正義のヒーローヘヴンホワイティネス   作:アトラクション

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こんにちは。第一話です。厳密には二話とか無粋な事は言いっこなしだぜ!

相変わらず書きたいものを書いてるだけなので、あんまり面白くなかったらごめんなさい。

それでは、どうぞ


1・佐久間ギンジ

何本もの人が入れるほどのシリンダーが立ち並ぶ、異様な光景に豚の顔をした怪人は息を飲む。

 

 「くふふふ」

 

 その中で一本だけ稼働中の培養液と人の入ったシリンダーの前で、その場所に似合わない薄気味悪いくぐもった笑い声が反響する。

 

 「ドクター、これは新しい怪人ですか?」

 

 軍服に身をまとい、礼儀正しい口調の豚顔の怪人─オーク怪人がシリンダーに目線を合わせる。

 

 「そうだよ、オーク。くふふ、この怪人は素晴らしい結果を残しているんだ」

 

 ドクターと呼ばれたのはだれがどうみても女子中学生か高校生にしか見えない低身長の少女だ。

 

 黒みがかったセーラー服に身の丈に合わない白衣を着て、余った袖の部分で口元を隠して、笑う。

 

 一見すればその仕草はとても可愛らしい仕草なのだが、表情は狂気に満ち溢れたもので、眼鏡の奥から覗かせる瞳は暗い奈落のような眼をしていた。

 

 オーク怪人は軍帽を外し、近くの机に置くと、ドクターに近寄る。

 

 「これは・・・この人間?は、昨日アジトの前で死にかけてた謎の人物でしょうか?」

 

 培養液に入ってる人間は、綺麗に丸裸。泡立つ培養液に身体の機能を回復させられ、死にかけていたと言っても嘘に見える。

 

 「総統には捨置けと言われたモノだったはずですが・・・」

 「くふふふ、捨てていいならわたしの自由にしていいって言ってるような物だからね。くふ、くふふふ、科学者としての欲望に負けたんだよわたしは」

 「ドクターミヤコ、貴女のその熱意に我々怪人達は経緯を評しますが、そろそろ次の作戦を考えないとですね、またヘブンホワイティネスの奴らに邪魔をされてしまいますよ」

 

 訝しむ表情は隠したままだが、声音は明らかにドクターミヤコへ焦りを感じさせるものがあった。

 

 「くふ、だーいじょうぶだよん。だってわたしが組み立てる作戦に間違いはないし、計画が進められない以上は、戦闘員君達にまかせておけばいいのさ。くふふふーふふ」

 

 ドクターミヤコは可愛らしく笑っているつもりだろうがその表情はまさしく狂気のマッドサイエンティストにほかならない。

 

 (・・・ドクターミヤコは今日もかわいいな)

 

 雑念を振り払い、オーク怪人はブヒュウ、と鼻息。

 

 「では、その戦闘員が犬死にするのは良いのですか?ドクター」

 

 別の方向の、ライトがついていない暗闇からもう一つ、低く落ち着いた男性の声音が聞こえてくる。

 

 紫色のマントに紫色のお面。奇妙な出で立ちの存在がドクターミヤコとオーク怪人の下に現れる。彼はドクターミヤコの護衛部下でもある戦闘員だ。

 

 名前など与えられないので、色から汲み取ってドクターミヤコは彼を紫と呼んでいる。

 

 「紫。なんの用だ」

 

 明らかな苛立ちと敵意を向けたオークの言葉に、表情の見えない紫も苛立ちを感じる素振りを見せる。

 

 「その新しい怪人?に興味がありましてね。ドクターが昨日から寝ないで研究に没頭するから、新しい発見でもあったのかと思ってね」

 「くふふ、発見ならたくさんあったよ。くふ、くふふふ」

 (え、今日のドクター可愛いすぎん?)

 (ブヒ、今一瞬惚れかけた)

 

 紫も雑念を振り払う。そんな事を考えている場合じゃない。

 

 このシリンダーに入って実験に使用されている人間は、先にもあった通り昨日アジトの前に死にかけのまま倒れて居た者だ。

 

 戦闘員が発見した時もいつからそこに居たのか、なんで死にかけていたのかすらも解らない。

 

 ただ一つ解っているのは、明らかに胸囲、腹囲の合っていないスーツの上下セットに、スーツの胸ポケットの中に入っていた社員証による、この実験体の名前だけだ。

 

 佐久間ギンジ。それが死にかけていた謎の人物。

 

 「写真とまったく違う顔つきだな。面影はあるが・・・なんというか、若返った様な気がする」

 

 顎を抑えて紫が培養液に入った男、ギンジをマジマジと見つめる。

 

 「しかし、これはただの人間なのではないだろうか?」

 「違うよオーク。くふふ、彼は確かに私と同じ人間なのだけど、何故か遺伝子配列がわたしと違うのだよ。不思議なことに、体組織も血液も骨組みも全てが同じ見知った人間なのに、彼は通常の人間と違う【何か】がある。くふふ、素敵じゃない?」

 

 ドクターミヤコが無邪気に笑いながら、資料を二人の側近に手渡す。

 

 「これは・・・」

 「ブッヒ。ドクターミヤコ、正気ですか」

 

 手渡されたその資料には情報ではなく研究に使ったある項目だ。

 

 それを眼にした二人は驚愕する。

 

