正義のヒーローヘヴンホワイティネス   作:アトラクション

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おはようございます。アトラクションです。

進化の怪人とかギンジとか、色々風呂敷広げすぎた感は否めない。

けども、上手く纏められるように頑張るぜ!
それではどうぞ


20・突撃〜この手を伸ばして〜

 

 6月30日。

 

 時間はまだ朝日が登り初めて早朝。

 

 警察署にて藤原は装甲車の手配を済ませ、ミドリコと、同じく公安警察に所属する小柄な女性と三人で待機していた。

 

 「藤原さん?お尻を触るのはちょっと・・・」

 「なぁんだいいじゃないの、山吹ちゃーん」

 

 最早当たり前になった藤原のセクハラを、ミドリコが拳銃を引き抜き山吹という女性から手を離させる。

 

 小柄だが、スーツとパンツルック、そして夏なのにベストを付けた清潔感のある服装に、ショートボブのヘアスタイルにインナーカラーを夕日色に染返した、おおよそ警察とは思えない髪色。

 

 彼女の名前は山吹イロ。公安警察に所属し、神宮財閥、繁華街のクアッドタワーの責任者、その他企業との太いパイプを持つ、公安局員管理責任者。

 

 しかしそれは表向きの姿。

 

 「本日は、ありがとうございます。山吹さん」

 「ナハハ、いいよぜんぜん。ミドリコさん」

 

 ミドリコが礼儀正しくお礼を言うと、イロはにへにへと笑顔になり、手を軽く振る。

 

 「しっかし、山吹のお嬢ちゃんが、あのヘヴンホワイティネス結成の縁の下の力持ちとはねぇ」

 

 藤原が扇子を仰ぎながら、イロとミドリコの胸に目線を集中させる。

 

 (なるほど・・・山吹は、オレンジ、甘白は紺・・・)

 

 藤原の観察眼が働き、インナーの色を透視する。

 

 山吹イロ。

 

 性別女性。2000年1月1日産まれ。

 

 表向きは先にも述べた通り、では裏の顔は。

 

 正義のヒーローヘヴンホワイティネスを、結成させた立役者。

 

 「ヘルブラッククロスとかいう、テロ組織以下のゴミ共にはさんざ煮え湯を飲まされたからね?」

 

 装甲車の周りで、イロはミドリコに言うと、ミドリコも同じ様に煮え湯を飲まされた事を思い出す。

 

 ミドリコは、今悪の組織のヘルブラッククロスの大幹部・ドクターと呼ばれる存在の居場所を突き止めた。

 

 度固化音楽堂。

 

 そこにドクターが居るということを知ったのは、ケイタという優秀な協力者の存在あってこそだが、ミドリコは報告の際には、話が混乱しないように、自分が調べた事にしていた。

 

 ヘルブラッククロスを捕まえるため、山吹イロは最初に行動を起こした警察。

 

 次第にその悪の存在を知り、一人で制御しきれなくなった時、公安の柏木と結託し、そして独自に捜査していたミドリコ、さらには常識を超えた存在、ヘヴンホワイティネスへの遠回しだが、しかし確実な援護、支援を行ってきた。

 

 神宮カエデ、宮寺レン、甘白ミドリコを公式のメンバーとし、非公式に角倉ケイタ、名前だけは知っている佐久間ギンジ。

 

 「今回、ヘルブラッククロスの大幹部を逮捕できるなら、ぜひとも協力させて欲しいしね?」

 「ご助力、感謝いたします」

 「ナハハ、大丈夫さ?」

 

 そんな二人の会話を横目に、藤原は再び胸から下へと視線を移動させる。

 

 (・・・なるほど、セットアップにしない方法もあるのか・・・)

 

 真剣な表情の藤原にイロとミドリコが拳銃を引き抜き、足元へと実弾がめり込む。

 

 アスファルトで舗装された駐車場に、高い金属音が鳴ると藤原は驚愕に青ざめる。

 

 「セクハラは死・あるのみ?」

 「死・あるのみですね」

 「やめろや!おじさんを殺す気!?」

 

 中年男性の悲痛な叫びが、駐車場にこだました。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 早朝の蒸し暑いような、肌にまとわりつく空気感と、わずかに垂れてくる汗のしずくを拭うと、ケイタは登りゆく朝日を眺める。

 

 ケイタ、カエデ、レンの居る場所はカエデハウスの中庭。

 

 日差しが入り始める。夏の支配者が顔を覗かせる空を眺めて、三人は戦いへの準備をしていた。

 

 音楽堂について調べられる事は、いっぱい調べた。

 

 この街で、詳細不明の人物が建物を土地ごと買収したり、不審な人物が出入りしている・・・等。

 

 朝日が照らすカエデハウスに、影が伸び始める。

 

 「まさか本当に音楽堂にいるとはね・・・」

 

 ケイタの言葉に、左右に並ぶカエデとレンが苦笑する。

 

 「ギンジに音楽って合わなそうだけど、なんでこのチョイスなのかしらね?」

 「サングラスが、ロックなのかも」

 「顔だけじゃないのよ」

 「でも、ギンジ、エレキギター、弾けるって言ってた」

 「僕もアコギなら弾けるよ!」

 

 今日の戦いが終わったら、ギンジも入れて皆で音楽でも披露しようかと、それぞれ冗談を口にする。

 

 「それじゃ、あたしは先に色々準備してくるわ。レンも遅れないようにね」

 「うん・・・」

 

 屋内に戻りながらカエデはレンの名前だけを呼ぶと、窓を静かに開けて室内から手を振る。

 

 今ケイタを呼ばなかったのは、仲間ハズレにしているからではない。戦闘には連れて行けない者を、軽々しく呼ぶことをカエデはよしとしない。

 

 怖いから、死ぬかもしれないから、だから一緒に来てくれ。

 

 それだけはレンもカエデも、ミドリコとギンジも絶対に言わない。

 

 ケイタにはケイタにだけ出来る事があり、彼に出来ない事は、カエデを始め、仲間が補えばいい。

 

 防御が硬い者はカエデに。武器持ちはレンに、上空の敵はミドリコに。適材適所でメンバーの援護でギンジが動く。

 

 ケイタは戦う場所での事前情報を仕入れて、より作戦の視野を広げる。それが今のヘヴンホワイティネス。

 

 故に一人も欠けてはいけない。

 

 「僕も・・・戦えればいいんだけど」

 

 悔しさから正拳を握る。それを見たレンは自分の恋人の手をソっと包み込む。 

 

 「仮に戦えても、ケイタが傷つくのは、嫌。だから・・・」

 

 レンが包み込んだケイタのその手を、二人の胸の前に上げると、朝日に照らされながらも優しい光を宿した瞳で、レンは言葉を紡ぐ。

 

 「私が、恐怖に敗けないように、何度でも立ち上がれるように、ケイタを守れる様に、私が戦う。傷ついた私の心を、君が、守って・・・?」

 

 仲間を助ける。ただそれだけの簡単な事。

 

 しかし現実は人の手に追えない、怪人との激突が生じる戦い。

 

 決意を硬くしたレンの表情に、ケイタも同じ様にレンの顔を見つめる。

 

 「そうだね・・・ごめん、今度は僕が弱気になってたかも。必ず、勝ってね」

 「勿論。勝つのは私達。ギンジを連れて帰ったら、ケイタも怒ってあげて」

 「ははは・・・逆ギレされそー・・・」

 

 乾いた笑い声に、どこか可愛いと言うのか、愛おしく思えたのか、ケイタのその遠い目をするその顔を見てレンの微笑が浮かぶ。

 

 「応援してるよ!」

 「ありがとう、ケイタ。好き、だよ」

 「僕も!」

 

 6月30日。

 

 運命の戦いは刻一刻と迫りつつあった。

 

 (よおおおし、そのまま押し倒せ!行っちゃいなさい!ケイターー!レーーーン!)

