほとんどの場合警察との協力関係を結びながら戦っている事もある。私の師匠であった、二階堂マサヨシって人も表向きは警察だったからね」

 

 そのレイナから出てきた新たな人物の名前に、ミドリコは反応する。

 

 「二階堂さん!?あの、警視長の、二階堂マサヨシさん!?あの犯罪組織のアジトで大暴れして、最後は自爆特攻したという伝説の・・・」

 「あ、ああ。間違いなくその二階堂マサヨシさんだろうな」

 

 ミドリコの興奮にレイナは表情を曇らせる。

 

 「表向きは自爆した事になっているが、死の真相はゲヘナミレニアムの魔人との戦いにて破れた・・・のが真相だ」

  

 レイナの語りに、その場の五人が黙り込む。

 

 「私の親友も・・・戦いで命を落としてな」

 

 寂しそうに語るが、話を本筋に戻す。

 

 「退魔教会はこの街だけに限らず、世界に蔓延る魔の者の存在を許してはいない。魔の者が絡むことならば、全力をかけて滅する。それが退魔教会」

 「わからないのが、なんで俺を狙うんだ?俺は人間だぜ?」

 

 ギンジの目の前に教会で預かった写真を見せる。ギンジは無言のままそれを受け取ると、何枚かの写真に目を通す。その隣でカエデが覗き込んでくる。

 

 「こりゃ怪人達の写真だな。オーク怪人、触手、タコ、犬、剣士・・・」

 「ギンジもいるわ」

 

 カエデが奪い取ると、その写真をミドリコとレンとケイタに見せる。

 

 「うわぁ・・・」

 「なんだよケイタ。男前だろ、その写真の俺」

 

 ギンジ達三人の向かいのミドリコ達に見せた写真は、物々しいギンジの写真。コンテナの上で月光を背に警備員を殴り飛ばすギンジの写真を見て、ケイタは怖いとでも思ったのだろうか。

 

 「あーこれ、まだ2月ぐらいのときだな。ヘルブラッククロスに怪人にされてわりと直ぐだわコレ」

 「この写真を元に、君を、退魔教会は身辺調査をしきりに起こっていたようだ。だが見つからなかったらしい」

 

 理由は明白だろう。なぜならギンジはヘルブラッククロスを離反した後、公安警察であるミドリコの家に匿ってくれていたからだろう。

 

 だから今日まで存在は知られていても、見つかることは無かった。だが今日はレイナと邂逅した事でギンジは退魔教会に狙われている事が発覚した。

 

 「まー要するに俺の身の潔白が証明されればそれでいいんだろ?」

 「それはそうだけど・・・」

 

 レイナの弱気な態度にギンジは少し苛立つ様な気持ちに、語気を強める。

 

 「その退魔教会ってところに、顔出してやろうじゃねぇかよ」

 「ちょっとバカギンジ!」

 「いいんだよ。狙われるならヘルブラッククロスだけでいい。正義の過激派って言っても、俺たちと同じ志を持ってるなら、俺の潔白を証明してヘヴンホワイティネスの味方になってもらおうぜ」

 

 ギンジの提案はたまに、ヘヴンホワイティネスの面々を感心させる。

 

 「君を、逃してくれるとは思えないが・・・」

 「俺が魔の者じゃありませんよーってのを証明して、それでも文句言ってくるなら、ぶっ飛ばす。それでいいだろ」

 

 そう上手くいかない事も多いが、今のギンジにしてみればゲームの展開通りに行かない事件に出くわすことが多い。

 

 どうせ色々なイレギュラーに今後も出くわすなら、早めに解決しておいたほうが良い。

 

 「じゃあ今から行くか」

 「今!?」

 「ちょっと待つんだギンジ。少し日を開けたほうが良いんじゃないか?」

 

 ミドリコの静止をギンジは聞き入れずに席を立つ。

 

 「来たくなかったらお留守番でもいいぜ。それでも俺は行くしな・・・あまり時間もないしよ」

 

 今日は6月26日。運命の日は近い。そんな日にイレギュラーを抱えて28日に何か邪魔があってからでは、いよいよギンジの守りたい未来は破綻してしまう。

 

 「レイナ、教会まで行こうぜ」

 「本当にいいのか?」

 「当たり前だぜ」

 

 カエデはこういうギンジの行動力の高さを、カエデなりに評価はしている。

 

 「レンはどうする?」

 「私は、ケイタとまだ一緒に、居たいから・・・」

 「そ。それじゃ、あたしとミドリコはお邪魔みたいだし、せっかくだし、レイナさんの手伝いに行くわ」

 「え、私もか・・・?できれば若者の尊い瞬間を・・・」

 「いいから行くわよ!!」

 「はい・・・」

 

 やることは決まった。退魔教会に顔出しして、ギンジが悪者ではないと言うことを証明する。

 

 レイナ、ギンジ、カエデ、ミドリコはカエデハウスを出ると、南度固化市へと向かう。

 