 「言ったでしょ、くふふ、科学者としての欲望に負けたって」

 

 再び狂気に満ちた笑顔で、ドクターミヤコは、ギンジの入ったシリンダーを背に、腕を広げる。

 

 「人間には作用しない筈の、怪人の細胞を全量投与したのさ」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 ドクターミヤコやオーク怪人、紫が所属する組織の名は、ヘルブラッククロス。日本を転覆し支配した後に完全独立国家を組み立てる事を目的とし、総統閣下なる人物が一代で立ち上げた、巨大な組織だ。

 

 目的の達成の為なら、世間が悪とする犯罪行為を良しとする、容赦のない集団だ。

 

 一般市民への誘拐、暴力、洗脳、陵辱、略奪等、なんでもありの無法者達の集まりだ。

 

 構成人数は今や3000を超えて徐々にその存在が、世間に公表されていっている。

 

 そんな犯罪組織の横行を止める為に、現れた正義を名乗る組織、ヘヴンホワイティネスとの戦いに、ヘルブラッククロスは幾度も激突していた。

 

 その組織内では現在ヘヴンホワイティネス対策会議を開き、各地から大幹部を招集し、作戦を考案している最中だった。

 

 「再び邪魔が入りまして、どうでしょう、総統。あの女の子二人をこちらに引き込みませんか?」

 

 巨大なホログラムを出力するモニターマシンの前で、ドクターミヤコは総統へ向けて提案をひとつ。

 

 『しかし、奴らは相当手強いと聞いている。どう引き込むのだ?』

 

 モニターに映るのは真っ黒な服装の、威厳に満ち溢れた風格を持つ総統。

 

 「はい。わたしは思ったのです。奴らはわたしや、他の一部の大幹部と同じ、女性であると」

 

 ドクターミヤコの狂気じみたその表情はいつも総統の期待以上の提案や報告をくれる時にもしてくれる。この組織にしてもそうだが、総統はミヤコという少女に期待を寄せている。

 

 「わたしの作る兵器や作戦も日々の戦闘において役立つとは思いますが、新しい試みを行おうと思いまして」

 

 総統に物怖じしない態度と口調で話すミヤコの後ろに軍服を着たオーク怪人がノシノシと歩き近づいている。

 

 「わたしが作る怪人で彼女達を陵辱しようと思いまして」

 『弱点とは何だ?お前の提案には期待しているが、話が長くなるのはいただけない、簡潔に話せ』

 「失礼いたしました。こちらをご覧ください」

 

 大幹部や総統の手元に、資料のデータが送られる。送信したのはミヤコの後ろに付くオークだ。

 

 「女性であるからこそ、嫌悪感の抱く見た目の怪人はそれだけで戦うのが苦しい物と予想します。戦えなくなれば、後は絡めとって、ぽい、です。くふふ」

 

 さらにドクターミヤコは続ける。

 

 「怪人を使った略奪や侵略作戦に一般市民を巻き込むのです。これだけでも奴らはきっと身動きひとつ取れなくなります。さらにつけくわえれば、守るはずの者をこちらに人質として取り入れ、ひどい目に合わせるのです」

 

 次々と提案を流し込む。今までの作戦では、両組織がぶつかることは何度もあってもだいたい、白の二人と黒の怪人二人の激突だけだった事も重なり、周りの大幹部達はミヤコの提案に安堵の表情を見せる者や、大きくうなずく者、側近の部下と話し初め次の作戦への理解を増やしたりと、どよめきが次第に大きくなっていく。

 

 しかしそれは決して否定的な感情は一切なく、むしろ感心の色が強い。

 

 周囲の反応を見るに、オーク怪人は内心ほくそ笑む。当然だ、我らがドクターはお前らより数倍仕事しているんだ、と。

 

 『規模も増えて来ているからな。もはや駆けつける公安では対処はできないだろう。問題であったヘヴンホワイティネスへの対処もそれでようやく可能か』

 「はい。さらに、戦闘員とは違う、怪人達ですが、既に陵辱プロジェクトとして、開発が済んでおります」

 

 白衣で口元を隠しながら、再び後ろからオークがミヤコに変わり、スイッチを入れる。

 

 円型の会場に3つ、台車に乗せられたコンテナが戦闘員によって運ばれて来る。

 

 「まず総統に黙って、三体も怪人を開発したことをお許しください。くっふっふ」

 

 オークが左のコンテナを開く。

 

 現れたのは、ヌルヌルとした液体をしたたり落ちる触手を持つ怪人がその姿を表す。顔と思わしき部分にある眼は眼球が黒く、瞳は赤い。

 

 「こちらは触手怪人。女性に効く神経毒を持つ怪人であり、先に作られたタコ怪人をベースに作り上げられました。このヌルヌルテカテカが可愛いのなんの」

 (ブヒュ、かわいいのは貴女です。ドクターミヤコ)

 

 オークが右のコンテナを開く。

 

 現れたのはチワワ・・・の顔をした筋骨隆々の怪人。こちらも眼球は黒く、瞳は赤い。

 

 「彼は犬怪人。なんか嫌悪感抱きません?パワーは戦闘員や武装した公安の戦闘力を100とするなら、この状態で犬飼人は6000あります!二足で歩くから、犬っぽさは顔だけです」

 

