今回の話で、音楽堂の大幹部戦は終わりです!
そして次のお話で、序盤が完璧に終わり!
恋愛面も戦闘面も両方頑張って書かねば。
それでは、どうぞ
ヘルブラッククロスのアジト、円卓会議場では、中央の席にて総統が座っていた。脚を組み、無言のままでも小動物を殺せそうな威圧感を醸し出し、
音楽堂にてドクターミヤコからの定時連絡が来ない事で、総統は不機嫌な態度と顔つきになり、側近として佇む4名の手下達が緊張感に飲まれる。
それを間近で感じる大幹部リコニスは、黄金の刀の柄に手をかけて三日月の口を作ると、総統へと身体を向けて悪魔の存在感を大きく放つ。
「総統〜?私が見てきましょうか?また何かいざこざ起きてるなら、この私が全部片付けてきますよ」
「リコニス・・・貴女はこちらで別の仕事があった筈です。ここはこの柏木が行きますよ」
リコニスに向かい合わせになるように、同じ大幹部の柏木タツヤがスーツを羽織りながら、総統に言葉を投げるが、いずれも二人の提案を総統は却下する。
「計画を順序良く進めるためには、お前たちには別の事で動いて貰う。では、ドクターはどうするか・・・私が出よう」
リコニスもタツヤもその言葉に驚愕する。普段ならばありえない発言に、タツヤは革靴を鳴らして総統の前に出る。
「お、お待ちください総統!」
「何かね」
「何故総統が行くのですか!我々におまかせくだされば、心配事など全部払拭してまいります!」
タツヤのその言動は、仕事と忠義の二つを持った頼れる後輩・・・と言ったそれに、リコニスは何も言わないが、内心では自分がミヤコ達の所へと行きたいと思っていた。
(ギンジちゃん大丈夫かな〜)
尤も、その心配はミヤコへのモノではなく、ギンジ個人に向けられた事で、リコニスはもう一度ギンジの下に遊びに行くチャンスを得られた気分になった。
ギンジにまた会いたい。退屈な日常に非現実的な事をしていても、結局リコニスの嫌うつまらない日々がやってくる。
洗脳されたギンジがどうなっているのか、それが楽しみでしょうがない。
でも総統は大幹部二人の出撃を静止すると、席を立ち上がる。
「ドクターミヤコと共に作戦を成功させたら、直ぐに戻る。それまでここで待機を命ずる」
「御意」
「ハァ〜。りょーかーい」
タツヤの礼儀正しさと、甘い声を出しながらしぶしぶそれを了承するリコニス。
総統が部屋を出ようとすると、黒い十字架のローブを身につけた四人の側近が総統の後ろから進んでいく。
「不穏な空気、ですね」
歩くだけでも常軌を逸した威圧感と、悪のオーラ、この二つを持ち合わせる総統を見送り、タツヤはリコニスにそう呟く。
「・・・はぁ〜つまんな」
タツヤの言葉は無視して、リコニスは近くにいた戦闘員を瞬時に斬り捨てる。
「・・・本当につまんない」
血がしたたる黄金の刀を振り血を飛ばす。リコニスは何よりも退屈を嫌う。
悪魔の顔はどこか寂しそうで、しかし刺激を求める顔つきは正しく退屈を嫌い、他人を苦しめる娯楽を考える悪魔そのものであった。
・・・・・・・・・・・・・・・・
ギンジの右手に宿る黒い炎が、オーク怪人の強固な腕、身体を焼いていく。
皮膚を焼く焦げた匂いに、オーク怪人が痛みを隠すように苦い顔をしながらも、重く強い蹴りをギンジに当てていく。
「なんでそんなに身軽なんだよ、お前は」
ギンジからのダメージはそれこそ、そこらの怪人なら既に倒れているモノ。異常なタフネスを誇るオーク怪人に苦戦を強いられる。
フェーズ3となったギンジの攻撃でさえ余裕ではないにしろ、耐えて、はたまた無理やり攻撃してきたり、そうかと思えば避けたり・・・。
「お前の様な強い者と戦えるなら、もっと耐えねばなるまい。それに、ここで私が倒れれば、誰がドクターをお守護りするのだ!」
「安心しろよ、お前を倒したらミヤコは、俺が連れて行ってやるさ」
進化の怪人との約束を守る為に、ただの喧嘩に勝利を収めても意味がない。
この戦いに勝ったら、約束通りにドクターミヤコをこちらに連れて行かないといけない。
だからこそギンジは倒れるわけにはいかない。ここまで助けに来てくれたカエデ達に申し訳が立たないし、自分がこれと決めた正義の為に、ギンジは戦っている。
「そろそろ限界来てるんじゃねーか?」
「バカ言え、私はまだ戦えるさ・・・!」