 昼間の時間は終わりに近づき、夕日となりその顔を沈ませる。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 場所は再びカエルム教会の地下。ウメミツキは繁華街で起こった事を五天に報告していた。

 

 たわわな身体を舐め回すように見回す老人達に、ウメミツキは何も抵抗をしない。

 

 「・・・ウメミツキ・・・お前は過去の事を覚えているか?」

 「私に過去はありません」

 「よしよしいいぞ・・・」

 

 ウメミツキの胸や足、指先、首筋のひとつひとつを老人達はいやらしく見つめ続ける。

 

 「しかし、この子を式神と信じているなんて、レイナは意外と鈍臭いんですなぁ」

 

 右側に座る老人が悪い笑顔を浮かべる。

 

 「くっくっくっ・・・」

 

 ウメミツキから視線は外さず、中央の老人はいやらしい下劣な笑みで舌なめずりをする。

 

 「今はどんな気分だウメミツキ・・・いや、如月ナルミ」

 

 左側に座る老人退魔師が、汚らしい声でウメミツキをの真名を呼ぶ。するとウメミツキが身体をピクリと動かす。

 

 「緊張しているのか・・・?ま、無理も無い。さぁ、こっちへこい」

 

 老人達にせがまれるとウメミツキは少し躊躇ったのか、足が動かさない。しかし直ぐに老人達への思いを払拭すると、道場の中心まで進む。

 

 本当は報告など必要ない。この老人達にとっては、若い女を自分のモノにできていればそれでいいのだから。

 

 ウメミツキ、こと如月ナルミは既に死んだ事になっている。

 

 ゲヘナミレニアムとの戦いのさなか、レイナへの攻撃をかばって死んだ。という事になっている。レイナもそれは目の前で見ている。彼女の心が大きく傷ついた原因でもある。

 

 しかし致命傷のところを助けて、復活させたら今度は退魔師ではなく、五天の老人のおもちゃにされて5年以上も気持ち悪い人生を送ってきた。

 

 致命傷の影響でもはや如月ナルミの心は壊れ、レイナの事を誰だったのかもあまり思い出せていない。そんな状況下において老人達はいいように嬲った。

 

 心はさらに壊され、身体を汚され、人格を否定され、退魔師としてのプライドも、一人の女性としての夢をも失い、今はまともに動けない老人達の世話係。それがウメミツキ。如月ナルミのもう一つの名前。

 

 道場の中心まで行くと、中心に座る老人が手を叩きウメミツキの礼装を弾け飛ばす。それすらも彼女は動じずに受け入れる。

 

 「ふん・・・傷だけは気に入らないが、その綺麗な身体はやはり瑞々しいな・・・」

 

 今日もウメミツキは老人達のなぐさみものとなる。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 カエデハウスを出て、ミドリコの車で南度固化に向かうギンジ一行。

 

 車内ではレイナとカエデが仲良くなっていた。

 

 助手席でギンジがサングラスをかけ直し、ミドリコは運転の姿勢を崩さず、レイナとカエデは後部座席でお互いの正義の話や、志の話で意気投合でもしたのだろう。

 

 「ところで・・・カエデ君と甘白さんはギンジとどういう関係なのかな」

 「別に・・・ただの・・・アレよ、味方よ」

 「正義の味方、だな」

 

 「じゃあヘヴンホワイティネスの味方、って事で仲間ではないのかな?」

 

 妙な言い回しをするカエデとミドリコに、レイナは悪戯っぽく微笑むとギンジに視線をうつす。

 

 「退魔師にならないか、ギンジ?」

 「急な提案だな。別にならんよ」

 「そうか・・・君程の実力者なら歓迎なのだがな。人手も少ない現状だしな・・・」

 

 どこか寂しげに言うレイナの言葉にギンジは「考えとく」と一言添えておく。

 

 「今はヘヴンホワイティネスの方で忙しいしな」

 

 今カエデとミドリコがギンジを、仲間と言わなかったのが不服だったのか、少しふて寝するような態度に、ミドリコが苦笑する。

 

 「そうか。今日の事が無事に終わったら、また返事を聴かせて欲しい」

 

 嬉しそうな笑みにカエデは何か不安になる。ギンジが本当に退魔師になったらヘヴンホワイティネスは・・・。

 

 (あら・・・今日なんでかバカギンジの事をよく考えるわね・・・)

 

 レイナと仲良くしゃべるギンジにむかつき、レイナの提案に対して考えておく、等と口走るギンジに不安な気持ちを抱く。

 

 ささいなことだが、カエデの心に少しだけ痛みが走る。チクチクとした痛みが。

 

 それはさておき車が南度固化に入る。いよいよ目的地に近づくその瞬間にギンジとレイナは神妙な顔つきになる。

 

 聖カエルム教会。レイナの育った場所であり、度固化全体における魔の侵入を防ぎ、人々の平穏の為に戦う退魔教会の支部。

 

