正義のヒーローヘヴンホワイティネス   作:アトラクション

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こんにちはアトラクションです。

最近、辛いモノが美味しく感じる様になりました。
挑戦する辛さは苦手だったのですが、激辛料理が美味しく感じてます。

今回の話で退魔教会編が終わります。いよいよ物語は運命の日へと歩を進めていっていきます。

それでは、どうぞ!


16・君を想う願い

 退魔教会。

 

 人知れず平穏を脅かす超常の存在と、戦い続ける組織。

 

 南度固化市の退魔教会の行う正義は、私利私欲に飲まれた汚い悪に染まっていた。

 

 ヘルブラッククロスとはまた違う悪の道に、ギンジは怒る。平気で人の心を踏みにじる者を悪とするギンジに取ってみれば、何も知らないレイナをずっと自分たちの都合の良い様にあやつり、その友達でもあり姉妹同然のナルミの人格さえも否定した。

 

 「そろそろ行きましょう。レイナさん」

 

 未だ洞窟で咽び泣くレイナは、姿を変えられたナルミを抱きしめながら、長年の思いを叫ぶように泣き続けていた。

 

 ギンジは先に戻った。後は、まだ四人いるという五天をぶちのめさなければならない。

 

 「ナルミさんも、連れて行きましょ。このままここに置いていくのはアレだし・・・」

 「・・・すまないカエデ君」

 「いーのよそんなの。だってあたし達は正義の味方なんだから!」

 

 胸を張りながらドンと構えるカエデに、レイナはとても救われた気持ちになれた。

 

 「・・・君たちは、かっこいいな・・・」

 

 正義の意味を知っているつもりだったが、レイナは自身の育った環境に大きく裏切られた。

 

 五天とも呼ばれる老人達がどうしてこうなったのか、それを知りたいが、今はカエデの言うようにナルミを連れて上に戻ろう。

 

 (よくもナルミを・・・許さないっ)

 

 奥歯を噛みしめ、三人は洞窟を後にする。

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 黄、青、緑、黒の老人達それぞれが、赤が破れた事を感じ取る。

 

 青い老人が紙吹雪を操りながら、ミドリコの乗る車を攻撃し続ける。

 

 「ひっひっひ・・・あのオナゴも、旨味がありそうじゃ」

 

 涎を垂らしながら、式神の術で追い打ちをかける。

 

 動けなくすれば後は、自分達のおもちゃとして扱える。

 

 かつてナルミにした様に、レイナが連れてきたこの女性、ミドリコでさえも使おうと決めている。

 

 「一目見た時から、好みの女じゃぁ・・・!」

 

 紙吹雪は車を包み込むと、ギシギシと鈍い音を鳴らす。

 

 「おのれぇ・・・一体なんなんだ!」

 

 ミドリコが視界いっぱいに広がる紙キレを見て、車内で迎撃の体制を整える。最早逃げ道はない。自爆覚悟で突っ込むしか無いかとさえ考える。

 

 「何してんだクソジジイコラ」

 

 聞き覚えのある威圧的な口調に、ミドリコは思わず頬を緩ませる。

 

 紙吹雪は教会から飛び出したギンジの炎の力で、またたく間に燃やされる。火力が強すぎたのか、タイヤも焼いてしまったが、今のギンジはそれも気にしていない。

 

 「な、なんだお前は・・・」

 「う る せ ぇ」

 

 炎をまとった拳骨が青い老人の頭に命中して、ぐしゃりと強い耳障りの悪い音が手元で鳴るのを確認すると、蹴っ飛ばして花壇に突きこまれた。

 

 恐らく死んだ。それを確認したミドリコは、全身を燃やすギンジの姿に、いつもと違う【何か】を感じた。怪人とも違う、人という存在とも違う、異質な怒りを肌で感じ取った。

 

 「ギンジ、どうしたんだ・・・大丈夫なのか?」

 「・・・悪い、今は冷静になれそうに無いんだ」

 

 駆け寄るミドリコにギンジは炎を振るうと、花壇を燃やし尽くす。焦げた土の匂いがミドリコの鼻腔に入ると、ハンカチで口元を抑える。

 

 「この教会・・・退魔教会は悪者そのものだったぜ・・・」

 

 人の心を踏みにじる悪そのものであるという説明を受けても、ミドリコからすれば今のギンジの方が悪に見える。

 

 カエルム教会の鐘の上で、緑の老人が驚愕する。

 

 「なんなのだあれは。あんな怪物だなんて情報はないぞ」

 

 その真後ろで黄の老人も燃えさかる人間を見ると、恐れで身体震えていた。

 