 

 ・・・。カーテンに隠れてカエデは二人の尊い瞬間を、自身の心へと刷り込んでいた。

 

 親友とはそれでいいのだろうか。気を遣ってカエデはレンとケイタを二人きりにしてあげたはずなのだが。

 

 (・・・)

 

 何か頭の中で変な妄想をしてしまった。

 

 その内容は、同じ場所で立っている人物が、カエデとギンジ。

 

 『なぁ、俺、お前のことが・・・』

 「消えろ!妄想!」

 

 手で妄想の中のギンジを消し去り、カエデは現実に舞い戻る。

 

 「別に意識なんかしてないし・・・」

 

 少し不服そうな顔でリビングに戻ると、カエデは先程の妄想を再び繰り返してしまう。美化された気持ち悪い妄想だが、必殺技で再び妄想を消し飛ばすと、今度こそ現実に戻ってくる。

 

 (・・・)

 

 もし。もしもだが、妄想の中のギンジと同じ事になるなら、もっとロマンチックな方がいいと思ってしまった。

 

 (・・・ありえないわね。そもそも助ける事が先なんだし)

 

 妄想の通りには行かなくとも、その内容に近いモノを実現するには、ギンジを救出して現実を取り戻さないといけない。

 

 「待ってなさいよ・・・ヘルブラッククロス!」

 

 力強く言うと、カエデの左手に右手を打ち付け、彼女もまた決意を硬くする。

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 カエデ、レン、ミドリコ、イロ、藤原を乗せた装甲車が音楽堂へと向かう。

 

 日常では出てくる事のないその車の怪しさに、道路を走る他の車は自然と道を譲る。さながらそれは王の通る道を開ける騎士達に見える光景に、運転する藤原が上機嫌になる。

 

 「ハッハッハ。どけどけバカ共」

 

 口の悪い運転態度に、ミドリコとイロが眉をひそめる。同じ様に後部座席に座るカエデとレンも、藤原の荒いその姿に嫌いな男子に向ける視線で見つめると、藤原の左手がミドリコの足に伸びるのを見て取れる。

 

 「やめてください。性格が感染ります」

 

 しれっと言い放つミドリコの言葉に、カエデは思わず「おぉ・・・」っといった反応。

 

 「こうして会うのは初めてかな?ヘヴンホワイティネスのお嬢さん?」

 

 左側の前部座席に座る女性、イロが振り向きカエデとレンに挨拶をする。どこか疑問系に聞こえる様な喋り方は、若干だが幼さを感じる。

 

 山吹イロ・・・その名前をカエデは知っては居たが、ヘヴンホワイティネスを公安に認めさせた影の協力者と会うのは初めてだった。

 

 「お父さ・・・父からお話は伺った事はあります。初めまして、神宮財閥・神宮ソウジロウの娘でございます。名を、カエデと・・・」

 

 財閥の令嬢らしく、取り繕ってはいるものの、家に居るときと同じ対応で挨拶をするも、イロという女性は堅苦しく感じる挨拶を、軽くはねのける。

 

 「ナハハ、いいよ?そこまでしっかりした挨拶しなくて?」

 

 レンもあまり見ないカエデの礼儀正しさに、少し微笑みを投げる。

 

 「何よレン」

 「ん・・・心配なのかな、って」

 

 取り繕っていたその態度は、ギンジへの心配を隠すようなモノである事を、レンは見抜いていた。

 

 「ん、ま、まぁ、心配はしてあげてるわよ?・・・文鳥、いや何かしらの小動物レベルのモノだけどね・・・?」

 「・・・ふふ」

 

 微笑を浮かべて、小さく笑う。

 

 本当は心配でしょうがないのに、それを隠す態度を見ていると良い意味で可笑しくなる。

 

 「藤原さん?」

 「あんだよ、山吹ちゃん」

 「そこ、左なんですが?」

 「音楽堂は右だろ?」

 「そっちだと、東度固化市方面ですが?」

 

 公安の装甲車は右車線のまま右折。音楽堂は中央度固化の筈だが・・・。

 

 「山吹ちゃん、地元はどこよ」

 

 藤原は運転しながら横目でイロを見る。イロの不思議そうな顔に、藤原は再度同じ質問をする。

 

 「地元、どこよ」

 「え?ええと、東京の、八王子ですが・・・?」

 「そうかい。度固化が地元の奴・・・特に車を持ってる奴は、こうやって遠回りして行くのさ」

 

 どういう事だか解らないと言ったイロの反応を、ミドリコは頷きながら藤原の話を聴く。

 

 「この時間、朝でも渋滞するんだわ。だからここは、東度固化方面からあえて遠回りすんのさ」 

 

 地元民の力説にイロは頷く。まだ車を運転したことのないカエデも、納得するように頷く。

 

 バイクの運転は出来るレンも、この説明には納得する。

 

 「きっちり連れてってやるさ・・・おじさんこう見えても正義漢なのよ?」

 

 運転の目線はズラさずに、藤原が言うと、その場にいる四人の女性が少しだけ見直す。

 

 見直した・・・のだが、直ぐにミドリコの髪を触ろうとして、いよいよ無言で拳銃を突きつけられる。

 

 再びセクハラをしようとした藤原の評価が、一瞬にして10段階下がってしまった。

 

 「・・・泣きそうだ」

 

 装甲車は音楽堂へと行く為に、道を突き進む。

 

 中央度固化へのメートル数を表記する標識を、無視してさらに真っ直ぐ進む。

 

 「中央度固化の道には戻らず、ここでもあえて遠回りですか?藤原さん?」

 「いや、今のは素で間違えた」

 「このおじさんは・・・」

 

 イロの質問に悪びれもせずに運転を続けると、ミドリコが頭を抱える。カエデもレンも不安になるが、装甲車はもう戻れない。

 

 あえて、ではなく本格的に、遠回りすることになってしまった。

 

 「すぐにUターンですよ、藤原さん・・・!」

 「ちょっと!早く戻って戻って!」

 「ふじわらさん・・・今、すぐに、ひきかえして・・・ギンジが危ない」

 「わーってるよ!こいつを使って、ピンチを脱出してやらぁ」

 

 藤原が取り出したのはパトランプ。それを装甲車の上部に取り付けると、サイレンを鳴らして、少し進んだ先で急なUターンを行う。

 