 いよいよお待ちかねと言った真ん中のコンテナ。貴重なリソースがかかる怪人を短時間で3体も完成させるドクターミヤコに歓喜の視線が集まる。

 

 「それでは、最後の怪人紹介です。くふふ、これはすごいですよ。わたしの最高傑作です!」

 

 オークがコンテナを開く。現れたのは・・・ツーブロックにオールバックの髪型、金髪、筋肉質な体、薄手のインナーに身を包み、目つきと機嫌の悪い男。

 

 そしてこの怪人として紹介されたこの男も眼球は黒く、瞳は赤い。

 

 人間?と、周りが少し不穏と困惑の空気感になる。やや拍子抜けの雰囲気だが次の瞬間、それはすぐに歓喜、拍手喝采となる。

 

 「彼こそは、わたしの最高傑作、改造人間怪人、佐久間ギンジです」

 

 長いこと、ただの人間を怪人にすることが出来ていなかったからこそ一瞬で組織内が歓声をミヤコに向けて贈り続ける。

 

 『素晴らしい!!よくぞ組織の課題を乗り越えてくれた。量産は可能か?』

 「残念ながら、彼は人間としてもレアモノでして・・・他の人間は怪人の細胞に完全適合を果たせないのです。しかし、しかしですね、彼は適合を果たせました、これは後々この怪人佐久間ギンジからDNAを採取し、人間に打ち込んで改造人間にできるか試す所存です。拒絶反応も多く難しいですが、くふふ」

 (・・・なんか運ばれたと思ったら変なことになってるな。つーか俺事故ったよな?なんでこんなことになってるんだ?身体も軽いし、怪我はどうなったんだ?会社はどうなったんだ?)

 

 ギンジは今全くもって現状を理解できていなかった。

 

 『では、今後の怪人を使った作戦はドクターミヤコに任せるぞ。他の幹部達も異論はないな?』

 

 モニターの奥の総統は満足気に言い放つと、ミヤコは深々とその言葉を賜るように膝まづく。

 

 まだ少女だと言うのに、ミヤコは何をやっても許されるこの組織を大いに気に入っていた。

 

 『では、解散とする。各自、次の作戦まで準備を怠るな』

 

 その後諸々の大幹部達が経過発表や、報告等を、話し終えると総統が重圧感のある声音で会場に向けて発言する。どうやらミヤコ以外の報告はあまり好まない内容だったらしい。

 

 モニターは切れて、会議が終わる。

 

 「なにこれ・・・どうなってんの・・・」

 

 まだ理解出来ずに居たがギンジは今ものすごい状況に立たされていた。

 

 (俺・・・ヘルブラッククロスの怪人にされてるーーーー!?)

 

 心の中の叫びはギンジをどんどん混沌へといざなっていく。

 

 「さぁ、始めよう。ミヤコ部隊の作戦会議を、ね。くふふふふ」

 

 なんでこんな混沌とした状況に立たされたのか・・・。

 

 事の経緯は・・・。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 あれ・・・視界が真っ暗だ。

 

 俺は会社を出て、そうだ、信号が赤で・・・。

 

 自分だけは鮮明に写る、真っ暗な空間に俺は居た。何か悲しい気持ちと同時に、不気味で少し怖くなる。

 

 「お前もここに来たのか」

 

 声がする。だけど、どこを向いても声の主は居ない。

 

 ──誰だ。

 

 声が出ない。喋れないとかじゃなく、声が出ない。今の言葉も頭の中に言葉としてはっきり出てるのに、声を出そうとしたら喉にモヤモヤみたいな物が膜を貼って塞ぐような、息苦しい気分になる。

 

 「こんな所に飛ばされて何したらいいかわかんないんだけどよ」

 

 声の主は少し興奮気味に俺に語りかけてくる。いや、俺に声をかけているのかは解らないんだけどね。

 

 ふと、気がついたら大きく重たそうな扉が眼に入った。なんだか身体が軽いし、けどよく見たら俺全裸やんけ。

 

 ──なぁ、この扉通っていいのか?

 

 その扉は壁に埋め込まれてるとかそういうのではない。空間の真ん中にただ建てられてる様な、粗雑な扱いだ。

 

 後ろから見ても、前から見ても、その扉はただの扉だった。

 

 「おういいぜ。俺には無理だったからよ、お前なら行けるんじゃないか?」

 

 あっけらかんとした男の口調は、俺の耳に丁度聞きやすいトーンで話してくる。

 

 「その扉は通るとどうなるかは流石にわからないけど、まぁ俺には通れないしなんでもいいんだが・・・」

 

 本当にどこから声をかけているのか。俺にもわからない、参ったねこりゃ。

 

 「もしその扉通るならひとつお願いがあるんだ」

 

 男の口調がやや慎重なモノにかわる。初対面(?)にお願いってあんた・・・。姿も見えないのに。

 

 「まぁ、返事できないお前に拒否するもなんでも任せるが、もし、その扉の先が、俺の知ってる世界なら、未来を───ほしい」

 

 ──未来?未来がなんだって?