 おそらく赤い老人を倒したのも、あの男なのではないかと緑と黄の老人同士で驚愕の連続。

 

 このままでは、自分達の欲望にまみれた楽園が維持できなくなる。

 

 「ギンジ、もうやめろ・・・孤児院だってあるんだぞ」

 「これ、見てみろよ」

 

 ギンジが懐からある本を取り出す。

 

 特殊な術でもかけられているのか、その本はギンジの炎でも燃えずに形を維持していた。

 

 ギンジから本を受け取ると、カエルム教会としての建前と、退魔教会としての本音が乗せられた内容にミドリコは戦慄する。

 

 内容としては孤児院には、ほとんどの場合女の子しか引き取らないということ。建前としてはシスターとして教育を施す為。

 

 「なんだこれは・・・」 

 

 本音としては、退魔師として育成する傍ら、上層部の良いように操り人形を作るだの、核心に繋がりを持つものは消すだのと言った内容という。

 

 そして出来の良い退魔師はいつかその心を使い、五天達の奴隷として操られるという酷い内容。出来が良ければ、今後は子供でさえも使う。その内容はヘルブラッククロスとは形が違くとも、ミドリコには信じがたい実体を知り、震えが止まらない。

 

 「これが退魔教会なんだとよ・・・胸糞悪いから、レイナの上司達は全員倒す。いいな?」

 

 それはとどのつまり、殺害をして、今後の悪の心の侵食を潰すというものだと感じ取った。

 

 「ギンジ・・・駄目だ、君は人殺しをしていい人間じゃない。やめてくれ・・・そんなギンジは、みたくない・・・」

 「じゃあよ・・・止められるか?こんな奴らを・・・俺は法では無理だと思うぜ」

 

 だからといって殺していい理由にはならない。その言葉を出そうとしたが、ギンジの方が先に口を開く。

 

 「俺たちだって戦闘員を殺して、怪人を倒して退けた先で、ここまで来たんだ。こいつらは悪だぜ。それも救いようの無い、最低の悪だ」

 

 自分でもこんなのは屁理屈だとは解っている。

 

 それでも止まらない思いがギンジにはある。友達の友達を守る事も、自分を守る為にも、そしてヘヴンホワイティネスを守り通す事も彼にとっては大きい事。

 

 「俺はさ・・・レイナの事も〈大好きな人たち〉の一人に加えたいんだ・・・お前もそうだけど、たくさん守りたい人たちがこの世界でできてんだ」

 「なおさら君に人殺しはさせたくない・・・どんな理由があっても、手を汚すのは、もうやめてくれ」

 「じゃあどうするよ。あのジジイ共、レイナの友達を・・・」

 「ギンジ・・・君は私達の仲間なんだ。君がここまでするなら、それほどの悪なのだろう?でも、上手く言えないけど、君が怒りで道を踏み外すのが、怖いのかも知れない・・・」

 「なんだそりゃ」

 

 ミドリコから見える今のギンジは、怪人を超えた怖い生物。

 

 言葉では説明できないが、どうしてもギンジが怖い。そして、守りたい。今のギンジを放っておけば、誰にも止められない怒りそのものになりそうで、それがミドリコには怖く感じた。

 

 「・・・あーなんだ、悪かった」

 

 怯えるようなミドリコを見て、冷静になったギンジの脳内では一瞬後悔しそうな気持ちでいっぱいになる。

 

 (今、俺はミドリコの心を傷つけてたかもしれないな・・・)

 

 炎を収めると花壇の火も鎮火する、正確にはさせたの方が正しい。

 

 「・・・ヘルブラッククロスの怪人はどうすんだ」

 「怪人は・・・倒す。悪も、倒す。でも、ギンジは道をもう踏み外さないでほしいんだ。済まないな、いつもならもっとちゃんと言葉がでるはずなんだが」

 

 少し気恥ずかしいが咳払いをすると、落ち着きを取り戻したギンジの後ろからカエデがいきなり現れチョップする。

 

 「ちょっとまたひと悶着起こしたの?本当にバカなんだから」

 「いてーなー。急に暴力振るうなよ」

 

 カエデの後ろの教会から、レイナとウメミツキが出てくる。

  

 とぼとぼとお先真っ暗な表情なレイナと、無表情で佇むウメミツキ。

 

 「そちらは・・・?」

 「ああ、ミドリコはまだ知らなかったな。さっき繁華街で襲撃してきて、さらには・・・ああ、いや」

 

 全部主観で教えるのは流石にレイナに悪い。そう思ったギンジは言葉を変える。

 

 「被害者、だよ」

 