 あまりにも荒い運転に、全員が引っ張られる感覚でバランスを崩す。

 

 「最初っからこうすりゃ、最速だったかもな!渋滞エリアは無理だが」

 

 道を無視して急激な加速を行い、装甲車は警察の権限を最大限利用した暴走運転で中央度固化へと戻る。

 

 「過激車両の藤原たぁ、おじさんの事よ!どけどけどけ!」

 「昔は本物の暴走族だった過去は本当だったんですか・・・」

 「あたぼうよ!速制に引っかからないから、警察になったんだよおじさんは!」

 「ちょっと!おじさん本当に警察なの!?」

 

 カエデの大声に、ミドリコとイロは頭を抱えながら、ため息混じりの返答を行う。

 

 「残念ながら?」

 「公安警察なんですよ・・・」

 

 装甲車がついに100キロを出し始める。

 

 「運転は正しい姿勢、正しい速度、正しい知識で走れよォ!」

 

 荒いを超えた暴走に、カエデ、レン、ミドリコ、イロは混沌と化した車内を漂い始めるのであった。

 

 (ごめんギンジ・・・!着く前に、倒れちゃうかも・・・!)

 

 身体をぶつけたりするほどの荒い運転に、カエデへのダメージは蓄積していった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 もう一日か2日は経ったのだろうか。

 

 あの撮影の後に、俺は一体何をされていたのだろうか?

 

 何か、こう、とても気持ちいい事をしていた筈だが・・・? 

 

 証明が辺り一面に輝き、折り畳める座り心地の良さそうな椅子が並ぶ。まるでコンサートホールだ。そこに俺と、あの子が立っていた。

 

 「くふふ、大丈夫?傷は痛むかな?」

 

 俺にとってもったいないぐらいの可愛い女。そう、俺の命の恩人であり、俺に生きる指針を立ててくれた・・・言うなれば、嫁ってやつだな。

 

 あーものすごく晴れやかで、気分がいいぜ。

 

 赤縁のメガネから見える、左目は怪人特有の瞳をしている。その瞳を見ると、その子は嬉しそうに俺を見つめると、俺も微笑みを返す。

 

 「怪我の方は・・・まぁ痛いけど、お前の治療のおかげで、この通りだぜ」

 

 軽く腕を回すと、特別な痛みは一切ない。

 

 「くふふふ。それはよかったよ。【進化の怪人】?」

 

 笑顔のまま、そして俺を愛してますって顔で見つめてくれる。

 

 そう、俺、こと進化の怪人は今めっちゃくちゃ気分が晴れやかなモノになっていた。

 

 そしてこの子は、ドクターミヤコ。俺を慕い、俺が慕う、俺の女。

 

 「ん〜。わたしを欲望の目で見てくれるのいいよ〜。キュンキュンしちゃいそう・・・くふ、くふふふ」

 

 ドクターミヤコが喜びにふるえているのか、俺にすり寄って抱きしめてくれる。心地よい暖かさだ。女の暖かさと、やわらかさ、鼓動の速さを身体で感じ取れる。

 

 俺も同じ様に、ドクターミヤコの背中と頭に腕を回し、自分の身体にくっつける。

 

 「くうふふふふーふふ!」

 

 ぎゅう!っとドクターミヤコの手に力が入る。そんなに俺と離れたくないのか?可愛いなぁ、こいつはホントに。

 

 こんな素直さをカエデも・・・。

 

 カエデ?誰だ、そいつ。

 

 「進化の怪人・・・?」

 

 ドクターミヤコが、力を抜いた俺の手に指を絡ませながら上目使いで話しかけてくる。何もかも捨てて、今から抱いてやりたくなる。それほどまでに可愛いし、綺麗で、美味そうだ。

 

 「いいや?気にすんなよ、ドクター」

 「くふふ、そう?」

 「ああ。本当に何もないから、気にしないでいいぜ」

 

 俺はドクターのツヤの良い髪を、横に撫でるとドクターは嬉しそうに、手に頬を当てる。

 

 この顔が何にも変えられない幸せに見えて、俺は絶対にこの子を守りたいと思えた。

 

 「ブヒ・・・ドクター、向こうで機材についてご相談がありまして」

 

 途中の良い所なのにオークの奴が入ってきた。

 

 「はーい。今行くね〜くふふ。それじゃあ、また後でね、進化の怪人・・・!」

 

 小走りで部屋の裏へと向かうドクターの背中は小さく、きっと抱きしめたら俺とドクターの心は本当の意味で一つになれそうだと、本当に思う。

 

 「身体の調子は良いか?ぎん・・・進化の怪人」

 「ああ、すこぶるいいぜ。ベランダで寝てた時に比べたら、もう最高に・・・」

 

 ベランダ・・・?俺、そんな所で寝てたっけ?

 

 ありもしない筈の記憶に・・・何か、なんだろうか。

 

 「まだ記憶が混濁しているのかもな。大丈夫だ・・・お前は、正真正銘の怪人。ドクターミヤコの為の、進化の怪人だ」

 「あ、ああそうだよな。俺は進化の怪人・・・進化の怪人・・・」

 

 一瞬うわ言の様にその言葉を続けて、俺は再び正気に戻る。

 

 「大丈夫か、進化の怪人。ドクターミヤコを守護れよ・・・期待しているぞ、一流の戦士よ」

 

 オークの奴がその分厚い手で俺の肩を叩くと、またありもしない何かを思い出す。思い出す・・・って言い方は絶対間違っているのだが、そうとしか言えないんだ。

 

 どこかの研究所みたいな所で、触手と犬と、それからドクターにこのオークの奴。

 

 そこで肩を叩かれた事を、まるで記憶を映像化するような、不思議なモノが頭に流れる。

 

 「・・・」

 

 俺は無言のまま首輪を触る。怪しい紫色の光が明滅するこの首輪。

 

 それを触ると、ドクターに飼いならされてる様な気持ちになって、無性に腹が立つ。

 

 「・・・?なんで腹が立つんだ?」

 

 こんな事を思うなんて・・・。レンとかミドリコが見たら・・・。

 

 「だから誰だよ・・・」

 

 顔は見えないのに、体格を思い出す。普通の女の子の身長、カエデ。ドクターと同じぐらいの身長の女、レン。そして一番身長の高い、ミドリコ。

 

 いずれも顔がぐちゃぐちゃに塗りつぶされて、その人達が手招きしている。

 

 「進化の怪人・・・」

 

 オークの奴が俺に声をかけるが、俺はそれを聞き流す。

 

 なんだ・・・?俺は、一体・・・?