黒炎の拳と紫電の脚で次々と攻撃を与える。今までとは段違いの威力に、ギンジ自身でも制御に追われる。
オーク怪人の次なる一手は、防御を崩してからの体落とし。触るだけでもダメージを追うギンジの身体に決定打を撃つには、これしかない。
それに合わせてこの先のギンジの行動を確定未来を観る。
映像の先はギンジの火炎放射と、爆雷の一閃。先ずは火炎放射に飲まれる映像、その先に動けなくなったオーク怪人に、紫電を纏ったギンジの蹴り攻撃が迫り、骨を折られる映像。
果たしてこの攻撃を耐えられるだろうか。
ギンジの怒涛の攻撃の連続に、どうするか考える。
(火炎放射は避けるとそて、問題はあの速度で出される蹴り出しだな・・・)
ギンジが復活する前に刺して来た肘鉄の攻撃は、オーク怪人が確定未来で見据えていても避けるとも、防ぐとも出来なかった速度を誇る。
加えてオーク怪人に膝をつける威力に、もう二度と貰いたいくないと思ってしまう。火炎放射と紫電一閃蹴、この二つをどう切り抜けるかが、オーク怪人の今の課題になる。
「しぶてぇな・・・これなら!どうだ!!」
ギンジの繰り出したのは映像通り火炎放射。両手で口の前で穴を作り、その空洞から黒い炎の波がオークに迫り、極力ダメージの無いように防御の体制に入るも、半裸の状態であるオーク怪人にはこれでもダメージが全身に回る。
「かーらーの!」
次に来るのは紫電一閃蹴。それが来ると知っているオーク怪人は、あの威力の攻撃をどうやり過ごすのか考えながら身構える。
「なっ」
しかし出てきたギンジの攻撃は紫電を纏っていても、蹴りの攻撃ではなかった。
雷を纏った頭突き。ロケットみたく姿勢を伸ばし、硬く強化したギンジの頭突きが炎に飲まれる身体に強く当たる。
それと同時に黒炎は消え去り、熱風の中から開放されると、確定未来の映像とは違う事が見えたオーク怪人に焦りが出始める。
「どうした?またクリーンヒットしたぜ?ご自慢の、『解ってる』ってやつはどうしたよ」
(何故だ!?確かに確定未来では、蹴りが、見えた筈・・・)
困惑するオーク怪人に、見える未来だけが現実ではないと言う事を、今知らせる時。
「これでも・・・喰らえ!」
右足に紫電を纏わせると、爆雷の音が鳴る。自分でも制御が難しいその速度で思い切りオーク怪人の腹を蹴りつけ、巨体を浮かす。
「ごっふ・・・」
限りなく光速、それに近い速度で再びギンジはオーク怪人を、地面につける。
「まだまだ行くぜ!!」
続く黒炎を纏った両拳が、オーク怪人の全身へと叩き込まれ、洗脳される前にひたすら暴力を振るわれた事を、今仕返しするかの様に何度も強力な力を振るい続ける。
「うおおおおおっ・・・らあああ!!!」
息が続く限り、この力を使う。身体が燃える事無く、かつその炎と雷は常に進化を行い、ギンジの目の前に立ちふさがる巨悪を打ち砕く。
「ギ・・・ン、ジ・・・ぃ」
オーク怪人もただやられるだけではなく、弱々しくその腕を振るう。
いくら弱そうに見えても、その拳はギンジが生きてる中で一番痛い拳だった。
ドクターを守る為、かつての仲間を連れ戻す為、きっと今も色々考えている。その事を察したギンジは、次第に能力を使わずただの拳で殴り合っていた。
「・・・加減はいらない。本気で来い、ギンジ」
ボソりと。
叫び声と打撃音を縫うように、オーク怪人はその言葉をギンジに告げると、まだまだ耐えれるという事を見抜いた。
「お前、まだ本気を隠しているのか?」
「フン。ギリギリだな。今のお前と戦う上では、な」
相変わらず何を考えているのか解らないが、それでもギリギリを信じて、ギンジは全身に黒い炎を纏って強力な攻撃を与え続ける。
「俺が勝たないと・・・ドクターは救えねぇ・・・!」
全身全霊の黒炎の拳はやがて、目に捉える事が不可能な程の加速、加速、加速、加速と、速くなっていく。その分拳の重さも桁違いの強さを誇り、オーク怪人を押していく。
「ミヤコ!」
攻撃をし続けて、ギンジは自分の恩人の名前を叫ぶ。
「安心しろよ・・・例えお前が【俺を】見て無くても、俺はお前を助けてやる!お前も俺の〈大好きな人たち〉の一人だから・・・!」
「フン・・・」
ミヤコはその言葉に、自分の真意を見抜かれた気がした。それと同時に、もう自分が想いをよせていた進化の怪人は、居ないけど、その場に居る事、矛盾している様な感覚だが、ギンジの言葉を信じて無言で頷く。