 レイナはもう喋らない。泣き晴らした赤い目元と、疲れ切った顔。

 

 彼女のショックは計り知れないだろう。

 

 「で、これからどうするの?」

 「ギンジ、君はどうするんだ」

 

 カエデの言葉に少しだけかぶせ気味に、ミドリコが言う。

 

 「んー・・・まだ三人・・・敵がいるんだよな。一先ずここを離れないで、敵を待つのがいいと思うんだが・・・」

 

 「敵というのは儂らのことかな」

 

 声のする方に、黄と緑の老人が二人、トコトコと歩いてくる。

 

 「よくも五天の内、二人をやってくれたな小童共・・・」

 「退魔教会の敵として、お前らをこの儂らが滅するとしよう・・・」

 

 恐怖はあった。だが、炎が消えた人間なんて恐るるに足らず。

 

 「ギンジ・・・あれは先程の・・・」

 「ああ。よく似た顔してるぜ、クソジジイ共」

 「儂の式神は、そこらのインスタントとは違うぞ。行け!磁力の式神」

 

 黄の老人が札を取り出すと、大柄な切り絵の様な顔をした式神が現れる。

 

 「儂も行くぞ・・・いでよ、式神!」

 

 緑の老人が呼び出したのは、人の形をした顔のない複数体の式神。

 

 「レイナ、下がってろ」

 「ああ・・・」

 

 ギンジの掛け声に、レイナがウメミツキの腕を引っ張る。もう生気が無いようにも感じる。

 

 「あんま無理すんなよ。レイナ」

 「・・・」

 

 ギンジが式神の群れに突っ込み、カエデも変身してギンジの後に続く。

 

 ウメミツキはずっとレイナの隣でたたずむだけ。

 

 「ナルミ・・・」

 

 力なくボソリと親友の名前を呟く。

 

 「うおっ!?」

 「きゃあ」

 

 後ろで銃を構えるミドリコの足元に、ギンジとカエデが転がってくる。

 

 「いてて・・・」

 「ちょっとあんたちゃんと連携してよ」

 「いやなんか動きづらくて」

 

 スススと、ギンジとカエデが近づく。

 

 「っていうかなんかあんた近くない?」

 「いやお前の方が近づいてきてないか?」

 「え?」

 「・・・え?」

 『え?』

 

 ギンジとカエデが離れて、再び敵に向かって構える。

 

 「何か変だぞ」

 「解ってるわよ。あんたバカなんだから、敵の術中なんかにハマんないでよ」

 「二人とも、来るぞ!」

 

 ミドリコが二人の言い合いの間に入ると、式神の群れが迫っている事に気づくギンジとカエデ。

 

 そのまま突撃する二人の後ろ姿を見て、ミドリコはどこか落ち着かないと言うか、胸の中にモヤモヤが広がる。

 

 (集中しろ、私!)

 

 限られた武装しか無いミドリコは必然的に、レイナとウメミツキへの盾になるしかない。

 

 (それなのに・・・)

 

 何故かギンジを心配する事の方が勝っている。

 

 (私も、もっと戦えれば・・・)

 

 先程の外道に進みかけ、堕ちかけたギンジを心配してから、どうしても眼が離せない。

 

 だが今はその事は別だ。

 

 「っ!ナルミ!」

 

 レイナの方に眼をやると、ウメミツキがふわふわと浮き始め、レイナが手を伸ばしている。冷静さをかいたレイナは、うなだれる様に浮かび始めたウメミツキの手をつかもうと腕を伸ばすも、その手は届かない。

 

 「やめろ・・・これ以上ナルミを・・・私の親友を・・・弄ぶなぁぁーー!!」

 

 レイナの退魔師としての姿に変身する。修道服に身を包んだ彼女の飛躍的な戦闘能力の向上による飛び込みで、ウメミツキの・・・否、ナルミの腕を掴む。

 

 「ホホホ、餌が2つ連れたワイ」

 

 黄の老人がいやらしい笑みを浮かべて、磁力の式神の後ろでレイナとナルミを迎え入れる。

 

 「いい顔してるのぉレイナぁ・・・」

 「この・・・!」

 

 黄の老人の笑みは、最早正義を志にする者の顔ではない。 

  

 「貴様らは・・・どこまで腐ってるんだ・・・!」

 

 レイナの27年はこうも簡単に崩れ去った。拠り所でもある故郷で、こんな憎悪が生まれていたとは。

 

 「ホホホ。あの男も、お前みたいな眼をしていたよ、レイナぁ〜ぐほほほぐほぐほ」

 

 あの男。普段のレイナであれば長考の後に、答えを導き出す。刑事としての技術がある。

 