 「見えたぞ。甘白さん、あの白い教会です」

 

 車内に居る皆にレイナが、目的地である教会へと指を指す。

 

 指し示した白いレンガの教会に、ギンジは硬唾を飲み込む。実際どうなるか解らない事だが、どうにもこの教会には正義を感じられない。不思議と悪趣味だな、と頭の中で思ってしまう。

 

 上手く考えはまとまらないが、ここに来た目的はただひとつ。ギンジ自身の身の潔白を証明することだけ。

 

 レイナが言ったようにそう上手く行けば、何も面倒事は起きなくて済むのだが。

 

 教会の近くの道路に車を停めると、四人は教会へと足を進める。

 

 荘厳と言うと大げさだが、確かに美しい教会の姿形に、カエデとミドリコは心が現れる様な気持ちになる。

 

 不思議とここに居るだけで、正しい精神力をもらえる様な。根が善に傾いている三人の女性は居心地が良いのかもしれない。

 

 心は善でも身体や思考は、悪に近い形で造られたギンジにはここの雰囲気がどうにも気持ち悪く感じていた。

 

 夕日が照らす教会は尚美しい輝きを放つステンドグラスが、迎え入れる・・・というよりは飲み込むという感覚がギンジからすると正しい表現かもしれない。

 

 「どこにその退魔教会なるものが居るのかしら?」

 

 カエデが腰に手を当てながら、夕日に照らされる石畳の道を歩く。

 

 「そんなのなんでもいいだろ。来てやったんだから、今度はこっちが呼び出そうぜ」

 「呼び鈴なんて無さそうだけど・・・?」

 

 ギンジの横暴とも取れる対応に、カエデが横からぶつかる。

 

 その二人の行動を後ろで眺めるレイナは、かつての自分を思い出す。如月ナルミと熊沢レイナの任務帰り、よくこうして雑談しながら夕日の道を歩いた。それをギンジとカエデに置き換えて、過去を体験した気分に浸っていた。

 

 「いつか彼女達が、戦いを考えずに笑い会える未来を、守らないといけませんね」

 

 ミドリコがヒールを鳴らしながら、レイナの横で微笑する。それを聞き入れるとレイナも同じ気持ちで頷く。

 

 「そうですね。同じ警察として、お互い精進しましょう」

 

 レイナのその言葉にも同じくミドリコが頷き、再び視界をギンジとカエデに移す。

 

 「おーい退魔教会の皆様〜。佐久間ギンジが来ましたよぉおおおお〜コラーおいー」

 「コラコラギンジ、そんな呼び方したら駄目よ。っていうか教会なんだからサングラスぐらい外しなさいよ」

 

 当たり前だが教会の眼の前で、ガラの悪い大声を上げる事は許されない。

 

 「ここはちゃんと礼儀正しくするのよ」

 

 カエデが教会の扉を強めにノックすると、重たそうな扉が少しだけ開く。

 

 そして影の広がる向こう側からは2メートル程はあろうか、人の形をした紙がギンジとカエデの目の前にスルリと抜け出てくる。

 

 「魔の者の気配を一瞬感じましたが・・・なんだただの人間ですか。頭の悪そうなお嬢さんも帰りなさい。ここはじきに暗くなります。それでは」

 

 謎の紙人間はそれだけ言うと再び教会の中に戻る。そして重たい扉が音もなく閉じる。

 

 「熊沢さん、あれは一体」

 「あれが式神です、甘白さん」

 

 ギンジ、カエデの半歩後ろで二人の警察が、小声で話す。

 

 頭の悪そうなお嬢さんとはどういう事だろうか。カエデはこれでも成績もスポーツも優秀な神宮財閥19代目(予定)なのだが。

 

 その隣でギンジもイライラしているのか、急に怒鳴りだす。

 

 「テメェらが俺を探しているって言ったんだろうが!だから来てやったんだろうが!バーカ!バーカ!」

 

 最早成人男性とは思えない言葉で、教会の入り口で騒ぎ立てるギンジ。そんなチンピラみたいな見た目のギンジの肩を優しく叩くとカエデが注意をする。

 

 「ちょっとギンジ、口が悪いわよ」

 

 注意をしたカエデの表情も怒りが出てきているのか、口角が引きつっている。

 

 「だけど今は許すわ」

 

 その言葉をギンジが聞いた途端二人で、教会へ向けて罵詈雑言を浴びせる。

 

 『バーカ!バーカ!』

 

 それでいいのかヘヴンホワイティネス。

 

 「落ち着き給えよ二人とも」

 

 そんな二人の暴走をミドリコが纏める。

 

 落ち着くと、再びギンジが扉に手を抑えて開ける。

 

 「お邪魔〜っと」

 「もっと礼儀正しくしろギンジ。事を荒立てに来たのではないんだぞ」

 

 ミドリコの指摘は最もで、ギンジは先程の事を悪ノリと一言で片付ける。

 