 

 「頼んだぜ、佐久間ギンジ」

 

 ──なんで、俺の名前を・・・。

 

 振り返っても姿の見えないその存在と、俺の名前を知っている謎が残るが、気味悪いし、もう行こう。

 

 「・・・」

 

 もう声が聞こえない。なんだったんだろうか。

 

 でもなんでもいいや。ここは地獄か天国か、この扉開けりゃあ、わかるだろう。

 

 俺は木製のドアノブに手をかける。そして、回し、扉を開く。

 

 「うおっ・・・」

 

 声が出た、その瞬間俺はまるでさっきとは違う別世界へと落ちていく様にな感覚にうっすら嫌悪感と困惑、それからここからが本当の死後の世界なんだと自覚していった。

 

 「あーどうせ死ぬなら27周目のヘヴンホワイティネスをクリアしとけばよかったなーあークソー」

 

 地面が見えてきた。もう終わりか。落ちてるってことは、地獄行きなんだろうなぁ、俺は。

 

 地面と思わしきその大きく平面に広がる底にぶつかる瞬間、俺は眼を閉じた。

 

 ・・・。

 

 ・・・・・・。

 

 ?

 

 おかしい、ぶつかってない?いやそんな筈は。

 

 恐る恐る眼を開く。そこに見えたものは、コンクリートを打ちっぱなしにしたような、天井。あっれれー?おかしいぞー?

 

 マジでおかしいって。なんでこんな四角い部屋なの?

 

 今まで確かに暗闇に居たはず。だけど、落ちて激突する瞬間、俺は眼を閉じて、そして開いたら何かよくわかんない簡素な作りの病院ベッドみたいなんに、寝てた・・・?

 

 「どういうことだ・・・あ、そうかここは病院か」

 

 だがナースコールを探しても見つからない。そもそも俺トラックに撥ねられて、宙を舞ったからにはどこか骨も砕けてるはずなんだけど。

 

 身体は軽いし、首もバキバキ骨がなる。右側に首を鳴らした時、壁に取り付けられた簡単な作りの洗面台の鏡に俺の顔がチラッと映り込む。

 

 一瞬だけだったが、自分の顔が信じられないモノになっていた。もう一度見てみるか?夢っぽいしな、見てみよう。

 

 鏡に写った自分の顔は間違いなく俺の顔だ。うん。見慣れた生きた屍みたいな顔。

 

 だが、違和感が2つ。1つめは一番気になることだが、先ずそこはいい。

 

 30歳だったよな、俺。

 

 でもシュッとして、高校卒業したての頃の俺の迷走時代に近い。

 

 なにより髪型だ。左右と後ろ側を刈り込み上だけ残す髪型。ツーブロックだ。そんで金髪。怖い。

 

 「俺、もしかして若返ってるううううう!?」

 

 具体的には20代、もしかしたら成人してすぐぐらいの年代ぐらいまで、俺は若返ってた。ありえないわこんなこと・・・。

 

 さらにもう一つ無視しては行けない事が。

 

 「お、俺の眼・・・なんだこの色」

 

 黒く、赤い。不気味な見た目をしているが、これ、なんか見たことある。

 

 「でかい声を出せるなんて素晴らしい元気っぷりじゃないか。くふふ」

 

 すぐ真後ろから可愛らしい少女の声がする。

 

 一瞬で振り向くと、セーラー服に白衣を合わせた奇抜な格好の女の子が居た。ん?見たことがある?

 

 「はじめまして、佐久間ギンジ、嫌今は改造怪人、佐久間ギンジかな?くっふっふふふっふ」

 

 ・・・。俺は、この人を知っている。そして、もしかして。

 

 「あの、なぁ、今って2022年か?」

 「うん?そうだよ。あ、私は君の命の恩人・・・」

 「ドクターミヤコだろ」

 「・・・これは驚いた、どうしてわたしの名前を?」

 

 まさかとは思ったが、俺はヘヴンホワイティネスの世界に来たのか?流行りの異世界転生とかいうやつ?

 

 いや、言い換えるなら──。

 

 「やれやれ・・・また異世界転生モノかよ」

 「ん?おかしな事を言うね、君はこの時代の人間で」

 

 え?今結構小声で言ったのに聞かれた?はずかしい!やめてきかないで!マジレスで返さないで!自分より年下の女の子に、こんなどうしようもないことで言い返されるのは羞恥心が・・・。

 

 あれ、羞恥心?こんなに恥ずかしい気持ちになったの久しぶりな気がする。

 

 きっと若返った影響なのかもな。感受性とかそーゆーよくわかんないモノまで若返って来てるのかも。

 

 それはそうと。

 

 「あんた、えーとドクターミヤコって本名は誰かに話してるのか?」

 

 俺の記憶ではこのドクターミヤコという少女は、悪の組織の研究員だ。そして名前だけの登場で、公式ブック(製作者のサイト)には、このキャラクターの名前やら裏設定やら色々見ていたから覚えてる。

 

 でもドクターミヤコがこんな少女とかって情報は見たこと無いな?

 

 「わたしの本名?んー誰にも話したこと無いけど」

 

 ならば、本名知ってる風なキャラを演じたらどうなるのかな。冷酷非道なキャラって記憶だから、あんまり舐めた事したら半殺しとかには合いそうだな。

 

 「あんた、鈴村ミヤコってんだろ?知ってるぜ、ヘルブラッククロスの研究員で・・・」

 「・・・ッ」

 

 やはり驚いた。このキャラは組織に忠誠を誓ってても、誰も信用していないのがこのキャラだったはずだ。

 

 「な、なんで・・・わたしの名前を・・・」

 

 ん?