 だが、この老人のいうあの男・・・その人が頭の中に直ぐに浮かび上がる。

 

 「・・・マサヨシさんか・・・」

 「あーそんな名前だったな。本当はどうして死んだと思うかね?ゲヘナミレニアムとの戦いで死んだかと思ったかね?」

 

 磁力に縛られ身動きできなくなり、レイナは見えない柱に固定される。

 

 「目障りだったのじゃ。ずううううう〜〜〜っとなぁ!だから、ゲヘナミレニアムと一時手を組んで・・・殺してもらったのじゃ」

 「貴様ぁ・・・ッ!」

 

 言葉が出ない。その話を聞いて、怒りだけじゃない様々な感情が溢れ出す。

 

 正義の為の、平穏を守る為の組織とはなんだったのか。

 

 「許さないぞ五天!!!うああああ!」

 

 磁力で縛られ動けないレイナが必死に叫ぶ。

 

 その一方でギンジ達もピンチに陥っていた。

 

 「だー!カエデ!離れろって!」

 「あんたこそ離れなさいよ!」

 

 二人は背中をピッタリくっつけながら、式神の群れと戦っている。

 

 どうみても戦いづらそうな姿勢に、緑の老人がけたたましい笑いをあげている。 

 

 「暑苦しいのよ!このバカ」

 「いいや暑いのは季節のせいだって!・・・いや俺の炎のせいか?」

 「やっぱあんたのせいじゃないのよ!」

 

 次々と襲い来る式神の抑え込みから、次は真上から大量の式神の群れが襲撃してくる。

 

 「カエデ!スーツの防御全開にしろよ!!」

 

 言うとギンジは全身に電撃を纏わせて、周りに高電圧の衝撃を発動させる。

 

 このままではカエデもろともだが、この一撃だけの発動だ。

 

 迸る電撃はギンジとカエデの背中の張り付きをより強くするが、式神は全て電気熱で燃えて弾け飛ぶ。

 

 「ちょ、ちょっと・・・なんであんたそんなに近づいて・・・あっ、ちょ、変に動かないで」

 

 いつも聞いている声より、少女らしく可愛らしい声でギンジと背中合わせ。

 

 ギンジの背中越しにも解る、カエデの身体の感触。柔らかく、しかし程よい筋肉質の背中。

 

 (なんでギンジと、こんなぴったりくっつきながら、戦わないと行けないのよ)

 

 こんな状況で戦う事が嫌だ。

 

 「でも、また来たな・・・どうするか・・・」 

 

 第二波の式神の群れが襲ってくる。

 

 「ぬうう〜身体がまともに動けば・・・!」

 「か、カエデ、全部燃やしてもいいか?」

 「駄目に決まってるでしょ!!このバカ!」

 

 二人の言い合いの影に立つミドリコを誰かが追い抜かす。

 

 「・・・来たか」

 

 二人のピンチを見ていても、まともな援護が出来ないミドリコは緊張が解ける気分になった。

 

 教会へと続く石畳の道を走る一人の少女。

 

 青いラインの入ったボディースーツ。

 

 スカイブルーの髪に、左手はビームの剣を展開をさせている。

 

 レンの加勢にギンジとカエデが驚く。

 

 「あの、ミドリコさん!」

 

 更にミドリコの背後から少年、ケイタが武装のアタッシュケースを重たそうに持ち上げながら、ミドリコに手渡す。

 

 「僕もなにかしないと、っておもって」

 「ありがとう。これで私も戦える」

 

 ケースを開き、追加の弾薬、ナイフ、そしてライフルにランチャー、手榴弾、他にも圧倒的な武装を装備する。無論全部使うわけではないが、後方支援として適材適所で使い分けるつもりだ。

 

 レンはビーム剣を振り回し、式神を斬り崩していく。

 

 「ごめん、カエデ。遅くなった」

 「レン・・・ありがとう!」

 「ところで、どうして、ギンジとカエデは、背中を合わせてるの?」

 

 襲い来る式神達を見もせずに、斬り倒してカエデとギンジに目線を合わせる。

 

 「情けない事に、敵の術中にハマったっぽい。どんな敵がやったのかも解ってる。あの、磁力の式神だ」

 

 ギンジの指差す方角へレンが向かう。

 

 「あれを、崩せばいいの?任せて」

 「ちょっ、レン!こっちもピンチなんだってば〜!」

 「大丈夫だ、カエデ!ギンジ!伏せろ」

 

 走るレンを引き止めようとしたカエデに、ミドリコから指示が下る。

 