 「さっきの紙っぺらいないわね」

 「いいな、それ。式神の事紙ッペラって今度から呼ぶか」

 (ギンジとカエデは仲が良いな・・・)

 

 ミドリコが横目に二人を見ると、出来の悪い兄と、出来の良い妹の兄妹を見ている様な気持ちにほっこりする。今はそういった状況ではないのだが。

 

 「おーい。退魔教会の標的が来てやったぞー。ってマジで誰も来ねぇな。レイナ、本当に退魔教会ってここなのか?」

 「ああ。間違いない。私が帰ってきたのに、反応が無いとすると地下だな・・・」

 

 レイナの鋭い視線は、礼拝堂にひっそりと置かれた懺悔室へと向けられる。

 

 「あの小さい箱知ってるぜ。懺悔室ってやつだろ」

 「ギンジにもなにか後悔してること、あるのかしら」

 「ん・・・まぁ色々あるかな。前の世界のこととか」

 

 ギンジは転生者。湾岸エリアでの激戦を終えた後、ギンジに聞かされた話はにわかには信じがたいモノだったが、元々のヘヴンホワイティネスに所属するカエデ、レン、ミドリコ、そして事情を知るケイタもその事を知っている。

 

 唯一ギンジが伝えてないのはこの世界がエ○ゲーの世界であるということだけ。

 

 そんなギンジの前の世界では、生きた屍だったと聞いているカエデは、どんな後悔があるのかと少し興味が湧く。

 

 (聞いてみようかな・・・でも・・・)

 

 聞いてはいけない事なのかも知れない。おいそれと踏み込んで良い話題じゃないかも知れない。

 

 「ギンジの後悔とやらは非常に興味深いが、今は地下に言ってみよう。本来なら、部外者は入れないが、あなた達ヘヴンホワイティネスは別だ」

 

 美しい顔立ちでレイナが笑うと、思わずカエデとミドリコが可愛いとさえ思ってしまう。

 

 ギンジはアクビを噛み殺すと言った態度のままだ。きっとこの空間に漂う聖なる雰囲気が気に食わないのかもしれない。

 

 レイナが懺悔室を動かすと、その先には地下へつながる階段が姿を表す。そしてその先からは形容しがたい邪な雰囲気を感じる。

 

 「・・・ひと悶着ありそうだな。ミドリコ、銃は?」

 「あるにはあるが、あまり万全じゃないな・・・」

 「オーケイ。なら、ミドリコは車で待機だ。何かあったとき、カエデとレイナが無事に帰れるようにな」

 「ギンジも、でしょ」

 「もちろんよ」

 

 カエデの付け足しにギンジが頷き、ミドリコは言われたまま車で待機する為、教会を出る。

 

 残ったギンジ、カエデ、レイナはレイナを先頭にして階段を降りて進んでいく。

 

 洞窟とも言える様な薄暗い道を、ゆっくりと進む。ほんの少し歩いたら、木製の扉がギンジ達の目の前に現れ、その扉の前で印を結び始める。

 

 退魔師の技だろうか、その技が成功するとほのかに明るい光を展開させて、扉に集束すると木製の扉が開く。

 

 扉が開くといくつもの鳥居が並ぶ道に出る。

 

 一本の橋の様な土の道に鳥居が打ち込まれ、その左右には水が流れている。

 

 「この先だ」

 

 レイナの後方を進みながら鳥居の先を指差す。そこには神社の様な不思議な建物が、水の流れる地下空間の中心にそびえ立ち、中から薄暗い光が漏れ出ている。

 

 「幻想的ね・・・」

 

 辺りを見渡しながらカエデが呟くと、少し先にいるレイナに小走りで向かう。

 

 意外と歩くのが速いレイナに、カエデは気がついたら遅れていた事に気がつく。

 

 「ここだ・・・」

 

 神社に近づくと真っ先にギンジが作を飛び越えて、神社の入り口に立つ。

 

 「ギンジ?何をするつもりだ?」

 「決まってるだろ。俺を狙ってきてるやつらが、ここまで俺が来てるのに行動しないなんておかしーぜ。直接殴りこんでやろうとな」

 「やめなさいよバカギンジ。なんであんたってそんなに後先考えないのよ」

 

 確かにギンジがここまで来ているのに、出迎えたのはさっきの式神一つ。

 

 何かがおかしいとは思いつつも、ギンジの言うことにレイナとカエデもその通りだと首をかしげていた。

 

 「開ければこの先に、レイナの上司がいるのか?」

 「居るとは思うが、本当、手荒な事はしないでくれよ」

 「わーってるよ。大丈夫だよ。そりゃ」

 

 言ったそばから、神社の入り口を蹴っ飛ばして破壊する。

 

 「何をしてるんだ君はーー!」

 「まあまあ、気にすんなよ。俺が悪者じゃないって事を証明しに来たんだからさ」

 「言ってることとやってる事がめちゃくちゃよバカギンジ!えいや!」

 