 

 「嬉しい。嬉しいよ、佐久間ギンジ」

 

 なんて?

 

 「きっとわたしが命を助けて、怪人にしてあげたから意思のみでわたしの本名を理解してくれたんだね!素晴らしいよ!」

 

 嬉し涙を浮かばせながら、白衣で隠れた両手で口元を隠す。瞳はキラキラと光らせて俺を見つめる。

 

 え、これ見たことある程度の知識だけど・・・これ、この表情、ガチ恋してね?そんなことない?

  

 「くふふふふ。君とわたしはもはや一心同体なのかもね」

 「どゆこと」

 「直ぐにわかるよくっふっふ」

 

 ドクターミヤコは心底嬉しそうに、俺に笑顔を向ける。

 

 「大好き」

 

 まじでどゆこと。

 

 一気に顔を真っ赤にした彼女は、顔をおさえながら壁の方へ向く。

 

 「あ、ああそうだ。ギンジ。きみを皆に紹介したい。準備を終えたら、部屋の近くにわたしの側近が待ってる。彼の指示にしたがってくれると・・・そ、その嬉しいな」

 

 本名言っただけでなんなんだ。そんなに嬉しいのか。じゃあ今度からミヤコって呼ぶか。

 

 言われるがまま支度を終えると紫色のお面をつけた戦闘員が、出迎えてくれた。

 

 「はじめまして、怪人ギンジ」

 

 おれはこのキャラクターは見たこと無いが、ゲームヘヴンホワイティネスの戦闘員と同じ姿をしている。適当に挨拶をすませるとコンテナに入る。

 

 別に暴れたりなんかしないんだけどな。

 

 コンテナに揺られながら、少し考える。

 

 俺はドクターミヤコといい、戦闘員、そしてコンテナに入る前にチラッと見えた、豚顔の怪人も、あれはきっとオークの怪人だろう。

 

 「間違いなく俺は、ヘヴンホワイティネスの世界に来たんだな」

 

 と、すれば俺はできれば神宮カエデや宮寺レンと言ったキャラ達に会いたい。どちらかと言えばこのゲームのバッドエンド一直線は、なんだか可愛そうになるぐらい凄惨な未来だったし、もし俺がこの世界にいたなら、正義のヒーローとして戦いたいな〜なんて考えてた。

 

 コンテナの心地よい振動に、揺られながらこの世界について色々考えてみたが、俺・・・まさかと思うけど。

 

 このままヘルブラッククロスの1怪人として戦わされるのか?

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 (やっぱり俺ヘルブラッククロスの怪人になってるうううう)

 

 ありえない現状にギンジは、またも驚く。

 

 「どうしたギンジ、体調でもすぐれないか?」

 

 隣のオーク怪人が気を使ってくれているのか、ギンジの肩に手をポンポンとタッチしてくる。

 

 「ねぇーねぇーそんなことより、あっしは必殺技を考えてるんですよ」

 

 隣でシュルシュルと触手を引きずりながら触手怪人は、頭の悪そうな事をずっと喋っている。

 

 「フンッ!フヌゥウッ!」

 

 決めポーズをしながら息を絞るチワワ顔の犬怪人は、自分の筋肉美に酔いしれている。

 

 「くふふふ、皆元気そうでわたしは嬉しいよ。これから君たちには、実践訓練をしてもらうよ。いいね?」

 

 ミヤコを除く四人の怪人達は、会議を終えて、研究施設の奥にある怪人達の戦闘レベルを図る、実践会場に向かっていた。

 

 (どうやったらヘヴンホワイティネスになれるかなー。そもそもどうして俺はヘルブラッククロス側に転生したのかなー。神よ、なぜです!!)

 

 自分が転生したことは認めたものの、できれば一般市民を助ける側がよかった。とは言え、何者でもなく無気力に生きて来たギンジにはこれが正しい転生なのかもしれない。

 

 「ねぇ、必殺技・・・」

 「うるさい。それよりチワワの筋肉を見てくれ素晴らしいだろう。この筋肉!上腕二頭筋、大腿二頭筋、そしてチワワの形になる背筋ッ!!」

 「お前こそうるさいわ筋肉きんにくと!あっしのハイグレードメガテンタクルエクスペリメンs」

 「長い!チワワを見習ってもらおう、必殺のマッスル筋肉メガトンチワワに解明しろ!」

 「それもう筋肉質なチワワじゃねーか!このバカ!」

 「チワワよりお前の方が馬鹿だ!」

 (お前ら二人ともバカだろ・・・)

 

 ギンジをよそに、新怪人二人は、必殺技だの筋肉だのとどうでもいい会話をしている。

 

 「お前ら二人とも・・・」

 

 軍帽を抑えてついにオーク怪人が口を開く。

 

 「筋肉と必殺技は両方とも大切なものだ。お互いを尊重しあって極めろ。それがドクターミヤコを初め組織への貢献となる」

 

 グッ、と親指を立てたオークに新参二人の怪人は感銘を受ける。

 

 「ギンジ、貴様はどっちだ?」

 

 オークがいきなり会話に入れてくる。

 

 「え、あ、ああ・・・えーと、お、俺は・・・」

 

 気がつけば、触手怪人と犬怪人は期待に満ちた瞳でギンジをみつめる。ミヤコも気になるのか、この話においてはチラチラとギンジの方へ振り向きながらも、その足取りは緩まない。