涙で濡れた顔に悔しさはもう無くなっていた。
殴られながらもオーク怪人は、ギンジの定まった考えに鼻を鳴らす。
その答えならば、ただ謀反を起こしただけでは納得が行かなくても、ミヤコを守るのであれば、オーク怪人は納得が出来る。
オークからしてもドクターミヤコという存在の心を、大切に思っている。彼もまた、人の心を持つ怪人だからこそ、手下と上司、それを超えた関係になっていたのかも知れない。
「どっちにても勝つのは俺だ・・・本気で来いよ、次の一発ぐらい」
「私の本気は・・・痛いぞ?死ぬなよ」
ギンジとオーク怪人がその場を離れ、お互いに距離を離し、お互いに本気の力を振り絞る。
先に走り出したのはオーク怪人。
後に続き、ギンジも走り出す。
ギンジの右手に紫電と黒炎の二つを纏い、この一撃に全力を捧げる。
オーク怪人は確定未来の映像では、このままでは自分が負けるという未来が見えた。
(だが・・・これでいい。これで奴に勝ちたい)
手刀を構えてオーク怪人はギンジを叩きのめす気で居た。
「行けぇぇぇぇ!!!」
何が行くのか、何を行かせるのか、答えは無くとも佐久間ギンジは大いに叫ぶ。
同じぶつかり合いに、カエデやレンもミドリコでさえ、応援していても倒れるギンジを思い出す。
また倒れる。でも倒れないで欲しい。
交差した右手同士。ギンジの右手はオーク怪人の顔面の真ん中へと強く当たり、骨が砕ける様な鈍い音が鳴る。
今度の手刀はギンジに刺さらず、寸前で後ろへと引いて行く。
当てなかったのでは無く、当たらなかった。
命中した拳は勢いを殺さず、巨体のオーク怪人を文字通り本気で殴り飛ばす。
顔を燃やし、身体を感電させ、思い切り殴られた。
床に叩きつけられ、ついにミヤコの最強の戦士・オーク怪人は倒れた。
敗北。一騎打ちによる勝負はギンジが勝利を収めた。
「やったーーー!!」
カエデが喜び、レンも微笑みを。ミドリコも涙を流し、藤原とイロは親指を立ててグッドマークを作る。
ギンジの後ろでミヤコはオーク怪人を見ながらも、最早抵抗は無く、ギンジという最強の怪人を拍手する。
「この勝負・・・俺たちの勝ちだ!!」
勝鬨をあげて、ギンジ達はこの勝負に勝った。
〜ヘルブラッククロス・大幹部ドクターミヤコ戦〜
オーク怪人、剣士の怪人、タコ怪人、サキュバスの怪人
vs
佐久間ギンジ、宮寺レン、神宮カエデ、甘白ミドリコ
勝者・ヘヴンホワイティネス
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
崩れた音楽堂のコンサートホールで、オーク怪人はミヤコの治療を受ける。
「にしても、お前だけは消えないんだな」
その隣で同じく治療を受けるギンジが、オーク怪人に問うと、オーク怪人は満足げな表情を向ける。
戦闘が終わってからフェーズ3は終息したのか、皮膚の色は元に戻っていた。
「ブヒ。私の方が包帯の量が多い。お前よりな」
「なんの自慢だ」
藤原、イロ、ミドリコの三人は今後の事を話し合っている様子で、カエデとレンはギンジ達の近くにいる。
倒れた戦闘員達は全員漏れなく、お縄についた。
「で、えーと・・・?さっきの話、もう一度聴かせてもらえる?」
カエデは腰に手を当てながら、ギンジに詰め寄る。
「いやだから、このドクターミヤコを、俺達で保護しようぜって」
「嫌よ!そうしたらこの豚顔も一緒に来ちゃうでしょうが!」
「豚顔とか言うなよ。オークだぞ」
「親しみを込めて、オーク怪人【様】と呼べ、ヘヴン1」
「うるっさいわ!」
「オーク怪人様・・・私達は、ヘヴンホワイティネス。怪人を、倒す存在」
ギンジの提案からカエデの否定。そこからオークの小ボケにレンの悪ノリと敵意の混じった会話に、ミヤコは羨ましそうに眺める。
「だいたいなんでこんなのをあたし達が保護しないと行けないのよ!」
「いやー俺の命の恩人だし・・・それに」
「それに?」
ギンジはメンタルのやられたミヤコを見ると、相変わらず気恥しさに敗けてはにかむ。進化の怪人として見ていたからこそ、今は佐久間ギンジとして受け入れるのが、少しむずがゆく感じていた。
もう二度と会えなくてもドクターミヤコの最高傑作は確かに、この男の中にいる。