 

 「ブヒ。今のお前は、何だ?」

 「お、俺は・・・進化の怪人だ」

 

 そう、俺は進化の怪人。ドクターミヤコの為の、怪人。

 

 「ドクターを【好きになれ】」

 

 その言葉を聴いた途端、俺の中に何か渦を巻く様な不思議な、しかし気持ち悪い感覚が、炎で焼かれ、電撃で洗い流される。

 

 間違いなく、俺はドクターを好きになっていた。ソレ以外は何もいらない。

 

 ──もうすぐだ。もうすぐだぞ、ギ──。もうすぐで─。

 

 声が聞こえた様な気がした。

 

 だけど、今はもうなんでもいい。ドクターをこの手で、抱きしめたい。

 

 オークの奴に連れられ、俺たちは戦闘員達と和気あいあいと話す、楽しそうなドクターの顔を見て、気持ちが跳ね上がる。

 

 んーと、さっきまで誰かの事を考えてた様な気がしてたんだけど・・・。

 

 (まぁ・・・いいか)

 

 俺はすぐにドクターに駆け寄る。今直ぐ、この子と一緒になりたい。

 

 その気持ちを胸にしまって、そして考えることを放棄した。

 

 「ギンジの奴め・・・この程度ではあるまい。ドクターは、進化の怪人である【お前を】好いているんだ。ただの進化の怪人には興味はすぐになくされるぞ・・・」

 

 後ろで何か言ってるが、別に興味も沸かない。どうでもいいしな。

 

 「ドクター!」

 「あ、ギン・・・じゃなくて、進化の怪人!」

 

 とにかく俺はこの可愛い顔のドクターを守りたい。触って、撫でて、全部味わい尽くしてやりたい。

 

 強く思えば思うほど、俺の・・・そう、心が・・・震えて、ドクターを大切にしたい気持ちが芽生えていた。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 藤原さんの暴走運転に揺られ、ついに音楽堂に到着。酷い運転だったわ。

 

 「はぁ、死ぬかと思ったわ」

 「同感」

 「全くだ・・・」

 

 向こう10年、こんなやばいのはジェットコースターでも超えられないわね。それぐらいやばい運転。

 

 「さて、私は戦闘の準備に入る。カエデとレンも少しだけ休息するといい」

 

 ミドリコがあたし達に言うと、装甲車の中で着替え始める。なんでも本気の戦闘服に着替えるそうで、いっぱい装備を持ってきたらしい。

 

 「藤原さんは、ここに居て?」

 「じゃあ揉ませろ、山吹ちゃん」

 「チッ」

 

 本気の舌打ちをされた藤原さんが、泣きそうな顔をしてる。いい気味だわ。

 

 黒いドーム状の音楽堂。コンサートや、ライヴに使われたりしてる、この度固化の名物の一つで、ここは老朽化に伴い取り壊される予定だった。だけど、ケイタの情報では管理会社を含めて、詳細不明な人物が買収していた・・・。

 

 こう聴くと間違いなくヘルブラッククロスの仕業だと、普通の神経をしてたらそう思っちゃう。

 

 もし仮にあたしが戦いに身を置いてなかったとしても、この情報を見たら怪しいなーって睨むと思う。

 

 「済まない、待たせた」

 

 装甲車からミドリコが出てくる。

 

 「ミドリコ・・・かっこいい」

 

 レンが目を輝かせる。

 

 その姿は、迷彩服に、ヘルメット、そして革製と思わしきグローブ、重圧な安全靴みたいなブーツ。

 

 「久しぶりに着たが、どうかな?自衛隊に所属していた時の制服なんだが・・・」

 「ミリタリーコスですか。なるほど、芸術点は低いですが、スタイルが良いのでカバーできてますね。7点と言った所でしょうか。審査員の山吹さん、どう思われます?」

 

 何よ藤原さん。急にペラペラ話し始めて。

 

 「確かに、このコスにおける重要性は、重くても動きやすい事にあると思いますね?アサルトライフルも、アーミーナイフ、そしてパーツをそれぞれの部位に隠したスナイパーライフルも、直ぐに組み立てられるように、胸に隠しているのはポイント高いです?7と言ったところ?」

 

 ミドリコがだんだん顔を赤くしていく。なんの審査かしら・・・?アホしか居ないの?

 

 「えと、ミドリコ、かっこいい!」

 

 10と書かれた立て札を、ふんすふんすしながらミドリコに見せるレンの姿に、これだけは素直に受け取る。

 

 「ふぅじぃわぁらぁ!!」

 

 思い切り拳を振り上げて、藤原さんは思い切りぶっ飛ばされ、イロさんは平謝りしてる。合掌。

 

 朝の空気感をまといながら、あたし達も変身する。

 

 ここにギンジがいるなら、いよいよ戦いが始まるわ。

 

 「覚悟はいいわね・・・」

 「勿論、いつでもいい」

 「無論、私もだ」

 

 ヘヴンホワイティネスとして平和を守るのは当然で、今日は違うわ。

 

 「自分の、大切な仲間を助けるために来たんだよね?私はここで支援するよ?勿論、着かず離れず、でね?」

 

 イロさんの言う通りで、あたし達は、正義の仲間を助ける為にここまで来たの。

 

 「おじさんはなにすればいい?」

 「藤原さんも突撃要員?」

 「マジで・・・?」

 

 イロさんて若いのに、余裕のある人ね。ミドリコとは違った意味で大人の女性って感じ。

 

 「それじゃあ・・・行くわよ!」

 

 あたしの掛け声で、正面入口を蹴破ると、コンサートホールには案の定、戦闘員達の姿が。

 

 「な、なんだ!?」

 「お、おい!ドクターを!」

 「怪人達は朝で力が弱まってるぞ!」

 

 戦闘員達が慌てふためく。

 

 当然よね、こんなギンジみたいな作戦、いつものあたし達じゃ思いつかないし、こいつらもそんな事するなんて思ってないだろうから。

 

 「正義のヒーロー、参上ってね!」

 

 戦闘員達が、あたし達をヘヴンホワイティネスと解ると、襲いかかってくる。

 

 「我々の仲間を返して貰うぞ!」

 

 ミドリコがアサルトライフルをバラ撒き、戦闘員達の動きを止める。

 

 「弾丸変更!」

 

 取り出した新しいマガジンは〈重〉と書かれた、一回り大きいソレをアサルトライフルに装填する。

 

 一連の動作がプロの手さばきで、あたしは戦闘員を殴り倒しながらミドリコの行動が本当にかっこよく見えた。

 

 「重装貫弾・・・!」

  

 多数の戦闘員が、ミドリコに殺到する中、全く臆さずにアサルトライフルを構える。

 

 「この弾丸は、お前らのパワードスーツとやらを簡単に貫くぞ・・・」

 

 さっきまでと違い、重苦しい銃撃音が鳴り、戦闘員達をいとも簡単に貫いていく。

 

 「げぇ!!マジで貫くんだけど・・・」

 「くぞおおお痛てええ」

 

 戦闘員達が簡単に痛みに敗けて、それぞれ悲鳴を上げる。

 

 やるじゃんミドリコ!あたしも敗けてらんないわ! 