 

 「あ、えーと・・・俺はどちらでも無いっていうか。その、なんだ、正義のヒーローの方がいいな〜って。へへ、駄目っすかね?」

 

 ──へへ、ってなんだよキモすぎンだろ。とは思いつつも、一瞬で思い出す、ここは自分に取ってみれば敵陣のど真ん中。今、戦えるかどうかも解らないのにこんな孤立する様な発言は、再びギンジ自身が生きた屍に戻ってしまうのでは無いのだろうか。

 

 「スッ」

 

 しかし。

 

 「すっげえええ!!!」

 「チワワは今オーク先輩より感銘を受けた」

 「ブヒ、流石だ、ギンジ。己の正義を既に持っているとはな。一流の戦士に今一番近いぞ」

 「くふふ、素敵だよ、今の発言。やはり最高傑作だね、くふふふふふふ」

 (あれ?なんか褒められてる?ピンチを回避できた感じ?)

 

 良くわからないが、正義のヒーロー=この組織における正義の象徴だったのだろうか。

 

 (この組織・・・やりづらいなぁ)

 

 なんとかしてヘヴンホワイティネスとの交流を持たなければ、ギンジに未来はない。いや、このまま悪の組織の1怪人として活動すれば、その内ヘヴンホワイティネスとぶつかるかもしれない。だが、その時、自分がもう戻れなぐらいの悪事に手を染めていたら、正義のヒーローを助けられないかもしれない。

 

 (早い所脱走でもなんでもして、寝返らないと・・・)

 

 怪人たちや組織に対して裏切る事は直ぐにできるかわからない。そして、自分の命を救ってくれた、ドクターミヤコは話を聞く限り命の恩人の様だ。

 

 裏切るのは簡単ではないのかもしれない。

 

 「さぁ、着いたよ。準備して、3怪人!」

 

 実践会場に到着するや否や、部屋に押し込まれる三人。オークはいつの間にか、会場の装置を操作しており、部屋の中央に四角いリングが現れる。

 

 ギンジの記憶ではこれは怪人達が戦闘経験を積んで、徐々にヘヴンホワイティネスへの対策を培う場所だったはずだ。宮寺レンというキャラがさらわれた時に、ここではひどい目に合わされていた。

 

 リングに立たされた三人はそれぞれ三方向向かい合わせの構図になる。

 

 「なんでもありのルールだよ〜くふふ、能力も毒も身体能力も全て使って自分の強さを見せてねくふふ」

 

 マイクを使って知らせるミヤコの表情はギンジに向いたモノであったが、三怪人は特段気にしていない。

 

 さっきまでの和気あいあいとした雰囲気はなくなり、怪人達はその気になれば簡単に人間を殺せる程の力を持った気迫を奮い出す。

 

 「あっしはチワワにもギンジにも負けないぞ。なんせもう必殺技は100種類を超えているからなぁ・・・この奥義・天空ハイグレードインビジブルテンタクルズケイオスで打ち付けた後、ダークブレード真空ショックウェイヴクロウラーで動きを封じて、最後はこの最終奥義、ザ・神経毒を食らわせてやる」

 「最終奥義だけは名前短いな。いいのかそれで?」

 「・・・確かに。良い着眼点だ、ありがとうギンジ、一緒に犬を倒そう」

 

 触手怪人が己の武器でもある数本の触手から神経毒をしたたり落とす。まるでドリルの様な触手、刃もあるのか、一本一本の凶悪さはギンジも知っていた。ただし、使われた触手は【別の用途】であったが。

 

 そしてひたすらバカである。その事を知っているギンジは、こいつの長考も合わせて戦う時間を遅らせようとした。

 

 「チワワも負けない。この筋肉に勝てる怪人は居ないということを教えてやろう」

 「あんたのパワーもやばそうだけど、上手く戦えるのか?」

 「チワワは可愛い。それが上手く戦うのに必要な知識だ」

 「筋肉だけに頼らない方がよさそうだぜ。上手く冷静を保って戦おうな」

 「ほう、チワワは今力で戦う事を考えてた。ありがとう、チワワはギンジの味方だ」

 

 この犬飼人も筋肉に物を言わせたパワープレイが得意な怪人だ。暴走すると視野が狭くなる。これもギンジがゲームをやっていた知識だ。そしてこの怪人二人が手を組むとバカとバカでおそろしく強いのも覚えている。

 

 「くふふ、頑張れギンジ君ぅ〜ん!あ、つい心の声が。がんばれ三人!」

 「ドクターミヤコ・・・。えこひいきは駄目ですよ」

 

 ついうっかり口を滑らせたミヤコにオーク怪人がたしなめる。

 

 「あっしの必殺技を喰らええええい!」

 

 まだ開戦のゴングも鳴っていないのに、しびれを切らした触手怪人がチワワをめがけて多種多様な触手を振り回していく。

 

 「筋肉!マッソゥ!!」

 

 大胸筋を活かした鉄壁のガードが、全ての触手を弾く。

 

 「チワワスマッシュ!!」

 

 犬怪人が触手を一本掴み、力任せに上空へ投げ飛ばす。

 

 「これならどうだ!天空インビジブルテンタクルズケイオス!!」

 

 無数の触手をリングに向けて、雨あられと見間違う程のラッシュをぶつけてくる。

 