 二人で同じタイミングでしゃがむと、ミドリコがミニガンを式神の群れに構え、何本もの銃口が回り弾丸掃射を開始する。

 

 焼け焦げた土や、教会に穴を開けながら、式神達が吹き飛んでいく。文字通り紙吹雪となる程の蹂躙が終わると、次は手榴弾を投げて、緑の老人の次の式神召喚に合わせて爆発させる。

 

 「なんなのじゃ、貴様らは・・・!」 

 『うっらああああ!』

 

 背中をくっつけたまま、カエデとギンジが緑の老人に拳をめり込ませる。

 

 ギンジの左手、カエデの右手が老人に当たり、後方へと退かせる。

 

 「おにょれ、舐めるな!!」

 

 緑の老人の雄叫びに、式神が再び召喚される。

 

 しかし・・・。

 

 「お、離れたぜ」

 「やるじゃん、レン!」

 

 ギンジとカエデの背中が離れる。見れば、レンが磁力の式神を真っ二つに切り裂き、黄の老人をレイナと共に制圧していた。

 

 「こ、こんな事して、許されるとおもうなよ、レイナ」

 「構わないね。私もお前たちを許すつもりはない・・・法の下で裁かれろ。一生な・・・!」

 

 レイナの見下す憤怒の視線に射抜かれ、黄の老人はついに戦意を失う。

 

 「さて、緑のクソジジイ、俺たちの勝ちだぜ?」

  

 ギンジの手は炎と雷をまとっている。

 

 「あんた達みたいな最低な組織・・・いますぐ潰してあげるわ」

 

 カエデのガントレットから鋭いギアの回転音。

 

 「私はこの場に居たわけではないが、お前たちは間違いなく公安警察が止めないといけない存在だ。選べ、痛い思いをするか、このまま逮捕されるか・・・」

 

 ミニガンを老人の顔の前で構える。もちろん彼女は撃たないが、砲頭は回転させている。

 

 「・・・ぐうう、無念だ」

 「何が無念だコノヤロー。そういう言葉はレイナが言うもんだぜ」

 

 しかし、もう一人いる筈の老人が見当たらない。それどころか、どこにいるのかさえ解らないうえに、襲撃してくる気配もない。

 

 「・・・最後のひとりはどこに行ったんだ?」

 「奴は逃げたさ・・・勝てない事にぶつかると直ぐに逃げるやつだからな・・・」

 

 緑の老人が悔しさを丸出しにしながら、ギンジ達を睨みつける。

 

 退魔教会の五天。赤、青、緑、黄は下した。幸か不幸か、全員命に別状は無く、全員逮捕された。

 

 後は・・・。

 

 「レイナ・・・大丈夫か?」

 「ああ、まだ気持ちの整理がつかなくてな・・・」

 

 彼女のショックはとてつもなく大きい。

 

 信じていた正義はレイナが知る中では、ゲヘナミレニアム以上の悪の塊だった。その上、親友の改造、心と人格の否定。

 

 「これから私はどうしたらいいんだろうな」

 

 ミドリコの呼んだパトカーによって、五天はそれぞれ車内に連れ込まれる。

 

 それをぼんやり眺めながら、レイナはナルミを見る。

 

 彼女は命令がなければ喋らないし、動かない。自由にさせてあげたい気持ちと、自分にはどうしていいのか解らない気持ちが、同時にレイナの背中に重くのしかかる。

 

 「ん・・・まぁ、あれだよ。とりあえずさ、飯、食おうぜ。孤児院の子供達を呼んでさ、神父とかってのもいんだろ?」

 「なんで・・・この状況で・・・」

 

 レイナの隣でギンジは腹を擦る。

 

 「いいや?強いて言えば、俺が腹減ったってのもあるかね。まぁいいじゃねーか。辛い時は飯食おうぜ。な、ナルミ」

 

 ギンジが呼んだのはレイナではなく、ナルミ。そしてソレに対し、ナルミは小さく頷く。相変わらず表情は解らないが、レイナも今はとりあえずギンジの言うことに従う事にした。

 

 今の自分はどうしたらいいのか・・・。それを冷静に考える為にも、食事は必要なのかもしれない。

 

 済ませる事を済ませて、ギンジ、カエデ、レン、ミドリコ、ケイタ、レイナ、ナルミは孤児院へと赴くのであった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 聖カエルム教会の裏には、五天の秘密の逃げ道があった。

 

 黒い老人は馬の式神に跨り、森で隠れた逃げ道を走っていた。

 

 五天の中でも一番の実力を持った彼は、いの一番に逃げる事を作戦として、後の四人に全てを任せた。

 