「それに、ミヤコを守ってやりたいんだ。俺しかそれをできねぇからさ・・・ヘルブラッククロスから誘拐、って事になるけど、ミヤコはどうする?」
やるべき事は決まっていても、彼女の意思だけは尊重してあげたい。身体の中で進化の怪人がそう言っている様な気がした。
ギンジ達が今ここで誘拐を無理やり行えば、それはヘルブラッククロスと同じになる。
「わ、わたしは・・・ギンジ君と一緒なら・・・それで」
「なんかムッっかつく!」
「落ち着いて、カエデ」
「お前はどうするんだ?オーク」
座りながら話すギンジの言葉に、オーク怪人は断りの態度を取っている。
「私はいい。ドクターが無事なら、次があるからな」
大幹部を誘拐するということは、組織への宣戦布告にも使える上に、色々と交渉にも使える。それだけが目的になるわけではないが、名目上そうしておけば理由として十分になる。
なにより新たな怪人が、ギンジの知らない所で造られる心配がない。
「ギンジ君・・・本当にいいの?」
「なんだよ、らしくないな」
サイズの合わない白衣で口元を隠し、ミヤコは肩を震わせる。
「くっ・・・ふっ・・・」
泣いているのか、顔をうつむかせる。
「いや・・・まぁ、お前がいいなら、だけどよ。進化の怪人に言われたんだ。ドクターを守れってね。今、進化の怪人は居ないけど、俺でよければその役割、変われないかなって」
「くふふふふふふふそれってもう結婚でいいんですよね!!!?」
(!?)
泣いているなんて事はなく、いつものミヤコだった。
「くふふふ、中身はギンジ君でも、身体は進化の怪人だからね・・・わたしがそっちに行けばそれで解決なら、わたしはずっと君と一緒に居るよ!!っていうか居させて!」
「いででで!抱きつくな!」
「くふふふ・・・あ、でも怪人殺しが三人もいるのよね・・・」
ミヤコがギンジの身体に抱きつきながら、カエデをにらみ、次にレンを睨んで、最後にミドリコを睨む。
「怪人殺しなら俺も同じだけど・・・」
「ギンジ君はいいの。そういう怪人だからいいの!」
「何よその理論・・・」
「ギンジにだけ手を出すなら、それでいい。だけど、私とケイタに手を出したら、許さない」
「ちょっと!あたしは!?」
「・・・カエデが解決して」
「えー」
レンにはカエデとミドリコ・・・例外として熊沢レイナ。この三名がギンジに恋をしていると見抜いていた。
しかし長らくヘヴンホワイティネスを苦しめた謎に包まれた敵性存在、ドクターミヤコもまたギンジに恋をしている事を気づくと、カエデハウスで起こるであろうカエデvsミヤコは必然的なモノと捉え、なによりそのやり取りは面白そうに思えた。
「さて・・・ミヤコを連れて行く事は決定したけど、オークは本当にいいのか?」
ギンジはミヤコに抱きつかれながらも、ゆっくり立ち上がるとオーク怪人に目を向ける。
「構わない。それより、確定未来で嫌なモノが見えていてな・・・」
その内容はあまり良い内容ではないのか、オーク怪人は怪我を抑えながらギンジの横に立つ。
「もうすぐ総統がここに来るみたいだ・・・だが、一人じゃない」
「マジで?」
「私は嘘は言わん。ドクター、もしかしたらお会いできるのはこれで最後になるかも知れません」
その言葉の意味を深読みしたギンジは、これから彼の行う事を察した。
総統への足止めを行うつもりだ。
「お前、いいのかよ。ヘルブラッククロスだろ・・・?」
「構わん。それに私は、後にも先にも、ドクターにしか忠義を尽くしていない。総統の創る世界とやらには、興味深いモノではあるがな・・・」
焼け焦げた軍帽をかぶると、再び自分の恩人であるドクターの方を向いて敬礼をする。
「オーク・・・」
「貴女の下で、貴女の為に戦えた事は、このオーク怪人の生涯の誇りであります」
「オーク・・・っ!」
ギンジから離れて、ミヤコはオーク怪人に抱きつく。
「ずっと・・・長い事、ありがとう・・・いっぱい、ありがとう・・・貴方も大好きよ・・・オーク・・・」
「見たかギンジ、ブヒハハハ。これが私の魅力の深さだ」
「だからなんの自慢だよ・・・」
怪人達を全員倒したヘヴンホワイティネスは、非戦闘員であるドクターミヤコを拉致。これにより、捕虜とされる。
この作戦であれば、矛先は街ではなくヘヴンホワイティネスに向くという作戦だが、上手く行くかは解らない。