 

 「ビーム剣術・アウフ・ラ・ヴェイン!」

 

 左右に2枚の刃、横に広がったビーム剣を展開させて、戦闘員達を掬う様に、斬り飛ばして行く。言葉を上げる事もなく、次々と戦闘員達が巻き上げられ、ある程度浮かすと、上空に溜まった戦闘員達を最大出力に展開したビーム剣で一刀両断。

 

 「邪魔を、しないで・・・!」

 

 珍しくマジ怒りモードね、レン。

 

 「おい、あいつ公安の男だ!殺せ!」

 「え?」

 

 戦闘員の一角が、藤原さんに迫る。

 

 「まずいわ!藤原さんは一般市民と同じで・・・」

 「大丈夫だ。カエデ、見ておくといい。元伝説の不良・藤原さんを」

 

 ミドリコがあたしの肩に手を添えると、あたしは思わず藤原さんをの動きを見る。

 

 「こんなコスプレしてたら喧嘩しずらいだろ・・・」

 

 藤原さんが戦闘員の頭をつかみ、ミシミシとメットがヒビ割れる。

 

 「それに・・・公安に喧嘩売るなら、もっと大勢連れてこいやぁ!」

 

 そのまま戦闘員に膝蹴りで、そいつの身体をくの字に曲げると、首根っこを掴みジャイアントスイングよろしくの大回転を行う。

 

 複数人固まった戦闘員の群れに、首を掴んだ戦闘員を投げ飛ばして、そしてドロップキック。

 

 バランスを崩した戦闘員達の群れに、普通に・・・いやほぼ一方的に戦ってるわ。何者なのかしら。

 

 ギンジも顔負けするかも知れないこの戦い方には正直驚かされたわ・・・。しかも落ちてる道具を武器代わりに好き放題してるわ。

 

 「皆戦えるなら好都合よ!」

 

 別に勝ち負けじゃないけど、あたしも敗けてられない。

 

 「ちくしょう、この女ぁ!スケベな身体しやがって!」

 「あんた達じゃ一生触れないけどね・・・!」

 

 頭を掴んであたしは真上に逆さまで立ち上がる。

 

 「触らせてもあげないわ!」

 

 そのまま脚を開き回転、してこちらに迫る戦闘員達を蹴散らしていく。

 

 「必殺!スパイラル・キャノン!」

 

 回転の勢いで衝撃波を吹き飛ばしながら、どんどん迫る戦闘員達をこの技で一人一人確実に蹴り倒し。最後は土台にしている、この手元の戦闘員の頭から跳躍して、両手を組んだ拳で叩き落とす。

 

 「スカイフォール・ハンマー!」

 

 戦闘員の後頭部にあたしの手が命中し、入り口側まで戦闘員達が転がっていく。

 

 着地して辺りを見渡せば、ほとんどの敵は倒れたみたいね。

 

 「あらかた倒したわね。次行くわよ!」

 

 こっちのコンサートホールには奴らは居ない。

 

 あのドクターという大幹部と、早い所決着をつけないと・・・!

 

 待ってなさいよ、ギンジ!今、助けてあげるから!

 

 あたし達は音楽堂の奥へと突き進んで行った。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

  

 「なんの騒ぎだ!」

 

 進化の怪人の居るコンサートホールからも聞こえる、大きな衝撃音にオーク怪人が出る。

 

 「そ、それが・・・ヘヴンホワイティネスが襲撃して来たそうで・・・」

 

 戦闘員が息を切らしながら、オーク怪人への報告を聴くと、内容に驚く。

 

 「ヘヴンホワイティネスが・・・我々を襲撃だと・・・!?」

 

 普段とは違い、ヘルブラッククロスが襲撃される側になった事に憤りを感じるが、直ぐに状況判断を考え、戦闘員に指示を出す。

 

 「ドクターの身の安全を優先しろ!決してここまで突撃させるな!」

 「もちろんでございます!」

 

 戦闘員が頭を下げると、直ぐに行動を開始する為に部屋を出る。

 

 「くふふふ、まさか来るとはね・・・」

 

 オーク怪人の後ろで、進化の怪人の膝の上で向かい合わせになるように座る、ドクターミヤコの言葉にオーク怪人は背中を向ける。

 

 「なんだぁ?敵か・・・?俺が出てもいいが」

 「くふふふ、だぁめ。一緒に居て?」

 「構わない。ここは私と剣士、サキュバス、タコが防衛に入る。進化の怪人はここでドクターを確実にお守りしろ」

 

 オーク怪人の言葉で、今まで潜んでいた怪人達が闇から姿を表す。

 

 黒いマントにビキニアーマー、剣を腰に装備した剣士の怪人。

 

 黒い羽に、茶髪。全身を妖艶に包み込むキャットスーツのサキュバスの怪人。

 

 ふわふわと漂い、吸盤を出し入れしながら眼を光らせるタコの怪人。

 

 「何があってもドクターをお守護りしろ!」

 

 オーク怪人が踵を返すと、複数いる上級戦闘員、ハーフムーンの二人へ指揮を取り始める。

 

 「ここまで奴らを侵入させるな!ヘヴンホワイティネスを倒せねば、ここでドクターの信頼を、引いてはヘルブラッククロスへの大きな打撃となることを総員、覚悟せよ!」

 

 ギンジへの洗脳が成功した今、ドクターの判断、作戦に唯一のほころびや失敗があってはならない。

 

 「覚悟なら今ここでしなさい!」

 

 扉の向こうで声がすると、戦闘員や怪人達に緊張感が走る。可憐な声音と、決意を固くした者の声は、オーク怪人に新たな戦士の登場かと心を踊らせる。

 

 それと同時に自分の力ではヘヴンホワイティネスとは、直接戦う事にはならない立場になってしまった故に、戦えない事を残念に思う。

 

 (どうにしろ、我々が負ける事は無いがな)

 

 扉をぶち破り戦闘員達が、転がってくる。一人一人、決して弱くはないオーク怪人直属の手下達だが、それらがゴミの様に吹き飛ばされる。

 

 「随分早い登場だな・・・ヘヴンホワイティネス!」

 

 扉の暗闇から一人一人、横並びでその姿を表す。

 

 神宮カエデ、宮寺レン、甘白ミドリコ。

 

 そしてもう一人は情報でしか知らない公安の男、藤原。

 

 「ギンジ!!」

 

 カエデが強く叫ぶと、ギンジと呼ばれた進化の怪人は、ミヤコを退けて立ち上がる。

 

 「くふふふ。邪魔が入ったね・・・」

 「おう。俺が暴れてもいいぜ」

 

 進化の怪人がミヤコの顎に手を添えて、静かに微笑みを投げかける。

 

 「敗けない?もし敗けて・・・また、わたしから離れたらいやよ?」

 

 それに対して珍しく、しおらしくなるドクターミヤコの顔。

 

 「例え敗けても・・・離ればなれにはなりゃしねーよ」

 

 振り向き、視界に入るのはヘヴンホワイティネス。

 

 そしてまたミヤコの顔を見る。ミヤコの顔は本当に心配そうな、年相応の少女の顔。

 

 「そんな心配そうな顔すんなよ」

 

 苦笑して、進化の怪人は自分の好きな人の為に、敵であるヘヴンホワイティネスへと歩き出す。

 

 「もし離れるその時は・・・お前も一緒だ」

 

 その言葉はかつての男の面影を見せる。

 

 佐久間ギンジ。ミヤコが唯一愛する、正確には愛していた男の背中を見つめて、ミヤコは再びギンジという進化の怪人に惚れ直す。

 