 いつの間にか変身していたカエデも作を破壊する。

 

 「やめろーー!それなりに歴史のある場所なんだぞ!」

 「まあまあ、全て終わったら全部直してやるからさ、気にすんなよ。オラァ!」

 

 次々と破壊を繰り返すギンジとカエデに、混乱が収まらないレイナ。

 

 「ハハハハハ!」

 「キャハハハ!」

 

 二人がこんなにおかしいとは・・・。何が起こっているのか。

 

 二人は半狂乱になりながらも神社を破壊し尽くし、レイナも次第に口元が緩み始める。

 

 「ふひ・・・ふひひひ」

 

 ついにはレイナも変身し、壊れきった神社へ攻撃を開始する。三人の破壊は止まらない。でもそれが楽しくてしょうがない。

 

 「アハハハハハハ」

 

 レイナの半狂乱に攻撃をし続ける。

 

 ここで幻惑を見せられているとも知らずに。

 

・・・・・・・・・・・・・・

 

 「おい!カエデ!レイナ!どうしたんだ!」

 

 神社の前で、急に動かなくなってしまった二人の女性に、ギンジは身体を揺らすが、カエデとレイナから反応はない。

 

 神社にたどり着いた瞬間に二人は、ここで倒れてしまった。

 

 「ほう・・・一人だけ幻惑に飲まれなかったか」

 

 ギンジの後ろで謎の老人が、先程繁華街で喫茶店を襲撃してきたウメミツキがギンジを迎え撃つ準備を整えていた。

 

 「魔の者・・・」

 「また会ったな・・・綺麗なお姉さん」

 

 二人を見上げながらギンジは思考を巡らせる。

 

 (相手は二人・・・。爺さんの方はいいとして、お姉さんのほうが厄介だな)

 

 ギンジは明確な理由がないと、女性をなるべく攻撃しない。

 

 (うーん・・・でもカエデもレイナも襲われたらマズイしな・・・ここは心を鬼にしてあのお姉さんを叩いた方がいいか?)

 

 ここでミドリコを待機にさせたのは失敗だったか。

 

 (いや、守らないといけないのが一人増えるだけだな。レンもいなくて正解だこれは・・・)

 「考えはまとまったかね」

 「では・・・行くぞ、魔の者!」

 

 思考を巡らせている最中だが、老人の言葉で現実に戻りギンジはコウモリの羽を生やす。

 

 「変身した・・・?」

 

 飛翔するギンジに狙いを定め、札を展開させるウメミツキの攻撃体制に、ギンジは急ぎカエデとレイナを担ぎあげ、鳥居の奥の洞窟の入り口へと運ぶ。

 

 何かしらの攻撃で怪我をさせてはいけないと、ギンジの配慮で二人は階段に座らされる。

 

 「何をしているのかね、小童。その女は我々の所有物だ。返してもらおうか」

 「ヤダね。俺の友達なんだわ。あと、人を所有物とか言う奴にわざわざ渡さねぇよ」

 

 赤い服の老人の言葉がギンジに届くことはない。

 

 「魔の者・・・お前みたいな者がいなければ、人々は平和に暮らせるのに・・・!」

 

 先程展開した札をギンジに向けて風を吹き出す。その風圧でギンジは浮いてしまうが逆手にとり上手く飛翔する。

 

 「これでしまいじゃ、小童ぁ」

 

 赤い老人が術を発動させると、爆炎となり飛翔するギンジに命中する。恐るべき速さに避けられなかった。

 

 「今じゃ・・・ウメミツキ」

 「怨喰転密払怪舎・・・封!!」

 

 ウメミツキの呪文で燃えるギンジの周囲に、封印の札が展開されていく。

 

 「こんなモンで俺を止められると思ってんのかぁ?」

 

 円型に展開された札を、中心にいるギンジが一枚ずつ火炎放射で焼いていく。

 

 そして爆炎を割るように、不敵な笑みを浮かべた怪人が現れる。

 

 「あの魔は強そうだなぁ・・・」

 「逆に爺さんは弱そうだな!」

 「抜かせ小童ぁ!」

 

 挑発に反応し、赤い老人が術をさらに展開していく。何個も炎を飛ばすも、今度はその炎をギンジが右手で吸収して、左手で打ち出す。

 

 「炎はこうやって使うんだぜ」

 

 射出された炎はウメミツキが札で斬るが、2つに別れた炎はウメミツキを中心に背後へと飛んでいく。そしてその炎は守られた赤い老人を挟み込む様に不規則な動きで、赤い老人に命中する。

 

 「ぐおおお!?小童ぁ・・・!な、ナルミ!助けんか!」

 「赤天様!」

 (ナルミ??あれの名前、ウメミツキとか呼ばれてたよな・・・?)