 「筋肉ううううチワワ筋肉!!!」

 

 もはやチワワなど一切関係ないただの我慢でしかないのだが、ダメージはそれほど無さそうだ。

 

 「なんか視力良くなったのかな。全部避けられるわ」

 

 無差別に振り注ぐ触手のラッシュは、ギンジにも向かって落とされていたが、それを軽々避ける。ギンジの視界からは触手の一本が非常に緩やかに見えていた。

 

 「チワワ粉砕!」

 

 それまで静観してたギンジへ向けてチワワの裏拳が飛んでくる。一瞬拳にオーラみたいな物がチワワの形を成して襲ってくるように見えた。

 

 「アブね」

 

 何事もなく拳を、避けて、触手も避け続ける。そろそろバカの触手怪人もバテてくる頃合いだ。

 

 「悪いな、犬!」

 「ん?」

 

 走り出し、犬怪人の膝を踏みつけ、次に顔面に蹴りをぶちかます。

 

 (想像してた動きができる・・・俺、本当に怪人になったのか・・・)

 

 嬉しいような、悲しいような。おおよそ人間離れした身体能力だが、まだまだ動くギンジの身体。

 

 改造人間とはこの事だったのか。

 

 さらに犬怪人の後頭部を踏みつけ、跳躍、上空では既にスタミナ配分をミスって、バテる触手怪人。

 

 「くっ、流石にやるな、ギンジ。チワワは今、油断した」

 

 あたりを見渡しても、そこにギンジの姿はない。

 

 では、ギンジはと言うと・・・。

 

 「あっしはヘルブラッククロスの怪人だ、お前にも負けん。行くぞ、ギンジ!」

 「おうよ、俺も誰にも負けねぇ!〈俺の未来〉を作るためにな!」

 「ええ!?俺〈たち〉の未来!?結婚はまだはやいよ〜ギンジ君〜わたしまだ結婚できない年齢だよぉ、くふふ」

 「ドクターミヤコ、そんな事は誰も言ってません」

 

 上空に舞う触手怪人の、ハンマー状の触手の振り下ろしがギンジの頭部をめがける。これは当たる。その確信の表情が疲れた顔を無くす。

 

 「今のマジで殺る気だったろ」

 

 ハンマーを両手で受け止め、両足で触手部分にからみ付く。

 

 (やっぱり想像どおりの行動ができる・・いける、これなら!)

 

 一撃の重さも、普通の人間ならば間違いなく、その触手の前に命を落とすことになるだろう。ギンジは防御に使った腕はやや痛いぐらいだ。

 

 「お前、触手の根本が弱点だよなぁ?」

 「??」

 

 うち落とせなかった男の発言に、触手怪人は一瞬何を言っているかわからなくなる。

 

 「う、オラァ!」

 

 右手の鉄拳が触手怪人の根本に直撃する。

 

 「ぐっ!?」

 「そんでそのまま・・・落ちろ!」

 

 右手の拳が刺さったまま、触手怪人を空中でぶんまわし、地面に向けて投げ飛ばす。

 

 地上のリングにいるのは、犬怪人。そこをめがけてぶっ飛ばした。

 

 『ゲべッ』

 

 二人の怪人が恐ろしい速度で激突し、リングが砕ける。

 

 「戦い方は荒削りだが、素晴らしいパワーだ。あれなら直ぐにヘルブラッククロスの一流の戦士になれそうだ。ブヒ」

 

 ギンジの戦い方を見てオークとミヤコは最強の怪人の誕生を目の当たりにしたような気分だった。もちろん触手怪人も、犬怪人もミヤコが思っている以上の成果を出していた。及第点だ。

 

 瓦礫をかき分けて、犬怪人と触手怪人が出てくる。ギンジも尖った瓦礫に上手く着地して来ていた。

 

 (なんか・・・もっと戦いたいな)

 

 この数分の闘争において、ギンジの身体は何か満たされない、さらなる刺激を求める【何かを】感じていた。

 

 自分の手を見る。傷一つない、若い時の右手、左手。その両手はわずかに震えている。

 

 「流石に強いな、チワワは感激だ。さぁ、行くぞ、第2ラウンドだ」

 「あっしもやるぞ・・・必殺技たっくさん出すんだ!」

 「へへへ、やるか!」

 「いいよぉ〜もっともっと暴れちゃえ〜!!」

 「もうリングは必要ないな。ブヒ、ドクターミヤコにだけは怪我をさせるなよ」

 

 最早止めるものが居ない、訓練と称した喧嘩は夜遅くまで続いた。

 

 (もう少しだけ、もう少し戦って満足したら・・・謀反でもおこそっかな)

 

 自分でも理解できない、抑えきれない感情、そして今後の思いつきの目標を今は闘争で忘れる事で、ギンジは生きてる実感を全身で感じていった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 時間は少し遡る。具体的にはまだ三人の女達がすれ違う前、2022年1月。

 

 年を開けたばかりの早朝のオフィスには、ほとんど同僚がいない。

 

 最近度固化市の繁華街、住宅街、物流を任されるコンテナ等のエリアで奇妙な服装の集団犯罪が増えてきているという。

 

 その事件の数々は単純な泥棒にとどまらず、大規模な強盗や女性の拉致被害など、数えればキリがない。

 