 退魔教会は、黒い老人一人でも立て直す事は出来る。金も、女も、自分たちの欲求を満たすためならば、なんでもする。

 

 「必ず、必ず復活させるぞ・・・」

 

 神に背いても、黒い老人は正義を捨てた。自分が気持ちよくなるために、なんでもしてきた。都合の悪い存在は、都合の良い様に消し去ってきた。

 

 それで言うとレイナとナルミや、孤児院にいる身寄りのない女の子達は、それはそれは老人達に都合の良い存在だった。

 

 しかし子供というのは成長が早く、なにより女の子は精神的な成長も強い。

 

 レイナとナルミの成長によって自分達が超えられるのが許せなかった。

 

 黒い老人は、ゲヘナミレニアムもそうだが、もう一つの協力先があった。

 

 五天の誰にも話していない、もう一つの協力先。

 

 「くふふふふ。待ってましたよ。五天の一角、黒」

 

 森を走り、開けた場所に出ると、薄気味悪い少女の笑い声。そしてその少女は黒い老人の好みの女。

 

 だが、ただの人間とは違う異質な女の子。左目は黒く、赤い瞳。

 

 黒みがかったセーラー服に、サイズの合っていない白衣。

 

 「お主、ミヤコ女史だな・・・こうして合うのは、久しぶりと言ったところじゃな」

 「いえいえおじいさま。それで、緊急というのはどういう用件ですか。くふふ」

 

 協力先、ヘルブラッククロス。ゲヘナミレニアムよりも高い軍事力と、怪人と呼ばれる最大戦力。それをまとめ上げる少女ドクターミヤコ。

 

 「・・・主らの、組織に正式に入りたい」

 

 黒い老人は世間的に知られているのは、教会の最高責任者という立ち位置。その地位を捨ててまでヘルブラッククロスに入りたいとは何事なのだろうか。

 

 興味は湧くが、ミヤコはそれを拒否する。

 

 「駄目、ですね・・・」

 「何故じゃ!儂が正義を掲げているからか!?お主達の戦力強化にも役立つ!儂なら、ミヤコ女史を満足させる結果が・・・」

 

 パシュ・・・。

 

 空気が抑え気味に弾ける音が森林に鳴るが、その音は風と、木々が揺れる木の葉の音でかき消される。

 

 黒い老人は撃たれた。

 

 ミヤコの後ろで、黒い高そうな三つ揃いを着た男が、拳銃を構えていた。

 

 黒い老人は眉間をしっかり撃たれていた。もうこの老人は動かない。

 

 「おや、大幹部の柏木さん。どうしてここへ?」

 「同じ大幹部同士、採用試験はしっかりしたほうが良いかと思いましてね」

 

 柏木タツヤ。表向きは公安警察組織として動き、政府の行動をヘルブラッククロスへと横流しする者。

 

 裏向きは、ヘルブラッククロスの兵器管理責任者として、日々武器の調達、裏社会への大規模取引を行う冷徹な男。

 

 彼もまた力による日本の統一、争いによる支配への世界へ魅入られた者である。

 

 「一つ聞いてもいいかしら?」

 「なんでもどうぞ、ドクター」

 「どうして殺したの?くふふ、容赦ないのは良いことだけど、これはわたしの客人なのだけれど」

 「ああ。それは失念しておりました」

 

 タツヤがネクタイを直しながら、拳銃をしまう。

 

 「この男は、内面に、自分の目的をかくして居ましたから。それに、もう退魔教会は終わりです。例の、佐久間ギンジ・・・奴が潰しましたから」

 

 淡々と話すタツヤに、ミヤコはうなずいた。

 

 「私利私欲を成せるのは、ヘルブラッククロスだけです。個人の持つ私利私欲の復活を目論むだけでは、いずれ内部崩壊を誘発させます。確固たる信念を周りに向けられない者は、我々の組織にはいらんでしょう」

 「くふふふ。確かにそうだね。剣士」

 「はっ」

 

 タツヤの殺した説明に納得すると、ミヤコは次の行動に出る。 

  

 「そのおじいさま、処分しておいてちょうだい。ああ、でもやりすぎないでね。くふふ、28日には君にもたくさん働いて貰うからね」

 「畏まりました」

 

 剣士の怪人が命令を聞き入れると、黒い老人の死体と馬の式神を斬って無残な姿にしていく。

 

 「柏木大幹部、これは返しておく」

 

 剣士の怪人が、頭部に詰まった弾丸を剣で弾くと、タツヤはそれを受け取る。

 

 これでもし死体が見つかっても、銃殺とはバレないだろう。

 