 こんな世界どうでもいい。だからこそミヤコは言葉に想いを乗せて、そして人の上に立つ者として、この場にいる全ての部下へ、指示を出す。

 

 「皆下がって・・・!進化の怪人が暴れるよ。死にたくなかったら従いなさい!」

 

 ドクターミヤコの指示に、オーク怪人を始めとした全ての戦闘員達が、左右に広がる。

 

 「おいおい、なんの冗談だぁ?」

 「それはこっちの台詞よ・・・バカギンジ」

 

 進化の怪人が歩き出し、カエデも誰よりも先に強い一歩を踏み出す。

 

 「レン、ミドリコ、藤原さんは手を出さないで」

 

 今この部屋に入る時に見えたのがドクターという少女。お面をつけていない彼女を見るのは、ヘヴンホワイティネスにとって初めて見る顔。

 

 そして怪人や兵器を造り出しては、街を混沌に陥れる最悪の敵。

 

 しかし、そこにたどり着く前に、用事を片付けないと行けない。

 

 カエデの前に立つのは、進化の怪人。

 

 対する進化の怪人と睨みを効かせるのは、神宮カエデこと、ヘヴンホワイティネス・ヘヴン1。

 

 突撃は果たされた。後は仲間を助けるだけ。

 

 「ギンジ、そんな猿芝居はもう要らないわよ。あたし達が助けに来たから・・・こんな奴ら全員倒して・・・」

 

 握手が出来る距離まで来ながら話すカエデに、ギンジは炎を鞭の様に振り回し、カエデに攻撃を繰り出す。

 

 「なっ!?」

 

 その攻撃は反応が出来たから避ける事はできた。

 

 続けざまに繰り出される、ハイキック。それは間違いなく殺意と敵意を交えた、確実に殺す一撃。

 

 「危っぶな・・・!何すんのよギンジ!」

 

 カエデの言葉は、進化の怪人に届いていない。

 

 「急な事でびっくりしたけど、もうここにギンジ君は居ないよ・・・ヘヴンホワイティネス。くふふふ」

 

 ステージ上ではあのドクターが、薄気味悪い笑い声を上げる。

 

 「何言ってんのよ!ギンジはここに・・・」

 「ここに昨日まで居た佐久間ギンジは既に死んだ。我々の洗脳によってな」

 

 オーク怪人の小馬鹿にした様な言葉に、カエデを始め、レンもミドリコも驚愕する。

 

 明らかな動揺を隠しきれないカエデに、進化の怪人の拳が腹に深く入る。

 

 「ゲホッ・・・」

 「カエデ!」

 「ギンジ!なんてことを!」

 

 ギンジは女性に危害を加えない。その事は全員の周知の事実だったのに、今の彼は表情一つ変わらずカエデに拳を叩き込んだ。

 

 「おいおいグラサン坊主!女に手を出すなんて見損なったぞ!」

 

 藤原の怒号。そこから飛び出そうとするも、戦闘員がそれを阻む。

 

 「いいわ!あたしは大丈夫だから!」

 

 今のを持って確信した。こいつは敵だと。

 

 カエデは周りに叫ぶと、再び進化の怪人と成り果てたギンジへと向き直る。

 

 「ギンジ・・・あたしね、あんたに会ったら、絶対にぶっ飛ばすって決めてたの」

 

 進化の怪人は歯を食いしばる。

 

 「あたしはずっと・・・あんたの事嫌いだったし、怪人だからって信用してなかった・・・」

 

 カエデは3月にギンジと、初めて会ってから今までの事を話し出す。

 

 「アモーレの時に、あたし達の味方になるって言ってくれて、正直気に食わなかったわ!」

 

 叫びながらガントレットのギアが悲しく回ると、右手の拳が進化の怪人の身体に当たり、鈍い音が鳴る。

 

 「有姪海岸じゃ、あたし達の信用を得られる様に頑張るって言ってさ!『佐久間ギンジの今後に乞うご期待』って誇らしげに言った癖に!」

 「・・・!」

 

 左脚の蹴りが顔に当たり、それでも進化の怪人は動かない。

 

 「風邪引いた時は、バカの癖にあたしと、レンやミドリコの心配もしたのに!」

 

 カエデが叫びながら攻撃をする姿を見て、レンやミドリコは様々な事を思い出していく。

 

 「学校が襲撃された時は、『俺を信じろ』って、自信満々に言ったじゃないのよ!!」

 

 レンは悲しみにまみれた顔で、同じく悲痛な想いで居たカエデを見守る。

 

 ミドリコも同じ様に、今の変わったギンジの行動に、涙が出る。

 

 それでも信じてここまで来た。

 

 「まだあんたの話も、ちゃんと最後まで聞けてないのよ!いずれ全部話すんでしょ!それまで笑いあり涙ありで・・・この先も行くんでしょうが!」

 

 ひたすら連続攻撃。一つひとつ言葉と想いを乗せて繰り出され、防戦一方になる進化の怪人。

 

 「あたしが追うダメージだって心配してくれたじゃない!なんなのよ、今のあんたはぁ!!」

 

 せっかく助けに来たのに、なんで殴られなければならないのか。

 

 カエデの怒りも尤もで、でもそれだけで怒っているのではない。

 

 「必ず追いつくって、信じてたのに・・・怪人サマは本当に大嘘つきね!」

 

 拳が進化の怪人によってついに阻まれる。

 

 貫こうとする力と、阻む力がお互いに拮抗して、ぐらぐらと二人の腕が揺れる。

 

 「悪趣味な首輪もしちゃってさ・・・どうしちゃったのよ、バカギンジ・・・!」

 「・・・!」

 「これ以上はやらせないわ!止めなさい!戦闘員!怪人達!」

 

 ミヤコの号令が部屋に響き渡り、戦闘員達が一斉にカエデに群がる。

 

 これ以上攻撃される彼を見たくないのと、消した筈の記憶を思い出されては都合が悪い。

 

 「邪魔すんじゃねぇ!!」

 

 藤原の怒号と共に振出される蹴りは、戦闘員を吹き飛ばし、そこに続いてレンがビーム剣を振り回し、竜巻を展開させる。

 

 「若者達の・・・邪魔はさせないぞ!」

 

 涙声で叫ぶミドリコの声と共に、どこからかグレネードガンを取り出し、戦闘員とハーフムーンの二人を爆掃していく。

 

 「くっふっふ、そんなモノ・・・怪人には効きませんよ!」

 

 剣士の怪人の凶刃が爆風を斬り裂いて、カエデの背後に回る。

 

 「カエデの邪魔は、させない・・・!」

 「おやおや・・・宮寺さん・・・!」

 

 カエデに迫っていた怪人の剣は、ビームの剣によって阻止される。

 

 その真上では、サキュバスの怪人が唇に指を添えてギンジもろとも攻撃を放とうとする。

 

 「お前も邪魔をするなぁ!!」

 「キャハハ。あんたもまたあーしとヤリたいんだ?」

 「ほざけ・・・!」

 

 対怪人の弾丸を込めたスナイパーライフルを構えて、サキュバスの怪人が睨みを効かせる。

 