 公安のオフィスにおいて甘白ミドリコは、事件の書類を見ていると嫌気が指して来ていた。

 

 

 自分は事件から外された。なのにその重要な事件の内容や、警察組織が、要約すると手に追えませんでした、で終わっているファイルの内容を頭にいれるたびに、悔しさで涙が出そうになる。

 

 事件の内容に共通しているのは、いずれも女性が大なり小なり、被害を受けている事から、ミドリコへの配慮として外されたのかもしれない。

 

 (だが、それでも、私はこの事件を追わないといけない。そんな気がする、だけだが)

 

 だが自分なりに人の正しさは自覚して生きてきたつもりだ。だから軍隊にも入隊したし、辞めた後も国の正義を守れる存在として公安に所属することを決めたのに。

 

 「よ!ミドリコちゃん!」

 

 陽気に声をかけてきた中年の男性は、まるで反社の様な出で立ちをした顔の濃いミドリコの上司だ。声をかけると同時に、ミドリコの肩にやらしく触って来る。

 

 「なんですか藤原さん。セクハラですよ、触らないでください」

 

 睨みもせず、見もせず、淡々とした口調でミドリコは藤原へ言い放つ。

 

 「嫌になっちゃうね〜おじさんそんなつもりなかったのに」

 

 わざとらしくおどけた藤原は、ミドリコのデスクに一瞬眼を通す。

 

 例の事件の事で悩んでいるのだろう。おじさんなりに気を使いたかったが、これに関しては藤原でもどうしようもない。なぜなら藤原もまた操作から外されたからだ。

 

 「あのよ」

 

 少し前までのおどけたおじさんの声音はなくなり、それなりに貫禄ある公安としての立場で、藤原は声をかける。

 

 「甘白君、気持ちはわかるが、その事件はもう追いかけることはできない。なんせこの第4(組織犯罪対策課第四班)でさえ、事件を追うなって上からのお達しなんだぜ」

 「なんでも上から上からって、そんな事言ってて、悔しくないんですか!」

 

 ミドリコにしてはかなり珍しく、激高する。全て悔しさから来る怒りの感情が藤原の耳を貫く。

 

 「いやさ、おじさんだって悔しいよ?そりゃ。住んでる場所近いし。んでも本当にどうしようもないらしいし、第1がなんとかするってんだから、第4のおじさん達は、貰った休暇でダラダラしましょうや」

 

 今、休暇と言ったのか?信じられない。こんな状況で、犯罪が今にも大きくなりそうだと言うのに、今この男は休暇と言ったのか?

 

 明らかな殺意を感じ取ったのか、藤原は直ぐに休暇申請書を見せる。

 

 「ほ、ほら、ミドリコちゃんのもあるヨ。も、もう既に申請しといたよ、ほら、午後半休、明日、明後日」

 「勝手に申請するなーーーー!!!」

 

 ミドリコの怒りはまっとうな物で、色々混ざった本気のキレっぷりで、10以上年上の上司、藤原をすぐに退散させた。

 

 (クソ、こおままじゃ駄目だ。この組織では、これから増える巨悪に太刀打ちできない。何か、仲間が必要だ・・・)

 

 苦悩を抱えながらも、勝手に申請された休暇を使おうと、繁華街へと向かおうかと考える。一先ず、何をするのかは決まっていた。

 

 (酒だ。こんなクソみたいな状況ではまともに頭が働かないっ)

 

 ここ数日のイライラがずっと頭を支配している。いざとなった時に、何か事故があった時に、冷静な対応ができない様な気がする。

 

 「こんなことなら休暇貯めとくんじゃなかった・・・」

 

 休日も真面目に犯人逮捕の為に、動き続けたミドリコにはもはや休暇だけで1年は休職ができる程だ。

 

 それでも休まないのは彼女が強く、自分の正義の為に、ひいてはこの社会の平和の為に働いていると本気で信じていたからだ。

 

 (なんで、なんで捜査から外すんだ・・・)

 

 いつも気丈に振る舞っていても、一人になった瞬間に泣きそうになる。

 

 もう何をしていいのか解らないから、一先ず飲もう。それしかない。

 

 ミドリコは泣くにも怒るにも、せめて今日だけは酒ですべて忘れてしまおうと繁華街へと向かうのであった。

 

続く

 




お疲れ様です。更新頑張りました。適度に休憩はさみながら書いてるから話が前後したりして大変でした。自分の頭の悪さに毎日苦戦してます。

応援やコメント等いただければ感謝です。

後書き書くことないからまたキャラクターのネタ書きます。

佐久間ギンジ
主人公。なんか若返って転生した。

ドクターミヤコ
悪の組織のかわいい研究者。本名は鈴村ミヤコ。
色々やばい

オーク怪人
ブヒブヒしゃべるけど、冷静沈着な怪人。組織の怪人としては現状№1
ミヤコに絶対忠誠。


途中出番なかった。ミヤコの側近。

触手怪人
陵辱プロジェクト第1号として登場した怪人。
バカ、厨二。

犬怪人
チワワの顔した怪人。筋肉が全て解決すると思ってる。
触手怪人よりは頭いいけどバカ。一人称はチワワ

藤原
おじさん。セクハラとか勝手に部下の休暇申請するおじさん。
日頃から行っているので、本来なら免職レベル

それではまた次回!アトラクションでした!
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