 

 赤い老人の呼びかけたその名前に、ギンジは再び思考を巡らせるが、その考えは一瞬で無くす。

 

 ひとまずはカエデとレイナを助けないと行けない。

 

 (幻惑がどうとか言ってたな。水に落とされる前に老人の動きでも止めてみるか)

 

 その考えが決まると再び飛翔。雷を纏わせ錐揉み回転で赤い老人へと突っ込む。普通に飛ぶよりも早く、ギンジは赤い老人をその両手で抱込むように捕まえる。

 

 「ゲットぉ!」

 「離せ、小童!」 

 

 燃えたままの赤い老人を持ち上げて、首にギンジの左手が食い込む。

 

 「魔の者が・・・その手を離せ」

 

 ウメミツキが再び札を展開させようとするが、ギンジがまるで盾にするかの様に燃える老人を差し出す。

 

 「攻撃したらこの爺さんを殺す」

 

 ギンジの性根はどちらかというと悪に傾いている。それ故抵抗されれば本当に首を折るつもりでいる。

 

 「爺さんが抵抗しても殺す。息をしたら殺す。声をあげたら殺す。あのお姉さんに指示を出しても殺す。そしてお姉さんがなにかしてきても殺す。さらに文句を言ったら殺す」

 「殺す殺す言うんじゃない!あ、待って、痛いいたい」

 

 本当に首を折られるかと思った。それぐらいの強い力で首に爪が食い込み、骨に届きそうだった。

 

 未だ燃える老人にギンジは一先ず容赦する気はない。

 

 「幻惑がどーのこーのとほざいてたけど、解除の手段、及び方法はあるのか?」

 

 低い声で、そして明らかな殺意を持って首を握るギンジは、赤い老人に脅しをかける。

 

 「・・・そうだな、儂が死ねば解除されるかもしれんぞ」

 「じゃあ試すか」

 「待って!嘘です!ごめんなさい!」

 「ふざけたことを抜かすなよクソジジイ。次は必ず折るぞ」

 

 最早抵抗も出来無くなってしまった老人は、自分の命惜しさの嘘は通じないと観念してしまう。もう身体はやけどでボロボロだ。

 

 「・・・儂の任意で解く・・・それで許してくれ」

 「おう、じゃあ今直ぐ解除しろ。やんなきゃ殺す」

 「死ねば解除できなあだだだだ解ったから、もうやめてくれぇ〜。死にたくないんじゃ・・・」

 

 情けない声で懇願し、幻惑の術を解除する。

 

 「ニャハハハハ・・・あれ?」

 「きひひひひ・・・ん?」

 

 カエデとレイナが高笑いをしながら目を覚ます。

 

 「おーい無事かー?お前ら幻惑とやらにやられてたみたいだぞ」

 「やられた・・・私とした事が・・・」

 

 ギンジが赤い老人をそこそこの高さから、水に投げ落とすと、次はウメミツキの方へ降りる。

 

 「でさー、こいつナルミっていう名前らしんだけど、レイナ知ってる?」

 「・・・は?」

 

 幻惑の世界では楽しかったのか、少しツヤツヤしている様に見えるカエデとレイナに、ギンジは二人の無事を確認して安堵する。

 

 しかし、ウメミツキを指差して放たれたギンジの言葉はレイナにとって信じられない事を聞いた。

 

 「バカな事を言うなギンジ。ナルミっていうのは・・・」

 

 レイナがギンジとウメミツキの居る場所へ向かおうと、強めに踏み出すが、その足元を先程の赤い老人がはいでてくる。

 

 「ぶほぉ・・・早く助けろ、ナルミ!儂が死んでしまう」

 「・・・赤天様・・・今、なんと?」

 

 レイナが赤い老人を腕を引っ張り上げると、激しく咳き込みながら苦悶の表情を浮かべる。ウメミツキの方を向いて安心する。

 

 そして自らを助けた人物を見て、老人の顔はひどく戦慄したモノになる。

 

 「・・・ウメミツキがナルミ・・・?ど、どういう事なんですか・・・」

 

 レイナの記憶が正しければ如月ナルミという存在は、ゲヘナミレニアムとの戦いで死んだ筈だ。

 

 墓だって立てられ、その為の墓参りだって月命日をかかさず来ていた。

 

 ウメミツキは困惑するレイナを見て、動かない。

 

 老人は何か言い逃れを考えるような、悪い顔をしている。

 

 「ワケアリみたいね」

 「まぁこういう奴らは、だいたいワケアリだろ。さーて、クソジジイ。死にたくなかったら、洗いざらい・・・」

 「待ってくれギンジ。私が話をする」

 

 にじり寄るチンピラスタイルにレイナは軽く言うと、ギンジは後ろにさがる。レイナの表情は色々な感情が混ざりあった複雑な顔をしている。

 

 その隣でカエデもレイナと老人を見守る。ギンジはウメミツキの動きに変化がないか警戒する事にする。

 

 「あなた達は・・・何をしているんですか・・・答えてもらうぞ」

 

 レイナはスーツのまま破邪の剣を引き抜く。

 