「上手く行かなくても、俺達はもう敗けない・・・だろ?カエデ」
「え?」
不意に話しかけられて少しビックリするが、カエデはそれを嬉しく思う。
「そうね・・・!」
ニッと笑うと、心からギンジを助けに来て良かったと思う。
それはそれとして。
「あ、そうそう・・・帰ったら、あんたの事ぶっ飛ばすから、いいわね?」
「は?」
「私も、ギンジを叩く、つもり。ビームハンマーで。ミドリコも平手打ちするって、言ってたよ。ふふふ」
「マ?」
「じゃあまた怪我したら、ギンジ君の治療はしてあげるね・・・くふふふ・・・色々メンテはしてあげないと・・・色々と」
「おい、何をするつもりだ?」
「そんな事はあたしがさせないわよ!」
「くふふふふふ」
オークが手を叩き、場のなごやかな空気感を静まらせる。
「ここの事は私に任せて、ドクター達はもう行きなさい。総統が来れば、今度こそ終わりになるぞ」
「っと、そうだな・・・でもよ、お前いいのか本当に・・・」
まだ言いたい事もあるが、できればこんな強い怪人、仲間に引き入れておけば戦力が大きく上昇するとギンジは思う。
しかし頑なにオーク怪人は首を横に振る。
「私が組織に戻る事で、ドクター捜索の任は時間を稼げる。そうすればドクターとギンジの結婚が・・・いや違う、ドクターへの全権を私に預けてもらえる。失敗しても同じ、私は死んでも、ドクター捜索の情報が得られなくなる」
「わたしは・・・ギンジ君と一緒に居たいから・・・本当は総統の世界も今も世界もどうでもいいし・・・」
「じゃあ答えは決まったな」
これもまたオーク怪人という人物の覚悟なのだろう。
本当にドクターの事しか考えていないのだが、それもまた怪人という存在の奥底の強さなのだろう。
「では・・・ドクター!お達者で!」
音楽堂を後にしたギンジ達は、オークに見送られて脱出する。
ギンジ救出は成功し、大幹部ドクターミヤコの誘拐を完了させたヘヴンホワイティネスは、ヘルブラッククロスへの大きな被害を与える事に成功した。
・・・・・・・・・・
ミミミミミミミミミミ
ヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤ
ココココココココココ
・・・・・・・・・・
ギンジ達が逃げた数分後、総統は4名の手下を連れて音楽堂へとやってきた。
「これはどういう事だ・・・?答えよ。大幹部オーク」
総統の威圧は今の怪我に響く。
そこについている4名の手下・・・総統直属の怪人達もオークの失態ににらみを効かせる。
「ヘヴンホワイティネスから襲撃を受けました・・・奴らは、我々の仲間である、剣士、タコ、サキュバスを下し、ドクターを連れ攫いました・・・私も応戦しましたが、彼の者、進化の怪人こと、佐久間ギンジの予期せぬ進化、フェーズ3の力の前に、私は敗北してしまいました・・・」
敗北。その言葉に、総統が殺気を大きく膨れ上がらせ、殺意によって暴風が吹き荒れる感覚の中、オーク怪人は動じない。
(ただの人間にしては恐ろしい殺意だ・・・ブヒ・・・)
手下の一人がローブを取り、中から赤い肌のゴツゴツした身体、一本の黒い角を生やした怪人がオークに詰寄ろうとする。
「だーからー、俺っちがドクターの側近になればこんな事にならんかったんだって」
「あまりいじめては面白みがありませんわ。赤鬼」
もう一人、凛として、しかし涼しげな声音の怪人が赤鬼と呼ばれた怪人を抑制する。
彼女もまたローブを取り、その姿を見せる。
青い髪に、病的な程白く見える肌、黒い着物とのミスマッチに見える様な対局的な色合いで、瞳はやはり黒い眼球、赤い瞳をしている。
「雪の怪人・・・俺っち、ドクターの為に言ってやってるんだーぜ?おう?」
「ヒィ!ごごごっご、ごめ、ごめんなさい・・・」
強気な口調だったのに、赤鬼の睨みに直ぐに涙目になる雪の怪人。
「お前たちもローブを取れ」
総統の一声に、残る二人の怪人がローブを取る。
中から出てくるのは、小さな手鏡を持ち、目を包帯で隠した奇妙な出で立ちの怪人。
もう片方は、顔や身体に皮膚はなく、表情豊かに形が変わるドクロの姿で、瞳の部分だけは眼球が穴の形と同じ大きさで、怪人特有の瞳を宿す怪人。