 老人を四方に分解して、後は小動物が自然の糧として、無かったことにしてくれる。

 

 なによりここはヘルブラッククロスと、五天しか知らない秘密の逃げ道。

 

 そうそう見つかることは無い。

 

 「それじゃ、戻りましょうか」

 

 ミヤコの一声にタツヤと剣士の怪人は頷き、光を通さない闇へと姿を消した。

 

 血の匂いが充満したその場所で、馬の式神の一部分が動き出すも、それは力なく、ただの紙へと成り代わりひらりひらりと落ちてくる木の葉に埋もれて、動かなくなった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 孤児院の子供達を呼び出し、中庭でバーベキューが開催される。

 

 「教会って、肉とか食えるんだな」

 

 神父や子どもたちは、予定していた物とは違う豪勢な食事に大喜びだ。

 

 「そうだな。子供だし、栄養のあるものは食べてもいいんだ。後は、元となった動物に祈りを捧げれば問題ない」

 

 ギンジの隣で、レイナはまともに食事が出来ず、でも生気が宿った表情に戻っている。

 

 きっと何年かかっても、レイナはナルミをウメミツキから引き剥がし、元に戻すだろう。それを誓う。

 

 「肉とか、こういう物を手配してくれて、ありがとう」

 「いいや、用意したのはカエデだから、あいつにお礼を言ってくれ」

 

 神宮財閥の力に感心し、子供達はカエデとレンとミドリコと遊んでいる。

 

 夜も遅くなるような時間だが、今日は無礼講だろう。

 

 「なぁ、ギンジ」

 

 レイナは椅子に座りながら、ギンジを呼ぶ。

 

 「退魔教会は、今人手が足りない。君の戦いも解るが、また力を貸してくれないか?」

 「当たり前だろ。すぐには無理かもしれないけど、困ってたらいつでも助けるぜ」

 

 退魔教会の今の状態を見れば、それは当然の事。 

     

 「だって俺たち、友達だろ」

 「・・・そうだね」

 

 一つだけ、レイナには新しい感情が芽生えた気持ちになる。

 

 (ああ、そうか。そういう事、なんだな)

 

 正義の志を持ったギンジの怒りと、言葉にレイナは救われた。

 

 ──こんな奴らに首輪繋がれて、人形同然にされてる奴が、生きてるなんて言えるかよ!

 

 今になって思えば、ゲヘナミレニアムと戦っている時も、戦いが終わった後も、レイナも五天に首輪を繋がれていたのかも知れない。

 

 (そう考えたら、私達は、ギンジに助けられたのだろうな)

 

 この恩はきっと一生忘れない。

 

 それと同時に恩義と同じく、また違う想いが芽生える。

 

 「ギンジ、全てが終わったら、退魔教会に来ないか?」

 「ん〜退魔師になるのは自信ないぜ」

 「なるべく早くてもいいんだよ」

 「なんで?」

 

 レイナはギンジの顔を見上げると、美しい笑顔になる。

 

 「決まってる。私と一緒に、悪と戦う為さ。君にサポートしてほしい」

 「だから自信ないって・・・」

 「君になら今後の事も任せられそうだしな」

 

 レイナは左手の薬指を右手の人差し指でなぞる。

 

 「佐久間ギンジ。私はお前の事が好きになったよ・・・人としても、男としても」

 「おいおい本気か?」

 「冗談では言わないよ。今はナルミの事もあるから、だいそれた事はしないが・・・ギンジがよければいつでも迎え入れるさ」

 

 クールに装うが明らかにギンジは動揺している。

 

 「それに・・・ギンジが困っていたら、なんでも言って欲しい。私はいつでも駆けつけるよ」

 「へへへ、ありがとうな」

 

 レイナの隣でナルミは銀色の修道服を揺らし、レイナの肩に手を置く。

 

 「ナルミ・・・」

 「・・・」

 

 それでもナルミは喋らない。

 

 ギンジは退魔教会の件については、協力姿勢は少なそうだが、この告白においてはハッキリと否定はしなかった。

 

 ならば、彼らの戦いが終わったら、まだチャンスはあるという事。

 

 「返事はいつかしてくれればいい。ああ、あと私の好きな食べ物は男だ。君も男だな?」

 「あんた修道服とか着てるのに、かなり肉食なんだな・・・」

 

 今退魔師にならない事については、ギンジの考えとしては、ヘヴンホワイティネスを最悪の未来から助けたいから。その後の事はどうなるかは考えていない。

 

 「仲間の為に戦うことを選んだからさ。今直ぐにはどうしようとか、あんまり考えてないんだ、俺は」

 「いいさ。いつでも待ってる。もう一度言うが、好きだよ、ギンジ」

 「そりゃ光栄ですね」

 