 顔はだんだんと虚ろなモノとなっていき、精神を病んでいる様な形であり、とても怒りや悲しみだけでは表せない表情に老人は追い詰められる。

 

 「レイナ・・・あ、あれは・・・ウメミツキは、だな、如月ナルミなんだが、なんていうか」

 

 口をモゴモゴしながら話しを始める老人に、破邪の剣が鼻先を掠める。次は耳を切りつける。

 

 「・・・早く言わないと・・・私、どうにかなりそうです」

 

 刃を一度引くと、老人は出血を抑えながら、話し始める。

 

 「ナルミが・・・こうなったのには、理由があるのじゃ」

 

 ゲヘナミレニアムとの戦いで死んだ筈の、レイナの親友が今こうなった真相を。

 

 聖カエルム教会の孤児院で育った、レイナとナルミ。姉妹であり、親友とも言える二人。

 

 意対化(いつか)市。

 

 ゲヘナミレニアムの支部があると言われたこの街では、氷の魔人の出現が社会の裏を牛耳っていた。

 

 その氷の魔人との戦いには、レイナとナルミが二人で討伐に挑む。

 

 二階堂マサヨシは死亡し、二人に大きな心の傷を与えたが、今までもなんとかお互いに助け合いながら戦っていた。

 

 そんな状況下において、魔人の討伐はできてもナルミは無茶な戦いをしてしまい、深手を負ってしまっていた。

 

 「気絶したままのナルミを、その時は預かったのじゃ・・・」

 

 赤い老人がわなわなと喋る内容に、レイナの表情は変わらず、老人の眼の前で破邪の剣をぷらぷらと動かしている。

 

 「ふひ、確かにその時は預かったのじゃ・・・お前が必死だったしな・・・だけど、そのう・・・ナルミをこのまま治療しても、後々の旨味がないと思ってな・・・」

 

 旨味。その言葉にギンジの眉がピクリと動く。

 

 聞いていれば、ナルミ・・・ギンジから見たウメミツキはレイナの友達。

 

 その友達に対して、こいつらは何をしたのか。

 

 「なぁ、俺からも聞いていいか?」

 

 レイナの後ろでギンジからの一声。

 

 「レイナと・・・そのナルミっての、姉妹でかつ親友?なんだろ?で、そのナルミさん?は、なんでレイナと身長が違うんだ?あと、幼くも見えるんだけど」

 

 ギンジの考えにレイナが後ろを振り向く。その恐ろしい程の虚ろな顔に、カエデが背筋を震わせる。

 

 そしてギンジの言う、幼く見えるという単語を聞いて赤い老人が身体を震わせる。

 

 「その答えをそこのジジイは解ってるみたいだな?」

 

 再びレイナが無言のまま老人へ向き直る。

 

 「早く言わないと俺よりやばい事しそうだぜ、その人」

 

 脂汗を流しながら、老人は口を開く。

 

 恐れと、恍惚。2つを混ぜ合わせたいびつな顔。

 

 「・・・ナルミを預かった時、肉体を改造してな・・・若く、瑞々しければ、儂らの為になると思ってのう・・・」

 「なによそれ・・・」

 

 薄暗い洞窟でカエデが怖気に震える。

 

 肉体を改造するという聞き慣れない単語に、カエデが拳を硬く結ぶ。

 

 「ふひ・・・退魔師として優秀ならば、少しぐらい儂らの愛玩として扱ってもよいだろう?術式をいじくり回してな、こう、治療を終えたら儂ら先輩が、教育をほどこしてなぁ」

 

 その話を聴く傍ら、カエデがウメミツキを見る。彼女は動かず、微動だにしない。

 

 でも、涙を流しているような、悲しい表情に見えている。

 

 実際に泣いている訳では無いが、その姿にカエデははっきりと感じた事がある。

 

 (きっと・・身体が、心が泣いている・・・)

 

 痛む心に、胸を抑えるカエデの隣でギンジが、老人を睨む。怒りに身を燃やす。その心が怒りに燃え始める。

 

 「幼くして、柔らかくして、そして毎日泣き叫ぶまで、いじめてやった・・・」

 「ふざけんなぁ!!!」

 

 赤い老人が話し終えるよりもはやくギンジが、叫び走り出して膝蹴りを老人の顔にめり込ませる。

 

 鈍い音が洞窟に鳴り、地面を転がる老人。

 

 ウメミツキの正体はナルミという女性。

 

 そして私利私欲で退魔教会の老人は、今レイナの心を傷つけ、ナルミという女性の心を踏みにじった。

 

 今日の今日まで。

 

 「こいつは・・・俺が一番嫌いな事をしやがる・・・平気で・・・」

 「・・・」

 

 レイナは通路にぺてりと座り込む。もう視界はどこを向いているのかわからない。

 

 「ギンジ・・・」

 

 カエデは何か恐ろしい者を見ている様な、畏怖の視線をギンジに送る。

 