「これからお前の変わりに大幹部に立つ、我々の新しい戦力だ」
総統がオーク怪人に対して一瞥もくれずに言い放つ。
「ブヒ・・・それは・・・」
言葉の意味がよくわからない。
「貴様は力のある者だと思っていたが・・・ヘヴンホワイティネスに敗北し、治療という情けまでかけられ、あまつでさえドクターを連れて行かれた。お前は力が無いようだ。よって切り捨てる」
ヘルブラッククロスの真理にそって言えばそのとおりだ。
力の有るものが残り、力の無い者は、簡単に切り捨てられる。大幹部はこうやって入れ替わってきた。
「ま、そういうこって、お前はもう用済み。おーけー?」
赤鬼の怪人が陽気な雰囲気を出しているが、オーク怪人の額を指でトンと押す。
「赤鬼、雪、鏡、骨。怪人四天王よ!」
総統の号令で怪人四天王と呼ばれた者達がオークを背後に置き、整列する。
「手段は問わん。お前たちに、ドクターミヤコの捜索を任務として言い渡す。見つけ次第、殺せ」
「ブヒ・・・今、なんと!?」
ドクターが攫われても彼女の事は殺さないと思っていた。
だが今回の事は誰にも予想できない事だった。怪人四天王の4名も、流石に動揺を隠しきれないが、直ぐに総統の意思を汲み取り、敬礼を行う。
「これは・・・マズイ!!」
ドクターが危ない。いつか見つかれば絶対に殺されてしまう。
気がつくとオーク怪人は、音楽堂を走り抜けだして居た。
「くうぅ・・・誤算だ・・・」
「誤算とは、どういうことかね、オーク」
聞き慣れた落ち着いた超え。普通の戦闘員とは違う紫色の戦闘服を着た、ドクターミヤコの護衛部下、紫がオーク怪人の真横から話しかけて、その足を止めさせる。
「紫・・・」
「やぁ、久しぶり・・・でもないね。オーク、君は今日付けで、ヘルブラッククロスを解雇だ。人間の言葉でね、クビってやつだよ」
悪びれもせずに紫は、オーク怪人を前に臆さずに語り始める。
「新しくドクターの席には、この私が着くことになってね。総統のお言葉は絶対だ。これからはドクターパープルとでも呼んでもらおうかな。正直、あんな子供に力のある世界の立役者にはなれないと前から・・・」
「貴様、ドクターを愚弄する気か!」
オーク怪人の認識では、紫はドクターミヤコに憧れて大幹部を蹴って、護衛部下になる道を進んで来た男だ。彼女の功績や研究へのサポートはオーク怪人以上に行って来た実績のある男。
「愚弄?バカな事を言わないでくれたまえ。それで、オークはこの先どうするのかな」
紫の真意はどうやらこのドクターの席が欲しかった様だ。その態度にオーク怪人は怒りとやるせなさが同時に身体に降りかかる。
「貴様・・・!」
「おっと動かない方がいいよ。このドクターパープル産の怪人も来ているんだ・・・」
紫の背後にはライフルの様な銃を構えた怪人が、銃口をオークに向けて現れる。その出で立ちは鱗に、長い尻尾、薄い布を付けた龍を連想させる様な怪人。
そして手元のライフルは向けられた銃口から見るに、顔の形をしている。機械的な見た目をしているが、これには生命体の様な反応も感じる。
「紹介するよ。彼女は龍の怪人。そして手元のライフルは機械の怪人・・・いずれもドクターミヤコ・・・元ドクターの怪人よりも強化されているんだ・・・さらにもう一人」
「!?」
オーク怪人の真上から緑色の、ジュワジュワと泡立つ液体を落としてきた少年の見た目をしている者が羽をパタパタとはばめかせ、オークを見下ろす。
「彼女も怪人・・・毒蛾の怪人だよ。素晴らしいだろう?」
「これが全てお前の造った怪人だと言うのか・・・?」
驚愕する。総統の直属の怪人の存在は知っていたが、短期間でミヤコを超える速さで怪人を三体も造るとは、紫と付き合いの長いオーク怪人は知るよしも無かった。
これだけの実力が有るというのは、やはり大幹部になれるだけの実力があったからだろうか。
「さて・・・今回は顔見せ程度だけど・・・次は容赦しないよ。嫌ならドクターもろとも逃げおおせると良い」
「貴様・・・!!」
今ここで戦っても勝算は限りなく低い。詳細な能力が不明な怪人三体。
これを相手にして、今のオーク怪人が勝てるとは思えない。
「チワワ、お前には失望した」
「ホッホッホッ・・・私達のドクターを攫われてしまうとは、貴方も落ちたモノですねぇ・・・」
「あー、あっしは別にいっすよ」