 「なんだぁお前」

 「・・・(しょうがないから戦ってやるよのサイン)」

 

 タコ怪人が藤原の肩をこちょこちょとくすぐり、藤原はガンを飛ばす。

 

 (おじさんじゃぁ怪人相手は流石に無理だってー)

 「かかってこいや、タコ野郎!!!」

 

 真紅のジャケットを早脱ぎすると、タコ怪人と藤原が同時にぶつかり合う。

 

 「ブヒ・・・ここまでだな。ヘヴン1・・・」

 

 オーク怪人がギンジの後ろから、重々しい足音を鳴らして近づいてくる。

 

 「・・・このあたしが、わざわざあんたを助けに来たんでしょうが!こんな奴らに敗けて攫われて、さらに洗脳にまで敗けて・・・戻って来ないなら、許さないわよギンジ!」

 

 オーク怪人の手刀がカエデに突きこまれようとした瞬間に、カエデもギンジの顔を思い切り殴る。

 

 「早く戻って来い!佐久間ギンジ!!ギンジーー!」

 

 思い切り力を込めた右手は、ギンジの眉間に当たり、一瞬静寂に包まれる。

 

 そして辺り一帯は、モノクロの様な色に染まり、そして何もかもが混ざりあっていく。

 

 周りには皆居る。レンもミドリコも藤原も、少し後にイロも着いていている。

 

 カエデの目の前にはギンジ、その後ろにはオーク怪人。さらに後方にはドクターミヤコ。

 

 静寂のまま、誰も動かない。

 

 (なに・・・何が起こってるの・・・?)

 

 カエデの姿勢も動かないままだが、このモノクロの空間において思考は動いた。

 

 そのまま、よりギンジの事を強く想う。

 

 (あんたの事、助けに来たんだから・・・だから戻りなさいよ、こっちに・・・)

 

 この気持ちを、こんな形で失いたくない。正義の志だけじゃない、より強い他の感情が色々と、ギンジと混ざり合いたいと、思ってしまう。

 

 (聞こえてるんでしょ・・・ギンジ!)

 

 動かないそのモノクロ空間で、カエデはより深く、強くギンジの心を守りたく、なによりも取り戻したい気持ちで、自分の心の中で、必死に叫び続ける。

 

 やがて視界は黒く染まり、変わりに長いトンネルの様な円型の空間に心が通じていく様な不思議な感覚へといざなわれる。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 地平線の果てまで白く続く床。

 

 床と継ぎ目の見えない青い空。

 

 どこまでも続くその空間。

 

 雲はなく、陽光がどこまでも伸びる。

 

 心地よい風がその場に吹くと、炎と雷が揺れる。

 

 「・・・俺様達の世界に誰か来ているみたいだ」

 「キキキ、まさかオモテの奴、敗けたのか」

 

 片方の男は灰色の肌に、方から突き出たシリンダーの様な器具が身体は異形とも呼べるだろうその身体。

 

 右手にはレールガンの様な砲頭が取り付けられた、普通ならありえない右手。

 

 バーナーの怪人。それはかつて命を落とした怪人。

 

 向かい合わせに座る者は、黒く薄い体毛に、小さな脚と大きな羽。

 

 羽の先には小さな爪と、鱗粉を撒き散らす。

 

 コウモリの怪人。それはかつて仲間と本気で戦い、力を認め破れた怪人。

 

 バーナーの怪人が眩しくない大空を見上げて、コウモリの怪人が果ての無い世界のずっと向こうを見る。

 

 「・・・いいや、敗けたというより・・・無理やり入って来たみたいだ」

 「キキ、それじゃあ、あいつの所まで連れてけばいいのかな?」

 

 バーナーの怪人が、炎を吹き出す。

 

 その炎が渦を巻き、空へと消えると、上空から女の子の悲鳴が聞こえてくる。

 

 「きゃあああああーーー!?」

 

 空から落下する女性の悲鳴は、二人の怪人が見覚えのある少女。

 

 「おやぁ?ヘヴンホワイティネスじゃないか・・・っということは、ギンジに敗けたか、オモテの奴に敗けて、今頃吸収されたのか?」

 

 ふわりとコウモリが浮かび、ヘヴンホワイティネスの少女、神宮カエデを受け止めると、ゆっくりと降りる。

 

 「はっ!?なんでコウモリの怪人が・・・!」

 「初対面ぶりだな、ヘヴンホワイティネス。俺様はバーナーの怪人だ」

 「アモーレの放火魔!?」

 「酷い言われようだ」

 

 白い床に飛び出すと、さっきまでギンジと戦っていた筈のカエデは、新たな増援に警戒して戦闘態勢を取る。

 

 「落ち着いてくれ、俺様達はここでは戦わない」

 

 右の砲頭を下げて敵意が無いことを告げ、コウモリの怪人も戦闘はするつもりもない。

 

 カエデは二人を見ると、警戒心はそのままだが、一旦戦闘の構えを解く。

 

 「ここは何処よ・・・」

 

 警戒をしながらもカエデが聴くと、バーナーの怪人がその質問に答える。

 

 「ここは俺様達の今の住居・・・というよりは」

 「ギンジの中、だね」

 

 コウモリの怪人の言葉にカエデが驚愕する。

 

 「中ぁ!?」

 

 こんな白い床と青空の世界に見えるこの場所が、ギンジの中・・・?

 

 困惑するカエデだが、その様子を可笑しく見えたのか、バーナーの怪人は思わず吹き出す。

 

 「ハハハハハ!」

 「何よ!この放火魔!」

 「いやいや・・・済まない。コウモリも同じ反応をしたことを思い出してな。俺様も理解するまで、そこそこ時間がかかった」

 

 三人がこの場所に立つ事で、コウモリもバーナーもカエデがギンジに吸収された事を理解する。

 

 「来るといい。ギンジに会いたいだろう?」

 「ここにギンジが居るの?」

 「居るとも・・・こっちだ」

 

 バーナーの怪人が歩き出すと、それにコウモリが続き、半歩離れてからカエデもついていく。

 

 どこまでも果ての無い空間に見えるこの場所で、どこにギンジが居ると言うのか。

 

 「あ、あれ?」

 

 ある程度まで進んでから瞬きをしたら、そこは白い小さな部屋。

 

 机と椅子、それからベッド。

 

 「よう。待ってたぜ」

 

 バーナー怪人の案内についてきたカエデの目の前に居たのは、見知った顔のギンジの姿。

 

 態度悪く座る彼の姿に、いつものギンジだと確信し、カエデはギンジに飛びつく。

 

 「このバカ!」

 「うわ!なんだよカエデ!」

 「うるさいこのバカ!バカ!バーカ!」

 

 ポカポカと叩くならば、可愛らしい再会だったかも知れない。まるで力加減をしていないその叩き方は、かなり痛い。

 

 「抱きつきながらブッ叩くって、どーゆー神経なんだよお前・・・」

 「うるさい!」

 

 洗脳によって見たことのないギンジの姿は、見た目は変わらないのに、非常に怖く思えた。

 