 「レイナ!立て、おら立つんだよ」

 「あ・・・」

 

 虚無に直行する彼女の襟首を持ち、無理やり立ち上がらせる。

 

 「俺の眼を見ろ。よーくみろ」

 

 レイナの眼の光が少しだけだが戻る。

 

 「あんな奴らにお前の友達はヒデェ目に合わされて、今あそこで突っ立ってるんだぞ。モノ言わねぇ人形にされて、心を踏みにじられてるんだぞ!」

 

 かつてギンジはこの世界での初めての友達である、バーナーの怪人に教えたことがあった。

 

 悪の存在を。平気で人の心を踏みにじれるやつこそが悪だと。

 

 ギンジの基準での悪が、目の前で嗤っていた。それがとても許せない。

 

 「実は生きていた・・・なんて・・・」

 

 レイナの言葉にギンジが、さらに怒りをヒートアップさせた。

 

 「こんな奴らに首輪繋がれて、人形同然にされてる奴が、生きてるなんて言えるかよ!!!」

 

 ギンジの怒りは彼なりの正義での話である。だけど、一緒に戦った友達であるレイナの心を踏みにじる事も許さない。

 

 「お前に友達って何かを教えてやるよ。もちろんこいつらクソジジイにもな!!!」

 

 ウメミツキはそれでも動かない。

 

 「レイナさん。その、上手く言えないけど・・・お友達、助けようよ。あたしも手助けするから。もちろんミドリコも、レンもケイタも。そしてこのバカギンジも」

 

 少なくとも、話に聞いていた退魔教会は正義の為に動いてなさそうだ。

 

 「その為に正義のヒーローがいるんだから、ね」

 「そうだな。今蹴っ飛ばした老人はもう喋れ無さそうだし、あとこんなクソジジイが何人程いるんだ?」

 「あと・・・四人。黄、緑、青、黒。退魔教会の五天と呼ばれる、かつて最強だった退魔師たちだ・・・なんで、どうしてなんだぁ・・・」

 

 地面に手を突き、大粒の涙をこぼす。レイナの信じていた正義は、今ここで崩れ去った。

 

 嫌な人でも、信用だけはしていた。何故こんな大事になったのだろうか。

 

 「泣くより先に、あのお友達どうにかしてこいよ」

 

 カエデがレイナの肩を叩き、二人でゆっくりと立ち上がる。

 

 そしてバイザーを取り外し、レイナはかつての友の姿を目にし、悔しさと、親友が生きていた喜びに涙がたくさん溢れ出す。

 

 幼くされたナルミの眼に光は無く、その眼はレイナが見えているのかわからない。

 

 「ナルミ・・・ごめんね、気づかなくて、解らなくて、助けてあげられなくて・・・ごめん、ごめんね・・・」

 

 気づかないとかわからないとかそういう問題じゃ、無いのかも知れないが、一先ずギンジは神社内を確認する。

 

 しかし道場みたいな内部には、誰もいない。

 

 (・・・後四人いるんだよな・・・?)

 

 ほんの少しだけ、嫌な予感がする。

 

 (まぁ。今は感動の再会ってことでいいか・・・)

 

 カエデに後を任せると、ギンジは上に戻る。

 

 洞窟ではレイナが、大声で泣きつづける。

 

・・・・・・・・・・・・・・

 

 「レン!緊急事態だ!今、襲撃されている!」

 

 車内で立てこもり、ミドリコはレンに連絡を送る。

 

 『怪人の反応は、無いけど、どうしたの?』

 「か、紙吹雪に襲われている!!」

 

 ミドリコの視界に映るのは、大量の紙。

 

 やたらと動き回り、一人になったミドリコの頬をスパッと切った。それらが何枚も襲ってくるのでは、拳銃一つではどうにも抵抗ができない。

 

 「頼む!ギンジ達が近くに居ないんだ!通信もつながらない!助けてくれ!」

 『解った・・・直ぐ、行く。待ってて、ミドリコ』

 

 通信を切ると一縷の望みを託した気分で、最後の弾薬を装填する。

 

 「早く来てくれ・・・私を一人にするなーーー!!」

 

 夜の教会で成人女性の叫びがこだました。

 

 

続く 

 

      

 




お疲れ様です。
前回より少し間が空きましたが、失踪してないです。
仕事が忙しく、そして例のアレに感染し、休みやすみでしたが、なんとか頑張ってます。

キャラネタ書きます

ウメミツキ/如月ナルミ
2月が由来。

熊沢レイナ
久しぶりに登場。泣いた

佐久間ギンジ
心を平気で踏みにじる者を悪とする。いいな!

バーナーの怪人
「俺様の出番まだぁ?」多分ない

神宮カエデ
なぜか解らないが、ギンジが他の女性と仲良くしてるとイライラするし、胸がなんか痛い気がする。気はするだけ

次回も頑張ります。感想お待ちしてます!それでは、また次回
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