オーク怪人の背後からドクターミヤコ派の怪人達が次々と現れる。
犬、触手、紐。そして新規の龍、機械、毒蛾の怪人。
「今逃げるならチワワ、お前を追い詰めない」
「・・・」
龍の怪人も犬の怪人の言葉に頷き、紫は再びオーク怪人を見つめる。お面はくぐもった声を出すが、異様な雰囲気を感じ取った。
「元組織のいち員のよしみとして、今は見逃してあげますよ。さぁ、逃げろ・・・出口はあっちだ、オーク」
「ここで逃した事を・・・後悔させてやる・・・」
怪我を抑えながらオーク怪人はそれ以上は語らず、無言で走り出す。
「くくく・・・後悔、後悔ねぇ・・・」
どこか寂しげなその背中は、振り向かずに言葉を発する。
「オークこそ、悔いの残らない様に、頼みますよ」
この日、ヘルブラッククロスは大きな損失を与えられたが、新たな大幹部と、新たな怪人により人数の補填が加えられた。
大幹部ドクターミヤコ→大幹部・紫
新規の怪人、龍、機械、毒蛾
そして総統が全国で暗躍していた怪人四天王の招集。
闇は攻撃されても周りを侵食していく。それどころか大きく、深く、広がっていく。
「揃っているな」
「ここに。総統閣下!」
音楽堂から総統が出てくると、その後続に怪人四天王が現れる。
外の広場にいた者たちは紫を中心に7人が並ぶと、敬礼を行う。
「では・・・ドクターミヤコ抹殺の為に、全員動いてもらおう」
「ハッ!!!!」
総統は悪辣な笑みを浮かべ空を見上げる。紅に輝く瞳は、どこを見ているのか・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・
カエデハウスに帰宅したカエデ達は、とりあえず思い思いの言葉と、ありったけの想いを乗せてギンジに制裁が加えられていた。
「がはっ・・・ごほっ・・・なんで?」
「必ず追いつくって言った嘘へのバツよ!」
「俺それ何度も車であやまったやん」
「私達がどれだけ心配したと思っているんだ・・・」
カエデとミドリコがずっとギンジを問い詰めている。それを見てミヤコは心配をしつつも、ギンジなら大丈夫と、キッチンで何かを温めてるケイタを見る。
「えーと・・・始めまして・・・だよね。僕は角倉ケイタ。君は・・・」
「くふふふ。初めまして、わたしはドクターミヤコ。何を隠そう、あのギンジ君のお嫁さんです」
「ミヤコ、嘘はよくない」
ミヤコの大嘘に、レンが即座に否定を入れる。
「いてて・・・まぁでも本当に悪かったよ。まさかあんな事になるなんて思わなかったし・・・ああ、でも」
傷を抑えながらギンジは立ち上がると、カエデ、レン、ミドリコに頭を下げる。
「ありがとう。助けに来てくれて。本当にありがとう」
謝罪の言葉は言い続けたが、お礼は言ってなかった。
だから仲間としても、人としてもギンジはちゃんとカエデ達にお礼を言う。感謝の言葉を。
「ん、もういいから頭上げなさいよ」
ギンジが頭を上げると、キッチンテーブルには温められたハンバーグが置いてあった。
「飯?」
「そうよ。あんたがハンバーグが好きって言ったんでしょ・・・あたしも、───と、食べたかったし」
最後の所を上手く聞き取れなかったが、カエデが先にテーブルに向かう。顔が赤くなっていた様な気もしたが、ギンジはそれに気づいていなかった。
カエデは少し嬉しそうに、ミドリコも微笑みながら椅子に座る。
「ギンジが無事でよかったって僕も、本当に安心したよ。さ、座って!皆で食べると美味しいよ」
「くふふふ・・・ギンジ君の貴重な食事シーン見られるってどんな神世界?」
「・・・へへへ」
自然と笑顔になれる。こうやって自分の仲間とご飯を食べれる事に、嬉しさを超えて感動する。
胸の中に暖かいモノがこみ上げて、今この瞬間を取り戻せて本当に良かったと。
ギンジは何度目か解らない決意をする。
どんなイレギュラーでも、どんな逆境でも、必ず跳ね返してやると。
そして・・・。
ヘルブラッククロスを必ず倒すと。
〈大好きな人たち〉の未来への歯車は、良い方向へと動き出していた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
──2102年。未来、東京。
甲高いサイレン音が辺りに鳴り響き、レジスタンスの遊撃部隊長・シルヴァは大雪の中、数の暴力で死んだ事を思い出す。