 でも今のこのギンジは、間違いなく仲間である佐久間ギンジそのものだった。

 

 「悪かったな・・・色々やらかしちゃって」

 「ホントよ・・・あたしがどんな思いで居たか解る!?もうずぅっと心配してたんだから!」

 

 二人の再会に、バーナーの怪人とコウモリの怪人は部屋を出る。このままここに居ても野暮だと感じたからだろう。

 

 「じゃあさっさと戻るわよ」

 「んー」

 「何よ。まさか戻れないなんて、言うんじゃないんでしょうね」  

 「いや、まさしくその通りなんよね」

 

 腕組みするギンジに、カエデはいつもの様にギンジを煽る。

 

 「自分の中なのに、まったくだらしないわね〜」

 「いやぁ・・・まぁ、そうだな・・・ハハハ」

 

 これには流石にバツが悪く、頭を掻く。

 

 「ああ、でも脱出方法なら解るぜ」

 「ホント?じゃあさっさと教えなさいよ〜」

 

 元気よくコロコロと表情を変えていくカエデは、とても嬉しそうに見えた。きっと見る人が見れば、恋する少女の様に見える。

 

 「外に出たらお願いしたい事があるんですけど・・・」

 「何よ。どうすればいいの?」

 

 ギンジのお願いなら断る事もない。

 

 「外に出たらさ、あの悪趣味な首輪ぶっ壊してくれねぇか?」

 「首輪?ああ、なんか付けてたわね。いいわ、壊してあげる。そすいたらあんたもここから出られるんでしょ?」

 「もちろん。俺を操る進化の怪人と俺の居場所が入れ替わる」

 

 ギンジは洗脳によって、ずっとここに居たもう一人のギンジ、進化の怪人と共生していた。

 

 この心の中で、ギンジという人間への大きな怒りの感情を送っていた存在、それが進化の怪人。

 

 彼というもう一人のギンジが居ることで、佐久間ギンジは怪人として進化し続ける。

 

 より強く、守る為に。

 

 普段は外に出しては行けないその存在を、ギンジは内心居る事をわかっては居たが、外には出さなかった。この世界において、自分が居なくなるような気がして怖かったからだ。

 

 「だから、頼む、カエデ。俺は、またお前らの仲間として、ヘヴンホワイティネスの運命や未来を守りたいんだ」

 

 ギンジの真摯な言葉に、カエデは胸がときめく。今まで見たことのないギンジの言葉に、カエデは今ギンジに対する想いを自覚出来た。

 

 「任せなさい!全部、全部やってあげるわ!」

 「ありがてぇ・・・!首輪をぶっ壊したら、直ぐに戻ってきてやるからよ・・・」

 

 ギンジは少しだけだが照れながら、カエデと拳をぶつける。

 

 「その、ごめんな。そんで、ありがとう、カエデ」

 「・・・気にしないで、ギンジ。今度こそ一緒に家に帰るわよ。ハンバーグ、食べるでしょ」

 「おう!」

 

 神宮カエデと佐久間ギンジ。彼らもまた相性が最高のモノへと近づいていた。

 

 カエデがなんでも良い、その辺の扉を開けると、再びモノクロの色になる。

 

 瞬きをするようなその瞬間、またギンジの眉間を殴っていたあの場所へと戻ってくる。

 

 今この瞬間、動けるのはカエデ一人。

 

 (この首輪を壊せばいいのよね)

 

 今こそ、ギンジの願いを聞き入れる時。

 

 ならば・・・この手を伸ばして、ギンジを助ける。

 

 (絶対に、こんな奴らに・・・あたしの仲間を、あたしが好きな人を・・・渡すもんか!)

 

 首輪に手をかけて、ギアを回転させる。

 

 湧き上がる力を元に、悪趣味な首輪を破壊する。

 

 それと同時にモノクロの世界は、再び元に戻り、全員に色が戻る。

 

 「これで終わりだ、ヘヴンホワイティネス・・・!」

 「終わるのは、テメぇらだ!!!」

 

 ギンジの真後ろで手刀を振り上げるオーク怪人へ、蹴り上げを顎にかち当てると、オーク怪人の身体が浮き上がる。

 

 「我流!」

 「必殺!」

 

 『ヘヴンリー・インパクト!!』

 

 ギンジとカエデの必殺技を、浮いたオーク怪人のど真ん中に打ち込む。

 

 「ブヒぃぃ!?何が起こった???!」

 

 吹き飛ばされるも、その巨体に見合わず軽やかな動きで、ミヤコの目の前に戻る。

 

 (未来が見えなかった。何が起こったんだ・・・)

 

 僅かな痛みに身体を抑えながらも、オーク怪人は一つだけわかった事実を受け入れる。

 

 (戻ってこれたのか・・・ギンジ・・・)

 

 ニヤリと表情を造り、オーク怪人はギンジと対峙する。

 

 「くふ、くふふふ・・・いったいなにが・・・わ、わた、わたしの研究は、洗脳は・・・」

 「ドクター・・・大丈夫です。貴女のご判断には必ず従います。ご心配なきよう」

 

 錯乱し始めるミヤコに、オーク怪人はかばうようにギンジの前に立ちはだかる。

 

 「ギンジ!」

 「おかえり・・・!」

 「グラサン坊主ーー!助けてくれーー」

 

 ミドリコも、レンも、藤原も、そして遠くで戦況を眺めているイロも、佐久間ギンジの復活に喜びの方が勝つ。

 

 「かかって来いよ、豚野郎!」

 「あまり調子には乗らない事だ・・・一流の戦士として、ここでお前を討つ!」

 

 ギンジ、カエデ、レン、ミドリコ、藤原vsオーク、剣士、サキュバス、タコ、ミヤコ。

 

 ヘヴンホワイティネスvsヘルブラッククロスの最初の決戦が始まる。

 

 大幹部戦・・・開幕。

 

 

続く 

 

 

  

 

 




この物語はいったいどこまで風呂敷が広がるのか・・・?

無理やり展開もあるし、そしてとか多いし、表情がとか多いし、多いしが多いし・・・

小説として破綻しているかもしれませんが、どうかお楽しみいただければと思います。

感想お待ちしております、面白くなかったらごめんね☆

キャラネタ書きます

進化の怪人/佐久間ギンジ
ギンジが怒り狂った時に現れた【何か】の正体。ギンジの心に住まう怪人の為、正確は本体のギンジに似たり寄ったり。怪人の特性なのか、ドクターには絶対の忠義を尽くしている。

神宮カエデ
ギンジの事を好きな人認定にまであげたそうです。

宮寺レン
新しい必殺技を発動。相手は死ぬ。

藤原さん
戦い慣れしてるってレベルじゃない公安のおじさん。
趣味・セクハラ、鼻ほじ
ギンジ「よく警察やれてんなこの人」

山吹イロ
22歳で色々な所とパイプを持つ、スゴイ人。物語序盤に書いてあった、一部の公安というのは彼女が代表。

実はショタコンなのはトップシークレット。

それではまた次回!
次回はレンが主役ぞ!レンちゃんファンは喜べ!(居るのだろうか、ファン)


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