 教会のバーベキューはまだ続く。

 

 子どもたちの心から楽しそうな光景を眺めて、ギンジもレイナもまた守りたいモノが増えた。

 

 「・・・ミドリコ、レイナさんの話し聞いた?」

 「ああ・・・まさかのギンジを選ぶとは・・・」

 

 レイナ達のテーブルから離れた場所で、カエデとミドリコは飲み物を取りに来ていた。

 

 ハッキリと聞こえた言葉は全部ではないが、レイナの急な告白だけは二人の耳に届いていた。

 

 (・・・あ・・・)

 

 カエデはそんな二人を見て自覚する。

 

 この感情や、先程身体がくっついた時の事を思い出し、嫌と思うより、少しだけギンジの背中の温もりが心地よかった事を思い出す。

 

 ちょっと前までなら、間違いなく嫌だったのに、今はどうしてか胸が痛く感じる。

 

 これは知らないことだけど、でもなんとなく知っているあの感情。

 

 「おーい、カエデ〜ミドリコ〜」

 

 ギンジがこちらに近づいてくる。

 

 「次は俺がガキんちょ共と遊んで来るからよ、飯、食べとけよ」

 「ああ、うん、ありがとう」

 

 バーベキューは美味しいしカエデもミドリコもお肉は嫌いじゃない。

 

 なのに、今は肉を食べる事が少し億劫だ。胃もたれを起こしそうになる思いをギンジへの想いで上書きすると、二人は食事を始める。

 

 「ただの心配・・・だったんだけどな」

 

 ミドリコもどこかソワソワしている。

 

 カエデもきっとソワソワしているに違いない。

 

 「いつでも君を想っているよ。ギンジ・・・」

 

 レイナはそんな二人の心情を知ってか知らずか、ナルミと共に子どもたちと一緒に遊び始める。

 

 (もちろん、ナルミを元に戻すことも、私の願いだ。七夕にでも書こう)

 

 熊沢レイナ。

 

 表向きは警察。裏の顔は退魔教会に所属するエリート退魔師。

 

 通称・退魔警察。

 

 そして6月26日、恋をしたのだとか。

 

 運命の日は着々と近づいていたが、今だけは平和で楽しい、当たり前の日常で忘れる事にした。

 

 

 「痛てて、髪をひっぱるな!あ、サングラスは触んな!コラ、おい、やめ、クソガキ共ぉぉーー!!」

 「あのギンジおじさんは、悪者、皆、倒すの。サングラスが弱点、だよ」

 「あわわ、ギンジ、子供相手に本気になったらだめだよ〜」

 

 ギンジのお怒りに、レンが悪ノリし、ケイタが止める。

 

 これもまたひとつの平和の形だろう。

 

 

続く

 

  

  




お疲れ様です。
次回からヘヴンホワイティネスの面々の非常に辛い戦いが展開されるかもしれません。
頑張って書きます。

キャラネタ書きます

熊沢レイナ
親友を助け、自分も助けてもらったギンジをスカウトした。あとギンジに恋もした。年の差はあまり気にしない。

如月ナルミ
今の見た目は14〜16歳程。五天になぐさみものとして扱われたが、今はレイナと共に行動している。

五天・赤、青、緑、黄、黒
かつては正義のためと、本気でがむしゃらに頑張っていたが、繰り返される戦いに嫌気がさしてしまい、価値観がひっくりかえったクソジジイ。黒だけはヘルブラッククロスと内通していたが、信用を得られず秒殺された。

神宮カエデ
もしかしたらギンジに・・・

甘白ミドリコ
ヘヴンホワイティネスの年長者として、皆を心配していたが、ギンジにもしかしたら心配では何か別の感情にやきもきしている。

宮寺レン
銃器等の武器を持つケイタを持ち上げて駆けつけた。

角倉ケイタ
二人きりを楽しんでいたけど、仲間の危機に急いで行動を開始した。
ちなみに何がとは言わないが、脱した

ドクターミヤコ
計画に支障はない。そう豪語するのはオーク怪人その人である。

柏木タツヤ
公安警察に所属しながら、ヘルブラッククロスの大幹部。ちなみに三つ揃いというのは、ジャケット、パンツ、ベスト等を揃えたスーツ姿の事。
今回の新キャラで今後の出番は・・・これいじょうはネタバレ
好きな食べ物はチョコレート、お酒。
嫌いな食べ物はうどん、うに。

次回も楽しんでいただけるように頑張って書きますので応援をよろしくお願いします!!!!!!!
それではまた次回!



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