「なんだ・・・?」
ついさっき希望の光であるレンを送り出し、自分は自爆覚悟で戦闘員達と戦っていたはずだ。
「ああ、そうかい。俺死んだのか」
胸ポケットからタバコを取り出し、火をつける。
「なぁ・・・運命の怪人・・・いや・・・サク・・・いるんだろ」
サクという名を呼ぶと、シルヴァの中から何者かが語りかける。
「──、───!」
「へぇ、そうかい。そりゃあ良かった。と、すると、日本死ぬ未来は回避されたんだな・・・」
サクと呼ばれた者は、シルヴァの中で何かを熱く語る。
「さて・・・俺がまた死ぬ展開になれば、向こう側に行けるのかね」
真っ暗なあの空間。
シルヴァとサクの二人が死ぬ時、あの空間の支配者として君臨できる謎の場所。
「あと一回使えたのは、俺が戻る為、か・・・じゃあ次はもうチャンスはないんだな?」
拳銃を構えてシルヴァは崩れた防衛ラインの、扉を見る。人の気配は無く、きっと女性は攫われ、男は皆殺されたのだろう。
「・・・頼むぜ、希望の光・・・頼むぜ・・・」
大雪の降り続けるこの兵器の攻撃の中、シルヴァは足取り重く、その場所から離れた。
「ああ、暖かいな・・・」
大雪が降っているのに、こんな暖かいのはおかしい。きっと過去のレジスタンス活動で、命を助けた怪人、運命の怪人のおかげかも知れない。
「・・・あいつの変えた───、見てみたかったな」
言うとシルヴァはもう喋らない運命の怪人サクを、心の中に収めて、果ての見えないかつての国道を、白く凍った道を歩き出す。
もはや人の気配の無い侵攻の後に、漂う空気は絶望に染め上げきったこの世界。
いつまで続くか解らないこの寒く凍った道を、シルヴァは力尽きて意識を失うまで歩き続けていった。
やがて、大雪は何もかもを闇に閉じ込める。
人も、命も、心でさえも。
(頼むぞ・・・必ず、勝てよ・・・!!!)
信じた想いは静かに大雪に包まれ、東京と呼ばれていた場所は極寒の監獄とされた。
残るのはただ白い道。東京を覆う巨大な白いドームが、虚しく残っていた・・・。
続く
お疲れ様です。
タコ怪人の最後の言葉の答えです。
申し訳ありませんをローマ字で反対から読むと、あの不可解な言葉になります。タコ怪人は元々「!やい来てっかか」と、反転させる喋り方を予定していたのですが、あまりにも書きづらいし、読みづらい!やめようってなって、○○のサインという喋らないけど、意思疎通できるキャラになりました。
キャラネタ書きます
怪人四天王
それぞれ、赤鬼、雪、鏡、骨の怪人からなる総統直属の部下。
ミヤコが造ったオーク怪人を元データに、総統が自分で造り上げた怪人。オークよりは後輩になるが、赤鬼、骨の怪人はおそらくオークよりパワーがある。赤鬼、骨は男性、雪、鏡は女性。
龍/機械/毒蛾の怪人
紫がミヤコのデータを元に改良して造った怪人。いずれもフェーズ2で、人間を素材にされている。
紫
本当はドクターを子供と侮っていた・・・?
オークが不要であれば直ぐに消せばいいのだが、それをしなかったのは彼が人間であるから。かつての義理と恩義は少なからずあった為、逃がすという選択に至った。
しかしミヤコへの忠義は嘘だったのだろうか、それが疑問と、オーク、触手、犬、紐は言う。
シルヴァ
大雪に潰された。拾った怪人にサクと名付けている。
佐久間ギンジ
皆で食べるご飯は美味しい
鈴村ミヤコ
ギンジ君と一緒ならもうなんでもいいやの結論に至ったが、怪人達の事は誰一人として忘れてはいない。現在、ギンジの部屋に密かに侵入計画を企てている。
神宮カエデ
ギンジと一緒にご飯を食べたかった
宮寺レン
「カエデ、ミドリコ・・・よかったね」
甘白ミドリコ
そろそろ怪人バスターに転職しようか悩んでいる。
藤原
今後物語において重要な役割を与える予定。おじさんだからって嫌いにならないでね
山吹イロ
オーク怪人にぶっ飛ばされてあばらが折れた。撤退後は病院送り。
オーク怪人
笑う時はブヒハハハと笑う。
紫から裏切られ、総統から切り捨てられたけど、ドクターを守護る為に、いつかギンジ達に加勢しにいく予定。
さて次回は序盤の最後の話。
それぞれのヒロイン達が、ギンジへの愛を大きくしていきます。違う話になったらごめんなさい。
それでは、また次回!!!!